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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20084135 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1235393
審判番号 不服2007-34393  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-20 
確定日 2011-04-14 
事件の表示 平成11年特許願第56847号「アルキル置換シクロペンタジエン類の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年9月19日出願公開、特開2000-256222〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成11年3月4日の出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。

平成19年 9月 3日付け 拒絶理由通知書
平成19年11月 7日 意見書・手続補正書
平成19年11月15日付け 拒絶査定
平成19年12月20日 審判請求書
平成20年 2月29日 手続補正書(方式)
平成22年 9月27日付け 審尋
平成22年11月25日 回答書

第2 本願発明
この出願の発明は、平成19年11月7日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「アルキルシクロペンテノン類とアルキルグリニャール試薬とからアルキル置換シクロペンタジエン類を製造するに際し、
下記一般式[I]
【化1】

[式中、R^(1)は、炭素原子数1?4の直鎖または分岐状のアルキル基であり、
mは、1?3の整数である]で表わされるアルキルシクロペンテノン類と、下記一般式[II]
R^(2)CH_(2)MgX ・・・[II]
[式中、R^(2)は、炭素原子数1?7の直鎖または分岐状のアルキル基であり、
Xは、ハロゲン原子である]で表わされるアルキルグリニャール試薬との反応混合物を、リン酸の二塩基性酸塩含有水溶液と混合してスラリー液とし、次いで、該スラリー液に酸触媒を加えて脱水することを特徴とするアルキル置換シクロペンタジエン類の製造方法。」

第3 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成19年 9月 3日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その理由1は、「1.この出願の請求項1-4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、上記「請求項1-4に係る発明」のうちの、「請求項1に係る発明」は、「本願発明」に相当し、「下記の引用文献1」は、特開平7-252168号公報(以下、「刊行物1」という。)であるから、原査定の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

第4 当審の判断
本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1.刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の事項が記載されている。

(A)「一般式[1]
R^(3)-CH=CR^(4)-COO-CHR^(1)-CH_(2)-R^(2) [1]
で示される不飽和エステル化合物とポリリン酸とを反応させ、反応の前半を20?60℃で5?180分間反応させ、ついで反応の後半を50?110℃の反応温度で5?120分間保つことによって、一般式[2]
【化1】

で示されるシクロペンテノン化合物を生成し[反応I]、つぎに該シクロペンテノン化合物と一般式[3]
R^(5)_(n)M [3]
で示される金属化合物を反応させ[反応II]、該反応の成績体の処理を弱酸性塩の水溶液にて処理したる後、酸性として脱水することを特徴とする一般式[4]で示されるシクロペンタジエン化合物の製造法、
【化2】

(式[1]、[2]、[3]および[4]中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、炭素数1?4個のアルキル基、フェニル基または水素を表し、R^(1)=R^(2)=R^(3)=R^(4)=R^(5)であることもあり、互いに異なる基であってもよい。R^(6)およびR^(7)は、R^(6)=R^(1)でかつR^(7)=R^(2)、またはR^(6)=R^(2)でかつR^(7)=R^(1)を表す。B^(1)およびB^(2)は単結合または2重結合を表し、B^(1)≠B^(2)である。R^(5)_(n)Mは金属塩もしくは錯 化合物を表し、R^(5)は炭素数1?4個のアルキル基、フェニル基、水素を表し、Mは金属塩または錯化合物の残基、nは1?4の整数、Cp は5員環がシクロペンタジエン環であることを表す)。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(B)「本発明の製造法の特徴は、反応[II]における水素化またはカルビル化された中間体の精緻な処理条件にある。すなわち、つぎのスキーム3に示すごとく、式[2o]で示されるアルコールの金属塩さらには該金属塩の溶媒和した錯体が中間体として存在していると考えられる。該金属塩ないし錯体は、水または酸で分解してアルコールさらには脱水してシクロペンタジエン化合物[4]となる。
【化7】

(こゝで、置換基R^(3)、R^(4)、R^(5)、R^(6)、R^(7)、結合B^(1)、B^(2)、R^(5)_(n)MおよびCpは、前記と同じである。)」(段落【0015】)

