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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1234758
審判番号 不服2010-557  
総通号数 137 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-12 
確定日 2011-03-31 
事件の表示 特願2005- 78359「内燃機関の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月28日出願公開、特開2006-258027〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本件出願は、平成17年3月18日の出願であって、平成21年7月1日付けの拒絶理由の通知に対して、同年9月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年1月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされとともに、同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において、同年6月1日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年8月6日付けで回答書が提出されたものである。


【2】平成22年1月12日付けの特許請求の範囲を補正する手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成22年1月12日付けの手続補正を却下する。


[理 由]
1.本件補正の内容
平成22年1月12日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年9月4日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項1を、下記の(a)に示す請求項1へと補正することを含むものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段とを備えた内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の排気系には予め定められた温度以上で活性化する排気浄化用の触媒が設けられ、
前記触媒の暖機要求を検知するための検知手段と、
前記内燃機関に要求される条件に基づいて、前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射手段を制御するための制御手段と、
点火装置を制御するための点火制御手段とを含み、
前記制御手段は、燃料噴射が前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段とで分担されている場合において、前記暖機要求が検知されたときの燃料量減量の際に、前記第1の燃料噴射手段の分担の割合を前記第2の燃料噴射手段の分担の割合よりも大きくするとともに、前記第1および第2の燃料噴射手段による合計の燃料噴射量による空燃比を理論空燃比よりもリーンとするように、前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段とを制御するための手段を含み、
前記点火制御手段は、前記暖機要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火装置を制御するための手段を含む、内燃機関の制御装置。」(下線部は補正箇所を示す。)

(b)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段とを備えた内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の排気系には予め定められた温度以上で活性化する排気浄化用の触媒が設けられ、
前記触媒の暖機要求を検知するための検知手段と、
前記内燃機関に要求される条件に基づいて、前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射手段を制御するための制御手段と、
点火装置を制御するための点火制御手段とを含み、
前記制御手段は、燃料噴射が前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段とで分担されている場合において、前記暖機要求が検知されたときに、前記第1の燃料噴射手段の分担の割合を前記第2の燃料噴射手段の分担の割合よりも大きくするとともに、前記第1および第2の燃料噴射手段による合計の燃料噴射量による空燃比を理論空燃比よりもリーンとするように、前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段とを制御するための手段を含み、
前記点火制御手段は、前記暖機要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火装置を制御するための手段を含む、内燃機関の制御装置。」


2.本件補正の適否について(独立特許要件)
2-1.本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である
「暖機要求が検知されたときに」

「暖機要求が検知されたときの燃料量減量の際に」
と補正するものであって、
「暖機要求が検知されたとき」との条件に「燃料量減量の際」との条件をさらに付加して限定するものであるから、請求項1に関する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、単に「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。

2-2.引用文献記載の発明及び技術
2-2-1.引用文献1記載の発明
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-324765号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】機関の燃焼室内に直接燃料を噴射供給する燃料噴射弁と、燃焼室内の混合気に火花点火する点火栓とを備え、所定の機関運転条件のとき、点火実行時に点火栓周りに偏在する混合気層の空燃比がほぼストイキとなるよう前記燃料噴射弁の圧縮行程中の燃料噴射量と燃料噴射時期および前記点火栓の点火時期を制御して成層燃焼を行う直噴火花点火式内燃機関の制御装置であって、
機関の排気通路に配設された排気浄化触媒を昇温すべき条件を判断する昇温条件判断手段を備え、
排気浄化触媒を昇温すべき条件のとき、点火実行時に点火栓周りに偏在する混合気の空燃比がストイキよりリッチかつ着火可能な空燃比となり、かつ、この混合気層が着火可能な霧化状態となるよう前記燃料噴射弁の圧縮行程中の燃料噴射量と燃料噴射時期および前記点火栓の点火時期を制御して第2の成層燃焼を行うようにしたことを特徴とする直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
・・・(中略)・・・
【請求項4】前記第2の成層燃焼時は、点火栓周りの空燃比をほぼストイキとして燃焼を行わせるときに比べて、前記点火栓の点火時期を遅角側に設定することを特徴とする請求項1に記載の直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
・・・(中略)・・・
【請求項6】機関の燃焼室内に直接燃料を噴射供給する燃料噴射弁と、燃焼室内全体に均質な混合気を形成する燃料供給手段と、燃焼室内の混合気に火花点火する点火栓とを備え、所定の機関運転条件のとき、点火実行時に点火栓周りに偏在する混合気層の空燃比がほぼストイキとなるよう前記燃料噴射弁の圧縮行程中の燃料噴射量と燃料噴射時期および前記点火栓の点火時期を制御して成層燃焼を行う直噴火花点火式内燃機関の制御装置であって、
機関の排気通路に配設された排気浄化触媒を昇温すべき条件を判断する昇温条件判断手段を備え、
排気浄化触媒を昇温すべき条件のとき、燃焼室内全体に形成される混合気の空燃比がストイキよりリーンかつ火炎伝播可能な空燃比となるよう前記燃料供給手段の燃料噴射量を制御すると共に、点火実行時に点火栓周りに偏在する混合気の空燃比がストイキよりリッチとなるよう前記燃料噴射弁の圧縮行程中の燃料噴射量と燃料噴射時期および前記点火栓の点火時期を制御して第2の成層燃焼を行うようにしたことを特徴とする直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項7】前記第2の成層燃焼時は、前記燃焼室内全体に形成される混合気の空燃比が16?28となるよう前記燃料供給手段の燃料噴射量を制御することを特徴とする請求項6に記載の直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項8】前記燃料供給手段は、前記燃料噴射弁を吸気行程中に駆動することにより燃焼室内全体に均質な混合気を形成するものであることを特徴とする請求項6に記載の直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項9】前記燃料供給手段は、機関の吸気通路に燃料を噴射供給することにより燃焼室内全体に均質な混合気を形成するものであることを特徴とする請求項6に記載の直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項10】前記燃料供給手段は、排気行程若しくは排気行程乃至吸気行程において機関の吸気通路に燃料を噴射供給することを特徴とする請求項9に記載の直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項11】機関の燃焼室内に直接燃料を噴射供給する燃料噴射弁と、燃焼室内全体に均質な混合気を形成する燃料供給手段と、燃焼室内の混合気に火花点火する点火栓とを備え、所定の機関運転条件のとき、点火実行時に点火栓周りに偏在する混合気層の空燃比がほぼストイキとなるよう前記燃料噴射弁の圧縮行程中の燃料噴射量と燃料噴射時期および前記点火栓の点火時期を制御して成層燃焼を行う直噴火花点火式内燃機関の制御装置であって、
機関の排気通路に配設された排気浄化触媒を昇温すべき条件を判断する昇温条件判断手段を備え、
排気浄化触媒を昇温すべき条件のとき、燃焼室内全体に形成される混合気の空燃比がストイキよりリーンかつ火炎伝播可能な空燃比となるよう前記燃料供給手段の燃料噴射量を制御すると共に、点火実行時に点火栓周りに偏在する混合気の空燃比がストイキよりリッチかつ着火可能な空燃比となり、かつ、この混合気層が着火可能な霧化状態となるよう前記燃料噴射弁の圧縮行程中の燃料噴射量と燃料噴射時期および前記点火栓の点火時期を制御して第2の成層燃焼を行うようにしたことを特徴とする直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項12】前記第2の成層燃焼時は、燃焼室内の平均空燃比を13.8?18とすることを特徴とする請求項1?請求項11のいずれか1つに記載の直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
・・・(中略)・・・
【請求項14】前記第2の成層燃焼時は、機関の排気通路に配設された空燃比センサの検出値に応じて、燃焼室内の平均空燃比がストイキとなるよう空燃比フィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1?請求項11のいずれか1つに記載の直噴火花点火式内燃機関の制御装置。
【請求項15】前記昇温条件判断手段は、機関の始動を検出したときに機関の排気通路に配設された排気浄化触媒を昇温すべき条件が成立したと判断することを特徴とする請求項1?請求項14のいずれか1つに記載の直噴火花点火式内燃機関の制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項15】)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、直噴火花点火式内燃機関の制御装置に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0012】本発明は、かかる従来の実情に鑑みなされたもので、直噴火花点火式内燃機関において、始動開始から排気浄化触媒が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出を最大限抑制しながら、排気浄化触媒の早期活性化を促進することができるようにした直噴火花点火式内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。」(段落【0012】)

