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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) E06B |
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管理番号 | 1234806 |
判定請求番号 | 判定2010-600070 |
総通号数 | 137 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2011-05-27 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2010-12-09 |
確定日 | 2011-03-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4408280号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「折戸」は、特許第4408280号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1.請求の趣旨 本件判定請求人であるYKK AP株式会社は,判定請求書に添付したイ号図面及びその説明書に示す「折戸」が,特許第4408280号発明の技術的範囲に属するとの判定を求めるものである。 第2.本件特許発明 本件特許第4408280号発明(以下,「本件特許発明」という。)は,特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり,これを構成要件に分説すると次のとおりである。 「【請求項1】 A.枠体に開閉自在に取り付けた折戸本体の折込み連結部にラッチ機構を組み込むと共に、前記枠体の下枠を室内側の床面および室外側の床面に対しほぼ段差無く配設した折戸において、 B.前記ラッチ機構は、室内外側にそれぞれ傾斜面を有して逆山形断面に形成されたラッチ突起と、 C.前記ラッチ突起とガイドレールの厚み分の間隙を存して一体に形成され、前記枠体の下枠に形成した前記ガイドレールに室内側から当接して前記折戸本体の逆折れを阻止する当接突起と、 D.前記ラッチ突起と前記当接突起間に形成された凹部底面を有し、 E.前記ラッチ突起及び当接突起が前記ガイドレールに上側から臨む下動位置と、ガイドレールから上側に退避する上動位置間で移動自在であり、 F.前記逆山形断面を有するラッチ突起の前記室外側傾斜面の基端部からその先端までの垂直距離を、室内側傾斜面のそれよりも長くして、前記折戸閉塞時に、前記凹部底面が前記ガイドレール上面に当接係止することを特徴とする G.折戸。」 第3.イ号物件 1.請求人によるイ号物件の特定 請求人は判定請求書において,イ号図面並びにその説明書に示す「折戸」(以下,「イ号物件」という。)を,次のとおり特定している。 「【イ号物件】 (a)枠2に開閉自在に取付けた折戸本体の下框36から召合框34に渡ってラッチ装置5を組み込むと共に,枠2の下枠4を浴室側の床パン6および脱衣室側の建築床7に対しほぼ段差無く配設した折戸1において, (b)ラッチ装置5は,脱衣室側に平面状の脱衣室側傾斜面57aを有するとともに浴室側に湾曲状の浴室側湾曲面57bおよびこの浴室側湾曲面57bから垂直上方向に連続する浴室側垂直面57cを有して逆山形断面に形成された第一突起57と, (c)第一突起57と下枠レール41の厚み分の間隙を存して一体に形成され,枠2の下枠4に形成した下枠レール41に浴室側から当接して前記折戸本体の逆折れを阻止する第二突起58と, (d)第一突起57と第二突起58との間に形成された凹部底面59を有し, (e)第一突起57および第二突起58が下枠レール41に上側から臨む位置と,下枠レール41から上側に退避する位置との間で移動自在であり, (f)前記逆山形断面を有する第一突起57の脱衣室側傾斜面57aの基端部からその先端までの垂直距離を,浴室側の浴室側湾曲面57bの基端部からその先端までの垂直距離よりも長くして,折戸1の閉塞時に,凹部底面59が下枠レール41の上面に当接係止することを特徴とする (g)折戸1。」 2.当審によるイ号物件の特定 当審で上記「1.」で特定されたイ号物件について検討したところ,請求人による特定では,構成(b)及び(f)において,被請求人との間で争いがあるので,当審ではイ号図面及びその説明書の記載から,イ号物件を次のとおりに特定した。 「【イ号物件】 a.枠2に開閉自在に取付けた折戸本体の下框36から召合框34に渡ってラッチ装置5を組み込むと共に,枠2の下枠4を浴室側の床パン6および脱衣室側の建築床7に対しほぼ段差無く配設した折戸1において, b.ラッチ装置5は,脱衣室側に平面状の脱衣室側傾斜面57aを有するとともに浴室側に湾曲状の浴室側湾曲面57bおよびこの浴室側湾曲面57bから垂直上方向に連続する浴室側垂直面57cを有した第一突起57と, c.第一突起57と下枠レール41の厚み分の間隙を存して一体に形成され,枠2の下枠4に形成した下枠レール41に浴室側から当接して前記折戸本体の逆折れを阻止する第二突起58と, d.