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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1235722
審判番号 不服2010-5875  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-17 
確定日 2011-04-21 
事件の表示 特願2000-107939「医療検査用カセット」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月19日出願公開、特開2001-289755〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成12年4月10日の特許出願であって,平成21年12月11日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年3月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成22年3月17日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月17日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により,補正前の特許請求の範囲(平成21年11月18日付けの手続補正により補正されたもの。)の請求項1は,次のとおりに補正された。(下線は補正箇所を示す。)
「 【請求項1】 耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備してなり,カセット本体が,上面に開口部を備え,多数の透孔を備えた少なくとも1個の検体収容部を有し,該検体収容部は底部から開口部に向けて広がる弧状もしくはテーパー状の側壁部を有してなり,蓋が下面に開口部を備え,多数の透孔を備えた少なくとも1個の膨出部を有し,該膨出部は上部から開口部に向けて広がる弧状もしくはテーパー状の側壁部を有してなり,閉蓋時には前記膨出部と前記検体収容部とが対接して独立した空間部を形成するものであり,膨出部の周辺枠部及び検体収容部の周辺枠部に空気排出用の透孔が設けられ,閉蓋時には前記膨出部側の透孔と前記検体収容部側の透孔が対接して貫通孔を形成することを特徴とする医療検査用カセット。」

特許請求の範囲請求項1についての上記の補正は,膨出部の周辺枠部及び検体収容部の周辺枠部に設けられた空気排出用の透孔について,補正前の記載を,さらに「閉蓋時には前記膨出部側の透孔と前記検体収容部側の透孔が対接して貫通孔を形成する」と限定するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-285745号公報(以下,「刊行物1」という。)には,小検体病理組織検査用カセットに関して,次の事項が図面とともに記載されている。なお,下線は当審にて付記したものである。
(1a)第3頁右欄
「【0014】
【発明の目的】そこで本発明の目的は,小さな検体がカセット外部へ出ないよう透過孔の大きさを小さくした場合でもカセット内の薬液の入れ替わりが速やかにしかも十分に行なわれるようにし,これにより信頼性の高い標本が迅速に得られるカセットを提供することにある。また本発明の他の目的は,パラフィンブロックをつくったときにカセット内のパラフィンとカセット外のパラフィンの連結を強固にして,検体部分の薄切作業においてカセット外のパラフィンがカセットから剥がれ落ちにくいカセットを提供することにある。更に本発明の他の目的は,薬液処理済みの検体がカセットから取り出しやすいカセットを提供することにある。」

(1b)第3頁右欄?第4頁左欄
「【0015】
【目的を達成するための手段】上記目的を達成するために講じた本発明の手段は次のとおりである。第1の手段にあっては,小検体病理組織検査用カセットであって,このカセットは,所要数の検体収容部が形成されている容器本体と,多数の透過孔を有しており上記容器本体に着脱可能な蓋体と,を備え,上記検体収容部は,下方に向けて膨出形成されている収容部壁と,当該収容部壁に形成されている多数の透過孔と,を含んで構成されており,閉蓋時には上記蓋体部の内側と検体収容部の口縁部とは対向して密接または実質的に密接し互いに独立した検体収容空間部が形成されている,小検体病理組織検査用カセットである。
【0016】第2の手段にあっては,膨出形成されている検体収容部は,実質的には半球面状または側部から底部にかけて収束する斜面を有する多角形断面状に形成されている,第1の手段に係る小検体病理組織検査用カセットである。
【0017】第3の手段にあっては,小検体病理組織検査用カセットであって,このカセットは,所要数の検体収容部が形成されている容器本体と,上記検体収容部に対向する所要数の閉蓋部が形成されており,上記容器本体に着脱可能な蓋体と,を備え,上記検体収容部は,下方に向けて膨出形成されている収容部壁と,当該収容部壁に形成されている多数の透過孔と,を含んで構成されており,上記閉蓋部は,上方に向けて膨出形成されている閉蓋部壁と,当該閉蓋部壁に形成されている多数の透過孔と,を含んで構成されており,閉蓋時には上記閉蓋部の口縁部と検体収容部の口縁部とは対向密接または実質的に密接して上記検体収容部と閉蓋部とから構成される互いに独立した検体収容空間部が形成されている,小検体病理組織検査用カセットである。
【0018】第4の手段にあっては,膨出形成されている検体収容部と閉蓋部は,実質的に半球面状または側部から底部または頂部にかけて収束する斜面を有する多角形断面状に形成されている,第3の手段に係る小検体病理組織検査用カセットである。
【0019】第5の手段にあっては,容器本体に補強用の剛性補強板を備えている,第1ないし第4の手段に係る小検体病理組織検査用カセットである。
【0020】第6の手段にあっては,小検体病理組織検査用カセットであって,このカセットは,検体収容部を有する容器本体と,当該容器本体に着脱可能な蓋体と,を備え,上記容器本体には,薬液等の透過孔と当該透過孔より大きいパラフィンブロック連結強化用の貫通孔が設けてある,小検体病理組織検査用カセットである。」