(エ)「【0013】
【課題を解決するための手段】このため、請求項1に記載の発明では、・・・(中略)・・・かかる構成とすれば、点火栓周りの混合気層の空燃比をストイキよりリッチな空燃比としているので、主燃焼(火花点火による着火とその後の火炎伝播による燃焼)の際に不完全燃焼物(CO)が生成され、主燃焼後もこのCOが燃焼室内に残存する。また、リッチ混合気層の周囲には主燃焼後も酸素が残存する。この残存COと残存酸素とが主燃焼以降の筒内ガス流動によって混合・再燃焼し、排気温度が上昇する。
【0014】不完全燃焼物(CO)は、主燃焼の燃焼過程で生成されるものであるから、主燃焼の終了時点において既に高温状態となっており、燃焼室温度が低い状況下であっても、比較的良好に燃焼させることができる。すなわち、生成したCOを燃焼室内と触媒上流の排気通路内でほとんど再燃焼させることが可能となる。なお、主燃焼白体でのCO発生量が少ない均質燃焼時に比べると、触媒へのCOの流入量が増加する可能性はあるが、触媒のCO転化開始温度はHC転化開始温度よりも低いので、排気エミッションに対する影響は比較的小さい。
・・・(中略)・・・
【0018】・・・(中略)・・・請求項4に記載の発明では、前記第2の成層燃焼時は、点火栓周りの空燃比をほぼストイキとして燃焼を行わせるときに比べて、前記点火栓の点火時期を遅角側に設定する。
【0019】即ち、点火栓周りの空燃比をストイキより着火性の良好なリッチ空燃比とする第2の成層燃焼形態は、従来の燃焼形態(点火栓周りの空燃比をほぼストイキとして燃焼を行わせる形態)と比較して、設定可能な点火時期の範囲が広くなるという特性があるので、これを利用し、例えば機関安定限度内で(或いは従来同等の機関安定性を得られる範囲内としても良い)点火時期を遅らせるようにすれば、排気温度をより高めることができる。
・・・(中略)・・・
【0022】請求項6に記載の発明では、・・・(中略)・・・ようにした。
【0023】かかる構成とすれば、点火栓周りの混合気層の空燃比をストイキよりリッチな空燃比としているので、主燃焼(火花点火による着火とその後の火炎伝播による燃焼)の際に不完全燃焼物(CO)が生成され、主燃焼後もこのCOが燃焼室内に残存する。また、リッチ混合気層の周囲にストイキよりリーンな混合気を形成しているので、この領域には主燃焼後も酸素が残存する。この残存COと残存酸素とが主燃焼以降の筒内ガス流動によって混合・再燃焼し、排気温度が上昇する。
【0024】不完全燃焼物(CO)は、主燃焼の燃焼過程で生成されるものであるから、主燃焼の終了時点において既に高温状態となっており、燃焼室温度が低い状況下であっても、比較的良好に燃焼させることができる。すなわち、生成したCOを燃焼室内と触媒上流の排気通路内でほとんど再燃焼させることが可能となる。なお、主燃焼自体でのCO発生量が少ない均質燃焼時に比べると、触媒へのCOの流入量が増加する可能性はあるが、触媒のCO転化開始温度はHC転化開始温度よりも低いので、排気エミッションに対する影響は比較的小さい。
【0025】また、リーン混合気層の空燃比を火炎伝播可能な空燃比としているので、リッチ混合気層とリーン混合気層との境目で未燃HCが発生することはない。また、燃焼室の隅々まで火炎が良好に伝播されるので、燃焼室内の低温領域(クエンチングエリア)を均質燃焼時と変わりのない小さな領域とすることができる。さらに、リーン混合気が燃焼する領域の過剰な酸素を主燃焼後も残存させる形とするので、主燃焼の終了時点における残存酸素の温度も比較的高温となっており、COの再燃焼がより速やかに進行する。
【0026】請求項7に記載の発明によれば、・・・(中略)・・・制御する。
【0027】かかる構成とすれば、請求項6の発明の効果を、あらゆる機関において(即ち、機種や排気量の相違があっても)良好に奏することが可能となる。請求項8に記載の発明によれば、前記燃料供給手段は、前記燃料噴射弁を吸気行程中に駆動することにより燃焼室内全体に均質な混合気を形成するものである。
【0028】かかる構成とすれば、機関の燃焼室内に直接燃料を噴射供給する燃料噴射弁と燃焼室内全体に均質な混合気を形成する燃料供給手段とを別個に備えることなく請求項6の発明の効果を得ることができる。
【0029】請求項9に記載の発明によれば、前記燃料供給手段は、機関の吸気通路に燃料を噴射供給することにより燃焼室内全体に均質な混合気を形成するものである。かかる構成とすれば、一つの燃料噴射弁を1サイクル当たりに2回駆動する必要がないので、燃料噴射弁に必要とされる特性を緩和することができる。即ち、各燃料噴射弁が小容量化されるから、応答性を高めることが容易となると共に、最小流量をより小流量化することも容易となる。また、1サイクル当たりに2回駆動する場合に比べて耐久性も向上させることができることになる。
【0030】さらに、請求項10に記載の発明のように、前記燃料供給手段は、排気行程若しくは排気行程乃至吸気行程において機関の吸気通路に燃料を噴射供給するようにすれば、供給燃料の霧化時間を長く取ることができる。
【0031】請求項11に記載の発明では、・・・(中略)・・・行うようにした。
【0032】かかる構成とすれば、点火栓周りの混合気層の空燃比をストイキよりリッチな空燃比としているので、主燃焼(火花点火による着火とその後の火炎伝播による燃焼)の際に不完全燃焼物(CO)が生成され、主燃焼後もこのCOが燃焼室内に残存する。また、リッチ混合気層の周囲にストイキよりリーンな混合気を形成しているので、この領域には主燃焼後も酸素が残存する。この残存COと残存酸素とが主燃焼以降の筒内ガス流動によって混合・再燃焼し、排気温度が上昇する。
【0033】不完全燃焼物(CO)は、主燃焼の燃焼過程で生成されるものであるから、主燃焼の終了時点において既に高温状態となっており、燃焼室温度が低い状況下であっても、比較的良好に燃焼させることができる。すなわち、生成したCOを燃焼室内と触媒上流の排気通路内でほとんど再燃焼させることが可能となる。なお、主燃焼自体でのCO発生量が少ない均質燃焼時に比べると、触媒へのCOの流入量が増加する可能性はあるが、触媒のCO転化開始温度はHC転化開始温度よりも低いので、排気エミッションに対する影響は比較的小さい。
【0034】また、リッチ混合気の空燃比を、ストイキより着火性の良好なリッチ空燃比とするとともに、噴射燃料の霧化時間を十分に確保するので、常に安定した着火が得られ、COの生成を安定して行うことができる。さらに、リッチ混合気層内の燃料を十分に霧化させているので、リッチ混合気層内での未燃HCの発生を抑制することができる。また、リーン混合気層の空燃比を火炎伝播可能な空燃比としているので、リッチ混合気層とリーン混合気層との境目で未燃HCが発生することはない。特に、リッチ混合気層内の燃料を十分に霧化させようとすると、燃料の霧化と同時に拡散も進行するので、噴射燃料による混合気層の周縁では部分的に燃料が希薄になる可能性が高くなるが、圧縮行程の燃料噴射に先立って燃焼室内全体に火炎伝播可能な混合気を形成するようにしておくと、圧縮行程中の噴射燃料による混合気層の周縁においても火炎伝播不能な空燃比になることがない。さらにまた、燃焼室の隅々まで火炎が良好に伝播されるので、燃焼室内の低温領域(クエンチングエリア)を均質燃焼時と変わりのない小さな領域とすることができる。以上のことから、主燃焼自体でのHC発生量は均質燃焼時と同程度に抑えられ、さらに、COの再燃焼に伴なって未燃HCの一部も再燃焼することから、触媒へのHC流入量を均質燃焼時よりも低減することができる。
【0035】さらに、リーン混合気が燃焼する領域の過剰な酸素を主燃焼後も残存させる形とするので、主燃焼の終了時点における残存酸素の温度も比較的高温となっており、COの再燃焼がより速やかに進行する。
【0036】請求項12に記載の発明では、前記第2の成層燃焼時は、燃焼室内の平均空燃比を13.8?18とする。また、請求項13に記載の発明では、前記第2の成層燃焼時は、燃焼室内の平均空燃比をほぼストイキとする。
・・・(中略)・・・
【0039】かかる構成とすれば、確実に昇温効率を最良とすることができる。請求項15に記載の発明では、前記昇温条件判断手段は、機関の始動を検出したときに機関の排気通路に配設された排気浄化触媒を昇温すべき条件が成立したと判断する。
【0040】かかる構成とすれば、始動後の触媒の早期活性化を図ることができる。・・・(後略)・・・」(段落【0013】ないし【0040】)

