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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60L
管理番号 1235196
審判番号 不服2009-16441  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-07 
確定日 2011-04-11 
事件の表示 特願2007-201069「回生エネルギ量報知装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 2月19日出願公開,特開2009- 38900〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,平成19年8月1日の出願であって,平成21年5月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成21年9月7日に拒絶査定不服審判が請求されると共に,同日付けで手続補正書が提出されたものである。



2.平成21年9月7日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

本件補正を却下する。


[理由]

(1)補正後の本願の発明

本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「モータジェネレータと二次電池とを備え,前記モータジェネレータは,駆動輪に連動して従動回転して発電する回生状態と前記駆動輪を駆動回転する駆動状態とに設定可能であり,前記二次電池は,前記モータジェネレータが生起した電力を蓄電するとともに,前記モータジェネレータに電力を供給する車両に設けられる回生エネルギ量報知装置であって,
前記モータジェネレータの発電量を検知する発電量検知手段と,
前記モータジェネレータが前記回生状態に移行した後,該回生状態から非回生状態に移行するまでの間,前記発電量検知手段が検知する発電量を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されている発電量に基づいて,前記モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出し,且つ前記モータジェネレータが非回生状態に移行したときに,前記回生充電量記憶領域に記憶された発電量をクリアする回生エネルギ量算出手段と,
前記回生充電量記憶領域に記憶された発電量がクリアされてから次にクリアされるまでの期間に前記回生エネルギ量算出手段により算出された回生エネルギ量を,当該期間内のみ運転者に報知する報知手段と,を備えた
ことを特徴とする回生エネルギ量報知装置。」と補正された。

上記補正は,実質的に補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「報知手段」について「回生充電量記憶領域に記憶された発電量がクリアされてから次にクリアされるまでの期間に回生エネルギ量算出手段により算出された回生エネルギ量を,当該期間内のみ」報知するという限定を付加する補正であるので,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(2)引用例

(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2003-219502号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,燃料電池及び充放電を行うエネルギーストレージを電源とする電動機を動力源として備える燃料電池車両において,その電力運転状況を把握する技術に関する。」

・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・この発明では,燃料電池及び充放電を行うエネルギーストレージを電源とする電動機を動力源として備える燃料電池車両において,燃料電池やエネルギーストレージを常に監視して,上記エネルギーマネジメントを容易に把握することができる燃料電池車両の表示装置を提供するものである。」

・「【0011】モータ10は,車両加速時,燃料電池2からの電力(A1)及びキャパシタ5からの電力(B1)とを加算した電力(図中矢印C1で示す)をインバータ回路6を介して供給されて回転駆動力を発生し,このモータ10に連結された図示しない車両駆動軸を駆動させるものである。また,モータ10は,減速回生時,前記車両駆動軸により図示しない回転軸が回転して回生電力を出力する。その回生電力(図中矢印C2で示す)は,インバータ回路6を介してキャパシタ5に充電される。尚,キャパシタ5に充電される電力を図中矢印B2で示し,補機3等に供給される電力を図中矢印A2で示す。
【0012】ECU15は,燃料電池車両のシステム全体及び各要素部品の運転を制御するものであり,図示しないアクセル等からの出力要求に従い,経路c1を介してインバータ回路6に制御信号を出力している。ECU15には,燃料電池2から発電される電力の電流及び電圧情報が経路a1を介して入力され,キャパシタ5から充放電される電力の電流及び電圧情報が経路b1を介して入力されている。そして,このECU15は,経路d1を介して,主にモータ10の出力,燃料電池2の発電電力,キャパシタ5の充放電電力の表示情報をメータ装置20に出力している。」