(1c)第4頁右欄
「【0026】
【実施例】本発明を図面に示した実施例に基づき更に詳細に説明する。図1は本発明に係るカセットの一実施例を示す蓋を開けた状態の斜視図,図2は図1におけるA-A断面図,図3は本発明に係るカセットの蓋を閉じた状態の断面図,図4は閉蓋時に形成される検体収容空間部の構造を示す拡大断面図である。
【0027】符号Cは本発明に係るカセットであり,耐薬液性を有する合成樹脂により形成されている。カセットCは,容器本体1と,容器本体1に着脱可能な蓋体2を備えている。容器本体1の開口部側には周縁部10よりやや低く形成された上面板11が設けてある。上面板11には検体収容部12が片側三箇所ずつ,合計六箇所に設けてある。検体収容部12は下部へ向けてほぼ半球面状に膨出形成された収容部壁120を有している。収容部壁120には,薬液等を透過する多数の透過孔121が設けてある。なお,本実施例では透過孔121は成形工程を短縮する観点から全てが垂直方向に形成されているが,これに限定されない。」

(1d)第4頁右欄
「【0028】片側三個ずつ設けられている検体収容部12の列の間には,薬液やパラフィンを多量に通過できる,貫通された透孔13が形成されている。更にその透孔13の内部には,パラフィンとの固着を補強するためのクロスした補強梁130を備えている。また,容器本体1の裏面には補強用の剛性板14(図2参照)を備えている。なお,符号15,16は被検者名,番号等を記入するための記入部,17は後述する蓋体2の係合爪を係合する係合部である。」

(1e)第4頁右欄?第5頁左欄
「【0029】蓋体2は,軸着手段3を介し基部を容器本体1の基部に回動可能に取り付けてある。軸着手段3の構造は公知の一般的な手段が使用されており,ここでは説明を省略する。蓋体2の裏面には,蓋体2を閉じたときに上記容器本体1の上面板11に接面する下面板21が基板20から突出して設けてある。下面板21の裏側には容器本体1の検体収容部12と対応する位置に同数及び実質的に同サイズの扁平な半球面状の閉蓋部壁220を有する閉蓋部22が設けてある。
【0030】閉蓋部壁220には検体収容部12の収容部壁120と同様に多数の透過孔221が設けてある。また,蓋体2には上記容器本体1の透孔13と対応する位置に透孔13と同サイズに形成された蓋体透孔23が設けてある。蓋体透孔23にはクロスした補強梁230が設けてある。なお,蓋体2の先部には容器本体1の係合部17に係脱可能な係合爪24を備えている。そして,図1,図2の状態から蓋体2を閉じると,閉蓋部22と検体収容部12とで検体収容空間部4(図3参照)が設けられる。」