(オ)「【0044】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態を、添付の図面に基づいて説明する。本発明の第1の実施形態のシステム構成を示す図2において、機関1の吸気通路2には吸入空気流量Qaを検出するエアフローメータ3及び吸入空気流量Qaを制御するスロットル弁4が設けられると共に、各気筒の燃焼室に臨ませて、燃料噴射弁5が設けられている。
【0045】かかる燃料噴射弁5は、後述するコントロールユニット50において設定される駆動パルス信号によって開弁駆動され、図示しない燃料ポンプから圧送されてプレッシャレギュレータ(図示せず)により所定圧力に制御された燃料を燃焼室内に直接噴射供給することができるようになっている。
【0046】なお、燃焼室に臨んで装着されて、コントロールユニット50からの点火信号に基づいて吸入混合気に対して点火を行う点火栓(点火プラグ)6が、各気筒に設けられている。
【0047】一方、排気通路7には、排気中の特定成分(例えば、酸素)濃度を検出することによって排気延いては吸入混合気の空燃比を検出する空燃比センサ8(リッチ・リーン出力する酸素センサであっても良いし、空燃比をリニアに広域に亘って検出する広域空燃比センサであってもよい)が設けられ、その下流側には、排気を浄化するための排気浄化触媒9が介装されている。なお、排気浄化触媒9としては、理論空燃比{λ=1、A/F(空気重量/燃料重量)・14.7}近傍において排気中のCO,HCの酸化とNOX の還元を行って排気を浄化することができる三元触媒、或いは排気中のCO,HCの酸化を行う酸化触媒等を用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0051】そして、機関1の冷却ジャケットに臨んで設けられ、冷却ジャケット内の冷却水温度Twを検出する水温センサ12が設けられている。更に、前記スロットル弁4の開度を検出するスロットルセンサ13(アイドルスイッチとしても機能させることができる)が設けられている。
・・・(中略)・・・
【0054】前記各種センサ類からの検出信号は、CPU,ROM,RAM,A/D変換器及び入出力インタフェース等を含んで構成されるマイクロコンピュータからなるコントロールユニット50へ入力され、当該コントロールユニット50は、前記センサ類からの信号に基づいて検出される運転状態に応じて、前記スロットル弁制御装置14を介してスロットル弁4の開度を制御し、前記燃料噴射弁5を駆動して燃料噴射量 (燃料供給量) を制御し、点火時期を設定して該点火時期で前記点火栓6を点火させる制御を行う。
【0055】なお、例えば、所定運転状態(低・中負荷領域など)で燃焼室内に圧縮行程で燃料噴射して、燃焼室内の点火栓6周辺に可燃混合気を層状に形成して成層燃焼を行なうことができる一方、他の運転状態(高負荷領域など)では燃焼室内に吸気行程で燃料噴射して、シリンダ全体に略均質な混合比の混合気を形成して均質燃焼を行なうことができるように、燃料噴射時期(噴射タイミング)についても、運転状態などに応じて変更可能に構成されている。」(段落【0044】ないし【0055】)

(カ)「【0061】次のステップ5では、排気浄化触媒9が活性化していないか否かを判断する。当該判断は、例えば、後述する図4のフローチャートに一例として示したように、排気通路7に臨んで設けられる下流側酸素センサ10が活性化していないか否かを判断(ステップ12で判断)することで代替することができる。即ち、排気浄化触媒9が活性化しているか否かは、図5に示すような下流側酸素センサ10の検出値号の変化の様子に基づいて判断することができるものである。
【0062】また、機関水温Tw若しくは油温等を検出して排気浄化触媒9の温度(或いは出口温度)を推定し、その結果に基づいて排気浄化触媒9の活性化を判断することができ、或いは直接的に排気浄化触媒9の温度(或いは出口温度)を検出することによっても判断することができる。
【0063】触媒が活性化していなければ(YESであれば)、ステップ6へ進む。一方、触媒が活性化していれば(NOであれば)触媒活性化促進のための制御の必要はないとしてステップ9へ進み、燃費改善等のために、運転状態に応じて、従来と同様の燃焼形態で燃焼を行なわせて、本フローを終了する。
【0064】ステップ6では、ピストン15の温度{特に、冠面に凹設したボウル部15A(図8参照)の表面温度}が所定温度(成層ストイキ燃焼移行許可温度)以上となっているか否かを判断する。かかる判定は、ピストン15(特に、冠面)に埋め込んだサーモカップル等により直接検出することで行なうことができ、或いは機関水温Tw又は油温を検出することでピストン(特に、冠面)温度を推定し、その結果に基づいて行なわせることもできる。
【0065】なお、具体的には、例えば、後述する図6のフローチャートに一例として示したように、ピストン冠面温度と相関のある疑似水温TWFに基づいて行なわせることができる。即ち、例えば、図7に示すように、ピストン冠面温度と相関のある疑似水温TWFを推定演算し、その結果が所定値TWF1(成層ストイキ燃焼移行許可温度)に達したか否かで行なうことが可能である。
【0066】YESの場合には、後述する触媒活性化促進等のための成層ストイキ燃焼を行なわせても良好な着火性・燃焼性延いては機関安定性(機関運転性)等が得られるとして、ステップ7へ進む。」(段落【0061】ないし【0066】)

(キ)「【0117】次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態において説明した成層ストイキ燃焼を行なって暖機特性を改善することに加え、更に、暖機過程における排気温度の一層の上昇を図り、排気浄化触媒9が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出の抑制と、排気浄化触媒9の早期活性化を一層促進させることができるようにするものである。
【0118】具体的には、コントロールユニット50が、第1の実施形態で説明した各種の制御(成層ストイキ燃焼など)を行なうことに加えて、成層ストイキ燃焼中に点火時期の遅角制御を行なうようになっている。なお、第2の実施形態のシステム構成は、図2で示した第1の実施形態におけるシステム構成と同様で良いので説明を省略する。また、図3、図4、図6、図12のフローチャート等についても同様で良いので説明を省略する。」(段落【0117】及び【0118】)

(ク)「【0134】次に、本発明の第4の実施形態について説明する。第4の実施形態は、第1の実施形態等と同様に成層ストイキ燃焼を行なって暖機特性を改善するものであるが、第4の実施形態における成層ストイキ燃焼は、第1の実施形態のように燃焼室内全体にストイキよりも比較的リーン(希薄)な均質混合気を形成すべく燃料噴射弁5を用いて吸気行程で燃焼室内に燃料を噴射供給するのでなく、吸気通路2に設けた燃料噴射弁17による排気行程若しくは排気行程乃至吸気行程での燃料噴射(供給)により(図15?図17参照)、燃焼室内全体にストイキよりも比較的リーン(希薄)な均質混合気を形成し、燃料噴射弁5を用いて、圧縮行程で燃焼室内に燃料を噴射供給し、点火栓6周りにストイキよりも比較的リッチな(燃料濃度の高い)混合気を層状に形成して(図8参照)、燃焼させるようにしたものである。
【0135】前記燃料噴射弁17は、従来より一般的に用いられている吸気ポート噴射用燃料噴射弁を用いることができ、或いは燃料噴射弁5を備えた場合における始動補助のための補助燃料噴射弁若しくは全負荷時の燃料量確保のための補助燃料噴射弁等とすることができる。なお、当該燃料噴射弁17などが、本発明に係る燃料供給手段に相当する。
【0136】前記燃料噴射弁17{以下、補助燃料噴射弁(CVS)と言う場合もある}は、例えば、図17(A),(B)に示すような取付配置とすることができる。なお、第4の実施形態におけるシステム構成は、図15或いは図16に示すように、燃料噴射弁17を追加設定する以外は、第1の実施形態におけるシステム構成と同様となっている。」(段落【0134】ないし【0136】)

