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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1235185
審判番号 不服2008-14183  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-06 
確定日 2011-04-11 
事件の表示 特願2000-375328「シリコン半導体基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月21日出願公開、特開2002-176058〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年12月11日の出願であって、平成20年4月22日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年6月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月25日に手続補正書が提出された。
そして、前置審査において、平成20年8月8日付けで拒絶の理由が通知され、それに対して同年10月15日に手続補正書及び意見書が提出され、さらに、同年11月6日に手続補正書が提出され、その後、平成22年7月7日付けで審尋がなされ、同年9月27日に回答書が提出された。

2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成20年11月6日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シリコン単結晶から採取した、酸素濃度が11×10^(17)?17×10^(17)atoms/cm^(3)(OLD ASTM)、炭素濃度が1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)の基板用素材を、他の熱処理を施すことなく、非酸化性雰囲気中での急速昇降温熱処理によって1000?1300℃に加熱して5?200℃/secの冷却速度で冷却することを特徴とするシリコン半導体基板の製造方法。」

3.引用刊行物に記載された発明
(1)引用例1
(1-1)本願の出願前に日本国内において頒布され、平成20年8月8日付けで通知した拒絶の理由において引用された刊行物である特開2000-269221号公報(以下「引用例1」という。)には、図1と共に以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。他の刊行物についても同じ。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)により製造されたシリコン基板の熱処理方法および熱処理された基板を用いて製造されたエピタキシャルウェーハに関し、特に基板内に所望のインターナル・ゲッタリング能力を付与した半導体基板を高生産性で得るための熱処理方法に関する。」

「【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載した発明は、チョクラルスキー法により製造された単結晶から得たシリコン基板を熱処理する方法において、水素100%またはアルゴン100%あるいは水素とアルゴンの混合雰囲気下で、シリコン基板を1050℃以上の温度で保持した後、8℃/秒以上の冷却速度で急速冷却する第1段階熱処理後に、350℃以上800℃以下の温度で第2段階熱処理を加えることを特徴とするシリコン基板の熱処理方法である。
【0009】このようにすれば、先ず、第1段階熱処理により、CZ法により製造されたシリコン基板中の結晶引き上げ時の熱履歴で形成された酸素析出核を消滅させることができ、結晶熱履歴の影響が排除されるとともに、新たに酸素析出核が発生し、その後の熱処理での酸素析出の進行を容易にすることができる。また、水素またはアルゴンの雰囲気で熱処理するため、ウェーハ表面に酸化膜等の不要な膜が形成されることもない。
【0010】そして第1段階の熱処理の後に、第2段階熱処理として350℃以上800℃以下の温度で熱処理を加えることにより、より安定した酸素析出核を所望量得ることができる。また、この第2段階の熱処理温度や熱処理時間を変化させることによって、酸素析出量や内部欠陥としての酸素析出核密度を所望の値に制御することができる。従って、本発明の熱処理方法によれば、シリコン基板の結晶成長中の熱履歴によらず、所望量の酸素析出核が得られ、所望のIG能力を付与された半導体デバイス用として有用なシリコン基板を高歩留り、高生産性で製造することができる。」

