• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1235466
審判番号 不服2008-27359  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-27 
確定日 2011-04-08 
事件の表示 平成10年特許願第336045号「CTイメージング」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月31日出願公開、特開平11-239346〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成10年11月26日(パリ条約による優先権主張日 平成9年11月26日,米国)に特許出願されたものであって,平成20年7月24日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年10月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年11月17日付けで手続補正がなされたものである。さらに,平成22年7月2日付けで審尋がなされ,回答書が同年10月21日付けで請求人より提出されたものである。


第2 平成20年11月17日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち請求項1についてする補正は,補正前の特許請求の範囲(本願の出願当初明細書の【特許請求の範囲】。以下,同様。)の
「【請求項1】 リアルタイム画像を生成する連続CTスキャナにおいて,
検査領域(14)を有する静止ガントリ部分(12)と,
検査領域(14)の周囲で連続回転する回転ガントリ部分(20)と,
回転ガントリ部分(20)に取り付けられ,検査領域(14)を通ずる複数の光線を有した扇形のX線(24)ビームを生成する画像生成用X線源(22)と,
回転および静止ガントリ部分(20,12)の一方に取り付けられ,光線が検査領域(14)を通過した後に前記画像生成用X線源(22)からの扇形のX線ビーム(24)の光線を受け取るように配置されており,検出された放射線を,ファンビームフォーマットの複数のデータラインを含む電子データへ変換する,複数の放射線検出器(28)と,
電子データをファンビームフォーマットから平行ビームフォーマットへ補間するレビンプロセッサ(30)と,
平行ビームフォーマットの電子データをコンボルブし,バックプロジェクトして,リアルタイムで検査領域(14)内の患者の画像表示を形成する,再構築プロセッサ(50)と,
を備えることを特徴とするスキャナ。」
を,
「【請求項1】 リアルタイム画像を生成する連続CTスキャナにおいて,
検査領域(14)を有する静止ガントリ部分(12)と,
検査領域(14)の周囲で連続回転する回転ガントリ部分(20)と,
回転ガントリ部分(20)に取り付けられ,検査領域(14)を通ずる複数の光線を有した扇形のX線(24)ビームを生成する画像生成用X線源(22)と,
回転および静止ガントリ部分(20,12)の一方に取り付けられ,光線が検査領域(14)を通過した後に前記画像生成用X線源(22)からの扇形のX線ビーム(24)の光線を受け取るように配置されており,検出された放射線を,ファンビームフォーマットの複数のデータラインを含む電子データへ変換する,複数の放射線検出器(28)と,
電子データをファンビームフォーマットから平行ビームフォーマットへ補間するレビンプロセッサ(30)と,
平行ビームフォーマットの電子データをコンボルブし,バックプロジェクトして,リアルタイムで検査領域(14)内の患者の画像表示を形成する,再構築プロセッサ(50)と,
を備え,
前記再構築プロセッサ(50)は,画像メモリ(58)に記憶された,複数のバックプロジェクトされたデータラインから最初の画像表示を形成し,この最初の画像表示を反復的に更新してリアルタイム画像表示を達成するものであり,
更新は,現在取得されている複数のデータラインと,ここから180°離され且つ反転された従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採って,この差を画像メモリ中へバックプロジェクトすることにより達成されることを特徴とするスキャナ。」
と補正するものである。なお,上記において,下線は補正箇所を示す。

上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「再構築プロセッサ(50)」について,「前記再構築プロセッサ(50)は,画像メモリ(58)に記憶された,複数のバックプロジェクトされたデータラインから最初の画像表示を形成し,この最初の画像表示を反復的に更新してリアルタイム画像表示を達成するものであり,更新は,現在取得されている複数のデータラインと,ここから180°離され且つ反転された従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採って,この差を画像メモリ中へバックプロジェクトすることにより達成される」との限定を付したものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下検討する。

2 引用刊行物の記載事項
本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開昭52-2187号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は当審にて付与したものである。
(1-ア)
「(10) 人体の一方の側から人体を通して人体の他方の側の探知器へ透過放射線の発散ビームを指向させる装置と,
透過放射線の発散ビームと人体との間に相対的角度偏位を与える装置と,
発散ビームの角度位置の関数として発散ビームによつて張られる角度内の角度的に間隔を置いた多数の点で人体を通過した放射線を探知して人体による透過放射線の吸収又は透過の角度的に間隔を置いた複数個の陰影図を表わす探知された放射線データの組を導く装置であつて,前記角度的に間隔を置いた陰影図データの組の内の異なるものは透過放射線の交差光線の異なる組に対応している前記探知装置と,
前記透過放射線の発散光の吸収又は透過陰影図データに対応するデータの組を前記透過放射線の平行光線の吸収又は透過陰影図に対応するデータの組に再配列する装置と,
を含む被試験人体の3次元断層図を得る装置。
(11) 前記平行光線陰影図の組から3次元断層図を再構成する装置を含む特許請求の範囲第10項記載の装置。」(2頁左下欄1行?同頁右下欄2行)

(1-イ)
「第1図を参照すると,被試験人体の透過放射線陰影図を得る装置が図示されている。特に,試験される患者11は適当なプラスチツク材からできている寝台12に支持される。X線又はγ線のような適当な透過放射線源13が人体上部に配置されて,鉛で出来ているコリメータ15の狭く細長いスロツト14を通して発散透過放射線は扇状ビームを投射する。扇状ビームは相対的に薄く,試験される人体11に向けられる透過放射線発散光を含む。」(4頁左下欄15行?同頁右下欄4行)