(1f)第5頁左欄
「【0034】パラフィンブロックBをつくるときには,透孔13,23が溶融パラフィンの湯道としての機能を果たし,包埋皿の隅々にまで溶融パラフィンが流れ込みやすくなる。更に,透孔13内部の補強梁130はパラフィン硬化時にはパラフィン内部に埋設された状態で固着される。これにより,パラフィンと容器本体1が強固に固着され,更に容器本体1内のパラフィンP1と容器本体1外のパラフィンP2の連結力が向上する。」

(1g)第5頁左欄?右欄
「【0036】検体収容部12は収容部壁120の側部から底部にかけて収束する球面状斜面を有し,角部がないので収容部壁120まわりの薬液の流れがスムーズになり,薬液の透過効率が向上し,薬液処理の時間が短縮できる。また,検体が狭い角部に入り込むこともなく,薬液処理後の検体が取り出しやすい。更には,従来のような角部での検体の引っ掛りなどが起こりにくく,これによる検体の損傷を防止できる。
【0037】図6は閉蓋時に形成される検体収容空間部の第2実施例の構造を示す拡大断面図である。なお,図6から後述する図7,図8においては図4に示したものと同一または同等箇所には同一の符号を付して示している。本実施例では,収容部壁120と閉蓋部壁220は四角錐台状である。作用効果については図4に示したものとほぼ同様である。」

(1h)第5頁右欄
「【0040】図9は本発明に係るカセットの検体収容部の他の形状を示す説明図である。図面では,半球面以外の検体収容部12の収容部壁120の形状を示している。なお,検体収容部12と対応する閉蓋部23の閉蓋部壁230の形状は,通常はそれぞれ同様の構造のものが設けられるが,他の組み合わせでもよく,限定はされない。
【0041】図においてaは上記図6,図8に示した四角錐台状である。bは口縁部は八角形で底面は四角形に形成してあり,四箇所の三角面51には透過孔が設けられていない。cはbとほぼ同様の構造のものの近傍に通液孔52が四箇所に設けてある。dはbとほぼ同様の構造で,三角面53にも透過孔が設けてある。eは四角錐状である。fは円錐台状である。なお,本発明は図示の実施例に限定されるものではなく,特許請求の範囲の記載内において種々の変形が可能である。」

(1i)第5頁右欄
「【0031】(作用)図5は本発明に係るカセットを使用して作られるパラフィンブロックの構造を示す断面図である。図1ないし図5を参照して本実施例の作用を説明する。容器本体1と蓋体2はいずれも耐薬液性を有する合成樹脂により形成されているため,カセットCは検査標本完成までの間に用いられる薬液による影響を受けない。また,閉蓋により容器本体1と蓋体2が係合され一体化することにより,六個の検体収容空間部4が通液性を持ちながら独立する。」
そして,図1?図9には上記記載に対応した図面が記載されている。

これらの記載からみて,上記刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる(以下,この発明を「刊行物1発明」という)。
「 耐薬液性を有する合成樹脂により形成されている容器本体1と該容器本体1に着脱可能な蓋体2を備えており,
該容器本体1が,薬液等を透過する多数の透過孔121を備えた検体収容部12を片側三箇所ずつ,合計六箇所に設け,
該検体収容部12は,球面状斜面又は円錐台状の収容部壁120を有してなり,
該蓋体2が該検体本体1の該検体収容部12と対応する位置に同数及び実質的に同サイズで該検体収容部12と同様構造の閉蓋部22を有してなり,該閉蓋部22の閉蓋部壁220には,多数の透過孔221が設けられており,
該容器本体1の該検体収容部12の列の間には,薬液やパラフィンを多量に通過できる,貫通された透孔13が形成され,
該蓋体2には,該容器本体1の該透孔13と対応する位置に該透孔13と同サイズに形成された蓋体透孔23が設られている小検体病理組織検査用カセット。」

