• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1235287
審判番号 不服2007-20919  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-27 
確定日 2011-04-07 
事件の表示 特願2002-361754「プラズマCVD法による薄膜形成方法及び薄膜形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日出願公開、特開2004- 2961〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年12月13日(特許法第41条に基づく優先権主張 平成14年4月5日)の出願であって、平成19年3月20日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年同月28日)、同年5月25日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで明細書の記載に係る手続補正がなされたが、同年6月25日付けで拒絶査定がなされ(発送日は同年同月27日)、これに対して、同年7月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年8月7日付けで明細書の記載に係る手続補正がなされた後に、平成21年12月4日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され(発送日は同年同月9日)、平成22年2月5日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成19年8月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年8月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
2-1.本件補正
平成19年8月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」ということがある。)は、平成19年5月25日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3の
「【請求項1】 反応室内に所定のガスを導入し、成膜ドラム上の基材と、対向電極を設置して、反応性ガスをプラズマ化して、基材上に薄膜を形成する方法において、基材をロールからロールに連続で巻き上げる方式で、成膜ドラムと対向電極との間に、プラズマ電源により高周波電力を印加し、かつその電源周波数が50kHz以下であり、反応室内の成膜ドラムと対向電極の内から選ばれる一つ以上に、磁石を配置し、かつ基材を搬送して接触するロール部をアースから1MΩ以上のインピーダンスを有することを特徴とするプラズマCVD法による薄膜形成方法。
【請求項2】 反応室内に所定のガスを導入し、成膜ドラム上の基材と、対向電極を設置して、反応性ガスをプラズマ化して、基材上に薄膜を形成する装置において、基材をロールからロールに連続で巻き上げる方式で、成膜ドラムと対向電極との間に、電源周波数が50kHz以下であるプラズマ電源を設け、そのプラズマ電源により高周波電力を印加し、反応室内の成膜ドラムと対向電極の内から選ばれる一つ以上に、磁石を配置し、かつ基材を搬送して接触するロール部がアースから1MΩ以上のインピーダンスを有することを特徴とするプラズマCVD法による薄膜形成装置。
【請求項3】 反応室の圧力をp0、搬送・巻取り室の圧力をp1とした時に、p0>10p1であることを特徴とする請求項1または2に記載するプラズマCVD法による薄膜形成方法及び薄膜形成装置。」を、
「【請求項1】 反応室内に所定のガスを導入し、成膜ドラム上の基材と、対向電極を設置して、反応性ガスをプラズマ化して、基材上に薄膜を形成する方法において、基材をロールからロールに連続で巻き上げる方式で、成膜ドラムと対向電極との間に、プラズマ電源により高周波電力を印加し、かつその電源周波数が50kHz以下であり、反応室内の成膜ドラムと対向電極の内から選ばれる一つ以上に、磁石を配置し、かつ基材を搬送して接触するゴムロールからなるロール部をアースから1MΩ以上のインピーダンスを有することを特徴とするプラズマCVD法による薄膜形成方法。
【請求項2】 反応室内に所定のガスを導入し、成膜ドラム上の基材と、対向電極を設置して、反応性ガスをプラズマ化して、基材上に薄膜を形成する装置において、基材をロールからロールに連続で巻き上げる方式で、成膜ドラムと対向電極との間に、電源周波数が50kHz以下であるプラズマ電源を設け、そのプラズマ電源により高周波電力を印加し、反応室内の成膜ドラムと対向電極の内から選ばれる一つ以上に、磁石を配置し、かつ基材を搬送して接触するゴムロールからなるロール部がアースから1MΩ以上のインピーダンスを有することを特徴とするプラズマCVD法による薄膜形成装置。
【請求項3】 反応室の圧力をp0、搬送・巻取り室の圧力をp1とした時に、p0>10p1であることを特徴とする請求項1または2に記載するプラズマCVD法による薄膜形成方法及び薄膜形成装置。」と補正することを含むものである。

2-2.本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1、2の「基材を搬送して接触するロール部」を、「基材を搬送して接触するゴムロールからなるロール部」と補正するもので、「ロール部」の材質を「ゴムロール」に限定するものであるから、これは、平成18年法律第55号改正付則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-3.独立特許要件
本件補正の特許請求の範囲に係る補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、以下で本件補正後の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて検討する。

2-3-1.補正発明
補正発明は、平成19年8月7日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項2に記載される以下のとおりのものである。
「反応室内に所定のガスを導入し、成膜ドラム上の基材と、対向電極を設置して、反応性ガスをプラズマ化して、基材上に薄膜を形成する装置において、基材をロールからロールに連続で巻き上げる方式で、成膜ドラムと対向電極との間に、電源周波数が50kHz以下であるプラズマ電源を設け、そのプラズマ電源により高周波電力を印加し、反応室内の成膜ドラムと対向電極の内から選ばれる一つ以上に、磁石を配置し、かつ基材を搬送して接触するゴムロールからなるロール部がアースから1MΩ以上のインピーダンスを有することを特徴とするプラズマCVD法による薄膜形成装置。」

