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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01R |
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管理番号 | 1235263 |
審判番号 | 不服2009-19184 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-10-07 |
確定日 | 2011-04-14 |
事件の表示 | 特願2006-154625号「熱硬化性回路接続部材及びそれを用いた電極の接続構造、電極の接続方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月14日出願公開、特開2006-339160号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成8年5月23日に出願した特願平8-127981号の一部を平成18年6月2日に新たな特許出願としたものであって、平成21年6月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がされたが、これは当審において平成22年8月5日付けの補正の却下の決定により却下され、同日付けで拒絶の理由が通知され、これに応答して同年10月4日付けで手続補正がされたものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 導電材料と、バインダとして熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とよりなる加圧方向に導電性を有する導電性接着層の少なくとも片面に、熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とを含有してなる絶縁性接着層が形成されてなる多層接続部材であって、 前記絶縁性接着層が前記導電性接着層の前記バインダの接続時の溶融粘度と同等の溶融粘度を有する熱硬化性回路接続部材。」 第2 刊行物 1 刊行物1 これに対して、当審における拒絶の理由で引用した、本願のもとの特許出願前に頒布された特開昭63-310581号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ア 「〔従来技術〕 従来、FPC(フレキシブルプリント基板)と配線基板(ガラスエポキシ基板、ガラス基板、セラミツク基板、FPC等)とを相互に接続する一手段として絶縁性樹脂中に導電体を分散含有させたフイルム形状の異方性導電フイルムを熱圧着して接続する方法が広く用いられている。」(第1頁右欄9行-同頁右欄15行) イ 「〔発明の概要〕 本発明の目的は、前述した従来例の欠点を除去して接続部の分解能を高めると同時に、接着強度をも高めることによって、信頼性を高めることも可能とした異方性導電フイルムを提供することにある。 すなわち、本発明は、熱溶融性で、且つ絶縁性の第1フィルムと、熱溶融性で、且つ異方導電性の第2フイルムとを接合させた積層体構造を有する電気的接続のためのフイルム体に特徴を有している。」 (第2頁右上欄16行-同頁左下欄6行) ウ 「〔発明の態様の詳細な説明〕 以下、本発明を図面に従って説明する。 第1図は、本発明の積層フイルム体10の断面図で、第1フイルム11は導電体を分散していない絶縁性樹脂14(a)より成り、第2フイルム12は導電体13を絶縁性樹脂14(b)に分散含有(混入)されており、第1フイルムと第2フイルムは互いに接着されて多層形成されている。」(第2頁左下欄7行-同頁左下欄15行) エ 「第1フイルム11と第2フイルム12の絶縁性樹脂14(a)と(b)は、同一組成のものを用いることが望ましく、スチレン-ブタジエン共重合体、テルペンフエール樹脂、アクリルゴム、エポキシ樹脂、ポリビニルフエノール、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、フエノール樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン等の熱溶融性樹脂を用いることができる。又、本発明では、これらの樹脂を1種又は2種以上組合わせて用いることができる。又、フイルム形成時には、通常のコーテイン法、例えばロールコート法、印刷法、スプレイコート法を用いることができ、この際の塗液溶剤としては、トルエン、メチルエチルケトン、エタノール、キシレンなどの1種又はその混合溶剤が用いられる。」