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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1235274
審判番号 不服2010-1414  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-22 
確定日 2011-04-14 
事件の表示 特願2000-116024「サーマルヘッド駆動方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月30日出願公開、特開2001-301222〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年4月18日の出願であって、平成21年7月2日及び同年10月8日に手続補正がなされ、平成21年10月8日付け手続補正は同年11月12日付けで却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年1月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。
なお、請求人は、当審における平成22年6月1日付け審尋に対して同年7月7日付けで回答書を提出している。

第2 平成22年1月22日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成22年1月22日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成22年1月22日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前の請求項1に、

「被加熱印刷体を加熱するサーマルヘッドの発熱体と、
前記発熱体にパルスを印加して複数の異なる温度に加熱する加熱制御手段とを有し、
前記加熱制御手段で、前記発熱体を1ライン周期の間に第1の温度に加熱するための第1のパルスを印加し、前記発熱体を1ライン周期の間に前記第1の温度より低い第2の温度に加熱するため前記第1のパルスの幅より狭い第2のパルスを印加する際、前記第1のパルスより遅れて前記第2のパルスを印加するように印加タイミングに時間差を設けることを特徴としたサーマルヘッド駆動方法。」とあったものを、

「被加熱印刷体を加熱するサーマルヘッドの発熱体と、
高温発色温度まで加熱する第1のパルスと低温発色温度まで加熱する第2のパルスを並列信号で処理して前記発熱体に印加する加熱制御手段とを有し、
前記加熱制御手段で、前記発熱体を1ライン周期の間に第1の温度に加熱するための前記第1のパルスを印加し、前記発熱体を1ライン周期の間に前記第1の温度より低い前記第2の温度に加熱するため前記第1のパルスの幅より狭い前記第2のパルスを印加する際、
前記第1のパルスよりも印加開始のタイミングが遅れて、しかも前記第1のパルスの印加期間と印加開始が重なるように前記第2のパルスを印加するようにして印加タイミングに時間差を設けることを特徴としたサーマルヘッド駆動方法。」とする補正を含んでいる(「下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、次のア及びイの補正事項からなる。
ア 本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記発熱体にパルスを印加して複数の異なる温度に加熱する加熱制御手段」を「高温発色温度まで加熱する第1のパルスと低温発色温度まで加熱する第2のパルスを並列信号で処理して前記発熱体に印加する加熱制御手段」として、発熱体に印加するパルスが第1のパルスと第2のパルスであり、該第1及び第2のパルスは並列信号で処理されるものであり、かつ、複数の異なる温度に加熱するとは、第1のパルスが高温発色温度まで加熱し、第2のパルスが低温発色温度まで加熱することである旨限定し、この限定に合わせてその後の「第1のパルス」及び「第2のパルス」の記載に「前記」を付加する。

イ 本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記第1のパルスより遅れて前記第2のパルスを印加するように印加タイミングに時間差を設ける」を「前記第1のパルスよりも印加開始のタイミングが遅れて、しかも前記第1のパルスの印加期間と印加開始が重なるように前記第2のパルスを印加するようにして印加タイミングに時間差を設ける」として、遅れる印加タイミングが「印加開始」のタイミングであることを限定し、かつ、第2のパルスの印加開始が第1のパルスの印加期間と重なることを限定する。

2 本件補正の目的
本件補正後の請求項1に係る上記1(2)の補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 刊行物の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-138883号公報(以下「引用例1」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば加熱温度に応じて異なる発色をする感熱体に対して好適な、異なる加熱温度を同一走査時に出力が可能なサーマルヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】サーマルヘッドにより感熱紙に対して印刷する場合、従来では、図4(A)に示す如く、印字エネルギー(温度)をT_(0)より高くすると印字温度が例えば黒色の如き一定の色として印刷され、それより低いエネルギーの場合印字濃度は薄くなるので、印字したくない部分はサーマルヘッドを加熱しない。つまり一ライン上でのデータの有無により印字する、印字しないの動作制御のみを行っている。
【0003】またこの制御を行うにあたり、サーマルヘッド基板の蓄熱による温度上昇を制限するための履歴制御回路を付加したものも存在するが、印字に際してサーマルヘッドを単一温度、つまり単一のエネルギーに制御することが目標であった。
【0004】近年、高温のサーマルヘッドで印刷するときは例えば黒色で印刷され、低温のサーマルヘッドで印刷するときは例えば赤色で印刷されるという複数色感熱用紙が製造されている。例えば王子製紙株式会社の製品名MB-23として提供されている。
【0005】即ち、この種の感熱用紙は、図4(B)に示す如く、サーマルヘッドの印字エネルギー(温度)がT_(2)のとき、例えば赤に発色し、印字エネルギーがT_(1)のとき(T_(2)<T_(1))黒に発色する。なおT_(1)よりも更に高くすると白化現象が現れる。なおこの種の感熱用紙は赤-黒の組み合わせのみでなく、印字エネルギーの低・高に基づき他の色の組み合わせのものも存在する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところでこのような複色感熱用紙を使用して、複色印刷を行うとき、例えば図5(A)に示す如く、走査線L_(0)上での赤黒印刷を行う場合、従来ではサーマルヘッドを、例えば先ず赤色用の印字データ部分を低温度に対応する電流量によりデータ転送を行い、それから再度同一走査線L_(0)上を高温度に対応する電流量によりデータ転送を行うことが必要であった。
【0007】また、図5(B)に示す如き、赤黒2色印刷を行う場合でも走査線L_(0)、L_(1)・・・において、これまた赤色部分の印字データを低温度に対応する電流量によりデータ転送を行い、それから同一走査線L_(0)、L_(1)・・・上を高温度に対応する電流量によりデータ転送を行っていた。
【0008】このように2種類のエネルギーに対応するため、1ラインにおいて2回のデータ転送を行い、各々のエネルギーを設定していた。このため1ラインにおいて2回のデータ転送を必要とするため印字速度が遅いという問題があった。
【0009】従って本発明の目的は、1ラインにおいて異なるエネルギー設定を行う場合でも一回の走査でこれを可能としたサーマルヘッドを提供することである。」

