• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1235200
審判番号 不服2009-21362  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-04 
確定日 2011-04-11 
事件の表示 特願2005-509543「複数の障壁層」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日国際公開、WO2005/035255、平成19年10月18日国内公表、特表2007-528803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、2003年9月17日を国際出願日とする出願であって、平成18年5月17日に翻訳文が提出されるとともに同日に手続補正がなされ、平成21年4月20日に手続補正がなされ、同年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月4日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

(2)本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成21年4月20日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「第1の表面を有する基板と、
前記第1の表面上に形成される流体吐出器と、
前記流体吐出器の周囲に形成される発射室を画定し、且つ該発射室上のノズルを画定するカバー層であって、前記カバー層が下塗層とノズル層とを有し、該下塗層が前記カバー層の厚みの50%未満の厚みを有して210℃において硬化する低粘度のSU8である、カバー層と
を備え、前記カバー層は少なくとも2つのSU8層によって形成される、流体吐出装置。」(以下「本願発明」という。)

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-314371号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】第1の表面および、半導体基板を貫き且つ複数の流体送り溝に結合された複数の流体送りスロットを有する第2の表面、を有する半導体基板を備えている流体ジェット印字ヘッドを構成する方法において、
遅い架橋結合材料の1層を前記半導体基板の前記第1の表面に施すステップ、オリフィスの像および流体井戸の像を遅い架橋結合材料の前記施された層に移すステップ、および遅い架橋結合材料の、前記移されたオリフィスの像が存在する前記層の一部を現像してそれぞれのオリフィス開口を設置し、前記移された流体井戸の像が存在する前記層の一部を現像してそれぞれの流体井戸開口を設置するステップ、を備えていることを特徴とする方法。
【請求項2】…略…。
【請求項3】前記遅い架橋結合材料を施すステップは更に、前記遅い架橋結合材料を写真作像可能エポキシおよび光学染料、写真作像可能エポキシおよび光学染料の混合物、および写真作像可能エポキシ、の明確な層から成る一群から選択するステップを備えていることを特徴とする請求項1に記載の方法。」

(2)「【0001】
【発明の背景】本発明は、一般に感熱式インクジェット印刷に関する。更に詳細に記せば、本発明は、エポキシ、ポリイミド、または他の負動作フォトレジスト材料から構成される精密なポリマ・オリフィスを直接作像技法を使用して製造する装置および方法に関する。
【0002】感熱式インクジェット・プリンタは通常、プリンタを通じて送られる紙または他の媒体の幅を横断して前後に移動する往復台に取付けられた印字ヘッドを備えている。印字ヘッドは、紙に向き合うオリフィス(ノズルともいう)の配列を備えている。インク(または他の流体)の詰まった溝がオリフィスに貯蔵器インク源からインクを供給する。扱い得るエネルギ消費要素(抵抗器のような)に個別に供給されるエネルギは、オリフィス内部のインクを加熱してインクを泡立たせ、インクをオリフィスから紙に向けて放出する。当業者は、エネルギをインクまたは流体に移す他の方法が存在し、やはり本発明の精神、範囲、および原理の範囲内に入ることを認識するであろう。インクが放出されるにつれて、泡は崩壊し、更に多量のインクが貯蔵容器から溝を満たし、インクの排出を反復させる。」

