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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1235824
審判番号 不服2009-25116  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-18 
確定日 2011-04-21 
事件の表示 特願2003-195984「印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月 3日出願公開、特開2005- 28728〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年7月11日の出願であって、平成21年10月2日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年12月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
本願に係る発明は、平成21年7月17日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 コンピュータに接続可能な印刷装置であって、
アプリケーションプログラムを記憶するアプリケーションプログラム記憶手段と、
前記コンピュータで実行可能なドライバプログラムを記憶するドライバ記憶手段と、
アプリケーションデータを前記コンピュータから受信する受信手段と、
前記受信されたアプリケーションドキュメントに対応するアプリケーションプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されているか否かを判断する判断手段と、
前記受信されたアプリケーションデータに対応するアプリケーションプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されていると判断された場合に、当該対応するアプリケーションプログラムを実行して前記受信されたアプリケーションデータをプリントデータに変換する変換手段と、
前記変換されたプリントデータに基づき画像を形成する画像形成手段と、
前記判断手段により、前記受信されたアプリケーションデータに対応するアプリケーションプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されていないと判断された場合に、前記ドライバ記憶手段に記憶されたドライバプログラムを前記アプリケーションデータを送信したコンピュータに送信するドライバプログラム送信手段とを備えた、印刷装置。」

2 引用された刊行物記載の発明
(1)刊行物1について
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-69912号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1-a)「【請求項1】 外部装置とデータの出し入れを行うインターフェース手段と、前記外部装置から前記インターフェース手段を通して転送されてきたデータを記憶する記憶手段と、該記憶手段から読み出されたデータをラスターイメージデータに変換するラスターイメージ変換手段と、該ラスターイメージ変換手段からのラスターイメージデータに基づいて画像形成を行う画像形成手段とを有し、該画像形成手段による画像形成結果をプリント出力する画像形成装置であって、
前記記憶手段は、単独で動作可能なアプリケーションのプリントモジュール部を記憶し、前記ラスターイメージ変換手段は、前記プリントモジュール部を動作させることによって、前記記憶手段から読み出されたデータをラスターイメージデータに変換する構成にしたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】 前記プリントモジュール部は、複数のアプリケーションに対応して複数個で構成され、且つその各々には各アプリケーションのプリントモジュールがそれぞれ記憶されているものであることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】プリントするドキュメントに対応するプリントモジュールをドキュメントと共に前記記憶手段内で受け取り、前記ラスターイメージ変換手段は、前記プリントモジュール部を動作させることによって、前記記憶手段から読み出されたドキュメントをラスターイメージデータに変換する構成にしたことを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。」

(1-b)「【0002】
【従来の技術】従来、ホストコンピータ上で作成、編集されたアプリケーションファイルをプリント出力するときは、ホストコンピュータ上でアプリケーションファイルを、使用するプリント装置が対応しているページ記述言語(以下、PDLという)に変換してから、該プリント装置へ出力する。プリント装置は、受け取ったPDLファイルをラスターイメージデータに展開し、画像形成を行ってプリント出力する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来技術では、アプリケーションファイルをプリント出力するには、ホストコンピュータ上でPDLに変換し、プリント装置側でさらにラスタイメージデータに変換してから画像形成を行うため、データ変換を2回も行っている。そのため、ホストコンピュータのプリント作業からの解放が遅くなるという問題があった。さらに、フォント等のパラメータを変更したいときは、ホストコンピュータから再度操作する必要があった。
【0004】本発明は上記従来の問題点に鑑み、データ変換の回数を1回にすることによりホストコンピュータのプリント作業からの解放を速くすることができ、また画像形成装置側で出力パラメータを変更することができる画像形成装置、及び画像形成システム及び画像形成方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために第1の発明は、外部装置とデータの出し入れを行うインターフェース手段と、前記外部装置から前記インターフェース手段を通して転送されてきたデータを記憶する記憶手段と、該記憶手段から読み出されたデータをラスターイメージデータに変換するラスターイメージ変換手段と、該ラスターイメージ変換手段からのラスターイメージデータに基づいて画像形成を行う画像形成手段とを有し、該画像形成手段による画像形成結果をプリント出力する画像形成装置であって、前記記憶手段は、単独で動作可能なアプリケーションのプリントモジュール部を記憶し、前記ラスターイメージ変換手段は、前記プリントモジュール部を動作させることによって、前記記憶手段から読み出されたデータをラスターイメージデータに変換する構成にしたものである。」