2-3-2.刊行物の記載
(1)原査定において引用文献1として引用され本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特表平7-502074号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「よく「プラズマ増強化学蒸着(plasma enhanced chemical vapor deposition)」すなわち「PECVD」と呼ばれているプラズマ重合は、種々の基体上に膜(フィルム)を形成するための既知の技術である。」(2頁左下欄8行-10行)
(刊1-イ)「第1図及び第2図に関連して更に詳細に説明する本発明の装置は、有機ケイ素、酸素及び不活性ガスを含むガス流から得られるプラズマから、蒸着硬質酸化ケイ素基材薄膜を再現可能に蒸着するのに使用するのが好ましい」(3頁右下欄19行-21行)
(刊1-ウ)「第1図に概略的に示すように、プラズマ処理装置10の実施例は包囲チャンバ11を有し、該チャンバ11内でプラズマが形成され且つ該チャンバ11内には基体13のような基体がプラズマ処理のために連続的に導入される。チャンバ11には、ガス供給装置15により1種類以上のガスが供給される。蒸気バリヤ特性をもつ製品を製造したい場合には、ガス供給装置15は、酸素成分、不活性ガス成分及び揮発した有機ケイ素成分を供給できる。しかしながら、例えばブラズマエッチングを行いたい場合には、ガス供給装置15は、酸素、又は酸素及びヘリウム、又は適当なエツチングガス混合物(例えば酸素及びハロゲン成分)を供給できる。
チャンバ11内の電界は、電源17により創出される。一般に、電源17は、蒸気バリヤコーティングのようなプラズマ処理中に約8kWの電力を供給する」(3頁右下欄24行-4頁左上欄5行)
(刊1-エ)「次に、第2図に関連してチャンバ11をより詳細に説明する(ここでは、プラズマ処理として、PECVDすなわちプラズマ重合を例示する)。
チャンバ11は、該チャンバll内にプラズマを形成する手段30を有する。プラズマ形成手段30は、チャンバ11内でプラズマに対面する表面34を形成する、電気付勢電極32を有する。第2図に示す実施例におけるプラズマ形成手段30はまた、ガス入口36を備えたガス供給装置15のような膜形成ガス源を有している。
基体13は、ストリップ又はウェブとしてチャンバ11内に供給され、該チャンバ11に通され、且つ該チャンバ11から出る。基体13の連続的に変化できる部分(以下、「連続的変化可能部分」という)はプラズマに露出され、蒸気バリヤ特性をもつ薄膜コーティングのようなプラズマ処理を行う。」(4頁左上欄18行-28行)
(刊1-オ)「導電/露出手段32の一実施例では、電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)が円筒状すなわちドラム状であるが、軸線40に沿って延びた全体として弧状の形状を用いることもできる。プラズマ対面表面34をこのように弧状又は円筒状にする目的は、可撓性基体13をプラズマ対面表面34と転がり接触するように配置でき、これにより、プラズマ処理中の任意の一時点で少なくともプラズマに露出される基体部分に負のバイアスがかけられる間、プラズマを通って供給される基体13の張力を調節する第2ロ-ラ42a、42bの補助によりウェブとして供給できるようにすることにある。手段44が、距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46にプラズマを閉じ込めるので、基体部分は閉じ込められたプラズマ内にある。」(4頁右上欄8行-17行)
(刊1-カ)「閉込め手段44は、プラズマ対面表面34から距離Δだけ間隔を隔ててチャンバ11内に取り付けられたシールド48を有するのが好ましい。プラズマ対面表面34が円筒状である場合には、シールド48もプラズマ対面表面34と同心状に配置され、その弧の長さ(従って、プラズマバンド46の長さを形成する長さ)は円筒状ドラム面の約70%にするのが好ましいけれども、可撓性基体材料の高速プラズマ処理を可能にするには少なくとも目に見える弧の長さにすべきである。」(4頁右上欄24行-29行)
(刊1-キ)「シールド48は、電気的に接地して「接地平面」(すなわち電源の戻り経路)を確立すべきである。チャンバ11の壁の一部としてシールド48を形成し、シールド48(距離Δ及びシールド48の弧の長さにより形成される)内の圧力を、これを包囲するチャンバ11の空間内の圧力(約1ミクロン以下に減圧されている)より大きくするのが好ましいと考えられる。
閉込め手段44は、プラズマ内に磁界を発生させる磁気手段50を更に有するのが好ましい。磁気手段50は、プラズマに対面する側のシールド側面とは反対側のシールド側面上でシールド48に取り付けることによりシールド48に隣接して配置される少なくとも1つの磁極対52a、52bで構成できる。」(4頁左下欄2行-11行)
(刊1-ク)「例1は、本発明の装置を用いた基体製造方法の実際を示すものである。・・・ローラ42a、42bのキャプタン張力を約17ポンド(約7.7kg)に設定し、巻戻し張力(rewind tension)及び巻解き張力(unwind tension)を約17ポンド(約4.5kg)に設定した。PETウェブの線速度は、100フイート/分(約30m/分)に設定した。ドラムは、50kHの周波数の4kWの電力で付勢された。」(4頁左下欄20行-同頁右下欄1行)(なお、「50kH」は「50kHz」の誤記であることは明らかなので、以下、「50kHz」と記載する。)
(刊1-ケ)「本発明の種々の特徴を利用した反応チャンバ及びその関連機器を示す概略側面図」(3頁左上欄「図面の簡単な説明」)と題されたFIG.2(5頁)を参照すると、以下のa)?d)の点がみてとれる。
a)符号「13」で示される線状の部材が、符号「42a」、「32」の外周である「34」、「42b」でそれぞれ示される三つの円状の部材に左から右へ上記の順序で巻きついており、符号「34」で示される部材と、符号「13」で示される線状の部材の符号「34」で示される部材に巻きついた部分が、符号「48」で示される部材と、符号「46」または「Δ」で示される空間を介して対向していること
b)符号「46」または「Δ」で示される空間は、符号「11」で示される部材と、符号「11」で示される部材の一部をなす符号「48」で示される部材とに設けられた符号「36」で示される部分を介して、符号「46」または「Δ」で示される空間と符号「11」で示される部材の外部へ連通していること
c)符号「34」で示される部材は、符号「17」を付された「電源」に接続され、同電源はアースの記号(当審注:JIS C0617-2に規定される電気的接地を意味する)にも接続され、符号「48」で示される部材が同様にアースの記号に接続されていること
d)符号「48」で示される部材の、符号「46」または「Δ」で示される空間とは反対側の部分に接して、符号「52a」を付された部材「N」と符号「52b」を付された部材「S」が複数配置されていること
ここで、上記摘示事項(刊1-エ)には「基体13は、ストリップ又はウエブ」と記載されることから、符号「13」で示される線状の部材は、長尺状で幅を有するウエブである「基体13」であるといえる。
そして、幅を有する「基体13」が側面図であるFIG.2において巻きつくのであるから、符号「42a」、「34」、「42b」でそれぞれ示される三つの円状の部材は、紙面垂直方向の幅を有する円筒状部材と言えるものであり、同(刊1-オ)の「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)」が円筒状すなわちドラム状であるが・・・プラズマを通って供給される基体13の張力を調節する第2ロ-ラ42a、42bの補助によりウェブとして供給できる」との記載から、符号「42a」、「34」、「42b」でそれぞれ示される三つの円状の部材は、それぞれ「第2ロ-ラ42a」、「円筒状すなわちドラム状」の「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)」、「第2ロ-ラ42b」であるといえる。
また、同(刊1-カ)には「プラズマ対面表面34から距離Δだけ間隔を隔ててチャンバ11内に取り付けられたシールド48を有するのが好ましい。プラズマ対面表面34が円筒状である場合には、シールド48もプラズマ対面表面34と同心状に配置され」と記載されることから、符号「11」で示される部材は「チャンバ11」であり、符号「48」で示される部材は「シールド48」であるといえるものであり、同(刊1-オ)には「手段44が、距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46にプラズマを閉じ込めるので、基体部分は閉じ込められたプラズマ内にある」と記載されることから、符号「46」または「Δ」で示される空間は「プラズマを閉じ込める」「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」であり、同(刊1-エ)には「ガス入口36を備えたガス供給装置15のような膜形成ガス源を有している」と記載されることから、符号「36」で示される部分は「ガス入口36」であるといえる。
さらに、同(刊1-キ)には「磁気手段50は、プラズマに対面する側のシールド側面とは反対側のシールド側面上でシールド48に取り付けることによりシールド48に隣接して配置される少なくとも1つの磁極対52a、52bで構成できる」と記載されることから、符号「52a」を付された部材「N」と符号「52b」を付された部材「S」は、「磁気手段50」の「少なくとも1つの磁極対52a、52b」であり、それらは「シールド48」の「プラズマを閉じ込める」「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」とは反対側の側面上に配置されているといえる。
したがって、FIG.2からは次のことが視認されるといえる。
a’)ウエブである「基体13」が、「第2ロ-ラ42a」、「円筒状すなわちドラム状」の「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)」、「第2ロ-ラ42b」に左から右へ上記の順序で巻きついており、ウエブである「基体13」の「プラズマ対面表面34」に巻きついた部分が、「プラズマを閉じ込める」「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」を介して「シールド48」と対向していること
b’)「プラズマを閉じ込める」「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」は、「チャンバ11」と「チャンバ11」の一部をなす「シールド48」とに設けられた「ガス入口36」を介して、「プラズマを閉じ込める」「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」と「チャンバ11」の外部へ連通していること
c’)「円筒状すなわちドラム状」の「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)」は「電源17」に接続され、同「電源17」は電気的に接地され、「円筒状すなわちドラム状」の「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)」のウエブである「部材13」が巻きついた部分に対向する「シールド48」が電気的に接地されていること
d’)「プラズマを閉じ込める」「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」とは反対側の「シールド48」の側面に複数の「磁極対52a、52b」が配置されていること