(第2頁右下欄4行-同頁右下欄18行) オ 「本発明で用いた第1フイルム11の乾燥後の厚さは、5μm?50μm、好ましくは15μm?30μmで、第2フイルム12の乾燥後の厚みは1?25μm、好ましくは5?15μm程度に設定され、これら第1フイルム11と第2フイルム12の積層体構造では、10?100μm、好ましくは20?50μm程度に設定されているのがよい。」(第2頁右下欄19行-第3頁左上欄6行) カ 「本発明の積層体構造は、例えば以下の工程で作成することができる。 (1)下記組成の塗液を乾燥後の厚さが17μmになる様に剥離シート(図示せず)の上にコーターによって塗布し、乾燥して第1フイルム11の連結シートを得る。 スチレン-ブタジエン共重合体 50重量部 テルペンフエノール樹脂 50重量部 トルエン 150重量部 メチルエチルケトン 50重量部 (2)更に第1フイルム11の連結シート上に、前述の組成の絶縁性樹脂の固形分100容量部に対して、液晶セルの上下基板間の隙間制御用の絶縁性スペーサとして利用されている高精度硬化樹脂球状粒子・エポスターGP-90(日本触媒化学工業(株)製)の表面にAuをコートした良導電性粒子13を10重量部の割合で分散・混入した塗料を乾燥後の厚さが8μmになる様にコーターによって塗布し、乾燥して、第1フイルムに接着した第2フイルムを得た。 この様にして得た連結シートの剥離紙を剥がして第1フイルム11の絶縁性樹脂の表面が一部溶融してFPCの銅箔パターンに接着する様に仮接着される。第2図は仮接着された状態の断面図を示す。 (3)次いで、異方性導電フイルム(積層フイルム体10)が仮接着されたFPC基板21と配線基板23の配線パターン22と24とを位置合せ対峙させ、パルスヒートツール(図示せず)で、150℃の温度下で、加圧40Kg/cm^(2)を20秒間熱圧着し、接続される。」(第3頁左上欄7行-同頁右上欄17行) キ 「第3図は、本発明の異方性導電フイルムの効果を概念的に示す断面で、導電体13は加熱溶融後、一体形成された樹脂層25の中で、配線基板23の側にのみ分散される。このことは、異方性導電フイルム10の第2フイルム12にのみ導電体13が分散されていることによるものである。第1フイルム11と、第2フイルム12の絶縁性樹脂14(a)と(b)は、FPC基板21と配線基板23の隙間に一体となって充填され、電気的接続を保持するとともに、接続部を外気から保護する役割を果たす訳であるが、FPC基板21の銅箔パターン22の下に存在した第1フイルム11の大部分と第2フイルム12の絶縁性樹脂14(a)と(b)の一部は、銅箔パターン22と24との間に流れ出し、第1フイルム11に分散・混入された導電体13を介して銅箔パターン22と配線パターン24は電気的に導通状態となる。」(第3頁右上欄18行-同頁左下欄15行) ク 「本例で明らかな様に、導電体13を分散した薄い第2フイルム12によって、接続部の分解能を向上させ得るとともに、導電体13を分散していない第1フイルム11の絶縁性樹脂14(a)によって接続部の接着強度を向上させ、ひいては信頼性の向上に寄与するものである。」(第3頁左下欄16行-同頁右下欄1行) ケ 「なお本実施例では、FPC基板21と配線基板23との接続について詳述したが、ICチップの接続など部品接続の高分解能、高信頼性に対しても本発明が有用であることはいうまでもない。」(第3頁右下欄9行-同頁右下欄12行) 上記記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されている。 「導電体13と、エポキシ樹脂からなる加圧方向に導電性を有する第2フィルム12の片面に、エポキシ樹脂からなる第1フィルム11が形成されてなる積層フィルム体10であって、 前記第1フィルム11が前記第2フィルム12と同一組成である、配線パターン22と配線パターン24とを電気的に導通状態とする積層フィルム体10。」 2 刊行物2 また、当審で通知した拒絶の理由で引用した、本願のもとの特許出願前に頒布された特開平8-7658号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ア 「【産業上の利用分野】本発明は、ICベアチップ等の電極と相対峙させた回路基板の電極を接続固定するのに用いられる異方導電性接着フィルムに関する。」(【0001】) イ 「このようにして得られた導電性微粒子を絶縁性接着剤中に均一分散させると、異方導電性接着フィルムが得られる。