(1-c)「【0031】図2は、上述した各々の画像形成装置の共通の部分を示す図である。
【0032】同図に示すように、本実施形態の画像形成装置は、高速CPUバス51、低速CPUバス52、及び高速イメージバス53を有している。高速CPUバス51は、CPU54、ハードディスク(HDD)55、RAM56、RIP57、画像処理部58、及び圧縮/伸長部59等の各機能ユニットを接続するバスであり、一般的にはVLバスやPCIバス等が挙げられる。CPU54が処理したデータを各機能ユニットに転送したり、各機能ユニット間同士でデータを高速に転送(DMA転送)したりするためのものである。
【0033】CPU54は、画像形成装置全体の制御を司るマイクロプロセッサであり、リアルタイムOSによって動作している。HDD55は、前記CPU54が動作を行う上での複数のアプリケーションを蓄積している大容量ハードディスクであり、CPU54の管理下にあるものである。RAM56は、CPU54が動作する上でのワークメモリであり、CPU54から高速にアクセスできるものである。
【0034】RIP57は、後述するコンピュータ66と接続される外部インターフェース65より入力された画像形成コマンドを受け、その内容に従ってビットマップ画像に変換を行う機能ユニットである。画像形成コマンドは高速CPUバス51より入力され、高速イメージバス53にイメージ画像を出力するものである。RIPの種類としては、ポストスクリプト、PCL、LIPS、CaPSL等が挙げられる。
【0035】また、画像処理部58は、高速イメージバス53から入力されたイメージ画像をCPU54の指示による処理命令に従って、スムージング処理やエッジ処理などのイメージ画像に対するフィルタリング処置を行う機能ユニットである。この他にも、画像処理部58の機能としては、高速イメージバス53より入力された画像に対して文字認識(OCR)機能や、文字部とイメージ部を分離するイメージセパレート機能をも有する。
【0036】圧縮/伸長部59は、高速イメージバス53から入力されたイメージ画像に対して、MH,MR,MMR,JPEG等の画像圧縮方法により圧縮をかけ、高速CPUバス51、または再び高速イメージバス53にその圧縮されたデータを送出したり、その逆にその2つのバス51,53から入力された圧縮データを、この機能ユニットにより圧縮された方式に従って伸長し、高速イメージバス53へ送出する機能を持つものである。」

(1-d)「【0050】まず、図3において、ステップS1では、ホストコンピュータ上のアプリケーションで文章や図形、表などを作成または編集して、ドキュメントを作成する。このときのホストコンピュータは前記コンピュータ11,12または21である。また、アプリケーションはテキストエディタやグラフィクエディタ等である。
【0051】その後のステップS2では、画像形成装置への転送処理を図4のサブルーチンに従って実行する。
【0052】図4において、ステップS11では、転送するドキュメントのアプリケーションのプリントモジュールが画像形成装置内のHDD55に存在するか否かをホストコンピュータにより確認する。HDD55にプリントモジュールが存在するなら、ステップS12へ進み、ホストコンピュータはプリントするドキュメントを画像形成装置へ転送する。一方、HDD55にプリントモジュールが存在しないなら、ステップS13へ進み、アプリケーションのプリントモジュール部を画像形成装置へ転送してから、プリントするドキュメントを画像形成装置へ転送する。この時、PS等のPDLに変換はしないで、ホストコンピュータ内の記憶装置に記憶されている状態のデータ形式で転送される。また、ドキュメントにはアプリケーション情報や画像形成装置に対する設定パラメータ(プリント部数、用紙サイズ等)も含まれている。このとき、ホストコンピュータは、LAN63、モデム61、またはコンピュータインターフェース65等と、低速CPUバス52、バスブリッジ60及び高速CPUバス51を経由して、コマンド、データの送受信を行う。
【0053】図3に戻り、ステップS3では、CPU54は、ハードディスク55に転送されてきたドキュメントから、プリント出力するドキュメントを選択する。そして、RIP57にプリント出力の指示を行う。RIP57は、ドキュメントのアプリケーションを判断して、対応するプリントモジュールをHDD55から読み出し、プリントモジュールを起動する。RIP57内で起動したプリントモジュールによりラスターイメージデータに展開する。
【0054】ステップS4では、ラスターイメージデータを画像処理部58で処理して、高速イメージバス53及びプリンタインターフェース74を経由して、プリンタユニット76に転送し、プリント出力する。」

