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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1235222
審判番号 不服2009-412  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-05 
確定日 2011-04-04 
事件の表示 特願2007-118619「ワイドバンドアンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月13日出願公開、特開2008-278150〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成19年4月27日の出願であって、平成20年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年1月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月4日付けで審判請求時の手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年2月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の平成20年11月4日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「少なくとも一辺を有する平板状の第1の放射素子及び第2の放射素子と、
前記第1及び第2の放射素子に給電を行う同軸ケーブルと、を備え、
前記第1の放射素子の一辺と前記第2の放射素子の一辺とが平行に対向し且つ平行方向にずれて配置されており、
前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子は給電部を介して前記同軸ケーブルに接続され、
前記給電部は導体部と誘電体とを有し、前記導体部に前記同軸ケーブルが接続されているワイドバンドアンテナ。」
という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「少なくとも一辺を有する平板状の第1の放射素子及び第2の放射素子と、
前記第1及び第2の放射素子に給電を行う同軸ケーブルと、を備え、
前記第1の放射素子の一辺と前記第2の放射素子の一辺とが平行に対向し且つ平行方向にずれて配置されており、
前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子は給電部を介して前記同軸ケーブルに接続され、
前記給電部は導体部と誘電体とを有し、前記導体部に前記同軸ケーブルが接続され、
前記誘電体に前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子が接続され、前記導体部と前記少なくとも一方の放射素子との間の静電容量を調整することにより、前記同軸ケーブルから前記少なくとも一方の放射素子へのインピーダンス整合を可能とし、
前記静電容量は、前記誘電体の厚さまたは前記導体部の面積で調整することを特徴とするワイドバンドアンテナ。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の「ワイドバンドアンテナ」の構成に「前記誘電体に前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子が接続され、前記導体部と前記少なくとも一方の放射素子との間の静電容量を調整することにより、前記同軸ケーブルから前記少なくとも一方の放射素子へのインピーダンス整合を可能とし、前記静電容量は、前記誘電体の厚さまたは前記導体部の面積で調整する」という構成を付加してその構成を限定することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び特許法第17条の2第5項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明及び周知技術
A.原審の拒絶理由に引用された米国特許出願公開第2004/0201522号明細書(以下、「引用例」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「 [0028] The antenna structure is designed so that the impedance that the antenna system is not substantially affected by the substrate to which the wireless communication device is attached so that it will remain within a known range of impedance for tag designing purposes. In one embodiment, the antenna arrangement is a dipole antenna formed by identically shaped tabs. The tabs are manufactured with an adhesive on one side so that they may be adhered to the surface of the substrate forming the packaging. The tabs are connected at feed points to the wireless communication device with transmission lines that may be conductive paths or wires. 」(3頁左欄、段落28)
(邦訳)
[0028] アンテナのインピーダンスは無線通信装置が取り付けられる被着体の形状材質に当該アンテナシステムが影響されないように設計されている。一実施例では、アンテナ配置は同一形状の導電片によって形成されたダイポールアンテナである。導電片の一面には接着剤が設けられ、被着体としてのパッケージングの表面に付着させられる。導電片は配線又はワイヤからなる伝送線路を介して給電点で無線通信装置に接続される。

ロ.「 [0030] In another embodiment, the invention includes a tag that may be mounted on only one side of the packaging. In this embodiment at least two conductive tabs are arranged to form a dipole antenna. A thin dielectric is coupled to the conductive tabs and a ground plane, or radio frequency reflecting structure, is coupled to the thin dielectric so that the thin dielectric is between the conductive tabs and ground plane. The ground reflecting structure can be unitary, that is, formed from a single connected element such as a flat plate, or formed from a cooperating series of isolated components such as a series of non-connected flat plates. 」(3頁左欄?右欄、段落30)
(邦訳)
[0030] 本発明の別の実施例では、タグはパッケージの一面のみに取り付けられる。この実施例では、ダイポールアンテナを形成するために少なくとも2つの導電片が配置される。薄い誘電体が導電片と電波反射体である接地面の間に設けられる。反射体は単一の接地面プレート又は一連の複数の非接地面プレートからなる。