・「【0015】モータ出力計25は,0点を基準として,右回りにモータ10の駆動出力を表示する出力表示部25Aと,左回りにモータ10の回生電力を表示する回生電力表示部25Bとを備えている。尚,前記0点は,モータ出力計25の下部よりに配置されている。ここで,出力表示部25Aは,モータ10の駆動出力の内,燃料電池2の電力による出力を例えば青,キャパシタ5の電力による出力を例えば黄のように色分けして表示できるように構成されている。また,回生電力表示部25Bは,モータ10の回生電力を例えば橙で表示するように構成されている。
【0016】キャパシタ容量計26は,左側(モータ出力計25側)から右側に向かって延びる棒グラフ状の表示でキャパシタ5の残容量を表示する。ここで,キャパシタ容量計26は,キャパシタ5の残容量を,例えば黄(出力表示部25Aのキャパシタ5の出力表示と同色)と橙(回生電力表示部25Bの回生電力表示と同色)とのように色分けして表示できるように構成されている。」

・「【0022】上記定速運転状態から,ドライバがアクセル等の操作を解除すると,燃料電池2からのモータ10への電力供給が停止し,モータ10の回転抵抗によって車両駆動軸に制動力が加わり,車両が減速を始める。このような車両減速時に,ECU15の判断によって前述した減速回生時となる。減速回生時には,メータ装置20はECU15から入力される表示情報に基づき,図3に示すように,モータ出力計25の回生電力表示部25Bにモータ10の回生電力を,例えば橙のように,出力表示部25Aの表示色と色分けして表示する。尚,出力表示部25Aに例えば青で表示される出力は,燃料電池2から補機3等に供給される電力(図1における矢印A2)である。
【0023】また,キャパシタ容量計26をモータ出力計25と連動させ,インバータ回路6を介してキャパシタ5に充電された電力相当量を残容量表示に増加させて表示する。この増加分の表示は,例えば橙のように,キャパシタ容量計26の残容量表示と色分けして区分表示される。」

・「【0025】上記回生充電が完了すると,キャパシタ容量計26の残容量表示は,その増加分も含めて全て同色(例えば黄)で表示され,残容量が規定範囲内に保たれる。」

・「【0027】また,減速回生時,メータ装置20の回生電力表示部25Bに表示される回生電力が,出力表示部25Aの出力表示と異なる色で表示されると共に,キャパシタ容量計26の残容量表示が,回生電力表示と連動して,回生時の残容量増加分の表示をキャパシタ5の残容量表示と色分けして区分表示するため,キャパシタ5の充電状況と,充電によるキャパシタ5の残容量の変化とをドライバが一目で容易に把握することができる。更に,キャパシタ充放電表示灯27が,回生電力表示と同色の矢印及び文字表示によってキャパシタ5の充電状況を表示するため,ドライバはキャパシタ5の充電状況を容易に認識することができる。」

・上記【0012】の「ECU15には・・・キャパシタ5から充放電される電力の電流及び電圧情報が経路b1を介して入力されている。そして,このECU15は,経路d1を介して,主にモータ10の出力,燃料電池2の発電電力,キャパシタ5の充放電電力の表示情報をメータ装置20に出力している。」という記載,上記【0022】の「減速回生時には,メータ装置20はECU15から入力される表示情報に基づき,図3に示すように,モータ出力計25の回生電力表示部25Bにモータ10の回生電力を,例えば橙のように,出力表示部25Aの表示色と色分けして表示する。」という記載,及び,上記【0023】の「また,キャパシタ容量計26をモータ出力計25と連動させ,インバータ回路6を介してキャパシタ5に充電された電力相当量を残容量表示に増加させて表示する。」という記載より,引用例1に記載された発明は,当然キャパシタ5に充電される電力の電流及び電圧を検出する手段と,減速回生時には,当該検出する手段が検出するキャパシタ5に充電される電力の電流及び電圧に基づいてキャパシタ5に充電された電力相当量を算出する手段とを備え,上記キャパシタ容量計26に表示されるキャパシタ5に充電された電力相当量は,当該キャパシタ5に充電された電力相当量を算出する手段により算出されたものと認められる。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例1には,次の事項からなる発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「モータ10とキャパシタ5とを備え,前記モータ10は,減速回生時,連結された車両駆動軸により回転軸が回転して回生電力を出力し,車両加速時,回転駆動力を発生して,車両駆動軸を駆動させるものであり,前記キャパシタ5は,前記モータ10が出力した回生電力を充電するとともに,前記モータ10に電力を供給する燃料電池車両の表示装置であって,
前記キャパシタ5に充電される電力の電流及び電圧を検出する手段と,
減速回生時には,前記検出する手段が検出するキャパシタ5に充電される電力の電流及び電圧に基づいてキャパシタ5に充電された電力相当量を算出する手段と,
減速回生時となると,回生充電が完了するまで,前記モータ出力計と連動してキャパシタ5に充電された電力相当量を増加させてキャパシタ容量計26に表示し,この増加分の表示を,例えば橙のように,キャパシタ容量計26の残容量表示と色分けして区分表示し,且つ回生充電が完了したときに,前記キャパシタ容量計26の残容量表示を,その増加分も含めて全て同色(例えば黄)で表示して,キャパシタ5に充電された電力相当量を算出する手段により算出された前記キャパシタ5に充電された電力相当量を,ドライバに表示するキャパシタ容量計26と,を備えた表示装置。」