「【0015】先ず、従来から行われてきた熱処理条件と酸素析出量との関係を調査し、実験を繰り返して次のような熱処理条件を確立した。
(テスト1)第1に調査した要因は、第1段階熱処理における冷却速度である。実験に用いたシリコン基板は、鏡面研磨後のもので、直径6インチ、導電型P型、結晶方位<100>、初期酸素濃度16ppma(JEIDA:日本電子工業振興協会規格)である。このシリコン基板を、熱放射によるランプ加熱炉[RTA装置(Rapid Thermal Annealing :急速加熱・急速冷却装置)の1種]中で、第1段階熱処理として、アルゴン100%の雰囲気下で1200℃で30秒間保持した後に、冷却速度を5、8、13、33℃/秒に変化させて熱処理を施した。その後、800℃/4時間+1000℃/16時間の酸素析出熱処理(以後、析出熱処理ということがある)を施した。
【0016】ここで析出熱処理を行ったのは、本発明の第1段階熱処理を実施しただけでは、酸素析出量を制御するための核はできているものの、検出可能なサイズの析出が起こっていないために検出が不可能であり、析出熱処理を行なうことにより本発明を実施したことによる基板中の析出核を成長させ、その有効性を測定するためである。この析出熱処理は、上記温度条件に限らず、デバイス製造プロセス中に行われるような種々の熱処理によってもほぼ同等の効果が得られる。
【0017】図1に冷却速度と内部欠陥密度(酸素析出物密度)との関係を示す。この図から、冷却速度を高速にすることにより内部欠陥密度が増加していることがわかる。特に、冷却速度を8℃/秒以上とすれば、1×10^(8 )個/cm^(3) 以上の内部欠陥密度が得られ、十分なIG効果を得ることが期待される。
【0018】ここで、図1の内部欠陥密度は、赤外干渉法によりバイオラッド社製OPP(Optical Precipitate Profiler) により評価した。ゲッタリングサイトとして必要と思われるレベルを1×10^(8 )個/cm^(3) 以上として評価した。測定は、表面から内部90μmの深さ領域で観察した。測定点は基板の中心、R/2、周辺20mmの3点を測定した(ここにR:基板の半径)。本評価法で得られる内部欠陥密度は、酸素析出物や積層欠陥の密度であるが、その殆どは酸素析出物である。」

(1-2)ここにおいて、0015?0018段落に記載された「テスト1」についてみると、「テスト1」において用いられるシリコン基板は、0008段落の記載から、チョクラルスキー法により製造された単結晶から得られたものであることは明らかである。

(1-3)したがって、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「チョクラルスキー法により製造された単結晶から得られた初期酸素濃度16ppma(JEIDA)のシリコン基板を、アルゴン100%の雰囲気下で、急速加熱・急速冷却装置により1200℃で30秒間保持した後に、冷却速度を5、8、13、33℃/秒に変化させるシリコン基板の熱処理方法。」

(2)引用例2
本願の出願前に日本国内において頒布され、平成20年8月8日付けで通知した拒絶の理由において引用された刊行物である特開平10-150048号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体基板に関し、より詳細には素子形成領域に欠陥を有さない半導体基板に関する。」

「【0003】Si単結晶をCZ法を用いて育成すると、石英るつぼ自身がSi融液に溶解して酸素を溶出し、この酸素は固液界面からSi単結晶中に(5?20)×10^(17)個/cm^(3 )の濃度で取り込まれる。この酸素は、LSI製造の際の1000℃程度の熱処理によりSi半導体基板(以下、単に半導体基板と記す)内にSiO_(2)(以下、酸素析出物と記す)として析出する。酸素析出物は汚染重金属のゲッタリング作用を有するため、その存在は高品質の半導体基板に不可欠となっている(岸野正剛、「超LSI材料、プロセスの基礎」(1987)p.83)。」

「【0009】本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、通常ならばスリップ転位が発生可能な熱圧縮応力下でも酸素析出物からスリップ転位が発生しにくい基板を提供する、さらに、汚染物質のゲッタリング能力を向上させるため、基板の裏面から厚みの1/2以下の範囲に存在する酸素析出物のみからスリップ転位が発生しやすい基板を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段及びその効果】上記目的を達成するために本発明に係る半導体基板(1)は、(5?20)×10^(17)個/cm^(3 )の酸素を含む半導体基板において、1?3.3×10^(17)個/cm^(3 )の炭素を含有していることを特徴としている。」

「【0015】従って、上記半導体基板(1)によれば、1000℃以下の熱処理を施しても酸素析出物の形態は多面体となり、そのサイズは150nm程度以下となり、スリップ転位を発生させる確率をほとんどゼロにすることができる。」