(3)「【0003】インクジェット印字ヘッドの現在の構成には、その製造、動作寿命、およびインクを紙に導く精度に関して問題がある。現在製作されている印字ヘッドは、基板を貫くインク送りスロット、障壁インターフェース(障壁インターフェースは、インクを抵抗器に伝え、発射室の容積を規定する。障壁インターフェースの材料は、基板上に積層され、露出され、現像され、養生される厚いフォトレジスト性材料である)、およびオリフィス板(オリフィス板は、障壁インターフェースにより形成された発射室の出口経路である。オリフィス板は通常、ニッケル(Ni)で電鋳されてから金(Au)、パラジウム(Pd)、または他の、耐蝕用貴金属で被覆される。オリフィス板の厚さおよびオリフィス開口の直径は、発射するとき反復可能なインク滴放出が可能なように調節されている。)を備えている。製造中、オリフィス板を障壁インターフェース材の付いた基板と整列させるには、特別な精度とそれに取付ける特別な接着剤が必要である。オリフィス板が反れば、または接着剤が正しくオリフィス板を障壁インターフェースに結合しなければ、インク滴の軌道の制御が不十分になり、印字ヘッドの歩留まりまたは寿命が減少する。印字ヘッドの整列が不正であるかまたはオリフィス板に小さい窪みがあれば(その平面度が一様でない)、インクはその正しい軌道から離れて放出され、印刷される画像品質が下がる。オリフィス板は、通常構成されている印字ヘッドでは別々の個片であるから、製造中反りまたは歪みを防止するのに必要な厚さのため、オリフィス穴の高さ(オリフィス板の厚さに関係する)を熱効率に必要な量より高くすることが必要になる。普通、単独オリフィス板は、多数の印字ヘッドを備えた半導体ウェーハ上の単独印字ヘッド・ダイに取付けられる。オリフィス板を半導体ウェーハ全体を横断してすべて一度に取付けて生産性を増大する他にオリフィス設置の精度を確保することができるようにする方法を得ることが望まれる。
【0004】発射室内部のインクは、オリフィス穴をオリフィス板の外縁まで一杯に詰まっている。したがって、オリフィス穴の中のインクの高さのこの増大に伴う他の問題は、インクを放出するのに必要なエネルギが増大するということである。他に、高品質写真印刷には、より高い解像度が、したがってより小さいインク滴が必要である。したがって、製造可能な、より薄いオリフィス板の必要性が存在する。更に、各滴で放出されるインクの量が小さくなるにつれて、一定の印刷速度で印刷媒体上を印字ヘッドを一度だけ通過させて所定パターンを作り出すには、印字ヘッド内に更に多数のオリフィスが必要である。印字ヘッドがオリフィス数の増大のため過熱することがないようにするには、オリフイスあたり使用するエネルギの量を減らさなければならない。
【0005】加えて、これまでは、印字ヘッドの寿命は適確であった。印字ヘッドは、インク供給品が使い尽くされてから取換えられる使い捨てペンの一部であった。しかし、品質に対するユーザの期待は、多年の耐久性ある低価格、長寿命の印字ヘッドを得る必要性に駆られており、本発明はこの期待を満たすのに役立つ。」

(4)「【0006】
【発明の概要】半導体基板に整形オリフィスを、作る方法および利用する装置を説明する。材料の第1の層が半導体基板に施され、次に材料の第2の層が材料の第1の層の上に施される。次にオリフィスの像が材料の第1の層に移され、流体井戸の像が材料の第2の層に移される。材料の第2の層の、オリフィスの像が設置される部分を次に材料の第1の層の、流体井戸が設置されている部分と共に現像されて基板にオリフィスを形成する。
【0007】オリフィス室の容積をオリフィス像の形状および材料の第2の層の厚さにより形成する。流体井戸室の容積を流体井戸像の形状および材料の第1の層厚さにより形成する。」

