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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H |
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管理番号 | 1235419 |
審判番号 | 不服2008-24388 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-09-24 |
確定日 | 2011-04-14 |
事件の表示 | 特願2006-223320「圧電振動片および圧電デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月28日出願公開、特開2008- 48275〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明 本願は、平成18年8月18日の出願であって、その特許請求の範囲に記載された発明は、平成20年10月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。 そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「圧電材料により形成された基部と、 前記基部の一端側から延びる複数の振動腕と、 を備え、 前記振動腕は、前記基部との付け根から先端に向かって幅が狭くなる縮幅部を有し、 前記縮幅部には、長手方向に延びる長溝が形成され、 前記振動腕の側面と前記長溝には、駆動電圧が印加される駆動電極としての励振電極が形成されており、 前記励振電極が下地層であるクロム層と、電極層としての金層を含んでおり、 前記クロム層の膜厚が300Å以下であり、前記金層の膜厚が500Å以下とされ、前記振動腕の腕幅は40μないし60μであることを特徴とする圧電振動片。」 2.引用例 (1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-148857号公報(以下「引用例1」という。)の図9を、引用例1の【発明の詳細な説明】の欄の記載と技術常識に照らせば、引用例1には、 「圧電材料により形成された基部と、 前記基部の一端側から延びる複数の振動腕と、 を備え、 前記振動腕は、前記基部との付け根から先端に向かって幅が狭くなる縮幅部を有し、 前記縮幅部には、長手方向に延びる長溝が形成され、 前記振動腕の側面と前記長溝には、駆動電圧が印加される駆動電極としての励振電極が形成されている圧電振動片。」 の発明(以下、「引用例1記載発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。 (2)引用例2 原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-266873号公報(以下「引用例2」という。)の段落【0069】には、引用例2の図1に示される音叉型水晶振動片100の電極が形成される工程を示す図17に関し、「図17に示す電極膜150は、下層がCrで厚みが例えば100Å乃至1000Åで形成される。そして、上層がAuで厚みが例えば500Å乃至1000Åで形成されている。」なる記載があり、そこに示される電極膜150の各層の膜厚は、同引用例2の段落【0069】?【0077】の記載からみて、そのまま図1に示される音叉型水晶振動片100の電極の各層の膜厚になるものと認められる。 また、引用例2の図1及び段落【0052】には、各音叉腕の幅が0.1mm、すなわち100μであることも示されている。 以上の事情を技術常識に照らせば、引用例2には、 「圧電材料により形成された基部と、 前記基部の一端側から延びる複数の振動腕と、 を備え、 前記振動腕には、長手方向に延びる長溝が形成され、 前記振動腕の側面と前記長溝には、駆動電圧が印加される駆動電極としての励振電極が形成されており、 前記励振電極が下地層であるクロム層と、電極層としての金層を含んでおり、 前記クロム層の膜厚が100Å乃至1000Åであり、前記金層の膜厚が500Å乃至1000Åとされ、前記振動腕の腕幅は100μである圧電振動片。」 の発明(以下、「引用例2記載発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。 3.対比 本願発明と引用例1記載発明を対比すると、両者の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「圧電材料により形成された基部と、 前記基部の一端側から延びる複数の振動腕と、 を備え、 前記振動腕は、前記基部との付け根から先端に向かって幅が狭くなる縮幅部を有し、 前記縮幅部には、長手方向に延びる長溝が形成され、 前記振動腕の側面と前記長溝には、駆動電圧が印加される駆動電極としての励振電極が形成されている圧電振動片。」である点。 (相違点1) 本願発明の励振電極は、下地層であるクロム層と、電極層としての金層を含み、前記クロム層の膜厚が300Å以下であり、前記金層の膜厚が500Å以下であるのに対し、引用例1記載発明の励振電極は、それらの層を含んでいるとは限らない(引用例1には、励振電極の具体的層構成についての記載がない。)点。 (相違点2) 本願発明の振動腕の腕幅は40μないし60μであるのに対し、引用例1記載発明の振動腕の腕幅は40μないし60μであるとは限らない(引用例1には、その図9に示される実施形態における振動腕の腕幅寸法の明示的記載がない。)点。 4.当審の判断 (1)上記相違点について(事案に鑑み(相違点2)についての判断を先に示す。) ア.(相違点2)について 下記(ア)、(イ)の事情を勘案すると、引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内とすることは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。 (ア)引用例1の段落【0026】には、引用例1記載発明に対応する引用例1の図9の実施形態とは異なる図1の実施形態についての記載ではあるが、振動腕の腕幅W2を50μ程度とすることが記載されていること、腕幅寸法についての明示的記載がない上記図9の実施形態において、その振動腕の腕幅を上記図1の実施形態とことさら異なった値とすべき理由はないこと、等の事情に鑑みれば、引用例1記載発明においても、その振動腕の腕幅は50μ程度とされるのが自然である。 (イ)上記(ア)の事情は、引用例1の段落【0050】に上記図9の寸法kを50ないし100μとするのが好ましい旨の記載があり、該図9に振動腕の腕幅(c)が該寸法kよりもやや小さい値とされた形状が示されていることとも整合している。 