4.本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明における熱処理前の「シリコン基板」は、本願発明における「基板用素材」に相当する。また、JEIDA規格における酸素濃度である16ppmaは、OLD ASTMにおいては、およそ13×10^(17)atoms/cm^(3)と換算されることは当業者において自明である。
したがって、引用発明の「チョクラルスキー法により製造された単結晶から得られた初期酸素濃度16ppma(JEIDA)のシリコン基板」は、本願発明の「シリコン単結晶から採取した、酸素濃度が11×10^(17)?17×10^(17)atoms/cm^(3)(OLD ASTM)」「の基板用素材」に相当する。

(2)引用発明における「アルゴン100%の雰囲気」は、本願発明における「非酸化性雰囲気」に相当する。また、引用発明における「急速加熱・急速冷却装置」による加熱及び冷却は、本願発明の「急速昇降温熱処理」に相当することは自明である。
したがって、引用発明の「アルゴン100%の雰囲気下で、急速加熱・急速冷却装置により1200℃で30秒間保持した後に、冷却速度を5、8、13、33℃/秒に変化させる」は、本願発明の「非酸化性雰囲気中での急速昇降温熱処理によって1000?1300℃に加熱して5?200℃/secの冷却速度で冷却する」に相当する。

(3)本願発明における「他の熱処理を施すことなく」という発明特定事項は、平成20年6月25日に請求人から提出された手続補正書における「補正の根拠」にも記載されているとおり、「急速昇降温熱処理」よりも前に他の熱処理を行わないことを意味するものである。そして、引用発明においても、「急速加熱・急速冷却装置」による加熱の前に他の熱処理は行われていないことは明らかである。

(4)引用発明における熱処理後の「シリコン基板」は、本願発明における「シリコン半導体基板」に相当するから、引用発明の「シリコン基板の熱処理方法」は、本願発明の「シリコン半導体基板の製造方法」に相当する。

(5)以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、
「シリコン単結晶から採取した、酸素濃度が11×10^(17)?17×10^(17)atoms/cm^(3)(OLD ASTM)の基板用素材を、他の熱処理を施すことなく、非酸化性雰囲気中での急速昇降温熱処理によって1000?1300℃に加熱して5?200℃/secの冷却速度で冷却することを特徴とするシリコン半導体基板の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明は、「炭素濃度が1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)」であるのに対し、引用発明は、炭素を添加することを特定していない点。

5.相違点についての当審の判断
(1)引用例2の「(5?20)×10^(17)個/cm^(3 )の酸素を含む半導体基板において、1?3.3×10^(17)個/cm^(3 )の炭素を含有している」(0010段落)、「Si単結晶をCZ法を用いて育成すると、石英るつぼ自身がSi融液に溶解して酸素を溶出し、この酸素は固液界面からSi単結晶中に(5?20)×10^(17)個/cm^(3 )の濃度で取り込まれる。この酸素は、LSI製造の際の1000℃程度の熱処理によりSi半導体基板(以下、単に半導体基板と記す)内にSiO_(2)(以下、酸素析出物と記す)として析出する。酸素析出物は汚染重金属のゲッタリング作用を有するため、その存在は高品質の半導体基板に不可欠となっている。」(0003段落)、「通常ならばスリップ転位が発生可能な熱圧縮応力下でも酸素析出物からスリップ転位が発生しにくい基板を提供する」(0009段落)、及び「上記半導体基板(1)によれば、1000℃以下の熱処理を施しても酸素析出物の形態は多面体となり、そのサイズは150nm程度以下となり、スリップ転位を発生させる確率をほとんどゼロにすることができる」(0015段落)という記載から、該引用例2には、「(5?20)×10^(17)個/cm^(3 )の酸素を含む」「Si半導体基板」において、「酸素析出物からスリップ転位が発生しにくい基板を提供する」ために、「1?3.3×10^(17)個/cm^(3 )の炭素を含有」させる技術が記載されているものと認められる。