イ 「【0010】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明では、図1(A)に示す如く、サーマルヘッドの制御回路を構成する。そしてその印字制御範囲を、高エネルギー部においては、図1(B)に示す如く選定し、低エネルギー部においては同(C)に示す如く選定する。
【0011】図1(A)において、1はFETであり、図示省略したサーマルヘッドの1ドットのヒータが端子DOnに接続されており、これをオンオフ制御するものである。2はオア回路、3?5は多入力アンド回路、6はアンド回路、7?10はナンド回路、11、12はEOR(エクスクルシーブオア)回路、13は出力保護回路、14?18はインバータ、19、20はナンド回路、21はEOR回路、22?24はインバータである。
【0012】出力保護回路13は、サーマルヘッドを構成するICが正常動作のとき、多入力アンド回路3、4に「1」を出力するものである。また図1(B)に示す、高エネルギー部の印字ドットQ1、Q2、Q3、LQ2、RQ2の有無を示す信号が、図1(A)に示す信号Q1、Q2、Q3、LQ2、RQ2として入力され、図1(C)に示す、低エネルギー部の印字ドットq1、q2、q3の有無を示す信号が、図1(A)に示す信号q1、q2、q3として入力される。
【0013】そして、後述する如く、ストローブ信号STROBE1は、サーマルヘッドを高エネルギー部として長時間加熱して用紙上に黒色印字するためのものであり、ストローブ信号STROBE2はサーマルヘッドを低エネルギー部として短時間加熱して用紙上に例えば赤色印字するためのものであり、STROBE1>STROBE2である。
【0014】いま、図1(B)に示す該当印字Q1を印字するとき、Q2、Q3、LQ2、RQ2に印字データがなければ、これらは「0」であり、ナンド回路7?10はいずれも「1」を出力するので、多入力アンド回路5及び多入力アンド回路3はいずれも「1」を出力し、オア回路2はこれによりストローブ信号STROBE1により定められた時間T_(1)だけFET1をオンにし、サーマルヘッドのヒータを加熱する。
【0015】しかしQ2、Q3、LQ2、RQ2の少なくとも1つに印字データがあれば、その蓄熱効果を考慮して、後述するように、これに応じたゲート信号A1、B1、A2、B2に基づき制御される時間だけ多入力アンド回路5から「0」が出力されて前記ストローブ信号STROBE1による多入力アンド回路3の「1」の出力時間が前記T_(1)よりも短くなるように制御し、ストローブ信号STROBE1におけるサーマルヘッドのヒータのエネルギーが等しくなるように制御する。
【0016】また図1(C)に示す該当印字q1を印字するとき、q2、q3に印字データがなければ、これらは「0」であり、ナンド回路19、20はいずれも「1」を出力するのでアンド回路6及び多入力アンド回路4はいずれも「1」を出力し、オア回路2はこれによりストローブ信号STROBE2により定められた時間T_(2)(T_(1)>T_(2))だけFET1をオンにし、サーマルヘッドのヒータを加熱する。
【0017】しかしq2、q3の少なくとも1つに印字データがあれば、その蓄熱効果を考慮して、後述するように、これに応じたゲート信号C1、C2に基づき制御される時間だけアンド回路6から「0」が出力されて前記ストローブ信号STROBE2による多入力アンド回路4の「1」の出力時間が前記T_(2)よりも短くなるように制御し、ストローブ信号STROBE2におけるサーマルヘッドのヒータのエネルギーが等しくなるように制御する。
【0018】このようにして、一走査ラインにおいて長、短の複数の種類のストローブ信号により印字ヘッドを付勢することができるので、複数の熱エネルギーに対して異なる色を発色するような用紙に対しても、一回の印字走査により印字ヘッドを複数の熱エネルギーで制御することができ、一回の印字走査により複数の色の印字を行うことができる。
【0019】従って、従来のように同一走査ラインを発色数に応じて複数回走査する必要がなく、高速に複数の色の印字を行うことができる。」