(1-ウ)
「望ましい実施例では,位置検出探知器21は第7,8,9,20,21図に関して以下で詳細に開示するように密に配置した探知線のアレイを含む。一般に,コリメータ16を通過する照準された発散光の箱の各々の中心と整合した1つの探知要素のアレイがある。」(5頁左上欄3?8行)

(1-エ)
「第6図を参照すると,人体11の中央に配置された回転軸33のまわりの回転用に取付けた第1図の装置が示されている。線源13,探知器21,コリメータ16は回転軸33のまわりの回転用にリング34に取付けられている。リング34は駆動ベルト37のような適当な駆動装置を介して駆動モータ36に接続された摩擦駆動車35から駆動される。リング34は基部支持構造体39に回転的に取付けた駆動車とアイドラ車38を介して支持される。」(5頁右上欄14行?同頁左下欄3行)

(1-オ)
「動作中,人体11を通過するイオン化放射線の量子は窓52を通りイオン化可能な気体で満たされた室45に入る。個々の陽極線53を取り囲む高電場域のため,イオン化放射線の量子がイオン化可能気体に吸収されると,イオン化が生じて陽極と陰極との間の電流なだれをトリガし,イオン化事象に最も近い各陽極線53に電流パルスを生じる。なだれ電流のこのパルスは遅延線56と接続された陽極線の対応する遅延線に送られる。電流パルスは遅延線56に沿つて端部へ向けて対向方向に走行し,アンプ58を介して弁別器57へ送られる。
弁別器57は各電流パルスの先縁に対応して対応する出力パルスを発生する。連続するパルス間の時間差は最も近い陽極線53によつて探知されるイオン化事象の位置に比例する又はこれを表わす。このパルスは時間対振幅変換器59に送られてイオン化事象の位置に対応する出力電位を与える。この電位はアナログ-デイジタル変換器61でデイジタル・データに変換され,コンピユータ62に送られる。コンピユータはイオン化事象の位置に対応する各溝のイオン化事象を記憶する。」(6頁左上欄15行?同頁右上欄16行)

(1-カ)
「加えて,ミニコンピユータ62はキーボード端末72とカラー表示端末73を備え,密度差が人間の眼に強調されるように3次元断層図の特定の密度の輪郭が異なる特定の色で表示される。加えて,ミニコンピユータは密度に直接対応する数字で3次元密度断層図を印刷出力するラインプリンタ74を含む。」(6頁右下欄8?14行)

(1-キ)
「位置検出探知器21によつて探知されたような陰影図データの組は発散光路又は光のアレイに沿つて取られた解折中の人体による透過放射線の吸収によつて発生される。望ましい3次元断層再構成法は,陰影図データが平行な路又は光のアレイに沿つた透過放射線の吸収に対応するものであることを必要とする。」(6頁右下欄18行?7頁左上欄4行)

(1-ク)
「相当高い分解能を得るためには,1度のθ間隔で180組の平行光線を得ることが望ましい。180組のこのような平行光線を得るためには線源13は180゜の角度θ加える扇角θだけ回転しなければならないことが示される。75゜の扇状角ψの場合には,全角度偏位θは255゜である。従つて,255組の発散光路又は光線陰影図データがコンピユータ62によつて180組の平行光線陰影図データに再配列される。・・・
再配列された平行光路又は光線が等しい横間隔でないことも示される。間隔は中央光線から遠ざかるにつれて減少する。これは第12図に示され,X横軸スケールは平行光線の再配置された組の間隔を表わす。望ましい3次元再構成法は平行光線の組の間の一様な横間隔を基にしたデータを用いている。それ故,再配列された平行光線陰影図データの組の全ての平行光線の間の横間隔が等しいデータに変更することが望ましい。
第12,13図を参照すると,平行光線陰影図データを等しい横間隔のデータに変換する方法が示されている。・・・
・・・Xスケール強度I_(1),I_(2),I_(3)・・・I_(n)は等横間隔の平行光線陰影図強度I_(1′),I_(2′),・・・I_(n′),すなわちY軸スケール強度データを得るために以下のアルゴリズムに従つて変換される。」(7頁左下欄14行?8頁右上欄17行)

(1-ケ)
「角度的に偏位した平行光線陰影図の再配置された組から3次元断層図を再構成する望ましいコンピユータ化方法は1971年9月の米国科学学会誌(Proceeding of the National Academy of Sciences,U.S.A.)第68巻第9号2236-2240頁に現われている『X線写真及び電子写真からの3次元再構成:フーリエ変換の代りとしての合成積の適用』という名称の論文に開示されている方法である。・・・
・・・第14図のY,すなわちnaの各値に対するg(na;θ)と第15図の関数の個々の積は加算されて第17図の関数g′(na;θ)が得られ,この過程は数学的には式(5)で表わされるg(na;θ)とq(na)との合成積として知られている。・・・従つて,式(5)のアルゴリズムによつて1つが各々平行光線陰影図データの角度的に間隔を置いた組に対応している第17図の180組の関数が発生される。これら180個の陰影図は以下のアルゴリズムを用いて合成3次元再構成断層図を計算するため後面射影される。
・・・
ここでt,Nは整数である。」(8頁右下欄12行?9頁左下欄3行)

(1-コ)
「第10-18図に関して上述した過程による3次元再構成を行なうコンピユータプログラムの流れ図は第22図に示され,・・・」(10頁右下欄8?10行)

