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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B |
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管理番号 | 1235468 |
審判番号 | 不服2009-11846 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-06-29 |
確定日 | 2011-04-08 |
事件の表示 | 特願2002-588856号「軟組織のレーザ治療方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月21日国際公開、WO02/91935、平成16年10月7日国内公表、特表2004-530477号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成13年12月14日(パリ条約による優先権主張 2000年12月15日(US)アメリカ合衆国 2001年10月24日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成21年3月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、さらに、当審において平成22年4月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、同年10月14日付けで明細書の手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものであり、その請求項1に係る発明は、平成22年10月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「組織の気化を行うための装置であって、 60ワットを超える平均出力を有し300nmから700nmの範囲の波長のレーザ放射を生成するレーザと、 前記レーザに連結され、光ファイバから組織の表面の処置領域までのレーザ放射を方向決めする該光ファイバを包含し、処置領域を洗浄する流れを作る内視鏡とを有し、 前記レーザと光ファイバは、重大な残留熱傷害領域を残すことなく組織を除去するに十分な波長及び平均放射強度のレーザ放射を処置領域に供給するようになっていることを特徴とする組織の気化を行うための装置。」 2.引用例の記載事項 当審における拒絶理由で引用した特開平7-47081号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。 (a)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は良性の前立腺過形成(BPH)の治療、より詳細にはレーザを用いる改良された経尿道前立腺切除(TURP)を行うのに特に適した装置に関するものである。」 (b)「【0033】 【作用】標準的なレーザ使用TURPの第1段階は前立腺の肥大部分を凝固させることである。レーザ使用TURPはパルス波レーザ発生系を用いて行うことが最も好ましいが、殆どあらゆる連続波(CW)の使用が可能である。周波数60Hz、最大電力約1キロワット/パルスとすると、平均45ワットを産出するパルス化レーザは60ワットを産出するCWレーザとほぼ同一の効率で組織を凝固させることができる。」 【0034】肥大部分の長さに応じた尿道の周りの各領域の腺腫性前立腺組織を凝固させた後、より高いエネルギを用いた2回目の照射により、その組織を蒸発させる。パルス化レーザを用いた場合、この蒸発は平均電力60ワットで達成することができる。CWレーザの場合、組織を蒸発させるには一般に80?90ワットが必要となる。 【0035】ファイバの2巡目の間には既に凝固した組織を全部もしくは部分的に除去することができる。時計の6時の点において前立腺の長さに沿って1つの深い領域を刻み込むことが可能であり、こうするだけで患者が充分に放尿できるようになることもしばしばある。他の患者においては、外科医が絵筆を使うようにファイバのチップを移動させて複数の溝を形成することが必要になるかも知れない。さらに必要に応じて、標準的な外科切除鏡を用いた機械的な切断もしくは拡孔によって凝固組織を除去することもできる。カテーテルは直ちに除去できなかったとしても回復室で数時間を経た後には除去できる。膨潤は避けられないとしても、手術直後においてさえ、放尿が困難になるほど重大なものではない。また、典型的なTURP患者は50?80歳であるため、病弱体質もしくはある種の心臓関連投薬との相互作用等による合併症は珍しいものではない。しかしながら、この手術は実質的に外来患者に対して行うことができ、手術後に入院する必要は殆どなくなる。」 (c)「【0037】過去においては、手術の約18時間後に血清前立腺特異抗原(PSA)の値が最大となり、続いて数か月にわたって極めて緩慢に減少してベースライン値もしくはそれ以下になることが検出された。この血清PSA中における変動はレーザにより形成される火傷の病理生理学的所見に類似するものと観察された。すなわち、初期には急性の毛管漏れ現象によって組織浮腫が生じ、次いで前立腺実質が次第に破壊される。本発明の改良された方法によれば、組織の破壊後、残りの組織の病理性は穿針生検法によって決定することができる。PSA値は手術後にいくらかのピークを示すが、より迅速に通常の前立腺切除後の値に戻る。したがって、血清PSAの値が正常に戻るのが遅かったり、他の変化を示すことを観察すれば、予期せぬ悪性腫を初期段階で早期発見することが可能になる。また、血液希釈剤を投与されている患者は、これまで必要であったような最長1週間の待機期間を経ることなく、かなり早くその投薬を再開することができる。」 (d)「【0041】図1は、尿道12を通して挿入され、前立腺14に隣接して位置した切除用内視鏡10の概略図である。適するものであれば、いかなる膀胱鏡または切除用内視鏡を用いてもよく、様々な種類のものが容易に入手できる。端部の開口部16により、レーザエネルギを、内視鏡を通じて挿入されたファイバ光学レーザ輻射装置から、増大した前立腺の組織に直接当てることができる。レーザを照射している広い範囲の検視または洗浄と冷却のために、別の開口部18を用いてもよい。・・・図1は、外科医が手術を直接検視している切除用内視鏡の種類の1つを示している。最近の切除用内視鏡には、この内視鏡のチップ(tip)にあるレンズ付きカメラにより大きなスクリーンに伝達して手術を検視できる。現在市場では、数多くの異なった種類の膀胱鏡や切除用内視鏡が出回っている。」 (e)「【0044】図4は、発光チップの好ましい実施態様の断面図である。発光チップの端部の各側には、発光チップを光学ファイバ41に固定する手段40がある。・・・入射輻射線を発光チップの発光窓開口部49から反射させて射出させると、インサート部材が加熱される。上述したように、手術する区域を洗浄するのに、冷却溶液を耐えず用いる。・・・この流動は冷却口自身または発光開口部のいずれかを通じて流出する。」 (f)【図4】には、「光学ファイバ41の縦軸に対して横方向にレーザを照射する発光チップ」の図示がある。 (g)上記(b)(d)(e)で示した記載からして、引用例には、「切除用内視鏡10に『光学ファイバ41および発光チップ』が挿入される」こと、「レーザに『光学ファイバ41および発光チップ』を連結する」こと、「『光学ファイバ41および発光チップ』を進むレーザエネルギを発光チップから組織の肥大部分に向けて照射する」こと、「発光チップから照射されたレーザエネルギが、切除用内視鏡10に設けられた開口部16を通って組織の肥大部分に直接当たる」こと、および「組織の肥大部分の洗浄のための冷却溶液を切除用内視鏡10に設けられた開口部18から流出させる」ことが記載されているに等しい。 上記(a)ないし(g)の記載事項および図示内容より、引用例には、 「組織の肥大部分の蒸発を行うための装置であって、 パルス化レーザの場合には60ワットの平均電力のレーザエネルギを生成するレーザと、 前記レーザに連結され、『光学ファイバ41および発光チップ』を進むレーザエネルギを発光チップから組織の肥大部分に向けて照射して直接当てる『光学ファイバ41および発光チップ』が挿入され、組織の肥大部分の洗浄のための冷却溶液を切除用内視鏡10に設けられた開口部18から流出させる切除用内視鏡10とを有し、 前記レーザと『光学ファイバ41および発光チップ』は、パルス化レーザの場合には組織の肥大部分を除去する60ワットの平均電力のレーザエネルギを組織の肥大部分に照射するようになっている、組織の肥大部分の蒸発を行うための装置。」の発明が開示されている。 3.対比・判断 引用例記載の発明と本願発明とを対比する。 ○引用例記載の発明の「蒸発」、「平均電力」、「レーザエネルギ」、「『光学ファイバ41および発光チップ』」、「組織の肥大部分」、「が挿入され」、「切除用内視鏡10」、「照射」は、 本願発明の「気化」、「平均出力」または「平均放射強度」、「レーザ放射」、「光ファイバ」、「組織」または「組織の表面の処置領域」または「処置領域」、「を包含し」、「内視鏡」、「供給」にそれぞれ相当する。 ○引用例記載の発明の「パルス化レーザの場合には60ワットの平均電力(平均出力)のレーザエネルギ(レーザ放射)を生成する」ことと、本願発明の「60ワットを超える平均出力のレーザ放射を生成する」こととは、「60ワット程度の平均出力のレーザ放射を生成する」という点で共通する。(本願発明と引用例記載の発明との対比において示す()内の事項は、本願発明の発明特定事項である。