(2)原査定において引用文献2として引用され本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平10-298764号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(刊2-ア)「ローラ系を介して回転ドラム上を移動する導電性を有する基体表面にプラズマにより連続的に成膜するプラズマCVD装置において、前記基体の供給ローラから回転ドラムに至る経路の全てのローラのローラ表面とアース電位の間のインピーダンスの合計を10kΩ以上、かつ回転ドラムから巻取ローラに至る経路の全てのローラのローラ表面とアース電位の間のインピーダンスの合計を10kΩ以上とし、前記基体とその基体に高周波を印加する高周波電源の間にブロッキングコンデンサを介在させたことを特徴とするプラズマCVD装置。」(【請求項1】)
(刊2-イ)「請求項1記載において、前記高周波電源の周波数が50KHz?900KHzの範囲に規制されていることを特徴とするプラズマCVD装置。」(【請求項2】)
(刊2-ウ)「図39は、冷却ドラムと高周波電力を印加しプラズマを励起するとともに自己バイアス電圧を発生させるプラズマCVD装置の概略構成図である・・・同図において171は例えばフレキシブルな合成樹脂フィルムなどからなる基体、172はその基体171を連続的に繰り出す供給ローラ、173は基体171をガイドする中間ローラ、174は回転ドラム、175は回転ドラム174に高周波を印加する高周波電源、176はガス導入口、177は成膜された基体171を巻き取る巻取ローラである。
この方法では、イオン電流によるジュール熱はほとんど発生しないが、高周波電力による電流が基体の導電膜を通じて、基体搬送系や真空槽壁を介してアース側に流れて多量のジュール熱が発生する。この高周波電流を防止するためには徹底した高周波絶縁を行う必要があるが、周波数が高いため極めて困難である。薄膜とアース電位間に僅かな静電気容量があっても静電気的につながってしまい、同図に矢印178で示す如く薄膜中に高周波電流が流れ、多量のジュール熱が発生する。また、この際に発生する過電流によって基体の導電膜破壊が起こる。」(【0023】、【0024】)
(刊2-エ)「バイアス電力を上げるとバイアスを印加した瞬間に導電膜が破断する場合がある。また、低バイアス電力で損傷がほぼ認められない場合でも回転ドラム上でしわが発生し、成膜時にしわ部分の熱負けが生じる。
前記の損傷やしわ発生を防止する条件を検討した結果、中間ロール間の基体における高周波電流による単位面積当たりの発熱量を・・・抑制しなければならないことが分かった。また、この条件を満たすためには、バイアスの周波数を大幅に下げるとともに基体搬送系の高周波絶縁性(インピーダンス)を所定の値以上に高めなければならないことが分かった。」(【0038】、【0039】)
(刊2-オ)「また、基体を搬送するためのローラ(供給ローラ、巻取ローラ、中間ローラなど)の本体またはその一部をセラミックや合成樹脂などの電気絶縁性の材料で構成するか、ローラの芯材に電気絶縁材を用いるか、あるいは導電性を有する芯材を持たない中空状のローラを使用する手段が有効である。」(【0048】)
(刊2-カ)「この供給ローラ2ならびに巻取ローラ4は回転軸(芯材)及びローラ本体をセラミックス、合成樹脂、ガラス繊維及びそれらの複合物などで形成する・・・。」(【0055】)
(刊2-キ)「図24は、本発明の第7の実施の形態に係る中間ローラの拡大断面図である。この実施の形態に係る中間ローラ13の場合、ローラ本体43は硬質ゴムや硬質合成樹脂など比較的硬い電気絶縁材料からなり、前記第6の実施の形態と同様に傾斜溝46が多数形成され、その傾斜溝46には軟質ゴムなどからなる軟質材料47が充填されている。」(【0145】)

