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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1235780
審判番号 不服2007-33634  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-12-13 
確定日 2011-04-21 
事件の表示 特願2001- 47006「酸化防止剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月 6日出願公開、特開2002-249770〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年2月22日の出願であって、平成18年3月22日付けの拒絶理由通知に対して、平成18年5月29日付けで意見書及び手続補足書が提出され、平成19年7月12日付けの拒絶理由通知に対して、平成19年9月12日付けで意見書が提出され、その後、平成19年11月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年12月13日に審判請求がなされるとともに、平成20年1月9日付けで手続補正がなされ、平成20年2月14日に審判請求書の手続補正書が提出され、平成22年6月29日付けで審尋がなされ、平成22年9月6日に回答書が提出されたところ、平成22年10月19日付けで、当審において平成20年1月9日付けの手続補正を却下するとともに拒絶理由を通知し、これに対して平成22年12月22日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成22年12月22日付で補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されているとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「ローズマリー水溶性抽出物とカテキンとを含有し、ローズマリー水溶性抽出物が含水エタノールを使用して得られる抽出液に水を加えて非水溶性成分を析出させて得た濾液から溶媒を留去乾燥することにより得られたものであり、ローズマリー水溶性抽出物とカテキンとの重量比が65:35?35:65であることを特徴とする酸化防止剤。」
(以下、「本願発明」という。)


第3 当審の拒絶の理由の概要
当審において、平成22年10月19日付けで通知した拒絶の理由の概要は、
「本願発明1ないし7は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明・・・(中略)・・・に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1 刊行物、刊行物に記載された事項及び刊行物に記載された発明
(1) 刊行物
A:特開平02-092258号公報(原査定における引用文献3。以下、「刊行物A」という。)
B:特開昭55-018437号公報(原査定における引用文献1。以下、「刊行物B」という。)
C:特開昭63-135483号公報(原査定における引用文献2。以下、「刊行物C」という。)
D:特開昭62-126953号公報(平成8年3月22日付け拒絶理由通知における引用文献2。以下、「刊行物D」という。)
・・・(後略)」
というものである。


第4 刊行物及び記載事項
1 刊行物
(1)特開平02-092258号公報(当審拒絶理由における刊行物A。以下、同様に「刊行物A」という。)
(2)特開昭55-018437号公報(当審拒絶理由における刊行物B。以下、同様に「刊行物B」という。)
(3)特開昭63-135483号公報(当審拒絶理由における刊行物C。以下、同様に「刊行物C」という。)

2 刊行物に記載された事項
(1)刊行物Aには、以下の事項が記載されている。
A1 「2.特許請求の範囲
1、茶葉抽出物とトコフェロール及び/若しくはローズ・マリー抽出物とを有効成分とする食品の品質保持剤。
2、対象とする食品が水産品または水産加工品である請求項1記載の品質保持剤。」
(特許請求の範囲)

A2 「[従来の技術]
本発明者等は、以前より茶葉抽出物中には、食品の品質を保持する優れた作用の有ることを見出し、その利用について鋭意研究を為してきた(例えば、特開昭63-135483号、特開昭63-135484号、特願昭62-92929号、特願昭62-125459号等)。」
(第1頁左下欄第19行?同頁右上欄第5行)

A3 「[問題点を解決するための手段]
本発明者等は、先ず茶葉抽出物と相乗作用を有する化合物を探索し、更に種々の食品に対して効果を有する化合物を試験探索した結果、トコフェロール及びローズ・マリー抽出物が顕著な効果を示すことを見出して本発明を完成した。」
(第1頁右下欄第14行?同頁右下欄第20行)

A4 「実施例1 塩蔵サバに対する効果
・・・経時的に肉色・・の変化を観察した。・・
表1(試験結果)
・・・肉色** ・・・
**:肉色の判定基準は次のとおり
◎ 肉の赤色の保持が極めて良好のもの
○ 赤色の保持が良好のもの
△ 赤色の保持がほぼ良好ではあったが腹部に黄変化が見られたもの
× 赤色の保持が不良で、全体的に黄変化が認められ、特に腹部の黄変化が著しかったもの