(1-e)「【0070】
【発明の効果】以上詳述したように、第1の発明の画像形成装置によれば、外部装置からプリント出力するとき、外部装置はPS等のPDLに変換する必要がなくなり、プリント作業からの解放が速くなる。また、外部装置にアプリケーションが存在しないドキュメントでも画像形成装置にプリントモジュールがあれば、プリント出力が可能となる。」

(1-f)図2として、





(1-g)図3として、





(1-h)図4として、





上記摘記事項(1-a)及び(1-d)から、「外部装置」及び「データ」は、それぞれ、「ホストコンピュータ」及び「ドキュメント」であるといえる。

以上の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

「ホストコンピュータとドキュメントの出し入れを行うインターフェース手段と、前記ホストコンピュータから前記インターフェース手段を通して転送されてきた前記ドキュメントを記憶する記憶手段と、該記憶手段から読み出された前記ドキュメントをラスターイメージデータに変換するラスターイメージ変換手段と、該ラスターイメージ変換手段からのラスターイメージデータに基づいて画像形成を行う画像形成手段とを有し、該画像形成手段による画像形成結果をプリント出力する画像形成装置であって、
前記記憶手段は、単独で動作可能なアプリケーションのプリントモジュール部を記憶し、前記ラスターイメージ変換手段は、前記プリントモジュール部を動作させることによって、前記ドキュメントをラスターイメージデータに変換する構成であり、
前記プリントモジュール部は、複数のアプリケーションに対応して複数個で構成され、且つその各々には各アプリケーションのプリントモジュール部がそれぞれ記憶されているものであり、
アプリケーションのプリントモジュール部が前記記憶手段に記憶されていない場合には、前記ドキュメントに対応するプリントモジュール部を前記ドキュメントと共に前記記憶手段内で受け取り、前記ラスターイメージ変換手段は、前記プリントモジュール部を動作させることによって、前記ドキュメントをラスターイメージデータに変換する、
画像形成装置。」

(2)刊行物2について
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-132353号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2-a)「【0002】
【従来の技術】PCやPDAにおいて作成したデータ、表及び図形等はプリンタに印刷してハードコピーとして記録保存するか、レポート等に使用したい場合がある。斯る目的の為に、例えば、多数のPCが接続されたネットワークシステム等には複数台のプリンタも接続されており、必要に応じて選択されたプリンタにプリント可能に構成している。
【0003】斯る従来のシステムは、例えば、特開平8?258373号公報の「プリンタ装置」、特開平9?93672号公報の「印刷制御装置及び方法」及び特開平9?34656号公報の「プリンタ情報のインストール制御方法」等に開示されている。これら従来技術のPCやPDAの如き上位機種がプリンタに対して印刷を行う際には、印刷を行う対象のプリンタ用プリンタドライバを事前にインストールしておかなければならない。それが用意されていなければ正常な印刷は行えなかった。これは赤外線通信による印刷でも同様であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来のプリンタ装置にあっては、プリンタが機種毎に異なるハードウェア構成とファームウェア又はソフトウェアによる処理を行っている為に、印刷を行いたいPCやPDAが印刷対象プリンタのプリンタドライバを有する必要があった。
【0005】また、プリンタドライバがマルチOS(オペレーションシステム)対応の高性能なカラーマッチング、ネットワーク対応等の高機能を実現する為にプリンタ自身が大容量の記憶装置(メモリ、ハードディスクドライブ等)を必要とし、随時修正が加えられているので、多種類のプリンタに対応する為には、対応しようとするプリンタの数だけドライバを用意する必要があった。
【0006】特に、カラーインクジェットプリンタの場合には、ドライバの容量が益々増加する為に、PCやPDA等の小型でハードディスクドライブやメモリの容量が制限されているものが主として使用される場合には、赤外線通信による印刷には不利であった。その為に、夫々のプリンタドライバのバージョン管理やハードディスクドライブの容量圧迫等の工数及び不要な装備の増加を生じた。」

