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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J
管理番号 1235397
審判番号 不服2008-3078  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-08 
確定日 2011-04-15 
事件の表示 特願2002-141593「農業用合成樹脂フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月19日出願公開、特開2003-327730〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
第1.手続の経緯
本願は、平成14年5月16日の特許出願であって、平成19年5月18日付けで拒絶理由が通知され、同年7月23日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年1月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年2月8日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月7日に手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年7月4日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年6月8日付けで審尋がなされ、同年8月4日に回答書が提出され、同年10月26日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年12月27日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】アクリル系樹脂100重量部に対し、レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nmのシリカ又は/及びアルミナに酸化物として0.1?25重量%の銀を担持させた粒子を17.8?30重量部配合した塗膜を、少なくとも片面に有した農業用合成樹脂フィルム。」


第3.当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成22年10月26日付けで通知した拒絶理由通知における、本願発明についての拒絶理由A及びBの概要は以下のとおりである。

「A.本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
B.本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



A.理由Aについて
1.刊行物
刊行物1:特開2002-88312号公報
・・・

B.理由Bについて
本願発明は、農業用合成樹脂フィルムに関する発明であって、透明性及び防藻性に優れた農業用フィルムを得ることを課題とするものである(本願明細書段落【0001】、【0017】-【0018】、【0035】等)。
そして、本願発明は、発明を特定するために必要な事項として、少なくとも片面に塗膜を有した農業用合成樹脂フィルムにおいて、該塗膜中の「レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nmのシリカ又は/及びアルミナに銀を担持させた粒子」の配合量をアクリル系樹脂100重量部に対し「17.8?30重量部」とするとの事項を備えるものである。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明において、上記課題が解決され、所望の効果が奏されることが裏付けられているのは、上記粒子として平均粒径15nmの「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」を用い、その添加量をアクリル系樹脂100重量部に対して17.8重量部又は26.7重量部としたもののみであり(段落【0028】-【0033】の実施例1,2及び5)、他の粒子を用いた例は記載されていない。
また、本願明細書段落【0017】に「本発明でのシリカ、アルミナおよびシリカ-アルミナ微粒子への銀担持量は酸化物として0.1?25重量%の範囲内であることが望ましい。銀担持量が0.1重量%よりも少ない場合には防藻性が弱くなることがあり、また、25重量%よりも多い場合には変色が生じることがある」と記載されているように、塗膜にどの程度の防藻性を付与し得るかは、シリカ又は/及びアルミナへの銀の担持量にも大きく依存するものであって、「銀を担持させた粒子」の添加量のみに依存するわけでないことは明らかである。
しかしながら、本願明細書の実施例において使用されている上記「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」については、その銀担持量が全く不明であって、アクリル系樹脂100重量部に対して「17.8重量部」又は「26.7重量部」という添加量が銀の添加量としてはどの程度のものであるか不明となっている。(なお、上記「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」は水溶液の形態で販売されているものと認められるが、上記実施例における「17.8重量部」、「26.7重量部」なる添加量が、該「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」自体の重量に基づく添加量であるのか、あるいは、該「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」中の「銀を担持したシリカ-アルミナ」のみの重量に基づくものであるかについても何ら記載がなされておらず不明となっている。)
してみると、本願発明における上記粒子の配合量である「17.8?30重量部」なる範囲は、該粒子として特定量の銀を担持していると認められる「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」を用いた場合のみについて実験的に設定されたものに過ぎないといえ、そのような結果を銀担持量が特定されない「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」以外の「レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nmのシリカ又は/及びアルミナに銀を担持させた粒子」を用いる場合にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められない。」


第4.当審の判断
上記の当審が通知した拒絶理由が妥当なものであるかについて、以下に検討する。

4-1.拒絶理由Aについて
(1)刊行物
刊行物1:特開2002-88312号公報

(2)刊行物1には以下の事項が記載されている。
1a.「【請求項1】防藻防黴作用を有する平均粒子径が500nm以下の無機酸化物微粒子を含有することを特徴とする防藻防黴性塗料組成物。
【請求項2】前記無機酸化物微粒子は、防藻防黴作用を有する金属成分と該金属成分以外の無機酸化物とから構成されることを特徴とする請求項1記載の防藻防黴性塗料組成物。
【請求項3】前記防藻防黴作用を有する金属成分が、銀、銅、亜鉛、鉛、錫、ビスマス、カドミウム、クロム、水銀、ニッケル、コバルトから選ばれる金属成分の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2記載の防藻防黴性塗料組成物。
【請求項4】前記無機酸化物微粒子が分散したコロイド溶液と、塗膜形成成分および溶剤とからなることを特徴とする請求項1、2または3記載の防藻防黴性塗料組成物。
【請求項5】前記塗膜形成成分が、ラッカー、ビニル樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、酸硬化尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の防藻防黴性塗料組成物。
【請求項10】前記防藻防黴性塗料組成物が、前記無機酸化物微粒子と塗膜形成成分の合計量に対して、該微粒子を0.001?25%の範囲で含有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の防藻防黴性塗料組成物。」(特許請求の範囲の請求項1?5及び10)