第一突起57と第二突起58との間に形成された凹部底面59を有し, e.第一突起57および第二突起58が下枠レール41に上側から臨む位置と,下枠レール41から上側に退避する位置との間で移動自在であり, f.前記第一突起57の脱衣室側傾斜面57aの基端部からその先端までの垂直距離を,浴室側の浴室側湾曲面57bから垂直上方向に連続して設けられた浴室側垂直面57cの基端部から浴室側湾曲面57bの先端までの垂直距離よりも長くして,折戸1の閉塞時に,凹部底面59が下枠レール41の上面に当接係止することを特徴とする g.折戸1。」 第4.当事者の主張 1.請求人の主張 請求人は,判定請求書において,次の理由により,イ号物件は,本件特許発明の技術範囲に属する旨主張している。 (1)イ号物件の構成a?gは,本件特許の構成要件A?Gを充足している。 (2)本件特許発明の構成要件Bについて, ア.「傾斜面」は「傾いて斜めになった面」であり,傾斜面が平面状であるか,曲面状であるかを問わない, イ.本件特許発明のラッチ突起は,室内外側にそれぞれ傾斜面を「有して」いればよく,傾斜面だけで構成されているものに限定されるものではない。さらに,「逆山形断面」という用語について,「山」の形状は種々あるから,実施形態に開示された形状に,一義的に解釈されるものではない, ウ.イ号物件における第一突起の脱衣室側傾斜面57aおよび浴室側湾曲面57bはいずれも傾斜面であって,第一突起57は「逆山形断面」に形成されている。 したがって,イ号物件の構成bは,本件特許発明の構成要件Bを充足する。 (3)本件特許発明の構成要件Fについて, ア.イ号物件の第一突起57の脱衣室側傾斜面57aの基端部からその先端までの垂直距離は,イ号物件の図6に示すように,浴室側の浴室側湾曲面57bの基端部からその先端までの垂直距離よりも長くしてあり,図3に示すように凹部底面59は,下枠レール41の上面に当接係止する。 イ.仮に,浴室側について,浴室側垂直面57cの基端部から浴室側湾曲面57bの先端までの垂直距離で考えたとしても,脱衣室側の当該垂直距離の方が依然として長い。 したがって,イ号物件の構成fは,本件特許発明の構成要件Fを充足する。 2.被請求人の主張 被請求人は,判定請求答弁書において,次の理由により,イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属さない旨主張している。 (1)本件特許発明とイ号物件を対比すると,ラッチ突起(イ号物件では第一突起57)の構成が異なり,これに基づく作用効果も異なる。また,ラッチ突起は本件特許発明の主要部である。 (2)イ号物件の構成bについての請求人の主張について, ・上記主張「ア」に対して,乙第5号証によれば,「傾斜面」とは「水平面に対して傾斜している平面」であり,乙第6号証によれば,「湾曲」とは「弓なりにまがること。まがりくねっていること。」であり,結局,「傾斜面」と「湾曲面」とは異なるものである。 ・上記主張「イ」に対して,本件特許発明において下枠レールは構成要件とされていないから,ラッチ突起における室内側面を構成する傾斜面は,この傾斜面だけで下枠レールを自在に乗り越えることができる面でなければならないが,室内側面の一部が傾斜面であるだけでは,下枠レールを自在に乗り越えることができず,請求人の主張は根拠がない。 ・上記主張「ウ」に対して,上記「ア」の反論通り,イ号物件の「湾曲面」は「傾斜面」ではない。また,イ号物件は,浴室側湾曲面57bと浴室側垂直面57cからなるので,浴室側面全体が傾斜面とはいえず,さらに,下枠レール41を乗り越える際の,浴室側垂直面57cの存在を解決するために,下枠レール41に比較的大きな丸みをつけたものであって,室内側傾斜面で構成された本件特許発明とは下枠レール41(ガイドレール)を乗り越える手段が全く異なる。 よって,イ号物件は本件特許発明の構成要件Bを備えていない。 (3)イ号物件の構成fについての請求人の主張について, ・本件特許発明の「室内側傾斜面の基端部」が,傾斜面と凹部底面とが接する箇所であるから,構成要件Fにおいて,「凹部底面がガイドレール上面に当接係止する」が,イ号物件では,浴室側湾曲面57bの基端部は浴室側垂直面57cが存在するために,凹部底面59に接していない。 ・イ号物件の浴室側湾曲面57bと浴室側垂直面57cとからなる浴室側面(室内側面)が「傾斜面」とは言えないから,本件特許発明における浴室側傾斜面と対比できない。 したがって,イ号物件は本件特許発明の構成要件Fを備えない。 (4)本件特許発明の構成要件BとFに関するイ号物件の相違は,本件特許発明の要部に関する。そしてイ号物件において,第一突起57の浴室側垂直面57cを積極的に設けるという,本件特許発明のラッチ突起とは技術思想の異なる構成を採用したことに基づくものであり,下枠レール41との保持状態が確実であるという作用効果の差もあるので,本件特許発明とイ号物件とは,均等物でもない。 第5.属否の検討 1.本件特許発明とイ号物件との対比 (1)本件特許発明の構成要件A,C?E,Gについて イ号物件の構成a,c?e,gは,本件特許発明の構成要件A,C?E,Gを充足している。 (2)本件特許発明の構成要件Bについて 本件特許発明の構成要件Bは,ラッチ機構を構成するラッチ突起が「室内側」及び「室外側」に「それぞれ傾斜面を有」することで,「逆山形断面に」形成されているものである。 