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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D |
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管理番号 | 1235187 |
審判番号 | 不服2008-26187 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-10-10 |
確定日 | 2011-04-12 |
事件の表示 | 特願2004-512953「半固体合金の射出成形プロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月24日国際公開、WO03/106075、平成17年12月 2日国内公表、特表2005-536351〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 経緯 本願は、2003年5月5日(パリ条約による優先権主張2002年6月13日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年3月19日付け拒絶理由通知に対し、同年6月23日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月14日付けで拒絶査定され、これを不服として、同年10月10日に審判請求がなされたものである。 2 本願発明 本願の各請求項に係る発明は、平成20年6月23日付け手続補正によって補正された請求項1?12に記載された事項によって特定されるものと認められ、その請求項1に係る発明は、次のとおりである。 「合金を加熱して60%?85%の範囲の固体含量を有する半固体スラリーを形成する工程と、 モールドを実質的に充填するのに十分な速度で、前記スラリーを乱流条件で前記モールド内へ射出する工程と、 前記スラリーが前記モールド内に射出された後に前記スラリーを高密度化する工程とを含み、前記スラリーが、高密度化の間に半固体状態にある射出成形プロセス。」(以下、「本願発明」という。) 3 刊行物及びその摘記事項 これに対して、原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2000-15415号公報(以下「刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。 (刊a)「【請求項1】 金属材料の溶湯を、該金属材料の液相線温度以下の半溶融状態で金型のキャビティに製品ゲートを介して射出して、該キャビティに対応する製品部の50%以上の部分で厚さが5.0mm以上となる厚肉成形品を成形する金属の半溶融射出成形方法において、 上記溶湯の固相率を10%以上に設定することを特徴とする金属の半溶融射出成形方法。 【請求項2】 請求項1記載の金属の半溶融射出成形方法において、 溶湯の固相率を40?80%に設定することを特徴とする金属の半溶融射出成形方法。 ・・・ 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の金属の半溶融射出成形方法において、 溶湯の製品ゲート速度vgmm/sを、厚肉成形品の製品ゲート部の断面積をSgmm^(2) 、製品部の体積をVpmm^(3 )として、 vg≦8.0×10^(4) かつ vg×Sg/Vp≧10 を満たすように設定することを特徴とする金属の半溶融射出成形方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】?【請求項4】) (刊b)「【発明が解決しようとする課題】ところで、キャビティに対応する製品部の厚さが5.0mm以上であるような金属厚肉成形品を射出成形しようとする場合、ダイキャストでは溶湯をキャビティに充填するときに溶湯の流れが乱れてガスを巻き込み易く、内部品質がより一層低下するので、固相の存在により粘性が高くて溶湯を層流で射出することが可能な上記半溶融射出成形法が適している。」(【0003】) (刊c)「すなわち、厚肉成形品の製品ゲート部の断面積(溶湯の流動方向と垂直な方向に切断)は、製品部の製品ゲート近傍部の断面積(製品ゲート部と同じ方向に切断)に対して0.1倍よりも小さいと、溶湯が製品ゲートからキャビティに入ったときに乱流になり易くてガスの巻込み量が多くなるので、0.1倍以上に設定している。」