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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1235444
審判番号 不服2009-7726  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-09 
確定日 2011-04-14 
事件の表示 特願2004-195446号「ペイルパック用紐、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパック」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月19日出願公開、特開2006- 15368号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成16年7月1日の出願であって、平成21年3月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月9日に本件審判請求がなされ、当審合議体による平成22年8月18日付けの拒絶理由通知に応答して、平成22年10月22日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
本件出願の請求項1?4に係る発明は、平成22年10月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】
内部にコイル状の溶接ワイヤを収納し、前記溶接ワイヤのコイル上に押さえ板と更にその上にリングを配置する円筒状ペイルパック用容器に使用され、前記ペイルパック用容器の内面と前記溶接ワイヤのコイルとの間を上方に向けてとおり、更に前記リングの内側を通って前記ペイルパック用容器の内面の上部に係止されるペイルパック用紐において、その上端を柔軟性を有する素材により構成された面ファスナーにより前記ペイルパック用容
器の内面に係止させるように構成されており、前記面ファスナーはループ側部材及びフック側部材を有し、前記紐の上端部に前記ループ側部材及びフック側部材の一方の部材が固定され、前記容器内面の上部に前記ループ側部材及びフック側部材の他方の部材が固定されており、前記紐の上端部が固定された前記一方の部材は、前記紐の長手方向に長い帯状をなし、前記紐の幅よりも幅が広く、前記紐の上端部は前記一方の部材にその幅方向の中間部にその長手方向に沿って固定されており、前記容器内面の上部に固定された前記他方の部材の水平方向の幅は、前記紐の上端部に固定された前記一方の部材の水平方向の幅より大きく、前記一方の部材の長さは前記他方の部材の垂直方向の長さよりも長いことを特徴とするペイルパック用紐。」(以下「本願発明」という。)

3.引用刊行物とその記載事項
(1)当審の拒絶理由に引用した、本願の出願よりも前に頒布された刊行物である特開昭62-142077号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、溶接用ワイヤ収納容器(通称ペイルパック)に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。

(a)「[従来の技術]
第2図は溶接用ワイヤ内引出し方法に利用されるペイルパックの例を示す一部破断斜視図である。ペイルパック2内には巻装された溶接用ワイヤ3が収納され、ワイヤの引出端3aは該溶接用ワイヤ3上部から取出し、下部に存在する収納先端ワイヤは図の如くペイルパック上方に導き、最先端3bをペイルパック上方内面の保持具4(例えば粘着テープ)に保持せしめる。即ち収納最先端3bは押え板1の透孔6から押え板1下面を経て、ぺイルパック内壁面と巻装溶接用ワイヤ3外周面との間隙7を通してワイヤ収納先端部3cを形成し、ペイルパック底面の溶接用ワイヤヘ連続される。巻装ワイヤ3の上面にはワイヤのはね上りを防止するための押え板1が配設され、該押え板1の4箇所には貫通孔9が設けられる。そしてぺイルパック上部の紐固定具10aから下部の紐固定具10bに至る長さの紐8が配設され、該紐8の中間部は前記押え板1の貫通孔9を通して掛け渡され、押え板1下面から飛出そうとする溶接用ワイヤ押え板1上部を乗り越えて移動するのを防止する。尚押え板1は溶接用ワイヤの消費につれて徐々に降下するが紐8は貫通孔9を円滑に摺動するので紐8が押え板1の下降を阻害することはない。」(公報第1頁右下欄第4行?同第2頁左上欄第8行)

(b)「[実施例]
第1図は本発明の代表的な実施例を示す一部破断斜視図である。積層ワイヤ3及び押え板1等の配置は第2図に示した従来例と同様である。ところが該実施例では押え板1上部にリング状重錘11が載置され、紐8は上部固定具10aから前記重錘11のリング内部を通り、押え板1上面に沿って外周縁に至り、下部紐固定具10bに接続される。尚押え板1外周縁に達した紐8はペイルパック2内壁と積層ワイヤ3外周面との間隙7を通ってペイルパック底部に設けられた紐固定具10bに掛け渡される。第1図では4本の紐8が押え板1円周方向に沿って配設される例を示し、重鐘11は図では一部破断されているが現実にはリング状に連続されている。」(公報第2頁右下欄第10行?同第3頁左上欄第4行)
・上記摘記事項(a)、(b)及び第1図、第2図より、ペイルパックは円筒状であることが明らかである。

すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。
「内部に巻装された溶接ワイヤ3を収納し、前記溶接ワイヤ3の巻装上に押え板1と更にその上にリング状重錘11を載置する円筒状ペイルパックに使用され、前記ペイルパックの内面と前記溶接ワイヤ3の巻装との間を上方に向けてとおり、更に前記リング状重錘11の内側を通って前記ペイルパックの内壁面の上部に係止される紐8において、その上端を紐固定具10aにより前記ペイルパックの内壁面に係止させるように構成されたことを特徴とする紐8。」

(2)同じく、当審の拒絶理由に引用した、本願の出願よりも前に頒布された刊行物である実願平5-35319号(実開平7-3482号)のCD-ROM(以下「引用刊行物2」という。)には、面ファスナーに関し、図面とともに、次の技術的事項(c)が記載されている。

(c)「浴室の壁面等へ固着される面ファスナー部材を軽石の側面に固着された他方の面ファスナー部材よりも大きく設定してなる請求項2記載の軽石。」(【実用新案登録請求の範囲】の【請求項3】)