(2)引用発明1と引用例2に記載された発明とは、ともにシリコン基板に酸素析出物を形成するという共通の技術分野に属するものであり、シリコン基板中のスリップ転位の低減は、当業者における周知の課題といえるものであるから、引用発明に対して引用例2に記載された発明を適用し、シリコン基板に炭素を添加して、スリップ転位を防止しようとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、引用例2の0010段落に、含有させる炭素の濃度を「1?3.3×10^(17)個/cm^(3 )」とすることが記載されており、かつ、一般に、酸素を含むシリコンに対して、本願発明のように、1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)程度の炭素を含有させれば酸素析出物の形成を促進する作用があることが、例えば本願の出願前に日本国内において頒布された下記の周知文献1及び2に記載されているように、当業者において周知であることを考え合わせると、引用発明に対して引用例2に記載された発明を適用し、シリコン基板に炭素を添加させるに際して、炭素の濃度を本願発明のように、1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)の範囲とすること自体は、当業者にとって格別困難なことではない。

a.周知文献1:特開昭63-233096号公報
上記周知文献1には、第1?2表とともに以下の記載がある。
「そこで、本発明者等は、上述したような観点から、内部に十分な欠陥発生を起こすことができるウェハを得るべく、特に前記ウェハの原料となる微量のカーボンを含むシリコン単結晶について研究を行った結果、引上げ装置内のルツボに保持されたシリコン融液からシリコン単結晶を引上げ育成するに際して、該シリコン単結晶中のカーボン濃度を所定範囲内(5×10^(14)?1×10^(l7)atoms/cm^(3))の一定値に調整し、かつ結晶育成中の冷却過程を前記シリコン単結晶中のカーボン濃度に応じて制御(温度と時間)してやると、この結果得られたシリコン単結晶から製造されたウェハにおいては、半導体デバイス製造工程における種々の高温処理によって、ウェハ内部に、カーボン濃度に応じて、十分な微小欠陥が生じるという知見を得たものである。」(第2頁右上欄第13行?左下欄第8行)

「ついで、本発明法1?6および比較法1?6によって得られたシリコン単結晶の上端部、中央部、および下端部からそれぞれ試料を採取し、これに温度:800℃に120時間保持の加熱処理を施した状態で酸素析出物の密度を測定した。これらの測定結果を第1.第2表にあわせて示した。
ここで、第1表はシリコン単結晶に含まれるカーボン濃度が5×10^(14)?2.5×10^(15)atoms/cm^(3)の場合の代表的な一例として、カーボン濃度1×10^(15)atoms/cm^(3)の場合について示し、また第2表はシリコン単結晶に含まれるカーボン濃度が2.5×10^(15)?1×10^(17)atoms/cm^(3)の場合の代表的な一例として、カーボン濃度5×10^(16)atoms/cm^(3)の場合について示した。 これらの第1,第2表に示される結果から、本発明法1?6によって製造されたシリコン単結晶においては、結晶中のカーボン濃度に応じて、IG効果を高めるために重要となる欠陥発生が十分に起こるのに対して、熱処理条件がこの発明の範囲から外れた比較法1?6によって製造されたシリコン単結晶においては、カーボン濃度に応じた十分な欠陥発生が起こらないことが明らかである。
なお、結晶中のカーボン濃度2.5×10^(15)近傍においては、第3表に示すように温度領域1350?1250℃および750?600℃に120分以上保持することによって、それぞれ同様の酸素析出物の密度を測定し、ともに欠陥発生が十分に起こることがわかった。」(第3頁左上欄第12行?右上欄第19行)

b.周知文献2:特開平11-204534号公報
上記周知文献2には、以下の記載がある。
「【0016】すなわち、この発明は、半導体デバイス用シリコンウェーハにおいて、炭素濃度が0.1?2.5×10^(16)atoms/cm^(3)(New ASTM法)、酸素濃度が10?18×10^(17)atoms/cm^(3)(Old ASTM法)の範囲に制御してCZ法もしくはMCZ法にて引き上げられたシリコン単結晶をシリコンウェーハに切り出した後、ウェーハの片面又は両面を鏡面研磨仕上げし、さらにその表面にシリコンのエピタキシャル膜を成膜した後、前記シリコン結晶の内部に微小欠陥を形成する熱処理を行うことを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法である。」