(C)「反応[II]においては予期せぬ副反応が起こって目的物の収率が著しく低下し、場合によってはまったく取得できないこともある。この原因は不詳であるが、本願発明者らは、上記金属塩または錯体[2o]の酸による予想外の副反応、および本来シクロペンタジエン類の持つ不安定性に帰因するものとの仮定から種々検討し、その処理手順を厳密な条件設定の元に管理することにより、副反応を抑制できることを見いだした。この条件とは、まず反応成績体を-20?0℃に冷却し、効果的な撹拌下に弱酸性塩の水溶液を加えて30分?2時間掛けて分解する。この弱酸性塩としては、NH_(4)Cl、(NH_(4))_(2)SO_(4)、NH_(4)NO_(3)、NH_(4)HSO_(4)、NaH_(2)PO_(4)、Na_(2)HPO_(4)、NaHSO_(4)、KH_(2)PO_(4)、K_(2)HPO_(4)、KHSO_(4)、LiH_(2)PO_(4)、Li_(2)HPO_(4)、LiHSO_(4)、MgCl_(2)、ZnCl_(2)、NH_(4)OCOCF_(3)、NH_(4)OSO_(2)C_(6)H_(4)CH_(3)などが例示できる。該塩の濃度は5?30重量%のものがよく、その量は用いた金属化合物とアルカリを併用した場合はその総和のモル数に対して0.5?2倍の範囲が適用可能である。次いで2?6規定の酸性水溶液および/またはアルコール溶液を、被処理溶液に対して10?100容量%加えてpHを5以下の酸性とし、1?24時間接触させる。該酸性溶液の酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸の他、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸を単独または2種以上混合したものが適用可能である。さらに処理の最終段階においては、エーテル系または炭化水素系の溶剤で抽出し、洗滌、乾燥工程においてアルカリ処理操作を加え、脱水工程において用いた酸を除くことが好ましい。かくして該工程は副反応を伴うことなく完了し、最終的に目的のシクロペンタジエン化合物は、蒸留、クロマトグラフィー、再結晶などの手段で安定に分離される。」(段落【0016】)

(D)「本発明の製造法に用いる金属化合物は、金属塩もしくは錯化合物であり、水素化剤もしくはカルビル化剤として作用する。その使用量はシクロペンテノン化合物[2]1モルに対して0.5?2.0モルが適当である。該金属化合物の非限定的な例としては、リチウムアルミニウムヒドリド、ソジウムボロヒドリド、ソジウムアルミニウムヒドリド、リチウムボロヒドリド、トリメチルシリルヒドリド、リチウムアルミニウムトリヒドロシアニド、メチルリチウム、エチルリチウム、ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、イソプロピルリチウム、フェニルリチウム、メチルマグネシウムイオジド、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムイオジド、エチルマグネシウムブロミド、プロピルマグネシウムイオジド、プロピルマグネシウムブロミド、t-ブチルマグネシウムイオジド、t-ブチルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムイオジド、フェニルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムクロリド、ジメチル亜鉛、ジエチルカドミウム、メチルジンクブロミド、エチルカドミウムブロミドなどが示される。」(段落【0020】)