(2-b)「【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の赤外線通信による印刷方式の好適実施形態例を詳細に説明する。
【0016】先ず、図1を参照して本発明の赤外線通信による印刷方式の機能ブロック図を説明する。
【0017】この機能ブロック図には、PC等の上位機器10と、プリンタである印刷機器20とを有する。上位機器10と、印刷機器20とは、夫々赤外線ポート12、22を有し、共通の赤外線通信プロトコル(IrDA1.0、IrDA1.1、ASK等)30により、相互に通信する赤外線通信機能を有する。また、印刷機器20には、プリンタドライバ24を有する。
【0018】次に、図2を参照して、図1に示す本発明の赤外線通信による印刷方式の動作である通信フローチャートを説明する。上位機器10が印刷機器20であるプリンタ又はプリンタアダプタに対して印刷開始すると、これら上位機器10と印刷機器20間で赤外線通信により赤外線接続要求を出す。この赤外線接続が確立すると、プリンタ20の側からプリンタドライバに関する探索動作を行う。即ち、プリンタ20は上位機器10にプリンタドライバ確認を行い、プリンタドライバが用意されていない(プリンタドライバ無し)場合には、プリンタ側から上位機器10にプリンタドライバ24を送信し供給する。」

上記の事項を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2発明」という。)が開示されていると認められる。

「PC10と、プリンタ20とを有するシステムであって、プリンタ20はPC10にプリンタドライバ確認を行い、プリンタドライバが用意されていない場合には、プリンタ側からPC10にプリンタドライバ24を送信し供給することによって、プリンタ用プリンタドライバを事前にインストールしておかなくても印刷可能としたシステム。」

3 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
(1)刊行物1発明の
「ホストコンピュータ」、
「(前記ホストコンピュータから前記インターフェース手段を通して転送されてきた)ドキュメント」、
「ホストコンピュータとドキュメントの出し入れを行うインターフェース手段」、
「アプリケーション」、
「(画像形成手段による画像形成結果をプリント出力する)画像形成装置」は、それぞれ、
本願発明の
「コンピュータ」、
「アプリケーションデータ」、
「アプリケーションデータを前記コンピュータから受信する受信手段」、
「アプリケーションプログラム」、
「(コンピュータに接続可能な)印刷装置」に相当する。

(2)ア 刊行物1発明の「『複数のアプリケーションに対応して複数個で構成され、且つその各々には各アプリケーションのプリントモジュール部がそれぞれ記憶されている』『単独で動作可能なアプリケーションのプリントモジュール部』」と、本願発明の「前記受信されたアプリケーションデータに対応するアプリケーションプログラム」とは、「前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラム」で一致する。

イ 刊行物発明の「『単独で動作可能なアプリケーションのプリントモジュール部を記憶』する『記憶手段』」と、本願発明の「アプリケーションプログラムを記憶するアプリケーションプログラム記憶手段」とは、「(前記受信されたアプリケーションデータに対応する)プログラムを記憶するプログラム記憶手段」で一致する。

ウ 本願発明においても、刊行物発明の「前記ホストコンピュータから前記インターフェース手段を通して転送されてきた前記ドキュメントを記憶する記憶手段」に相当する構成(前記受信されたアプリケーションデータを記憶する記憶手段)を有することは、当然の事項である。