異方導電性接着フィルムの厚さとしては、70μm以下が好ましく、良好な接続信頼性を得るためには15?35μmとすることが更に好ましい。」(【0012】) ウ 「絶縁性接着剤としては、絶縁シート等に用いられている熱可塑性材料や、熱や光により硬化性を示す材料が広く適用できるが、接続後の耐熱性や耐湿性に優れていることから、硬化性材料の適用が好ましい。中でもエポキシ系接着剤は、短時間硬化が可能で接続作業性が良く、また、分子構造上接着性に優れる等の特長があることから、好ましく適用できる。エポキシ系接着剤は、例えば高分子エポキシ、固形エポキシと液状エポキシ、フェノキシ樹脂と液状エポキシ、ウレタンやポリエステル、NBR等を混合したエポキシを主成分とし、これに潜在性硬化剤やカップリング剤等の各種変成剤、触媒等を添加した系からなるものが一般的である。」(【0013】) エ 「この導電性微粒子を潜在的硬化剤を含むエポキシ系接着剤ワニスに、ワニスの固形分体積比で2%の割合で配合し、均一分散させた後、離型フィルム上に流延成形して厚さ25μmの異方導電性接着フィルムを作製した。 この異方導電性接着フィルムをガラス基板上のITO電極とバンプ高さが15μmあるICチップ上の金バンプ電極間に挾んで、180℃-75gf/バンプ-20秒の熱圧着条件で接続した。」(【0015】-【0016】) 3 刊行物3 また、当審における拒絶の理由で引用した、本願のもとの特許出願前に頒布された特開平7-230840号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ア 「本発明を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施例を説明する接続部材の断面模式図である。本発明の接続部材は、加圧方向のみに導電性を有する導電性シート1の片面または両面に、前記シートより少なくとも接続時の溶融粘度が低い接着剤層2、及び3を形成してなり、さらに汚染防止や取扱い性向上を目的に接着層に対して剥離可能なセパレータ4を片面もしくは両面の接着剤層に必要に応じて設けてある。」(【0007】) イ 「加圧方向に導電性を有するシート1は図2に示すように、導電材料6を含有したバインダ5よりなる。」(【0008】) ウ 「バインダ5は、熱可塑性材料や、熱や光により硬化性を示す材料が広く適用でき、接着性を有することが好ましい。これらは接続後の耐熱性や耐湿性に優れることから、硬化性材料の適用が好ましい。中でもエポキシ樹脂系接着剤は、短時間硬化が可能で接続作業性が良く、分子構造上接着性に優れる等の特徴から好ましく適用できる。 エポキシ系接着剤は、例えば高分子量のエポキシ、固形エポキシと液状エポキシ、ウレタンやポリエステル、アクリルゴム、NBR、ナイロン等で変性したエポキシを主成分とし、硬化剤や触媒、カップリング剤、充填剤等を添加してなるものが一般的である。 本発明の接続部材は、加圧方向に導電性を有するシート1の片面または両面に、前記シートより少なくとも接続時の溶融粘度が低い接着剤層2と、必要に応じてさらに接着剤層3を形成する。接着剤層2、3の厚みは、接続後に電極の体積を除くスペース部を充填できるように形成することが好ましい。接着剤層2、3は、前記したバインダ5と同様な絶縁材料が適用可能であり、絶縁性に影響の無い範囲で少量の導電粒子を含んでも良い。」(【0010】-【0012】) エ 「実施例1 (1)導電性シートの作製 マトリックスとしてアクリルゴム(ガラス転移点-10℃、分子量50万、官能基としてカルボキシル基1%含有)とマイクロカプセル型潜在性硬化剤を含有する液状エポキシ樹脂(エポキシ当量185)の比率を40/60とし、酢酸エチルの30%溶液を得た。この溶液に、粒径5±0.2μmのポリスチレン系粒子にNi/Auの厚さ0.2/0.02μmの金属被覆を形成した導電性粒子を5体積%添加し混合分散した。この分散液をセパレータ(シリコーン処理ポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み40μm)にロールコータで塗布し、110℃20分乾燥しマトリックス厚み5μmのシートを得た。このシートは、図2(b)に相当する。 (2)接着剤層の形成 アクリルゴムとマイクロカプセル型潜在性硬化剤含有の液状エポキシ樹脂の比率を10/90とし、導電性粒子を含有しない厚み15μmのシートを前記(1)と同様に作製した。まず(1)の導電性シート面と(2)の接着層面とをゴムロールで圧延しながらラミネートし、続いて導電性シート面のセパレータを剥離しながらこの面にさらに接着剤層面とを同様にラミネートし接続部材を得た。