(【0013】) (刊d)「すなわち、溶湯の製品ゲート速度は、8.0×10^(4 )mm/s(80m/s)よりも大きいと、乱流になり易いので、8.0×10^(4 )以下に設定している。」(【0015】) (刊e)「また、溶湯の製品ゲート速度が小さ過ぎてvg×Sg/Vp<10となると、溶湯が凝固して充填不良が生じるので、vg×Sg/Vp≧10としている。」(【0015】) (刊f)「このことにより、製品部で最終の凝固部となる最大肉厚部に対して該最大肉厚部が凝固するまで圧力を付加することができるので、その最大肉厚部に引け巣が生じるのを抑制することができる。」(【0017】) (刊g)「上記射出シリンダ2及びノズル4の外周には、図示は省略するが、加熱ヒータが設置され、ホッパー6から射出シリンダ2内に供給された上記ペレットPは、スクリュー3により撹拌されながらその加熱ヒータにより溶融されて溶湯Mになる。この溶湯Mは、マグネシウム合金の液相線温度以下の半溶融状態であって、固相及び液相からなっている。」(【0035】 (刊h)「また、上記実施形態における半溶融射出成形装置は、マグネシウム合金からなる厚肉成形品を成形するのに好適なものであるが、他の金属(特にアルミニウム合金)にも適用することができる。」(【0050】) 4 刊行物発明 (刊a)、(刊e)?(刊h)の記載を整理すると、刊行物には次の発明が記載されている。 「マグネシウム合金等の金属材料を加熱して、40?80%の固相率の半溶融状態の溶湯とし、 溶湯が凝固して充填不良を生じないよう溶湯の製品ゲート速度vgmm/sを、厚肉成形品の製品ゲート部の断面積をSgmm^(2) 、製品部の体積をVpmm^(3 )としてvg×Sg/Vp≧10を満たすよう金型のキャビティに射出し、 製品部で最終の凝固部となる最大肉厚部に対して最大肉厚部に引け巣が生じるのを抑制するため該最大肉厚部が凝固するまで圧力を付加する半溶融射出成形方法。」(以下、「刊行物発明」という) 5 対比 (1)刊行物発明における「マグネシウム合金等の金属材料」及び「金型」は、本願発明における「合金」及び「モールド」に相当する。 また、刊行物発明の半溶融射出成形方法における各手順は、本願発明における「工程」に相当し、刊行物発明の「半溶融射出成形方法」は、本願発明における「射出成形プロセス」に相当する。 (2)刊行物発明における「固相率」は、本願発明における「固体含量」に相当し、刊行物発明における固相率の「40?80%」は、本願発明における固体含量の「60%?85%」と少なくとも「60?80%」の範囲において共通する。また、刊行物発明の「半溶融状態の溶湯」は、固相率(固体含量)が本願発明と同様であり、本願発明と同様に合金を材料としており、射出成形に用いられるものであるから、本願発明と同様に「半固体スラリー」であるといえる。 (3)刊行物発明における「溶湯が凝固して充填不良を生じないよう溶湯の製品ゲート速度vgmm/sを、厚肉成形品の製品ゲート部の断面積をSgmm^(2) 、製品部の体積をVpmm^(3 )としてvg×Sg/Vp≧10を満たすよう金型のキャビティに射出」する点について、溶湯の製品ゲート速度は、溶湯が凝固して充填不良を生じないようにするのであるから、刊行物発明の前記点は、本願発明における「モールドを実質的に充填するのに十分な速度で、モールド内に射出する」ことに相当する。 (4)刊行物発明における「製品部で最終の凝固部となる最大肉厚部に対して最大肉厚部に引け巣が生じるのを抑制するため該最大肉厚部が凝固するまで圧力を付加する」点について、最大肉厚部が凝固するまで行うのであるから、それ以前に溶湯が金型内に射出されていることは明らかである。また、圧力を付加している間の溶湯は凝固されていない状態、すなわち半固体状態にあり、圧力を付加することで、金型内のスラリ状の溶湯は、気泡等が減少して高密度化されることは明らかである。してみれば、刊行物発明の前記点は、本願発明における「スラリーが前記モールド内に射出された後に前記スラリーを高密度化する工程を含み、前記スラリーが、高密度化の間に半固体状態にある」ことに相当する。 (5)以上のことから、本願発明と刊行物発明とは、 「合金を加熱して60%?80%の範囲の固体含量を有する半固体スラリーを形成する工程と、 モールドを実質的に充填するのに十分な速度で、前記スラリーを前記モールド内へ射出する工程と、 前記スラリーが前記モールド内に射出された後に前記スラリーを高密度化する工程とを含み、前記スラリーが、高密度化の間に半固体状態にある射出成形プロセス。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点)本願発明は、スラリーが「乱流条件」でモールド内へ射出されるのに対して、刊行物発明では、乱流条件であるか否かは不明である点。 