ハ.「 [0036] FIG. 1 illustrates one embodiment of the present invention that is found in an RFID tag 10 that includes a wireless communication device 16. The device 16 may be either active in generating itself the radio frequency energy in response to a received command, or passive in merely reflecting received radio frequency energy back to an external originating source, such as current RFID tag readers known in the art.
[0037] In this embodiment, there are preferably at least two conductive tabs 12, 14, coupled to the wireless communication for receiving and radiating radio frequency energy received. These two tabs 12, 14, are substantially identical in shape and are coupled to the wireless communication device 16 at feedpoint that differs in location on each of the tabs. These tabs 12, 14, may be generally identical in conducting area if the two tabs are of the same size as well as shape, but it is also contemplated that the tabs 12, 14, may differ in size while their shape remains generally the same resulting in a different conducting area. The tabs may be collinear or non-collinear to provide different desired antenna structures. For example, in FIG. 1 tabs 12, 14 are offset and adjacent to provide a slot antenna system in area 18 that provides for resonance at multiple radiating frequencies for operation at multiple frequencies. 」(3頁右欄、段落36?37)
(邦訳)
「[0036] 図1に、本発明にかかる無線通信装置16を有するRFIDタグ10の一実施例を示す。装置16は受信コマンドに応答するための無線電波を自ら生成する能動型、又は周知のRFIDタグ読取器からの受信信号を単に反射により戻す受動型のどちらでもよい。
[0037] この実施例では、電磁波を送受信する無線通信装置に接続された少なくとも2つの導電片12、14を有する。当該2つの片12、14は、本質的に同一形状であり、それぞれの片の異なる場所に設定された給電点で無線通信装置16に接続されている。これらの片12、14は一般的に同じ形状及び大きさを有する。しかし、それらは形状は同一でもその導電部の大きさは異なっていてもよい。導電片は所望のアンテナ構造を得るために同一直線上もしくは非同一直線上に配置される。例えば、図1では、導電片12、14がずれて配置され、エリア18において多周波で励振されるスロットアンテナシステムが形成される。」

上記引用例の記載及び関連する図面(特にFIG.1)ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記「アンテナ」の「導電片12,14」は「少なくとも一辺を有する平板状の第1の放射素子及び第2の放射素子」を構成しており、当該「前記第1の放射素子の一辺」と当該「前記第2の放射素子の一辺」は「平行に対向し且つ平行方向にずれて配置されて」いる。
また上記「伝送線路」は「配線又はワイヤ」からなる「前記第1及び第2の放射素子に給電を行う伝送線路」である。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「少なくとも一辺を有する平板状の第1の放射素子及び第2の放射素子と、
前記第1及び第2の放射素子に給電を行う伝送線路と、を備え、
前記第1の放射素子の一辺と前記第2の放射素子の一辺とが平行に対向し且つ平行方向にずれて配置されており、
前記第1及び第2の放射素子はそれぞれの給電点において前記伝送線路に接続されているアンテナ。」

B.同じく原審の拒絶理由に引用された米国特許第7,002,526号明細書(以下、「引用例2」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「VHF feed region 49 of VHF antenna 30 is shown in FIG. 1B. A flexible, electrically conductive patch 46 is sewn and/or bonded to the bottom center area portion of first VHF RF element 31 on the dorsal side 25 of garment 22. A flexible, electrically conductive patch 47 is also sewn and/or bonded to the center area of second VHF RF element 33 on the dorsal side 25 of garment 22. Patches 46 and 47 are separated by VHF gap 32. VHF RF feed 41 and VHF ground feed 43 are electrically connected to patches 46 and 47, respectively, by soldering or other conventionally known methods for electrically connecting a wire to another electrically conductive structure. VHF impedance matching circuit 42 is used to finely match the impedance of VHF antenna 30 with an external load (not shown) and the impedance of the wearer.」(2欄、33?47行目)
(邦訳)
「VHFアンテナ30の給電部49は図1Bに示されている。柔軟な導電性パッチ46が、衣服22の背中側25の第1のVHFRFエレメント31の底部中央部分に縫いこまれるか接着されている。柔軟な導電性パッチ47も、衣服22の背中側25の第2のVHFRFエレメント33の中央部分に縫いこまれるか接着されている。パッチ46および47はVHFギャップ32によって分離されている。VHF給電線41及びVHF接地線43がそれぞれパッチ46及び47に、例えばはんだ付けあるいは別の周知の手段により、電気的に接続されている。VHFインピーダンス整合回路42はウェアに装着したVHFアンテナ30のインピーダンスをより良く整合させるために使用される。」

