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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1235392
審判番号 不服2007-33548  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-13 
確定日 2011-04-13 
事件の表示 特願2002-371978「巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ及びそれを用いてなる巻回型電気二重層キャパシタ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月22日出願公開、特開2004-207333〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年12月24日の出願であって、平成19年7月12日付けで手続補正がなされ、同年11月8日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年12月13日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、平成20年1月11日付けで手続補正がされ、その後当審において、平成22年6月3日付けで審尋がされ、同年7月22日付けで回答がなされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年1月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成20年1月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?6を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?6と補正するとともに、補正前の明細書の段落7-9,16-18,21,77,79-82を補正するものであって、補正前後の特許請求の範囲は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】 融点または熱分解温度が250℃以上で、少なくとも一部が繊維径1μm以下であるフィブリル化高分子、非フィブリル化有機繊維を含有する不織布からなる厚み33μm?55μmのセパレータであって、密度が0.27g/cm^(3)?0.30g/cm^(3)、ガーレー透気度が2.0s/100ml?10.0s/100ml、引張強度が3N/15mm以上、破断伸度が3.0%以上であることを特徴とする電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項2】 フィブリル化高分子が、全芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1記載の電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項3】 フィブリル化高分子が、全芳香族ポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項4】 カルボキシメチルセルロースを含有することを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項5】 プラズマ放電処理されてなることを特徴とする請求項1?4の何れかに記載の電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項6】 請求項1?5の何れかに記載の電気二重層キャパシタ用セパレータを具備してなる巻回型電気二重層キャパシタであって、該電気二重層キャパシタが、巻回型の電極を有し、電解液の注液時或いは充電時に該電極が膨張することを特徴とする巻回型電気二重層キャパシタ。」

(補正後)
「【請求項1】 融点または熱分解温度が250℃以上で、少なくとも一部が繊維径1μm以下であるフィブリル化高分子、繊度0.1dtex未満の非フィブリル化有機繊維を含有する不織布からなる厚み33μm?50μmのセパレータであって、密度が0.270g/cm^(3)?0.291g/cm^(3)、ガーレー透気度が2.6s/100ml?6.9s/100ml、引張強度が4.9N/15mm以上、破断伸度が4.8%以上であることを特徴とする巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項2】 フィブリル化高分子が、全芳香族ポリアミドであることを特徴とする請求項1記載の巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項3】 フィブリル化高分子が、全芳香族ポリエステルであることを特徴とする請求項1記載の巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項4】 カルボキシメチルセルロースを含有することを特徴とする請求項1?3の何れかに記載の巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項5】 プラズマ放電処理されてなることを特徴とする請求項1?4の何れかに記載の巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ。
【請求項6】 請求項1?5の何れかに記載の巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータを具備してなる巻回型電気二重層キャパシタであって、該電気二重層キャパシタが、巻回型の電極を有し、電解液の注液時或いは充電時に該電極が膨張することを特徴とする巻回型電気二重層キャパシタ。」

2 補正事項の整理
本件補正のうち、特許請求の範囲についての補正事項を整理すると、以下のとおりである。
(補正事項1)
補正前の請求項1の「非フィブリル化有機繊維」を、補正後の請求項1の「繊度0.1dtex未満の非フィブリル化有機繊維」と補正すること。

(補正事項2)
補正前の請求項1の「厚み33μm?55μm」を、補正後の請求項1の「厚み33μm?50μm」と補正すること。

(補正事項3)
補正前の請求項1の「密度が0.27g/cm^(3)?0.30g/cm^(3)」を、補正後の請求項1の「密度が0.270g/cm^(3)?0.291g/cm^(3)」と補正すること。

(補正事項4)
補正前の請求項1の「ガーレー透気度が2.0s/100ml?10.0s/100ml」を、補正後の請求項1の「ガーレー透気度が2.6s/100ml?6.9s/100ml」と補正すること。

(補正事項5)
補正前の請求項1の「引張強度が3N/15mm以上」を、補正後の請求項1の「引張強度が4.9N/15mm以上」と補正すること。

(補正事項6)
補正前の請求項1の「破断伸度が3.0%以上」を、補正後の請求項1の「破断伸度が4.8%以上」と補正すること。

(補正事項7)
補正前の請求項1?5の「電気二重層キャパシタ用セパレータ」を、それぞれ補正後の請求項1?5の「巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ」と補正すること。

