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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61G |
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管理番号 | 1235303 |
審判番号 | 不服2008-21836 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-08-27 |
確定日 | 2011-04-07 |
事件の表示 | 特願2004- 36007号「車椅子」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月25日出願公開、特開2005-224400号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本願発明1 本願は、平成16年2月13日の出願であって、平成20年8月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年8月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がなされたが、該手続補正は当審において平成22年9月8日付けで決定をもって却下されるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成22年11月1日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで特許請求の範囲及び明細書についての手続補正がなされたものである。 そして、その請求項1?3に係る発明は、平成22年11月1日付手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 動輪となる主輪と、主輪の後方で主輪と比較して小径の補助輪とからなり、下り傾斜面を交差する方向に走行する際に、自重で前記主輪が下り傾斜方向に曲がるのを防止する車椅子、において、 乗員が座る部分を備えているシートフレーム部と、 前記主輪の中心軸であるハブを取り付けるハブ取付部を介して前記シートフレーム部を支える基台フレーム部と、 前記ハブに取り付けられた主輪と、 前記基台フレーム部の後方に取り付けられた補助輪と、 から少なくとも構成され、 前記乗員を乗せた状態の重心位置が、接地位置の上で、かつ、前記基台フレーム部の中央に位置する前記主輪と、前記補助輪との間に予め配置されていることを特徴とする車椅子。」 2.引用刊行物の記載事項 当審において通知した拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-70353号公報(以下、「刊行物1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。 (1)「【0004】 【課題を解決するための手段】いま、その構成を説明すると、 (イ)後輪にキャスター、前輪を駆動輪とする。 (ロ)前輪の軸は図1のように座面先端の下とする。 (ハ)後輪回転キャスターは垂直に取り付ける。キャンパー角は付けない。 (ニ)ブレーキは膝上あたりに来るようにする。 (ホ)進行方向へ単一指向性を強めるキャスター図1を取り付ける。 (ヘ)プラスチックリング9をフレーム回転部1の基部に接合固定したキャスター。 (ト)フレーム回転部1に板バネを取り付け固定軸にへこみを設け同様の効果を簡易的に得たキャスター。 以上のように構成される。」(第2頁第1欄第42行?第2欄第10行) (2) 図面(図1,2)には、下記の点が記載されている、又は記載されているに等しい。 (2-1)前輪の後方に、前輪と比較して小径のキャスターが配置されていること。 (2-2)車椅子の枠体の一部が座面を備えた座部を構成するとともに、座面先端側に位置する枠体が、接地位置の上で前輪の軸を支持していること。 (2-3)キャスターが、車椅子の枠体の後方に取り付けられていること。 (2-4)座部が、水平軸方向において、前輪の位置とキャスターの位置との間に設けられていること。 (3)上記図示内容(2-4)から、乗員を乗せた状態の重心位置が、水平方向でみて、前記前輪の位置と前記キャスターの位置との間に配置されることは、構造上自明である。 以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 (引用発明) 「駆動輪となる前輪と、前輪の後方で前輪と比較して小径のキャスターとを備えた車椅子において、 一部が座面を備えた座部を構成し、他の一部が前記前輪の軸を支持し座面先端側に位置する車椅子の枠体と、 前記軸に取り付けられた前輪と、 車椅子の枠体の後方に取り付けられたキャスターと、 から少なくとも構成され、 乗員を乗せた状態の重心位置が、水平方向でみて、前記前輪の位置と前記キャスターの位置との間に配置されている車椅子。」 3.