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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D |
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管理番号 | 1235300 |
審判番号 | 不服2008-17048 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-03 |
確定日 | 2011-04-07 |
事件の表示 | 平成11年特許願第201467号「光学活性テトラヒドロフラニル基を含有するニトログアニジン誘導体、その製造方法およびそれらを有効成分とする殺虫剤」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月 6日出願公開、特開2001- 31667〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年7月15日の出願であって、平成20年5月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年7月3日に拒絶査定不服の審判が請求されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?6に係る発明は,平成19年12月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 式(1)(化1) 【化1】 で表される(S)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン。」 (なお、式(1)(化1)は、より正確には、 などと表記されるべきものであると認められる。) 3.引用刊行物 (1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平7-179448号公報(以下「刊行物A」という。)、特開平5-92968号公報(以下「刊行物B」という。)、及び、特開昭48-75545号公報(以下「刊行物C」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。 刊行物A (A-1)「【請求項1】 式(1)(化1) 【化1】 (式中、X1 、X2 、X3 、X4 、X5 、X6 、X7 は水素原子・・・を表わし、R1 は水素原子・・・を表わし、R2 は・・・炭素数1?5のアルキルアミノ基・・・を表わし、Zは=N-NO2 ・・・を表わす。)で表わされる(テトラヒドロ-3-フラニル)メチルアミン誘導体。」(段落【特許請求の範囲】) (A-2)「本発明者らは・・・、式(1)で表わされる(テトラヒドロ-3-フラニル)メチルアミン誘導体が・・・優れた殺虫活性を有することを見い出し、本発明を完成させた。」(段落【0004】) (A-3)「実施例10 1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジン(化合物No.20)の製造 (テトラヒドロ-3-フラニル)メタノ-ル10.0g,無水トリフルオロメタンスルホン酸29.5g,ピリジン10.0g,ジクロロメタン200mlを室温で1時間攪拌した。反応溶液に水を注ぎ、有機層を分取し、1規定塩酸、水、飽和食塩水で洗浄、乾燥、濃縮し20.0gの3-テトラヒドロフラニルメチルトリフラ-トを得た。1,5-ジメチル-2-ニトロイミノヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン12.5g,DMF60ml中に室温で60%水素化ナトリウム3.25gを加え1時間攪拌後、室温で3-テトラヒドロフラニルメチルトリフラ-ト20.0gを加え、50℃で2時間攪拌した。室温に冷却後、2規定塩酸50mlを加え、50℃で2時間攪拌した。重曹で中和後、ジクロロメタンで抽出、乾燥、濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-(展開溶媒;酢酸エチル:ヘキサン=1:1)で精製し、7.8gの1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンを得た。」(段落【0122】) (A-4)「試験例 1 ヒメトビウンカに対する効果 本発明化合物を所定濃度のアセトン溶液とし、数本に束ねたイネ苗(約3葉期)に3ml散布する。風乾後、処理苗を金網円筒で覆い、内部へヒメトビウンカ雌成虫10頭づつを放って25℃の恒温室に置き、48時間後に死虫率を調査した。結果を第17表(表39?41)に示した。 【0190】 【表39】 」(段落【0189】?【0190】) (A-5)「試験例 3 ハスモンヨトウに対する効果 製剤例1に従って調製した本発明化合物の乳剤を蒸留水で希釈し、さらに展着剤(新グラミン水、三共株式会社製)を0.02%になるように添加して所定濃度に調製する。