ウ 「【0020】
【発明の実施の形態】本発明の一実施の形態を図1?図3に基づき説明する。図1は本発明におけるサーマルヘッドの1ドット当たりの制御回路を示し、図2はこの制御回路に印加される制御信号説明図であり、図3は本発明の一実施の形態図である。
【0021】なお図2に示す各種の制御信号は、図示省略した制御信号出力回路より出力されるものであり、いずれも同じ周期Sで出力されるものである。図2(A)に示す制御信号は、サーマルヘッドを高エネルギー状態で制御する場合の各種制御信号であり、同(B)に示す制御信号はサーマルヘッドを低エネルギー状態で制御する場合の各種制御信号である。
【0022】STROBE1信号は、図1(B)に示す印字制御範囲において、該当印字ドットQ1のみに印字ドットが存在する場合に、期間T_(1)だけFET1をオンにしてこれに接続されたサーマルヘッドを期間T_(1)だけ加熱制御するものであり、図2(A)に示す如く、期間T_(1)だけローレベルである。
【0023】GATE A1信号は、STROBE1信号と同時に立下がり、期間t_(1)後に立上がるものである。GATE A2信号は、STROBE1信号と同時に立下がり、期間(t_(1)+t_(2))後に立上がるものである。
【0024】GATE B1信号は、STROBE1信号が立下がってから期間(t_(1)+t_(2)+t_(3)+t_(4))後に立下がり、それから期間t_(5)後に、STROBE1信号と同時に立上がるものである。
【0025】GATE B2信号は、STROBE1信号が立下がってから期間(t_(1)+t_(2)+t_(3))後に立下がり、それから期間(t_(4)+t_(5))後に、STROBE1信号と同時に立上がるものである。
【0026】またSTROBE2信号は、図1(C)に示す印字制御範囲において、該当印字ドットq1のみに印字ドットが存在する場合に、期間T_(2)だけFET1をオンにしてこれに接続されたサーマルヘッドを期間T_(2)(T_(2)<T_(1))だけ加熱制御するものであり、図2(B)に示す如く、STROBE1信号と同時に立下がり、期間T_(2)だけローレベルである。
【0027】GATE C1信号は、STROBE2信号と同時に立下がり、期間t_(6)後に立上がるものである。GATE C2信号は、STROBE2信号と同時に立下がり、期間(t_(6)+t_(7))後に立上がるものである。
【0028】そしてこれらT_(1)、T_(2)、t_(1)?t_(8)は、用紙の特性に応じて適宜設定できるものである。まず図1、図2に基づき本発明における熱履歴制御について、図1(B)及び図1(C)に示す印字制御範囲、つまり高エネルギー部分については印字ドットQ1?Q3、LQ2、RQ2について下記の如く、印字データが存在し、低エネルギー部分については印字ドットq1?q3について、下記の如く、印字データが存在する場合について説明する。
【0029】ここでQ1を該当印字ドットとするとき、Q2はその1ライン直前の印字ドットを示し、Q3はその2ライン直前の印字ドットを示す。またLQ2は1ライン前の左側の印字ドットを示し、RQ2は1ライン前の右側の印字ドットを示す。
【0030】そしてq1を該当印字ドットとするとき、q2はその1ライン直前の印字ドットを示し、q3は2ライン直前の印字ドットを示す。
(1)印字ドットQ1にのみ印字データが存在するとき、
図1(B)に示す印字制御範囲において、該当印字ドットQ1にのみ印字データがあり、Q2、Q3、LQ2、RQ2に印字データが存在しない場合、図1(A)ではQ1=「1」、Q2=「0」、Q3=「0」、LQ2=「0」、RQ2=「0」となる。
【0031】これら各「0」によりナンド回路7?ナンド回路10はそれぞれ「1」を出力するため、多入力アンド回路5は「1」を出力する。このときサーマルヘッドが正常であれば出力保護回路13から「1」が出力され、Q1=「1」であり、インバータ14に図2(A)に示す如きSTROBE1信号が伝達されるので、図2(A)に示す期間T_(1)だけ多入力アンド回路3から「1」が出力される。このときq1=「0」のため、多入力アンド回路4は「0」を出力する。
【0032】このように、前記多入力アンド回路3から出力された「1」がオア回路2を経由してFET1に入力されるので、結局オア回路2は、Q1に印字データがあり、Q2、Q3、LQ2、RQ2に印字データがない場合、期間T_(1)だけ「1」をFET1に印加してこれをオンとし、FET1に接続されたサーマルヘッドのヒータを期間T_(1)だけ加熱制御する。
【0033】(2)印字ドットQ1とQ2に印字データが存在するとき、
該当印字ドットQ1とその1ライン前の印字ドットQ2に印字データが存在するとき、図1(A)ではQ1とQ2にそれぞれ「1」が印加され、Q3=「0」、LQ2=「0」、RQ2=「0」が印加される。これによりナンド回路8?10はそれぞれ「1」を出力する。
【0034】このときナンド回路7には、インバータ15により、図2(A)に示すGATE A1信号の反転信号とQ2=「1」が印加されるので、図2における期間t_(1)の間だけナンド回路7は「0」を出力し、他は「1」を出力する。従って多入力アンド回路5は、図2に示す期間T_(1)から期間t_(1)を引いた残りの期間(t_(2)+t_(3)+t_(4)+t_(5))は「1」を出力し、FET1もこの期間だけオンとなり、FET1に接続されたサーマルヘッドのヒータを(T_(1)-t_(1))期間だけ加熱制御する。
…略…
【0053】(8)印字ドットq1にのみ印字データが存在するとき、
図1(C)に示す印字制御範囲において、該当印字ドットq1にのみ印字データがあり、q2、q3に印字データが存在しない場合、図1(A)ではq1=「1」、q2=「0」、q3=「0」となる。
【0054】従ってq2=「0」、q3=「0」によりナンド回路19、20にそれぞれ「1」を出力するため、多入力カンド回路6は「1」を出力する。このときサーマルヘッドが正常であれば出力保護回路13から「1」が出力される。このときq1=「1」であり、インバータ22に図2(B)に示す如きSTROBE2信号が伝達されるので、図2(B)に示す期間T_(2)だけ多入力アンド回路4から「1」が出力される。このときQ1=「0」のため、多入力アンド回路3は「0」を出力する。
【0055】このように、前記多入力アンド回路4から出力された「1」がオア回路2を経由してFET1に入力されるので、結局オア回路2は、q1に印字データがあり、q2、q3に印字データがない場合、期間T_(2)(T_(2)<T_(1))だけ「1」をFET1に印加してこれをオンとし、FET1に接続されたサーマルヘッドのヒータを期間T_(2)だけ加熱制御する。
【0056】(9)印字ドットq1とq2に印字データが存在するとき、
該当印字ドットq1とその1ライン前の印字ドットq2に印字データが存在するとき、図1(A)ではq1とq2にそれぞれ「1」が印加され、q3=「0」が印加される。これによりナンド回路20は「1」を出力する。
【0057】このときナンド回路19には、インバータ23により、図2(B)に示すGATE C1信号の反転信号とq2=「1」が印加されるので、図2における期間t_(6)の間だけナンド回路19は「0」を出力し、他は「1」を出力する。従ってアンド回路6は、図2に示す期間T_(2)から期間t_(6)を引いた残りの期間(t_(7)+t_(8))は「1」を出力し、多入力アンド回路4及びオア回路2もこの期間(t_(7)+t_(8))だけ「1」を出力するので、FET1もこの期間だけオンとなり、FET1に接続されたサーマルヘッドのヒータを(T_(2)-t_(6))期間だけ加熱制御する。
…略…
【0065】以上説明のように、本発明により、サーマルヘッドのヒータにより高エネルギー部のデータでも低エネルギー部のデータでも任意に出力することが可能になる。例えば高エネルギー部のデータにより複数色感熱用紙を黒色印字制御したり、低エネルギー部のデータにより赤色印字制御すことができる。