(2-2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された,特開平7-39004号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,電気自動車用走行電池残存容量計に関する。」

・「【0005】・・・例えば図8は,このようなバッテリの残存容量を算出する手順の一例を示すフローチャートである。なお,ここでは,電池の容量をAh(=アンペア時)単位とする。」

・「【0008】このようにして充電が行なわれ,車両の走行即ち駆動モータの作動が開始されると,ステップS20からステップS50へ進んて,力行中であるか否かが判断される。この力行中とは,車両の駆動モータが電気エネルギを消費しながら作動している状態のことであり,一般には車両が駆動力を路面に伝達して走行している場合をいう。
【0009】この力行中では,バッテリの電気エネルギが消費されるので,これに応じて主バッテリの残存容量Qが減算されていく(ステップS60)。即ち,この際の放電電流を計測してこれを積算しながら残存容量Qを減算していくのである。一方,力行中でない場合とは,回生ブレーキ状態に相当し,この回生ブレーキとは,エンジンブレーキのことである。この回生ブレーキ状態では,車両が路面から逆に駆動力を受けて,駆動モータが発電作用をしながらこの発電電力が主バッテリに蓄えられる。したがって,力行中でない場合には,ステップS60で,回生に応じて主バッテリの残存容量Qが加算されていく。即ち,充電電流を計測してこれを積算しながら残存容量Qを加算していくのである。
【0010】このようにして,各ステップS40,S60,S70で,残存容量Qが算出されると,算出された残存容量Qが表示データとして出力される(ステップS80)。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例2には,次の技術(以下「引用例2記載の技術」という。)が記載されているものと認められる。

「駆動モータが回生ブレーキ状態に移行した後,該回生ブレーキ状態から力行中に移行するまでの間,充電電流を計測する手段が計測する充電電流を積算する手段と,
前記充電電流を積算する手段により積算された充電電流をさらに残存容量に加算して表示する手段と,を備えた
電気自動車用走行電池残存容量計」


(3)対比
そこで,本願補正発明と引用発明とを比較すると,その機能・作用からみて,後者における「モータ10」は前者の「モータジェネレータ」に相当し,以下同様に,「キャパシタ5」は「二次電池」に,「モータ10は,減速回生時,連結された車両駆動軸により回転軸が回転して回生電力を出力し,車両加速時,回転駆動力を発生して,車両駆動軸を駆動させるものであり」という態様は「モータジェネレータは,駆動輪に連動して従動回転して発電する回生状態と前記駆動輪を駆動回転する駆動状態とに設定可能であり」という態様に,「モータ10が出力した回生電力を充電する」という態様は「モータジェネレータが生起した電力を蓄電する」という態様に,「燃料電池車両」は「車両」に,それぞれ相当する。