(ケ)「【0137】以下に、本実施形態におけるコントロールユニット50が、成層ストイキ燃焼中に行なう制御について、図18のフローチャートに従って説明する。即ち、ステップ71?ステップ75では、図3のフローチャートにおけるステップ1?ステップ5と同様の処理を行なう。なお、本実施形態では補助燃料噴射弁17を備えているが、ステップ74では、第1の実施形態と同様、燃料噴射弁5を用いて始動のための燃料噴射(吸気行程での直接燃料噴射)を行なわせ、機関1の運転(直噴均質燃焼)を行なわせるようにする。
【0138】このように、始動時に燃料噴射弁5を用いて直噴均質燃焼を行なわせるのは、筒内に直接燃料を供給するほうが、補助燃料噴射弁17を用いて吸気通路2内に燃料を供給する場合に比べて、始動性を高めることができるからである(クランキング開始から初爆或いは完爆までの時間を大幅に短縮できるからである)。
【0139】そして、ステップ76では、アイドルスイッチがONとなったか否かを判断する。YESであれば、完爆(始動完了)判定を行うべくステップ77へ進み、NOであれば、アクセルが踏まれた状態であるので補助燃料噴射弁(CSV)17を用いて均質混合気を形成することで、より安定した燃焼を行なわせるべく、ステップ78へ進む。
【0140】ステップ77では、完爆(始動完了)判定を行う。YESであれば、完爆判定されたので、補助燃料噴射弁(CSV)17を用いて均質混合気を形成することで、より安定した燃焼を行なわせるべく、ステップ78へ進む。
【0141】NOであれば、完爆判定されていないので、応答性の良い直接燃料噴射(直噴均質燃焼)を継続すべく、ステップ74へリターンする。なお、該完爆判定は、例えば、後述する図19のフローチャートを実行すること等により行うことができる。
【0142】ステップ78では、直接燃料噴射(直噴均質燃焼)に比べて機関安定性を高めることができる補助燃料噴射弁17を用いた均質燃焼へ移行させる。即ち、始動に有利な直噴均質燃焼形態から、機関安定性に優れる吸気通路内噴射による均質混合気を形成して燃焼させる形態へ、燃焼形態を切り換える。
【0143】ステップ79では、排気浄化触媒9が活性化していないか否かを判断する。即ち、既述した図3のフローチャートのステップ5と同様の処理を行う。そして、触媒が活性化していなければ(YESであれば)、ステップ80へ進む。
【0144】一方、触媒が活性化していれば(NOであれば)、触媒活性化促進のための制御の必要はないとしてステップ83へ進み、運転状態に応じ、従来と同様の燃焼形態で燃焼を行なわせて、本フローを終了する。
【0145】ステップ80では、ピストン15の冠面温度{特に、冠面に凹設したボウル部15A(図8参照)の表面温度}が所定温度(成層ストイキ燃焼移行許可温度)以上となっているか否かを判断する。即ち、既述した図3のフローチャートのステップ6と同様の処理を行う。
【0146】YESの場合には、触媒活性化促進等のための成層ストイキ燃焼を行なわせても良好な着火性・燃焼性延いては機関安定性(機関運転性)等が得られるとして、ステップ81へ進む。
【0147】一方、NOの場合には、触媒活性化促進のための成層ストイキ燃焼を行なわせると、ピストン冠面温度が所定より低温であるために、当該ピストン冠面を利用した成層混合気の霧化・気化促進などが良好に行なわれなくなり、以って着火性、燃焼安定性延いては機関安定性(機関運転性)等が低下する惧れがあるとして、成層ストイキ燃焼への移行を禁止して、補助燃料噴射弁17を用いた吸気通路内噴射による均質燃焼を継続すべく、ステップ78へリターンする。
【0148】ステップ81では、触媒が活性化していない場合で触媒活性化促進が必要であると共に、ピストン冠面温度が所定温度以上であり成層混合気の生成が良好に行なえる場合であるので、触媒活性化促進のための成層ストイキ燃焼への移行を許可して、成層ストイキ燃焼を行なわせる。
【0149】具体的には、1燃焼サイクル当たりの吸入空気量で略完全燃焼させることができるトータル燃料量{略ストイキ(理論空燃比)を達成するのに必要な燃料重量}のうち、例えば略50%乃至略90%の燃料重量を、補助燃料噴射弁17で吸気通路2内に(排気行程若しくは排気行程乃至吸気行程で)噴射供給し、これにより吸気行程中に燃焼室内全体にストイキよりも比較的リーン(希薄)な均質混合気を形成すると共に、残りの略50%乃至略10%の燃料重量を、燃料噴射弁5で燃焼室内に圧縮行程中に噴射供給し、点火栓6周りにストイキよりも比較的リッチな(燃料濃度の高い)混合気を層状に形成して燃焼させる(図9参照)。
・・・(中略)・・・
【0151】また、各混合気層の空燃比を上記のような範囲としておけば、燃焼室内の平均空燃比を理論空燃比から多少ずれた空燃比(例えば、13.8?18の範囲)に設定しても良い。
【0152】上記のような成層ストイキ燃焼によれば、従来の均質ストイキ燃焼と比較して排気温度を上昇させることができるだけでなく、燃焼室から排気通路に排出される未燃HC量を減少させることができる(図26、図27参照)。
【0153】即ち、本実施形態に係る成層ストイキ燃焼によれば、第1の実施形態で説明した成層ストイキ燃焼と同様、始動開始から排気浄化触媒9が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出を抑制しながら、排気浄化触媒9の早期活性化を格段に促進できることになる。
【0154】ところで、本実施形態のように、補助燃料噴射弁17による吸気通路内噴射により均質混合気を形成する構成とすると、第1の実施形態のように燃料噴射弁5による吸気行程噴射で均質混合気を形成するものに比べ、完爆から触媒が活性化するまでの間における機関安定性を高めることができる、と言う利点がある(図20のタイミングチャート参照)。
【0155】なお、かかる利点は、機関安定性を直噴による均質燃焼を行わせた場合と同レベルとしたなら、完爆から触媒が活性化するまでの間において点火時期を遅角することを可能にするから、これによって完爆から触媒が活性化するまでの間で排気温度を高めることができ、延いては、第1の実施形態のように燃料噴射弁5による吸気行程噴射で均質混合気を形成するものに比べ、一層、始動開始から排気浄化触媒9が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出量の抑制と、排気浄化触媒9の早期活性化と、を促進できることになる。
【0156】ここで、図18のフローチャートの説明に戻って、次のステップ82では、図3のフローチャートのステップ8と同様に、排気浄化触媒9が活性化したか(暖機完了か)否かを判断する。
【0157】YESであれば、ステップ83へ進む。NOであれば、ステップ81へリターンして、排気浄化触媒9が活性化するまで、本実施形態に係る成層ストイキ燃焼を継続する。
【0158】ステップ83では、運転状態に応じ、所望の排気性能、或いは燃費性能、或いは運転性能(出力性能、安定性など)等を達成し得る燃焼形態(均質ストイキ燃焼、均質リーン燃焼或いは成層リーン燃焼など)へ移行させた後、本フローを終了する。」(段落【0137】ないし【0158】)

(コ)「【0159】このように、本実施形態によれば、暖機過程において、成層ストイキ燃焼を行なわせるようにしたので、排気浄化触媒9が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出を抑制しながら、排気浄化触媒9の早期活性化を促進させることができる。
【0160】しかも、本実施形態では、補助燃料噴射弁17による吸気通路内噴射により均質混合気を形成する構成としたので、第1の実施形態のように燃料噴射弁5による吸気行程噴射で均質混合気を形成するものに比べ、完爆から触媒が活性化する(特に、成層ストイキ燃焼への移行が許可される)までの間における機関安定性を高めることができる(図20参照)。
【0161】なお、機関安定性を直噴均質燃焼を行わせた場合と同レベルとしたなら、完爆から触媒が活性化するまでの間において点火時期を遅角することが可能となるので、これによって完爆から触媒が活性化するまでの間で排気温度を高めることができ、延いては、第1の実施形態のように燃料噴射弁5による吸気行程噴射で均質混合気を形成するものに比べ、一層、始動開始から排気浄化触媒9が活性化するまでの間における大気中へのHCの排出量の抑制と、排気浄化触媒9の早期活性化と、を促進することができる。」(段落【0159】ないし【0161】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(コ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。

(サ)上記(1)の(ア)、(オ)、(ク)及び(コ)並びに図15及び16の記載からみて、図15又は16の第4の実施形態における直噴火花点火式内燃機関の制御装置は、機関1の筒内に燃料を噴射するための燃料噴射弁5と、吸気通路2内に燃料を噴射するための燃料噴射弁17とを備えており、また、前記内燃機関の排気通路7には予め定められた温度以上で活性化する排気浄化用の排気浄化触媒9が設けられていることがわかる。

(シ)上記(1)の(ア)、(オ)、(カ)及び(ケ)並びに図3、8、15、16及び18の記載からみて、図15又は16の第4の実施形態における直噴火花点火式内燃機関の制御装置のコントロールユニット50は、図18のフローチャートのステップ81で、「触媒が活性化していない場合で触媒活性化促進が必要であると共に、ピストン冠面温度が所定温度以上であり成層混合気の生成が良好に行なえる場合であるので、触媒活性化促進のための成層ストイキ燃焼への移行を許可して、成層ストイキ燃焼を行なわせる」(上記(ケ)の【0148】)ので、排気浄化触媒9の暖機要求を検知するための何等かの検知手段が直噴火花点火式内燃機関に存在していることがわかる。
具体的な検知手段としては、第1の実施形態における直噴火花点火式内燃機関の制御装置のコントロールユニット50は、図3のフローチャートのステップ5で、排気浄化触媒9の温度(或いは出口温度)を検出又は推定する、排気浄化触媒9の温度を直接検出する手段又は機関水温Tw若しくは油温等を検出する水温センサ12等(上記(オ)の段落【0051】及び上記(カ)の段落【0062】)とともに、ステップ6で、「ピストン15の温度{特に、冠面に凹設したボウル部15A(図8参照)の表面温度}が所定温度(成層ストイキ燃焼移行許可温度)以上となっているか否かを判断するのに際し、ピストン15(特に、冠面)に埋め込んだサーモカップル等により直接検出することで行なうことができ、或いは機関水温Tw又は油温を検出することでピストン(特に、冠面)温度を推定し、その結果に基づいて行なわせる」(上記(カ)の段落【0064】及び【0065】)ものであって、第4の実施形態でも同様であるといえる。よって、「排気浄化触媒9の温度を直接検出する手段又は機関水温Tw若しくは油温等を検出する水温センサ12等」及び「ピストン15(特に、冠面)に埋め込んだサーモカップル等又は機関水温Tw又は油温を検出する水温センサ12等」は、図15又は16の第4の実施形態における直噴火花点火式内燃機関の制御装置のコントロールユニット50における排気浄化触媒9の暖機要求を検知するための検知手段といえる。