【0066】このような制御回路を備えた、本発明のサーマルヘッドの一実施の形態を、図3に基づき、他図を参照して説明する。図3では64ビットの印字ヘッドを制御する例を示すものであり、他図と同一部分については同一記号を付している。図3においてFET1は、図1(A)で説明した該当印字ドットQ1を印字制御するものであり、L1はこの該当印字ドットQ1の左側の印字ドットを印字制御するFETを示し、R1は該当印字ドットQ1の右側の印字ドットを印字制御するFETを示し、VSSは接地信号を示し、VDDは制御系の電源電圧を示す。
【0067】30はシフトレジスタであって、高エネルギー部Q用の印字データが入力される64ビットの第1のシフトレジスタ(図示省略)と、低エネルギー部q用の印字データが入力される64ビットの第2シフトレジスタ(図示省略)により構成される。この例では、CLOCK信号により高エネルギー部Qの64ビットの入力データがDATAin1(Q)より第1シフトレジスタにシリアル入力され、また低エネルギー部qの64ビットの入力データがDATAin2(q)より第2シフトレジスタにシリアル入力され、それぞれDATAout1(Q)、DATAout(q)より、例えば次段にシリアル出力される、また31、32、33・・・は印字データを高エネルギー部Q用3ビット、低エネルギー部q用3ビットを保持するデータ保持用レジスタである。
【0068】データ保持用レジスタ31は、LOAD信号により入力端D_(1)に伝達された1ビットの印字データを順次3ラインだけ保持するものであり、同じく入力端d_(1)に伝達された1ビットの印字データを順次3ラインだけ保持するものである。データ保持用レジスタ32、33・・・も同様である。
【0069】例えば高エネルギー部に対する第1の印字データラインがシフトレジスタ30の第1シフトレジスタにセットされ、低エネルギー部に対する第1の印字データラインがシフトレジスタ30の第2シフトレジスタにセットされた後、LOAD信号をデータ保持用レジスタ31、32、33・・・のLATCH端子に入力すると、第1シフトレジスタの1ビット目のデータが伝達される入力端子D_(1)に伝達されたデータがデータ保持用レジスタ31に保持されてその端子Q1より出力され、第2シフトレジスタの1ビット目のデータが伝達される入力端子d_(1)に伝達されたデータがこれまたデータ保持用レジスタ31に保持されてその端子q1より出力される。
【0070】同様第1シフトレジスタ及び第2シフトレジスタの各2ビット目のデータがデータ保持用レジスタ32の出力端子Q1、q1より出力され、第1シフトレジスタ及び第2シフトレジスタの各3ビット目のデータがデータ保持用レジスタ33の出力端子Q1、q1より出力される。
【0071】次に高エネルギー部に対する第2の印字データラインがシフトレジスタ30の第1シフトレジスタにセットされ、低エネルギー部に対する第2の印字データラインがシフトレジスタ30の第2シフトレジスタにセットされた後、LOAD信号をデータ保持用レジスタ31、32、33・・・のLATCH端子に入力すると、第1シフトレジスタの新しい1ビット目のデータが入力端子D_(1)に伝達されてこれがデータ保持用レジスタ31に保持されてその出力端子Q1より出力され、それまで出力端子Q1より出力されていたデータは次段にシフトされて出力端子Q2より出力される。同様な制御が第2シフトレジスタについても行われ、第2シフトレジスタの新しい1ビット目のデータが入力端子d_(1)に伝達されてこれがデータ保持用レジスタ31に保持されてその端子q1より出力され、それまで出力端子q1より出力されていたデータは次段にシフトされて出力端子q2より出力される。
【0072】同様に第1シフトレジスタ及び第2シフトレジスタの各2ビット目のデータがデータ保持用レジスタ32の出力端子Q1、q1より出力され、それまで出力端子Q1、q1より出力されていたデータは次段にシフトされて出力端子Q2、q2より出力されることになる。
【0073】データ保持用レジスタ33においても同様な制御が行われ、第1シフトレジスタ及び第2シフトレジスタの各3ビット目のデータがデータ保持用レジスタ33の出力端子Q1、q1より出力され、それまで出力端子Q1、q1より出力されていたデータは次段にシフトされて出力端子Q2、q2より出力されることになる。
【0074】そして、高エネルギー部に対する第3の印字データラインがシフトレジスタ30の第1シフトレジスタにセットされ、低エネルギー部に対する第3の印字データラインがシフトレジスタ30の第2シフトレジスタにセットされた後、LOAD信号をデータ保持用レジスタ31、32、33・・・のLATCH端子に入力すると、前記と同様の制御が行われ、データ保持用レジスタ31においては、その第1シフトレジスタの新しい1ビット目のデータが出力端子Q1より出力され、それまで出力端子Q1、Q2より出力されていたデータは次段にシフトされてそれぞれ出力端子Q2、Q3から出力される。また第2シフトレジスタの新しい1ビット目のデータが出力端子q1より出力され、それまで出力端子q1、q2から出力されていたデータは次段にシフトされてそれぞれ出力端子q2、q3から出力される。
【0075】データ保持用レジスタ32においても、同様に、その第1シフトレジスタの新しい2ビット目のデータが出力端子Q1より出力され、それまで出力端子Q1、Q2から出力されていたデータは次段にシフトされてそれぞれ出力端子Q2、Q3から出力される。また第2シフトレジスタの新しい2ビット目のデータが出力端子q1より出力され、それまで出力端子q1、q2から出力されていたデータは次段にシフトされてそれぞれ出力端子q2、q3から出力される。
【0076】さらにデータ保持用レジスタ33においても、これまた同様に、その第1シフトレジスタの新しい3ビット目のデータが出力端子Q1より出力され、それまで出力端子Q1、Q2から出力されていたデータは次段にシフトされてそれぞれ出力端子Q2、Q3から出力される。また第2シフトレジスタの新しい3ビット目のデータが出力端子q1より出力され、それまで出力端子q1、q2から出力されていたデータは次段にシフトされてそれぞれ出力端子q2、q3から出力される。
【0077】ここで前記第1の印字データラインが、図1(B)、(C)に示す前2印字ラインに相当し、第2の印字データラインが前1印字ラインに相当し、第3の印字データラインが該当印字ラインに相当する。
【0078】そしてレジスタ31の出力端子Q2の出力はナンド回路8に入力(図1(A)のLQ2に相当)され、またレジスタ33の出力端子Q2の出力はナンド回路10に入力(図1(A)のRQ2に相当)される。このようにデータ保持用レジスタ31、32、33の出力に基づき、図1(A)に説明したものと同様の制御回路が構成される。
【0079】従ってFET1に対しては、前記図1(B)、(C)に示す印字制御範囲について前記各印字ドットの状態に応じた熱履歴制御が含まれるSTROBE1信号、STROBE2信号にもとづく制御が行れる。この制御はFET L1、FET R1・・・についても同様に行われる。
【0080】それ故、シフトレジスタ30の第1シフトレジスタに高エネルギー部の印字データを入力し、第2シフトレジスタに低エネルギー部の印字データを入力し、前記STROB1信号、STROB2信号、GATE A1信号、GATE A2信号、GATE B1信号、GATE B2信号、GATE C1信号、GATE C2信号等の制御信号を入力すれば、前記の如き、印字制御範囲をも含めた制御が高エネルギー部の印字データ及び低エネルギー部の印字データにもとづく印字制御が同時に行われ、例えば図5に示す如く、複数色印刷が一回の走査により行われる。
【0081】前記説明では、高、低の2つのエネルギーに対する実施例について説明したが、本発明は勿論これのみに限定されるものではなく、高、中、低の如く、3つのエネルギーに対する印刷制御を行うことができる。この場合、図1におけるオア回路2を3入力型とし、その3番目の入力部に、例えばアンド回路4と同様に、中エネルギーに対するストローブ信号と、印字制御信号(必要に応じて印字制御範囲に基づく熱履歴制御回路をも含む)を印加すればよい。
【0082】また色も赤と黒に限定されるものではなく、緑と黒でもその他の組み合わせでも、3色以上の組み合わせでも可能である。本発明のその他の実施の形態について説明する。」