(5)「【0008】
【好適な実施例と他の選択枝の詳細な説明】本発明は、基板上に写真作像可能な層の多数材料のサンドイッチを作る、Niオリフィス板または障壁インターフェース材料を必要としない新奇なポリマ・オリフィス製作方法に関する。各写真作像可能な層は、所定エネルギ強度に対する色々な割合の架橋結合を備えている。他に、本発明は、シルクハット形内曲(内向き)輪郭オリフィス作る写真作像可能な層を使用する設計トポロジを包含している。シルクハット形オリフィスを、プロセス・パラメータを変えて滴放出特性を最適化することにより特別製作することができる。このシルクハット設計トポロジは、直壁または線形テーパ構造に比較して幾つかの長所を与える。シルクハット形内曲オリフィス室は、流体滴を放出するが、流体井戸室およびオリフィス室により容易に形成される。オリフィス内を見た、各室の面積および形状は、パターン化マスクまたはマスクの組を使用して形成される。マスクは、入口直径、出口直径、および発射室容積をオリフィス層の厚さまたは高さに基づいて制御することができる。オリフィス室の高さおよび流体井戸室の高さは、無関係に制御されて最適なプロセス安定性および設計寛容度を可能とする。オリフィスおよび流体井戸室の形状、面積、および高さを制御することにより、設計者は滴サイズ、滴形状を制御し、ブローバック(滴放出方向とは反対に膨張するインクを放出する泡の部分)の効果および或る程度再充填速度(インクをシルクハット形オリフィス構造全体に満たすのに必要な時間)を低下させることができる。他に、このシルクハット・トポロジは、流体をオリフィスに分配する流体送りスロットを流体を放出するのに使用されるエネルギ消費要素から更に離して設置し、泡が流体供給経路に入って閉塞を生ずる可能性を減らすことを可能とする。
【0009】直接作像ポリマ・オリフィスは通常、溶解割合のわずかに異なる負動作フォトレジスト材料の二つ以上の層を備えている。溶解割合は、異なる分子量、物理的組成、または光学濃度を有する各層の色々な材料に基づいている。2層を使用する例示方法では、架橋結合に500ミリジュール/cm^(2)の強度の電磁エネルギを必要とする「遅い」フォトレジストが基板に施される。流体ジェット印字ヘッドでは、この基板は、その表面に加えられた薄膜層の積み重ねを有していた半導体材料から構成されている。架橋結合に丁度100ミリジュール/cm^(2)の強度の電磁エネルギを必要とする「速い」フォトレジストが遅いフォトレジストの層の上に加えられる。硬化後、基板のフォトレジスト層をマスクを通して少なくとも500ミリジュール/cm^(2)の非常な高強度に露出して流体井戸室を形成する。強度は上層および下層の双方を架橋結合するのに十分な高さである。基板のフォトレジスト層を次に他のマスクを通して100ミリジュール/cm^(2)の低強度の電磁エネルギに露出し、オリフィス室を形成する。第2の露出強度が十分低いことは重要であり、したがってオリフィス開口の下にある遅いフォトレジストの下方オリフィス層は架橋結合しない。
【0010】ポリマ材料は、薄膜地形の全部を平面化するその能力についてIC業界では周知である。経験的データは、オリフィス板地形の変動を良く1ミクロン以内に維持できることを示している。この特徴は、一貫した滴軌道を与える上で重要である。
【0011】加えて、負動作フォトレジスト性を備えた多数の異なる材料が存在している。例示ポリマ材料には、ポリイミド、エポキシ、ポリベンゾザゾール、ベンゾシクロブテン、およびゾルゲルがある。当業者は、他の負動作フォトレジスト・ポリマ材料が存在し、やはり本発明の精神および範囲に入ることを認識するであろう。光学染料(オレンジ#3、?2%重量のような)を透明ポリマ材料に加えることにより、遅いフォトレジストを染料の無いまたは少量の染料を有する速いフォトレジストから作ることができる。他の実施形態は、ポリマ材料の層に染料の薄い層を被覆することであろう。遅いフォトレジストを作る代わりの方法は、異なる分子量の、異なる波長吸収特性の、異なる現像速度の、ポリマを顔料を使用して混合することから成る。当業者は、ポリマの感光性を遅くする他の方法が存在し、やはり本発明の精神および範囲に入ることを認識するであろう。」