以下同じ。) ○引用例記載の発明の「『光学ファイバ41および発光チップ』(光ファイバ)を進むレーザエネルギ(レーザ放射)を発光チップから組織の肥大部分(組織の表面の処置領域)に向けて照射して直接当てる『光学ファイバ41および発光チップ』が挿入され(を包含し)」は、処置領域にレーザ放射を当てること自体、レーザ放射を処置領域に方向決めすることであるということができることから、本願発明の「光ファイバから組織の表面の処置領域までのレーザ放射を方向決めする該光ファイバを包含し」に相当する。 ○引用例記載の発明の「組織の肥大部分(処置領域)の洗浄のための冷却溶液を切除用内視鏡10(内視鏡)に設けられた開口部18から流出させる切除用内視鏡10」は、本願発明の「処置領域を洗浄する流れを作る内視鏡」に相当する。 ○引用例記載の発明の「パルス化レーザの場合には組織の肥大部分(組織)を除去する60ワットの平均電力(平均放射強度)のレーザエネルギ(レーザ放射)」は、パルス化レーザに波長があることは明らかであることから、本願発明の「組織を除去する」「波長及び平均放射強度のレーザ放射」に相当する。 上記より、本願発明と引用例記載の発明とは、 「組織の気化を行うための装置であって、60ワット程度の平均出力のレーザ放射を生成するレーザと、 前記レーザに連結され、光ファイバから組織の表面の処置領域までのレーザ放射を方向決めする該光ファイバを包含し、処置領域を洗浄する流れを作る内視鏡とを有し、 前記レーザと光ファイバは、組織を除去する波長および平均放射強度のレーザ放射を処置領域に供給するようになっている、組織の気化を行うための装置。」という点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点> 本願発明では、レーザと光ファイバは、「重大な残留熱傷害領域を残すことなく」組織を除去する「に十分な」波長及び平均放射強度のレーザ放射を処置領域に供給するようになっており、「60ワットを超える」平均出力「を有し300nmから700nmの範囲の波長」のレーザ放射を生成するのに対して、 引用例記載の発明では、レーザと光ファイバは、組織(処置領域)を除去(処置)する波長および平均放射強度のレーザ放射を処置領域に供給するようなっており、60ワットの平均出力のレーザ放射を生成する点。 <相違点>について検討する。 一般に、「重大な残留熱傷害領域を残すことなく」処置領域を処置する「に十分な」波長及び平均放射強度のレーザ放射を処置領域に供給することは、本願優先権主張日前に周知の事項(例えば、特開平6-133997号公報の特に【0048】【0052】【0053】、特開平11-67700号公報の特に【0010】【0020】【0021】参照)であり、また、引用例記載の発明と上記周知の事項とは、「処置領域を処置する波長及び平均放射強度のレーザ放射を処置領域に供給する」という点で共通する。 そして、引用例には、上記(c)で示した「【0037】過去においては、手術の約18時間後に血清前立腺特異抗原(PSA)の値が最大となり、続いて数か月にわたって極めて緩慢に減少してベースライン値もしくはそれ以下になることが検出された。この血清PSA中における変動はレーザにより形成される火傷の病理生理学的所見に類似するものと観察された。・・・本発明の改良された方法によれば、組織の破壊後、残りの組織の病理性は穿針生検法によって決定することができる。PSA値は手術後にいくらかのピークを示すが、より迅速に通常の前立腺切除後の値に戻る。・・・」との記載からして、できる限り火傷の領域(重大な残留熱傷害領域)を残さないようにしようとする示唆があるということができる。 そうすると、引用例記載の発明において、レーザと光ファイバは、「組織(処置領域)を除去(処置)する波長および平均放射強度のレーザ放射を組織に供給する」ようになっていることについて、できる限り火傷の領域(重大な残留熱傷害領域)を残さないようにすると共に、上記周知の事項を適用することで、レーザと光ファイバは、「重大な残留熱傷害領域を残すことなく」組織を除去する「に十分な」波長及び平均放射強度のレーザ放射を処置領域に供給するものであるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 また、この際、どれくらいの波長及び平均放射強度(平均出力)のレーザ放射を生成するかは、上記除去を達成する上で、例えば実験的に定める数値の最適化にすぎず、そして、本願の明細書を見ても、「60ワット」「300nm」「700nm」の数値に臨界的意義を見いだせないことを考慮すれば、「60ワットを超える」平均出力「を有し300nmから700nmの範囲の波長」のレーザ放射を生成することは、当業者であれば適宜決定する設計事項に該当する。 次に、請求人は、平成22年10月14日付け意見書の第3頁第5?14行において、「引用例は、1064nmのレーザを用いての2つの処理を教示しております。