ロ.「The impedance of the head of the person wearing helmet 81 affects the impedance of helmet antenna 80. In order to facilitate finely matching the impedance of helmet antenna 80 with an external electronic device (not shown), an impedance matching circuit 97 may be connected between RF feed 95 and patch 89 that is electrically connected to RF element 82.」(5欄、7?13行目)
(邦訳)
「ヘルメット81を装着した人体の頭部は、ヘルメット・アンテナ80のインピーダンスに影響を与える。外部の電子デバイス(図示せず)とヘルメット・アンテナ80のインピーダンスとをより良く整合させるために、RF給電線95とRFエレメント82に電気的に接続されるパッチ89の間にインピーダンス整合回路97が接続される。」

即ち、上記引用例2には「2つの放射素子を用いたウェアラブルアンテナにおいて、それぞれの放射素子に同軸給電線の芯線と接地線を接続して給電すると共に、給電線と放射素子の間にインピーダンス整合回路を介挿する」技術手段が開示されている。

C.例えば特開2006-94521号公報(以下、「周知例1」という。)又は特開2006-135605号公報(以下、「周知例2」という。)又は特開2000-286615号公報(以下、「周知例3」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
(周知例1)
イ.「【0009】
一般に、本発明の例示的な実施形態は、無線通信を可能にするために、コンピューティング装置のプラスチック製カバー内に封入または成形されるアンテナ構造を備えるアンテナ装置を含む。例えば、プラスチック製カバーは、ポータブル・ラップトップ・コンピュータ、サーバ、プリンタ、マウス、キーボード、モデム、携帯電話、およびその他のタイプのポータブル・コンピューティング装置など、様々な装置に広く使用されている。そのような装置のプラスチック製装置カバー内に1つまたは複数のアンテナ構造を成形する/埋め込むことによって、アンテナの実装に必要とされる、ラップトップ・コンピュータまたはその他のポータブル装置内の空間が最小化され、アンテナは損傷から保護される。本発明の例示的な実施形態による埋め込みアンテナ・デザインには、1つまたは複数のワイヤまたは薄い金属ストリップを使用して作成され、プラスチック製カバーの成形加工時にプラスチック製装置カバー内に封入される、様々なアンテナ・タイプが含まれ得る。さらに、以下で説明するように、本発明の例示的な実施形態によるアンテナ装置は、WLANアプリケーション用にISMおよびU-NIIバンドで動作するように設計することができるか、または、例えば、デュアルバンドおよびトライバンド・セルラ・アプリケーション用に実装することができる。」(5頁段落9)
ロ.「【0014】
本発明の別の例示的な実施形態では、容量結合方法を使用して、封入アンテナ構造に給電することができる。より具体的には、例えば、埋め込みアンテナ構造は、2つの金属プレートをアンテナ給電点でプラスチック製カバー内に埋め込み、一方、対応する2つの金属プレートをプラスチック製カバーの表面に対応する埋め込み金属プレートに隣接するように配置して取り付けることによって形成することができる。この例示的な容量結合方法を用いる場合、内部プレートと外部プレートの間のプラスチック(絶縁体)の厚み(すなわち、内部プレートと外部プレートの間の絶縁間隔)を、厳密に調整しなければならない。さらに、容量結合の結果として生じるインピーダンスを考慮して、必要なインピーダンス・マッチングを実現するため、マッチング・ネットワークを使用することができる。この実施形態では、外部の同軸ケーブルまたは平衡差動給電線の取り付けポイントとして外部プレートを使用することができる。プラスチック製カバー内に埋め込まれたアンテナ構造に給電するための例示的な方法は、以下でさらに詳しく説明するように、実装されるアンテナ・デザインのタイプに応じて変化する。
【0015】
本発明の例示的な実施形態による、プラスチック製カバー内に成形できる様々なタイプのアンテナ構造について、これ以降、詳しく説明する。上述したように、埋め込みアンテナ構造は、1つまたは複数のワイヤ・エレメントまたは薄板金属を打ち抜きすることによって形成される薄い金属ストリップを用いて形成することができる。図4には、本発明の例示的な一実施形態による、プラスチック製カバー内に成形できるシングルバンド・アンテナ構造が概略的に示されている。詳細には、図4には、第1のワイヤ・エレメント(41)と第2のワイヤ・エレメント(42)を備える、中央給電半波長ダイポール・アンテナ(40)が示されている。第1のワイヤ・エレメント(41)は、第1の4分の1波長ワイヤ・エレメントであり、第2のワイヤ・エレメント(42)は、第2の4分の1波長ワイヤ・エレメントである。全体のダイポール長(DL)は、半波長の長さであり、所望の共振周波数や、アンテナが封入されるプラスチックの誘電率などに応じて変化する。」(6?7頁、段落14?15)

(周知例2)
イ.「【0039】
そして、本発明に係る水平偏波用アンテナは、使用周波数帯域の電波の波長λに対して第1乃至第3アンテナ素子の長さの合計を適切に調整することで、水平面内における全方向性の指向特性を得ることと、アンテナ自体のインピーダンスの実部Rを同軸給電線と整合する適正な値に一致させることは両立できるものの、このときアンテナ自体のインピーダンスのリアクタンス成分Xはゼロにはならないことが本願発明者によって確認された。例えば、図1に示す水平偏波用アンテナ10の各部の寸法を前述の条件(L1=L2=約0.24m、L3=0.08m、2ρ=5mm)に合致させたときのアンテナ自体のインピーダンスZinは約50+j250Ωとなり、アンテナ自体のインピーダンスZinの実部Rは同軸給電線と整合する適正な値(50Ω)に一致しているものの、アンテナ自体のインピーダンスZinのリアクタンス成分X(j250Ω)の影響により本発明に係る水平偏波用アンテナの送信機又は受信機と整合させることができないという問題が生ずる。
【0040】
上記を考慮すると、請求項1記載の発明において、例えば請求項2に記載したように、第3アンテナ素子の給電点付近に、インピーダンスを整合させるためのリアクタンスを挿入することが好ましい。例えば先の例のようにアンテナ自体のインピーダンスのリアクタンス成分Xの符号が正の場合、インピーダンスを整合させるためのリアクタンスとしてはキャパシタンスを挿入すればよく、具体的には、図5(A)に示すように容量性の集中定数素子(コンデンサ)18を挿入してもよいし、図5(B)に示すように容量性の分布定数回路(同軸回路)20を挿入してもよい。また、アンテナ自体のインピーダンスのリアクタンス成分Xの符号が負の場合には、インピーダンスを整合させるためのリアクタンスとしてインダクタンスを挿入すればよく、このインダクタンスについても集中定数素子又は分布定数回路を用いることができる。」(8頁段落39?40)
ロ.「【0086】
また、上記では本発明に係る水平偏波用アンテナに接続する同軸給電線として同軸管を例に説明したが、これに代えて同軸ケーブルを用いてもよい。また、本発明に係る水平偏波用アンテナに接続する給電線は同軸給電線に限られるものではなく、例えば平行2線式給電線(平行フィーダー線)等の他の給電線を接続してもよい。」(17頁、段落86)

(周知例3)
イ.「【0046】次に、第2の実施の形態に係るアンテナ装置10Bについて図8及び図9を参照しながら説明する。
【0047】この第2の実施の形態に係るアンテナ装置10Bは、図8に示すように、第1及び第2の誘電体層S1及びS2を積み重ねて焼成することにより、誘電体基板12が構成され、更に、第1の誘電体層S1の一主面に、短冊状のモノポールアンテナ14が形成され、第2の誘電体層S2の一主面に、一端が給電点24に接続され、かつ、アンテナ14と容量結合される電極40が形成されて構成されている。
【0048】各電極の電気的な結合についてみると、図9に示すように、アンテナ部16を構成するモノポールアンテナ14と給電点24との間に電極40による静電容量C11が形成され、1つの誘電体基板12においてアンテナ部16のアンテナ14と容量C11によるインピーダンス整合回路部22とが一体化されたかたちとなる。
【0049】この第2の実施の形態に係るアンテナ装置10Bにおいても、第1の実施の形態に係るアンテナ装置10Aと同様に、アンテナ部16とインピーダンス整合回路部22とが一体化されているため、アンテナ装置10Bのインピーダンス、即ち、給電点24でのインピーダンスを、給電線路の特性インピーダンス(50オーム)に整合させることができ、配線基板に別途インピーダンス整合回路を実装する必要がない。」(4頁6欄?5頁7欄、段落46?49)
ロ.「【0051】また、上述の例では、非平衡入出力方式のアンテナ装置に適用した例を示したが、その他、平衡入出力方式のアンテナ装置に適用することもできる。図12は、平衡入出力方式のアンテナ装置の例を示すものであり、第1の誘電体層S1の一主面に2本のアンテナ素子44a及び44bからなるダイポールアンテナ44が形成され、第2の誘電体層S2の一主面にダイポールアンテナ44を構成する各アンテナ素子44a及び44bにそれぞれ容量結合される第1及び第2の電極46a及び46bが形成されて構成されている。
【0052】この例においても、アンテナ装置のインピーダンス、即ち、給電点24でのインピーダンスを、給電線路の特性インピーダンス(50オーム)に整合させることができ、配線基板に別途インピーダンス整合回路を実装する必要がない。なお、この発明に係るアンテナ装置は、上述の実施の形態に限らず、この発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。」(5頁7?8欄、段落51?52)

例えば上記周知例1?3に開示されているように「ダイポールアンテナの給電線として同軸ケーブルを採用するとともに、該給電線とアンテナ素子間に誘電体層と導体層からなるコンデンサを配置し、該コンデンサの静電容量を調整してアンテナのインピーダンス整合をとる」技術手段は周知である。

D.本件出願の10年以上も前に公開された特開昭59-196607号公報(以下、「周知例4」という。)には図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「一般に径の大きな棒状のダイポールアンテナ、平板三角形ダイポールアンテナは広帯域にわたり定インピーダンス特性を持つことが知られており、広帯域なスペクトラムを有する信号の送受には上記アンテナが利用される。」(1頁右上欄1?5行目)

例えば上記周知例4に開示されているように「平板三角形ダイポールアンテナが広帯域にわたり定インピーダンス特性を持つ」ことは周知である。

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明を対比すると、補正後の発明の「同軸ケーブル」と引用発明の「伝送線路」はいずれも「給電線」であるという点で一致している。
また補正後の発明の「前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子は給電部を介して前記同軸ケーブルに接続され、前記給電部は導体部と誘電体とを有し、前記導体部に前記同軸ケーブルが接続され、前記誘電体に前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子が接続され、前記導体部と前記少なくとも一方の放射素子との間の静電容量を調整することにより、前記同軸ケーブルから前記少なくとも一方の放射素子へのインピーダンス整合を可能とし、前記静電容量は、前記誘電体の厚さまたは前記導体部の面積で調整する」という構成と引用発明の「前記第1及び第2の放射素子はそれぞれの給電点において前記伝送線路に接続されている」という構成はいずれも「前記第1及び第2の放射素子はそれぞれの給電点において前記給電線に接続されている」という構成である点で一致している。
また補正後の発明の「ワイドバンドアンテナ」と引用発明の「アンテナ」はいずれも「アンテナ」であるという点で一致している。
したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致し、また、相違している。

(一致点)
「少なくとも一辺を有する平板状の第1の放射素子及び第2の放射素子と、
前記第1及び第2の放射素子に給電を行う給電線と、を備え、
前記第1の放射素子の一辺と前記第2の放射素子の一辺とが平行に対向し且つ平行方向にずれて配置されており、
前記第1及び第2の放射素子はそれぞれの給電点において前記給電線路に接続されているアンテナ。」

(相違点1)「給電線」に関し、補正後の発明は「同軸ケーブル」であるのに対し、引用発明は「伝送線路」である点。

(相違点2)「前記第1及び第2の放射素子はそれぞれの給電点において前記給電線路に接続されている」という構成に関し、補正後の発明は「前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子は給電部を介して前記同軸ケーブルに接続され、前記給電部は導体部と誘電体とを有し、前記導体部に前記同軸ケーブルが接続され、前記誘電体に前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子が接続され、前記導体部と前記少なくとも一方の放射素子との間の静電容量を調整することにより、前記同軸ケーブルから前記少なくとも一方の放射素子へのインピーダンス整合を可能とし、前記静電容量は、前記誘電体の厚さまたは前記導体部の面積で調整する」という構成であるのに対し、引用発明は「前記第1及び第2の放射素子はそれぞれの給電点において前記伝送線路に接続されている」という構成である点。

(相違点3)「アンテナ」に関し、補正後の発明は「ワイドバンドアンテナ」であるのに対し、引用発明は単に「アンテナ」である点。

そこで、まず、上記相違点1の「給電線」及び相違点2の「前記第1及び第2の放射素子はそれぞれの給電点において前記給電線路に接続されている」という構成をまとめて検討するに、上記引用例2には「2つの放射素子を用いたウェアラブルアンテナにおいて、それぞれの放射素子に同軸給電線の芯線と接地線を接続して給電すると共に、給電線と放射素子の間にインピーダンス整合回路を介挿する」技術手段が開示されている。一方、例えば上記周知例1?3に開示されているように「ダイポールアンテナの給電線として同軸ケーブルを採用するとともに、該給電線とアンテナ素子間に誘電体層と導体層からなるコンデンサを配置し、該コンデンサの静電容量を調整してアンテナのインピーダンス整合をとる」技術手段自体は周知であり、また一般にコンデンサの静電容量が誘電体の厚さまたは対向する導体部の面積で決まることも周知であり、これらの公知又は周知の技術手段を引用発明に適用する上での阻害要因は何ら見あたらない。したがって、これらの公知又は周知の技術手段に基づいて、引用発明の「伝送線路」を補正後の発明のような周知の「同軸ケーブル」に変更する(相違点1)とともに、引用発明の「前記第1及び第2の放射素子はそれぞれの給電点において前記伝送線路に接続されている」という構成を、補正後の発明のような「前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子は給電部を介して前記同軸ケーブルに接続され、前記給電部は導体部と誘電体とを有し、前記導体部に前記同軸ケーブルが接続され、前記誘電体に前記第1及び第2の放射素子の少なくとも一方の放射素子が接続され、前記導体部と前記少なくとも一方の放射素子との間の静電容量を調整することにより、前記同軸ケーブルから前記少なくとも一方の放射素子へのインピーダンス整合を可能とし、前記静電容量は、前記誘電体の厚さまたは前記導体部の面積で調整する」という構成とする(相違点2)程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。

ついで、上記相違点3の「アンテナ」について検討するに、例えば上記周知例4に開示されているように「平板三角形ダイポールアンテナが広帯域にわたり定インピーダンス特性を持つ」こと、即ち、ワイドバンドアンテナであることは周知であり、また引用発明のアンテナも例えばFIG.1から明らかなように平板三角形状のダイポールアンテナであるから、当該周知の知見に基づいて、引用発明のアンテナである平板三角形状のダイポールアンテナを、補正後の発明のような「ワイドバンドアンテナ」とする程度のことも当業者であれば適宜なし得ることである。

以上のとおりであるから、補正後の発明は、引用発明及び周知技術ないしは周知の知見に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正(審判請求時の手続補正)は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明及び周知技術」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術ないしは周知の知見に基づいて容易に発明できたものであるから、上記補正後の発明から当該補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明及び周知技術ないしは周知の知見に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-04 
結審通知日 2011-02-07 
審決日 2011-02-22 
出願番号 特願2007-118619(P2007-118619)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
P 1 8・ 575- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岸田 伸太郎  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 新川 圭二
宮田 繁仁
発明の名称 ワイドバンドアンテナ  
代理人 仲野 孝雅  
代理人 関口 正夫  
代理人 永井 道雄  

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