イ号物件と対比するに先立って,構成要件Bについて検討する。 まず,本件特許発明の構成要件Bの「傾斜面」の技術的意味,及び本件特許発明の「傾斜面」にイ号物件の「浴室側湾曲面57b」のような「湾曲面」が含まれるか否かについて検討する。 「日本国語大辞典(第二版)」(被請求人が判定請求答弁書とともに乙第5号証及び乙第6号証として提示)によれば,「傾斜面」とは「水平面に対して傾斜している平面。ななめに傾いている表面。」を表す語であり,「平面」であることを意味として含んでいるのに対し,「湾曲」とは「弓なりにまがること,まがりくねっていること。円弧を描くようにまがること。」を表す語である。当該定義によれば,「湾曲面」という語に「平面」であることの意味が含まれているとは言えず,本件特許発明の構成要件Bの「傾斜面」が,「湾曲面」を含むものであるとは言えない。 次に,本件特許発明の構成要件Bの「傾斜面を有する」という室内側面の構成について検討する。 まず,本件特許発明の明細書及び図面には,室内側に傾斜面以外に垂直面等の面を有する実施例は何ら記載されていない。 そして,本件特許発明の特許審査の経緯を見てみると,請求人は平成21年9月15日付け意見書で審査官の拒絶理由(特許法第29条第2項違反)に対して反論を行っている。それによると,当該意見書と同時に提出された補正書により,本件特許発明の構成要件Fである室内側の傾斜面の基端部からその先端までの垂直距離を相対的に規定することにより,「凹部底面が前記ガイドレール上面に当接係止する」ものとした旨を主張している。仮に,本件特許発明のラッチ突起の室内側面の一部のみが傾斜面として構成されるもの,例えば,傾斜面の上方に連続して垂直面が形成されるものを含むとすると,室内外の傾斜面の基端部からその先端までの垂直距離を相対的に規定したとしても,傾斜面に連続した垂直面分の高さがあるため,「凹部底面がガイドレール上面に当接係止する」状態とはならない構成を含むことになる。この場合,本件特許発明の構成要件Fである室内側の傾斜面の垂直距離を相対的に規定したことが意味をなさなくなってしまい,上記意見書の反論とは矛盾を生じることとなる。してみると,本件特許発明はのラッチ突起の室内側は,実施例に示されたように,傾斜面のみで形成されているものと解することが妥当である。 したがって,ラッチ突起の室内側傾斜面が上記の構成であるとして,本件特許発明の構成要件Bとイ号物件の構成bを対比する。 イ号物件の構成bの「脱衣室側傾斜面57a」が,本件特許発明の構成要件Bの「室外側の傾斜面」に相当している。 それに対し,上記したように,イ号物件の構成bの「浴室側に湾曲状の浴室側湾曲面57bおよびこの浴室側湾曲面57bから垂直上方向に連続する浴室側垂直面57cを有した」点は,浴室側(室内側)が,湾曲面とそれに連続する垂直面で構成されるものであり,本件特許発明の構成要件Bの「室内側に傾斜面を有する」点に相当するものではない。 そうすると,イ号物件の構成bの「脱衣室側に平面状の脱衣室側傾斜面57aを有するとともに浴室側に湾曲状の浴室側湾曲面57bおよびこの浴室側湾曲面57bから垂直上方向に連続する浴室側垂直面57cを有」した形状は,本件特許発明の構成要件Bの「逆山形断面」形状に相当せず,イ号物件の「第一突起57」は,本件特許発明の「逆山形断面を有するラッチ突起」に相当しない。 したがって,イ号物件の構成bは,本件特許発明の構成要件Bを充足しない。 (3)本件特許発明の構成要件Fについて 本件特許発明の構成要件Fとイ号物件の構成fを対比する。 上記(2)でも検討したように,イ号物件の第一突起57は逆山形断面ではないため,イ号物件の「第一突起57」は,本件特許発明の「逆山形断面を有するラッチ突起」に相当しないから,本件特許発明の構成要件Fを充足しない。 以上のとおり,イ号物件は,本件特許発明の構成要件B及びFを充足していない。 また,上記(2)のとおり,特許出願手続において,ラッチ突起の室内側が傾斜面のみで形成され,傾斜面の基端部が凹部の底面の位置にあるものに限定し,それ以外のものは意図的に除外したと認められるから,イ号物件は本件特許発明と均等なものともいえない。 第6.むすび 以上のとおり,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって,結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2011-03-16 |
出願番号 | 特願2006-82671(P2006-82671) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZB
(E06B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 江成 克己、土屋 真理子、横井 巨人 |
特許庁審判長 |
伊波 猛 |
特許庁審判官 |
草野 顕子 宮崎 恭 |
登録日 | 2009-11-20 |
登録番号 | 特許第4408280号(P4408280) |
発明の名称 | 折戸 |
代理人 | あいわ特許業務法人 |
代理人 | 特許業務法人樹之下知的財産事務所 |