エ 「【0086】
【発明の効果】本発明によれば下記の如き効果を奏することができる。
(1)本発明によれば同一走査ラインのデータを、複数の種類のエネルギーにより同時に印刷することができるので、従来のように異なる色単位に走査を行う必要がなく、複数色のサーマルヘッドによる印刷を高速で行うことができる。
【0087】(2)本発明によれば、複数の印字ラインの印字データを保持するデータ保持手段を設けたので、同一走査ラインのデータを複数の種類のエネルギーにより同時に印刷するだけでなく、その前の印字データにもとづく熱履歴制御を行うことができるので、サーマルヘッドに印加するエネルギーをこの熱履歴制御により細かく調整することができ、高速でしかも発色のきれいな、複数色のサーマルヘッドによる印刷が可能となる。
【0088】(3)本発明によればリライタブルな媒体に対してもその消去、書込みを高速に、しかも正確に行うことができる。」

オ 図1(B)及び(C)から、印字制御範囲とは、高エネルギー部分については、該当印字ドットQ1、その1ライン直前の印字ドットQ2、その2ライン直前の印字ドットQ3、1ライン前の左側の印字ドットLQ2及び1ライン前の右側の印字ドットRQ2であり、低エネルギー部分については、該当印字ドットq1、その1ライン直前の印字ドットq2及び2ライン直前の印字ドットq3であることが見て取れる。

カ 図1及び図3の記載から、次の(ア)ないし(オ)のことが見て取れる。
(ア)複数のFET1の各端子DOnにそれぞれ接続されているヒータはサーマルヘッドに複数ドット分備えられ、各ヒータは対応するFET1によりオンオフ制御されること。

(イ)各FET1は、対応するオア回路2の出力が「1」でオンし、該出力が「0」でオフすること。

(ウ)各オア回路2の出力は、第1多入力アンド回路3及び第2多入力アンド回路4のいずれかの出力が「1」の場合に「1」を出力すること。

(エ)各第1多入力アンド回路3は、出力保護回路13の出力がサーマルヘッドを構成するICが正常動作することを示す「1」であり、サーマルヘッドを高エネルギー部として長時間加熱して用紙上に黒色印字するためのストローブ信号STROBE1が「0」であり、かつ高エネルギー部の印字ドットQ1が「1」であるとき、第3多入力アンド回路5の出力が「1」であることを条件に「1」を出力すること。

(オ)各第2多入力アンド回路4は、出力保護回路13の出力がサーマルヘッドを構成するICが正常動作することを示す「1」であり、サーマルヘッドを低エネルギー部として短時間加熱して用紙上に例えば赤色印字するためのストローブ信号STROBE2が「0」であり、かつ低エネルギー部の印字ドットq1が「1」であるとき、第4多入力アンド回路6の出力が「1」であることを条件に「1」を出力すること。

キ 図1及び図2の記載から、次の(ア)及び(イ)のことが見て取れる。
(ア)第1多入力アンド回路3が、各周期(1cycle)において、出力保護回路13が「1」を出力していることを前提に「1」を出力してヒータを加熱する第1加熱制御期間は、第1多入力アンド回路3において、各周期内の所定の期間T_(1)の間「0」であるストローブ信号STROBE1の信号をインバータ14で反転した第1多入力アンド回路3への第1入力信号が「1」である第1期間(期間T_(1))から、GATE A1及びGATE A2とQ2及びLQ2との組み合わせと、GATE B1及びGATE B2とQ3及びRQ2との組み合わせとから決まる、第3多入力アンド回路5からの第1多入力アンド回路3への第2入力信号が「0」になっている第2期間を除いた第3期間であり、しかも、第1多入力アンド回路3の出力が「1」になる条件に第1多入力アンド回路3へのQ1入力が「1」であることが含まれていること。

