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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1235279
審判番号 不服2010-6251  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-23 
確定日 2011-04-14 
事件の表示 特願2000-288218「ダイシング用固定シート及びダイシング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月 5日出願公開、特開2002-100587〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成12年9月22日の特許出願であって、同21年8月20日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同21年10月26日に意見書と共に明細書について手続補正書が提出されたが、同21年12月21日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同22年3月23日に本件審判の請求がされると共に明細書について再度手続補正書が提出され、同22年10月27日付けで審尋がなされ、その指定期間内の同22年12月14日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年3月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容の概要
平成22年3月23日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成21年10月26日付けで補正された明細書をさらに補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前の請求項1>
「基材フィルム上に接着層が設けられたダイシング用固定シートにおいて、
前記接着層は前記基材フィルムとの共押出により形成されたものであって、前記接着層を形成する接着剤のベースポリマーがホットメルト型熱可塑性樹脂であり、接着層の貯蔵弾性率が、20℃において1×10^(6)?1×10^(9)Paであり、
前記基材フィルムは熱可塑性樹脂により形成されたものであり、前記基材フィルムの融点が接着層の融点よりも20℃以上高いことを特徴とするダイシング用固定シート。」

(2)<補正後の請求項1>
「基材フィルム上に接着層が設けられたダイシング用固定シートにおいて、
前記接着層は前記基材フィルムとの共押出により形成されたものであって、前記接着層を形成する接着剤のベースポリマーが融点30?100℃のホットメルト型熱可塑性樹脂であり、接着層の貯蔵弾性率が、20℃において1×10^(6)?1×10^(9)Paであり、
前記基材フィルムは熱可塑性樹脂により形成されたものであり、前記基材フィルムの融点が接着層の融点よりも20℃以上高いことを特徴とするダイシング用固定シート。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、接着層を形成する接着剤のベースポリマーについて「融点30?100℃」という事項を付加して限定的に減縮するものであることが明らかであるので、さらに、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「ダイシング用固定シート」であると認める。

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-38556号公報(以下「引用例1」という。)及び特表平11-508924号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されていると認められる。

ア 引用例1
(ア)引用例1記載の事項
引用例1には、図面とともに以下の事項が記載されている。

a 【請求項1】
「【請求項1】半導体ウエハ加工時において、半導体ウエハ表面に加熱して貼り付けて半導体ウエハを保持保護するためのシートであって、融点105℃以下のホットメルト層Aを少なくとも有する半導体ウエハ保持保護用ホットメルトシート。」

b 段落【0014】
「【0014】ホットメルト層1は熱により溶融及び/又は軟化するホットメルト材で構成される。ホットメルト材としては、ホットメルト層1の融点を上記範囲にすることのできる成分であればよく、例えば、熱可塑性樹脂、ワックス等が挙げられる。ホットメルト材の融点は、好ましくは105℃以下(例えば30?105℃)、さらに好ましくは30?100℃、特に好ましくは40?80℃程度である。・・・(後略)」

c 段落【0015】?【0016】
「【0015】前記熱可塑性樹脂の代表的な例としては、ポリエチレン(PE);ポリブテン;エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体(EEAMAH)、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体(EGMA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー樹脂(IONO)などのエチレン共重合体やポリオレフィン系変性ポリマーなどのポリオレフィン系共重合体;ブタジエン系エラストマー(TPE-B)、エステル系エラストマー(TPE-E)、スチレン-イソプレン系エラストマー(TPE-SIS)などの熱可塑性エラストマー;熱可塑性ポリエステル;ポリアミド12系共重合体などのポリアミド系樹脂;ポリウレタン;ポリスチレン系樹脂;セロハン;ポリアクリロニトリル;メタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などのポリ塩化ビニル系樹脂などが挙げられる。
【0016】これらの中でも、低密度ポリエチレン(LDPE)(例えば、密度0.90?0.96g/cm^(3)、好ましくは密度0.91?0.94g/cm^(3)ポリエチレン);エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)(例えば、エチレン含量60?90重量%、酢酸ビニル含量40?10重量%のEVA、好ましくは、エチレン含量50?95重量%、酢酸ビニル含量50?5重量%のEVA)、アイオノマー樹脂(IONO)などのエチレン共重合体等のポリオレフィン系共重合体;熱可塑性高分子量ポリエステル(例えば、商品名:バイロンGV100、バイロンGV700など);熱可塑性エラストマーなどを用いる場合が多い。・・・(後略)」 (下線は後の便宜のため当審にて付与したものである。)