3 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
(1) 新規事項の追加の有無について
ア 補正事項1?6について
補正後の請求項1のセパレータの「非フィブリル化有機繊維」の繊度を「0.1dtex未満」とすること、補正後の請求項1のセパレータの「厚み」を「厚み33μm?50μm」とすること、補正後の請求項1のセパレータの「密度」を「0.270g/cm^(3)?0.291g/cm^(3)」とすること、補正後の請求項1の「ガーレー透気度」を「2.6s/100ml?6.9s/100ml」とすること、補正後の請求項1の「引張強度」を「4.9N/15mm以上」とすること、補正後の請求項1の「破断伸度」を「4.8%以上」とすることは、それぞれ本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)にセパレータの繊度、厚み、密度、ガーレー透気度、引張強度、破断伸度が上記の範囲の実施例1?7が記載されているから、本件補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。

イ 補正事項7について
補正後の請求項1?5の「電気二重層キャパシタ用セパレータ」を「巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ」とすることは、当初明細書に「巻回型電気二重層キャパシタ」が記載されているから、本件補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。

新規事項の追加の有無についてのまとめ
したがって、本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項(平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。

(2) 補正の目的の適否について
ア 補正事項1について
この補正は、補正前の請求項1の「非フィブリル化有機繊維」に対して、「繊度を0.1dtex未満」にしたものであるという「非フィブリル化有機繊維」の繊度に関する技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 補正事項2?6について
この補正は、「セパレータ」の「厚み」に関して、補正前の請求項1の「33μm?55μm」から、補正後の請求項1の「厚み33μm?50μm」と数値範囲を限定すること、「密度」に関して、補正前の請求項1の「0.27g/cm^(3)?0.30g/cm^(3)」から、補正後の請求項1の「0.270g/cm^(3)?0.291g/cm^(3)」と数値範囲を限定すること、「ガーレー透気度」に関して、補正前の請求項1の「2.0s/100ml?10.0s/100ml」から、補正後の請求項1の「2.6s/100ml?6.9s/100ml」と数値範囲を限定すること、「引張強度」に関して、補正前の請求項1の「3N/15mm以上」から、補正後の請求項1の「4.9N/15mm以上」と数値範囲を限定すること、「破断伸度」に関して、補正前の請求項1の「3.0%以上」から、補正後の請求項1の「4.8%以上」と数値範囲を限定するものであるから、特許法第17条の第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

ウ 補正事項7について
この補正は、補正前の請求項1?5の「電気二重層キャパシタ用セパレータ」を、「巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ」と「セパレータ」の用途に関する技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

エ 補正の目的の適否についてのまとめ
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、同特許法第17条の2第4項柱書きに規定する目的要件を満たす。

(3) 小括
以上検討したとおりであるから、本件補正は特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき、以下において更に検討する。

4 独立特許要件について
(1) 補正発明
本件補正による補正後の請求項1?6に係る発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 融点または熱分解温度が250℃以上で、少なくとも一部が繊維径1μm以下であるフィブリル化高分子、繊度0.1dtex未満の非フィブリル化有機繊維を含有する不織布からなる厚み33μm?50μmのセパレータであって、密度が0.270g/cm^(3)?0.291g/cm^(3)、ガーレー透気度が2.6s/100ml?6.9s/100ml、引張強度が4.9N/15mm以上、破断伸度が4.8%以上であることを特徴とする巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ。」

(2) 刊行物に記載された発明
ア 刊行物1:国際公開第01/93350号
本願の出願前に外国において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された国際公開第01/93350号(以下「引用例1」という。)には、「電気化学素子用セパレーター」に関して、以下の記載がある(なお、下線は当合議体にて付加したものである。以下同様)。

(ア)「本発明における電気化学素子とは、一次電池、二次電子、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ(電気二重層コンデンサともいう)などを指す。これらの電気化学素子に用いられる電解液は水溶液系、有機電解液系のいずれでも良い。」(公報第1ページ8行?10行)
(イ)「本発明における融点または熱分解温度が250℃以上の液晶性高分子繊維としては、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメジン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ-p-フェニレンベンゾビスチアゾール(PBZT)などからなる単繊維または複合繊維が挙げられる。」(公報第9ページ2行?6行)
(ウ)「本発明の電気化学素子用セパレータは、フィブリル化されていない繊度0.5dtex以下の有機繊維を1種類以上含有する。ここで、フィブリル化されていない繊度0.5dtex以下の有機繊維とは、いわゆるチョップドファイバーを指し、明確な繊度と繊維長を持つ。1種類以上とは、有機繊維の種類と繊度のどちらも指す。すなわち、繊度が同じで有機繊維の種類が複数でも良く、有機繊維の種類が同じで繊度が複数でも良く、有機繊維の種類と繊度のどちらも複数でも良いという意味である。」(公報第10ページ11行?16行)
(エ)「本発明の電気化学素子用セパレーターは、縦方向の引張強度が1kg/50mm以上で、且つ、突刺強度が100g以上であることが好ましい。ここで、縦方向とは、湿式不織布の抄紙流れ方向を指す。引張強度が1kg/50mm未満では、巻回機によってはテンションに耐えられず破断する場合があり、突刺強度が100g未満では、電極基材のバリが貫通する場合がある。」(公報16ページ17行?21行)
(オ)「本発明の電気化学素子用セパレータは、ガーレー透気度が0.5s/100ml?20s/100mlであることが好ましい。ここで、ガーレー透気度とは、JIS P8117に規定されるガーレー透気度で、外径28.6mmの円孔から送り出される100mlの空気が、円孔に密着したセパレーターを通過する時間をもって指標となす。ガーレー透気度が、0.5s/100ml未満では、電気化学素子用セパレーターの孔径が大きすぎるか、ピンホールが存在する状態であることが多く、内部短絡防止性で問題が生じやすく、20s/100mlより値が大きくなると、電気化学素子用セパレーターの密度が高めになり、イオン透過性が悪くなるため内部抵抗が高くなりやすい。」(公報第17ページ4行?12行)
(カ)「本発明は、少なくとも一部が繊維径1μm以下にフィブリル化された有機繊維を1種類以上含有し、且つ、フィブリル化されていない繊度0.5dtex以下の有機繊維を1種類以上含有してなる湿式不織布からなる電気化学素子用セパレーターの製造方法であって、スラリーの固形濃度が0.001%?0.5%、導電度が30μS/cm以下になるように抄紙用スラリーを調整し、湿式抄紙法により製造することを特徴とする。」(公報第18ページ2行?7行)
(キ)「本発明における湿式不織布の厚みは、特に制限はないが、電気化学素子が小型化できること、収容できる電極面積を大きくでき容量を稼げる点から薄い方が好ましい。具体的には電気化学素子組立時に破断しない程度の強度を持ち、ピンホールが無く、高い均一性を備える厚みとして10?200μmが好ましく用いられ、20?100μm、さらには20?70μmがより好ましく用いられる。10μm未満では、電気化学素子の製造時の短絡不良率が増加するため好ましくない。一方、200μmより厚くなると、電気化学素子に収納できる電極面積が減少するため電気化学素子の容量が低いものになる。」(公報第18ページ24行?第19ページ1行)
(ク)「実施例5
フィブリル化有機繊維1を30%、繊度0.1dtex、繊維長3mmのポリエステル繊維20%、繊度0.4dtex、繊維長3mmのポリエステル繊維20%、芯部に融点255℃のポリエステル、鞘部に融点110℃の変性ポリエステルを配した芯鞘複合繊維(繊度1.1dtex、繊維長3mm)30%の配合比でアニオン性の分散助剤及び両イオン性の消泡剤とともにパルパーを用いてイオン交換水中に0.1%になるように分散させた。これをイオン交換水で希釈し、濃度0.01%、電導度31.2μS/cmの抄紙用スラリー2を調整した。次いで、円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、秤量18g/m^(2)の湿式不織布を作製した。該湿式不織布の両面を、200℃に加熱した直径1.2mのドラムロールに速度20m/minで接触させて熱処理し、秤量18.5g/m^(2)、厚み55μm、空隙率76.3%の電気化学素子用セパレーター及び電気二重層キャパシタ用セパレーターとした。」(公報第22ページ12行?23行)
(ケ)「比較例1で作製した電気化学素子用セパレーター及び電気二重層キャパシタ用セパレーターは、フィブリル化されていない繊度0.5dtex以下の有機繊維を全く含有しないため、フィブリル化有機繊維1の歩留まりが悪く、地合と表面平滑性が悪く、孔径が大きく、該セパレーターを具備してなる電気化学素子は内部短絡不良率が高かった。」(公報第60ページ20行?24行))
以上を総合すると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「融点または熱分解温度が250℃以上の液晶性高分子繊維で、少なくとも一部が繊維径1μm以下にフィブリル化された有機繊維を1種類以上含有し、且つ、フィブリル化されていない繊度0.5dtex以下の有機繊維を1種類以上含有してなる湿式不織布からなり、厚みが10?200μmで、ガーレー透気度が0.5s/100ml?20s/100mlで、引張強度が1kg/50mm以上である電気二重層キャパシタ用セパレーター。」