1b.「本発明は、防藻防黴塗料組成物に関し、更に詳しくは、藻類や黴類の生育を防止するための、ビルディング、冷凍冷蔵倉庫、家屋、マンション、クーリングタワーなどの建築物の内外装、架橋などの構造物表面の塗装、船舶および車両などの内外装、農業用フィルム表面の塗装に適した、耐候性、耐水性、耐久性および外観性に優れた塗膜を形成する防藻防黴塗料組成物に関するものである。」(段落【0001】)

1c.「本発明は、前述の有機系防藻防黴組成物は藻や黴類等対する効果が比較的弱く、長期間効果が持続しないという問題点を解決し、長期間にわたって防藻防黴効果を持続し、また、被塗布体の表面色調への影響が無く、安定性に優れた無機系防藻防黴塗料組成物を提供することを目的とするものである。」(段落【0005】)

1d.「本発明において、防藻防黴性塗料組成物を構成する無機酸化物微粒子は、防藻防黴作用を有する無機酸化物微粒子であって、平均粒子径が500nm以下であることを要する。該無機酸化物微粒子の平均粒子径が500nmより大きい場合には、可視光の散乱が多くなるため、該微粒子を含有する塗料組成物および形成される塗膜の透明性が損なわれる。また、該塗料組成物が有色である場合には、塗布して得られる被塗布体の表面色調が変色し、所望の色調の被塗布体が得られない。本発明での前記無機酸化物微粒子の平均粒子径は、好ましくは、3?300nm、更に好ましくは、5?250nmの範囲であることが望ましい。」(段落【0009】)

1e.「前記無機酸化物微粒子は、防藻防黴作用を有する金属成分と該金属成分以外の無機酸化物とから構成されることが好ましい。防藻防黴作用を有する金属成分はとしては、銀、銅、亜鉛、鉛、錫、ビスマス、カドミウム、クロム、水銀、ニッケル、コバルトなどが例示される。特に、銀、銅、亜鉛から選択される1種以上の金属成分は、防藻防黴作用、変色および人体に対する安全性などの観点から好ましい。
前記防藻防黴金属成分以外の無機酸化物としては、一般に知られているコロイド溶液を構成する無機酸化物を挙げることができ、無機酸化物コロイド粒子としては、単一または複合酸化物コロイド粒子、あるいはこれらの混合物を用いることが可能である。単一の無機酸化物としては、SiO_(2)、Al_(2)O_(3)、TiO_(2)、ZrO_(2)、Fe_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(3)、WO_(3)、CeO_(3)など例示され、複合酸化物としては、前記各酸化物と他の無機酸化物の複合酸化物コロイド粒子、例えばSiO_(2)・Al_(2)O_(3)、SiO_(2)・TiO_(2)、SiO_(2)・ZrO_(2)、Al_(2)O_(3)・TiO_(2)、Al_(2)O_(3)・CeO_(3)、TiO_(2)・CeO_(3)、TiO_(2)・ZrO_(2)、SiO_(2)・TiO_(2)・ZrO_(2)、SiO_(2)・TiO_(2)・CeO_(3)などを挙げることができる。
前述の防藻防黴性塗料組成物を構成する無機酸化物微粒子は、防藻防黴性金属成分の量を、無機酸化物全量を基準として酸化物換算で0.01以上含有することが望ましい。防藻防黴性金属成分の含有量が0.01%に満たない場合は防藻防黴作用が十分に発現しないことがある。該防藻防黴性金属成分の量は、好ましくは、0.01?50%、更に好ましくは、0.5?30%の範囲であることが望ましい。
前記防藻防黴作用を有する金属成分と該金属成分以外の無機酸化物とから構成される無機酸化物微粒子は、例えば、特開平9-38483号公報に記載の方法により製造することが出来る。即ち、前記防藻防黴金属成分以外の無機酸化物コロイド粒子を分散質とするコロイド水溶液(以下、水性ゾルということもある)に、前記防藻防黴作用を有する金属成分の金属塩またはその水溶液及び陰イオン交換体を混合して、前記防藻防黴作用を有する金属成分を前記無機酸化物コロイド粒子に担持させる方法である。」(段落【0011】-【0014】)

1f.「前記塗膜形成成分としては、通常、塗料組成物に用いられる塗膜形成成分が使用か可能である。特に、ラッカー、ビニル樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、酸硬化尿素樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
前述の塗膜形成成分のラッカーとしては、ニトロセルロース、アセチルセルロース、エチルセルロースやニトロセルロースなどの通常の繊維素誘導体が挙げられる。また、塗膜形成成分のビニル樹脂としては、酢酸ビニル、酢ビー塩ビ、ポリビニルブチラール、アクリル系などが例示される。」(段落【0016】-【0017】)