(イ)第2多入力アンド回路4が、各周期(1cycle)において、出力保護回路13が「1」を出力していることを前提に「1」を出力してヒータを加熱する第2加熱制御期間は、第2多入力アンド回路4において、各周期内の所定の期間T_(2)の間「0」であるストローブ信号STROBE2の信号をインバータ22で反転した第2多入力アンド回路4への第3入力信号が「1」である第4期間(期間T_(2))から、GATE C1及びGATE C2とq2及びq3との組み合わせから決まる、第4多入力アンド回路6からの第2多入力アンド回路4への第4入力信号が「0」になっている第5期間を除いた第6期間であり、しかも、第2多入力アンド回路4の出力が「1」になる条件に第2多入力アンド回路4へのq1入力が「1」であることが含まれていること。

ク 上記カ及びキからみて、端子DOnを有するFET1、オア回路2、第1多入力アンド回路3、第2多入力アンド回路4、第3多入力アンド回路5、第4多入力アンド回路6、インバータ14、インバータ22などからなる図1のサーマルヘッドの制御回路は、ストローブ信号STROBE1の信号を、GATE A1、GATE A2、Q2、LQ2、GATE B1、GATE B2、Q3、RQ2等の信号を用い、その出力が「0」である第1期間(期間T_(1))からヒータを加熱する第1加熱制御期間である第3期間を求める演算と、ストローブ信号STROBE2の信号を、GATE C1、GATE C2、q2、q3等の信号を用い、その出力が「0」である第4期間(期間T_(2))からヒータを加熱する第2加熱制御期間である第6期間を求める演算とを各周期(1cycle)において同時に行い、オア回路2から、第1多入力アンド回路3へのQ1入力が「1」であることを条件に、第1加熱制御期間の間「1」を出力し、第2多入力アンド回路4へのq1入力が「1」であることを条件に、第2加熱制御期間「1」を出力し、オア回路2が「1」を出力している間、FET1をオンして前記端子DOnに接続されているヒータをオンする、サーマルヘッドのヒータの駆動回路であることが把握できる。

ケ 上記アないしクから、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「複数のヒータを有するサーマルヘッドの各ヒータを駆動する方法であって、
前記ヒータの駆動回路であるサーマルヘッドの制御回路を備え、
高エネルギー部分については、該当印字ドットをQ1、その1ライン直前の印字ドットをQ2、その2ライン直前の印字ドットをQ3、1ライン前の左側の印字ドットをLQ2及び1ライン前の右側の印字ドットをRQ2とし、低エネルギー部分については、該当印字ドットをq1、その1ライン直前の印字ドットをq2及び2ライン直前の印字ドットをq3とし、それらの範囲を印字範囲と呼ぶとすると、
前記制御回路は、第1ストローブ信号STROBE1を、GATE A1、GATE A2、Q2、LQ2、GATE B1、GATE B2、Q3、RQ2等の信号を用い、その出力が「0」である期間T_(1)からヒータを加熱する第1加熱制御期間を求める演算と、第2ストローブ信号STROBE2を、GATE C1、GATE C2、q2、q3等の信号を用い、その出力が「0」である期間T_(2)からヒータを加熱する第2加熱制御期間を求める演算とを、各周期(1cycle)において同時に行い、Q1入力が「1」であることを条件に、第1加熱制御期間「1」を出力し、q1入力が「1」であることを条件に、第2加熱制御期間「1」を出力し、「1」を出力している間ヒータをオンにして駆動するものであり、
前記第1ストローブ信号STROBE1は、前記サーマルヘッドを高エネルギー部として長時間加熱して用紙上に黒色印字するためのものであり、
前記第2ストローブ信号STROBE2は、前記サーマルヘッドを低エネルギー部として短時間加熱して用紙上に赤色印字するためのものであり、
前記第1ストローブ信号STROBE1が「0」である前記期間T_(1)は、前記第2ストローブ信号STROBE2が「0」である前記期間T_(2)よりも長く、前記第1ストローブ信号STROBE1と前記第2ストローブ信号STROBE2とは同時に「0」となって立下がり、
前記用紙は、高温で印刷するときは黒色で印刷され、低温で印刷するときは赤色で印刷されるという複数色感熱用紙であり、
例えば、前記印字制御範囲において、該当印字ドットQ1にのみ印字データがあり、Q2、Q3、LQ2、RQ2に印字データが存在しない場合は、前記ヒータを前記期間T_(1)だけ加熱制御し、前記印字制御範囲において、該当印字ドットQ1とその1ライン前の印字ドットQ2に印字データが存在するときは、前記ヒータを前記期間T_(1)から前記第1のストローブ信号STROBE1と同時に「0」になって立下がる前記GATE A1が「0」である期間t_(1)を除いた期間だけ加熱制御し、前記印字制御範囲において、該当印字ドットq1にのみ印字データがあり、q2、q3に印字データが存在しない場合は、前記ヒータを前記期間T_(2)だけ加熱制御し、前記印字制御範囲において、該当印字ドットq1とその1ライン前の印字ドットq2に印字データが存在するときは、前記ヒータを期間T_(2)から前記第2のストローブ信号STROBE2と同時に「0」になって立下がる前記GATE C1が「0」である期間t_(6)を除いた期間だけ加熱制御するものであって、
同一走査ラインのデータを、複数の種類のエネルギーにより同時に印刷することができるので、従来のように異なる色単位に走査を行う必要がなく、複数色の印刷を高速で行うことができ、サーマルヘッドに印加するエネルギーを熱履歴制御により細かく調整することができるので、高速でしかも発色のきれいな、複数色の印刷が可能となる、
サーマルヘッドの各ヒータを駆動する方法。」(以下「引用発明」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-30014号公報(以下「引用例2」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。