そこへサツマイモ葉を充分に浸漬処理して風乾させた後、直径9cm、深さ4cmのプラスチックカップに移し、ハスモンヨトウ2令幼虫10頭づつに摂食さて25℃下、72時間後に死虫率を調査した。結果を第19表(表46、47)に示した。 【0197】 【表46】 」(段落【0196】?【0197】) (A-6)「試験例 5 チャバネゴキブリに対する効果 本発明化合物のアセトンに溶解し、さらにアセトンで所定濃度に調製する。腰高シャーレ(高さ9cm、直径9cm)の底面にこのアセトン溶液を塗布し、風乾後、チャバネゴキブリの成虫(オス)を10頭放飼した。48時間後に死虫率を求めた。結果を第21表(表50)に示した。 【0201】 【表50】 」(段落【0200】?【0201】) 刊行物B (B-1)「【要約】 【目的】新規メチルジオクソラン化合物の提供 【構成】式I: 【化1】 の新規の2R,4S-2-エチル-4-[(4-フエノキシフエノキシ)メチルジオクソラン]およびそれを含有する殺虫剤。 【効果】式Iの化合物は、その鏡像異性体の混合物より薬害が顕著に低く、特に果樹と柑橘作物に棲息する害虫を防除する。」(段落【要約】) (B-2)「【従来の技術】本発明の2R,4S-2-エチル-4-[(4-フェノキシフェノキシ)メチル]ジオクソランは、 式I:【化13】 に該当する。文献では、2-エチル-4-[(4-フェノキシフェノキシ)メチル]ジオクソランの鏡像異性体の混合物は公知であり、例えば西独特許公開公報DE-OS2655910号に記載されている。鏡像異性体の混合物は、節足動物門の害虫の、特に虫類とダニ目の害虫の防除において成功的に使用できるという点において特徴がある。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】その優れた性質にかかわらず、殺虫剤として使用するとき、全ての所望しない害虫に対して、鏡像異性体の混合物はいつも完全に満足できるものであるとは、限らなかった。・・・従って、改善した性質を持つ害虫防除組成物に対する継続的需要がある。 【0004】 【課題を解決するための手段】驚くべきことにこの需要は、本発明に従って提案された式Iの独特の異性体を使用することにより、可なり充たされ得る;というのは、鏡像異性体の混合物と比較して、本発明の2R,4S-異性体が、所望しない害虫に対する改善された、より高い活性ばかりでなく、驚くべきことに処理した植物に鏡像異性体の混合物よりもより耐性があることが見出されたからである。増加した活性と減少した薬害は、使用者のためにより広い安全域をもたらすことになり、これは、処理される有用植物への随伴する薬害の危険なしに、有効成分の量を、もし必要ならば例えば防除するのが困難な害虫すら効果的に防除するために、増加させることができることを意味する。 【0005】従って、本発明によって、2R,4S-2-エチル-4-[(4-フェノキシフェノキシ)メチル]ジオクソランは、害虫防除のための、特に虫類とダニ目の典型的なものの防除のための組成物として提案されるものである。」(段落【0002】?【0005】) (B-3)「試験例B5: アオニジーラ オーランチー(Aonidiella aurantii) に対する作用 ジャガイモの塊茎に、アオニジーラ オーランチー〔柑橘アカカイガラムシ(red citrus scale)〕の幼虫を生息させる。2週間後に、ジャガイモの塊茎を400ppm の濃度で試験化合物を含有する水性の乳濁液またはけん濁液に浸漬する。処理したジャガイモの塊茎を乾燥した後、ジャガイモに付けた虫をプラスチックの容器中で飼育する。評価は、10?12週間後に未処理の対照と、処理したカイガラムシ生息群の次に続く最初の世代の幼虫の生存率を比較することにより行われる。この試験では、式Iの化合物はアオニジーラ オーランチーに対して優れた活性を示す。特に、式Iの化合物は0.1ppm の濃度でも100%有効のままである。一方同じ構造を持つ前から既知の鏡像異性体の混合物を使用するとこのような完全な活性は0.75ppm の濃度でのみ実現される。 【0093】実施例B6: ヘリオチス ヴィレッセンス(Heliothis virescens) に対する殺卵作用 濾紙上に産卵したヘリオチス ヴィレッセンスの卵を、式Iの化合物の濃度400ppm の水性アセトン液に短時間浸漬する。試験液を乾燥した後、卵をペトリ皿で飼育する。6日後に、未処理対照と比較して卵の孵化率〔孵化率の減少率(%)〕を評価する。この試験において、式Iの化合物はヘリオチス・ヴィレッセンスに対して優れた作用を示す。特に、この化合物は200ppm だけで90%の活性を示すが、一方、以前に既知の鏡像異性体の混合物は400ppm で有効でない。 【0094】実施例B7: 薬害試験 4葉期におけるワタ植物に、2000,1000,500および250ppmの濃度の試験化合物の水性けん濁液を散布する。散布膜を乾燥した後、処理した植物を温室で育成する。7日後に、未処理の対照の植物と比較して処理した植物に対する損害を%で検定することにより試験を評価する。 