1g.「本発明の防藻防黴性塗料組成物は、前記防藻防黴作用を有する無機酸化物微粒子と前記塗膜形成成分の合計量に対して、該微粒子を0.001?25%の範囲で含有することが好ましい。この含有量が0.001%より少ない場合には所望の防藻防黴効果が得られないことがあり、また、25%より多い場合には均一な塗工が困難となるなど塗料としての特性を損なうことがある。該微粒子の含有量は、好ましくは、0.01?15%の範囲が望ましい。」(段落【0020】)

1h.「本発明の防藻防黴性塗料組成物は、公知の方法、例えば、スプレー、刷毛、ロール、ディッピング、などの塗装方法により基材の表面にコーティング、乾燥して、塗膜が形成される。本発明により得られる塗膜は、耐候性、耐水性、耐久性に優れているため長期間にわたって防藻性、防黴性を有する他、抗菌性、防臭性、消臭性、防汚性などの効果を保持し、また、前記微粒子の粒子径が小さいめ塗膜の透明性に優れ、基材の外観性に優れており、更に、密着性が阻害されることがない。従って、該塗料組成物は、ビルディング、冷凍冷蔵倉庫、家屋、マンション、クーリングタワーなどの建築物の内外装、架橋などの構造物表面の塗装、船舶および車両などの内外装、農業用フィルム表面の塗装などの用途に広範囲に使用できる。」(段落【0023】)

1i.「実施例1
13.7gの硝酸銅(Cu(NO_(3))_(2)・3H_(2)O)に水2740gを加えて、濃度0.5重量%の硝酸銅水溶液を調製した。TiO_(2)濃度が1重量%のチタニアコロイド溶液4.0kgをビーカーに採取し、これを攪拌しながら50℃に加温した。この時のチタニアコロイド水溶液のpHは7.9であった。このチタニアコロイド水溶液に前記硝酸銅水溶液を10g/分の速度でペリスタポンプにて添加した。硝酸銅水溶液の添加でコロイド水溶液のpHが低下し始めたところで、陰イオン交換樹脂(三菱化学製)を初めのpH7.9を維持するように少量ずつ添加し、全硝酸銅水溶液の添加が終了するまで、この操作を継続した。陰イオン交換樹脂の全使用量は239gであり、また、コロイド水溶液の最終pHは8.1であった。このコロイド水溶液を限外濾過膜装置でTiO_(2)重量に対して200倍の水で洗浄した後、濃縮して、固形分濃度3重量%の安定な銅担持チタニア微粒子が分散したコロイド水溶液(A)を得た。該コロイド水溶液(A)の固形分中のCuOの担持量は10.0重量%であった。なお、該コロイド水溶液に分散している微粒子の平均粒子径(Dp)は超遠心式自動粒度分布測定装置(CAPA-700)で測定したところ7.0nmで、平均粒子径±30%の粒子径の範囲に占める割合は82%であった。市販の塗料(日本ペイント(株)製:ニッペスーパーコート300HQ)100重量部に、前述のコロイド水溶液(A)1重量部を添加し、攪拌して、防藻防黴塗料組成物(A?1)を得た。
実施例2
実施例1において、硝酸銅(Cu(NO_(3))_(2)・3H_(2)O)の代わりに、3.3gの硝酸銀AgNO_(3)を用い、実施例1と同じ操作を行い、銀担持チタニア微粒子が分散したコロイド水溶液(B)を得た。該コロイド水溶液(B)の固形分中のAg_(2)Oの担持量は5.1重量%であり、陰イオン交換樹脂の全使用量は101.0gであった。なお、該コロイド水溶液に分散している微粒子の平均粒子径(Dp)は超遠心式自動粒度分布測定装置(CAPA-700)で測定したところ7.0nmで、平均粒子径±30%の粒子径の範囲に占める割合は82%であった。市販の塗料(日本ペイント(株)製:ニッペスーパーコート300HQ)100重量部に、前述のコロイド水溶液(B)1重量部を添加し、攪拌して、防藻防黴塗料組成物(B?1)を得た。」(段落【0026】-【0027】)

1j.「試験方法:
1)試験菌株:次の3種の菌株を混合したものを使用した。
クロレラ(Chlorella vulgaris NIES-227)
セネデスムス(Scenedesmus quadricauda NIES-96)
セレナストラム(Selenastrum capricornutum NIES-35)
2)試験培地:C寒天培地
硝酸カルシュウム四水和物、硝酸カリウム、ビタミンB12、トリスアミノメタン、精製水などから調製された、前記3種の混合菌株に適したC液体培地に1.5%寒天を加えたもの。
3)接種用菌液:C液体培地に試験菌株を接種、培養したものを、C液体培地で10倍に希釈し、接種用菌液とした。
4)試験方法:C寒天培地上にそれぞれの試験片を乗せ、接種用菌液をスプレーにて塗布した後、温度25±1℃で、14日間、照度2000?30001xの光照射下で培養した。
5)防藻効果の評価:目視観察により評価した。
〇…試験片上の藻の発育が見られず、試験片が緑色変色していないもの。
×…試験片上の藻の発育が見られ、試験片が緑色変色しているもの。
評価結果を表1に示す。表1から本発明の防藻防黴塗料組成物は、藻の発育を防止する効果が顕著であることが分かる。」(段落【0029】)