第1の段階では組織を凝固させ、つづく第2の段階でより高いエネルギーでその凝固した組織を蒸発させるようにしています。(引用例段落番号【0033】ご参照)この記載は、引用例の波長(1064nm)を用いたレーザ放射では平均的な放射処置領域が『重大な残留熱傷害領域を残すことなく柔軟な組織を除去するのに十分である』という本件発明の請求項の要求を達成する方法では使用できないということを照明しているものであります。 事実、引用例においては、まず深い熱的損傷が前提であり、続いて当該すでに損傷した組織を除去するプロセスを必要とすることを提案しているものであります。引用例に記載されているこの処理の後において残存した熱的に損傷した領域があることは重要であります。」との主張をしているので、これについて検討する。 請求人の上記主張は、引用例(特に【0033】ないし【0035】)記載の発明のレーザ照射の波長が1064nmであることを前提にしていると解されるが、1064nmの波長について、「【0007】最初の有用なレーザは1960年代に開発されたが、この技術の医学分野における使用は近年のレーザおよびファイバ光学伝送系の進歩によって大幅に増大した。現在、主として外科および他の医学的手法に関連する広範囲の適用分野で使用するために考案された数多くのレーザ系が存在している。CO_(2) レーザとして知られる一般的な型のレーザは波長10.64 ミクロンの放射線を発する。しかしながら、CO_(2) レーザによって生成された放射エネルギを集中もしくは誘導するためには所定の仕様で何組かのミラーを配置することが必要となる。これらの系は一般に大型で高価である。波長1.064 ミクロンの電磁エネルギを発するNd:YAG型レーザの出現により、シリカをコアとする光学ファイバを通してレーザ放射線を発生させ、集中させることが可能になった。したがって、ファイバ光学外科器具はある種の手法において重要となった。これらが有用となる範囲は現在も開拓および発見されつつある。」および「【0009】従来技術には、二重波長の放射線ビームを発生し、切断と焼灼を同時に行う装置が記載されている。このような装置は一般に1つの型のレーザと基本波長ビームの半分もしくは2倍の波長を供給するためのある種の調波発生器とを用いるものである。また、例えば250 ?350nm といった、かなり短波長のエネルギを発することに関する発明もある。このような波長では、水分子ではなく、蛋白質が放射線を吸収する。しかしながら、これらの系は操作が複雑であるため、一般的な外科手術には不向きなものである。これらの系は医療施設の多くでは標準とはなっておらず、かなり特殊な手法に時たま使用するだけのために購入するには費用も高すぎるものである。」との記載があるものの、引用例(特に【0033】ないし【0035】)記載の発明が、1064nmの波長のレーザ放射であることを示す明記および示唆がないことから、請求人の上記主張は前提において誤っている。 また、上記主張の「・・引用例に記載されているこの処理の後において残存した熱的に損傷した領域がある・・」ことが「・・引用例に記載されているこの処理(除去)の後において残存した熱的に損傷した領域(凝固した領域)がある・・」ことを意図しているのであれば、引用例(特に【0033】ないし【0035】)記載の発明において、凝固した領域の全部が2巡目の照射の間には除去されている場合と相反することになる。 したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 そして、本願発明の作用効果は、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項から当業者であれば十分に予測し得るものである。 よって、本願発明は、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものである。 4.むすび したがって、本願発明は、引用例記載の発明および本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし14に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-11-04 |
結審通知日 | 2010-11-11 |
審決日 | 2010-11-29 |
出願番号 | 特願2002-588856(P2002-588856) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川端 修 |
特許庁審判長 |
亀丸 広司 |
特許庁審判官 |
寺澤 忠司 豊永 茂弘 |
発明の名称 | 軟組織のレーザ治療方法 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 中村 稔 |