(ス)上記(1)の(ア)、(ク)、(ケ)及び上記(サ)並びに図15、16及び18の記載からみて、図15又は16の第4の実施形態における直噴火花点火式内燃機関の制御装置のコントロールユニット50は、図18のフローチャートの、例えば、ステップ83で、運転状態に応じ、所望の排気性能、或いは燃費性能、或いは運転性能(出力性能、安定性など)等を達成し得る燃焼形態(均質ストイキ燃焼、均質リーン燃焼或いは成層リーン燃焼など)へ移行させているので、コントロールユニット50は、運転状態に応じて、換言すると、内燃機関に要求される条件に基づいて、燃料噴射弁5と燃料噴射弁17とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射弁5及び燃料噴射弁17を制御するための燃料噴射制御機能を有しているといえる。

(セ)上記(1)の(ア)、(オ)、(ク)、(ケ)、及び上記(シ)並びに図15、16及び18の記載からみて、図15又は16の第4の実施形態における直噴火花点火式内燃機関の制御装置は、機関1の各気筒に設けられた点火栓6を有し、また、コントロールユニット50は、点火栓6を制御するための点火制御機能を含んでいることがわかる。
また、前記コントロールユニット50の点火制御機能は、暖機要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火栓6を制御するためのコントロールユニット50の点火制御機能を含むものといえる(上記(ケ)の段落【0155】参照)。

(ソ)上記(1)の(ア)、(ケ)、上記(シ)及び(ス)並びに図18の記載からみて、第4の実施形態におけるコントロールユニット50の燃料噴射制御機能は、暖機要求が検知されたときに、燃料噴射弁5の分担の割合を略50%乃至略10%とし燃料噴射弁17の分担の割合を略50%乃至略90%とするとともに(上記(ケ)の段落【0149】参照)、燃料噴射弁5および燃料噴射弁17による合計の燃料噴射量による空燃比を理論空燃比から多少ずれた空燃比である13.8?18の範囲のリッチからリーンの間とする(上記(ケ)の段落【0151】参照)ように、燃料噴射弁5と燃料噴射弁17とを制御するための燃料噴射制御機能を含んでいることがわかる。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「筒内に燃料を噴射するための燃料噴射弁5と吸気通路2内に燃料を噴射するための燃料噴射弁17とを備えた直噴火花点火式内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の排気通路7には予め定められた温度以上で活性化する排気浄化用の排気浄化触媒9が設けられ、
前記排気浄化触媒9の暖機要求を検知するための検知手段と、
前記内燃機関に要求される条件に基づいて、前記燃料噴射弁5と前記燃料噴射弁17とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射弁5及び燃料噴射弁17を制御するためのコントロールユニット50の燃料噴射制御機能と、
点火栓6を制御するためのコントロールユニット50の点火制御機能とを含み、
前記コントロールユニット50の燃料噴射制御機能は、前記暖機要求が検知されたときに、前記燃料噴射弁5の分担の割合を略50%乃至略10%とし前記燃料噴射弁17の分担の割合を略50%乃至略90%とするとともに、前記燃料噴射弁5および燃料噴射弁17による合計の燃料噴射量による空燃比を理論空燃比から多少ずれた13.8?18の範囲のリッチ又はリーンの空燃比とするように、前記燃料噴射弁5と前記燃料噴射弁17とを制御するためのコントロールユニット50の燃料噴射制御機能を含み、
前記コントロールユニット50の点火制御機能は、前記暖機要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火栓6を制御するためのコントロールユニット50の点火制御機能を含む、直噴火花点火式内燃機関の制御装置。」

2-2-2.引用文献2記載の技術
(1)原査定の拒絶理由で引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-68624号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
排気通路に排気浄化触媒を備え、所定の条件にて排気浄化触媒の被毒解除制御を行う内燃機関の排気浄化装置において、
被毒解除制御は、通常モードと、該通常モード前の排気組成モードとを含み、排気組成モードでは排気中のH2濃度が通常モードよりも大となるように排気組成に関係する機関の操作パラメータを操作することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
・・・(中略)・・・
【請求項5】
被毒解除制御中、直噴式の燃料噴射弁による燃料噴射を吸気行程噴射と圧縮行程噴射とに分割して行うことを特徴とする請求項1?請求項4のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
被毒解除制御は、排気組成モード前の排気昇温モードを更に含み、排気昇温モードでは圧縮行程噴射割合が通常モードよりも大であることを特徴とする請求項5記載の内燃機関の排気浄化装置。
・・・(中略)・・・
【請求項9】
被毒解除制御は、排気組成モード前の排気昇温モードを更に含み、排気昇温モードでは点火時期を排気組成モードよりも遅角側に設定することを特徴とする請求項5?請求項8のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
・・・(中略)・・・
【請求項12】
排気昇温モードでの分割噴射において、圧縮行程噴射量>吸気行程噴射量に設定されることを特徴とする請求項6?請求項11のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項12】)

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、排気通路に排気浄化触媒を備え、所定の条件にて排気浄化触媒の被毒解除制御を行う内燃機関の排気浄化装置及び方法に関する。」(段落【0001】)

(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、被毒解除制御は、後燃えの促進により排気温度を上昇させるために、燃費の悪化が避けらないことから、できるだけ短時間で被毒解除を終了できるようにすることが望ましい。
しかしながら、上記従来の技術においては、被毒解除の実行時に、触媒温度が被毒解除に必要な温度に達する前と後のいずれにおいても、同様な制御を行うだけで、特に排気組成について考慮していないため、触媒温度の変化に応じて被毒解除性能が最良となる排気組成が変化するにもかかわらず、これを有効に利用していないので、被毒解除のためのトータル時間が長くかかり、燃費の悪化も抑制できていないという問題点があった。
【0005】
本発明の課題は、排気浄化触媒の被毒解除に際し、被毒解除の効率を向上させて、被毒解除にかかる時間を短縮し、燃費の悪化を抑制できるようにすることにある。」(段落【0004】及び【0005】)