1k.「実施例4
市販のアクリル系塗料(関西ペイント(株)製:アーバンテリア)100重量部に対し、実施例1で得たコロイド水溶液(A)1重量部を添加し、攪拌して、防藻防黴塗料組成物(A?2)を調製した。防藻防黴塗料組成物(A?2)を外装モルタル板にロールコーターで塗布し、自然乾燥にて、膜厚5mmの試験片(A?2)を得た。
実施例5
市販のアクリル系塗料(関西ペイント(株)製:アーバンテリア)100重量部に対し、実施例2で得たコロイド水溶液(B)1重量部を添加し、攪拌して、防藻防黴塗料組成物(B?2)を調製した。防藻防黴塗料組成物(B?2)を外装モルタル板にロールコーターで塗布し、自然乾燥にて、膜厚5mmの試験片(B?2)を得た。」(段落【0030】-【0031】)

1l.「【表1】


」(段落【0033】)

(3)刊行物1に記載された発明の認定
刊行物1には無機酸化物微粒子を構成する防藻防黴作用を有する金属成分のうち好ましいものとして「銀」が挙げられること(摘示記載1a及び1e)、防藻防黴作用を有する金属成分以外の無機酸化物として「SiO_(2)」、「Al_(2)O_(3)」及び「SiO_(2)・Al_(2)O_(3)」が挙げられること(摘示記載1e)、無機酸化物微粒子が防藻防黴作用を有する金属成分を無機酸化物コロイド粒子に担持させる方法により製造されること(摘示記載1e)、無機酸化物微粒子は、防藻防黴性金属成分の量を、無機酸化物全量を基準として酸化物換算で「0.5?30%」の範囲であることが好ましいこと(摘示記載1e)、防藻防黴性塗料組成物中の塗膜形成成分としてビニル樹脂が挙げられること(摘示記載1a及び1f)、該ビニル樹脂としてアクリル系が例示されること(摘示記載1f)、該塗膜形成成分として実施例においてはアクリル系塗料が使用されたこと(摘示記載1j?1l)、無機酸化物微粒子の添加量については無機酸化物微粒子と塗膜形成成分の合計量に対して微粒子を「0.001?25%」とすること(摘示記載1a及び1g)、防藻防黴性塗料組成物を公知の塗装方法により基材の表面にコーティング、乾燥して塗膜が形成されること(摘示記載1h及び1k)がそれぞれ記載されているといえ、また、無機酸化物微粒子の平均粒子径が好ましくは「5?250nm」の範囲であること(摘示記載1d)及び該無機酸化物微粒子の平均粒子径として実施例においては「超遠心式自動粒度分布測定装置」により測定した平均粒子径が「7.0nm」であったこと(摘示記載1i)が記載されている点からみて、無機酸化物として「SiO_(2)」、「Al_(2)O_(3)」又は「SiO_(2)・Al_(2)O_(3)」を用いる場合についても、その「超遠心式自動粒度分布測定装置」により測定した平均粒子径を「7.0nm」程度とする態様が記載されているに等しいといえるから、刊行物1には、
「超遠心式自動粒度分布測定装置により測定した平均粒子径が7.0nmである防藻防黴作用を有する無機酸化物微粒子が分散したコロイド溶液と、塗膜形成成分および溶剤とからなる防藻防黴性塗料組成物を基剤の表面にコーティング、乾燥して塗膜が形成された、塗膜を表面に有する基材であって、
該無機酸化物微粒子は、無機酸化物全量を基準として酸化物換算で0.5?30%の防藻防黴作用を有する金属成分を該金属成分以外の無機酸化物に担持させてなるものであり、該防藻防黴作用を有する金属成分が銀であり、該無機酸化物がSiO_(2)、Al_(2)O_(3)又はSiO_(2)・Al_(2)O_(3)であり、該塗膜形成成分がアクリル系のビニル樹脂であり、
該無機酸化物微粒子と該塗膜形成成分の合計量に対して、該微粒子を0.001?25%の範囲で含有するものである、
塗膜を表面に有する基材」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(4)本願発明と引用発明との対比
引用発明の「防藻防黴作用を有する無機酸化物微粒子」が本願発明の「シリカ又は/及びアルミナに銀を担持させた粒子」に相当することは明らかであり、引用発明の「アクリル系のビニル樹脂」が本願発明の「アクリル系樹脂」に相当することは明らかであり、引用発明の「超遠心式自動粒度分布測定装置により測定した平均粒子径が7.0nm」なる数値が測定方法の違いによる多少の差異を考慮してみても本願発明の「レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nm」なる数値の範囲内であることは明らかであり、引用発明における無機酸化物中の防藻防黴作用を有する金属成分の酸化物換算での割合である「0.5?30%」なる数値範囲は、一般に組成物等において全ての構成成分の合計量に対する各成分の割合を表す場合において用いる「%」表記が「重量%」を意味するものであることを考慮すると、本願発明の「0.1?25重量%」なる範囲に重複・一致するものであることは明らかであるから、両者は、
「アクリル系樹脂に対し、レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nmのシリカ又は/及びアルミナに酸化物として0.1?25重量%の銀を担持させた粒子を配合した塗膜を、少なくとも片面に有した基材。」である点で一致し、次の相違点1及び2において相違する。