実験例2 カマスの開き干しに対する効果
・・・肉色・・・の経時変化を観察し、各製剤の鮮度保持効果を比較した。冷蔵保管10日目の状態の観察結果を表2に示す。
・・・
表2(試験結果)
・・・肉色* ・・・
*:記号は表1におけると同意義である。

実験例3 深干し桜エビに対する効果
・・・乾燥終了直後(乾燥約7?8時間)の色調を観察し、各製剤の効果を比較した。・・・
表3(試験結果)
・・・赤色度* a/b
・・・・・
*:◎ 赤色度の保持が対照に比べ著しく良好
○ 赤色度の保持が良好
△ 赤色度の保持がやや良好
× 赤色の退色が著しい
a/b: 色差計による値に基づいて計算されたもの。aは赤色度、bは黄色度を表わす。」
(第2頁右上欄第1行?第3頁左上欄下から3行目)

A5 「参考例 茶葉抽出物及び抗酸化性物質の効力
リノール酸エチルを基質とし、過酸化物価を指標として、茶葉抽出物及び種々の抗酸化物質の効果を調べた。」
(第3頁左上欄下から2行目?同頁右上欄第2行)

A6 「表4
化合物添加量(ppm) 過酸化物価
化合物A B C D (meq/kg)
-------------------------------
I 30 148
・・・
・・・
IV 200 204
・・・
VI 15 100 128
・・・
VIII 7.5 5 100 65
・・・
・・・
-------------------------------
(表中、化合物Aは茶葉抽出物、Bは没食子酸、Cはトコフェロール、Dはローズ・マリー抽出物である)」
(第3頁左下欄第5行目?下から6行目)

A7 「上記結果より明らかな様に茶葉抽出物、抗酸化物質の各々単体の抗酸化力に比べて、茶葉抽出物と抗酸化物質夫々の50%混合物の方が抗酸化力が勝り、更に茶葉抽出物を茶葉抽出物と没食子酸の各50%ずつの混合物に置き換えた組成のものは、さらに強い効力を示した。」
(第3頁左下欄下から5行目?同頁右下欄第1行)

A8 「[発明の効果]
本発明は茶葉抽出物にトコフェロール及び/若しくはローズ・マリーを添加し、更に必要に応じ没食子酸を添加した食品類を対照とした品質保持剤であり、特に色調の保持に効果が示される。」
(第3頁右下欄第2行?第7行)

(2)刊行物Bには、以下の事項が記載されている。
(刊行物Bは、「ろ過」「ろ別」「ろ液」の「ろ」字として、「さんずいに戸」が用いられているが、簡易慣用字体であって使用できない文字であるため、本審決においては、便宜的に以下「ろ」字を用いる。)
B1 「2.特許請求の範囲
1 ローズマリー、セイジまたはそれらの混合物から抽出された水溶性抗酸化剤。
・・・
8 ローズマリー、セイジまたはこれらの混合物を含水率40?60%のメタノールまたはエタノールで処理してその抗酸化成分を抽出し、得られた抽出液に水を加えて非水溶性抗酸化成分を析出させ、更にこれに活性炭を加えて攪拌した後、この溶液をろ過して得たろ液またはこのろ液に安定化剤を加えたものから溶媒を留去乾燥することを特徴とする水溶性抗酸化剤の製造方法。」
(第1頁左下欄第5行?同頁右下欄第10行)

B2 「魚介類製品の酸化は魚介類に含まれている油脂中の不飽和脂肪酸の不飽和部分に酸素ラジカルが付加してパーオキサイドを形成し、次にこの部分で分解してアルデヒド、ケトンおよび酸等を生ずるためであり、微量存在する金属が酸化分解を促進すると考えられている。」
(第2頁左上欄第1行?第6行)