2-3-3.引用発明の認定
刊行物1の記載について検討する。
i)上記摘示事項(刊1-エ)には「第2図に関連してチャンバ11をより詳細に説明する(ここでは、プラズマ処理として、PECVDすなわちプラズマ重合を例示する)」と記載されており、第2図にはPECVDによる処理について示されているといえる。
さらに、摘示事項(刊1-イ)には「第1図及び第2図に関連して更に詳細に説明する本発明の装置」とあるから、第2図にはPECVDによる処理装置について示されているということができる。
そして、摘示事項(刊1-ア)に「プラズマ増強化学蒸着(plasma enhanced chemical vapor deposition)」すなわち「PECVD」と呼ばれているプラズマ重合は、種々の基体上に膜(フィルム)を形成するための既知の技術」とあり、「PECVD」は「CVD」の一種であることは明らかで、「膜(フィルム)」は「薄膜」に相当するから、「PECVD」は「プラズマCVD法による薄膜形成」の技術に他ならない。
したがって、第2図(FIG.2)には、プラズマCVD法による薄膜形成処理装置が示されているということができる。
ii)そして、第2図に示されるプラズマCVD法による薄膜形成処理装置について、視認事項(刊1-ケ)のb’)c’)から、「チャンバ11」内で、電気的に接地される「電源17」に接続される「円筒状すなわちドラム状」の「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)」と、電気的に接地されている「シールド48」との間に、「プラズマを閉じ込める」「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」があり、ウエブである「部材13」が上記「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)」に巻きついて上記「シールド48」に対向しているといえる。また、「ガス入口36」が上記「チャンバ11」内の上記「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」と外部を連通しており、摘示事項(刊1-エ)から「ガス入口36を備えたガス供給装置15のような膜形成ガス源を有している」ことから、「ガス入口36」から「膜形成ガス」が「チャンバ11」内の「バンド46」へ導入されるといえる。
iii)また、視認事項(刊1-ケ)のa’)から、上記「基体13」は、「第2ロ-ラ42a」、上記「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面34)」、「第2ロ-ラ42b」に左から右へ上記の順序で巻きついているといえる。
iv)さらに、視認事項(刊1-ケ)のd’)から、上記「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド46」とは反対側の「シールド48」の側面に複数の「磁極対52a、52b」が配置されているといえる。
v)以上から、刊行物1には、