相違点1:アクリル系樹脂に対する粒子の配合量が、本願発明ではアクリル系樹脂100重量部に対し「17.8?30重量部」であるのに対し、引用発明ではアクリル系のビニル樹脂と無機酸化物微粒子の合計量に対して「0.001?25%」である点。

相違点2:本願発明では基材が「農業用合成樹脂フィルム」であるのに対し、引用発明ではこの点に関する規定がない点。

(5-1)相違点1についての判断
引用発明における無機酸化物微粒子の割合である「0.001?25%」なる数値範囲は、一般に組成物等において全ての構成成分の合計量に対する各成分の割合を表す場合において用いる「%」表記が「重量%」を意味するものであることを考慮すると、アクリル系のビニル樹脂100重量部に対する無機酸化物微粒子の配合量に換算すると「0.001?33重量部」程度となる。そして、無機酸化物微粒子の配合量は、必要とされる防藻性や防黴性に応じて設定されるべきものであって、さらに、その適切な配合量は、無機酸化物微粒子中における防藻防黴作用を有する金属成分である銀の含有割合により変動するものであるから、無機酸化物微粒子として銀の含有割合の低いものを用いる場合には、無機酸化物微粒子の配合量は当然に増加させるべきものであり、上記「0.001?33重量部」なる範囲内において、その配合量を適宜設定し、無機酸化物微粒子中の銀の含有割合が低い場合や高い防藻性が必要とされる場合等に無機酸化物微粒子の配合量を「17.8?30重量部」の範囲内とする程度は当業者であれば適宜なし得ることと認められる。
なお、本願発明においては粒子の配合量を「17.8?30重量部」と規定しているものの、粒子中の銀の含有割合については「酸化物として0.1?25重量%の銀を担持させた」ものであることを規定するのみであって、粒子の配合量が同じ「17.8?30重量部」であっても、粒子中の銀の含有割合の相違によって得られる塗膜中の銀濃度は著しく相違するものとなるから(例えば、粒子の配合量が17.8重量部であっても、本願明細書中の実施例に関し平成22年12月27日に提出された意見書中において審判請求人が主張するように粒子中の銀の含有割合が「5重量%」である場合には酸化物として0.89重量部の銀が配合されることになるが、粒子中の銀の含有割合が下限値である「0.1重量%」である場合には酸化物として0.0178重量部の銀が配合されることになり、両者は粒子の配合量が同じ「17.8重量部」であっても、配合される酸化物としての銀の総量は50倍の差を有するものとなる等)、該「17.8?30重量部」なる数値範囲は技術的意義・臨界的意義を有しないものとなっており、粒子の配合量を「17.8?30重量部」としたことによる格別な作用効果は何ら認めることができない。
したがって、相違点1は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が適宜なしえたことといえる。

(5-2)相違点2についての判断
刊行物1には、防藻防黴性塗料組成物が「農業用フィルム表面の塗装に適した、耐候性、耐水性、耐久性および外観性に優れた塗膜を形成する」ものであること(摘示記載1b)、「有機系防藻防黴組成物は藻や黴類等対する効果が比較的弱く、長期間効果が持続しないという問題点を解決し、長期間にわたって防藻防黴効果を持続し、また、被塗布体の表面色調への影響が無く、安定性に優れた無機系防藻防黴塗料組成物を提供することを目的とするものである」こと(摘示記載1c)、「前記微粒子の粒子径が小さいめ塗膜の透明性に優れ、基材の外観性に優れ」たものであること(摘示記載1h)、「該塗料組成物は、・・・農業用フィルム表面の塗装などの用途に広範囲に使用できる」ものであること(摘示記載1h)がそれぞれ記載されており、引用発明における基材として「農業用フィルム」を選択しうることが示唆されているといえ、また、耐候性、耐水性、耐久性、外観性及び透明性に優れる塗膜を形成するということからみても、農業用フィルム表面の塗装に適したものであることを当業者であれば直ちに想起しうるといえるから、引用発明における基材として農業用フィルムを選択することは当業者であれば容易になしうると認められる。
なお、農業用フィルムに優れた透明性及び防藻性が必要とされることはそもそも一般常識に過ぎず、本願発明における作用効果が予測し得ないものであるとは認められない。
したがって、相違点2は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易になしえたことといえる。