(エ)「【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施形態のシステム構成を示しており、先ずこれについて説明する。
エンジン1の吸気通路2には、吸入空気量を制御するスロットル弁3が設けられている。スロットル弁3はDCモータ等のアクチュエータにより駆動される電制スロットル弁であり、コントロールユニット20からの駆動信号に基づいてスロットル開度が制御される。また、吸気通路2の各気筒への分岐部より下流側には、スワール制御弁4が設けられている。スワール制御弁4もコントロールユニット20からの駆動信号に基づいて開閉制御される。
【0009】
エンジン1のシリンダヘッド5とピストン6とにより画成される各気筒の燃焼室7には、燃料噴射弁8が臨んでいる。尚、ピストン6の冠面には吸気側に偏心した位置にボウル部(凹部)6aが形成されており、燃料噴射弁8は吸気側から斜め下方にボウル部6aを指向している。
燃料噴射弁8は、吸気行程又は圧縮行程の所定時期において、コントロールユニット20からの噴射パルス信号によりソレノイドに通電されて開弁し、所定の圧力に制御された燃料を燃焼室7内に直接噴射する。
【0010】
また、各気筒の燃焼室7に、シリンダヘッド5の略中央から、臨ませて、点火プラグ9が設けられ、点火プラグ9はコントロールユニット20からの点火信号に基づいて混合気に対して火花点火を行う。
燃料噴射弁8から吸気行程にて燃料噴射される場合、噴射された燃料は、燃焼室7内に拡散して均質な混合気を形成し、点火プラグ9により点火されて燃焼する。かかる燃焼を均質燃焼といい、空燃比制御との組み合わせで、均質ストイキ燃焼、均質リーン燃焼などに分けられる。
【0011】
燃料噴射弁8から圧縮行程(特にその後半)にて燃料噴射される場合、噴射された燃料は、ピストン冠面のボウル部6aを利用した流れに乗るなどして、点火プラグ9周りに集中的に層状の混合気を形成し、点火プラグ9により点火されて燃焼する。かかる燃焼を成層燃焼といい、通常、空燃比は極リーンで、成層リーン燃焼と呼ばれる。
【0012】
一方、排気通路10には、排気浄化触媒としてNOxトラップ触媒11が配置されている。NOxトラップ触媒11は、排気空燃比がストイキ近傍のときに排気中のCO、HCの酸化とNOxの還元とを行う三元機能を有する他、排気空燃比がリーンのときに排気中のNOxをトラップし、排気空燃比がストイキ?リッチになったときにトラップしたNOxを還元浄化する機能を有する。
【0013】
コントロールユニット20には、エンジンの制御のため、各種センサから信号が入力されている。
クランク角センサ21は、エンジン回転と同期してクランク基準角信号及びクランク単位角信号を発生する。コントロールユニット20では、クランク角センサ21からのクランク基準角信号の周期を計測して、又はクランク単位角信号を一定時間カウントして、エンジン回転数Neを検出できる。
・・・(中略)・・・
【0017】
NOx濃度センサ30は、排気通路10のNOxトラップ触媒11の下流側に配置され、排気中のNOx濃度を検出する。これはNOxトラップ触媒11の被毒解除制御において被毒状態(被毒によるNOxトラップ能の悪化状態、或いは被毒解除によるNOxトラップ能の回復状態)の検出に用いるが、センサを省略して、別の推定手法によって検出することもできる。
【0018】
コントロールユニット20は、CPU、ROM、RAM、A/D変換器及び入出カインターフェース等を含んで構成されるマイクロコンピュータを備え、前記各種センサからの信号に基づいて検出される運転状態に応じて、スロットル弁3の開度を制御し、スワール制御弁4を開閉制御し、燃料噴射時期及び燃料噴射量を設定して燃料噴射弁8の燃料噴射を
制御し、点火時期を設定して該点火時期で点火プラグ9を点火させる制御を行う。」(段落【0008】ないし【0018】)

(オ)「【0019】
そして、運転状態に応じて、燃焼形態の制御を行う。すなわち、通常運転時には、例えば低負荷領域において、圧縮行程噴射による成層リーン燃焼を行わせる一方、例えば高負荷領域において、吸気行程噴射による均質ストイキ燃焼又は均質リーン燃焼を行わせる。
ところで、NOxトラップ触媒11は、排気空燃比がリーンのときに排気中のNOxをトラップするが、同時に、SOx(硫黄酸化物)をトラップしてしまい、かかるSOx被毒により、NOxトラップ触媒11のNOxトラップ能(NOx還元性能を含む)が低下する。
【0020】
このため、SOx被毒解除制御として、所定の条件にて、排気温度を上昇させることで、触媒温度をSOx被毒解除に必要な温度まで上昇させ、かつこの状態を所定時間保持することで、SOx被毒を解除する。
具体的には、燃料噴射を分割して、吸気行程噴射と圧縮行程噴射とを行うことにより、点火プラグ9周りに比較的リッチ(A/F=10?16程度)な層状の混合気を形成し、これを囲む燃焼室7全体に比較的リーン(A/F=19?24程度)な混合気を形成し、全体の空燃比は略ストイキとするように制御する。かかる燃焼形態は成層ストイキ燃焼(分割噴射による成層ストイキ燃焼)とも呼ばれる。
【0021】
成層ストイキ燃焼のコンセプトは、次のようである。
(1)吸気行程噴射により燃焼室壁面近傍にリーン混合気を形成し、後燃えに必要なO2を確保する。
(2)圧縮行程噴射により点火プラグ周りにリッチ混合気を形成し、初期着火性能を向上させることで、燃焼安定性を向上させる。
(3)リッチ混合気の燃焼によりCOを生成し、燃焼室壁面近傍のリーン混合気中のO2との後燃えを促進して、HC低減、排気温度上昇を図る。
(4)初期着火性能の向上等により点火時期を遅角化可能であり、点火時期の遅角により、後燃え効果による排気温度上昇を更に図る。
【0022】
従って、被毒解除制御の通常モードでは、直噴式の燃料噴射弁8による燃料噴射を吸気行程噴射と圧縮行程噴射とに分割して行うと共に、点火プラグ9による点火時期を遅角側に設定する。
ここにおいて、本発明では、被毒解除にかかる時間を短縮し、燃費の悪化を最小限にとどめるため、触媒温度が被毒解除に必要な温度(被毒解除性能が安定する温度)に達する前における被毒解除の効率を向上させ、また排気昇温性能を向上させるべく、被毒解除制御の通常モードの前に排気組成モードを設定し、更にその前に排気昇温モードを設定し、被毒解除制御時に、触媒温度に応じて、排気昇温モード→排気組成モード→通常モードの順で実行するようにする。」(段落【0019】ないし【0022】)

(カ)「【0026】
本発明での被毒解除制御については、第1実施形態である図7のフローチャートより、図8のタイムチャートを参照しつつ、説明する。
S1では、被毒解除要求があるか否かを判定する。具体的には、例えば排気流量に相関する吸入空気量Qaを単位時間毎にサンプリングして積算し、この積算値に基づいてNOxトラップ触媒11のSOx被毒量を推定しており、このSOx被毒量の推定値を予め定めた閾値と比較して、SOx堆積量>閾値のときに、被毒解除要求有りと判定する。又は、NOx濃度センサ30によりNOxトラップ触媒11下流側のNOx濃度を検出し、これが予め定めた閾値より大きいときに被毒解除要求有りと判定する。尚、両者のOR条件の他、AND条件で判定してもよい。
・・・(中略)・・・
【0028】
S3では、被毒解除制御の開始に先立って、スワール制御弁(SCV)4を閉側に駆動する。また、S4では、点火時期をMBT点火時期から徐々に遅角する。そして、S5では、スワール制御弁4が全閉に制御されたか(閉指令から所定時間経過したか)否かを判定し、YESの場合に、S6へ進む。
S6では、被毒解除制御の第1ステージとして、排気昇温モードの制御を実行する。
【0029】
排気昇温モードでは、全体の空燃比をストイキ(λ=1)に維持しつつ、燃料噴射を吸気行程噴射と圧縮行程噴射とに分割し、且つ、圧縮行程噴射割合(分割比)を50%より大きく、例えば60?70%として、圧縮行程噴射量>吸気行程噴射量とする。すなわち、図5からわかるように排気温度上昇効果の大きい分割比を用いて、昇温性能の向上を図る。また、点火時期は大きく遅角する。これによっても排気温度の上昇を図る。尚、ここで遅角側に設定する点火時期は通常の均質燃焼時よりも遅角側であることは言うまでもない。
【0030】
次のS7では、触媒温度センサ29により検出される触媒温度Tcが被毒解除が開始される温度である第2所定値T2(例えば600℃)を超えたか否かを判定し、超えていない場合は、S6での排気昇温モードを続行する。
触媒温度Tcが第2所定値T2を超えた場合は、S8へ進む。
S8では、被毒解除制御の第2ステージとして、排気組成モードの制御を実行する。」(段落【0026】ないし【0030】)

(キ)「【0037】
次に被毒解除制御における各モード(排気昇温モード、排気組成モード、通常モード)について更に詳細に説明する。
〔排気昇温モード〕
被毒解除制御の開始と共に(但しSCV全閉後)、通常モードと同様の分割噴射と点火時期遅角との実施により、触媒温度をSOx被毒解除が開始される温度へ上昇させる排気昇温モードの制御を開始する。通常モードと異なる点は、圧縮行程噴射割合を、通常モードの場合(約50%)より、大きく(60?70%)設定する点である。
【0038】
分割噴射による排気温度の特性は、図5に示す分割比(圧縮行程噴射割合)と排気温度との関係から、分割比が大きいほど、すなわち圧縮行程噴射割合が大きいほど、上昇傾向にある。これは、圧縮行程噴射量が増加する分、点火プラグ近傍に未燃燃料が存在して、CO、HCを発生させ、シリンダ壁面近傍にはリーン混合気が形成されるからであり、点火された直後の初期燃焼期間において点火プラグ周りがオーバーリッチであるために火炎伝播速度が遅い緩慢燃焼となり、更に中期から後期の燃焼期間においてはシリンダ壁面近傍で混合気がリーンなために更に緩慢燃焼となり、最終的な燃焼期間の延長により、先に点火プラグ周りに発生したCO、HCが燃焼の過程でシリンダ壁面近傍に存在するO2と徐々に反応することによる後燃え燃焼が促進されることになるからである。従って、圧縮行程噴射割合の大きい排気昇温モードにより、排気温度をより急速に上昇させて、触媒温度を上昇させ、被毒解除時間の短縮を図ることがことができる。」(段落【0037】及び【0038】)