イ 刊行物2: 特開2000-3834号公報
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開2000-3834号公報(以下「引用例2」という。)には、「電気二重層コンデンサのセパレーター」に関して、以下の記載がある。
(コ)「【0014】以上のように、従来はイオンが通る経路としての貫通孔を維持するために緻密性を下げて内部抵抗を下げればショート不良率が増加し、一方、ショート不良率を下げるために緻密性を上げれば内部抵抗が上がってイオン透過性が悪くなってしまうこととなり、ショート不良率と内部抵抗の双方を高いレベルで改善することはできなかった。
【0015】よって、緻密性を高めても、イオンがイオンが通る経路としての貫通孔を確保したセパレータを提供することができれば、従来の緻密性を高めるために密度を上げると内部抵抗が高くなり、密度を下げて内部抵抗を低下させると緻密性に欠けてショート不良率が増加することとなって、ショート不良率と内部抵抗の双方を同時に高いレベルで満足させることが困難であったセパレータの欠点を解消することができる。」
(サ)「【0026】このようにして得られるセパレータの厚さは20?100μmの範囲が好ましい。20μm未満では機械的強度が低下して取扱が難しく、内部短絡の危険があり、100μmを超えると小型化ができず、厚くなる分電気抵抗も上昇するためである。また、コイン型の電気二重層コンデンサではセパレータにある程度の厚さがないとプレス成型時にショートする確率が高くなるため、コイン型の電気二重層コンデンサでは100μm迄の厚さが要求されている。一方、密度については特に制限はないが、実用的には密度0.25?0.6g/cm^(3)が好ましい。0.25g/cm^(3)未満では引張強度が極端に低下し、電気二重層コンデンサ用のセパレータとして実用性に欠ける。また、本発明によるセパレータは緻密ではあってもイオンが通る経路としての貫通孔が維持されているため、実質的に密度0.6g/cm^(3)を超えることがない。」

ウ 刊行物3: 特開平7-238463号公報
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開平7-238463号公報(以下「引用例3」という。)には、「アルカリ電池セパレーター」に関して、以下の記載がある。
(シ)「【0050】[縦破断伸度] 電極板に巻き付ける際に、アルカリ電池セパレ-タ用不織布は流れ方向に引っ張られると共に、電極板に圧縮された状態になるが、アルカリ電池セパレ-タ用不織布にある程度の伸びがなければ、穴が開き易くなり、短絡の原因となる。そこで、短絡が起きない程度の伸びがあるかどうかの評価をするために、流れ方向の破断伸度を測定した。破断伸度は、JIS-P8132に従い、前記した引張強度試験で、試験片が破断するまでに示した最大引張歪率を各々10回測定し、その平均値を百分率で表し、破断伸度とした。なお、アルカリ電池セパレ-タ用不織布における縦破断伸度の実用レベルは8.7%以上とした。」

(3)対比
以下に、補正発明と引用発明とを対比する。
有機繊維は、有機高分子化合物でできた繊維であるので引用発明の「フィブリル化された有機繊維」は、補正発明の「フィブリル化高分子」に相当する。また、引用発明の「フィブリル化されていない」「有機繊維」は、補正発明の「非フィブリル化有機繊維」に相当する。
また、(エ)の記載によればセパレータを巻回機により巻回しているので、引用発明の「電気二重層キャパシタ用セパレータ」は、補正発明の「巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ」に相当する。

したがって、補正発明と引用発明とは、
「融点または熱分解温度が250℃以上で、少なくとも一部が繊維径1μm以下であるフィブリル化高分子と非フィブリル化有機繊維とを含有する不織布からなるセパレータであることを特徴とする巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
補正発明は、「非フィブリル化有機繊維」の「繊度」が「0.1dtex未満」であるのに対して、引用発明は、「0.5dtex以下」と繊度の上限値が異なる点。
(相違点2)
補正発明は、「密度が0.270g/cm^(3)?0.291g/cm^(3)」とされているのに対して、引用発明は密度について限定がない点。
(相違点3)
補正発明は、セパレータの厚みが「33μm?50μm」の範囲であるのに対して、引用発明は、「10?200μm」である点。
(相違点4)
補正発明は、セパレータの「ガーレー透気度」が「2.6s/100ml?6.9s/100ml」の範囲であるのに対して、引用発明は、「0.5s/100ml?20s/100ml」である点。
(相違点5)
補正発明は、セパレータの「引張強度」が「4.9N/15mm以上」であるのに対して、引用発明は、「1kg/50mm以上」である点。
(相違点6)
補正発明は、セパレータの「破断伸度」を「4.8%以上」と限定しているのに対して、引用発明は、破断伸度について限定がない点。

(4)判断
(4-1)相違点1,3?5について
(繊度とガーレー透気度について)
引用例1の(ケ)の記載から、セパレータにフィブリル化されていない繊度0.5dtex以下の有機繊維を全く含有させないと、セパレータの孔径が大きくなることが分かり、また、(オ)の記載から、ガーレー透気度が小さい場合は、セパレーターの孔径が大きくなっていることが分かるので、引用例1には、フィブリル化されていない繊度0.5dtex以下の有機繊維を含有させることにより、セパレータの孔径を制御して、ガーレー透気度が調整できることが示唆されている。
そして、ガーレー透気度に関しては、引用例1の(オ)の記載から、ガーレー透気度の下限値の0.5s/100mlは、内部短絡防止性を考慮し、上限値の20s/100mlは、イオン透過性、内部抵抗を考慮して決定していることが分かる。
また、(ク)の記載から、繊度0.5dtex以下のフィブリル化されていない有機繊維として、実施例では、繊度0.1dtexのフィブリル化されていない有機繊維を含有させていることが分かる。さらに、繊度0.5dtex以下の数値範囲に、0.1dtex未満が含まれていることも明らかである。
したがって、フィブリル化されていない繊度0.1dtex未満の有機繊維を含有させることにより、ガーレー透気度を調整、最適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮である。

(厚みについて)
また、セパレータの厚みに関しては、引用例1の(キ)の記載から、電気化学素子の製造時の短絡不良率、破断しない強度を考慮して下限値を、電気化学素子の小型化、容量を稼ぐことを考慮して上限値を決定して「10?200μm」とし、さらに「20?70μm」が好ましいとしていることが分かる。

(引張強度について)
また、セパレータの引張強度に関しては、引用例1の(エ)の記載から、「巻回機によってはテンションに耐えられず破断する場合がある」ため、「引張強度が1kg/50mm以上」が好ましいと引張強度の下限を限定していることが分かる。なお、1kg/50mmは換算すると、2.94N/15mmに相当すると認められる。そして、引張強度は上記下限値より高ければ巻回時に破断することはないことは明らかである。

以上、イオン透過性を良くして内部抵抗を下げ、内部短絡による不良を防ぎ、巻回時の破断が起こらないように、上記パラメータを総合的に検討して、セパレータに、フィブリル化されていない有機繊維の繊度が0.1dtex未満のものを含有させて、ガーレー透気度を調整し「2.6s/100ml?6.9s/100ml」の範囲に、厚みを「33μm?50μm」の範囲に、引張強度を「4.9N/15mm以上」の範囲に最適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、また、本願明細書を精査しても、その範囲にしたことによる顕著な効果は認められない。

(4-2)相違点2について
(密度について)
引用例2の(サ)の記載から、「密度0.25?0.6g/cm^(3)が好まし」く、その下限値「0.25g/cm^(3)」は引張強度を考慮して、また、上限値の「0.6g/cm^(3)」は、イオン透過性を考慮して決定していることが分かる。
また、イオン透過性に関しては、(4-1)でも検討したとおり、ガーレー透気度も考慮しなければならないことが分かっている。
したがって、引用発明において、イオン透過性を考慮して、セパレータのガーレー透気度とともに、引用例2に記載のようにセパレータの密度を検討して、「0.270g/cm^(3)?0.291g/cm^(3)」と最適化を行うことは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、また、本願明細書を精査しても、その範囲にしたことによる顕著な効果は認められない。

(4-3)相違点6について
(破断伸度について)
引用例3の(シ)の記載から、アルカリ電池のセパレータにおいて、短絡原因とならないようにするため「破断伸度」を「8.7%以上」としていることが分かる。
一方、引用発明は、(ア)の記載から、不織布のセパレータは一次電池(アルカリ電池に相当)、電気二重層キャパシタいずれにも適用可能であり、電池のセパレータに関する技術を電気二重層キャパシタに適用することは、一般的に行われていることである。また、電気二重層キャパシタにおいて、電解液の注液時或いは充電時に電極が膨張することは、以下の周知例1?2にもあるように当業者にとって技術常識である。
周知例1:特開2002-104817号公報
「また、充電時に電極が大きく膨張するような材料は、電極膨張によってキャパシタが変形し封口部から電解質溶液が漏れる可能性がある。」(段落【0013】)
周知例2:特開2002-83748号公報
「しかしながら、我々の検討によれば、こうした結晶性が比較的発達した材料由来の活性炭を含む電極は、キャパシタセルを構成した後の充電時に電極の膨張が著しく、・・・(中略)・・・膨張によりセルの破損を生ずるおそれがあるなどの問題がある。」(段落【0011】)
そして、電極膨張時にセパレータの伸縮性がよければ、破断を回避できることは明らかである。
したがって、引用例3に記載されたアルカリ電池用のセパレータを、引用発明に適用するにあたり、充電時の電極膨張によりセパレータが破断して短絡しないように、破断伸度というパラメータを考慮し、電気二重層キャパシタ用に、その破断伸度の最適値を検討して「4.8%以上」と設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、また、本願明細書を精査しても、その範囲にしたことによる顕著な効果は認められない。

(4-4)判断についてのまとめ
そして、電気二重層キャパシタの目的とする特性のために、相違点1?6の各パラメータを、総合的に検討して最適化を図ることも当業者の通常の創作能力の発揮である。
したがって、補正発明は、当業者における技術常識を勘案することにより、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4-5)独立特許要件についてのまとめ
本件補正は、補正後の特許請求の範囲により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

(5)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおり、請求項1についての補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成19年7月12日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 融点または熱分解温度が250℃以上で、少なくとも一部が繊維径1μm以下であるフィブリル化高分子、非フィブリル化有機繊維を含有する不織布からなる厚み33μm?55μmのセパレータであって、密度が0.27g/cm^(3)?0.30g/cm^(3)、ガーレー透気度が2.0s/100ml?10.0s/100ml、引張強度が3N/15mm以上、破断伸度が3.0%以上であることを特徴とする電気二重層キャパシタ用セパレータ。」

第4 引用例に記載された発明
引用例1?3には、上記第2 4(2)に記載したとおりのものが記載されている。

第5 判断
本願発明1は、補正発明から、上記第2 2に記載した補正事項1?7についての補正によりなされた技術的限定を省いたり、数値範囲を拡張したものである。
そうすると、第2 4(4)において検討したとおり、補正発明は、技術常識を勘案することにより、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、補正発明から技術的限定を省いたり、数値範囲を拡張した本願発明1についても、当然に、技術常識を勘案することにより、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-04 
結審通知日 2011-02-08 
審決日 2011-02-22 
出願番号 特願2002-371978(P2002-371978)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (H01G)
P 1 8・ 537- Z (H01G)
P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晃洋  
特許庁審判長 橋本 武
特許庁審判官 高橋 宣博
西脇 博志
発明の名称 巻回型電気二重層キャパシタ用セパレータ及びそれを用いてなる巻回型電気二重層キャパシタ  

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