ア 「【0054】本実施形態では、サーマルヘッド19の駆動通電パルス信号を1画素記録周期内で3群に分け、第1通電パルス列+第2通電パルス列を黒発色、第2通電パルス列を赤発色、第3通電パルス列を熱制御用と割り当てているが、これらの順番には重要な意味がある。その理由を図8を参照して説明する。
【0055】図8(a)は本実施形態における通電パルス列の順番で駆動通電パルス信号を生成した場合、図8(b)は本実施形態における通電パルス列の順番と逆の順番で割り当てて記録通電パルスを生成した場合を示す。すなわち、図8(a)では、第1通電パルス列P1+第2通電パルス列P2を黒色の発色通電パルス、第2通電パルス列P2を赤色の発色通電パルス、第3通電パルス列P3を熱制御用パルスとし、図8(b)では、第1通電パルス列を熱制御用パルス列(図8(a)のP3に対応)、第2通電パルス列を赤色の発色通電パルス(図8(a)のP2に対応)、第2通電パルス列+第3通電パルス列を黒色の発色通電パルス(図8(a)のP1、P2に対応)としている。
【0056】本実施形態の順番の場合、黒、赤、黒という記録画像を連続記録すると赤記録の記録通電パルス列の前に比較的長い休止時間I1が生じる。しかし、本実施形態と逆順番の場合、赤記録の記録通電パルス列の前にI1のような休止時間が存在せず、黒記録の記録通電パルスの前に休止時間I2が生じる。
【0057】本実施形態で用いた記録媒体1は、図2で示したように赤発色から黒発色の間に赤と黒の混色領域が存在し、この領域をできるだけ使用しないことが混色のない赤画像を得るためには重要である。一般に文字などの二値記録画像では記録層の最大濃度ないしはそれに近い濃度で記録する。そのためには最大濃度を与える記録エネルギーにより、記録層の温度が最大濃度を与える温度以下にならなければよく、それ以上の温度では揺らぎがあっても良い。
【0058】二色記録の赤記録では図2に示したように最大濃度に飽和領域がないため、記録層の温度を厳密に管理する必要がある。このためにはできるだけ、赤記録のために通電する前の発熱体の温度が一定になっている方が赤記録のための記録エネルギーを印加したとき赤記録層の温度を一定にしやすい。
【0059】図2に示したように、記録エネルギーの大きい黒記録では蓄熱の割合が大きく、次に記録画素の発色に与える影響が大きい。従って、黒、赤と連続記録する場合図8(a)に示すように、赤記録の記録通電パルス列の前の休止時間I1が長い方が、発熱体の初期温度が一定になりやすく、図8(b)のように長い休止時間がない場合に比較して、最大濃度で混色のない赤記録を得ることが容易になる。
【0060】また、黒記録時は赤記録時と比較して高い記録エネルギーが必要なので、図8(b)で示したような逆順番では赤と黒の記録通電パルスの間に長い休止時間I2が生じ、発熱体が冷却されてしまうため、印加エネルギーをセーブする割合が減ってしまう。より小さな記録エネルギーでサーマルヘッドが駆動できることはサーマルヘッドの長寿命化を可能にする。」

イ 上記アから、引用例2には、
「二色記録の赤記録では、赤記録のために通電する前の発熱体の温度が一定になっている方が赤記録のための記録エネルギーを印加したとき赤記録層の温度を一定にしやすいことと、記録エネルギーの大きい黒記録では蓄熱の割合が大きく、次に記録画素の発色に与える影響が大きいこととから、黒、赤と連続記録する場合、赤記録の記録通電パルス列の前の休止時間が長い方が、発熱体の初期温度が一定になりやすく、長い休止時間がない場合に比較して、最大濃度で混色のない赤記録を得ることが容易になること、
また、より小さな記録エネルギーでサーマルヘッドが駆動できることはサーマルヘッドの長寿命化を可能にするところ、黒記録時は赤記録時と比較して高い記録エネルギーが必要なので、赤と黒の記録通電パルスの間に長い休止時間が生じ、発熱体が冷却されてしまうと、印加エネルギーをセーブする割合が減ってしまうことからみて、
第1通電パルス列及び第2通電パルス列を黒色の発色通電パルス、第2通電パルス列を赤色の発色通電パルス、第3通電パルス列を熱制御用パルスとして、黒、赤、黒という記録画像を連続記録すると赤記録の記録通電パルス列の前に比較的長い休止時間が生じるように、サーマルヘッドに通電して駆動する第1の二色記録方法の方が、
第1通電パルス列を熱制御用パルス列、第2通電パルス列を赤色の発色通電パルス、第2通電パルス列及び第3通電パルス列を黒色の発色通電パルスとして、黒、赤、黒という記録画像を連続記録すると赤記録の記録通電パルス列の前に休止時間が存在せず、黒記録の記録通電パルスの前に休止時間が生じるように、サーマルヘッドに通電して駆動する第2の二色記録方法よりも、混色防止及び長寿命化の点で優れている。」という技術事項(以下「引用技術」という。)が記載されているものと認められる。

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「高温で印刷するときは黒色で印刷され、低温で印刷するときは赤色で印刷されるという複数色感熱用紙」、「加熱」、「サーマルヘッド」、「ヒータ」、「『サーマルヘッドを高エネルギー部として長時間加熱して用紙上に黒色印字する』ためのものである『第1ストローブ信号STROBE1』」、「『サーマルヘッドを低エネルギー部として短時間加熱して用紙上に例えば赤色印字する』ためのものである『第2ストローブ信号STROBE2』」、「ヒータの駆動回路であるサーマルヘッドの制御回路」、「各周期(1cycle)において」、「『0』である」、「高温」、「低温」、「第1ストローブ信号STROBE1が「0」である前記期間T_(1)は、前記第2ストローブ信号STROBE2が「0」である前記期間T_(2)よりも長く」及び「サーマルヘッドの各ヒータを駆動する方法」は、それぞれ、本願補正発明の「被加熱印刷体」、「加熱」、「サーマルヘッド」、「発熱体」、「高温発色温度まで加熱する第1のパルス」、「低温発色温度まで加熱する第2のパルス」、「加熱制御手段」、「1ライン周期の間に」、「印加」、「第1の温度」、「第2の温度」、「第1のパルスの幅より狭い前記第2のパルス」及び「サーマルヘッド駆動方法」に相当する。

(2)引用発明の「サーマルヘッドの発熱体(サーマルヘッドの各ヒータ)」は、サーマルヘッドを高エネルギー部として長時間加熱して、「高温で印刷するときは黒色で印刷され、低温で印刷するときは赤色で印刷されるという複数色感熱用紙」上に黒色印字し、サーマルヘッドを低エネルギー部として短時間加熱して前記用紙上に例えば赤色印字するから、本願補正発明の「サーマルヘッドの発熱体」と、「被加熱印刷体を加熱する」点で一致する。