(6)「【0012】図1Aは、本発明の好適実施形態を使用する単独オリフィス42(ノズルまたは穴ともいう)の上面図を示す。上オリフィス層34は、写真作像可能エポキシ(IBMにより開発されたSU8のような)または写真作像可能ポリマ(業界で普通に知られているOCGのような)のような速い架橋結合ポリマから構成されている。上オリフィス層34は、オリフィス42の開口の形状および高さを形成するのに使用される。オリフィス層の内部に隠れているのは、流体送りスロット30および流体井戸43である。インクのような流体は、流体送りスロット30を通って流体井戸43に流入し、エネルギ消費要素32により加熱されて残りの流体をオリフィス42から強制的に放出させる流体蒸気泡を形成する。視方向AAは、後の図で断面図を見る方向を示す。
【0013】図1Bは、完全一体化感熱式(FIT)流体ジェット印字ヘッドの図1Aに示した単独オリフィスの等角断面図である。下部オリフィス層35は、個別の層により既に処理され、半導体基板20の表面に組み込まれている薄膜層50の積み重ねの最上部に加えられる。例示オリフィスは、16μmのオリフィス42の直径、42μmの流体井戸43の長さ、20μmの流体井戸43の幅、6μmのオリフィス層34の厚さ、および6μmの下部オリフィス層35の厚さを備えている。半導体基板20は、薄膜層50の積み重ねを加えて、流体を流体送りスロット30(図示せず)に供給する流体送り溝44を設けてから、エッチされる。流体送りスロット30は、薄膜層50の積み重ねの内部に形成される。」

(7)「【0014】図2Aから図2Hまでは、本発明の代わりの実施形態を作るのに使用される色々な方法ステップを示す。図2Aは、エネルギ消費要素32を備えた薄膜層50の積み重ねを組込むよう処理してからの半導体基板20を示す。薄膜層50の積み重ねは、流体送りスロット30がその全体の厚さを貫くように処理されている。
【0015】図2Bは、遅い架橋結合ポリマから成る下部オリフィス層35を薄膜層50の積み重ねの上に加えてから後の半導体基板20を示す。遅い架橋結合ポリマは、KarlSuss KGにより製造されているもののような通常のスピンコーティング工具を使用して施される。スピンコーティング工具に関連するスピンコーティング法は、遅い架橋結合ポリマが流体送りスロット30および薄膜層50の積み重ねの表面を満たすにつれて平面状表面を形成することを考慮している。スピンコーティングの例示プロセスは、レジストの層を半導体ウェーハ上に加速度100rpm/sで70rpmに設定されたスピンコーティング工具を用いて広がり時間20秒で広げることである。次にウェーハを減速度100rpm/sで回転から停止させ、10秒間静止させる。次にウェーハを300rpm/sの加速度で1060rpmで30秒間回転させ、レジストをウェーハ全体に広げる。代わりのポリマ施工プロセスには、ロールコーティング、カーテンコーティング、押し出しコーティング、スプレイコーティング、および浸漬コーティングがある。当業者は、ポリマ層を基板に施す他の方法が存在し、やはり本発明の精神および範囲の中に入ることを認識するであろう。遅い架橋結合ポリマは、光学染料(オレンジ#3、2重量%またはそれ以下のような)を写真作像可能ポリイミドまたは写真作像可能エポキシ透明ポリマ材料内に混合することにより作られる。染料を加えることにより、必要な電磁エネルギの量が材料を架橋結合する非染料混合材料より大きい。
【0016】図2Cは、速い架橋結合ポリマから成る上オリフィス層34を下部オリフィス層35に加えた結果を示す。
【0017】図2Dは、上オリフィス層34および下部オリフィス層35に加えられている電磁放射11の強い強度を示す。電磁放射により供給されるエネルギは、露出している(図2D、図2E、および図2FにXで消した区域として示してある)上オリフィス層34および下部オリフィス層35を共に架橋結合するのに十分でなければならない。例示実施形態では、このステップは、+9μmの焦点偏りで300ミリジュールに設定されたSVG Micralign工具を使用して行なわれている。このステップは、オリフィス内に流体井戸43の形状および面積を規定する。
【0018】図2Eは、電磁エネルギ12の低い強度が上オリフィス層34および下部オリフィス層35に加えられる、プロセスの次のステップを示している。このステップ中に(強さまたは露出の時間を制限するかまたは両者の組合せにより)消費される全エネルギは、上オリフィス層34の速い架橋結合ポリマを架橋結合するのに十分なだけである。例示実施形態では、このステップは、+3mmの焦点偏りで60.3ミリジュールに設定されたSVG Micralign工具を使用して行なわれている。このステップは、オリフィス開口42の形状および面積を規定する。
【0019】…略…。
【0021】図2Gは、流体送りスロット30の材料を含み、上オリフィス層34および下部オリフィス層35の材料が除去される現像の方法ステップを示す。例示プロセスは、7110ソリテック現像用具を使用し、1krpmあたりNMPで70秒現像し、1krpmあたりIPASNMPとを8秒混合し、1krpmあたりIPAで10秒濯ぎ、2krpmあたり60秒回転させることである。
【0022】図2Hは、水酸化テトラメチルアンモニア(TMAH)裏面エッチ・プロセスを行なって流体送りスロット30の中に開く流体送り溝44(審決注:「40」は「44」の明らかな誤記なので訂正して敵記した。)を作って流体を流体井戸室に入れ、究極的にオリフィス開口42から放出させてからの結果を示す(U.Schnakenburg、W.Benecke、およびP.Langeのシリコン微細加工用TMAHW腐食液、1991年6月24-28日、USA、カリフォルニア州サンフランシスコにおける固体センサおよびアクチュエータに関する第6回国際会議(トランジューサーズ '91)のTech.Dig.のpp.815-818を参照)。
【0023】図3Aは、上オリフィス層34および下部オリフィス層35に見られる複数のオリフィス開口42を備えた例示印字ヘッド60を表している。オリフィス層は、既に半導体基板20の上に処理されている薄膜層50の積み重ねの上に施される。
【0024】図3Bは、印字ヘッド60の反対側を示し、流体送り溝44および流体送りスロット30を明らかにしている。」