d 段落【0028】?【0029】
「【0028】図3の半導体ウエハ保持保護用ホットメルトシートは、ホットメルト層1と、ホットメルト層1の一方の面に形成された補強層3とで構成されている。
【0029】補強層3は、ホットメルト層1よりも20℃以上、好ましくは30℃以上の融点を有している。補強層3を構成する材料としては、融点が上記の条件を満たすものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂;・・・(中略)・・・などの熱可塑性樹脂のほか、・・・(中略)・・・などが例示できる。・・・(後略)」

e 段落【0030】
「【0030】図3に示されるホットメルトシートは、例えば、ホットメルト層1を構成するホットメルト材からなるシート又は該ホットメルト材を含む組成物と、前記補強層3を構成する材料からなるシート又は該材料を含む樹脂組成物とから、例えば、押出ラミネート法、ドライラミネート法などのラミネート法やコーティング法などの慣用の方法を利用することにより製造できる。」

上記摘記事項d及び図3より、「半導体ウエハ保持保護用ホットメルトシート」は、補強層3上にホットメルト層1が設けられたものであることは、当業者が容易に理解し得るところである。
また、ホットメルト層1を形成する「ホットメルト材」として、摘記事項bで熱可塑性樹脂が挙げられていることから、該「ホットメルト材」は、ホットメルト型熱可塑性樹脂から成るものである、ということができる。
さらに、「ホットメルトシート」は、摘記事項aに示されるように半導体ウエハを保持するためのものであるから、固定シートということができる。

(イ)引用例1記載の発明
そこで、引用例1記載の事項を補正発明に照らして整理すると引用例1には以下の発明が記載されていると認める。
「補強層3上にホットメルト層1が設けられた半導体ウエハ保持保護用固定シートにおいて、
ホットメルト層1と補強層3とは、慣用の方法により形成されたものであって、ホットメルト層1を形成するホットメルト材が融点30?100℃のホットメルト型熱可塑性樹脂であり、
補強層3は熱可塑性樹脂により形成されたものであり、補強層3の融点がホットメルト層1の融点よりも20℃以上高い半導体ウエハ保持保護用固定シート。」 (以下、「引用例1記載の発明」という。)

イ 引用例2
引用例2には、以下の記載がある。

f 第13頁第17行-第14頁第28行
「本発明は、主に、半導体ウェーハの研削およびダイシングの両工程を含む半導体ウェーハ処理工程に有用な接着剤成分および接着テープに関する。本発明の好適な接着剤成分およびウェーハ処理テープは、ホトレジスト層、ポリイミドパッシベーション層、シリコンオキシナイトライドパッシベーション層、およびシリコン等の大切な基材に対して低い初期接着力を与える。好適な実施態様では、接触時間にわたる接着力ビルドが最小を示しており、そのため半導体ウェーハおよび/または半導体ICチップをウェーハ処理テープから容易に除去することができ、見える程の量の接着剤残留物を残留させることがない。
一実施態様において、本発明は、不変支持体と、不変支持体に載置する非感圧製接着剤層とを含んで成る。なお、接着剤は、熱可塑性エラストマーブロック共重合体を含んで成る。好適には、接着剤は、室温で1×10^(6)パスカルを上廻る貯蔵弾性率を有する。熱可塑性エラストマーブロック共重合体は、熱可塑性物質(好適には約5?30%のスチレンであり、更に好適には約3?25%、最も好適には15?25%のスチレン)のセグメントと、ゴム状エラストマーのセグメントと、を含んで成る。特に好適な熱可塑性エラストマーブロック共重合体の例には、スチレンブロックと、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体およびスチレン-エチレン/プロピレン-スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体などのエチレン/プロピレンブロックと、を有するものがある。・・・(中略)・・・
本発明のもう一つの実施態様では、不変支持体と、この不変支持体に載置する非感圧接着剤層と、を含んで成る半導体ウェーハ処理テープを提供しており、この実施態様において、接着剤は、20°Cで2.7×10^(6)?4.0×10^(6)パスカルの貯蔵弾性率を示す水素化熱可塑性エラストマーブロック共重合体を含んで成るものである。スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンおよびスチレン-エチレン/プロピレン-スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体は、この実施態様において特に好適である。」

上記摘記事項fにおいて、「半導体ウェーハ処理テープ」は、ダイシング工程を含む半導体ウェーハ処理工程に有用な接着テープであり、基材に対して接着力を与えるものであることから、「半導体ウェーハのダイシング用固定テープ」ということができる。
よって、上記摘記事項fを技術常識に照らして整理すると、引用例2には、
「不変支持体上に接着剤層が設けられた半導体ウェーハのダイシング用固定テープにおいて、接着剤層を形成する接着剤のベースポリマーが熱可塑性樹脂であり、接着剤の貯蔵弾性率が、室温において1×10^(6)Paを上廻るものであること。」(以下、引用例2記載の事項」という。) が記載されていると認められる。