3 対比
補正発明と刊行物1発明を対比する。
(1)刊行物1発明の「耐薬液性を有する合成樹脂により形成されている容器本体1と蓋体2」は,補正発明における「耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋」に相当する。また,刊行物1発明の「小検体病理組織検査用カセット」は,補正発明の「医療検査用カセット」に包含される。
したがって,刊行物1発明の「耐薬液性を有する合成樹脂により形成されている容器本体1と該容器本体1に着脱可能な蓋体2を備え」ていることは,補正発明の「耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備」することに相当する。

(2)刊行物1発明の「容器本体1が,薬液等を透過する多数の透過孔121を備えた検体収容部12を片側三箇所ずつ,合計六箇所に設け」るという特定事項について,容器本体1には,検体収容部12が設けられており,該検体収容部12に検体を入れるものであるから,容器本体1の上面には検体収容部12の入口となる開口部が備わることは自明な事項である。
そうすると,刊行物1発明の「該容器本体1が,薬液等を透過する多数の透過孔121を備えた検体収容部12を片側三箇所ずつ,合計六箇所に設け」ることは,補正発明の「カセット本体が,上面に開口部を備え,多数の透孔を備えた少なくとも1個の検体収容部を有」することに相当する。

(3)刊行物1発明の検体収容部壁120の形状は,球面状傾斜面又は円錐台状であり,断面をみれば,弧状及びテーパー状であるから,刊行物1発明の「該検体収容部12は,球面状斜面又は円錐台状の収容部壁120を有」することは,補正発明の「該検体収容部は底部から開口部に向けて広がる弧状もしくはテーパー状の側壁部を有」することに相当する。

(4)刊行物1発明の蓋体は,「検体本体1の検体収容部12と対応する位置に同数及び実質的に同サイズで検体収容部12と同様構造の閉蓋部22」を有するものである。上記「第2 3(3)に記したように,刊行物1発明の検体収容部12は,弧状もしくはテーパー状であり,それと同様構造を閉蓋部22が有するから,閉蓋部22も弧状もしくはテーパー状であるといえる。そして,閉蓋部22も開口部を備えていることは明らかである。
また,閉蓋部22は,「検体本体1の検体収容部12と対応する位置に同数及び実質的に同サイズで」設けられているから,閉蓋時には,閉蓋部22と検体収容部12とが対設して独立した区間部を形成することは自明である。
そうすると,刊行物1発明の「該蓋体2が該検体本体1の該検体収容部12と対応する位置に同数及び実質的に同サイズで該検体収容部12と同様構造の閉蓋部22を有してなり,該閉蓋部22の閉蓋部壁220には,多数の透過孔221」が設けられることは,補正発明の「蓋が下面に開口部を備え,多数の透孔を備えた少なくとも1個の膨出部を有し,該膨出部は上部から開口部に向けて広がる弧状もしくはテーパー状の側壁部を有してなり,
閉蓋時には前記膨出部と前記検体収容部とが対接して独立した空間部」を形成することに相当する。

(5)刊行物1発明の「該容器本体1の該検体収容部12の間に,薬液やパラフィンを多量に通過できる,貫通された透孔13」が形成されることと,補正発明の「膨出部の周辺枠部及び検体収容部の周辺枠部に空気排出用の透孔」が設けられることとは,「膨出部の周辺枠部及び検体収容部の周辺枠部に透孔」が設けられる点で共通する。
また,刊行物1発明は,「該蓋体2には,該容器本体1の該透孔13と対応する位置に該透孔13と同サイズに形成された蓋体透孔23が設られている」ものであるから,閉蓋時には,必然的に透孔13と蓋体透孔23とが対設して貫通孔を形成することとなり,補正発明のごとく「閉蓋時には前記膨出部側の透孔と前記検体収容部側の透孔が対接して貫通孔を形成する」ものとなることは,明白である。