対比・判断 (1)本願発明1について 本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの意味、構造又は機能からみて、引用発明の「駆動輪」は、本願発明1の「動輪」に相当し、以下同様に、「前輪」は「主輪」に、「キャスター」は「補助輪」に、「座面」は「乗員が座る部分」に、「軸」は「中心軸であるハブ」あるいは「ハブ」に、「車椅子の枠体」の「他の一部」は「ハブ取付部」に、「車椅子の枠体」の「一部」は「シートフレーム部」に、それぞれ相当する。 また、引用発明の「車椅子の枠体」と本願発明1の「基台フレーム部」とは「フレーム部」である点で共通している。 そして、本願発明1の「前記主輪と、前記補助輪との間」とは、本願の明細書及び図面の記載から水平方向でみてのものと解されるから、引用発明の「水平方向でみて、前記前輪の位置と前記キャスターの位置との間」は本願発明1の「前記主輪と、前記補助輪との間」に相当する。 そこで、本願発明1の用語を用いて表現すると、両者は下記の一致点で一致し、相違点1?3で一応相違する。 (一致点) 「動輪となる主輪と、主輪の後方で主輪と比較して小径の補助輪とからなる車椅子において、 乗員が座る部分を備えているシートフレーム部と、 前記主輪の中心軸であるハブを取り付けるハブ取付部と、 前記ハブに取り付けられた主輪と、 フレーム部の後方に取り付けられた補助輪と、 から構成され、 前記乗員を乗せた状態の重心位置が、前記主輪と、前記補助輪との間に予め配置されている車椅子。」 (相違点1) 本願発明1の車椅子は、下り傾斜面を交差する方向に走行する際に、自重で前記主輪が下り傾斜方向に曲がるのを防止するものであるが、引用発明ではそのような特定はされていない点。 (相違点2) 本願発明1では、フレーム部が、ハブ取付部を介してシートフレーム部を支える基台フレーム部であるのに対し、引用発明においては、フレーム部は車椅子の枠体であって、シートフレーム部に相当する部分をも備えており、シートフレーム部と基台フレーム部に分かれたものではない点。 (相違点3) 乗員を乗せた状態の重心位置を規定するにあたり、主輪が、本願発明1では接地位置の上で、かつ、前記基台フレーム部の中央に位置するのに対し、引用発明では枠体の座面先端側に位置する点。 以下、上記相違点について検討する。 (相違点1について) 相違点1は本願発明1の効果を記載したものといえるが、その効果は本願明細書の段落0013の説明「【発明の効果】本発明によれば、乗員を乗せた状態の重心位置が前記主輪の接地位置より後方に予め配置するとともに、補助輪を車椅子の後方に配置することにより、車椅子が車道方向に傾斜した歩道を直進することが容易にできる。」によれば「乗員を乗せた状態の重心位置が、設置位置の上に位置する前記主輪と、前記補助輪との間に予め配置されている」との発明特定事項によるものと解される。一方引用発明も上記のとおり乗員を乗せた状態の重心位置が、前記主輪と、前記補助輪との間に予め配置されているし、主輪が接地位置の上に位置することは当然であるから、当該発明特定事項で一致しているので、同じ効果を奏するものと予測される。したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。 (相違点2について) フレーム部を一体とするかシートフレーム部と基台フレーム部に分かれたものとするかは、製造の容易性や耐久性等を勘案して当業者が適宜選定すべき事項であって、この点に格別の困難性を見いだせない。また、引用発明においても図1,2からみてハブ取付部に相当する部分は垂直方向でみてフレーム部(車椅子の枠体)の中間部にあることから、フレーム部の上部と下部との間に介在しているものである。 そうすると、引用発明においてフレーム部をその上部側のシートフレーム部と下部側の基台フレーム部に分かれたものとするとともに、基台フレーム部がハブ取付部を介してシートフレーム部を支えるものとし、相違点に係る本願発明1の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。 (相違点3について) 上記(相違点1について)で指摘したとおり、引用発明においても、その前輪すなわち主輪が接地位置の上に位置することは当然である。 そして主輪が基台フレーム部の中央に位置するとの特定事項の技術的意義を検討するために本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)を参照すると、乗員を乗せた状態の重心位置と主輪の位置との関係について、また主輪の位置自体について、次のように記載されている。 「【課題を解決するための手段】 (第1発明) 第1発明の車椅子は、乗員が座る部分を備えているシートフレーム部と、前記シートフレーム部を支える基台フレーム部と、前記基台フレーム部に取り付けられた主輪と、前記基台フレーム部の後方に取り付けられた補助輪と、から少なくとも構成され、前記乗員を乗せた状態の重心位置が前記主輪の接地位置より後方に予め配置されていることを特徴とする。」