また,後者における「キャパシタ5に充電される電力の電流及び電圧を検出する手段」は前者の「モータジェネレータの発電量を検知する発電量検知手段」に相当し,以下同様に,「減速回生時」は「モータジェネレータが回生状態に移行した後,該回生状態から非回生状態に移行するまでの間」に,「キャパシタ5に充電された電力相当量」は「回生エネルギ量」に,それぞれ相当するので,後者における「減速回生時には,検出する手段が検出するキャパシタ5に充電される電力の電流及び電圧に基づいてキャパシタ5に充電された電力相当量を算出する手段」と前者の「モータジェネレータが回生状態に移行した後,該回生状態から非回生状態に移行するまでの間,発電量検知手段が検知する発電量を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されている発電量に基づいて,前記モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出し,且つ前記モータジェネレータが非回生状態に移行したときに,前記回生充電量記憶領域に記憶された発電量をクリアする回生エネルギ量算出手段」とは,「モータジェネレータが回生状態に移行した後,該回生状態から非回生状態に移行するまでの間,発電量検知手段が検知する発電量に基づいて回生エネルギ量を算出する手段」という概念で共通する。

次に,引用発明は,回生充電が完了したときに,キャパシタ5に充電された電力相当量による増加分を示す橙色の表示を消去しているので,引用発明における「キャパシタ容量計26」は,当然回生充電が完了してから次に完了するまでの期間にキャパシタ5に充電された電力相当量を算出する手段により算出されたキャパシタ5に充電された電力相当量を,当該期間内のみドライバに表示していると認められる。
そして,引用発明における「回生充電が完了する」は本願補正発明の「回生状態から非回生状態に移行する」に相当し,以下同様に,「ドライバ」は「運転者」に,「表示する」という態様は「報知する」という態様に,それぞれ相当する。
さらに,本願補正発明は「モータジェネレータが非回生状態に移行したときに,回生充電量記憶領域に記憶された発電量をクリア」しているので,「回生充電量記憶領域に記憶された発電量がクリアされてから次にクリアされるまでの期間」は「モータジェネレータが非回生状態に移行してから次に前記モータジェネレータが非回生状態に移行するまでの期間」ということができるから,引用発明における「減速回生時となると,回生充電が完了するまで,モータ出力計と連動してキャパシタ5に充電された電力相当量を増加させてキャパシタ容量計26に表示し,この増加分の表示を,例えば橙のように,キャパシタ容量計26の残容量表示と色分けして区分表示し,且つ回生充電が完了したときに,前記キャパシタ容量計26の残容量表示を,その増加分も含めて全て同色(例えば黄)で表示して,キャパシタ5に充電された電力相当量を算出する手段により算出された前記キャパシタ5に充電された電力相当量を,ドライバに表示するキャパシタ容量計26」と本願補正発明の「回生充電量記憶領域に記憶された発電量がクリアされてから次にクリアされるまでの期間に回生エネルギ量算出手段により算出された回生エネルギ量を,当該期間内のみ運転者に報知する報知手段」とは,「モータジェネレータが非回生状態に移行してから次に前記モータジェネレータが非回生状態に移行するまでの期間に回生エネルギ量を算出する手段により算出された回生エネルギ量を,当該期間内のみ運転者に報知する手段」という概念で共通する。
また,引用発明における「表示装置」は,キャパシタ5に充電された電力相当量を,ドライバに表示するキャパシタ容量計26を備えているので,本願発明の「回生エネルギ量報知装置」に相当する。

したがって,本願補正発明と引用発明とは,

「モータジェネレータと二次電池とを備え,前記モータジェネレータは,駆動輪に連動して従動回転して発電する回生状態と前記駆動輪を駆動回転する駆動状態とに設定可能であり,前記二次電池は,前記モータジェネレータが生起した電力を蓄電するとともに,前記モータジェネレータに電力を供給する車両に設けられる回生エネルギ量報知装置であって,
前記モータジェネレータの発電量を検知する発電量検知手段と,
前記モータジェネレータが前記回生状態に移行した後,該回生状態から非回生状態に移行するまでの間,前記発電量検知手段が検知する発電量に基づいて回生エネルギ量を算出する手段と,
前記モータジェネレータが非回生状態に移行してから次に前記モータジェネレータが非回生状態に移行するまでの期間に前記回生エネルギ量を算出する手段により算出された回生エネルギ量を,当該期間内のみ運転者に報知する手段と,を備えた回生エネルギ量報知装置。」