(1-サ)
第22図には,コンピュータプログラムの流れ図において,合成積を行ってg′(na;θ)を得る工程,後面射影と線形内挿を用いて,f(r,θ)を計算する工程が記載されている。

上記摘記事項,特に摘記事項(1-ア)からみて,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「人体の一方の側から人体を通して人体の他方の側の探知器へX線の発散ビームを指向させる装置と,
X線の発散ビームと人体との間に相対的角度偏位を与える装置と,
発散ビームの角度位置の関数として発散ビームによつて張られる角度内の角度的に間隔を置いた多数の点で人体を通過したX線を探知して人体によるX線の吸収又は透過の角度的に間隔を置いた複数個の陰影図を表わす探知されたX線データの組を導く探知装置と,
前記X線の発散光の吸収又は透過陰影図データに対応するデータの組を前記X線の平行光線の吸収又は透過陰影図に対応するデータの組に再配列する装置と,
前記平行光線陰影図の組から3次元断層図を再構成する装置と,
を含む被試験人体の3次元断層図を得る装置。」(以下,「引用発明」という。)

また,同様に,本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開平8-196532号公報(以下,「周知例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(2-ア)
「【0002】
【従来の技術】CT透視とは,被検体のスキャンと画像再構成及び画像表示を同時進行で実施することのできる近年開発された技術である。CT透視は画像再構成処理の高速化に立脚したものであり,スキャンと画像表示との累積的な時間遅れを回避するために1枚の画像を再構成するために必要な 360°又は 180°分の投影データを収集する時間より短時間で1枚の画像の再構成処理を完了すること,時間再現性を忠実に獲得するためにスキャンから一定の時間遅れをもって画像を表示することが基本的定義とされる。このCT透視の技術は,X線透視と同様の用途,例えばカテーテル術や脳神経外科手術等を支援すること,さらに診断スループットを向上するものと期待されている。」

(2-イ)
「【0009】・・・再構成処理部8は分割方式により,断層画像(メイン画像という)を作成する。分割方式とは,1枚のメイン画像を作成するのに必要な 360°又は 180°+ファン角(ハーフスキャン法)の所定角度範囲をn個の部分に分割し,X線管2が部分角度範囲(所定角度範囲/n)だけ回転する毎に,部分角度範囲分の投影データから部分画像を繰り返し再構成し,さらに最新のn枚の部分画像を加算することにより1枚のメイン画像を作成していくというものであり,部分画像が1枚再構成される毎に最新のメイン画像に当該最新の部分画像を加算し,且つこのメイン画像から当該最新の部分画像と同じ角度の部分画像を減算することで,メイン画像を高い時間分解能で高速で作成するという再構成の高速化技術の1つである。」

(2-ウ)
「【0014】スキャン開始後(X線管2が 0°から回転開始するものとする),X線管2が60°回転する毎に再構成処理部8で,部分画像がI'(1,1),I'(1,2),I'(1,3)・・・と順次再構成されていく。1枚のメイン画像を作成するのに必要な所定角度範囲に達する6枚の部分画像I'(1,1)?I'(1,6)の再構成が完了した時点で,再構成処理部8は最初のメイン画像I1 を,この時点で最新の6枚の部分画像I'(1,1)?I'(1,6)をフレーム間で加算することにより作成する。このメイン画像I1は,表示部10に送られ表示される。さらに,2回転目に入り,X線管2が60°に達した時,部分画像I'(2,1)が再構成される。2枚目のメイン画像I2は,この時点で最新のメイン画像I1にこの時点で最新の部分画像I'(2,1)を加算し,且つこの最新の部分画像I'(2,1)と同じ部分角度範囲の部分画像I'(1,1)を減算することにより作成される。この2枚目のメイン画像I2は,表示部10に送られ,メイン画像I1から切換わって表示される。このようにX線管2が60°ずつ回転する毎に順次,メイン画像が作成される。」

(2-エ)
【図2】には,6枚の部分画像I'(1,1)?I'(1,6)から最初のメイン画像I1が作成され,メイン画像I1 に部分画像I'(2,1)を加算し,且つこの部分画像I'(2,1)と同じ部分角度範囲の部分画像I'(1,1)を減算することにより2枚目のメイン画像I2が作成され,メイン画像I2 に部分画像I'(2,2)を加算し,且つこの部分画像I'(2,2)と同じ部分角度範囲の部分画像I'(1,2)を減算することにより3枚目のメイン画像I3が作成される様子が描かれている。

また,同様に,本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開平4-266744号公報(以下,「周知例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(3-ア)
「【0004】最近では,連続回転走査(以下,連続回転スキャンという。)を行なった後に,リアルタイムで画像を見たいという要求がある。」

(3-イ)
「【0006】一方,1つの再構成ユニットで連続回転スキャンを行なってリアルタイムで画像を表示する方法も知られている。この方法では,ビュー(X線源が被検体に対して回転するときの回転角度)のピッチ(X線源がX線を曝射するときの微小角度をいう。例えば1回転分360°を1000分割したとすると,ピッチは0.36°)ごとに収集された各投影データに基づき画像再構成を行なって360°分の画像を作成し,リアルタイムで画像を表示する。この方法による画像の作成を図10を用いて説明する。まず,図10(a)に示すように連続回転スキャン中において,Δα(ビューのピッチ)ごとに収集された360°分の投影データにより画像Aを作成する。画像Aは,図10(b)に示すように0°から(360-Δα)°までの投影データを用いて作成され,TVモニタ上に表示される。
【0007】次に,図10(c)に示すようにΔα°から360°までの画像Bを作成する。この画像Bは,画像Aから0°における投影データをマイナスにして逆投影(バックプロジェクションともいう。)し,得られたものに360°における投影データを逆投影した逆投影データを加算することにより作成される。
【0008】次に図10(d)に示すように2Δα°から(360+Δα)°における画像Cは,画像BからΔα°における投影データをマイナスにして逆投影し,得られたものに(360+Δα)°における投影データを逆投影し逆投影データを加算することにより作成される。」