(段落0009-0010) 「【発明の効果】 本発明によれば、乗員を乗せた状態の重心位置が前記主輪の接地位置より後方に予め配置するとともに、補助輪を車椅子の後方に配置することにより、車椅子が車道方向に傾斜した歩道を直進することが容易にできる。」(段落0012-0013) 「【発明を実施するための最良の形態】 (第1発明) 第1発明の車椅子は、乗員が座る部分を備えているフレームによって構成されているシートフレーム部と、前記シートフレーム部を支えるフレームによって構成されている基台フレーム部と、前記基台フレーム部に取り付けられた主輪と、前記基台フレーム部の後端に取り付けられた補助輪と、その他車椅子として必須の機能を有するものとから構成されている。 前記車椅子は、前記乗員を乗せた状態の重心位置が前記主輪の接地位置より後方に配置されている。すなわち、前記車椅子は、前記乗員を乗せた状態の基台フレーム部の乗員を乗せた状態の重心位置が前記主輪の接地位置より後方に配置されることにより、車椅子の後方に配置された前記補助輪が傾斜面を有する歩道を直進する際に、車道側に向くような回転モーメントが発生しても、前記主輪が車道と反対側方向(傾斜面の山側)を向くため、結果として真っ直ぐに走行する。」(段落0015-0017) 「【実施例1】 図1は本発明の実施例における車椅子を説明するための概略側面図である。図1において、車椅子は、シートフレーム部11と、基台フレーム部12と、前記基台フレーム部12に取り付けられた主輪13と、前記基台フレーム部12の後端部に取り付けられたキャスター等の小径車輪からなる補助輪14とを少なくとも備えている。 ・・・・・ 前記基台フレーム部12は、前記バックフレーム111および垂直脚フレーム115に取り付けられた基台上部フレーム121と、前記バックフレーム111および垂直脚フレーム115に取り付けられた前記基台下部フレーム122と、前記基台上部フレーム121に連設されているとともに、前記基台下部フレーム122に取り付けられた脚フレーム123と、前記脚フレーム123に連設されたフットレスト124と、前記基台上部フレーム121と基台下部フレーム122との間に前記主輪13の中心軸であるハブ126(詳細な構造は省略)と、前記主輪13のハブ126を取り付けるハブ取付部127と、から構成されている。 ・・・・・ 図2は本発明の車椅子が車道方向に傾斜した歩道を直進する際の回転モーメントを説明するための平面図である。図2において、前記車椅子は、前記乗員を乗せた状態の重心位置133が前記主輪13の接地位置132より後方に予め配置されているため、傾斜面、あるいは傾斜面を有する歩道等を直進する際に、前記車椅子の後端に取り付けられている補助輪14が図示のような回転モーメントにより、傾斜面の下方向、あるいは前記歩道の下方(車道方向)に向く。」(段落0019-0024) これらの記載からみて、本願の当初明細書には、乗員を乗せた状態の重心位置と主輪の位置との関係について、また主輪の位置自体について、乗員を乗せた状態の重心位置が前記主輪の接地位置より後方に予め配置するとともに、補助輪を車椅子の後方に配置すること、及び主輪が基台フレーム部に取り付けられたこと、等が記載されているが、乗員を乗せた状態の重心位置を規定するにあたり、主輪が前記基台フレーム部の中央に位置するとの記載はない。 そうすると、主輪が前記基台フレーム部の中央に位置する点が図面から読み取れるとしても、本願の課題を解決する手段でありかつ車椅子が車道方向に傾斜した歩道を直進することが容易にできるとの効果を奏するための発明特定事項は、上記(相違点1について)でも指摘したとおり、「乗員を乗せた状態の重心位置が、接地位置の上に位置する前記主輪と、前記補助輪との間に予め配置されている」こと、であって、主輪の位置を、前記基台フレーム部の中央に位置することが含まれると解すべき根拠を見いだすことはできない。 以上の点を勘案すれば、主輪が本願発明1のように前記基台フレーム部の中央に位置するか、引用発明のように枠体の座面先端側に位置するかは、当業者が適宜設定しうる設計的事項ということができるから、引用発明に基づき相違点3に係る本願発明1の発明特定事項のように構成することは当業者が容易に想到できたことである。 つぎに、本願発明1の奏する効果については、上記(相違点1について)で検討したとおりであり、その他の効果についても、引用発明から当業者が予測しうる範囲内のものであって、格別のものとはいえない。 4.むすび したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-07 |
結審通知日 | 2011-02-08 |
審決日 | 2011-02-22 |
出願番号 | 特願2004-36007(P2004-36007) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山口 賢一 |
特許庁審判長 |
亀丸 広司 |
特許庁審判官 |
関谷 一夫 寺澤 忠司 |
発明の名称 | 車椅子 |
代理人 | 福田 賢三 |
代理人 | 福田 武通 |
代理人 | 福田 伸一 |