これらのマトリックス及び接着層の溶融粘度は図4の特性であった。ここに溶融粘度は、硬化剤を除く配合を加熱溶融し徐冷しながら求めたものである。 (3)接続 ポリイミドフィルム上に高さ18μmの銅の回路を有する2層FPC回路板(回路ピッチは100μm、電極幅50μmの平行回路の電極)同士の接続を行った。まず一方の回路板の端部電極に、前記接続部材を1.5mm幅で載置し、セパレータを剥離した後貼り付けた。この後セパレータを剥離し、他の回路板と上下回路を位置合わせし、150℃、20kgf/mm^(2) 、15秒で接続した。」(【0023】) 第3 対比 本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。 刊行物1に記載された発明の「導電体13」は本願発明の「導電材料」に相当し、刊行物1に記載された発明の「加圧方向に導電性を有する第2フィルム12」は、「導電体13を絶縁性樹脂14(b)に分散含有(混入)」(前記第2の1のウ)したものであるから、本願発明の「バインダとして」「加圧方向に導電性を有する導電性接着層」に相当する。 刊行物1に記載された発明の「第2フィルム12の片面に」は本願発明「導電性接着層の少なくとも片面に」に相当し、同様に、「第1フィルム11」は「絶縁性接着層」に相当する。 刊行物1に記載された発明の「前記第1フィルム11が前記第2フィルム12と同一組成である」ことは、第1フィルム11と第2フィルム12とが同一の溶融粘度の温度特性を示すことになるから、本願発明の「前記絶縁性接着層が前記導電性接着層の前記バインダの接続時の溶融粘度と同等の溶融粘度を有する」ことに相当する。 刊行物1に記載された発明の「第2フィルム12」及び「第1フィルム11」が「エポキシ樹脂からなる」ことと、本願発明の「導電性接着層」が「熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とよりなる」こと及び「絶縁性接着層」が「熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とを含有してなる」ことは、それぞれエポキシ樹脂を含むという限りで共通する。 また、刊行物1に記載された発明の「配線パターン22と配線パターン24とを電気的に導通状態とする積層フィルム体10」と本願発明の「熱硬化性回路接続部材」とは、回路接続部材という限りで共通する。 そうしてみると、両者は、 「導電材料と、バインダとしてエポキシ樹脂を含む加圧方向に導電性を有する導電性接着層の少なくとも片面に、エポキシ樹脂を含む絶縁性接着層が形成されてなる多層接続部材であって、 前記絶縁性接着層が前記導電性接着層の前記バインダの接続時の溶融粘度と同等の溶融粘度を有する回路接続部材。」 で一致し、以下の点で相違する。 〔相違点〕 本願発明は、導電性接着層が「熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とよりなり」、絶縁性接着層が「熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とを含有してなり」、回路接続部材が「熱硬化性」であるのに対し、刊行物1に記載された発明は、導電性接着層及び絶縁性接着層が「エポキシ樹脂からなる」点。 第4 当審の判断 相違点について検討する。 刊行物1では、「エポキシ樹脂」は熱溶融性樹脂として例示されているが、一般に「エポキシ樹脂」は、「熱硬化性樹脂」として知られるものである。 そこで、用語の意味を明らかにすると、「熱溶融性」とは、固体が熱せられて液体に変化する性質(化学大辞典編集委員会編,「化学大事典9 縮刷版」,縮刷版第30刷,共立出版株式会社,1987年2月15日,329頁及び463頁,「融解」,「溶融」参照。)であるのに対して、「熱硬化性」とは、熱や触媒によって硬化し、硬化すると加熱しても軟化・溶融しない性質をいう。そして、「熱硬化性」の対比語である「熱可塑性」とは、加熱すると軟化し外力を加えて変形あるいは流動させることができ、これが可逆的で温度を下げると硬くなり、加熱すると再び軟化する性質(社団法人高分子学会編、「高分子辞典 第3版」,初版第1刷,株式会社朝倉書店,2005年6月30日,453頁?455頁,「熱可塑性樹脂」,「熱可塑性ポリマー」,「熱硬化性」,「熱硬化性樹脂」参照。)をいう。 これらの技術常識からみて、刊行物1において「エポキシ樹脂」を用いて異方導電性フィルムを製造した場合、接続前の「エポキシ樹脂」は硬化前の状態であると考えることが適当である。 