また,本願優先日前に頒布された刊行物である特開昭57-134142号公報(以下,「周知例3」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(4-ア)
「CT装置において短い時間に連続的にスキャンを行い時刻的に異なる同一断面のCT画像を得るいわゆるダイナミックスキャンという試みがなされている。」(1頁右下欄6?9行)

(4-イ)
「本発明は,このような事情を背景としてなされたもので,短時間で多くの経済的なCT画像を再構成でき,メモリ容量も少くてすみ,データ転送量を少なくすることを可能とするCT装置を提供することを目的としている。」(2頁左下欄2?6行)

(4-ウ)
「その次に,第1プロジェクションP(1)?第150プロジェクションP(150)のデータをバックプロジェクトすることにより第1CT画像を再構成する。ここで,第2CT画像について考えてみる。第2CT画像は本来第2プロジェクションP(2)?第151プロジェクションP(151)のデータをバック・プロジェクトすることにより得られる。ここで,第1CT画像と第2CT画像との再構成に用いるデータを比較してみると第1プロジェクションP(1)のデータと第151プロジェクションP(151)のデータのみが異っており他は同じデータである。したがって,第2CT画像は第1CT画像に第1プロジエクシヨンP(1)のデータをマイナスのデータとしたものをバックプロジェクトし且つ第151プロジェクションP(151)のデータをバックプロジェクトしても得られるはずである。」(3頁左上欄14行?同頁右上欄10行)

(4-エ)
「第1プロジェクションP(1)と第151プロジェクションP(151)は180゜ずれている。そこで,第151プロジェクションP(151)のデータ列を前述のように逆順にすれば第1プロジェクションP(1)と同一角度でバックプロジェクトすることができる。したがつて,第1CT画像の画像データに第150プロジェクションP(150)の逆データ列と第1プロジェクションP(1)のデータ列との差をバックプロジェクトすれば第2CT画像が得られることになる。」(3頁右上欄10?20行)

また,同様に,本願優先日前に頒布された刊行物である特開平9-192126号公報(以下,「周知例4」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(5-ア)
「【0112】この発明の第3の実施の形態を図41及び図42を参照して説明する。なお,この第3の実施の形態では,連続回転方式において,高速で,連続的な(リアルタイムの)コーンビーム再構成を実現するものである。ガントリ(架台)1は連続回転スキャンを行っており,例えば1回転900ビューとする。
【0113】1.架台1の回転が360°を越えると,360°分のデータを使ってFeldkamp法によってコーンビーム再構成する。以下,N回転M-1ビューまでのデータを使って再構成し,再構成ボクセルデータVoxel(N,M-1)を再構成していたとする。
2.架台が更に回転してスキャンする。N回転目MビューのデータRaw(N,M)を収集する。
3.データRaw(N,M)を重み付け,コンボリューション処理して,N回転MビューのコンボリューションデータConv(N,M) を得る。
4.1回転前,すなわちN-1回転目MビューのコンボリューションデータConv(N-1,M) とConv(N,M) の差分を計算し,差分データSub(N,M)を得る。
【0114】5.再構成処理制御部21が,コーンビーム再構成になる図6のような投影曲線を発生させる。
6.再構成処理制御部21が,発生した投影曲線に対応した差分データSub(N,M)の選択,重み付けを行い,逆投影データBack(N,M) を得る。
7.逆投影データBack(N,M) を前回までの再構成ボクセルデータVoxel(N,M-1)に加算して今回の再構成ボクセルデータVoxel(N,M)を得る。
8.架台が回転して新しいデータを得る毎に上記2?7の処理を繰り返すことで連続的に再構成し,再構成ボクセルデータを常に更新する。この再構成処理のフローチャートを図41に示す。」

(5-イ)
「【0119】このようにこの第3の実施の形態によれば,最初の再構成(1回転目)以降は,差分データが0については逆投影する必要がないので,逆投影すべきデータを削減することができ,逆投影処理時間を短縮することができる。なお,この第3の実施の形態では,1ビューずつ再構成ボクセルデータの更新を行うようになっていたが,例えば1回転に10回更新するなど,ある程度架台が回転した後ある程度のビュー数をまとめて処理し,その後画像を更新するようにしても良い。」

(5-ウ)
「【0121】さらに,この第3の実施の形態では,コンボリューションデータの差分を取って逆投影したが,生データなど他のデータ( センタリングデータ )の差分を取って逆投影しても良いものである。」