イ.(相違点1)について 下記(ア)、(イ)の事情を勘案すると、「上記ア.にしたがって引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内としたもの」において、励振電極を、「下地層であるクロム層と、電極層としての金層を含み、前記クロム層の膜厚が300Å以下であり、前記金層の膜厚が500Å以下であるもの」とすることも、当業者が容易に推考し得たことというべきである。 (ア)まず、「引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内としたもの」において、励振電極を、「下地層であるクロム層と、電極層としての金層を含む」ものとすることが当業者にとって容易であったといえるか否かについて検討するに、以下の事情を勘案すると、そのようにすることは当業者にとって容易であったというべきである。 a.引用例2記載発明は、引用例1記載発明でいう「縮幅部」を有しない点と、振動腕の腕幅が40μないし60μの範囲内ではなく100μである点を除き、「引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内としたもの」と共通する構成を有するものであるが、その引用例2記載発明においては、励振電極は、「下地層であるクロム層と、電極層としての金層を含む」ものとされている。 そして、その引用例2記載発明の「下地層であるクロム層と、電極層としての金層を含むもの」が「引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内としたもの」の励振電極としても採用可能であることは当業者に明らかである。 b.圧電振動片の励振電極を、下地層であるクロム層と電極層としての金層を含むものとすることは、引用例2のみならず原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-22487号公報(段落【0024】参照)等にも示されており、当業者に周知の技術であったと認められる。 c.引用例1の段落【0068】には励振電極の材料として金が例示されており、引用例1記載発明においても電極材料として金を用いることが想定されているといえる。 (イ)次に、上記(ア)にしたがって励振電極を「下地層であるクロム層と、電極層としての金層を含む」ものとする場合に、「クロム層の膜厚を300Å以下、金層の膜厚を500Å以下」とすることが当業者にとって容易であったといえるか否かについて検討するに、以下の事情を勘案すると、そのようにすることも当業者にとっては容易であったというべきである。 a.公知の発明で採用されている寸法等の数値範囲を、公知の発明と類似の構成を有する発明を具現化する際の寸法等の参考とすることは、ごく普通に行われていることであるところ、「上記ア.にしたがって引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内としたもの」の励振電極を「上記(ア)にしたがって下地層であるクロム層と電極層としての金層を含むものとした場合」に構成される圧電振動片は、引用例2記載発明と類似の構成となるから、上記「上記ア.にしたがって引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内としたもの」の励振電極を「上記(ア)にしたがって下地層であるクロム層と電極層としての金層を含むものとした場合」におけるクロム層と金層の各膜厚の決定に際して、引用例2記載発明のクロム層と金層の各膜厚(クロム層の膜厚が100Å乃至1000Å、前記金層の膜厚が500Å乃至1000Å)を参考に、その近辺で、所望の特性を満たす膜厚を探すのは、当業者が普通に考えることである。 b.圧電振動子を含む電子デバイスの技術分野において、小型軽量化や低コスト化は普遍的な課題であり、また、圧電振動片の励振電極の膜厚についても、それを低減することが上記小型軽量化や低コスト化につながることは当業者に自明のことであるから、当業者は、「上記ア.にしたがって引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内としたもの」の励振電極を「上記(ア)にしたがって下地層であるクロム層と電極層としての金層を含むものとした場合」における励振電極の各層の膜厚の決定に際しては、圧電振動片に求められる諸特性が許す範囲で、各層をできるだけ薄くしようと考えるのが普通である。 c.「『上記ア.にしたがって引用例1記載発明の振動腕の腕幅を40μないし60μの範囲内としたもの』の励振電極を『上記(ア)にしたがって下地層であるクロム層と電極層としての金層を含むものとした場合』」と同じ構成を有する本願発明において、「クロム層の膜厚が300Å以下で、金層の膜厚が500Å以下」の範囲で求める特性が得られている、という事実からみて、上記a.、b.にしたがって決定される励振電極の各層の膜厚は、当然に、クロム層の膜厚が300Å以下であり、金層の膜厚が500Å以下のものを含むと考えられる。 なお、審判請求人は、「本願の課題である『低温における周波数ひずみ』を知らずして本願発明を想到することは不可能」である旨主張する(平成22年12月24日付け回答書の「指摘2に対して」の欄)が、上記a.?c.で論じたところによれば、当業者は、上記「低温における周波数ひずみ」を知らなくても、実験的に数値範囲を最適化又は好適化するといった通常の創作能力の発揮により、本願発明の範囲内に到達可能であったというべきであるから、上記審判請求人の主張は採用できない。 (2)本願発明の効果について 本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用例1記載発明、引用例2記載発明、及び周知の事項から当業者が容易に想到し得たものが当然に有する効果にすぎず、本願発明の進歩性を肯定する根拠となり得るものではない。 5.むすび 以上によれば、本願発明は、引用例1記載発明、引用例2記載発明、及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-09 |
結審通知日 | 2011-02-15 |
審決日 | 2011-02-28 |
出願番号 | 特願2006-223320(P2006-223320) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H03H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橋本 和志、藤井 浩 |
特許庁審判長 |
小曳 満昭 |
特許庁審判官 |
池田 聡史 岩崎 伸二 |
発明の名称 | 圧電振動片および圧電デバイス |
代理人 | 宮坂 一彦 |
代理人 | 上柳 雅誉 |
代理人 | 須澤 修 |