B3 「本発明者は天然香辛料中の抗酸化成分について種々研究を重ねた結果、天然香辛料のローズマリーおよびセイジに水溶性の抗酸化成分と非水溶性の抗酸化成分との二種類があることを見出し、またこの水溶性抗酸化成分を安定化する方法を開発した。即ち、本発明は天然香辛料のローズマリー、セイジまたはそれらの混合物から抽出された水溶性抗酸化剤、その組成物およびそれらの製造方法に関するもの・・・である。」
(第2頁右上欄第18行?第2頁左下欄第12行)

B4 「本発明の方法で製造した水溶性抗酸化剤またはその組成物は魚介類製品および食肉製品の酸化防止に顕著な効果があり、安価でしかも天然起源であるから安全性が高い。」
(第2頁左下欄第13行?第16行)

B5 「以下に本発明について更に詳しく説明すると、第1表は種々の含水率のエタノールでローズマリーを抽出して得た抽出液に水を加えて非水溶性の抗酸化成分を析出させ、更にこれに活性炭を加えて攪拌した後、この溶液から非水溶性抗酸化成分と活性炭との混合物をろ別し、得られたろ液から溶媒を留去して得た水溶性抗酸化成分区分につき、その抽出率(出発原料に対する重量%)および電子供与能を示したものである。上記水溶性抗酸化成分区分の調製の具体的データは次のとおりである:ローズマリー100gに40?60%含水エタノール1lを加えて3時間加熱還流し、温時ろ過して抗酸化成分を含むろ液を得る。残渣を600mlの同じ溶媒で同様に処理抽出する操作を更に二回繰返し、夫々得られたろ液を合わせる。この抽出液に水500mlを加えて非水溶性抗酸化成分を析出させ、更に活性炭10gを加えて攪拌し、この溶液を一夜冷所に放置した後、ろ過してろ液を得る。このろ液を減圧下濃縮して水溶性抗酸化成分区分(固体)を得る。この水溶性抗酸化成分区分は淡褐色を呈し、臭いは無くクロロフイル類を含まないが、少し吸湿性である。これはそのまま魚介類製品の抗酸化剤として使用に供することができる。」
(第2頁左下欄第17行?第3頁左上欄第4行)

B6 「また、上記の実験で各区分の抗酸化能は電子供与能の価を指標として比較した。電子供与能はラジカル部分を有する化合物の1、1-ジフエニル-2-ピクリルヒドラジルが還元されると、その還元度合により吸光度が変化することを利用して測定した。電子供与能の価が高い程還元能力が強く、また同一または同種の物質ではその電子供与能は抗酸化能と相関関係がある。」
(第3頁左上欄第5行?第12行)

(3)刊行物Cには、以下の事項が記載されている。
(刊行物Cは、「ろ過」の「ろ」字として、「さんずいに戸」が用いられているが、簡易慣用字体であって使用できない文字であるため、本審決においては、便宜的に以下「ろ」字を用いる。)
C1 「2.特許請求の範囲
(1) 水溶性抗酸化活性物質の一種又は二種以上を含む水溶液100重量部を必要に応じて相乗剤と共に一種又は二種以上の親油性乳化剤1?500重量部にて乳化した油中水型の親油性抗酸化剤。
(2) 水溶性抗酸化活性物質が茶葉抽出物(茶葉粗カテキン)、没食子酸、アスコルビン酸並びに動植物及び微生物から抽出された水溶性抗酸化成分より選択されたものである特許請求の範囲第1項記載の抗酸化剤。」
(第1頁左下欄第4行?第14行)

C2 「本発明は抗酸化剤に関し、更に詳しくは、水溶性抗酸化活性物質を含有する改善された性質を有する製剤化された抗酸化剤に関するもので、水溶性抗酸化活性物質の油脂に対する親和性を高めた強力な抗酸化力を有する抗酸化剤であり、食品、化粧品、医薬品および石油製品などの広い分野に利用される。」
(第2頁左上欄第11行?第17行)