(8)「【0030】更に、流体井戸およびオリフイス開口の個別形状を制御する能力で下部オリフィス層35および上オリフィス層34双方の厚さを制御する能力のため、オリフィス構造の一般的設計を行なうことができる。
【0031】図7Aは、好適オリフィス構造の上面図を示す。オリフイス開口174は、円形であり、流体井戸172は、長方形である。図7Bは、図7AのBB視方向で見たオリフィスの側面図を示す。上オリフィス層168は上オリフィス高さ162を備え、これはオリフイス開口174の面積と共にオリフィス室の容積を決定する。下部オリフィス層170は、下部オリフィス高さ164を備え、これは流体井戸172の面積と共に流体井戸室180の容積を決定する。全オリフィス高さ166は、上オリフィス高さ162と下部オリフィス高さ164との和である。上オリフィス高さ162に対する下部オリフィス高さ164の比は、決定的パラメータ、すなわち高さ比を規定する。ここで、
高さ比 = 下部オリフィス高さ/上オリフィス高さである。この高さ比は、その引きずる尾の長さに関係する放出滴のオーバシュート体積、および再充填時間、すなわちオリフィスに流体を再充填するのに必要な時間、の双方を制御する。
【0032】図8は、直径16μmおよび流体井戸長42μmおよび幅20μmの例示オリフィスに対する高さ比対再充填時間および高さ比対オーバシュート体積の効果を示すグラフである。このグラフを使用すれば、印字ヘッドの設計者が所要放出滴形状に対する層の厚さを選定することができる。」

(9)「【0049】本発明は、生き生きした明瞭な写真印刷に必要な細かい解像度のための、より厳密な流体ジェット方向制御およびより小さい滴体積の必要性に取り組んでいる。加えて、本発明は、印字ヘッドの製造を簡単にしているが、これにより生産の費用が下がり、大量運転割合が可能となり、印字ヘッドの品質、信頼性、および整合性が増大する。本発明の好適実施形態、およびその代わりの実施形態は、独特のオリフィス形状を作り出すことができ、別の関心事に取り組みまたは印字ヘッドから放出される流体の色々な長所を活用できることを実証している。」