また,同様に,本願優先日前に頒布された刊行物である特開平7-386号公報(以下,「周知例5」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(6-ア)
「【0011】第1番目の画像(以下,第n番目の画像を第n画像と称する)I(1)は第1ビューV(1)?第360ビューV(360)について,ビュー毎にコンボリューション演算(以下,CONVと略称する),バックプロパゲーション演算(以下,BPと略称する)を行うことで再構成できる。同様に,第2画像I(2)は第2ビューV(2)?第361ビューV(361)について,ビューごとにCONV,BPを行うことで再構成できる。さらに,第3画像I(3)は第3ビューV(3)?第362ビューV(362)のビューについて,ビューごとにCONV,BPを行うことで再構成できる。以下の画像についても同様である。
【0012】図2から明らかなように,第1画像と第2画像の再構成に使用されるビューは,第1ビューV(1)と第361ビューV(361)のみが異なり,他のビューは全て同じである。CONV演算,BP演算は線形演算であり,第1ビューV(1)と第361ビューV(361)の投影角度は同一であるので,連続した画像は下記のように再構成できることが,特開昭57-134142号公報(特許第1540304号)に示されている。
【0013】
I(j+1)=I(j)+ΔI(j+1) (1)
I(j-1)=I(j)-ΔI(j) (2)
ΔI(j)
=BP[CONV{V(j+359)-V(j-1)}] (3)
ここで,I(j)は第j画像,ΔI(j)はI(j)とI(j-1)の差分画像,CONVはコンボリューション演算,BPはバックプロパゲーション演算,V(m)±V(n)は2つのビューの同一レイ間での演算を表わす。なお,ΔI(j)は一般的に値が小さい。」

(6-イ)
「【0031】なお,第1実施例は次のように変形することが可能である。上述の説明では,スキャン,再構成,表示が並列して行なわれ,スキャンと平行して画像観察を行なう,いわゆるリアルタイムの表示を行なう例を説明したが,これを直列化してもよい。すなわち,全部のスキャンが終了してから再構成を行い,全部の断層像が再構成されてから表示を行なうようにしてもよい。また,並列処理の場合でも,画像は記憶されているので,スキャン終了後に再度画像を表示して観察してもよい。
【0032】上述の説明では,第1画像のみを差分画像ではなく完全な画像として記憶し,第2画像以降の画像は差分画像として記憶するようにしているが,最初と最後の2枚,あるいは一定枚数ごとに完全な画像を記憶し,その間の画像を差分画像として記憶するようにしてもよい。
【0033】上述の説明では,各画像毎の差分画像を記憶しているが,再構成された画像のうち,指定された画像,あるいは指定された枚数ごとの画像の差分画像を記憶するようにしてもよい。枚数ごとの画像の差分画像は,その間の各差分画像を加算して求めることができる。」

3 対比・判断

(1)対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「被試験人体の3次元断層図を得る装置」と,補正発明の「リアルタイム画像を生成する連続CTスキャナ」とは,「画像を生成するCTスキャナ」である点で共通する。

イ CTスキャナが,検査領域を有する静止ガントリ部分を備えることは技術常識であるから,引用発明の「被試験人体の3次元断層図を得る装置」も,検査領域を有する静止ガントリ部分を備えているといえる。

ウ 引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)における「・・・人体11の中央に配置された回転軸33のまわりの回転用に取付けた第1図の装置が示されている。線源13,探知器21,コリメータ16は回転軸33のまわりの回転用にリング34に取付けられている。・・・」の記載からみて,引用発明の「X線の発散ビームと人体との間に相対的角度偏位を与える装置」は,検査領域の周囲で連続回転する回転ガントリ部分を備えているといえるから,引用発明の「X線の発散ビームと人体との間に相対的角度偏位を与える装置」「を含む」点は,補正発明の「検査領域の周囲で連続回転する回転ガントリ部分」「を備え」る点に相当する。

エ 引用例1に関する上記摘記事項(1-イ)における「・・・X線・・・のような適当な透過放射線源13が人体上部に配置されて,・・・発散透過放射線は扇状ビームを投射する。・・・」の記載,および,上記摘記事項(1-エ)における「・・・線源13・・・は回転軸33のまわりの回転用にリング34に取付けられている。・・・」の記載からみて,引用発明の「人体の一方の側から人体を通して人体の他方の側の探知器へX線の発散ビームを指向させる装置」は,回転ガントリ部分に取り付けられ,検査領域を通ずる扇形のX線ビームを生成する画像生成用のX線源を備えているといえるから,引用発明の「人体の一方の側から人体を通して人体の他方の側の探知器へX線の発散ビームを指向させる装置」「を含む」点と,補正発明の「回転ガントリ部分に取り付けられ,検査領域を通ずる複数の光線を有した扇形のX線ビームを生成する画像生成用X線源」「を備え」る点とは,「回転ガントリ部分に取り付けられ,検査領域を通ずる扇形のX線ビームを生成する画像生成用X線源を備える」点で,共通する。

オ 引用例1に関する上記摘記事項(1-ウ)における「・・・位置検出探知器21は・・・密に配置した探知線のアレイを含む。」の記載,および,上記摘記事項(1-エ)における「・・・探知器21・・・は回転軸33のまわりの回転用にリング34に取付けられている。・・・」の記載からみて,引用発明の「探知装置」は,回転ガントリに取り付けられた複数のアレイ,すなわち,X線検出器を備えているといえる。
また,引用例1に関する上記摘記事項(1-オ)における「・・・人体11を通過するイオン化放射線の量子は窓52を通りイオン化可能な気体で満たされた室45に入る。・・・イオン化放射線の量子がイオン化可能気体に吸収されると,イオン化が生じて陽極と陰極との間の電流なだれをトリガし,・・・電流パルスを生じる。・・・電流パルスは・・・弁別器57へ送られる。弁別器57は・・・対応する出力パルスを発生する。このパルスは・・・イオン化事象の位置に対応する出力電位を与える。この電位はアナログ-デイジタル変換器61でデイジタル・データに変換され,コンピユータ62に送られる。」の記載からみて,引用発明の「探知装置」は,検出されたX線を電子データに変換しているといえる。さらに,上記摘記事項(1-キ)における「位置検出探知器21によつて探知されたような陰影図データの組は発散光路・・・に沿つて取られた・・・」の記載,および,上記摘記事項(1-ク)における「・・・255組の発散光路又は光線陰影図データがコンピユータ62によつて180組の平行光線陰影図データに再配列される。・・・」の記載からみて,各組の電子データは,ファンビームフォーマットのデータラインを構成しているといえ,255組の電子データは,複数のデータラインを含んでいるといえる。
してみると,引用発明の「発散ビームの角度位置の関数として発散ビームによつて張られる角度内の角度的に間隔を置いた多数の点で人体を通過したX線を探知して人体によるX線の吸収又は透過の角度的に間隔を置いた複数個の陰影図を表わす探知されたX線データの組を導く探知装置」「を含む」点は,補正発明の「回転および静止ガントリ部分の一方に取り付けられ,光線が検査領域を通過した後に前記画像生成用X線源からの扇形のX線ビームの光線を受け取るように配置されており,検出された放射線を,ファンビームフォーマットの複数のデータラインを含む電子データへ変換する,複数の放射線検出器」「を備え」る点に相当する。

カ 引用例1に関する上記摘記事項(1-ク)における「・・・255組の発散光路又は光線陰影図データがコンピユータ62によつて180組の平行光線陰影図データに再配列される。・・・再配列された平行光線陰影図データの組の全ての平行光線の間の横間隔が等しいデータに変更することが望ましい。・・・Xスケール強度I_(1),I_(2),I_(3)・・・I_(n)は等横間隔の平行光線陰影図強度I_(1′),I_(2′),・・・I_(n′),すなわちY軸スケール強度データを得るために以下のアルゴリズムに従つて変換される。」の記載からみて,引用発明の「再配列する装置」はコンピユータ62を含み,当該コンピユータ62は,電子データをファンビームフォーマットから平行ビームフォーマットへ変換する再配列するプロセッサ,すなわち,レビンプロセッサを含むものといえる。
してみると,引用発明の「前記X線の発散光の吸収又は透過陰影図データに対応するデータの組を前記X線の平行光線の吸収又は透過陰影図に対応するデータの組に再配列する装置」「を含む」点は,補正発明の「電子データをファンビームフォーマットから平行ビームフォーマットへ補間するレビンプロセッサ」「を備え」る点に相当する。

キ 引用例1に関する上記摘記事項(1-ケ)における「角度的に偏位した平行光線陰影図の再配置された組から3次元断層図を再構成する望ましいコンピユータ化方法・・・」の記載,上記摘記事項(1-サ)の記載,および,上記摘記事項(1-カ)における「・・・ミニコンピユータ62は・・・カラー表示端末73を備え,密度差が人間の眼に強調されるように3次元断層図の特定の密度の輪郭が異なる特定の色で表示される。・・・」の記載からみて,引用発明の「3次元断層図を再構成する装置」は,コンピュータ62を含み,当該コンピュータ62は,平行ビームフォーマットの電子データを,合成積,すなわちコンボルブし,それを,後面射影,すなわちバックプロジェクトして,検査領域内の患者の画像表示を形成する再構築プロセッサを含むものといえる。
してみると,引用発明の「前記平行光線陰影図の組から3次元断層図を再構成する装置」「を含む」点と,補正発明の「平行ビームフォーマットの電子データをコンボルブし,バックプロジェクトして,リアルタイムで検査領域内の患者の画像表示を形成する,再構築プロセッサ」「を備え」る点とは,「平行ビームフォーマットの電子データをコンボルブし,バックプロジェクトして,検査領域内の患者の画像表示を形成する,再構築プロセッサを備える」点で共通する。

してみると,両者は,

(一致点)
「画像を生成するCTスキャナにおいて,
検査領域を有する静止ガントリ部分と,
検査領域の周囲で連続回転する回転ガントリ部分と,
回転ガントリ部分に取り付けられ,検査領域を通ずる扇形のX線ビームを生成する画像生成用X線源と,
回転および静止ガントリ部分の一方に取り付けられ,光線が検査領域を通過した後に前記画像生成用X線源からの扇形のX線ビームの光線を受け取るように配置されており,検出された放射線を,ファンビームフォーマットの複数のデータラインを含む電子データへ変換する,複数の放射線検出器と,
電子データをファンビームフォーマットから平行ビームフォーマットへ補間するレビンプロセッサと,
平行ビームフォーマットの電子データをコンボルブし,バックプロジェクトして,検査領域内の患者の画像表示を形成する,再構築プロセッサと,
を備えるスキャナ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)扇形のX線ビームが,補正発明では,「複数の光線を有した扇形のX線ビーム」であるのに対し,引用発明では,そのような構成であるかが不明な点。

(相違点2)補正発明では,CTスキャナが,「リアルタイム画像を生成する連続CTスキャナ」であり,再構築プロセッサが,「リアルタイムで」検査領域内の患者の画像表示を形成するものであり,かつ,「画像メモリ(58)に記憶された,複数のバックプロジェクトされたデータラインから最初の画像表示を形成し,この最初の画像表示を反復的に更新してリアルタイム画像表示を達成するものであり」,「更新は,現在取得されている複数のデータラインと,ここから180°離され且つ反転された従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採って,この差を画像メモリ中へバックプロジェクトすることにより達成される」のに対し,引用発明では,そのような構成ではない点。

(2)上記相違点1について
特開昭55-73245号公報の1頁左下欄6?8行に「所定の広がり角度で扇形に広がっている複数本の放射線ビームを前記各検出器により検出するようにし,」と記載されているように,「扇形のX線ビーム」の具体的形態として「複数の光線を有した扇形のX線ビーム」は本願優先日前に周知である。
そして,引用発明も「扇形のX線ビーム」を生成するものであるから,その具体的形態として,上記周知の「複数の光線を有した扇形のX線ビーム」を採用することは,当業者が適宜なし得る事項である。

(3)上記相違点2について
ア 複数のバックプロジェクトされたデータラインは,画像メモリに記憶されることが技術常識である。
また,CTスキャナの分野において,リアルタイム画像表示を行うために,複数のバックプロジェクトされたデータラインから最初の画像表示を形成し,この最初の画像表示を反復的に更新し,更新は,前回画像を表示するのに必要なデータに対し,現在取得されている部分データを追加し,前記部分データに対応する従前に取得されたデータを削除することにより達成する技術が,例えば,上記周知例1(摘記事項(2-イ)),上記周知例2(摘記事項(3-イ)),上記周知例3(摘記事項(4-ウ)),上記周知例4(摘記事項(5-ア)),および,上記周知例5(摘記事項(6-ア))に記載されているように,本願優先日前に周知である。
そして,引用発明も上記周知技術も,CTスキャンという同一の技術分野に属するものであり,また,当該分野においてリアルタイム画像表示を行うことは,例えば,上記周知例2に関する上記摘記事項(3-ア),および,特開平5-84236号公報の段落【0004】に記載されているように,周知の技術的課題である。してみると,上記周知の技術的課題を解決するために,引用発明に上記周知技術を適用し,CTスキャナを「リアルタイム画像を生成する連続CTスキャナ」とし,再構築プロセッサが「リアルタイムで」検査領域内の患者の画像表示を形成するものであり,かつ,「画像メモリに記憶された,複数のバックプロジェクトされたデータラインから最初の画像表示を形成し,この最初の画像表示を反復的に更新してリアルタイム画像表示を達成するものであり」,更新は,前回画像を表示するのに必要なデータに対し,現在取得されている部分データを追加し,前記部分データに対応する従前に取得されたデータを削除することにより達成されるようにすることは,当業者であれば何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。

イ 「更新は,現在取得されている複数のデータラインと」,「従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採って,この差を画像メモリ中へバックプロジェクトすることにより達成される」点について
引用発明に周知技術を適用して,更新は,前回画像を表示するのに必要なデータに対し,現在取得されている部分データを追加し,前記部分データに対応する従前に取得されたデータを削除することにより達成されるようにすることが容易であることは,上記「ア」で検討のとおりである。
そして,データの追加および削除を行う計算手法としては,(a)現在取得されているデータを加算し,従前に取得された対応するデータを減算する手法(摘記事項(2-ウ),摘記事項(3-イ))と,(b)現在取得されているデータと従前に取得された対応するデータとの差分を求め,当該差分を加算する手法(摘記事項(4-エ),摘記事項(5-ア),摘記事項(6-ア))があるが,上記(a)と(b)とは数学的に等価な事項であり,いずれを選択するかは,当業者が適宜決定する設計的事項である。
また,データの追加および削除に際しては,(c)1つのデータライン毎に追加,削除を行う場合(摘記事項(3-イ),摘記事項(4-エ),摘記事項(5-ア),摘記事項(6-ア))と,(d)複数のデータライン毎に追加,削除を行う場合(摘記事項(2-ウ),摘記事項(5-イ),摘記事項(6-イ))があるが,そのうちのいずれを選択するかは,時間分解能,画像再構築の高速性等を考慮して,当業者が適宜決定する設計的事項である。
さらに,データの追加および削除を行う段階としては,(e)バックプロジェクトする前の段階のもの(摘記事項(3-イ),摘記事項(4-エ),摘記事項(5-ア),摘記事項(6-ア))と,(f)バックプロジェクトした後の段階のもの(摘記事項(2-ウ))があるが,いずれの段階を選択するかは,周知例4に関する上記摘記事項(5-ウ)に「この第3の実施の形態では,コンボリューションデータの差分を取って逆投影したが,生データなど他のデータ( センタリングデータ )の差分を取って逆投影しても良い」と記載されているように,当業者が適宜決定する設計的事項である。
してみると,引用発明に上記周知技術を適用するに際して,上記(a),(b)の中から(b)を選択し,上記(c),(d)の中から(d)を選択し,上記(e),(f)の中から(e)を選択して,「更新は,現在取得されている複数のデータラインと」,「従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採って,この差を画像メモリ中へバックプロジェクトすることにより達成される」ようにすることは,当業者が適宜決定する設計的事項であるといえる。