C3 「参考例 茶葉抽出物(茶葉粗カテキン)の製法
煎茶製造時に副産するくず茶葉30kgにメタノール90lを加え、約60℃で約3時間加温油出した後ろ過し、残渣をメタノール30lで洗浄し、約90lのメタノール抽出液を得た。この抽出液に大豆油1.5kgおよび水6.0kgを加えて混ぜ、真空度80mmHg、浴温60℃、冷却水温10℃でメタノールを留去した後分液し、油相5.0kgおよび水相10.5kgを得た。水相を真空度20mmHg、浴温70℃、冷却水温10℃で固形分含量が約80%になるまで濃縮した後別の容器に移し替え、真空度0.5mmHg、棚温60℃で約18時間真空乾燥した。得られた固形物を粉砕することによつて、茶葉抽出物の水溶性抗酸化成分の粉末4.5kgが得られた。この粉末中のカテキン純度は約47%でカフェイン含量は約8%であつた。糖類の主成分は果糖、ブドウ糖およびショ糖であり総量は約10%であつた。」
(第5頁右下欄第1行?第19行)


第5 当審の判断
1 引用発明
刊行物Aの摘示A1には、
「ローズ・マリー抽出物と、茶葉抽出物とを有効成分とする食品の品質保持剤」
の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されている。

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明に係る「ローズマリー」と、引用発明に係る「ローズ・マリー」とは、同じ植物を意味するものであることは当業者に明らかである。また、本願発明に係る「水溶性抽出物」と、引用発明に係る「抽出物」とは、少なくとも「抽出物」である点で一致している。さらに、本願発明に係る「酸化防止剤」と、引用発明に係る「酸化防止剤」とは、いずれも「剤」である点では一致している。
そうすると、両者は、
「ローズマリー抽出物を含有する剤」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1) 「ローズマリー抽出物」が、本願発明では「含水エタノールを使用して得られる抽出液に水を加えて非水溶性成分を析出させて得た濾液から溶媒を留去乾燥することにより得られた」「水溶性抽出物」であるのに対し、引用発明ではそのような抽出物であるか不明である点
(相違点2) 共に含有する物質が、本願発明は「カテキン」であるのに対し、引用発明は「茶葉抽出物」である点
(相違点3) 本願発明は、「ローズマリー水溶性抽出物とカテキン」との「重量比」が「65:35?35:65」であるのに対し、引用発明はそのような比は明らかではない点
(相違点4) 「剤」が、本願発明では「酸化防止剤」であるのに対し、引用発明は「食品の品質保持剤」である点

3 判断
(1)相違点1について
引用発明の「ローズ・マリー抽出物」は、刊行物Aにおいて「抗酸化物質」として添加されているものであるが(摘示A5、A6、A7)、その抽出手法に関して具体的な記載はなされていない。
刊行物Bには、「天然香辛料のローズマリー」に「水溶性の抗酸化成分と非水溶性の抗酸化成分との二種類があることを見出し」(摘示B3)、そのうち「ローズマリー」「から抽出された水溶性抗酸化剤」(摘示B1、B3)は、「ローズマリー」を「40?60%含水エタノール」で「処理抽出」し、「この抽出液に水」「を加えて非水溶性抗酸化成分を析出させ」「た後、ろ過して」得た「ろ液を減圧下濃縮して水溶性抗酸化成分区分(固体)を得る」(摘示B5)ものであること、該ろ液の濃縮とは「ろ液」「から溶媒を留去乾燥」(摘示B1)することによるものであること、が記載されている。すなわち、刊行物Bには、ローズマリーの水溶性の抽出物が抗酸化物質であることとともに、その抽出方法が示されている。そして刊行物Bにはさらに、このローズマリー水溶性抽出物が「酸化防止に顕著な効果があり、安価でしかも天然起源であるから安全性が高い」ものである点(摘示B4)が記載されている。
したがって、引用発明の抗酸化物質であるローズ・マリー抽出物として、酸化防止に顕著な効果があり且つ安価で安全性の高い刊行物Bに記載の抗酸化物質である、「含水エタノールを使用して得られる抽出液に水を加えて非水溶性抗酸化成分を析出させて得た濾液から溶媒を留去乾燥すること」により得られたローズマリーの「水溶性抽出物」を用いることは、当業者であれば容易になし得たものである。