(10)図8の記載から、「高さ比」が1のとき、再充填時間は15μsec程度であるがオーバーシュートが0.5ng程度あり、「高さ比」が0に近づくとオーバーシュートも0ngに近づくが再充填時間が急激に増加し100μsec程度になり、再充填時間をある程度短くしかつオーバーシュートを少なくするには「高さ比」は0.4程度が好ましく、その程度に設定すれば、再充填時間を25μsec以下にでき、かつ、オーバーシュートを0.2ng以下にできることが見て取れる。

(11)上記(1)ないし(10)から、引用例には、
「感熱式インクジェット・プリンタの印字ヘッドにおいて、
該印字ヘッドは、現在、基板と、該基板上に積層された厚いフォトレジスト性材料である障壁インターフェースと、該障壁インターフェースにより形成された発射室の出口経路であり、ニッケル(Ni)で電鋳されてから耐蝕用貴金属で被覆され、かつ、その厚さおよびオリフィス開口の直径が発射するとき反復可能なインク滴放出が可能なように調節されているオリフィス板とを備え、単独オリフィス板を、多数の印字ヘッドを備えた半導体ウェーハ上の単独印字ヘッド・ダイに一度に取付けて製作して、生産性を増大しているものであったから、インク滴の軌道の制御が不十分であり、印字ヘッドの歩留まりが悪く寿命が短く、オリフィス板の厚さに関係するオリフィス穴の高さが熱効率に必要な量より高いものであったので、
オリフィス設置の精度を確保すること、より薄いオリフィス板の製造を可能にすること、オリフイスあたり使用するエネルギの量を減らすこと、および、多年の耐久性ある低価格、長寿命の印字ヘッドを得ることを目的として、
直接作像技法を使用して、Niオリフィス板または障壁インターフェース材料を必要とせずに、溶解割合のわずかに異なるエポキシの負動作フォトレジスト材料である写真作像可能エポキシの二つ以上の層から構成して、精密な直接作像ポリマ・オリフィスを製造することとし、
前記写真作像可能エポキシはIBMにより開発されたSU8のようなものでよく、
前記基板を半導体基板20とし、
該半導体基板20の表面にエネルギ消費要素32を備えた薄膜層50を積み重ね、
前記写真作像可能ポリイミドに光学染料を混合して作った、架橋結合に500ミリジュール/cm^(2)の強度の電磁エネルギを必要とする遅いフォトレジストを、スプレイコーティングまたは通常のスピンコーティング工具を使用して前記半導体基板20の表面の前記積み重ねの最上部に施して下部オリフィス層35,170とし、
該下部オリフィス層35,170の上に、前記写真作像可能ポリイミドからなり、架橋結合に丁度100ミリジュール/cm^(2)の強度の電磁エネルギを必要とする、速いフォトレジストを加えて上オリフィス層34,168とし、
硬化後、上オリフィス層34,168及び下部オリフィス層35,170を第1マスクを通して、少なくとも500ミリジュール/cm^(2)の上オリフィス層34,168及び下部オリフィス層35,170の双方を架橋結合するのに十分な非常な高強度の第1の露出強度で露出し流体井戸43,172の形状および面積を規定して流体井戸室180を形成し、
次に、他の第2マスクを通して、上オリフィス層34,168の速いフォトレジストを架橋結合するのに十分なだけであり下部オリフィス層35,170は架橋結合しない低強度の100ミリジュール/cm^(2)の第2の露出強度の電磁エネルギに露出し、上オリフィス層34,168からオリフィス開口42,174の形状および面積を規定してオリフィス室すなわちオリフィス開口42,174の形状および高さを形成し、
次に、流体送りスロット30の材料、上オリフィス層34,168の材料及び下部オリフィス層35,170の材料を除去する現像を行い、
次に、裏面エッチ・プロセスを行なって流体送りスロット30の中に開く流体送り溝44を作って製造することにより、
流体を流体井戸室180に入れて究極的には複数のオリフィス開口42,174から放出させ得るようにした前記印字ヘッドであって、
前記上オリフィス層34,168は、オリフイス開口42,174の面積と共にオリフィス室の容積を決定する上オリフィス高さ162を備え、
前記下部オリフィス層35,170は、流体井戸43,172の面積と共に流体井戸室180の容積を決定する下部オリフィス高さ164を備え、
前記直接作像ポリマ・オリフィスの全オリフィス高さ166は、上オリフィス高さ162と下部オリフィス高さ164との和であり、
前記下部オリフィス高さ164を前記上オリフィス高さ162で割った値である高さ比は、放出滴のオーバシュート体積、およびオリフィスに流体を再充填するのに必要な再充填時間の双方を制御するパラメータであって、前記オリフィス開口42,174を直径16μm、前記流体井戸43,172を長さ42μm幅20μmとしたとき、前記高さ比が1のときは再充填時間は15μsec程度であるがオーバーシュートが0.5ng程度あり、前記高さ比が0に近づくとオーバーシュートも0ngに近づくが再充填時間が急激に増加し100μsec程度になり、前記高さ比を0.4程度に設定すれば、再充填時間を25μsec以下にでき、かつ、オーバーシュートを0.2ng以下にできる、
感熱式インクジェット・プリンタの印字ヘッド。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「半導体基板20の表面」、「半導体基板20」、「『半導体基板20の表面』に積み重ねた『エネルギ消費要素32を備えた薄膜層50』」、「流体井戸室180」、「オリフィス室」、「『全オリフィス高さ166』を有する『直接作像ポリマ・オリフィス』」、「『スプレイコーティングまたは通常のスピンコーティング工具を使用して』施した『下部オリフィス層35,170』」、「上オリフィス層34,168」、「『下部オリフィス高さ164を前記上オリフィス高さ162で割った値である高さ比』を『0.4程度に設定』」、「『SU8』のような『写真作像可能エポキシ』」、「『SU8』のような『写真作像可能エポキシ』の『二つ以上の層』から構成して『上オリフィス高さ162と下部オリフィス高さ164との和』である『全オリフィス高さ166』を有する『直接作像ポリマ・オリフィス』を製造」及び「感熱式インクジェット・プリンタの印字ヘッド」は、それぞれ、本願発明の「第1の表面」、「第1の表面を有する基板」、「前記第1の表面上に形成される流体吐出器」、「発射室」、「ノズル」、「カバー層」、「下塗層」、「ノズル層」、「下塗層が前記カバー層の厚みの50%未満の厚み」、「SU8」、「カバー層は少なくとも2つのSU8層によって形成」及び「流体吐出装置」に相当する。