「チャンバ(11)内で、電気的に接地される電源(17)に接続される円筒状すなわちドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))と、電気的に接地されているシールド(48)との間に、プラズマを閉じ込める距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド(46)があり、ウエブである部材(13)が上記電極32(すなわちそのプラズマ対面表面(34))に巻きついて上記シールド(48)に対向し、ガス入口(36)から上記チャンバ(11)内の上記バンド(46)へ膜形成ガスが導入され、上記基体(13)は、第2ロ-ラ(42a)、上記電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))、第2ロ-ラ(42b)に左から右へ上記の順序で巻きついており、上記バンド(46)とは反対側のシールド(48)の側面に複数の磁極対(52a、52b)が配置されているプラズマCVD法による薄膜形成処理装置。」の発明(以下、「引用発明」という。)

が記載されているといえる。

2-3-4.補正発明と引用発明との対比
i)引用発明の「チャンバ(11)」は、その内部に「プラズマを閉じ込める距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド(46)」を有し、「基体部分は閉じ込められたプラズマ内にあ」(摘示事項(刊1-オ))り、そこで「蒸気バリヤ特性をもつ薄膜コーティングのようなプラズマ処理」(摘示事項(刊1-エ)参照)が行われることから、補正発明の「反応室」に相当する。
ii)次に、引用発明の「チャンバ(11)内のバンド(46)」へ「導入」される「膜形成ガス」についてみると、刊行物1の3頁右上欄21-23行には「本発明の一実施例では、蒸気バリヤ特性をもつ酸化ケイ素基材膜は、揮発した有機ケイ素化合物、酸素及び不活性ガスを含むガス流から得られるグロー放電プラズマから蒸着される」と記載され、同3頁左下欄28行-右上欄3行には「揮発した有機ケイ素成分には、チャンバ内に流入する前に酸素成分及び不活性ガス成分を添加するのが好ましい・・・ガス流の不活性ガスはヘリウムが好ましい」と記載されていることから、引用発明において「チャンバ内に流入する」のは「揮発した有機ケイ素化合物」と「酸素」と「不活性ガス」としての「ヘリウム」との混合ガスであり、これらが「膜形成ガス」を構成しているといえる。
一方、補正発明の「反応室内」へ「導入」される「所定のガス」についてみると、本願明細書の【0013】には「反応室4には、原料ガス導入口6より・・原料ガスと・・・酸素等の活性なキャリヤガスと、ヘリウム・・・等の不活性なキャリヤガスが供給され」と記載されることから、補正発明の「反応室内へ」「導入」される「所定のガス」は、「原料ガス」と「酸素等の活性なキャリヤガス」と「ヘリウム等の不活性なキャリヤガス」との混合ガスといえる。
すると、引用発明の「揮発した有機ケイ素化合物」が形成される薄膜の原料ガスであることは明らかだから、引用発明の「膜形成ガス」と補正発明の「所定のガス」の構成が同じといえるので、引用発明の「膜形成ガス」は補正発明の「所定のガス」に相当するということができる。
iii)また、補正発明の「反応性ガス」については、本願明細書【0016】に「プラズマ11中で原料ガスと活性ガスが反応し、原子又は分子ラジカル種が生成され」と記載されることから、「原料ガスと活性ガス」が「プラズマ化」して薄膜を形成するものであり、上記「活性ガス」は本願明細書の【0013】に「酸素等の活性なキャリヤガス」とあるので「活性なキャリヤガス」といえる。
すると、補正発明の「反応性ガス」は「原料ガス」と「酸素等の活性なキャリヤガス」からなるものといえる。
一方、引用発明では、上記刊行物1の3頁右上欄21-25行によれば、「膜形成ガス」中の原料ガスである有機ケイ素化合物と酸素がプラズマ化されて膜が蒸着されるものであるから、引用発明の「膜形成ガス」中の原料ガスである揮発した有機ケイ素化合物と酸素は、補正発明の「反応性ガス」を構成する「原料ガス」と「酸素等の活性なキャリヤガス」に当たるものといえる。
よって、引用発明の「膜形成ガス」中の原料ガスである揮発した有機ケイ素化合物と酸素は、補正発明の「反応性ガス」に相当するということができる。
iv)引用発明の「円筒状すなわちドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」は、「プラズマを閉じ込める距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド(46)」内で「ウエブである部材(13)」が「巻きついて」おり、当該「ウエブである部材(13)」が「プラズマに露出され、蒸気バリヤ特性をもつ薄膜コーティングのようなプラズマ処理」が行われる(摘示事項(刊1-エ)参照)ことから、補正発明の「成膜ドラム」に相当するといえる。
v)引用発明の「ウエブである部材(13)」は、「プラズマに露出され、蒸気バリヤ特性をもつ薄膜コーティングのようなプラズマ処理」が行われる(摘示事項(刊1-エ)参照)ものであり、本願明細書の【0013】には「連続したウエッブ状のプラスティックフィルム基材」とあるので「基材」は「ウエッブ状」であるから、「基体(13)」も「ウエブ」であるので、引用発明の「ウエブである部材(13)」は補正発明の「基材」に相当する。
vi)引用発明の「シールド(48)」は、「電気的に接地されている」ので電極と言い得るものであり、「プラズマを閉じ込める距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド(46)」内で「電極32(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」に「巻きついて」いる「ウエブである部材(13)」に「対向」して設置され、上記「バンド(46)」内で「プラズマを閉じ込める」ものだから、補正発明の「対向電極」に相当するといえる。