結果: 散布7日後の試験ワタ植物の評価 【表1】 この試験で、式Iの化合物は、以前に既知の鏡像異性体の混合物と比較して、処理した栽培植物に対して顕著に減少した薬害を示す。同程度の薬害は、本発明の独特の式Iの異性体の有効成分の半分の濃度における以前に既知の鏡像異性体の混合物で得られた。」(段落【0092】?【0094】) 刊行物C (C-1)「本発明は、シクロペンテノロン、即ちdl-アレスロロン又は2-アリル-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-シクロペンテン-1-オンの分割法を目的とする。 この方法はd-アレスロロンを工業的観点から非常に興味ある条件で取得するのを可能とするものである。この生成物の取得は非常に重要であることは知られている。事実、エリオツト氏は、J.Sci.Food Agr.5,505(1954)で、アレスロロン右旋性異性体から出発して得られた菊酸エステルが左旋性異性体から出発して得られたものよりも4倍も活性な殺虫剤であることを既に指摘した。この指摘を確認することができたが、d-アレスロロン菊酸エステルとdl-アレスロロン菊酸エステルとの間の殺虫活性の比較結果を以下に記載する。」(第2ページ左上欄) (C-2)「d-アレスロロン菊酸エステル(化合物A)とdl-アレスロロン菊酸エステル(化合物B)の殺虫活性の比較研究 a]致死活性 試験昆虫は家ばえである。昆虫の背側胸部に1μgのアセトン溶液を局所適用することにより行う。処理ごとに50匹の昆虫を用い、試験は処理してから24時間後に観察して行う。 得られた実験結果を次の表に要約する。 結論:化合物Aは、化合物Bよりも4.15倍活性が大きい。 b]ノツクダウン活性(KD) 試験昆虫は雌のドイツあぶら虫である。アセトンとケロシンとの等量混合物を溶媒として使用して(使用した溶液の量は0.5cc)、直接噴霧により実施する。 処理ごとに約20匹の昆虫を使用する。試験の観察は処理してから5分、10分、15分、30分及び60分後に行う。 得られた結果を次の表に要約する。 結論:効果を5分後の終りで測定して化合物Aは化合物Bより4.3倍活性が大きい。30分以上では、化合物Aは化合物Bより2.8倍活性が大きい。」(第5ページ右上欄?右下欄) 4.対比 上記記載事項(A-1)?(A-3)によれば、刊行物Aには、1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンが優れた殺虫活性を有する化合物の一つとして製造実施例とともに記載されており、上記記載事項(A-4)?(A-6)によれば、そのヒメトビウンカ、ハスモンヨトウ及びチャバネゴキブリに対する殺虫効果を測定したことが記載されている。してみると、刊行物Aには、殺虫剤の有効成分として有用な1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 まず、引用発明にいう「1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジン」と、本願発明にいう「1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン」とは、命名法による表現上の違いがあるだけで、同義であることは明らかである。 そうすると、本願発明と引用発明とは、1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジンである点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点)上記1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジンについて、本願発明が、「(S)-」であるもの(以下、単に「S体」ともいう。)とされているのに対し、引用発明では、そのように特定されていない点。 5.判断 上記相違点について検討する。 刊行物Aに記載の上記1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンは、そのメチレン基が置換したフラン環の炭素原子が不斉炭素であるところ、刊行物Aには、式(1)においてこの不斉炭素に置換する各置換基の立体配置は特定されておらず、また、1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンという化合物の名称の中にも、「(S)-」や「(R)-」という立体配置を特定する文言は含まれていないから、刊行物Aに記載の上記1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンは、上記不斉炭素原子についての、いわゆるS体とR体という2つの光学異性体の等量混合物であるラセミ体であるものと認められる。 