(E)「実施例2:1,2,4-トリメチルシクロペンタ-1,3-ジエンの合成
還流冷却器と効果的な撹拌機を備えた 500ミリリットル のフラスコに無水リン酸 54.8gをとり、窒素雰囲気下 100℃のオイルバス上で加熱しながら、撹拌下に滴下ロートより 85%リン酸 46.2gを滴下する。次第に温度を上げながら 3時間撹拌し、155℃で完全に溶解して無色のポリリン酸溶液を得る(脱水能 0.771)。室温に冷却し、ゆっくりと撹拌しながらイソプロピルクロトネート 141.0g(1.100mol) を滴下し、次第に撹拌速度を上げながら 1.5時間で55℃にもたらし、完全に混合させる。次いで急速に昇温し、95゜C まで上げて1時間撹拌し、淡褐色の溶液となし、直ちに冷却する。氷 1kgの入った 2リットル のビーカーにあけ、よく撹拌して粘凋な complex を分解する。充分に冷却した 40% 水酸化ナトリウム 120g (1.2mol) を注意深く加えた後、エーテルで抽出し(200ml x 4回)、20%NaCl水で洗って単黄色の溶液を得る。Na_(2)SO_(4)で乾燥して蒸留し、37?40℃/2torrの留分をとる。3,4-ジメチル-2-シクロペンテノン(以下34DMCPEOと略す)101.5g(0.921mol、収率 83.7%)を得る。得られた 34DMCPEO 22.03g(0.200mol)のエーテル溶液を氷冷し、窒素シール下に、メチルマグネシウムブロミドの1.00Mエーテル溶液228 ミリリットル(0.228mol) を 2 時間かかって滴下する。5時間室温で撹拌した後、-10℃にて24%NH_(4)Cl水を 55g 加え、1時間撹拌して反応成績体を分解した後、6N-HCL 50ミリリットルを加えて酸性にして 2 時間撹拌を続ける。淡黄色のエーテル層を 20%NaCl 水、ついで 10%NaHCO_(3)水で洗いNa_(2)SO_(4)で乾燥した後蒸留し、21?22.5℃/11torr にて 1,2,4-トリメチルシクロペンタ-1,3-ジエン 15.88g(0.147mol、収率 73.4%)を得る。」(段落【0046】)

(F)「本発明によれば、工業的に重要な原料であるシクロペンタジエン化合物を、対応する不飽和エステルと特定の金属化合物から容易に製造することができる。しかも、不飽和エステルから、安定的に収率よくシクロペンテノン化合物を製造することができ、さらにそのシクロペンテノン化合物から副反応なしに、高収率でシクロペンタジエン化合物を製造することができる。」(段落【0061】)

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「一般式[1]
R^(3)-CH=CR^(4)-COO-CHR^(1)-CH_(2)-R^(2) [1]
で示される不飽和エステル化合物とポリリン酸とを反応させ、反応の前半を20?60℃で5?180分間反応させ、ついで反応の後半を50?110℃の反応温度で5?120分間保つことによって、一般式[2]
【化1】

で示されるシクロペンテノン化合物を生成し[反応I]、つぎに該シクロペンテノン化合物と一般式[3]
R^(5)_(n)M [3]
で示される金属化合物を反応させ[反応II]、該反応の成績体の処理を弱酸性塩の水溶液にて処理したる後、酸性として脱水することを特徴とする一般式[4]で示されるシクロペンタジエン化合物の製造法、
【化2】

(式[1]、[2]、[3]および[4]中、R^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)およびR^(5)は、炭素数1?4個のアルキル基、フェニル基または水素を表し、R^(1)=R^(2)=R^(3)=R^(4)=R^(5)であることもあり、互いに異なる基であってもよい。R^(6)およびR^(7)は、R^(6)=R^(1)でかつR^(7)=R^(2)、またはR^(6)=R^(2)でかつR^(7)=R^(1)を表す。B^(1)およびB^(2)は単結合または2重結合を表し、B^(1)≠B^(2)である。R^(5)_(n)Mは金属塩もしくは錯 化合物を表し、R^(5)は炭素数1?4個のアルキル基、フェニル基、水素を表し、Mは金属塩または錯化合物の残基、nは1?4の整数、Cp は5員環がシクロペンタジエン環であることを表す)。」が記載されている(摘記(A))。

そして、実施例2として、上記「一般式[1]で示される不飽和エステル化合物」、「一般式[2]で示されるシクロペンテノン化合物」、「一般式[3]で示される金属化合物」、「一般式[4]で示されるシクロペンタジエン化合物」が、それぞれ、「イソプロピルクロトネート」、「3,4-ジメチル-2-シクロペンテノン」、「メチルマグネシウムブロミド」、「1,2,4-トリメチルシクロペンタ-1,3-ジエン」である例が記載され、この実施例2では、「酸性として脱水する」にあたり、「HCL」を加えて酸性としている(摘記(E))。

