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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04C
管理番号 1235198
審判番号 不服2009-19280  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-08 
確定日 2011-04-11 
事件の表示 特願2004- 20393「耐摩耗性、耐焼付き性に優れたコンプレッサ用ベーン」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日出願公開、特開2005-214050〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年1月28日の出願であって、平成21年9月14日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲および明細書についての補正がなされたものである。

2.平成21年10月8日付の手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「摺動部にTi,CrおよびAlの1種以上を主体とした窒化物、酸窒化物、炭窒化物、酸炭窒化物のいずれかのコーティング層を有する鋼製ベーンであって、該コーティングのされるベーン素材が、質量%でC:0.3?0.68%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Cr:4?14.5%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ53?60HRCの硬さに調質されていることを特徴とする耐摩耗性、耐焼付き性に優れたコンプレッサ用ベーン。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「C」の「質量%」について「0.3%?0.9%」を「0.3%?0.68%」と限定するとともに、同じく「Cr」の「質量%」について「4?15%」を「4?14.5%」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用文献
(2-1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-136784号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
・「【0013】本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、摺動面において摩耗や凝着が生じにくいロータリーコンプレッサー用ベーンを提供することを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明者らはロータリーコンプレッサー用ベーンについて検討を重ねた結果、本体を硬質基材とし、本体の摺動面に(002)配向したCr_(2)N構造を有する皮膜を被覆することで上記課題を解決できることを見出した。
【0015】すなわち、本発明のロータリーコンプレッサー用ベーンは、作動空間を形成するシリンダとシリンダの作動空間内に配置されて回転するロータとの一方に摺動自在に保持され他方の摺動面と当接摺動する摺動端部をもつ板状のロータリーコンプレッサー用ベーンであって、Hvが400以上のFe系合金からなる本体とこの本体の少なくとも摺動端部の表面部に一体的に形成された(002)配向したCr_(2)N構造を有し、Cr、NおよびCから構成されている被膜とからなることを特徴とする。」
・「【0037】(実施例1)本実施例は、表面に(002)配向したCr_(2)N被膜を有するロータリーコンプレッサー用ベーンである。すなわち、長方形状の平板のうち一辺になめらかなR形状を有する摺動端部が形成された本体部1と、この本体部1の表面に形成された(002)配向したCr_(2)N被膜2と、から構成される。ここで、本体部1は、0.98wt%のCと、0.3wt%のSiと、0.4wt%のMnと、16.4wt%のCrと、残部がFeとから構成されたFe系合金により形成され、かつ合金の硬度がHv(1.0)で550であった。また、(002)配向したCr_(2)N被膜2の厚さは、8μmであった。さらに、摺動面の表面粗さは、Rz0.7μmであった。ここで、このロータリーコンプレッサー用ベーンの摺動端部の断面を図7に示した。」
・「【0039】詳しくは、Fe系合金を本体部の概略形状に引き抜いた後に、所定の寸法に切削加工した後に580℃、4時間の軟窒化処理を施した。その後、この本体部に流動層炉反応を行った。この反応条件としては、反応温度が1000℃、処理時間が1時間、処理剤が粒度♯100?150のCr粉および粒度♯80のアルミナ粉、反応促進剤のNH_(4)Clを供給量が8g/hrで、攪拌用アルゴンガスが流量4L/min・cm^(2)であった。
【0040】なお、流動層炉反応は、1000℃でアルゴンガスによって処理剤粉末が流動している流動層炉中に、軟窒化処理を施したFe系合金ベーンを投入し、1時間後、この流動層炉から取り出し、窒素ガス中で冷却することで本実施例のベーンが得られた。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「摺動面に(002)配向したCr_(2)N被膜2を有するFe系合金からなるロータリーコンプレッサー用ベーンであって、該被膜2を有するロータリーコンプレッサー用ベーンの本体部1は、0.98wt%のCと、0.3wt%のSiと、0.4wt%のMnと、16.4wt%のCrと、残部がFeとから構成されたFe系合金により形成され、かつ合金の硬度がHv(1.0)で400以上であり1例として550に調質されている、摺動面において摩耗や凝着が生じにくいロータリーコンプレッサ用ベーン。」

(2-2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-247768号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
・「【0012】本願の第1発明は、重量比で、C:0.40?1.5%、Si:1.2%以下、Mn:1.5%以下、Cr:10?22%、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とするパワーステアリング装置用ベーンであり、」
・「【0014】Cは、焼入れ性および焼戻し硬さを維持し、またCrやW,Mo,V等の炭化物形成元素と結合し、結晶粒の微細化と耐摩耗性を与えるために添加する。上記の効果を得るためにCは最低0.4%必要であるが、過度の含有はベーン用素材の冷間加工性の低下および粗大炭化物の析出を招き、靭性および研削性を低下させるので1.5%以下に限定する。Cの望ましい範囲は0.44?1.35%である。」
・「【0017】Crは、Cと結合して炭化物を形成して、ベーンの耐摩耗性の向上および焼入れ性の向上の効果を有する。この炭化物はMC型等に比し、比較的に軟質であり、相手材への攻撃性は低い。上記効果を得るためには10%以上の添加が必要であるが、22%を越えて添加すると、ベーン用素材の冷間加工性を極端に低下させる。そのため、Crの添加量は10?22%とする。望ましくは、12.0?15.0%である。」
・「【0020】……ベーンの硬さは、ベーン自身の耐摩耗性に大きく影響を与える。本発明に係る成分系のベーンにおいて、HRC50を越え、または53を越える硬さとすることにより、従来材に比し、遜色のない程度またはやや劣るが、ベーンとしての耐摩耗性には十分な値とし得ることがわかった。望ましくは、HRC53超、さらに望ましくはHRC55以上とするとよい(この場合も相手材との攻撃性はさして増加しない)。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「摺動面」は、その機能・作用からみて、前者の「摺動部」に相当し、以下同様に「(002)配向したCr_(2)N被膜2」は、「Ti,CrおよびAlの1種以上を主体とした窒化物、酸窒化物、炭窒化物、酸炭窒化物のいずれかのコーティング層」に、「Fe系合金からなるロータリーコンプレッサー用ベーン」は、「鋼製ベーン」に、「被膜2を有する」態様は、「コーティングのされる」態様に、「ロータリーコンプレッサー用ベーンの本体部1」は「ベーン素材」に、それぞれ相当する。
また、後者の「wt%」は前者の「質量%」に相当し、同じ数値で示されるパラメータであるので、後者の「0.98wt%のC」と前者の「質量%でC:0.3?0.9%」と、は「質量%でC:0.98%以下の所定範囲の値」との概念で共通し、後者の「0.3wt%のSi」は、前者の「Si:1.5%以下」に、後者の「0.4wt%のMn」は、前者の「Mn:1.5%以下」に、それぞれ相当し、後者の「16.4wt%のCr」と前者の「Cr:4?15%」とは、「質量%でCr:16.4%以下の所定の範囲の値」との概念で共通する。
そして、後者の「残部がFeとから構成されたFe系合金より形成され」る態様は、前者の「残部Feおよび不可避的不純物からな」る態様に相当する。
さらに、後者の「Hv(1.0)で400以上であり1例として550」の硬度は、「HRC」に換算すると「約41以上であり、1例として約52」となり、上限は特定されていないので、後者の「硬度がHv(1.0)で400以上であり1例として550」と、前者の「53?60HRCの硬さ」とは、「53?60HRCの硬さ」において共通する。
また、後者の「摺動面において摩耗や凝着が生じにくい」態様は、前者の「耐摩耗性、耐焼付き性に優れた」態様に、後者の「ロータリーコンプレッサー用ベーン」は、前者の「コンプレッサ用ベーン」に、それぞれ相当する。

したがって両者は、
[一致点]
「摺動部にTi,CrおよびAlの1種以上を主体とした窒化物、酸窒化物、炭窒化物、酸炭窒化物のいずれかのコーティング層を有する鋼製ベーンであって、該コーティングのされるベーン素材が、質量%でC:0.98%以下の所定範囲の値、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Cr:16.4%以下の所定の範囲の値、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ53?60HRCの硬さに調質されている耐摩耗性、耐焼付き性に優れたコンプレッサ用ベーン。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
ベーン素材のCの質量%である「0.98%以下の所定範囲の値」に関して、本件補正発明では、「0.3?0.68%」であるのに対して、引用発明では、「0.98wt%」である点。
[相違点2]
ベーン素材のCrの質量%である「16.4%以下の所定の範囲の値」に関して、本件補正発明では、「4?15%」であるのに対して、引用発明では、「16.4wt%」である点。
[相違点3]
ベーン素材の硬さの範囲に関して、本件補正発明では、「53?60HRC」であるのに対し、引用発明では、「Hv(1.0)で400以上であり1例として550」すなわちHRC換算で約41以上であり、上限が特定されていない点。

(4)相違点に対する判断
相違点1?3について
ベーン素材を構成するCの重量比(引用発明のwt%すなわち質量%に相当)を、焼入れ性および焼戻し硬さを維持し、またCrやW,Mo,V等の炭化物形成元素と結合し、結晶粒の微細化と耐摩耗性を与えるために「0.44?1.35%」添加すること、および、Cと結合して炭化物を形成して、ベーンの耐摩耗性の向上および焼入れ性の向上の効果を得るために、ベーン素材のCrの重量比(引用発明のwt%すなわち質量%に相当)を「12.0?15.0%」とすること、さらに、ベーン自身の耐摩耗性に大きく影響を与えるベーンの硬さは「HRC53超」とすることが引用文献2に記載されている。
そして、引用文献2の【0017】に「この炭化物はMC型等に比し、比較的に軟質であり、相手材への攻撃性は低い。」と記載されていることからベーン素材の硬度は硬すぎることを避けるべきことが示唆されているといえる。
また、本願明細書を見ても、数値範囲の臨界的意義は認められない。
そうすると、引用発明において、ベーン素材に関する点で共通する引用文献2に記載された耐摩耗性や焼入れ性能の向上という課題の下に、相手材への攻撃性も考慮して、CおよびCrの質量%やベーン素材の硬さの範囲を選択することは、当業者が上記数値範囲を参照して最適な効果を得られるように適宜設計し得る事項と認められる。

また、本件補正発明の全体構成により奏される効果は、引用発明、および引用文献2に記載された発明から予測し得る程度のものと認められる。
したがって、本件補正発明は、引用発明、および引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
したがって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成21年3月27日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「摺動部にTi,CrおよびAlの1種以上を主体とした窒化物、酸窒化物、炭窒化物、酸炭窒化物のいずれかのコーティング層を有する鋼製ベーンであって、該コーティングのされるベーン素材が、質量%でC:0.3?0.9%、Si:1.5%以下、Mn:1.5%以下、Cr:4?15%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ53?60HRCの硬さに調質されていることを特徴とする耐摩耗性、耐焼付き性に優れたコンプレッサ用ベーン。」

(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記したとおりであって、前記「2.」で検討した本件補正発明から「ベーン素材」を構成する「C」の「質量%」について「0.3%?0.9%」を「0.3%?0.68%」とする限定、同じく「Cr」の「質量%」について「4?15%」を「4?14.5%」とする限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した際の相違点は、前記「2.(3)」での対比を踏まえれば、「C」の「質量%」および「Cr」の「質量%」について範囲が一部相違するものの、前記「2.(4)」での検討のとおり、その数値範囲は、適宜設計し得る事項と認められるものであるから、本願発明も、引用発明、および引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、および引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-17 
結審通知日 2011-02-18 
審決日 2011-03-01 
出願番号 特願2004-20393(P2004-20393)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F04C)
P 1 8・ 121- Z (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 大河原 裕
冨江 耕太郎
発明の名称 耐摩耗性、耐焼付き性に優れたコンプレッサ用ベーン  

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