(2)相違点2についての検討
引用発明の「茶葉抽出物」について検討するに、刊行物Aには、引用発明の前提となる茶葉抽出物に関する従来技術として、「例えば、特開昭63-135483号」を指摘しているところ(摘示A2)、当該指摘文献である刊行物Cには「水溶性抗酸化活性物質が茶葉抽出物(茶葉粗カテキン)」(摘示C1)と記載されている。そうすると、引用発明の「茶葉抽出物」とは、「茶葉粗カテキン」のことを実質的に意味するものか、あるいは少なくとも「カテキン」を含むものであるから、本願発明で「カテキン」を共に含有することと引用発明の「茶葉抽出物」を共に含有することとは同一であるといえる。また、刊行物Aには茶葉抽出物が抗酸化力を有する点(摘示A6、A7)が記載されていることから、引用発明の抗酸化力を有する茶葉抽出物として、刊行物Cに記載の水溶性抗酸化活性物質である「茶葉粗カテキン」(摘示C1)若しくはその成分である「カテキン」(摘示C3)を用いることは、当業者であれば適宜なし得たものである。

(3)相違点3についての検討
上記(1)及び(2)において既に検討したように、ローズマリー水溶性抽出物をカテキンと共に含有させて剤とすることは、刊行物Aに記載された発明、刊行物Bに記載された発明及び刊行物Cに記載された発明に基いて当業者であれば容易になし得たものである。そして、二成分の混合物において、その混合比等に応じて効果の程度が異なることは通常予測される事項であるから、ローズマリー水溶性抽出物とカテキンとの混合物において、所望の効果を有する程度の含有比を実験を行って定めることに格別の困難性があるとはいえない。

(4)相違点4についての検討
引用発明は「食品の品質保持剤」と規定しているが、刊行物Aの内容を検討すると、抗酸化力(摘示A7)に着目して過酸化物価を計測しているので(摘示A5、A6)、刊行物Aに係る「品質保持剤」とは抗酸化力を有する品質保持剤すなわち「酸化防止剤」にほかならない。してみると、本願発明で「酸化防止剤」と規定することと引用発明で「品質保持剤」と規定することとは同一であるか、又は、当該記載及び刊行物B及び刊行物Cは「抗酸化剤」に係る発明であることを参照し、「酸化防止剤」と規定することは、当業者であれば適宜規定し得る事項の範囲内のものである。

(5)本願発明の効果について
ア 活性酸素除去効果について
本願明細書の段落【0004】には、「特定のローズマリ抽出物にカテキンを特定量併用することにより著しく高い活性酸素除去効果が得られるとの知見を得た」点が指摘されている。
これに対して、刊行物A?Cには、その酸化防止剤が「活性酸素除去効果」を有するものであると記載されてはいない。しかしながら、その酸化防止能について検討するに、刊行物Aには、「茶葉抽出物及び抗酸化性物質の効力」として、「過酸化物価」を指標とするものであることが示されている(摘示A5、A6)。また刊行物Bには、「・・・酸化は、・・・に含まれている油脂中の不飽和脂肪酸の不飽和部分に酸素ラジカルが付加してパーオキサイドを形成し、次にこの部分で分解してアルデヒド、ケトンおよび酸等を生ずるためであり、微量存在する金属が酸化分解を促進すると考えられている」(摘示B2)ものであり、刊行物Bにはさらに「抗酸化能は、電子供与能の価を指標」とし「電子供与能はラジカル部分を有する化合物・・・が還元されると、その還元度合により吸光度が変化することを利用して測定した。電子供与能の価が高い程還元能力が強く、また同一または同種の物質ではその電子供与能は抗酸化能と相関関係がある」(摘示B6)点が指摘されている。してみると、酸化とは酸素ラジカルの付加によりパーオキサイドが形成される過程を有するものであり、酸化防止剤の抗酸化能はラジカル還元能に相関があることが指摘されているものといえ、酸素ラジカル、パーオキサイドは活性酸素の1種であることは当業者にとって明らかであるから、刊行物A及びBの酸化防止剤の酸化防止能とは、活性酸素除去効果にほかならない。
ゆえに、本願発明の活性酸素除去効果は、刊行物A?Bに記載の酸化防止剤も既に有する効果であり予測できるものであって、格別であるとはいえない。