そうしてみると、刊行物1において「熱溶融性樹脂」で導電性接着層及び絶縁性接着層を製造することが示されていることが、刊行物1に記載された発明において「導電性接着層」や「絶縁性接着層」に熱硬化性樹脂を用いることを排除しているとはいえない。 また、フェノキシ樹脂は熱可塑性樹脂でありエポキシ樹脂と相溶性が良いため、本願のもとの特許出願前に、導電材料を含有するフィルム状接着剤において、エポキシ樹脂に分子量10000以上のフェノキシ樹脂を混合することで、フィルム形成性が向上することが周知の技術事項(例えば、特開平6-256746号公報、特開平2-255883号公報参照。)である。 そして、刊行物2及び3には、接着剤を流延又は塗布して製作される、厚さ5?25μm程度の異方導電性接着フィルムの絶縁性接着剤として、熱可塑性材料の他に、熱により硬化性を示す材料が広く適用でき、特にエポキシ系接着剤が接続後の耐熱性や耐湿性に優れていることが記載され、 さらに、刊行物3には、絶縁性の接着剤層2及び3には導電性シート1を形成するバインダ5と同様な絶縁材料が適用可能であること(前記第2の3のウ)が記載されている。 そうしてみると、刊行物1に記載された発明の「導電性接着層」や「絶縁性接着層」に、刊行物2に記載された、フェノキシ樹脂と液状エポキシを主成分とし、これに潜在性硬化剤を添加して異方性導電性接着フィルムの絶縁性接着剤を得るという事項を適用して、「導電性接着層が『熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とよりなり』、絶縁性接着層が『熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とを含有してなり』、回路接続部材が『熱硬化性』である」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明が奏する効果は、刊行物1に記載された発明、刊行物2及び3に記載された事項、及び前記周知の技術事項のそれぞれの効果の総和以上のものではなく、当業者が予測できる範囲内のものである。 なお、請求人は、熱硬化性のエポキシ樹脂とフェノキシ樹脂とを併用する本願発明では、回路接続時に両接着層における樹脂の架橋反応の速度が緩和されるので、導電粒子が両接着層中に分散し易くなり、高分解能かつ接続信頼性に優れた接続部材が得られること、及び回路接続時の両接着層中の内部応力が低下し、両接着層の接着力が向上することにより、回路接続後の耐熱性や耐湿性が向上すること主張(平成22年10月4日付け意見書)するので、この点について検討する。 本願のもとの特許出願前に、エポキシ樹脂と硬化剤とからなる組成物にフェノキシ樹脂を併用することにより、硬化時の内部応力に起因する接着力低下を抑制することは、周知の技術事項(例えば、特開平4-59819号公報、特開平5-117609号公報参照。)である。 そして、刊行物2に記載された異方導電性フィルムは、その絶縁性接着層及び導電性接着層が熱硬化性のエポキシ樹脂にフェノキシ樹脂を併用している以上、本願発明と同様、回路接続時に架橋反応の速度が緩和され、内部応力が低下する効果を有するものである。 したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2及び3に記載された事項、及び前記周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2及び3に記載された事項、及び前記周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-01-27 |
結審通知日 | 2011-02-01 |
審決日 | 2011-02-25 |
出願番号 | 特願2006-154625(P2006-154625) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01R)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 稲垣 浩司、栗山 卓也 |
特許庁審判長 |
平上 悦司 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 中川 真一 |
発明の名称 | 熱硬化性回路接続部材及びそれを用いた電極の接続構造、電極の接続方法 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |