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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1235436
審判番号 不服2009-3474  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-16 
確定日 2011-04-13 
事件の表示 特願2004-377996「有機電界発光素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月 6日出願公開、特開2006- 93080〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成16年12月27日(パリ条約による優先権主張2004年9月21日、韓国)の出願であって、平成20年4月15日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年11月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年2月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日に手続補正がなされたものである。
その後、前置報告書の内容について、審判請求人の意見を求めるために平成22年7月21日付けで審尋がなされ、同年10月25日に当該審尋に対する回答書が提出された。

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、請求項の削除を目的として平成21年2月16日付けの手続補正により補正された、特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
そして、その請求項1に記載された発明は以下のとおりのものである。
「画素電極が形成された基板を提供する段階と、
前記基板全面にドナー基板をラミネーションする段階と、
前記ドナー基板の所定領域にレーザー照射装置から発生するレーザービームをスキャンして前記基板上に有機膜層パターンを形成する段階と、を含み、
前記レーザービームを前記レーザー照射装置の移動がない1つのステップでガルバノメーターを用いてマルチラインにスキャンする工程を繰り返すことを特徴とし、
前記ガルバノメーターは、X軸方向に沿ってスキャニングするためのX-ガルバノメーター及びY軸方向にポジションするためのY-ガルバノメーターからなることを特徴とする有機電界発光素子の製造方法であって、
前記レーザービームを1ステップでマルチラインにスキャンする工程は、X-ガルバノメーターを用いて前記ドナー基板の所定領域をX軸方向にスキャンする段階と、
Y-ガルバノメーター用いて前記ドナー基板のY軸方向にポジションする段階と、を繰り返してマルチラインにスキャンすることを特徴とし、
前記X-ガルバノメーター用いて前記ドナー基板の所定領域をX方向にスキャンする段階と、
前記Y-ガルバノメーター用いて前記ドナー基板のY軸方向にポジションする段階と、
を4?6回繰り返すこと
を特徴とする有機電界発光素子の製造方法。」(以下「本願発明」という。)

第3 刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2003-229259号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機電場発光表示装置の製造方法に、具体的には、有機材料の輻射線誘発型熱転写法により表示要素を形成することに関する。」

(b)「【0010】
【課題を解決するための手段】上記の目的は、表示基板上に画素を配列させてなる有機電場発光表示装置の製造方法であって、(a) 表示基板上に第1電極を配列し、(b) ドナー支持体と、該ドナー支持体上の輻射線吸収層と、該輻射線吸収層上の少なくとも1層の有機層とを含んで成るドナー要素であって、該有機層が該表示基板に転写されるべき1又は2種以上の材料を含むもの、を用意し、(c) 該ドナー要素を、第1電極の配列パターンを有する該表示基板と転写関係をなすように配置し、(d) 該有機層を転写する前に、該表示基板もしくは該ドナー要素又はこれらの両方を特定の温度範囲に加熱し、(e) 該第1電極と電気接続される該表示基板上の画素に対応する指定領域に該ドナー要素から該有機層の特定部分が転写されるのに十分な出力及び所望のスポットサイズを有するレーザービームの焦点を該ドナー要素の該輻射線吸収層の上に合わせ、かつ、該レーザービームを走査し、そして(f) 該表示基板上の転写された有機部分の上に第2電極を設けることを特徴とする方法によって達成される。」

(c)「【0011】
【発明の実施の形態】図1に、本発明により表示基板18の上にドナー転写要素(以下、ドナー要素12という。)から材料を転写するためのレーザー印刷装置10を示す。該印刷装置10のレーザー14は、レーザービーム26を発生するダイオードレーザーその他任意の高出力レーザーであることができる。本発明では、2以上のレーザー又はレーザービームを同時に使用することもできる。該レーザービームを走査させてレーザービーム26とドナー要素12との間で相対移動をさせるため、可動ミラーを含む検流計22で該ビームを走査してf-シータレンズ24を介してX方向におけるラインを形成する。当業者であれば、鏡面を有する多面体のような他の可動ミラーや、回転回折格子のような他のデバイスによっても、レーザービームの走査が可能であることを理解することはできる。
【0012】図1に示した実施態様では、ドナー要素12及び表示基板18が、並進ステージ32によって、上記ラインと直交するY方向において搬送されることにより、全域が走査されることとなる。当該走査における任意の地点でのレーザービーム強度を、コンピュータ28の指示を使用してレーザー出力制御ライン30によって制御する。別法として、当該レーザービーム強度を、レーザー光学技術分野の当業者には周知であるように、音響光学変調器(図示なし)のような独立した変調器によって制御することもできる。別の実施態様では、当該基板を固定し、そしてレーザー装置を移動させ、又はそのビームを光学的に向け直すことができる。重要な特徴は、全域を走査することができるように、レーザービームと表示基板との間で相対移動をさせることである。
【0013】図2に示したように、ドナー要素12は、表示基板18と転写関係をなすように配置される。ドナー要素12及び表示基板18の構造、材料及び製造については後述する。ドナー要素12及び表示基板18は、この位置に、クランプ締結、加圧、接着剤、他により保持することができる。転写は、窒素もしくはアルゴンのような不活性雰囲気下で、又は真空下で、行なうことが好ましい。好ましい実施態様では、材料転写が望まれる表示基板の部分とドナー要素との間に隙間が維持される。
【0014】f-シータレンズ24でレーザービームの焦点をドナー要素12の輻射線吸収層36に合わせながら、検流計22で該レーザービームを走査する。レーザービームは、有機層38中の材料を表示基板18に転写させて転写有機層44を形成させるのに十分高い温度にまで輻射線吸収層36を加熱するのに十分な出力を有しなければならない。一つの実施態様では、これは、有機層38中の材料の一部又は全部が気化して表示基板18上に凝縮することにより行なわれる。f-シータレンズ24により発生させるスポットサイズが、有機層の転写領域を指示する。配置は、当該レーザービームが一定走査速度について十分な出力を有する時に、当該スポットサイズにより、発光層の照明部分の材料がドナー要素から表示基板上の画素に対応する指定領域へ選択的に転写されるようなものである。図2において、レーザービームは、間隔を置いて並べられた2本の矢印として示されている。説明の便宜上、レーザービーム26は、実際には異なる2つの位置間で移動され、そこで有機層38の部分を転写するために照射したものと理解される。
【0015】好ましい実施態様では、レーザービームを検流計22によりドナー要素12を差し渡し連続的に走査しながら、レーザー出力をコンピュータ28の指示により変調する。ドナー要素12に入射するレーザー出力を変調させることにより、表示基板18に対し、走査の特定領域において選択可能な量で有機層38中の有機材料を転写させることができる。好ましい実施態様では、有機層38中の材料のほとんど又は全部を基板18へ転写する。」

(d)「【0023】以下、表示基板18、有機ELディスプレイに有用な有機材料その他の関連情報についての一般説明を行なう。本発明は、ほとんどのOLEDデバイス形状に採用することができる。これらには、単一のアノードとカソードとを含む非常に簡素な構造体から、より複雑なデバイス、例えば、複数のアノードとカソードを直交配列させて画素を形成したパッシブ型ディスプレイや、各画素を、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)で個別に制御するアクティブ型ディスプレイ、までが含まれる。本発明は、フルカラー表示装置の製造に応用された時に、利点が最大となる。」

上記各記載を含む刊行物1全体の記載及び当業者の技術常識を総合的に勘案すると、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「 表示基板(18)上に第1電極を配列し、
ドナー支持体(34)と、該ドナー支持体上の輻射線吸収層(36)と、該輻射線吸収層上の少なくとも1層の有機層(38)とを含んで成るドナー要素(12)であって、該有機層が該表示基板に転写されるべき1又は2種以上の材料を含むもの、を用意し、
該ドナー要素を、第1電極の配列パターンを有する該表示基板と転写関係をなすように配置し、
表示基板の上にドナー要素から材料を転写するためのレーザー印刷装置(10)のレーザー(14)のレーザービーム(26)を走査させてレーザービームとドナー要素との間で相対移動をさせるため、可動ミラーを含む検流計(22)で該ビームを走査してf-シータレンズ(24)を介してX方向におけるラインを形成し、ドナー要素及び表示基板が、並進ステージ(32)によって、上記ラインと直交するY方向において搬送されることにより、全域が走査される有機電場発光表示装置の製造方法。」(以下「刊行物1記載の発明」という。)

第4 対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「第1電極を配列し」た「表示基板」と本願発明の「画素電極が形成された基板」とは、ともに「電極が形成された基板」である点で共通し、刊行物1記載の発明が当該基板を提供する段階を有していることは明らかである。
また、刊行物1記載の発明の「ドナー支持体と、該ドナー支持体上の輻射線吸収層と、該輻射線吸収層上の少なくとも1層の有機層とを含んで成るドナー要素であって、該有機層が該表示基板に転写されるべき1又は2種以上の材料を含むもの」は、本願発明の「ドナー基板」に相当する。したがって、刊行物1記載の発明の「該ドナー要素を、第1電極の配列パターンを有する該表示基板と転写関係をなすように配置し」と、本願発明の「前記基板全面にドナー基板をラミネーションする段階」は、ともに「前記基板全面にドナー基板を重ねて配置する段階」で共通する。
そして、刊行物1記載の発明の「表示基板の上にドナー要素から材料を転写するためのレーザー印刷装置のレーザーは、レーザービームを走査させてレーザービームとドナー要素との間で相対移動をさせる」ことは、本願発明の「前記ドナー基板の所定領域にレーザー照射装置から発生するレーザービームをスキャンして前記基板上に有機膜層パターンを形成する段階」に相当する。
さらに、刊行物1記載の発明の「可動ミラーを含む検流計」は、本願発明の「ガルバノメーター」に相当し、刊行物1記載の発明の「可動ミラーを含む検流計で該ビームを走査してf-シータレンズを介してX方向におけるラインを形成し」が本願発明の「前記ガルバノメーターは、X軸方向に沿ってスキャニングするためのX-ガルバノメーターで前記ドナー基板の所定領域をX軸方向にスキャンする段階」に相当することは明らかである。この場合、刊行物1記載の発明において、X方向におけるラインを形成する際にレーザー印刷装置の移動がないことも明らかである。
そして、刊行物1記載の発明の「ドナー要素及び表示基板が、並進ステージによって、上記ラインと直交するY方向において搬送されること」と、本願発明の「Y-ガルバノメーター用いて前記ドナー基板のY軸方向にポジションする段階」とは、ともに「X方向のラインと直交するY方向にドナー基板をポジションする段階」で共通する。そして、刊行物1記載の発明は、検流計によるビームの走査でX方向のラインを形成し、並進ステージでドナー基板及び表示基板をY方向に搬送することにより「全域が走査される」のであるから、本願発明の「ガルバノメーターを用いてラインにスキャンする工程を繰り返し、」「マルチラインにスキャンする」に相当する構成を有することは明らかである。
また、刊行物1記載の発明の「有機電場発光表示装置」は、本願発明の「有機電界発光素子」に相当する。

したがって両者は、
「電極が形成された基板を提供する段階と、
前記基板全面にドナー基板を重ねて配置する段階と、
前記ドナー基板の所定領域にレーザー照射装置から発生するレーザービームをスキャンして前記基板上に有機膜層パターンを形成する段階と、を含み、
前記レーザービームを前記レーザー照射装置の移動がない1つのステップでガルバノメーターを用いてラインにスキャンする工程を繰り返し、
前記ガルバノメーターは、X軸方向に沿ってスキャニングするためのX-ガルバノメーターからなる有機電界発光素子の製造方法であって、
前記レーザービームを1ステップでマルチラインにスキャンする工程は、X-ガルバノメーターを用いて前記ドナー基板の所定領域をX軸方向にスキャンする段階と、
X方向のラインと直交するY方向にドナー基板をポジションする段階と、を繰り返してマルチラインにスキャンする有機電界発光素子の製造方法。」の点で一致し、以下の各点で相違している。

(相違点1)
基板に形成された電極が、本願発明では画素電極であるのに対して、刊行物1記載の発明では、画素電極であるかどうか不明な点。
(相違点2)
基板全面にドナー基板を重ねて配置する段階が、本願発明ではラミネーションであるのに対して、刊行物1記載の発明では、そのような特定事項を有していない点。
(相違点3)
X方向のラインと直交するY方向にドナー基板をポジションする段階が、本願発明では、Y-ガルバノメーター用いてレーザービームをY軸方向にポジションする段階であるのに対して、刊行物1記載の発明では、並進ステージによって、ドナー基板が上記ラインと直交するY方向において搬送されることである点。
(相違点4)
本願発明では、1ステップでマルチラインにスキャンする工程が、X-ガルバノメーター用いてドナー基板の所定領域をX方向にスキャンする段階と、Y-ガルバノメーター用いてドナー基板のY軸方向にポジションする段階と、を4?6回繰り返すのに対して、刊行物1記載の発明には、そのような特定事項がない点。

上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
本願発明も刊行物1記載の発明も、ともに表示装置に関する発明であり、上記摘記事項(d)を参酌すれば、刊行物1記載の発明の第1電極を画素電極とする点に格別の困難性はない。したがって、相違点1に係る構成は、当業者が容易に採用しうる事項である。
(相違点2について)
有機電界発光素子の製造過程において、基板とドナー基板を重ねて配置する場合に、ラミネーションすることは、ごく普通に行われている周知技術(原査定の拒絶の理由に引用された、特開2002-222694号公報の段落【0009】参照)であり、刊行物1記載の発明に該周知技術を用いることは、当業者が適宜なし得る事項である。
(相違点3について)
レーザー照射装置から発生するレーザービームをガルバノメーターを用いてスキャンすることにより、パターンを形成する際に、X方向とともに、X方向と直交するY方向にもガルバノメーターを用いることにより、X-Y方向のパターンを形成することは、種々の技術分野において広く行われている周知技術(原査定の拒絶の理由に引用された、特開2002-96188号公報の段落【001】?【003】参照)であり、刊行物1記載の発明の、X方向のラインと直交するY方向にドナー基板をポジションする段階に、当該周知技術を用いることにより、相違点3に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得る事項である。
(相違点4について)
X方向のスキャンとY方向のポジションを何回繰り返したものを1ステップとするかは、スキャンすべき基板の大きさやパターンの細密さ等に応じて適宜決まるべきものであるから、1ステップでマルチラインにスキャンする工程における繰り返し回数を4?6回とすることに、格別の技術的意義は認められない。

そして、本願発明の作用・効果も刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

なお、請求人は審判請求書において、本願の図3を引用して「本願発明1の主要な技術的思想は、転写工程時間と歪曲現象の発生との間のバランスを考慮して、1つのステップで4?6ラインをスキャンすることである。」と主張している。しかしながら、転写工程時間と歪曲現象の発生との間のバランスはマルチライン数のみで決定されるものではなく、パターンそのものの特性や緻密さ等の様々な要因で決定されるものである。(すなわち4?6ラインが優位なのは、本願出願人が実施した特定のパターンの場合のみである。)したがって、請求人の上記主張は妥当ではない。
また、請求人は、平成20年4月15日提出の意見書において、本願明細書の段落【0007】の記載を根拠に、本願発明も、従来技術と同様に「レーザーの照射装置は、次のステップで前記ドナー基板のY軸方向に移動する」ように主張するが、当該記載は、あくまで本願発明がその技術的課題を解決すべき従来技術の記載であって、本願発明が、このような構成を有することを示唆する記載はない。
さらに、本願発明がたとえこのような構成を有するとしても、当該構成は、従来周知のものである。(上記(相違点3について)で示した文献の段落【0020】参照)

したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願発明は特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-11 
結審通知日 2010-11-16 
審決日 2010-11-30 
出願番号 特願2004-377996(P2004-377996)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 浩司福田 聡  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 森林 克郎
今関 雅子
発明の名称 有機電界発光素子の製造方法  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 佐伯 義文  

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