(5-3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)平成22年12月27日提出の意見書における審判請求人の主張について
審判請求人は、平成22年12月27日提出の意見書において、「一方、刊行物1に記載の防藻防黴性塗料組成物は、該刊行物の明細書の段落[0023]に、『該塗料組成物は、ビルディング、冷凍冷蔵倉庫、家屋、マンション、クーリングタワーなどの建築物の内外装、架橋などの構造物表面の塗装、船舶および車両などの内外装、農業用フィルム表面の塗装などの用途に広範囲に使用できる。』と記載されるように、非常に広範な用途に適用可能であることが記載されており、確かに、上記に記載された用途の中には、“農業用フィルム表面の塗装”の用途も含まれています。
しかし一方で、刊行物1の段落[0024]に、『本発明の防藻防黴性塗料組成物は、特に、家屋の外壁、窓枠、扉、雨戸、瓦、雨樋などの外装や、押入、トイレ、風呂場、台所などの内装、カーペット、カーテンなどの繊維材料、塩ビパイプなどの樹脂成型物表面、水槽などのガラス表面、コンクリート表面などの塗装に好適である。』と記載されることから、刊行物1に記載の防藻防黴性塗料組成物は、必ずしも“農業用フィルム表面の塗装”の用途に好適というものではないであろうことも把握できます。
そして、上記のように、非常に広範な用途への適用を記載する、刊行物1に記載の防藻防黴性塗料組成物の構成も非常に幅広い範囲を含むものであり、例えば、防藻防黴作用を有する無機酸化物微粒子の平均粒子径は、好ましくは、3?300nm、更に好ましくは、5?250nmの範囲(刊行物の段落[0009]参照)と記載されるようにその数値範囲の幅は非常に広く、無機酸化物微粒子における防藻防黴性金属成分の量も、好ましくは、0.01?50%、更に好ましくは、0.5?30%の範囲(刊行物の段落[0013]参照)と記載されるようにその数値範囲の幅は非常に広く、防藻防黴作用を有する無機酸化物微粒子も、0.001?25%の範囲で含有することが好ましく、また、好ましくは、0.01?15%の範囲が望ましい(刊行物の段落[0020]参照)と記載されるようにその数値範囲の幅は非常に広くなっています。
即ち、刊行物1に記載の防藻防黴性塗料組成物は、非常に広範な用途に適用可能であることが記載され、そして、その構成は、非常に幅広く設定された複数の数値範囲の組み合わせにより規定されるものであり、従って、刊行物1に記載の発明で規定される広範な範囲から、特定の用途においてどのような組成物の構成が適するものであるかを予測することは、例え当業者といえども、容易にできたものでないと考えるのが妥当であると考えられ」ることを主張している。

まず、用途に関して検討してみると、上記「(5-2)相違点2についての判断」において述べたとおり、刊行物1には基材として「農業用フィルム」を選択しうることが充分に示唆されているといえ、また、耐候性、耐水性、耐久性、外観性及び透明性に優れる塗膜を形成するということからみても、農業用フィルム表面の塗装に適したものであることを当業者であれば直ちに想起しうるといえるから、基材として農業用フィルムを選択することに何ら困難性はなく、当業者であれば容易になしうると認められる。
そして、防藻防黴作用を有する無機酸化物微粒子の平均粒子径については、上記「(3)刊行物1に記載された発明の認定」のとおり、引用発明においては7.0nmであって本願発明の「5?20nm」なる数値の範囲内であると認められるが、さらに付言すれば、摘示記載1dにも記載されるように、粒子径が大きければ可視光の散乱が多くなり塗膜の透明性が損なわれることは当然であって、透明性が必要とされる農業用フィルム表面の塗装に用いる場合に透明性を損なわないように無機酸化物微粒子として十分に粒子径の小さいものを選択することも当然であるといえる。
次に、無機酸化物微粒子における防藻防黴性金属成分の量及び塗膜中の防藻防黴作用を有する無機酸化物微粒子の含有量については、上記「(5-1)相違点1についての判断」で述べたとおり、無機酸化物微粒子として銀の含有割合の低いものを用いる場合には、無機酸化物微粒子の配合量は当然に増加させるべきものであり、配合量を適宜設定し、無機酸化物微粒子中の銀の含有割合が低い場合や高い防藻性が必要とされる場合等に無機酸化物微粒子の配合量を「17.8?30重量部」の範囲内とする程度は当業者であれば適宜なし得ることと認められ、また、本願発明における銀を担持させた粒子の配合量についての数値範囲である「17.8?30重量部」は、その銀担持量として「酸化物として0.1?25重量%」なる極めて広範な規定がなされていることともあいまって技術的意義・臨界的意義が認められないものとなっていることも上記「(5-1)相違点1についての判断」で述べたとおりである。
よって、審判請求人の上記主張は採用することができない。