vii)引用発明の「上記基体(13)は、第2ロ-ラ(42a)、上記電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))、第2ロ-ラ(42b)に左から右へ上記の順序で巻きついて」いることについて検討する。
刊行物1の摘示事項(刊1-オ)には「プラズマ対面表面34をこのように弧状又は円筒状にする目的は・・・プラズマを通って供給される基体13の張力を調節する第2ロ-ラ42a、42bの補助によりウェブとして供給できるようにすることにある」と記載され、また、同(刊1-ク)には「ローラ42a、42bのキャブタン張力を約17ポンド(約7.7kg)に設定し、巻戻し張力(rewind tension)及び巻解き張力(unwind tension)を約17ポンド(約4.5kg)に設定した。PETウェブの線速度は、100フイート/分(約30m/分)に設定した」と記載されることから、「ウェブ」である「基体13」が、「基体13の張力を調節する第2ロ-ラ42a、42bの補助によりウェブとして供給できるようにするため」に、「ローラ42a、42b」から巻解かれ、巻戻されることによって一定の線速度で移動するものであることが分かる。
そして、一定の線速度で巻解かれ巻戻されることは、連続的に「ウェブ」である「基体13」が巻き上げられることともいえるから、これは補正発明の「連続で巻き上げる方式」ということができる。
すなわち、引用発明では「上記基体(13)は、第2ロ-ラ(42a)、上記電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))、第2ロ-ラ(42b)に左から右へ上記の順序で巻きついて」いることで、「基体(13)」が連続で巻き上げられるものといえるから、これは補正発明の「基材をロールからロールに連続で巻き上げる方式」に相当するといえる。
viii)引用発明の「バンド(46)とは反対側のシールド(48)の側面に複数の磁極対(52a、52b)が配置されている」は、「磁極対(52a、52b)」は磁石であることが明らかだから、上記vi)の検討を併せみると、補正発明の「反応室内の対向電極に、磁石を配置」することに相当するといえる。
ix)引用発明の「第2ロ-ラ(42a)」、「円筒状すなわちドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」、「第2ロ-ラ(42b)」は「ウエブである部材(13)」を搬送して接触するものだから、補正発明の「基材を搬送して接触するロールからなるロール部」に相当するということができる。
x)引用発明の「電気的に接地される電源(17)に接続される円筒状すなわちドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」と「電気的に接地されているシールド(48)」との間の電気的な接続について以下に検討する。
摘示事項(刊1-ウ)には「電源17は、蒸気バリヤコーティングのようなプラズマ処理中に約8kWの電力を供給する」とあるから、「電源17」は「プラズマ」を発生させるための「電源」であって補正発明の「プラズマ電源」といい得るものである。
また、同(刊1-ク)には「ドラムは、50kHzの周波数の4kWの電力で付勢された」とあり、この記載は引用発明の実施例である「例1」についての摘示だから、「ドラム」は「ドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」であることは明らかで、引用発明では、「電源17」が「50kHzの周波数」の「電力」を「ドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」すなわち「成膜ドラム」(上記iv)参照)に供給するものといえ、補正発明も引用発明も「50kHz」の同じ周波数の電力を供給することから、引用発明の電力の供給は「高周波電力」の供給であるといえる。
また、「電源(17)」は「電気的に接地」され、また「円筒状すなわちドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」にも接続され、これに「距離Δの寸法すなわち幅をもつバンド(46)」を介して「対向」する「シールド(48)」すなわち「対向電極」(上記vi)参照)は「電気的に接地されている」ものである。
したがって、引用発明は「50kHzの周波数」のプラズマを発生させる「電源17」を設けて、「円筒状すなわちドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」と「シールド(48)」との間に「電源17」により高周波電力を供給するものであり、これは、補正発明の「電源周波数が50kHzであるプラズマ電源を設」けて、「成膜ドラムと対向電極との間にそのプラズマ電源により高周波電力を印加」することに相当するといえる。
xi)引用発明の「薄膜形成処理装置」が補正発明の「薄膜を形成する装置」、「薄膜形成装置」に相当することは明らかである。
xii)以上のことから、補正発明と引用発明とは
「反応室内に所定のガスを導入し、成膜ドラム上の基材と、対向電極を設置して、反応性ガスをプラズマ化して、基材上に薄膜を形成する装置において、基材をロールからロールに連続で巻き上げる方式で、電源周波数が50kHzであるプラズマ電源を設け、成膜ドラムと対向電極との間にそのプラズマ電源により高周波電力を印加し、反応室内の対向電極に磁石を配置し、かつ基材を搬送して接触するロール部を有するプラズマCVD法による薄膜形成装置。」の点(一致点)で一致し、以下の点で両者は相違する。

(相違点1)補正発明は、「成膜ドラムと対向電極との間に」電源周波数が50kHzである接地された「プラズマ電源を設け」、そのプラズマ電源により高周波電力を印加するものであるのに対して、引用発明は、接地された「電源17」を「ドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」に接続し、これに対向する「シールド(48)」を接地して、高周波電力の供給を行っている点