イ 相乗効果について
本願明細書の段落【0011】には、「本発明の酸化防止剤は、ローズマリー水溶性抽出物とカテキンとを65:35?35:65の重量比で含有する。斯かる重量比の範囲外では、後述の試験結果に示す様に、両成分の相乗効果が発現されずに活性酸素除去効果が十分ではない。」と記載される。何をもって「相乗効果」とするか本願明細書に定義の記載はなされていないが、酸化防止剤に係る分野で通常に使用される意味での「相乗」効果であると考えられる。
これに対して刊行物Aには、茶葉抽出物と「相乗」作用を有する化合物としてローズ・マリー抽出物が顕著な効果を示すことを見出した点が記載されている(摘示A3)。また刊行物Aには、「抗酸化物質の各々単体の抗酸化力に比べて」、「茶葉抽出物と抗酸化物質」の「混合物の方が抗酸化力が勝」る点が明記される(摘示A7)とともに、表4には、茶葉抽出物である化合物A、ローズ・マリー抽出物である化合物Dの単体の過酸化物価(meq/kg)はそれぞれ148(例I)、204(例IV)であるのに対し、両者の混合物においては128(例VI)であり、これは「相乗効果」にほかならない。したがって、ローズ・マリー抽出物と茶葉抽出物とを用いた際に相乗効果がある点は刊行物Aに既に記載されている。
刊行物Bにはローズマリー水溶性抽出物が酸化防止剤として「顕著な効果」(摘示B4)を有することが記載されており、刊行物Aのローズ・マリー抽出物として刊行物Bのローズマリー「水溶性抽出物」を適用すれば該顕著な効果が期待できるものであり、刊行物Aに記載の相乗効果を損なうものであるとも考えられない。
刊行物Aに記載の茶葉抽出物にその成分として含有することが前提とされるか或いは刊行物Cに記載される「水溶性抗酸化活性物質」である「茶葉抽出物(茶葉粗カテキン)」(摘示C1)又はその成分である「カテキン」(摘示C3)を採用することも、刊行物Aに記載の相乗効果を損なうものであるとは考えられない。
ゆえに、本願発明の効果は、刊行物A?Cに既に記載された効果であるか、又は刊行物A?Cに記載の効果より予測できる程度のものであって、格別ではない。