(3)ア 本願発明の「前記受信されたアプリケーションデータに対応するアプリケーションプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されていると判断された場合に、当該対応するアプリケーションプログラムを実行して前記受信されたアプリケーションデータをプリントデータに変換する変換手段」において、「プリントデータ」は「ラスターイメージデータ」であるか、それとも、「PDLデータ」であるかは不明であるものの、本願明細書の記載(段落【0035】「プリントデータは、たとえば、ページ記述言語(PostScript(R))で記載されたデータ等を含む。」等)を参照すれば、「プリントデータ」は「PDLデータ」であって、「前記変換されたプリントデータに基づき画像を形成する画像形成手段」において「プリントデータ」から「ラスターイメージデータ」に変換されるものと解釈できる。

イ 刊行物1発明の「該記憶手段から読み出された前記ドキュメント(アプリケーションデータ)をラスターイメージデータに変換するラスターイメージ変換手段」は、「ドキュメント(アプリケーションデータ)」を「PDLデータ」に変換した後に「ラスターイメージデータ」に変換するものであること、及び、刊行物1発明の「画像形成装置(印刷装置)」が、本願発明の「前記コンピュータで実行可能なドライバプログラムを記憶するドライバ記憶手段」を有することは、刊行物1の記載から明らかである(上記摘記事項(1-c)「RIPの種類としては、ポストスクリプト、PCL、LIPS、CaPSL等が挙げられる。」参照。)。

ウ 上記ア、イ及び上記(2)に照らせば、
刊行物1発明の「(前記プリントモジュール部を動作させることによって)該記憶手段から読み出された前記ドキュメントをラスターイメージデータに変換するラスターイメージ変換手段と、該ラスターイメージ変換手段からのラスターイメージデータに基づいて画像形成を行う画像形成手段と」を備えた構成と、
本願発明の「前記受信されたアプリケーションデータに対応するアプリケーションプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されていると判断された場合に、当該対応するアプリケーションプログラムを実行して前記受信されたアプリケーションデータをプリントデータに変換する変換手段と、前記変換されたプリントデータに基づき画像を形成する画像形成手段と」を備えた構成とは、
「前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムが前記プログラム記憶手段に記憶されていると判断された場合に、当該対応するプログラムを実行して前記受信されたアプリケーションデータをプリントデータに変換する変換手段と、前記変換されたプリントデータに基づき画像を形成する画像形成手段と」を備えた構成で一致する。

(4)ア 刊行物1発明において、「アプリケーションのプリントモジュール部が前記記憶手段に記憶されていない場合には、前記ドキュメントに対応するプリントモジュール部を前記ドキュメントと共に前記記憶手段内で受け取り、前記ラスターイメージ変換手段は、前記プリントモジュール部を動作させることによって、前記記憶手段から読み出された前記ドキュメントをラスターイメージデータに変換する」のであるから、「『アプリケーションのプリントモジュール部が前記記憶手段に記憶されて』いるか否かを判断する『判断手段』」を備えることは当然の事項である。

イ 刊行物1発明の該「『アプリケーションのプリントモジュール部が前記記憶手段に記憶されて』いるか否かを判断する『判断手段』」と、本願発明の「前記受信されたアプリケーションデータに対応するアプリケーションプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されているか否かを判断する判断手段」とは、「前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されているか否かを判断する判断手段」で一致する。

(5)上記(4)に照らせば、
刊行物発明の「アプリケーションのプリントモジュール部が前記記憶手段に記憶されていない場合には、前記ドキュメントに対応するプリントモジュール部を前記ドキュメントと共に前記記憶手段内で受け取り、前記ラスターイメージ変換手段は、前記プリントモジュール部を動作させることによって、前記記憶手段から読み出された前記ドキュメントをラスターイメージデータに変換する」構成と、
本願発明の「前記判断手段により、前記受信されたアプリケーションデータに対応するアプリケーションプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されていないと判断された場合に、前記ドライバ記憶手段に記憶されたドライバプログラムを前記アプリケーションデータを送信したコンピュータに送信するドライバプログラム送信手段」を備えた構成とは、
「前記判断手段により、前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムが前記プログラム記憶手段に記憶されていないと判断された場合に、所定の対応を行う」構成で一致する。