「【0018】
【発明の実施の形態】単結晶シリコン中の炭素原子の酸素析出促進効果は広く知られている。一般に、格子位置炭素原子(Cs)の酸素析出促進のメカニズムはCsによって生じるSi格子の収縮で説明されている。Csの共有結合半径がシリコンのそれよりも30?40%小さく、従ってCsの周囲においては、シリコンの結晶格子は完全結晶の場合に比べて大きな隙間ができた状態になり、そこに酸素が集まりやすく、かつ析出の反応(格子間シリコンの放出)が起こりやすくなる、ということによると考えられている。
【0019】発明者らは、エピ基板中に十分なBMD密度を形成し、しかもBMDのサイズを制御するためには上記効果を持つ炭素をドープし、尚且つエピタキシャル成長後に熱処理を施すのが有効という知見を得た。」

(3)次に、本願発明において、含有させる炭素の濃度についての「1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)」という範囲が臨界的意義を有するか否かについて検討する。
本願の明細書及び図面(以下、これらをまとめて「明細書等」という。)において、本願発明の「炭素濃度が1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)」という構成に関連した事項が直接的に記載されている箇所は、特許請求の範囲の記載をほぼそのまま転記した0015段落を除いては0025段落のみであるが、当該0025段落は、「さらに、基板用素材の炭素濃度は、1×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)以上とする。これは、炭素濃度が1×10^(16)atoms/cm^(3)未満であると、上述した酸素析出を促進する効果が充分に発揮されず、また、デバイスプロセスでのスリップ転位の阻止を図れないためである。本発明の製造方法では、炭素濃度の上限を規定しないが、多くの含有は基板の機械的性質が劣化するおそれがあるから、上限を15×10^(16)atoms/cm^(3)とするのが望ましい。」という記載であり、上記炭素濃度の下限値及び上限値について実験結果等に裏付けられた具体的な根拠を何ら記載するものではない。
0030?0036段落に記載された実施例も、「炭素濃度」を6.1×10^(16)atoms/cm^(3)とした基板用素材が、炭素を添加しない基板用素材と比較してゲッタリング能力及び耐スリップ性が向上する、すなわち炭素の添加の有無の効果を示すにすぎないものであって、「炭素濃度」の下限値及び上限値の技術的意義を裏付けるものとはいえない。
明細書等を精査しても、他に本願発明において「炭素濃度」を「1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)」とすることの技術的意義について記載した箇所はなく、本願出願時点における技術常識を加味したとしても、「炭素濃度」を「1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)」としたことにより、予期しない程度の顕著な効果を奏するものとは認めることはできないから、本願発明において「炭素濃度」を「1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)」とすることの臨界的意義は認められない。

(4)以上検討したとおり、引用発明に対して引用例2に記載された発明を適用し、シリコン基板に炭素を添加させるに際して、炭素の濃度を本願発明のように、1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)の範囲とすること自体は、当業者にとって格別の困難性はなく、かつ1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)という範囲に臨界的意義も認められないから、引用発明に対して引用例2に記載された発明を適用し、シリコン基板に炭素を添加させ、炭素の濃度を本願発明のように1×10^(16)?15×10^(16)atoms/cm^(3)(NEW ASTM)とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(5)したがって、本願発明は、周知文献1及び2に記載された周知技術を勘案することにより、引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、平成20年8月8日付けで通知した拒絶の理由において指摘したとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
本願は、平成20年8月8日付けで通知した拒絶の理由において指摘したとおり、請求項1に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく拒絶をすべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-10 
結審通知日 2011-01-18 
審決日 2011-01-31 
出願番号 特願2000-375328(P2000-375328)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 和瀬田 芳正  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 酒井 英夫
加藤 浩一
発明の名称 シリコン半導体基板の製造方法  
代理人 森 道雄  

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