の点で一致し,以下の点で相違している。


[相違点1]
回生エネルギ量を算出する手段に関して,本願補正発明は,「発電量検知手段が検知する発電量を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されている発電量に基づいて,モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出し,且つ前記モータジェネレータが非回生状態に移行したときに,前記回生充電量記憶領域に記憶された発電量をクリアする」ものと特定しているのに対し,引用発明は,発電量検知手段が検知する発電量に基づいてはいるが,具体的にどのように算出するのかは特定されていない点。

[相違点2]
回生エネルギ量を運転者に報知する手段に関して,本願補正発明は,「回生充電量記憶領域に記憶された発電量がクリアされてから次にクリアされるまでの期間」に回生エネルギ量算出手段により算出された回生エネルギ量を当該期間内のみ報知する「報知手段」であるのに対し,引用発明は,「回生充電が完了するまで」回生エネルギ量を算出する手段により算出された回生エネルギ量を報知し,「回生充電が完了したときに」当該回生エネルギ量の報知を消去する「キャパシタ容量計」である点。

(4)判断

上記相違点1及び相違点2について,以下検討する。

前述のように,引用例2には,「駆動モータが回生ブレーキ状態に移行した後,該回生ブレーキ状態から力行中に移行するまでの間,充電電流を計測する手段が計測する充電電流を積算する手段と,前記充電電流を積算する手段により積算された充電電流をさらに残存容量に加算して表示する手段と,を備えた電気自動車用走行電池残存容量計」とする引用例2記載の技術が記載されている。
ここで,引用例2記載の技術において「積算された充電電流をさらに残存容量に加算して表示する」ことにより,「走行電池残存容量」が表示できるので,当該「積算された充電電流」とは,本願補正発明の「モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量」に相当する。
また,積算する手段とは,一般的に計測したパラメータを記憶領域に積算して記憶させており(例えば,特開2000-278801号公報の【0015】-【0016】参照),当然引用例2記載の技術も充電電流を計測する手段が計測する充電電流を記憶領域に積算して記憶しているものと認められる。
よって,引用例2記載の技術は,回生エネルギ量を算出するために必要なパラメータ(充電電流)を検知する手段が検知するパラメータ(充電電流)を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されているパラメータ(積算された充電電流)をモータジェネレータによって生起された回生エネルギ量とする手段であるといえる。
さらに,本願補正発明の「発電量検知手段が検知する発電量を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されている発電量に基づいて,前記モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出し」に関し,本願明細書の【0028】-【0029】及び図2には,回生充電量記憶領域に記憶されている積算された発電量をそのまま回生エネルギ量とする例が記載されており,他に回生エネルギ量を算出する手段の例が記載されていないため,上記「発電量検知手段が検知する発電量を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されている発電量に基づいて,前記モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出し」とは,発電量検知手段が検知する発電量を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されている(積算された)発電量をモータジェネレータによって生起された回生エネルギ量とするものを,少なくとも含むと認められるので,上記引用例2記載の技術も,本願補正発明における「回生充電量記憶領域に記憶されている発電量(積算された充電電流)に基づいて,モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量(積算された充電電流)を算出する手段」を備えたものであるといえる。
そして,ジェネレータの発電量を積算して,発生したエネルギ量を算出することは,技術常識(必要ならば,特開2003-2089号公報(特に,【0017】及び図3)参照)であって,引用発明における回生エネルギ量を算出する手段(キャパシタ5に充電された電力相当量を算出する手段)に,上記「回生エネルギ量を算出するために必要なパラメータを検知する手段が検知するパラメータを回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されているパラメータに基づいて,前記モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出する手段」を適用して,「発電量検知手段が検知する発電量を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されている発電量に基づいて,前記モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出」するものとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