上記摘記事項(c)及び図2より、引用刊行物2には、「軽石に面ファスナーの一方の部材が固定され、締結される壁に面ファスナーの他方の部材が固定され、締結される壁に固定された前記他方の部材の水平方向の幅は、前記軽石に固定された前記一方の部材の水平方向の幅より大きい面ファスナーの構成」(以下「引用刊行物2の記載事項」という)について記載されていることは明らかである。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
両者はともに溶接用ワイヤ収納容器(通称ペイルパック)であり、引用発明の「巻装された溶接ワイヤ3」は本願発明の「コイル状の溶接ワイヤ」に相当し,以下同様に、「巻装」は「コイル」に、「押え板1」は「押さえ板」に、「リング状重錘11を載置する」は「リングを配置する」に、「円筒状ペイルパック」は「円筒状ペイルパック用容器」に、「内壁面」は「内面」に、「紐8」は「ペイルパック用紐」にそれぞれ相当する。
引用発明の「紐固定具10a」と、本願発明の「面ファスナー」とは、「紐係止具」であるという限りにおいて共通している。

してみると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「内部にコイル状の溶接ワイヤを収納し、前記溶接ワイヤのコイル上に押さえ板と更にその上にリングを配置する円筒状ペイルパック用容器に使用され、前記ペイルパック用容器の内面と前記溶接ワイヤのコイルとの間を上方に向けてとおり、更に前記リングの内側を通って前記ペイルパック用容器の内面の上部に係止されるペイルパック用紐において、その上端を紐係止具により前記ペイルパック用容器の内面に係止させるように構成されたことを特徴とするペイルパック用紐。」

<相違点>
紐係止具について、本願発明では「柔軟性を有する素材により構成された面ファスナー」であり「前記面ファスナーはループ側部材及びフック側部材を有し、前記紐の上端部に前記ループ側部材及びフック側部材の一方の部材が固定され、前記容器内面の上部に前記ループ側部材及びフック側部材の他方の部材が固定されており、前記紐の上端部が固定された前記一方の部材は、前記紐の長手方向に長い帯状をなし、前記紐の幅よりも幅が広く、前記紐の上端部は前記一方の部材にその幅方向の中間部にその長手方向に沿って固定されており、前記容器内面の上部に固定された前記他方の部材の水平方向の幅は、前記紐の上端部に固定された前記一方の部材の水平方向の幅より大きく、前記一方の部材の長さは前記他方の部材の垂直方向の長さよりも長い」ものであるのに対し、引用発明では「紐固定具10a」であるが、その具体的な構成が不明な点。

5.相違点についての検討(容易想到性の判断)
一般に、柔軟性を有する素材により構成され、係合強度の高い締結部材として、「ループ側部材及びフック側部材を有」するフック・ループ式の面ファスナーは、産業用部品等の様々な用途に適用されていることは周知な技術である(例えば、特開2003-204809号公報参照)。
さらに、様々な用途において、バックルなど止め金具の締結部材に代えて面ファスナーが用いられることも周知な技術である(特開2002-370787号公報の【0025】および特表2002-539338号公報の【0041】等参照)。

また、引用刊行物2の記載事項である「軽石に面ファスナーの一方の部材が固定され、締結される壁に面ファスナーの他方の部材が固定され、締結される壁に固定された前記他方の部材の水平方向の幅は、前記軽石に固定された前記一方の部材の水平方向の幅より大きい面ファスナーの構成」において、軽石は締結物であり、その締結物に面ファスナーの一方の部材が固定されており、壁は締結される面であり、その壁に面ファスナーの他方の部材が固定されているから、引用刊行物2の記載事項には「締結物(軽石)に面ファスナーの一方の部材が固定され、締結される面(壁)に面ファスナーの他方の部材が固定され、締結される面(壁)に固定された前記他方の部材の水平方向の幅は、前記締結物(軽石)に固定された前記一方の部材の水平方向の幅より大きい面ファスナーの構成」が記載されている。
このことから、締結物に一方の部材が固定され、締結される面に他方の部材が固定された面ファスナーにおいて、他方の部材の水平方向の幅は、一方の部材の水平方向の幅より大きくする構成が開示されているといえる。

さらに、面ファスナーが用いられる上記周知な技術に即して、引用発明の紐固定具に引用刊行物2の記載事項の面ファスナーを適用するに際して、ループ側部材及びフック側部材を有する面ファスナーの一方の部材に紐8の上端部を固定し、紐8の長手方向に長い帯状をなし、前記紐8の幅よりも幅が広く、前記紐8の上端部は前記一方の部材にその幅方向の中間部にその長手方向に沿って固定すること、及び容器内壁面の上部に他方の部材を固定し、前記一方の部材の長さは前記他方の部材の垂直方向の長さよりも長くすることは当業者が適宜なし得る程度の設計的事項といえる。

そうすると、引用発明の紐固定具に引用刊行物2の記載事項の面ファスナーを適用し、その際、上記の設計的事項を施すことにより、上記相違点における本願発明のような構成とすることは当業者が容易に想到し得る程度の事項にすぎない。
そして、本願発明の作用効果は、引用発明及び上記引用刊行物2の記載事項、周知技術から、当業者であれば予測できる範囲のものにすぎない。

したがって、本願発明は、引用発明及び上記引用刊行物2の記載事項、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-08 
結審通知日 2011-02-15 
審決日 2011-03-01 
出願番号 特願2004-195446(P2004-195446)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 藤井 昇
栗山 卓也
発明の名称 ペイルパック用紐、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパック  
代理人 藤巻 正憲  

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