(2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(キ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。

(ク)上記(1)の(ア)、(エ)及び(オ)並びに図1の記載からみて、内燃機関の排気浄化装置は、各気筒の燃焼室7に、換言すると、筒内に、燃料を噴射するための燃料噴射弁8を備えており、内燃機関の排気浄化装置におけるコントロールユニット20は、当該燃料噴射弁8による圧縮行程噴射の場合には、噴射された燃料は、ピストン冠面のボウル部6aを利用した流れに乗るなどして、点火プラグ9周りに集中的に層状の混合気を形成し、点火プラグ9により点火されて燃焼して成層リーン燃焼を行わせるのに対して、燃料噴射弁8による吸気行程噴射の場合には、噴射された燃料は、燃焼室7内に拡散して均質な混合気を形成し、点火プラグ9により点火されて燃焼して、空燃比制御との組み合わせで、均質リーン燃焼などを行わせることがわかる。
また、内燃機関の排気浄化装置におけるコントロールユニット20は、燃料噴射を分割して、燃料噴射弁8による吸気行程噴射と燃料噴射弁8による圧縮行程噴射とを行うことにより、点火プラグ9周りに比較的リッチ(A/F=10?16程度)な層状の混合気を形成し、これを囲む燃焼室7全体に比較的リーン(A/F=19?24程度)な混合気を形成し、全体の空燃比は略ストイキとするように制御して成層ストイキ燃焼(分割噴射による成層ストイキ燃焼)を行わせることがわかる。
以上のことから、内燃機関の排気浄化装置は、筒内に燃料を噴射するための燃料噴射弁8による圧縮行程噴射と均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射とを備えているといえる。

(ケ)上記(1)の(ア)、(エ)及び(キ)並びに図1の記載からみて、内燃機関の排気通路10(排気系)には排気浄化用のNOxトラップ触媒11が設けられており、排気温度の昇温により、当該NOxトラップ触媒11が温度上昇させられることがわかる。

(コ)上記(1)の(ア)、(エ)及び(カ)並びに図1、7及び8の記載からみて、NOx濃度センサ30は、排気通路10のNOxトラップ触媒11の下流側に配置され、排気中のNOx濃度を検出し、図7のフローチャートにおけるS1で、この検出結果が予め定めた閾値より大きいときに被毒解除要求有りと判定するので、当該NOx濃度センサ30はNOxトラップ触媒11の昇温要求を検知するための検知手段であることがわかる。

(サ)上記(1)の(ア)、(エ)ないし(カ)及び上記(ク)並びに図1及び7の記載からみて、コントロールユニット20は、内燃機関の運転状態に応じて、換言すると、内燃機関に要求される条件に基づいて、燃料噴射弁8による圧縮行程噴射と均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射弁8を制御する燃料噴射制御機能を有していることがわかる。

(シ)上記(1)の(ア)、(エ)ないし(カ)及び上記(コ)並びに図1及び7の記載からみて、コントロールユニット20は、点火プラグ9を制御するための点火制御機能を有していることがわかる。
また、コントロールユニット20は、昇温要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火プラグ9を制御するための点火制御機能を有していることがわかる(特に、上記(ア)の【請求項9】、上記(オ)の段落【0021】及び【0022】、上記(カ)の【0029】及び図7のS6参照)。

(ス)上記(1)の(ウ)、(オ)及び(カ)並びに図7の記載からみて、内燃機関の排気浄化装置におけるコントロールユニット20は、排気温度を上昇させることによりNOxトラップ触媒11の温度上昇を図っていることがわかる。

(セ)上記(1)の(ア)及び(カ)、上記(ク)、(コ)及び(サ)並びに図7の記載からみて、コントロールユニット20は、昇温要求が検知されたときに、燃料噴射弁8による圧縮行程噴射の分担の割合を均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射の分担の割合よりも大きくすることがわかる(特に、上記(カ)の段落【0029】参照)。

(3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているものと認められる。

「筒内に燃料を噴射するための燃料噴射弁8による圧縮行程噴射と均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射とを備えた内燃機関の排気浄化装置であって、前記内燃機関の排気通路10には排気浄化用のNOxトラップ触媒11が設けられ、
前記NOxトラップ触媒11の昇温要求を検知するためのNOx濃度センサ30と、
前記内燃機関に要求される条件に基づいて、前記燃料噴射弁8による圧縮行程噴射と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射弁8を制御するためのコントロールユニット20における燃料噴射制御機能と、
点火プラグ9を制御するためのコントロールユニット20における点火制御機能とを含み、
前記コントロールユニット20における燃料噴射制御機能は、前記昇温要求が検知されたときに、前記燃料噴射弁8による圧縮行程噴射の分担の割合と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射の分担の割合を決めるように、前記燃料噴射弁8による圧縮行程噴射と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射とを制御するためのコントロールユニット20における燃料噴射制御機能を含み、
前記コントロールユニット20における点火制御機能は、前記昇温要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火プラグ9を制御するためのコントロールユニット20における点火制御機能を含む、内燃機関の排気浄化装置において、
排気温度を上昇させることによるNOxトラップ触媒11の温度上昇のために、
前記昇温要求が検知されたときに、前記燃料噴射弁8による圧縮行程噴射の分担の割合を前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射の分担の割合よりも大きくする技術。」


2-3.対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、引用文献記載1の発明における「燃料噴射弁5」は、その機能からみて、本願補正発明における「第1の燃料噴射手段」に相当し、同様に、「吸気通路2」は「吸気通路」に、「燃料噴射弁17」は「第2の燃料噴射手段」に、「直噴火花点火式内燃機関の制御装置」は「内燃機関の制御装置」に、「排気通路7」は「排気系」に、「排気浄化触媒9」は「触媒」に、「燃料噴射弁5及び燃料噴射弁17」は「燃料噴射手段」に、「コントロールユニット50の燃料噴射制御機能」は「制御手段」及び第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段とを制御するための「手段」のそれぞれに、「点火栓6」は「点火装置」に、「コントロールユニット50の点火制御機能」は「点火制御手段」及び点火装置を制御するための「手段」のそれぞれに、それぞれ相当する。
また、触媒を暖機するための条件について、引用文献1記載の発明における「暖機要求が検知されたときに」は、「暖機要求が検知されたときに」という限りにおいて、本願補正発明における「燃料噴射が第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段とで分担されている場合において、暖機要求が検知されたときの燃料量減量の際に」に相当する。
さらに、引用文献1記載の発明における「燃料噴射弁5の分担の割合を略50%乃至略10%とし燃料噴射弁17の分担の割合を略50%乃至略90%とする」は、「第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段との分担の割合を決める」という限りにおいて、本願補正発明における「第1の燃料噴射手段の分担の割合を第2の燃料噴射手段の分担の割合よりも大きくする」に相当する。
さらにまた、第1および第2の燃料噴射手段による合計の燃料噴射量による空燃比を、引用文献1記載の発明における「理論空燃比から多少ずれた空燃比である13.8?18の範囲のリッチからリーンの間とする」は、「理論空燃比よりもリーンとできる」という限りにおいて、本願補正発明における「理論空燃比よりもリーンとする」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用文献1記載の発明とは、次の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
「筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段とを備えた内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の排気系には予め定められた温度以上で活性化する排気浄化用の触媒が設けられ、
前記触媒の暖機要求を検知するための検知手段と、
前記内燃機関に要求される条件に基づいて、前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射手段を制御するための制御手段と、
点火装置を制御するための点火制御手段とを含み、
前記制御手段は、前記暖機要求が検知されたときに、前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段との分担の割合を決めるとともに、前記第1および第2の燃料噴射手段による合計の燃料噴射量による空燃比を理論空燃比よりもリーンとできるように、前記第1の燃料噴射手段と前記第2の燃料噴射手段とを制御するための手段を含み、
前記点火制御手段は、前記暖機要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火装置を制御するための手段を含む、内燃機関の制御装置。」

<相違点>
(1)相違点1
触媒を暖機するための条件に関し、
本願補正発明では、「燃料噴射が第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段とで分担されている場合において、暖機要求が検知されたときの燃料量減量の際に」であるのに対し、引用文献1記載の発明では、「暖機要求が検知されたときに」である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)相違点2(括弧( )内に本願補正発明の相当する発明特定事項を示す。)
触媒を暖機するときにおける、第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段との分担の割合に関し、
本願補正発明では、「第1の燃料噴射手段の分担の割合を第2の燃料噴射手段の分担の割合よりも大きくする」のに対し、引用文献1記載の発明では、「燃料噴射弁5(第1の燃料噴射手段)の分担の割合を略50%乃至略10%とし燃料噴射弁17(第2の燃料噴射手段)の分担の割合を略50%乃至略90%とする」点(以下、「相違点2」という。)。