6 相違点についての判断 (1)刊行物の摘記事項(刊b)?(刊d)の記載からは、半溶融射出成形法では溶湯を層流で射出することが可能であるが、ゲート部の断面積が製品部の断面積に比べて0.1倍以下である場合や溶湯のゲート速度を80m/s以上とした場合には乱流になり易く、乱流になるとガスを巻き込み易くなるため内部品質がより一層低下するという不具合がある旨が読み取れる。 ここには、乱流を回避したいという技術思想が認められるものの、このような技術思想に至る過程として、半溶融射出成形法であっても、従来から行われている成形条件(ゲート速度やゲート形状等)で行うなどして、何らの回避策も施さない場合には、乱流となることが十分にあり得たという技術的背景の存在が窺われるものである。 そして、上記のように、乱流が発生した場合には、ガスを巻き込むことによる内部品質の低下という不具合が指摘されてはいるものの、コスト等の観点から高度の品質を要求しないこともよくあることであるから、内部品質の低下の程度と製品に要求される品質の程度によって、品質低下の問題は十分に許容され得るものであることは、当業者にとって明らかである。 この点について補足するに、刊行物の摘記事項(刊b)に記載されるように、ダイキャストでは、溶湯は乱流となってガスを巻き込んで成形されていたのであり、ダイキャストで製造された製品が、従来からごく普通に市場に流通していることを考えれば、乱流の発生は製品の致命的な欠陥とはならないことは明らかであって、十分に許容可能なものといえる。 してみれば、刊行物には、乱流を回避したいという技術思想の開示があるとはいえ、好ましい態様のひとつとして開示されているに過ぎず、乱流条件での射出を行うことも、刊行物発明を実施する際の一態様として当業者が適宜なし得る事項の範疇のことである。 (2)また、刊行物の摘記事項(刊e)の記載からは、ゲート速度が小さいと、溶湯が凝固して充填不良が生じる旨が読み取れる。 ここで、充填不良が生じた場合には、金型全体に溶湯が行き渡らない結果、所望形状の一部が欠ける等の致命的な欠陥が生じ、製品として明らかに許容不能なものとなる可能性があるのであるから、ゲート速度を上げることで充填不良を生じさせないようにすることは、当業者が十分に想定することである。 そして、ゲート速度を上げた結果として、乱流が発生することはあり得るとしても、結果として生じる内部品質の低下は、上記(1)で述べたように十分に許容される得るものであるから、刊行物発明において、ゲート速度を上げて、すなわち乱流条件で射出を行うことは、当業者が適宜なし得る事項の範疇のことである。 (3)なお、本願発明が乱流条件で射出を行う点について、本願明細書では「好ましくは、スラリーの射出は、乱流ではない条件下で射出されるが、乱流条件も容認することができる。」(【0010】)旨の記載があるなど、好ましいのは層流であって、乱流条件は次善の策として容認可能とされているに過ぎない。さらに、本願明細書のその余の記載を参照しても、乱流条件とすることによって層流条件では得られなかった異質な効果や格別優れた効果を奏することも読み取れないので、作用・効果の観点からいわゆる進歩性を推認することもできない。 (4)したがって、本願の請求項1に係る発明は、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規程により、特許を受けることができない。 7 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規程により特許を受けることができないものであるから、本願の請求項2?12に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-11-11 |
結審通知日 | 2010-11-15 |
審決日 | 2010-11-29 |
出願番号 | 特願2004-512953(P2004-512953) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B22D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 日比野 隆治 |
特許庁審判長 |
寺本 光生 |
特許庁審判官 |
筑波 茂樹 加藤 友也 |
発明の名称 | 半固体合金の射出成形プロセス |
代理人 | 岡部 正夫 |
代理人 | 臼井 伸一 |
代理人 | 藤野 育男 |
代理人 | 加藤 伸晃 |
代理人 | 高梨 憲通 |
代理人 | 越智 隆夫 |