ウ 特定の含有比とすることにより奏される効果について
本願明細書には、段落【0011】に、「本発明の酸化防止剤は、ローズマリー水溶性抽出物とカテキンとを65:35?35:65の重量比で含有する。斯かる重量比の範囲外では、後述の試験結果に示す様に、両成分の相乗効果が発現されずに活性酸素除去効果が十分ではない。」点が示されるとともに、表1に、活性酸素除去能の測定結果が示される。
(ア)上限値について
本願明細書の上記測定結果についてみるに、ローズマリー水溶性抽出物のみのIC50値(表1の試験No.1)と茶抽出物のみのIC50値(表1の試験No.9)とから推測される相和的な値に対して、混合物である試験No.2(ローズマリー水溶性抽出物:カテキン=83:17)?No.6(36:64)のIC50値が低くなっていることから、本願発明で規定される重量比65:35?35:65の範囲内のもののみならず、本願発明で規定された65:35を越えたものであっても、相乗効果は見られるというべきものであり、段落【0011】に記載の、所定の重量比の範囲外では相乗効果が発現されないという認識は、試験結果とは合致しないものである。
また、仮に刊行物Aのローズマリー抽出物及び茶葉抽出物が、本願発明のローズマリー水溶性抽出物及びカテキンと同じものであるとするならば、その表4の例VI(摘示A6)は重量比で86:34となり、上限65:35を定める本願発明の範囲を表現上は外れたものとなる。ここで、ローズマリー抽出物含有比が該刊行物A表4例VIと近い、本願明細書の表1の試験No.2(83:27)について、該表1をグラフ化した平成22年9月6日付け回答書のグラフ2を参照すると、65:35に近い、試験No.3(63:37)のものと連続的に相乗効果を奏するものである点に変わりはなく、本願発明において、65:35が臨界的な数値であって予測できない効果を有する範囲を定めたものであるとはいえない。
(イ)下限値について
同表1における試験No.7及びNo.8はIC50値が極端に上がっているため、ローズマリー水溶性抽出物:カテキン=29:71(No.7)、16:84(No.8)のものについては、一見、相乗効果があるとはいい難い。しかしながら、該試験において用いられているのは「常磐植物化学研究所社製」の「『ティアカロン60』(カテキン含量60重量%)」であって、純粋なカテキン100%の試料ではなく、カテキン以外の物質を残り40%中に含む試料である。よって、該2例の極端に数値の異なる試験例があるからといって、この2例が真にローズマリー水溶性抽出物とカテキンとの混合物に係る相乗効果がないことを示すものであるとは言い切れず、残り40%に含まれる成分による何らかの特殊な影響である可能性も排除できない。
また、通常は、平成22年12月22日付け意見書(iv)にて出願人も主張するように、「ローズマリー抽出物もカテキンも共に酸化防止性能を有する訳であることから、その比率に関係なく両者を併用しても一定の効果が奏せられることになる」、すなわち両者を併用した場合には少なくとも混合比率等に応じた相和的な酸化防止効果があることが通常と考えられるものであるが、極端にこれと異なる前記表1における試験No.7及びNo.8の結果に関して、本願明細書には合理的な説明はない。
したがって、本願発明において、35:65が臨界的な数値であって予測できない効果を有する範囲を定めたものであるとはいえない。

エ 効果に関するまとめ
以上のとおりであるから、本願発明の効果は、刊行物A?Cに既に記載された効果であるか、又は刊行物A?Cに記載の効果より当業者が予測可能な範囲のものであって、格別ではない。

(6)請求人の主張について
請求人は、当審の拒絶理由に対し、平成22年12月22日付け意見書の「(3)拒絶理由に対する意見」の項において、概略、次の主張をしている。

(ii)(a) 本願明細書の段落【0008】に記載したとおり、非水溶性のローズマリー抽出物では本願発明の目的を達成することが出来ず、その点は平成18年5月29日付け意見書の表1に示したとおりである。

(ii)(b) ローズマリー水溶性抽出物とカテキンの併用による相乗効果は、「65:35?35:65」において顕著となり、ローズマリー水溶性抽出物の重量比率が35%未満の場合は、カテキンと併用することにより、酵素阻害活性が著しく悪くなることが示されている。

(iii) 種々の組成を採り得るローズマリー抽出物の中において、刊行物Bに記載されて公知の特定のローズマリー水溶性抽出物については、前記した限定的な配合比率の範囲において初めて相乗効果を発揮することが出来るものであり、このような特異的な現象は、刊行物Bに記載がなく、刊行物Bの記載から予測することはできない。