ところで、ある化合物のラセミ体が生物活性を示す場合、それを構成する光学異性体間で生物活性が異なること、更に該生物活性が主として光学異性体の一方に起因している場合があること、他方に好ましくない作用を示す場合があること、は、当業者の間で本願出願以前から周知の知見であり(例えば、社団法人日本化学会編「季刊 化学総説 No.6 光学異性体の分離」、1989年10月10日初版、1999年6月10日3刷、(株)学会出版センター発行、第212?225ページ、とりわけ、第219?220ページ参照)、ある化合物のラセミ体が知られている場合に、その光学異性体を、該ラセミ体から光学分割により製造したり、不斉合成により製造するという技術も、当業者の間で本願出願以前から周知・慣用のものであった(例えば、社団法人日本化学会編「季刊 化学総説 No.6 光学異性体の分離」、1989年10月10日初版、1999年6月10日3刷、(株)学会出版センター発行、第2?14ページ、第132?143ページ参照)。 また、刊行物Bの(B-1)、(B-2)の記載によれば、虫類とダニ目の害虫の防除において有用であることが知られていた2-エチル-4-[(4-フェノキシフェノキシ)メチル]ジオクソランの鏡像異性体の混合物に検討を加えた結果、害虫に対する増加した活性と有用植物への減少した薬害作用を有する化合物として2R,4S-異性体という特定の光学異性体が見いだされたことが刊行物Bに記載されているものといえ、また(B-3)によれば、実際に害虫に対する増加した活性と有用植物への減少した薬害作用が確認されたことが記載されているものといえる。さらに、刊行物Cの(C-1)の記載によれば、ラセミ体であるdl-アレスロロンから、他方の光学異性体より4倍も活性な殺虫剤である光学異性体を得るための光学分割法を提供することを目的とする技術が、刊行物Cに記載されているものといえ、また(C-2)によれば、実際に特定の昆虫に対し、光学異性体であるd-アレスロロン菊酸エステルが、ラセミ体であるdl-アレスロロン菊酸エステルに比較して、試験方法により、4.15倍、4.3倍又は2.8倍活性が大きいことが確認されたことが記載されているものといえる。そして、上記1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンとアレスロロン菊酸エステルは、化学構造上、特に類似するものであるとはいえない。そうすると、刊行物B、Cの記載に接した当業者は、上記の周知の知見が化合物の化学構造によらないものであることを改めて認識することができるものといえる。 してみると、当業者ならば、刊行物B、Cの記載に接するまでもなく、あるいは、刊行物B、Cの記載に接すればなおのこと、刊行物Aに記載の上記1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンについて、より活性の高い殺虫剤を得るべく、その二つの光学異性体を製造し、それらの殺虫活性を検討し、より活性の高いものとして本願発明のS体に到達することに、格別の創意を要したものとはいえない。 この点について、審判請求人は、審判請求書において以下の主張をする。 「引用文献A1(審決注:刊行物A)には、本願発明にかかる化合物を含む数多くの化合物が記載されており、その多数の化合物群の中から本願発明にかかる唯一の化合物を選択するための動機付けとなる記載も示唆もありません。 したがって、引用文献A1に記載された多数の化合物から、本願発明にかかる唯一の化合物を選択することには相当の困難性があるものと思料いたします。」 しかしながら、刊行物Aに、本願発明にかかる化合物を含む数多くの化合物が記載されているとしても、上記1-{(テトラヒドロ-3-フラニル)メチル}-2-ニトロ-3-メチルグアニジンは、優れた殺虫活性を有する化合物の一つとして製造実施例とともに記載されており、昆虫に対する殺虫効果を測定したことも記載されているものであるから、これに着目することに何らの困難性もないというべきであり、審判請求人の上記主張は、当業者の創作能力を殊更に低く見るものであって採用できない。 続いて、本願発明の効果について検討する。 本願明細書には、本願発明のS体の殺虫効果が、対応するR体やラセミ体に比較して優れていることについて、以下の記載が見受けられる。 「【0055】次に、本発明の式(1)で表わされる化合物が優れた殺虫活性を有することを明確にするために以下の試験例により具体的に説明する。 試験例 1 ヒメトビウンカに対する効果 本発明化合物を所定濃度のアセトン溶液とし、数本に束ねたイネ苗(約3葉期)に2.5ml散布する。風乾後、処理苗を金網円筒で覆い、内部へヒメトビウンカ雄成虫10頭ずつを放って25℃の恒温室に置き、48時間後に死亡率を調査した。結果を第1表(表1)に示した。 【0056】 【表1】 比較化合物1:(R)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン 比較化合物2:(RS)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン 【0057】試験例 2 トビイロウンカに対する効果 本発明化合物を所定濃度のアセトン溶液とし、数本に束ねたイネ苗(約3葉期)に2.5ml散布する。