(3)対比
補正発明と引用例1記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
引用例1記載の発明の「補強層3」は、補正発明の「基材フィルム」に相当することは、技術常識に照らして明らかである。
また、引用例1記載の発明の「ホットメルト層1」は、基材フィルム(補強層3)上に設けられ、摘記事項aに示されるように半導体ウエハ表面に加熱して貼り付けるためのものであるから、補正発明の「接着層」に相当する。
そして、引用例1記載の発明の「ホットメルト材」は、接着層たる「ホットメルト層1」の主材料であり、かつポリマーであることから、補正発明における「接着剤のベースポリマー」に相当するものと認められる。

したがって、補正発明と引用例1記載の発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「基材フィルム上に接着層が設けられた固定シートにおいて、
前記接着層を形成する接着剤のベースポリマーが融点30?100℃のホットメルト型熱可塑性樹脂であり、
前記基材フィルムは熱可塑性樹脂により形成されたものであり、前記基材フィルムの融点が接着層の融点よりも20℃以上高い固定シート。」

そして、補正発明と引用例1記載の発明とは、以下の3点で相違している。
ア <相違点1>
補正発明は、固定シートが「ダイシング用固定シート」であるのに対して、引用例1記載の発明は、「半導体ウエハ保持保護用固定シート」である点。
イ <相違点2>
補正発明の「接着層は」「基材フィルムとの共押出により形成されたものであ」るのに対して、引用例1記載の発明の接着層と基材フィルムとは「慣用の方法」により形成されたものである点。
ウ <相違点3>
補正発明は、「接着層の貯蔵弾性率が、20℃において1×10^(6)?1×10^(9)Paであ」るのに対して、引用例1記載の発明は、接着層(「ホットメルト層1」)の貯蔵弾性率が明らかでない点。

(4)相違点の検討
ア <相違点1>について
上記(2)イにおける引用例2記載の事項の「固定テープ」は、引用例1記載の発明の用語でいえば「固定シート」に相当することは明らかであるから、引用例2には、固定シートを「ダイシング用固定シート」として用いることが記載されているということができる。
引用例2記載の事項は引用例1記載の発明と同じく半導体ウエハの固定に関するものであるから、引用例2記載の事項を引用例1記載の発明に適用して、相違点1に係る発明特定事項を補正発明のものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
なお、固定シートを「ダイシング用固定シート」として用いることは、引用例2以外にも例えば、特開平10-321563号公報(平成22年10月27日付け審尋にて示したもの)、特開平9-012991号公報に示されるように、本願の出願前において周知の事項であったということもできる。

イ <相違点2>について
補正発明は、「接着層」を「基材フィルムとの共押出により形成されたもの」とすることを発明特定事項とするものであるが、これに関し本件出願の明細書には、出願当初より「【0027】接着層12は、たとえば、慣用のホツトメルト型接着剤の塗布方法により設けることができる。すなわち、基材フィルム11との共押出、押出ラミ、慣用接着剤を用いての接着ラミ、溶媒に溶かしての湿式塗工等によって形成される。」と記載されているのみで、共押出を用いることによる効果、実験例は特段記載されていない。
一方、ダイシング用固定シートの分野において、「接着層」と「基材フィルム」とを共押出により形成することは、例えば、特開平9-153471号公報(段落【0019】等参照、平成22年10月27日付け審尋にて示したもの)、特開平11-323273号公報(段落【0044】等参照)、に示されるように、当該技術分野における慣用手段である。
そして、引用例1記載の発明に接した当業者が、基材フォルム(補強層3)と接着層(ホットメルト層1)を形成する際に、「慣用の方法」の一つとして、慣用手段たる共押出を採用することは、その採用を阻害する要因も格別見当たらないことからすれば、ごく自然になし得ることである。したがって、かかる慣用手段を引用例1記載の発明に適用して、相違点2に係る発明特定事項を補正発明のものとすることは、当業者が容易に想到し得るものといえる。
これに関し請求人は、平成22年12月14日付けで回答書にて、補正発明は、「半導体ウェハのダイシング工程では、回転しているブレードをその進行方向に対して下方向に押圧させながら半導体ウェハの切断を行うため、ダイシング時には、半導体ウェハを変形させようとする力が加わり、半導体ウェハにチッピングが発生するという問題を解決する」ことを課題としているところ、当審の引用例1(特開2000-38556号公報)記載の発明には、上記補正発明の課題の認識がなく、共押出が慣用手段であっても、それ以上の理由を問うことなく採用することはできない旨主張している。
しかしながら、先に指摘したように、本件出願の当初明細書は、慣用の製法の一つとして共押出を挙げていたのみであり、共押出を用いることによる効果、実験例は特段記載されていないのであるから、補正発明の解題と、慣用手段の一つである共押出を採用することの間に、格別牽連性を見出すことはできず、請求人の主張は採用し得ない。

ウ <相違点3>について
「接着層の貯蔵弾性率が、20℃において1×10^(6)?1×10^(9)Paであ」る補正発明における接着層を形成する接着剤のベースポリマーは、具体的には、本件出願の明細書段落【0022】?【0023】に記載されているように、
「低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、低結晶(アモルファス)ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリ酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体などのエチレン共重合体やポリオレフィン変性ポリマーなどのオレフィン系共重合体;ブタジエン系エラストマー、エステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、スチレン-ブタジエン系エラストマー、スチレン-イソプレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;熱可塑性ポリエステル;ポリアミド12系共重合体などのポリアミド系樹脂;ポリウレタン;ポリスチレン系樹脂;セロファン;ポリアクリロニトリル;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などのポリ塩ビニル系樹脂、アクリル系エラストマーなど」であり、
「中でも、超低密度ポリエチレン(好ましくは、密度0.910g/cm^(3) 以下)、エチレン-酢酸ビニル共重合(好ましくは、酢酸ビニル含量10?50重量%)、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(好ましくは、(メタ)アクリル酸含量5?30重量%)、アイオノマー樹脂、低結晶性(アモルファス)ポリプロピレン(結晶化度50%以下)、ブタジエン系エラストマー(例えば、商品名:ダイナロン,JSR(株)製)、熱可塑性ポリエステル(例えば、商品名:バイロンGV100、バイロンGV700など,東洋紡績(株)製)、スチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー、など」である。(なお、下線は便宜のため当審にて付与したものである。)

これに対して、引用例1記載の発明における接着層を形成する接着剤のベースポリマー(「ホットメルト材」)は、具体的には上記摘記事項(2)ア(ア)cで列挙されるものであるが、これらのうち、少なくとも、
○低密度ポリエチレン(LDPE);
○エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)(例えば、エチレン含量60?90重量%、酢酸ビニル含量40?10重量%のEVA、好ましくは、エチレン含量50?95重量%、酢酸ビニル含量50?5重量%のEVA)、
○アイオノマー樹脂(IONO)
○熱可塑性高分子量ポリエステル(例えば、商品名:バイロンGV100、バイロンGV700など)
が、補正発明における接着層を形成する接着剤のベースポリマーと一致している。
してみると、引用例1記載の発明は、接着層(「ホットメルト層1」)の貯蔵弾性率が明らかでないものの、補正発明と同様なベースポリマーを用いているのであるから、補正発明と同様に「接着層の貯蔵弾性率が、20℃において1×10^(6)?1×10^(9)Paであ」る蓋然性がきわめて高い。したがって、相違点3に係る発明特定事項は、実質的な差異ではないといえる。

また、仮に相違点3に係る発明特定事項が実質的な差異であるとしても、上記(2)イにおける引用例2記載の事項は、「ダイシング用固定テープにおいて、」「接着剤層を形成する接着剤」「の貯蔵弾性率が、室温において1×10^(6)Paを上廻るものであ」るところ、「室温」は通常20℃前後であるから、引用例2記載の事項を引用例1記載の発明に適用して、相違点3に係る発明特定事項を補正発明のものとすることは、当業者が容易に想到し得るところである。
なお、ダイシング用固定シートの接着層の貯蔵弾性率を20℃において1×10^(6)?1×10^(9)Pa程度とすることは、引用例2以外にも、上記特開平10-321563号公報(段落【0005】?【0006】等参照)に示されるように、本願の出願前において周知の事項であったということもできる。

エ <補正発明の効果>について
補正発明によってもたらされる効果も、引用例1記載の発明及び引用例2記載の事項並びに上記従来周知の各事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。

オ したがって、補正発明は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の事項並びに従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成21年10月26日付け手続補正書により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「ダイシング用固定シート」である。

2 引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、上記第2の2(2)に示したとおりである。

3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明から、接着剤のベースポリマーについて「融点30?100℃」という事項を削除したものである。
そうすると、実質上、本件出願の発明を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が上記第2の2(4)オで示したとおり、引用例1記載の発明及引用例2記載の事項並びに従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件出願の発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
したがって、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-09 
結審通知日 2011-02-10 
審決日 2011-02-23 
出願番号 特願2000-288218(P2000-288218)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
遠藤 秀明
発明の名称 ダイシング用固定シート及びダイシング方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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