(相違点2)補正発明においては「基材を搬送して接触するゴムロールからなるロール部がアースから1MΩ以上のインピーダンスを有する」ものであるのに対して、引用発明においては「ロール部」の「材質」と「インピーダンス」について特定されていない点

2-3-5.相違点の検討
(1)相違点1について
引用発明は、プラズマ電源である接地された「電源17」を「ドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」に接続し、これに対向する「シールド(48)」を接地して高周波電力を供給するもので、「ドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」と「シールド(48)」との間に接地されたプラズマ電源を設け、そのプラズマ電源により高周波電力を印加するものではない。
しかしながら、例えば、拒絶査定時に引用された特開2000-336196号公報(公開日 平成12年12月5日)の【図1】、【0027】には、「成膜用ドラム8」とこれに対向して配置される「電極9」との間に、成膜のため、「電源10」を設けてRF電圧を印加することが示されており、成膜ドラムと対向電極との間にプラズマ電源により高周波電力を印加することは、上記文献に示されるように周知技術である。
そして、高周波電源を用いる装置において接地してアースをとることは危険防止のために当然になされることであり、成膜ドラムと対向電極との間に成膜のための必要な電位差を与えられるのであれば、接地位置は何処であっても電気的に等価であるから接地位置は任意といえるので、接地位置をプラズマ電源とすることは設計的に成し得ることといえる。
すると、引用発明において、高周波電力の印加方式として上記周知技術の採用に当たり特段の阻害要因も見いだせないことから、上記周知技術を採用して「ドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」と「シールド(48)」との間に接地した「プラズマ電源」を設け、そのプラズマ電源で高周波電力を印加するようにすることに格別の困難性は見いだせない。

(2)相違点2について
i)刊行物2についての上記摘示事項(刊2-ア)及び(刊2-イ)には、それぞれ「ローラ系を介して回転ドラム上を移動する導電性を有する基体表面にプラズマにより連続的に成膜するプラズマCVD装置において、前記基体の供給ローラから回転ドラムに至る経路の全てのローラのローラ表面とアース電位の間のインピーダンスの合計を10kΩ以上、かつ回転ドラムから巻取ローラに至る経路の全てのローラのローラ表面とアース電位の間のインピーダンスの合計を10kΩ以上とし、前記基体とその基体に高周波を印加する高周波電源の間にブロッキングコンデンサを介在させたことを特徴とするプラズマCVD装置。」と「前記高周波電源の周波数が50KHz?900KHzの範囲に規制されていることを特徴とするプラズマCVD装置。」が記載されており、これは「基体」を「ローラ系」を「介し」て「回転ドラム」へ移動させる間に「基体表面にプラズマにより連続的に成膜するプラズマCVD装置」である点で引用発明と共通する。
ii)摘示事項(刊2-キ)には「中間ローラ13の場合、ローラ本体43は硬質ゴムや硬質合成樹脂など比較的硬い電気絶縁材料からなり、前記第6の実施の形態と同様に傾斜溝46が多数形成され、その傾斜溝46には軟質ゴムなどからなる軟質材料47が充填されている。」とあるから、「ローラ系」をなす「中間ローラ13」をゴム製とすることができることが分かる。
また、同(刊2-オ)には「基体を搬送するためのローラ(供給ローラ、巻取ローラ、中間ローラなど)の本体またはその一部をセラミックや合成樹脂などの電気絶縁性の材料で構成する」とあり、同(刊2-カ)にも同様に「供給ローラ2ならびに巻取ローラ4は回転軸(芯材)及びローラ本体をセラミックス、合成樹脂、ガラス繊維及びそれらの複合物などで形成する」とあって、「中間ローラ13」の材質としてゴムの使用が記載されているのだから、同じく「基体を搬送するためのローラ」である「供給ローラ2」及び「巻取ローラ4」を電気絶縁性の材料であるゴム製とすることは設計的事項というべきである。
iii)さらに、摘示事項(刊2-ウ)には「高周波電力による・・多量のジュール熱が発生・・基体の導電膜破壊が起こる」と記載され、同(刊2-エ)には、「損傷やしわ発生を防止する条件を検討した結果・・・基体搬送系の高周波絶縁性(インピーダンス)を所定の値以上に高めなければならない」と記載されることから、刊行物2のプラズマCVD装置は、「基体の供給ローラから回転ドラムに至る経路の全てのローラのローラ表面とアース電位の間のインピーダンスの合計を10kΩ以上、かつ回転ドラムから巻取ローラに至る経路の全てのローラのローラ表面とアース電位の間のインピーダンスの合計を10kΩ以上」とするものであるといえる。
iv)ところで、引用発明を見ると、刊行物1の【第2図】に示されている装置においては、摘示事項(刊1-ク)から「50kHzの周波数の4kWの電力」である高周波電力を印加するものであり、「シールド48」は接地されており、同(刊1-オ)に「プラズマに露出される基体部分に負のバイアスがかけられる」とあることから、これは高周波によって自己バイアスがかかるものということができる。
そして、上記摘示事項(刊2-ウ)、(刊2-エ)に記載されるように、高周波電力による自己バイアスがかけられる場合には、ジュール熱の発生による損傷やしわ発生を防止することが要求されるから、引用発明においても当然にそれらが要求されるものである。
v)ここで、補正発明の「基材を搬送して接触するゴムロールからなるロール部」の「アースから」の「インピーダンス」の「アース」すなわち接地位置が何処を意味するかについて検討するに、例えば「基材が搬送されて接触する金属ロールへの電力漏れを防止するために、金属ロールとアース間におけるインピーダンスを1kΩ以上に設定した」(本願明細書【0012】)とあることから、「金属ロール」が「アース」されていることが明らかであり、さらにいえば「真空薄膜装置では装置壁全体がアースである」(本願明細書【0019】)ことから、ロールを支持する部分がアースということができる。
一方、刊行物2のプラズマCVD装置においても、ロールを支持する部分である装置の壁は「真空槽壁などのアース電位構造材」(【0097】)であるから、やはりロールを支持する部分がアースということができる。
したがって、補正発明と刊行物2のプラズマCVD装置とは、ロールのインピーダンスの基準は何れも装置筐体のロール支持部分で共通するということができる。
vi)すると、刊行物2のプラズマCVD装置は、上記iii)において述べたように、ジュール熱の発生を防ぐために「基体搬送系の高周波絶縁性(インピーダンス)」の合計を「10kΩ以上」とするものであるが、インピーダンスがより高い方がよいことは明らかであり、上記ii)で検討したようにローラの材質として電気絶縁性であるゴムを採用できること、インピーダンスが導電路の長さやその断面積にも影響されることに鑑みれば、引用発明において刊行物2に示される技術手段を適用し、「円筒状すなわちドラム状の電極(32)(すなわちそのプラズマ対面表面(34))」、「第2ロ-ラ42a、42b」をゴム製とし、それらがアースから1MΩ以上のインピーダンスとなるようにすることに必要に応じてなし得る程度のことであって、格別の困難性は見いだせない。