そうすると、刊行物1には、
「イソプロピルクロトネートとポリリン酸とを反応させ、反応の前半を20?60℃で5?180分間反応させ、ついで反応の後半を50?110℃の反応温度で5?120分間保つことによって、3,4-ジメチル-2-シクロペンテノンを生成し[反応I]、つぎに該3,4-ジメチル-2-シクロペンテノンとメチルマグネシウムブロミドを反応させ[反応II]、該反応の成績体の処理を弱酸性塩の水溶液にて処理したる後、HCLを加えて酸性として脱水することを特徴とする1,2,4-トリメチルシクロペンタ-1,3-ジエンの製造法」
の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「3,4-ジメチル-2-シクロペンテノン」は、アルキル基であるメチル基が置換したシクロペンテノン類であって、本願発明の一般式[I]における、R^(1)がメチル、すなわち、炭素原子数1の直鎖のアルキル基、mが整数の2の化合物に相当する。
よって、引用発明の「3,4-ジメチル-2-シクロペンテノン」は、本願発明の「アルキルシクロペンテノン類」及び「一般式[I]
【化1】

[式中、R^(1)は、炭素原子数1?4の直鎖または分岐状のアルキル基であり、
mは、1?3の整数である]で表わされるアルキルシクロペンテノン類」に相当する。

また、引用発明の「メチルマグネシウムブロミド」は、アルキル基であるメチル基を有するグリニャール試薬であるから、本願発明の「アルキルグリニャール試薬」に相当する。

さらに、引用発明の「1,2,4-トリメチルシクロペンタ-1,3-ジエン」は、アルキル基であるメチル基が置換したシクロペンタジエン類であるから、本願発明の「アルキル置換シクロペンタジエン類」に相当する。

以上によれば、引用発明の「3,4-ジメチル-2-シクロペンテノンとメチルマグネシウムブロミドを反応させ[反応II]、…ることを特徴とする1,2,4-トリメチルシクロペンタ-1,3-ジエンの製造法」は、本願発明の「アルキルシクロペンテノン類とアルキルグリニャール試薬とからアルキル置換シクロペンタジエン類を製造する…アルキル置換シクロペンタジエン類の製造方法」に相当する。

そして、引用発明の「3,4-ジメチル-2-シクロペンテノン」と「メチルマグネシウムブロミド」を反応させた「反応の成績体」とは、本願発明の「アルキルシクロペンテノン類」と「アルキルグリニャール試薬」との「反応混合物」に相当するものであるところ、引用発明では、該反応混合物を「弱酸性塩の水溶液にて処理」しているので、これについて検討すると、刊行物1には、「攪拌下に弱酸性塩の水溶液を加え」ることであると記載されているから(摘記(C))、引用発明の「処理」は、「混合」を意味するといえる。
また、「リン酸の二塩基性酸塩含有水溶液」は、「弱酸性塩の水溶液」であるから、引用発明の「該反応の成績体の処理を弱酸性塩の水溶液にて処理」と本願発明の「反応混合物を、リン酸の二塩基性酸塩含有水溶液と混合」は、「反応混合物を、弱酸性塩の水溶液と混合」という点で重複する。

さらに、引用発明は、「HCLを加えて酸性として脱水する」方法であるのに対して、本願発明は、「酸触媒を加えて脱水する」方法であるが、この出願の発明の詳細な説明の段落【0047】?【0050】には、酸触媒としては、塩酸などの水溶液が好ましく用いられると記載され、実施例1でも塩酸水溶液を使用している(段落【0069】)。
そうすると、引用発明の「HCL」は、本願発明の「酸触媒」に相当し、HCLを加えれば酸性となるから、引用発明の「HCLを加えて酸性として脱水する」方法は、本願発明の「酸触媒を加えて脱水する」方法に相当する。

以上によれば、本願発明と引用発明は、
「アルキルシクロペンテノン類とアルキルグリニャール試薬とからアルキル置換シクロペンタジエン類を製造するに際し、
下記一般式[I]
【化1】