以上のことを総合すると,両者は,次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備してなり,カセット本体が,上面に開口部を備え,多数の透孔を備えた少なくとも1個の検体収容部を有し,該検体収容部は底部から開口部に向けて広がる弧状もしくはテーパー状の側壁部を有してなり,蓋が下面に開口部を備え,多数の透孔を備えた少なくとも1個の膨出部を有し,該膨出部は上部から開口部に向けて広がる弧状もしくはテーパー状の側壁部を有してなり,閉蓋時には前記膨出部と前記検体収容部とが対接して独立した空間部を形成するものであり,膨出部の周辺枠部及び検体収容部の周辺枠部に透孔が設けられ,閉蓋時には前記膨出部側の透孔と前記検体収容部側の透孔が対接して貫通孔を形成する医療検査用カセット。」

(相違点)
膨出部の周辺枠部及び検体収容部の周辺枠部に設けられた透孔が,補正発明では「空気排出用の透孔」であるのに対して,刊行物1発明では,薬液やパラフィンを多量に通過できる透孔13であり,空気が排出されるか不明な点。

4 相違点についての検討及び判断
刊行物1発明は,前記記載(1i)に「カセットCは検査標本完成までの間に用いられる薬液による影響を受けない。また,閉蓋により容器本体1と蓋体2が係合され一体化することにより,六個の検体収容空間部4が通液性を持ちながら独立する。」と記載されていることから,小検体病理組織検査用を薬液に浸漬して使用するときには,小検体病理組織検査用カセットの蓋体2を閉じて使用することを前提とするものである。刊行物1発明において,透孔13は,前記記載(1d)に「検体収容部12の列の間には,薬液やパラフィンを多量に通過できる,貫通された透孔13が形成されている。」と記載されているように,薬液が多量に通過するものである。上記「第2 3(5)」で言及したように,刊行物1発明を閉蓋して薬液に浸漬した際には,透孔13と対応する位置に蓋体透孔23と透孔13とが対接して,貫通孔が形成されるから,透孔13に薬液が多量に通過するということは,該貫通孔を通り薬液が透過することとなる。そして,薬液が該貫通孔を通り透過するということは,浸漬時に薬液面とカセットとの間に存在する空気も排出されることは明らかであり,透孔13及び蓋体透孔23で形成される貫通孔が空気排出機能を具備することは自明な事項である。
したがって,上記相違点は実質的に相違点ではないから,補正発明は刊行物1に記載された発明である。

以上のとおりであるから,本願補正発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
したがって,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1ないし5に係る発明は,平成21年11月18日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであって,その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。)
「 【請求項1】 耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備してなり,カセット本体が,上面に開口部を備え,多数の透孔を備えた少なくとも1個の検体収容部を有し,該検体収容部は底部から開口部に向けて広がる弧状もしくはテーパー状の側壁部を有してなり,蓋が下面に開口部を備え,多数の透孔を備えた少なくとも1個の膨出部を有し,該膨出部は上部から開口部に向けて広がる弧状もしくはテーパー状の側壁部を有してなり,閉蓋時には前記膨出部と前記検体収容部とが対接して独立した空間部を形成するものであり,膨出部の周辺枠部及び検体収容部の周辺枠部に空気排出用の透孔を設けたことを特徴とする医療検査用カセット。」

2 引用刊行物等の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1の記載事項は,前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は,前記「第2 3」「第2 4」で検討した補正発明において,膨出部の周辺枠部及び検体収容部の周辺枠部に設けられた空気排出用の透孔について,「閉蓋時には前記膨出部側の透孔と前記検体収容部側の透孔が対接して貫通孔を形成する」と限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2 4」において検討したとおり,刊行物1に記載された発明であるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1に記載された発明である。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-08 
結審通知日 2011-02-15 
審決日 2011-03-01 
出願番号 特願2000-107939(P2000-107939)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 竹中 靖典
秋月 美紀子
発明の名称 医療検査用カセット  
代理人 伊丹 健次  

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