風乾後、処理苗を金網円筒で覆い、内部へトビイロウンカ雄成虫10頭ずつを放って25℃の恒温室に置き、48時間後に死亡率を調査した。結果を第2表(表2)に示した。 【0058】 【表2】 比較化合物1:(R)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン 比較化合物2:(RS)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン 【0059】試験例 3 ハスモンヨトウに対する効果 本発明化合物を所定濃度のアセトン溶液とし、蒸留水で希釈した後、展着剤(新グラミン水、三共株式会社製)を0.02%になるように添加して所定濃度に調製する。そこへサツマイモ葉を充分に浸漬して風乾させた後、直径9cm、深さ4cmのプラスチックカップに移し、ハスモンヨトウ2令幼虫を10頭づつに摂食させ、25℃下、72時間後に死虫率を調査した。結果を第3表(表3)に示した。 【0060】 【表3】 比較化合物1:(R)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン 比較化合物2:(RS)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン 【0061】試験例 4 チャバネゴキブリに対する効果 直径9cm、高さ9cmの腰高シャーレ底面に、本発明化合物のアセトン所定濃度液を1mlずつ滴下し、風乾してドライフィルムを作った。腰高シャーレ内壁にバターを塗り、チャバネゴキブリ雄成虫をシャーレあたり10頭放飼したのち蓋をして、48時間後に死亡率を調査した。結果を第4表(表4)に示した。 【0062】 【表4】 比較化合物1:(R)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン 比較化合物2:(RS)-1-メチル-2-ニトロ-3-[(3-テトラヒドロフリル)メチル]グアニジン」 上記第1表?第4表のデータによれば、本願発明のS体である化合物1の殺虫効果が、対応するラセミ体である比較化合物2に比較して優れていることがうかがえる。しかしながら、刊行物Bの(B-3)や刊行物Cの(C-2)によれば、刊行物Bや刊行物Cに記載の光学活性体の殺虫効果も、対応するラセミ体に比較して、やはり、優れていることがうかがえる。 そこで進んで、本願発明のS体の殺虫効果が、対応するラセミ体に比較して優れている程度と、刊行物Bや刊行物Cに記載の光学活性体の殺虫効果が、対応するラセミ体に比較して優れている程度を、比較検討するに、本願明細書には、上述のように、本願発明のS体である化合物1の殺虫効果が、対応するラセミ体である比較化合物2に比較して優れていることがうかがえる上記第1表?第4表のデータが記載されているものの、これらのデータにより、本願発明のS体の殺虫効果が、対応するラセミ体に比較して何倍優れているといえるのかを明らかにする記載は見いだせない。一方、上述のように、刊行物Cには、刊行物Cに記載の光学活性体の殺虫効果が対応するラセミ体よりも4.15倍活性が大きい旨や、効果を5分後の終わりで測定して同4.3倍活性が大きく、30分以上では、同2.8倍活性が大きい旨が記載されている。そうすると、本願明細書の記載及び刊行物Cの記載からみて、本願発明が刊行物Cの記載から予測し得ないほど優れた効果を奏し得たものとすることができない。 この点について、審判請求人は、審判請求書において以下の主張をする。 「また引用文献A4(審決注:刊行物C)には、ある特定構造の化合物について、光学活性体の一方がラセミ体に比べて3?6倍の殺虫活性を示すことが記載されています。しかしながら、引用文献A4に記載の化合物と本願発明にかかる化合物とでは共通の部分構造すら一切なく、互いに全く異なる構造を有するものであります。すなわち、引用文献A4に記載の化合物は本願発明の化合物と同様に殺虫活性を有するとはいっても、引用文献A4に記載の化合物と本願発明にかかる化合物とでは、その作用点や作用機構が大きく異なるものであると考えることができます。一般に、作用点や作用機構が異なる化合物間で、最終的な殺虫活性の大小のみで、その構造と殺虫活性の関係を同列に論じることは、妥当性に欠けるものと思料いたします。 すなわち、本願発明にかかる化合物とは共通の部分構造すら有さない全く異なる構造の化合物において光学活性体の一方がラセミ体に比べて3?6倍の殺虫活性を示すからといって、本願発明にかかる化合物においても、その光学活性体の一方を選択することでラセミ体に比べて3倍程度の殺虫活性向上が当然に期待されるとは到底言うことはできないものと思料いたします。(以下、「主張ア」という。) 一般に、ラセミ体から分割された光学活性体の一方にのみ殺虫活性があり、他方には殺虫活性が認められない場合、ラセミ体に比べて光学活性体の一方が2倍程度の殺虫活性を有するであろうことは予測される効果であるということができるかもしれません。