4-2.拒絶理由B(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がされている。

[摘示ア]
「本発明でのシリカ、アルミナおよびシリカ-アルミナ微粒子への銀担持量は酸化物として0.1?25重量%の範囲内であることが望ましい。銀担持量が0.1重量%よりも少ない場合には防藻性が弱くなることがあり、また、25重量%よりも多い場合には変色が生じることがある。好ましい銀担持量は0.1?15重量%の範囲内である。
本発明において、農業用合成樹脂フィルムにアクリル系樹脂からなる塗膜を設ける。シリカ又はアルミナに銀を担持させた粒子の量は、アクリル系樹脂100重量部に対して0.05?30重量部とする。シリカ、アルミナおよびシリカ-アルミナに銀を担持させた粒子の添加量が0.05重量部よりも少ないと、得られる防藻性が弱く、フィルム表面に藻やカビが繁殖してしまい、フィルムの透明性が損なわれる。また、シリカやアルミナに銀を担持させた粒子の添加量が30重量部よりも多いと、シリカやアルミナに銀を担持させた粒子によって、フィルムの透明性が損なわれるとともに、塗膜が割れやすくなったり、コストが上がるなどの問題がある。」(段落【0017】-【0018】)

[摘示イ]
「【実施例】・・・
得られたフィルムに、表2に示す配合の塗膜(実施例1、2、5、参考例3、4)ならびに、表3に示す配合の塗膜(比較例1?5)をロールコーターにより設けた。・・・
得られた防藻性農業用合成樹脂フィルムについて、防藻性試験を行った。
防藻性試験の試験方法は、培地を固定したシャーレにフィルムを乗せ、Chlorella vulgaris NIES-227(クロレラ)とScenedesmus quadricauda NIES-96(セネデスムス)、Selenastrum capricornutum NIES-35(セレナストラム)の3種混合胞子を、液体培地に1.5%寒天を加えたものに混ぜ、その液体をフィルム上に噴霧した。25℃で4週間、照度2000?3000lxの光照射下、培養後、藻の繁殖を目視により観察した。評価基準は以下の通りである。
◎ フィルム上には、藻は殆ど繁殖していなかった
◯ フィルム上に、多少藻が存在していた
× フィルム上には、藻が繁殖していた
また、フィルムの透明性を目視により評価した。評価基準は以下の通りである。
◎ 非常に透明性がよい
◯ 若干白っぽく見える
× 透明性が悪く、白っぽい
【表2】

*4:プロピルアルコール:酢酸エチル:トルエン=100:15:10
*5:コロネート HL(日本ポリウレタン社製)
*6:ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製) 平均粒径15nm
*7:平均粒径3μmのシリカ-アルミナ
*8:IPA-ST(日産化学社製) 平均粒径20nm
【表3】

*4?8は表2と同じ」(段落【0028】-【0034】)


(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件についての検討
特許法第36条第6項第1号は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と定めている。これは、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合には、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないことを意味するものである。
そこで、この点について以下に検討する。

(2-1)本願発明の粒子の添加量「17.8?30重量部」
本願発明は、発明を特定するために必要な事項として、少なくとも片面に塗膜を有した農業用合成樹脂フィルムにおいて、該塗膜中の「レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nmのシリカ又は/及びアルミナに酸化物として0.1?25重量%の銀を担持させた粒子」の配合量をアクリル系樹脂100重量部に対し「17.8?30重量部」とするとの事項(以下、「添加量事項」という。)を備えるものである。

(2-2)本願明細書の実施例における添加量事項に関する記載
添加量事項に関して、本願明細書の実施例においては摘示イのとおり、アクリル系樹脂100重量部に対して「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」を「17.8重量部」(実施例2及び5)又は「26.7重量部」(実施例1)配合したもののみが記載されている。なお、「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」について、審判請求人は平成22年12月27日提出の意見書において「銀担持量は、Ag_(2)Oとして5重量%」であるATOMY BALL-(UA)(触媒化成工業社製)と「同程度であろうと考えられる」ことを主張している。

(2-3)本願明細書の実施例以外の発明の詳細な説明における添加量事項に関する記載
本願明細書の実施例以外の発明の詳細な説明には、摘示アのように、粒子の添加量に関して「0.05?30重量部」なる数値範囲が記載されており、添加量が0.05重量部よりも少ないと、「得られる防藻性が弱く、フィルム表面に藻やカビが繁殖してしまい、フィルムの透明性が損なわれる」こと、30重量部よりも多いと、「シリカやアルミナに銀を担持させた粒子によって、フィルムの透明性が損なわれるとともに、塗膜が割れやすくなったり、コストが上がるなどの問題がある」ことが記載されているものの、「17.8?30重量部」なる数値範囲や、該数値範囲における下限値である「17.8」なる数値について説明は一切なされていない。