そして、上記各相違点に基づく補正発明の奏する作用効果も引用例1,2の記載から予測できる範囲のものであり、格別なものではない。
以上から、補正発明は刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2-3-6.むすび
したがって、本件補正は,特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下する。

3.本願発明について
3-1.本願発明の認定
平成19年8月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載される発明は、平成19年5月25日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項2に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「反応室内に所定のガスを導入し、成膜ドラム上の基材と、対向電極を設置して、反応性ガスをプラズマ化して、基材上に薄膜を形成する装置において、基材をロールからロールに連続で巻き上げる方式で、成膜ドラムと対向電極との間に、電源周波数が50kHz以下であるプラズマ電源を設け、そのプラズマ電源により高周波電力を印加し、反応室内の成膜ドラムと対向電極の内から選ばれる一つ以上に、磁石を配置し、かつ基材を搬送して接触するロール部がアースから1MΩ以上のインピーダンスを有することを特徴とするプラズマCVD法による薄膜形成装置。」

3-2.刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特表平7-502074号公報)、刊行物2(特開平10-298764号公報)には、それぞれ上記「2-3-2.(1)」、「2-3-2.(2)」で摘示した事項が記載されている。

3-3.対比・判断
本願発明は、補正発明の「基材を搬送して接触するゴムロールからなるロール部」の内から、「ゴムロールからなる」という特定事項を除いて、「基材を搬送して接触するロール部」とするものである。
してみると、本願発明の発明特定事項のうち、「基材を搬送して接触するロール部」を、「基材を搬送して接触するゴムロールからなるロール部」に限定したものに相当する補正発明が、上記「2-3.独立特許要件」に記載したとおり、刊行物1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、補正発明と同様の理由により、本願発明も刊行物1、2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
そして、本願発明の奏する作用効果も刊行物1,2及び周知技術の記載から予測できる範囲のものであり、格別なものではない。

4.請求人の主張について
請求人は回答書において、刊行物2ではその目的とするところは自己バイアスを印加することだから、自己バイアスの問題が発生しない刊行物1のプラズマ処理装置に刊行物2のプラズマCVD装置の技術を適用することは動機付けとなる事項が存在しない旨を主張する。
そこで、引用発明を見ると、上記「(2)相違点2について」で述べたように、刊行物1の【第2図】に示されている装置においては、摘示事項(刊1-ク)から「50kHzの周波数の4kWの電力」である高周波電力を印加するものであり、「シールド48」は接地されており、同(刊1-オ)に「プラズマに露出される基体部分に負のバイアスがかけられる」とあることから、これは高周波によって自己バイスがかかるものということができる。
すると、刊行物1のプラズマ処理装置においても自己バイアスは印加されると言い得るものだから、高周波電力による自己バイアスを印加させることで発生するジュール熱の問題も、その程度の差はあっても当然に存在し、また、刊行物2のプラズマCVD装置においても、高周波電力による自己バイアスを印加させることで発生するジュール熱の問題があるのだから、両装置で入力される高周波電力が50kHzで同じことを勘案すれば、刊行物1のCVD法による薄膜形成装置に刊行物2のプラズマCVD装置の技術手段を適用することの動機付けとなる事項が存在しないとの上記請求人の主張は採用し得ない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は他の請求項に記載された発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-07 
審決日 2011-02-21 
出願番号 特願2002-361754(P2002-361754)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C23C)
P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 直裕  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 中澤 登
吉川 潤
発明の名称 プラズマCVD法による薄膜形成方法及び薄膜形成装置  
代理人 金山 聡  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