また,引用発明においてもモータジェネレータが非回生状態に移行したときに,「キャパシタ容量計」による回生エネルギ量の報知を消去しており,次回のモータジェネレータが回生状態に移行したときに再び回生エネルギ量を0から増加させて報知するものであるので,当該引用発明に引用例2記載の技術の「モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出するために必要なパラメータを検知する手段が検知するパラメータを回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されているパラメータに基づいて,前記モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出する回生エネルギ量算出手段」を適用する際に,モータジェネレータが非回生状態に移行してから,次にモータジェネレータが回生状態に移行するまでの間に,回生充電量記憶領域に記憶されている値をクリアしなければならないことは自明であり,その中で,モータジェネレータが非回生状態に移行したときに回生充電量記憶領域に記憶されている値をクリアすることを選択すると,それによって算出された回生エネルギ量もクリアされ,その結果回生エネルギ量の報知も消去されることも当業者にとって自明な事項である。
ゆえに,前記回生エネルギ量算出手段を「モータジェネレータが非回生状態に移行したときに,回生充電量記憶領域に記憶された発電量をクリアする」ものとすることは,当業者にとって容易になし得ることであり,その結果引用発明の「モータジェネレータが非回生状態に移行してから次にモータジェネレータが非回生状態に移行するまでの期間」は,必然的に「回生充電量記憶領域に記憶された発電量がクリアされてから次にクリアされるまでの期間」となり,引用発明の「キャパシタ容量計」は,その機能からみて,実質的に本願補正発明の「報知手段」に相当することとなる。

よって,引用発明において,引用例2記載の技術を適用することにより,相違点1及び相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。


そして,本願補正発明の全体構成によって奏される効果は,引用発明及び引用例2記載の技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。


したがって,本願補正発明は,引用発明及び引用例2記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


(5)むすび

以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



3.本願の発明について

本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成20年10月8日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載によれば,以下のとおりのものと認められる。

「モータジェネレータと二次電池とを備え,前記モータジェネレータは,駆動輪に連動して従動回転して発電する回生状態と前記駆動輪を駆動回転する駆動状態とに設定可能であり,前記二次電池は,前記モータジェネレータが生起した電力を蓄電するとともに,前記モータジェネレータに電力を供給する車両に設けられる回生エネルギ量報知装置であって,
前記モータジェネレータの発電量を検知する発電量検知手段と,
前記モータジェネレータが前記回生状態に移行した後,該回生状態から非回生状態に移行するまでの間,前記発電量検知手段が検知する発電量を回生充電量記憶領域に積算して記憶し,該回生充電量記憶領域に記憶されている発電量に基づいて,前記モータジェネレータによって生起された回生エネルギ量を算出し,且つ前記モータジェネレータが非回生状態に移行したときに,前記回生充電量記憶領域に記憶された発電量をクリアする回生エネルギ量算出手段と,
前記回生エネルギ量算出手段が算出した回生エネルギ量を運転者に報知する報知手段と,を備えた
ことを特徴とする回生エネルギ量報知装置。」


(1)引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及び,その記載事項は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。


(2)対比・判断

本願発明は,実質的に前記「2.(1)」で検討した本願補正発明から「報知手段」についての,「回生充電量記憶領域に記憶された発電量がクリアされてから次にクリアされるまでの期間に回生エネルギ量算出手段により算出された回生エネルギ量を,当該期間内のみ」報知する,との限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに一部の構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が,前記「2.(4)」に記載したとおり,引用発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


(3)むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び引用例2記載の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-31 
結審通知日 2011-02-04 
審決日 2011-02-25 
出願番号 特願2007-201069(P2007-201069)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B60L)
P 1 8・ 121- Z (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力相羽 昌孝片岡 弘之  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 槙原 進
倉橋 紀夫
発明の名称 回生エネルギ量報知装置  
代理人 米山 尚志  

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