[式中、R^(1)は、炭素原子数1?4の直鎖または分岐状のアルキル基であり、
mは、1?3の整数である]で表わされるアルキルシクロペンテノン類と、アルキルグリニャール試薬との反応混合物を、弱酸性塩の水溶液と混合し、次いで、酸触媒を加えて脱水することを特徴とするアルキル置換シクロペンタジエン類の製造方法。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する(以下、「相違点1」?「相違点4」という。)。

(1)相違点1
アルキルシクロペンテノン類の製造方法が、引用発明では、「イソプロピルクロトネートとポリリン酸とを反応させ、反応の前半を20?60℃で5?180分間反応させ、ついで反応の後半を50?110℃の反応温度で5?120分間保つことによって、3,4-ジメチル-2-シクロペンテノンを生成」する[反応I]に特定されているのに対し、本願発明では、そのような反応に特定されていない点

(2)相違点2
アルキルグリニャール試薬が、本願発明は、「一般式[II]
R^(2)CH_(2)MgX ・・・[II]
[式中、R^(2)は、炭素原子数1?7の直鎖または分岐状のアルキル基であり、
Xは、ハロゲン原子である]で表わされるアルキルグリニャール試薬」であるのに対して、引用発明は、「メチルマグネシウムブロミド」である点

(3)相違点3
弱酸性塩の水溶液が、本願発明は、「リン酸の二塩基性酸塩含有水溶液」であるのに対して、引用発明は、そのようなものに特定されていない点

(4)相違点4
反応混合物を弱酸性塩の水溶液と混合し、本願発明は、「スラリー液」とする方法であるのに対して、引用発明は、そのような方法であるか明らかでない点

4.相違点についての判断
(1)相違点1
この出願の明細書における、段落【0020】?【0024】の記載や実施例その他の記載を検討しても、本願発明の原料であるアルキルシクロペンテノン類の製造方法について特に記載されていないから、本願発明は、任意の製造方法によって得られたアルキルシクロペンテノン類を原料とする製造方法の発明であると認められる。
そうすると、本願発明は、「イソプロピルクロトネートとポリリン酸とを反応させ、反応の前半を20?60℃で5?180分間反応させ、ついで反応の後半を50?110℃の反応温度で5?120分間保つことによって、3,4-ジメチル-2-シクロペンテノンを生成」する[反応I]によって製造されたアルキルシクロペンテノン類を原料とする製造方法の発明を包含するものであり、本願発明と引用発明は、この点において差異はない。

(2)相違点2
刊行物1には、アルキルグリニャール試薬として、「メチルマグネシウムブロミド」と同様に、「エチルマグネシウムイオジド、エチルマグネシウムブロミド、プロピルマグネシウムイオジド、プロピルマグネシウムブロミド、t-ブチルマグネシウムイオジド、t-ブチルマグネシウムブロミド」が使用できると記載されており(摘記(D))、これらは、「一般式[II]
R^(2)CH_(2)MgX ・・・[II]
[式中、R^(2)は、炭素原子数1?7の直鎖または分岐状のアルキル基であり、
Xは、ハロゲン原子である]で表わされるアルキルグリニャール試薬」に相当するものである。
したがって、アルキルグリニャール試薬として、引用発明の「メチルマグネシウムブロミド」に代えて、「一般式[II]
R^(2)CH_(2)MgX ・・・[II]
[式中、R^(2)は、炭素原子数1?7の直鎖または分岐状のアルキル基であり、
Xは、ハロゲン原子である]で表わされるアルキルグリニャール試薬」を使用することは、当業者が容易に行うことである。

(3)相違点3
刊行物1には、弱酸性塩として、「NaH_(2)PO_(4)」、「KH_(2)PO_(4)」などの「リン酸の二塩基性酸塩」が記載されているから(摘記(C))、引用発明における「弱酸性塩の水溶液」として、「リン酸の二塩基性酸塩含有水溶液」を使用することは、当業者が容易に行うことである。