ウ 「ここから180°離され且つ反転された」従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採る点について
引用例1に関する上記摘記事項(1-ク)における「相当高い分解能を得るためには,1度のθ間隔で180組の平行光線を得ることが望ましい。180組のこのような平行光線を得るためには線源13は180゜の角度θ加える扇角θだけ回転しなければならないことが示される。75゜の扇状角ψの場合には,全角度偏位θは255゜である。・・・」の記載からみて,引用発明は,ハーフスキャン型のCTスキャンであるといえる。
そして,ハーフスキャン型のCTスキャンの場合には,上記「イ」で検討した「従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採」る点は,「現在取得されているデータラインから180°離され且つ反転された従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採」る点となることが,例えば,周知例3に関する上記摘記事項(4-エ)に「第1プロジェクションP(1)と第151プロジェクションP(151)は180゜ずれている。そこで,第151プロジェクションP(151)のデータ列を前述のように逆順にすれば第1プロジェクションP(1)と同一角度でバックプロジェクトすることができる。したがつて,第1CT画像の画像データに第150プロジェクションP(150)の逆データ列と第1プロジェクションP(1)のデータ列との差をバックプロジェクトすれば第2CT画像が得られることになる。」と記載されているように,自明である。

そして,本願明細書に記載された補正発明によってもたらされる効果は,引用例1の記載事項および周知技術から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,補正発明は,引用発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)付記(回答書における請求人の主張について)
請求人は,平成22年10月21日付けで提出された審尋に対する回答書の1頁下から8行?2頁下から4行において,平成20年11月17日付け手続補正書の特許請求の範囲請求項1の「前記再構築プロセッサ(50)は,画像メモリ(58)に記憶された,複数のバックプロジェクトされたデータラインから最初の画像表示を形成し,この最初の画像表示を反復的に更新してリアルタイム画像表示を達成するものであり,更新は,現在取得されている複数のデータラインと,ここから180°離され且つ反転された従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採って,この差を画像メモリ中へバックプロジェクトすることにより達成される」を,「前記再構築プロセッサ(50)は,画像メモリ(58)に記憶された,複数のバックプロジェクトされたデータラインから画像表示を形成し,この画像表示を反復的に更新して時間とともに変化する画像表示を達成するものであり,前記画像表示の更新は,前記複数の放射線検出器(28)から現在のファンビームフォーマットデータを取得し,前記現在のファンビームフォーマットデータを現在の平行ビームフォーマットへレビンし,前記現在の平行ビームフォーマットデータと,前記現在の平行ビームフォーマットデータから180度離され且つ反転され,前記画像表示に再構築された,従前に取得された平行ビームフォーマットデータとの間の差を決定し,前記決定された差を前記画像メモリ(58)へバックプロジェクトする,ことを含む」と補正したい旨主張している。
しかし,「最初の画像表示」を「画像表示」とすることは,特許請求の範囲を拡張するものであり,また,「複数のデータライン」を「平行ビームフォーマットデータ」とすることは,データラインが「複数」であることを省き,特許請求の範囲を拡張することを含むものである。そうすると,上記補正案は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。
さらに,上記「3 (1)対比」の「オ」および「カ」で検討のとおり,引用発明も「複数の放射線検出器からファンビームフォーマットデータを取得し,前記ファンビームフォーマットデータを平行ビームフォーマットへレビン」しているといえる。そうすると,補正発明を上記のように限定しても,進歩性を有することとはならない。
よって,請求人の上記主張は,採用することができない。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
以上のとおり,本件補正は,却下されることとなったから,本件特許出願人が特許を受けようとする発明として特定する事項は,本願の出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりのものと認められ,そのうち請求項1は,次のとおりである。(以下,「本願発明」という。)
「【請求項1】 リアルタイム画像を生成する連続CTスキャナにおいて,
検査領域(14)を有する静止ガントリ部分(12)と,
検査領域(14)の周囲で連続回転する回転ガントリ部分(20)と,
回転ガントリ部分(20)に取り付けられ,検査領域(14)を通ずる複数の光線を有した扇形のX線(24)ビームを生成する画像生成用X線源(22)と,
回転および静止ガントリ部分(20,12)の一方に取り付けられ,光線が検査領域(14)を通過した後に前記画像生成用X線源(22)からの扇形のX線ビーム(24)の光線を受け取るように配置されており,検出された放射線を,ファンビームフォーマットの複数のデータラインを含む電子データへ変換する,複数の放射線検出器(28)と,
電子データをファンビームフォーマットから平行ビームフォーマットへ補間するレビンプロセッサ(30)と,
平行ビームフォーマットの電子データをコンボルブし,バックプロジェクトして,リアルタイムで検査領域(14)内の患者の画像表示を形成する,再構築プロセッサ(50)と,
を備えることを特徴とするスキャナ。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は,上記「第2 2 引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は,補正発明から,「前記再構築プロセッサ(50)は,画像メモリ(58)に記憶された,複数のバックプロジェクトされたデータラインから最初の画像表示を形成し,この最初の画像表示を反復的に更新してリアルタイム画像表示を達成するものであり,更新は,現在取得されている複数のデータラインと,ここから180°離され且つ反転された従前に取得された対応する複数のデータラインとの間の差を採って,この差を画像メモリ中へバックプロジェクトすることにより達成される」との限定を省いたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,上記「第2 3 対比・判断」において検討のとおり,引用発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-09 
結審通知日 2010-11-11 
審決日 2010-11-24 
出願番号 特願平10-336045
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松谷 洋平右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 石川 太郎
後藤 時男
発明の名称 CTイメージング  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 箱田 篤  
代理人 西島 孝喜  
代理人 小川 信夫  
代理人 中村 稔  
代理人 大塚 文昭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