(2-4)検討
摘示アに「本発明でのシリカ、アルミナおよびシリカ-アルミナ微粒子への銀担持量は酸化物として0.1?25重量%の範囲内であることが望ましい。銀担持量が0.1重量%よりも少ない場合には防藻性が弱くなることがあり、また、25重量%よりも多い場合には変色が生じることがある」と記載されているように、塗膜にどの程度の防藻性を付与し得るかは、シリカ又は/及びアルミナへの銀の担持量にも大きく依存するものであって、「銀を担持させた粒子」の添加量のみに依存するわけでないことは明らかである。
そして、本願明細書の実施例において使用されている上記「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」については、その銀担持量が全く不明であって、アクリル系樹脂100重量部に対して「17.8重量部」又は「26.7重量部」という添加量が銀の添加量としてはどの程度のものであるか不明となっている。
してみると、本願発明における上記粒子の配合量である「17.8?30重量部」なる範囲は、該粒子として特定量の銀を担持していると認められる「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」を用いた場合のみについて実験的に設定されたものに過ぎないといえ、そのような結果を銀担持量が「酸化物として0.1?25重量%」である全ての「レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nmのシリカ又は/及びアルミナに酸化物として0.1?25重量%の銀を担持させた粒子」を用いる場合にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。
なお、この点につき、審判請求人は平成22年12月27日に提出した意見書において、「銀担持量は、Ag_(2)Oとして5重量%」であるATOMY BALL-(UA)(触媒化成工業社製)と「同程度であろうと考えられる」ことを主張しているが、「ATOMY BALL-(UA)(触媒化成工業社製)」の銀担持量と「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」の銀担持量とがなぜ「同程度であろうと考えられる」のか、その合理的理由を何ら述べていないから、審判請求人の上記主張は採用することができない。

仮に、「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」中の銀担持量が審判請求人の上記主張のとおり5重量%程度であったとすると、本願明細書の実施例においては、上記「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」を、アクリル系樹脂100重量部に対して「17.8重量部」又は「26.7重量部」という添加量で配合しているのみであるから、銀の添加量は酸化物としてそれぞれアクリル系樹脂100重量部に対して0.05×17.8=0.89重量部、0.05×26.7=1.335重量部程度である具体例のみが記載されているものと認められる。
しかしながら、本願発明においては「レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nmのシリカ又は/及びアルミナに『酸化物として0.1?25重量%の銀』を担持させた粒子」をアクリル系樹脂100重量部に対して17.8?30重量部配合することが規定されているのであって、銀担持量が酸化物として5重量%である場合のみに限定されているわけではないのだから、アクリル系樹脂100重量部に対する銀の添加量は酸化物として0.0178?7.5重量部なる広範な範囲を有するものとなっており、該範囲における下限値である「0.0178」重量部なる数値は、上記実施例における0.89重量部又は1.335重量部なる数値とかけ離れたものであるから、添加量事項に関する「17.8?30重量部」なる数値範囲が上記実施例の結果に何ら裏付けられるものでないことは明白である。
してみると、本願発明における上記粒子の配合量である「17.8?30重量部」なる範囲は、該粒子として酸化物として5重量%の銀を担持していると審判請求人が主張する「ATOMY BALL-(UAE4)(触媒化成工業社製)」を用いた場合のみについて実験的に設定されたものに過ぎないといえ、そのような結果を銀担持量が「酸化物として0.1?25重量%」である全ての「レーザー散乱粒子径測定法により測定した平均粒径が5?20nmのシリカ又は/及びアルミナに酸化物として0.1?25重量%の銀を担持させた粒子」を用いる場合にまで、拡張ないし一般化できるとはいえない。

また、上記(2-3)において述べたように、本願明細書の実施例以外の発明の詳細な説明をみても、この拡張ないし一般化を支援する記載はなされていない。
なお、審判請求人が平成22年12月27日に提出した意見書をみても、この点については「上記指摘に対しまして、出願人は、本書と同日付の手続補正書により、本願請求項1に“酸化物として0.1?25重量%の”なる記載を導入する補正を行って、銀担持量を特定の範囲に限定しました。」、「以上より、本願は特許請求の範囲の記載につき、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、同号違反の理由により拒絶されるべきでないと確信します。」と記載されているのみであり、その根拠については何ら述べられていない。

よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとは認められないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5.むすび
以上のとおりであるから、当審が平成22年10月26日付けで通知した拒絶理由通知における、本願の請求項1に係る発明についての拒絶理由A及びBは妥当なものであり、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-09 
結審通知日 2011-02-16 
審決日 2011-03-01 
出願番号 特願2002-141593(P2002-141593)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08J)
P 1 8・ 537- WZ (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 藤本 保
大島 祥吾
発明の名称 農業用合成樹脂フィルム  
代理人 萼 経夫  
代理人 加藤 勉  
代理人 中村 壽夫  
代理人 宮崎 嘉夫  

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