(4)相違点4
この出願の明細書の段落【0010】には、「スラリー液」について、「塊状固形物の析出が無いスラリー液」と記載され、段落【0011】には、本願発明は、「撹拌を困難にするような固形物を析出することなく」、目的物を高収率で製造する方法であると記載されていることからみて、本願発明の「スラリー液」とは、「攪拌を困難にするような塊状固形物の析出がない状態の液体」であるといえる。
一方、刊行物1記載の実施例2では、反応混合物に弱酸性塩であるNH_(4)Cl水を加えた後、1時間攪拌し目的物を73.4%という高収率で得ているから(摘記(E))、少なくとも1時間は「攪拌を困難にするような塊状固形物の析出がない状態の液体」、すなわち、「スラリー液」であったということができる。
そうすると、引用発明も、反応混合物を弱酸性塩の水溶液と混合して、「スラリー液」としているものであり、この点において本願発明と引用発明に差異はない。

5.効果について
この出願の明細書の段落【0064】には、本願発明の効果について、「本発明によれば、グリニャール反応の後処理(酸による酸性化/脱水反応工程)において、急激な発熱や撹拌を困難にするような固体の析出を伴うことなく、目的物であるエンド体のアルキル置換シクロペンタジエン類を高収率で得ることができる。」と記載されている。

しかしながら、刊行物1には、刊行物1記載の方法は、「シクロペンテノン化合物から副反応なしに、高収率でシクロペンタジエン化合物を製造することができる」と記載されている(摘記(F))。
さらに、刊行物1記載の実施例2では、後処理において、1時間攪拌し目的物を得ているから、少なくとも1時間は十分に攪拌を行うことができ、その結果、「グリニャール反応の後処理において、急激な発熱や攪拌を困難にするような固体の析出を伴うことなく」目的物を得ているものということができる。
そして、目的物であるエンド体の収率について検討しても、本願発明の収率は、平成22年11月25日の回答書の3.(3-2)(i)によれば、73%であるのに対して、刊行物1記載の実施例2の収率は73.4%であるから、刊行物1には、目的物であるエンド体が、本願発明と同様に高収率で得られることが記載されているといえる。
したがって、上記段落【0064】記載の効果は、いずれも刊行物1の記載から予測し得るものである。

また、この出願の明細書には、比較例1として、「リン酸の二塩基性酸塩」に代えて「塩化アンモニウム」を用いると、攪拌不能となり、目的物であるエンド体の収率が低下することが記載されている。
そこでこの点について検討すると、刊行物1の摘記(C)には、副反応を抑制し、目的物の収率を向上するためには、NaH_(2)PO_(4)等の弱酸性塩を添加する前に、反応成績体を-20?0℃に冷却する必要があることが記載されている。

一方、この出願の明細書記載の実施例1?3は、いずれも、20℃以下に冷却してから弱酸性塩である「リン酸の二塩基性酸塩」を添加しているのに対し、比較例1では、25℃のままで冷却することなく弱酸性塩である「塩化アンモニウム」を添加している。
そうすると、上記刊行物1の記載によれば、弱酸性塩を添加する前に冷却していない比較例1よりも、冷却している実施例1?3の方が、副反応を抑制し、目的物の収率が向上することは予測し得る効果であるといえる。

なお、この点について、平成22年9月27日付けで当審より次の審尋を通知している。
「(1)弱酸性塩として、「塩化アンモニウム」に代えて「リン酸の二塩基性酸塩」を使用することにより、当業者が予測し得ない程優れた効果を奏するのであれば、回答書において、弱酸性塩を添加する際の温度が同じであっても、その効果に顕著な差異があることを明らかにされたい。」

それに対し、請求人は回答書において次のとおり回答している。
「(3-1)(1)および(2)に対する回答
(i)(…中略…)
弱酸性塩として、塩化アンモニウムに代えて「リン酸の二塩基性酸塩」を用いることにより、当業者が予測し得ない優れた効果が奏されることを、弱酸性塩を添加する際の温度を同じにした実験結果を示すべきところですが、そのような実験データがなく、また新たに実験を行うこともできないため、示すことができません。
ただし、上記実施例および比較例とは条件が異なりますが、表1に示すように、グリニャール反応混合物に対し、塩酸水溶液により酸性化/脱水処理した結果によると、10?16℃(反応例A)および47?51℃(反応例B)で酸処理しても、存在収率およびエンド体/エキソ体の比に大きな差がみられません。
【表1】 (省略)
上記の結果から考察するに、本願実施例1?3におけるグリニャール反応混合物の後処理温度10?20℃と、比較例1の後処理温度25℃とは近い温度なので、この程度の温度差が存在収率およびエンド体/エキソ体の比に大きく影響するとは考えられません。
したがって、実施例1?3において、25℃でリン酸の二塩基性酸塩を用いてグリニャール反応混合物を処理しても、比較例1の結果と比べて、存在収率およびエンド体/エキソ体の比率に大きな差は出ないと考えられます。
なお、上記の実験は小スケールで行っているため、塩酸水溶液による処理時間は15分程度です。酸に長時間接触させるか、または酸性度を高くすると、エキソ体の副生が進みやすくなります。このため、この条件でスケールアップ(商業化)することは困難です。」