(3)相違点3
触媒を暖機するときにおける、第1および第2の燃料噴射手段による合計の燃料噴射量による空燃比に関し、
本願補正発明では、「理論空燃比よりもリーンとする」のに対し、引用文献1記載の発明では、「理論空燃比から多少ずれた13.8?18の範囲のリッチ又はリーンの空燃比とする」ものであって、理論空燃比よりもリーンとすることも含むものであるが、積極的にリーンとするかは不明である点(以下、「相違点3」という。)。


2-4.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
触媒を暖機するための条件について、本願補正発明も引用文献1記載の発明も「暖機要求が検知されたときに」で一致している。
また、筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射弁と吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射弁とを備えた内燃機関の制御装置において、始動性の向上や排気ガスエミッションの向上のために、始動時に、燃料噴射が第1の燃料噴射弁と第2の燃料噴射弁とで分担することは、周知慣用の技術(以下、「周知慣用技術」という。必要があれば、例えば、特開2001-336439号公報の特に、請求項1、3及び5、段落【0004】ないし【0006】及び【0041】ないし【0044】並びに図1及び3、特開2000-265877号公報の特に、段落【0003】、【0004】、【0029】及び【0031】並びに図1及び2参照。)である。
さらに、内燃機関の始動時の燃料噴射制御において、始動開始以降の燃焼状態を良くするために、始動開始以降の燃料量減量を行なうことは技術常識(必要があれば、例えば、実願平1-109556号(実開平3-49348号)のマイクロフィルムの特に、明細書第3ページ第8ないし13行、明細書第5ページ第4ないし12行及び明細書第6ページ第7ないし10行、特開昭57-206736号公報の特に、第2ページ左下欄第2ないし15行参照。)である。
ところで、触媒を活性化させるために暖機する必要があるのは、始動開始時点から始動開始以降の暖機完了となるまでの期間であり、上記周知慣用技術及び上記技術常識における始動時は、まさに当該期間に含まれるものである。
そうすると、引用文献1記載の発明において、触媒を暖機するために上記周知慣用技術を採用して、さらに上記技術常識を勘案して、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。

(2)相違点2について
本願補正発明と引用文献2記載の技術とを対比すると、引用文献2記載の技術における「燃料噴射弁8による圧縮行程噴射」は、その機能からみて、本願補正発明における「第1の燃料噴射手段」に相当し、以下同様に、「内燃機関の排気浄化装置」は内燃機関の排気浄化のための制御をする装置であるから「内燃機関の制御装置」に、「排気通路10」は「排気系」に、「NOxトラップ触媒11」は「触媒」に、「NOx濃度センサ30」は「検知手段」に、「燃料噴射弁8」は「燃料噴射手段」に、「コントロールユニット20における燃料噴射制御機能」は「制御手段」及び第1の燃料噴射手段と第2の燃料噴射手段とを制御するための「手段」のそれぞれに、「点火プラグ9」は「点火装置」に、「コントロールユニット20における点火制御機能」は「点火制御手段」及び点火装置を制御するための「手段」のそれぞれに、それぞれ相当する。
また、引用文献2記載の技術における「均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射」は、「均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段」という限りにおいて、本願補正発明における「吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段」及び「第2の燃料噴射手段」のそれぞれに相当する。
さらに、引用文献2記載の技術における「昇温要求」は、「触媒の温度を上昇させる要求」の限りにおいて、本願補正発明における「暖機要求」に相当する。

したがって、引用文献2記載の技術を本願補正発明における用語を用いて記載すると、
「筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段とを備えた内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の排気系には排気浄化用の触媒が設けられ、
前記触媒の温度を上昇させる要求を検知するための検知手段と、
前記内燃機関に要求される条件に基づいて、前記第1の燃料噴射手段と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射手段を制御するための制御手段と、
点火装置を制御するための点火制御手段とを含み、
前記制御手段は、前記触媒の温度を上昇させる要求が検知されたときに、前記第1の燃料噴射手段の分担の割合と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段の分担の割合を決めるように、前記第1の燃料噴射手段と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段とを制御するための手段を含み、
前記点火制御手段は、前記触媒の温度を上昇させる要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火装置を制御するための手段を含む、内燃機関の制御装置において、
排気温度を上昇させることによる触媒の温度上昇のために、
前記触媒の温度を上昇させる要求が検知されたときに、前記第1の燃料噴射手段の分担の割合を前記均質リーン燃焼を行わせる均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段の分担の割合よりも大きくする技術。」
となる。
ここで、本願補正発明における「吸気通路内に燃料を噴射するための第2の燃料噴射手段」も引用文献2記載の技術における「均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射弁8による吸気行程噴射」もいずれも「均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段」という同様の役目を果たす燃料噴射手段で一致している。

また、引用文献1記載の発明と引用文献2記載の技術とは、
「筒内に燃料を噴射するための第1の燃料噴射手段と均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段とを備えた内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の排気系には排気浄化用の触媒が設けられ、
前記触媒の温度を上昇させる要求を検知するための検知手段と、
前記内燃機関に要求される条件に基づいて、前記第1の燃料噴射手段と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段とで分担して燃料を噴射するように、燃料噴射手段を制御するための制御手段と、
点火装置を制御するための点火制御手段とを含み、
前記制御手段は、前記触媒の温度を上昇させる要求が検知されたときに、前記第1の燃料噴射手段の分担の割合と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段の分担の割合を決めるように、前記第1の燃料噴射手段と前記均質リーン燃焼を行わせる燃料噴射手段とを制御するための手段を含み、
前記点火制御手段は、前記触媒の温度を上昇させる要求が検知されたときに、点火時期を遅角するように前記点火装置を制御するための手段を含む、内燃機関の制御装置。」
であることで共通する。さらに、引用文献1記載の発明も引用文献2記載の技術もいずれも排気温度を上昇させることにより触媒の温度を上昇させるためのものであることでも共通する。
さらに、触媒の温度を上昇させる条件について、引用文献1記載の発明における「暖機要求」も引用文献2記載の技術における「昇温要求」もいずれも触媒の温度を上昇させる要求であることで一致しているので、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の技術を適用することは可能である。

そうすると、引用文献1記載の発明において、第1の燃料噴射手段の分担の割合と第1の燃料噴射手段の分担の割合を決めるにあたり、上記引用文献2記載の技術を採用し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(3)相違点3について
触媒を暖機するときにおける、第1および第2の燃料噴射手段による合計の燃料噴射量による空燃比について、本願補正発明も引用文献1記載の発明も「理論空燃比よりもリーンとできる」という限りにおいて一致している。
また、触媒を備えた内燃機関の制御装置において、触媒の早期活性化を図るために、始動開始から所定期間に、燃料噴射手段による全体の燃料噴射量による空燃比を理論空燃比よりもリーンとすることは、従来周知の技術(以下、「周知技術」という。必要があれば、例えば、特開平7-189768号公報の特に、段落【0008】及び【0017】、特開平9-151759号公報の特に、段落【0002】及び【0003】参照。)である。
そうすると、引用文献1記載の発明において、第1および第2の燃料噴射手段による合計の燃料噴射量による空燃比について、上記周知技術を採用し、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

また、本願補正発明は、全体として検討してみても、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術、周知技術及び周知慣用技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

2-5.まとめ
したがって、本願補正発明は引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術、周知技術及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に想到し得る程度のことであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


【3】本願発明について
1.本願発明の内容
平成22年1月12日けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし7に係る発明は、出願当初の明細書、平成21年9月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、前記【2】の[理 由]の1.(b)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。


2.引用文献記載の発明
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(特開平11-324765号公報)の記載事項及び引用文献1記載の発明は、前記【2】の[理 由]の2.の2-2.の2-2-1.の(1)ないし(3)に記載したとおりであり、また、原査定の拒絶理由に引用された引用文献2(特開2004-68624号公報)の記載事項及び引用文献2記載の技術は、前記【2】の[理 由]の2.の2-2.の2-2-2.の(1)ないし(3)に記載したとおりである。


3.対比・判断
本願発明は、実質的に、前記【2】で検討した本願補正発明における発明特定事項である
「暖機要求が検知されたときの燃料量減量の際に」

「暖機要求が検知されたときに」
と、「燃料量減量の際」という条件の限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記【2】の[理 由]の2.の2-3.ないし2-5.に記載したとおり、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術、周知技術及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術、周知技術及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本願発明は、全体として検討してみても、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術、周知技術及び周知慣用技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術、周知技術及び周知慣用技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-26 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-15 
出願番号 特願2005-78359(P2005-78359)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畔津 圭介  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 柳田 利夫
鈴木 貴雄
発明の名称 内燃機関の制御装置  
代理人 堀井 豊  
代理人 森田 俊雄  
代理人 深見 久郎  
代理人 荒川 伸夫  

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