(2)引用発明において、「発射室(流体井戸室180)」は、半導体基板20の表面に「流体吐出器(エネルギ消費要素32)」を備えた薄膜層50を積み重ね、前記写真作像可能ポリイミドに光学染料を混合して作った遅いフォトレジストをスプレイコーティングまたは通常のスピンコーティング工具を使用して前記半導体基板20の表面の前記積み重ねの最上部に施して下部オリフィス層35,170とし、該下部オリフィス層35,170の上に、前記写真作像可能ポリイミドからなる速いフォトレジストを加えて上オリフィス層34,168とし、硬化後、上オリフィス層34,168及び下部オリフィス層35,170を第1マスクを通して、少なくとも500ミリジュール/cm^(2)の上オリフィス層34,168及び下部オリフィス層35,170の双方を架橋結合するのに十分な非常な高強度の第1の露出強度で露出し流体井戸43,172の形状および面積を規定して形成したものであるから、「発射室(流体井戸室180)」は「流体吐出器(エネルギ消費要素32)」の周囲に形成されるものであるといえる。
したがって、引用発明の「発射室」と本願発明の「発射室」とは、「前記流体吐出器の周囲に形成される」ものである点で一致する。ここで、上記「流体井戸43,172の形状および面積を規定して形成」するは、本願発明の「画定」するに相当する。