上記のとおり、請求人は、弱酸性塩を添加する際の温度を同じにした実験結果を示すことができないこと、代わりに、反応混合物を塩酸水溶液で15分間処理した例を挙げて、温度が異なっても、エンド体/エキソ体の比に影響はないと回答している。
しかしながら、塩酸水溶液は強酸であるから、この結果を以て、弱酸性塩の水溶液で処理した際のエンド体/エキソ体の比が予測し得るとはいえない。
しかも、15分以上接触させるとエキソ体の副生が進みやすくなり、エンド体/エキソ体の比が変化するのであれば、なおさら、本願発明の実施例や刊行物1記載の実施例のように数時間接触させたときに、エンド体/エキソ体の比に影響しないということはできないというべきである。
したがって、上記回答によっても、弱酸性塩として「リン酸の二塩基性酸塩」を使用することにより、予測し得ないような優れた効果を奏するものということはできない。

以上のとおりであるから、本願発明の効果は、刊行物1の記載から、当業者が予測できる程度のものである。

6.まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

7.請求人の主張について
請求人は、平成22年11月25日の回答書において、以下の主張をしている。
「(3-3)刊行物1と本願発明の対比
(…中略…)
上記記載のとおり、刊行物1には「グリニャール反応混合物の後処理時の溶媒量」、「後処理液の性状」および「撹拌装置」について具体的な記載がないので、「撹拌困難にするような固体の析出を伴う」という課題および得られる効果については記載も示唆も一切されておりません。よって刊行物1は本願発明の動機付けとなり得ません。
したがって、刊行物1の実施例2および7において、グリニャール反応混合物を1時間撹拌して後処理を行い、アルキル置換シクロペンタジエン類を取得しているからといって、商業スケールでより効果的に実施できる本願発明を否定することはできないし、当業者であっても刊行物1に記載の発明から本願発明の効果を予測することはできません。」

しかしながら、刊行物1に、「グリニャール反応混合物の後処理時の溶媒量」、「後処理液の性状」および「撹拌装置」について具体的な記載がなかったとしても、本願発明は、そもそも特定の「グリニャール反応混合物の後処理時の溶媒量」、特定の「撹拌装置」を使用する方法の発明ではないから、この点において、本願発明と引用発明に差異があるということはできない。
また、引用発明における「後処理液の性状」が「スラリー液」であることは、上記4.(4)で述べたとおりであるから、「後処理液の性状」においても、本願発明と引用発明に差異はない。
そして、刊行物1記載の実施例2が、「撹拌困難にするような固体の析出を伴う」ものではないことは、上記5.で述べたとおりである。
さらに、本願発明が、商業スケールでより効果的に実施できるとの主張についてみても、本願発明の具体例である実施例は、いずれも商業スケールではなく、刊行物1記載の実施例と同程度のスケールで行っているにすぎないものであるから、反応を実施するスケールについても、本願発明と引用発明に差異はなく、そして、本願発明の効果が、刊行物1の記載から予測し得る程度のものであることは、上記5.で述べたとおりである。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-10 
結審通知日 2011-02-15 
審決日 2011-02-28 
出願番号 特願平11-56847
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉住 和之  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 千弥子
木村 敏康
発明の名称 アルキル置換シクロペンタジエン類の製造方法  
代理人 牧村 浩次  
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