(iv) ローズマリー抽出物もカテキンも共に酸化防止性能を有するから、その比率に関係なく両者を併用しても一定の効果が奏せられるが、刊行物Bに記載されたローズマリー水溶性抽出物については「65:35?35:65」の比率において酸化防止効果が最大となる。酸化防止剤としては、酸化防止効果が最大であることは技術的に意義のあることであり、これが特定のローズマリー抽出物を使用し且つカテキンと一定の配合比率の場合に発現されるのであり、どのようなローズマリー抽出物または配合比率でもよいという訳ではないという点において、刊行物A?Cに記載の効果を単に足し合わせた程度ではなく、また、刊行物A?Cに記載の効果より予測できる程度のものではない。

ア 主張(ii)(a)について
たしかに本願明細書【0008】には非水溶性成分に関する記載があるが、それは「ローズマリー非水溶性抽出物の場合は、カテキンとの併用によっても高い活性酸素除去効果が得られない」との記載、すなわち「併用」による「高い」効果が得られないという事項のみであり、刊行物A?Cを組み合わせること、すなわちローズマリー水溶性抽出物とカテキンとを併用することの容易性とは、関係がない。
また、平成18年5月29日付け意見書には「(非水溶性ローズマリー)を使用し、本願明細書の段落[0027]?[0029]に記載の方法と同様にして行った活性酸素除去能の測定結果です」として表1が示される。ここで本願明細書【0027】?【0029】に記載される酵素阻害活性測定方法をみるに、「ローズマリー非水溶性抽出物」を含む「水溶液」を作成して吸光度を測定する方法であるので、該水溶液にはローズマリー非水溶性抽出物が溶解しているものとの前提で該測定はなされていると考えられる。しかしながら、測定対象であるローズマリーの非水溶性抽出物とは、請求人が主張するとおり「非」水溶性の成分であり、非水溶性の成分が水に溶解して水溶液となるとは技術的に考え難い。ゆえに、本願明細書の段落【0027】?【0029】の測定手法に従った同意見書の表1の測定結果が、「ローズマリー非水溶性抽出物」すなわち上記意見書で主張される「ローズマリー抽出物の非水溶性成分」の酵素阻害活性を正しく測定したものであって、阻害効果があるということは、困難であると考える。
よって、当該請求人の主張を採用することはできない。

イ 主張(ii)(b)について
35重量%未満の比率に関して、上記(5)ウ(イ)に指摘したとおり疑義があり、下限値に関して臨界的な効果があるという出願人の主張は採用することができない。

ウ 主張(iii)について
本願発明は、限定的な配合比率の範囲において初めて相乗効果があると出願人は主張する。しかし、上記(5)イ及びウに既に指摘したとおり、相乗効果の示唆は刊行物Aにあり、引用発明のローズ・マリー抽出物として刊行物Bのローズマリーから抽出された水溶性抗酸化物を使用することに困難性はなく、その効果も格別ではないというべきである。
よって、当該請求人の主張を採用することはできない。

エ 主張(iv)について
酸化防止効果が最大となる混合比を定めることは技術的に意義があると出願人は主張する。しかし、上記(3)及び(5)ウに指摘したとおりであって、二成分の混合物において、その混合比等に応じて効果の程度が異なることは通常予測される事項であり、所望の程度の効果を有する混合比を含む範囲を実験を行って定めることに格別の困難性があるとはいえない。
よって、当該請求人の主張を採用することはできない。

オ 請求人の主張に関するまとめ
そうしてみると、請求人の上記主張は、本願明細書の記載に基づかない主張であるか、あるいは、既に当審で判断したものであるので、いずれにしても、採用することはできない。


(7)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、本願出願前に日本国内において頒布された刊行物A?Cに記載された発明に基いて、当業者が容易にその発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-15 
結審通知日 2011-02-22 
審決日 2011-03-08 
出願番号 特願2001-47006(P2001-47006)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 庸子小柳 正之  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 東 裕子
齊藤 真由美
発明の名称 酸化防止剤  
代理人 岡田 数彦  

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