(3)引用発明の「加熱制御手段(ヒータの駆動回路であるサーマルヘッドの制御回路)」は、第1ストローブ信号STROBE1を、GATE A1、GATE A2、Q2、LQ2、GATE B1、GATE B2、Q3、RQ2等の信号を用い、その出力が「0」である期間T_(1)からヒータを加熱する第1加熱制御期間を求める演算と、第2ストローブ信号STROBE2を、GATE C1、GATE C2、q2、q3等の信号を用い、その出力が「0」である期間T_(2)からヒータを加熱する第2加熱制御期間を求める演算とを、各周期(1cycle)において同時に行い、Q1入力が「1」であることを条件に、第1加熱制御期間の間「1」を出力し、q1入力が「1」であることを条件に、第2加熱制御期間「1」を出力し、「1」を出力している間ヒータをオンにして駆動するものであるところ、この「第1加熱制御期間を求める演算と、第2加熱制御期間を求める演算とを、各周期(1cycle)において同時に行い、Q1入力が「1」であることを条件に、第1加熱制御期間の間「1」を出力し、q1入力が「1」であることを条件に、第2加熱制御期間「1」を出力し、「1」を出力している間ヒータをオンにして駆動する」ことは、本願補正発明の「高温発色温度まで加熱する第1のパルスと低温発色温度まで加熱する第2のパルスを並列信号で処理して前記発熱体に印加する」するから、引用発明の「加熱制御手段」と本願補正発明の「加熱制御手段」とは「高温発色温度まで加熱する第1のパルスと低温発色温度まで加熱する第2のパルスを並列信号で処理して前記発熱体に印加する」点及び「前記発熱体を1ライン周期の間に第1の温度に加熱するための前記第1のパルスを印加し、前記発熱体を1ライン周期の間に前記第1の温度より低い前記第2の温度に加熱するため前記第1のパルスの幅より狭い前記第2のパルスを印加する」で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「被加熱印刷体を加熱するサーマルヘッドの発熱体と、
高温発色温度まで加熱する第1のパルスと低温発色温度まで加熱する第2のパルスを並列信号で処理して前記発熱体に印加する加熱制御手段とを有し、
前記加熱制御手段で、前記発熱体を1ライン周期の間に第1の温度に加熱するための前記第1のパルスを印加し、前記発熱体を1ライン周期の間に前記第1の温度より低い前記第2の温度に加熱するため前記第1のパルスの幅より狭い前記第2のパルスを印加するサーマルヘッド駆動方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
前記第2のパルスを印加する際、本願補正発明では、前記第1のパルスよりも印加開始のタイミングが遅れて、しかも前記第1のパルスの印加期間と印加開始が重なるように前記第2のパルスを印加するようにして印加タイミングに時間差を設けるのに対して、引用発明では、第1ストローブ信号STROBE1と前記第2ストローブ信号STROBE2とは同時に「0」となって立下がっている、すなわち、前記第1のパルスよりも印加開始のタイミングが遅れておらず、しかも前記第1のパルスの印加開始と印加開始が同時になるように前記第2のパルスを印加するようにして印加タイミングに時間差を設けていない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)引用例2には、上記3(2)イに記載したとおりの引用技術が記載されている。

(2)引用発明の「サーマルヘッド駆動方法」は、前記第1ストローブ信号STROBE1と前記第2ストローブ信号STROBE2とは同時に「0」となって立下がっており、かつ、前記第1ストローブ信号STROBE1が「0」である期間T_(1)は、前記第2ストローブ信号STROBE2が「0」である期間T_(2)よりも長いから、Q1入力が「1」であることを条件に、第1加熱制御期間の間「1」を出力して黒色の印字ドットを印刷し、次の印字ラインで、q1入力が「1」であることを条件に、第2加熱制御期間「1」を出力し赤色の印字ドットを連続印刷する場合、赤色の印字ドットを印刷するための第2加熱制御期間「1」である出力の前には長い休止時間が生じないとともに、q1入力が「1」であることを条件に、第2加熱制御期間「1」を出力し赤色の印字ドットを印刷し、次の印字ラインで、Q1入力が「1」であることを条件に、第1加熱制御期間の間「1」を出力して黒色の印字ドットを連続印刷する場合、赤色の印字ドットを印刷するための第2加熱制御期間「1」である出力と黒色の印字ドットを印刷するための第1加熱制御期間「1」である出力との間の休止時間は長いものになる。
したがって、引用発明の「サーマルヘッド駆動方法」は、引用技術に照らせば、引用技術における第2の二色記録方法と同様の傾向のものであることとが当業者に自明である。

(3)そうすると、引用発明において、引用技術における第1の二色記録方法のように、黒色の印字ドット、赤色の印字ドット、黒色の印字ドットという印刷を連続して行うと、赤色の印字ドットを印刷するための第2加熱制御期間「1」である出力の前に比較的長い休止時間が生じるようにして、混色防止及び長寿命化の点で優れたものとするために、前記第2のパルスを印加する際、前記第1のパルスよりも印加開始のタイミングが遅れて、しかも前記第1のパルスの印加期間と印加開始が重なるように前記第2のパルスを印加するようにして印加タイミングに時間差を設けるようになすことは、当業者が引用技術に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

(4)効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び引用技術の効果から、当業者が予測できた程度のものである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成21年7月2日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年7月2日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものと認める。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記「第2〔理由〕2」で述べたとおり、本願発明を特定するために必要な事項について限定を付加したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含みさらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-08 
結審通知日 2011-02-15 
審決日 2011-02-28 
出願番号 特願2000-116024(P2000-116024)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石原 徹弥大塚 裕一牧 隆志  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 藏田 敦之
鈴木 秀幹
発明の名称 サーマルヘッド駆動方法及び装置  
代理人 今村 辰夫  
代理人 平岡 憲一  

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