(3)引用発明において、「ノズル(オリフィス室)」は、「発射室(流体井戸室180)」を形成し、次に、他の第2マスクを通して、上オリフィス層34,168の速いフォトレジストを架橋結合するのに十分なだけであり下部オリフィス層35,170は架橋結合しない低強度の100ミリジュール/cm^(2)の第2の露出強度の電磁エネルギに露出し、上オリフィス層34,168からオリフィス開口42,174の形状および面積を規定して形成したものであるから、「ノズル(オリフィス室)」は、「カバー層(上オリフィス高さ162と下部オリフィス高さ164との和である全オリフィス高さ166を有する直接作像ポリマ・オリフィス)」により「発射室(流体井戸室180)」上に「画定(オリフィス開口42,174の形状および面積を規定して形成)」されるものであるといえる。
したがって、引用発明の「ノズル」と本願発明の「ノズル」とは「該発射室上の」ものである点で一致し、引用発明の「カバー層」と本願発明の「カバー層」とは「該発射室上のノズルを画定する」点及び「下塗層とノズル層とを有」する点で一致する。

(4)引用発明における「下塗層」は、SU8のような写真作像可能ポリイミドに光学染料を混合して作った、架橋結合に500ミリジュール/cm^(2)の強度の電磁エネルギを必要とする遅いフォトレジストを、スプレイコーティングまたは通常のスピンコーティング工具を使用して施した下部オリフィス層35,170であるから、スプレイコーティングまたは通常のスピンコーティング工具を使用して施すことができる程の低粘土のSU8であるといえる。
したがって、引用発明の「下塗層」と本願発明の「下塗層」とは「低粘度のSU8である」点で一致する。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明とは、
「第1の表面を有する基板と、
前記第1の表面上に形成される流体吐出器と、
前記流体吐出器の周囲に形成される発射室を画定し、且つ該発射室上のノズルを画定するカバー層であって、前記カバー層が下塗層とノズル層とを有し、該下塗層が前記カバー層の厚みの50%未満の厚みを有する低粘度のSU8である、カバー層と
を備え、前記カバー層は少なくとも2つのSU8層によって形成される、流体吐出装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記「低粘度のSU8」が、本願発明では「210℃において硬化する」ものであるのに対して、引用発明ではそのようなものかどうかが明らかでない点。

4 判断
上記相違点について検討する。
(1)SU8である写真作像可能な樹脂を90℃ないし200℃で最終的に硬化させることは本願出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.米国特許第4882245号明細書(8欄39?46行、9欄14?48行参照。)、特開昭62-102242号公報(7頁左下欄10?16行、8頁左上欄7行?同頁左下欄2行参照。)、特開平8-15537号公報(【0045】、【0059】?【0062】、【0103】、【0112】参照。)、国際公開第02/26373号(38頁21?31行、39頁11?13行参照。)、国際公開第02/077620号(29頁20行?32頁8行、32頁15行?34頁18行参照。))。

(2)引用発明において、前記「低粘度のSU8」を90℃ないし200℃で最終的に硬化させることができるSU8である写真作像可能な樹脂となして、最終的に硬化させることができるようにすることは、当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得たことである。
しかるところ、「90℃ないし200℃で最終的に硬化させることができる低粘度のSU8」は、210℃において硬化することができるものであるといえるから、引用発明において、前記「低粘度のSU8」を「210℃において硬化する」ものとなすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得た程度のことである。

(3)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(4)以上のとおりであるから、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-15 
結審通知日 2010-11-16 
審決日 2010-11-29 
出願番号 特願2005-509543(P2005-509543)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚本 丈二  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 笹野 秀生
菅野 芳男
発明の名称 複数の障壁層  
代理人 河村 英文  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 有原 幸一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