しかしながら、このような効果が実際の殺虫活性を有する化合物において必ずしも実現されるものではないことは、当業者にとって周知の事実であります。 例えば、日本農薬化学会誌、24巻、230?240頁、1999年には、光学活性体の一方が、ラセミ体に比べて1.5倍程度の殺虫活性しか示さないことが記載されております。 また逆に、光学活性体の一方がラセミ体に比べて2倍を超える殺虫活性を示す場合は、何らかの理由(例えば、化合物と対象となる虫との相互作用、光学活性体同士の相互作用など)によってラセミ体の殺虫活性が低下しているために、相対的に光学活性体の一方の殺虫活性が増強され、光学活性体の一方がラセミ体に比べて殺虫活性が2倍を超えるものと考えることができます。ここで想定されるラセミ体の殺虫活性が低下する理由は、一般には、詳細な検討を経た後に初めて明らかになるものであって、容易に予測可能なものとは到底言うことはできないものと思料いたします。 このように予測困難な理由がない限り、光学活性体の一方がラセミ体と比べて2倍を超える殺虫活性を示すことは一般には考えられないことであります。(以下、「主張イ」という。) 以上のことから、ある特定構造の化合物において、光学活性体の一方がラセミ体と比べて2倍を超える殺虫活性を示すことは、当業者にとって予測可能な効果であるとは到底いうことはできないものと思料いたします。 すなわち、「本願化合物がラセミ体に比べて3倍以上の殺虫効果を有することは、当業者の通常の予測を超えるものであるとは認められない」との審査官の認定は、後知恵によるものであって到底承服いたしかねるものであります。」 そこで、上記主張について検討する。 「主張ア」について 先に説示したとおり、ある化合物のラセミ体が生物活性を示す場合、それを構成する光学異性体間で生物活性が異なること、更に該生物活性が主として光学異性体の一方に起因している場合があること、他方に好ましくない作用を示す場合があること、は、当業者の間で本願出願以前から周知の知見であり、これに加えて、刊行物B、Cの記載に接した当業者は、上記の周知の知見が化合物の化学構造によらないものであることを改めて認識することができるものといえるのであるから、刊行物Cに記載の化合物とは異なる構造を有する本願発明の化合物についても、刊行物Cに記載の化合物と同様の殺虫活性の向上を予想することは、当業者にとって何ら困難なこととはいえない。 「主張イ」について 光学活性体の一方が対応するラセミ体と比べて2倍を超える殺虫活性を示す例が刊行物Cにおいて公知である以上、光学活性体の一方がラセミ体と比べて2倍を超える殺虫活性を示すことは一般には考えられないとはいえず、本願発明化合物が、対応するラセミ体に比較して、刊行物Cにおいて達成された殺虫活性の向上の程度を上回る殺虫活性の向上を示したものといえない限り、予想外の効果を奏し得たものとすることはできない。 なお、審判請求人の主張は、本願発明化合物が対応するラセミ体に比較して3倍以上の殺虫効果を有するという前提に立つもののようであるが、この前提に、そもそも、合理性が見いだせない。すなわち、審判請求人は、本願の審査段階における意見書の中で、「表4から分かりますように、チャバネゴキブリに対する殺虫効果については、ラセミ体の3倍以上と当業者の通常の予測を超えるものであります。」と主張し、この主張は、10ppm使用時の死虫率が、本願発明化合物では100%であるのに対し、対応するラセミ体では30%であるところから、100%÷30%=3倍以上、という考察に基づくものと推認されるが、殺虫剤の殺虫効果は、使用量によって変わるものであり(現に第4表の30ppm使用時のデータによれば、本願発明化合物及び対応するラセミ体とも死虫率は100%であり、両者の間に差異はない。)、ある特定の使用量における死虫率同士を割り算しても、殺虫活性の比較が正しくできるものとはいえない。 したがって、本願発明の効果に関する審判請求人の上記主張も、採用することができない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物A?Cの記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-03 |
結審通知日 | 2011-02-08 |
審決日 | 2011-02-21 |
出願番号 | 特願平11-201467 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C07D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 馬場 亮人 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
上條 のぶよ 内藤 伸一 |
発明の名称 | 光学活性テトラヒドロフラニル基を含有するニトログアニジン誘導体、その製造方法およびそれらを有効成分とする殺虫剤 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 加藤 和詳 |