(6)上記(1)ないし(5)から、本願発明と刊行物1発明とは、
「コンピュータに接続可能な印刷装置であって、
アプリケーションデータを前記コンピュータから受信する受信手段と、
前記受信されたアプリケーションデータを記憶する記憶手段と、
前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムを記憶するプログラム記憶手段と、
前記コンピュータで実行可能なドライバプログラムを記憶するドライバ記憶手段と、
前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムが前記アプリケーションプログラム記憶手段に記憶されているか否かを判断する判断手段と、
前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムが前記プログラム記憶手段に記憶されていると判断された場合に、当該対応するプログラムを実行して前記受信されたアプリケーションデータをプリントデータに変換する変換手段と、
前記変換されたプリントデータに基づき画像を形成する画像形成手段とを備え、
前記判断手段により、前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムが前記プログラム記憶手段に記憶されていないと判断された場合に、所定の対応を行う、印刷装置。」の点で一致し、下記の点で相違する。

[相違点1]:
「前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラム」に関して、
本願発明は、「アプリケーションプログラム」であるのに対し、
刊行物1発明は、「単独で動作可能なアプリケーションのプリントモジュール部」である点。

[相違点2]:
「前記判断手段により、前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムが前記プログラム記憶手段に記憶されていないと判断された場合に、所定の対応を行う」構成に関して、
本願発明は、「前記ドライバ記憶手段に記憶されたドライバプログラムを前記アプリケーションデータを送信したコンピュータに送信するドライバプログラム送信手段」を備えるのに対し、
刊行物1発明は、「前記ドキュメントに対応するプリントモジュール部を前記ドキュメントと共に前記記憶手段内で受け取り、前記ラスターイメージ変換手段は、前記プリントモジュール部を動作させることによって、前記記憶手段から読み出された前記ドキュメントをラスターイメージデータに変換する」、すなわち、「印刷装置」が「コンピュータ」から「前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラム」を受け取る点。

4 当審の判断
上記相違点について、検討する。
(1)相違点1について
ア 本願発明と刊行物1発明とは、ともに、「コンピュータ」に代わって「印刷装置」が「前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラム」によって描画コマンドを生成し、それに基づいて、「前記受信されたアプリケーションデータをプリントデータに変換する」ものといえる。

イ そうすると、「前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラム」は、「アプリケーションデータをプリントデータに変換する」ための構成として何ら差異はないから、「アプリケーションプログラム」であるか、それとも、「アプリケーションプログラム」の一部である「単独で動作可能なアプリケーションのプリントモジュール部」であるかは、設計上の微差というべきである。

ウ したがって、刊行物1発明において、相違点1に係る構成となすことは、当業者が適宜なし得たことである。

(2)相違点2について
ア 刊行物2には、「PC10と、プリンタ20とを有するシステムであって、プリンタ20はPC10にプリンタドライバ確認を行い、プリンタドライバが用意されていない場合には、プリンタ側からPC10にプリンタドライバ24を送信し供給することによって、プリンタ用プリンタドライバを事前にインストールしておかなくても印刷可能としたシステム。」が記載されている(前記「2(2)刊行物2発明」参照。)。

イ コンピュータと印刷装置とからなるシステムにおいて、コンピュータがプリンタドライバを備え、コンピュータ側でアプリケーションデータをプリントデータ(PDLデータ)に変換することが通常の処理であり、かつ、データ変換に係る処理をコンピュータと印刷装置のどちらに分担させるかは当業者が適宜決定できる事項であるから、刊行物1発明において、「前記判断手段により、前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラムが前記プログラム記憶手段に記憶されていないと判断された場合に」、「印刷装置」が「コンピュータ」から「前記受信されたアプリケーションデータに対応するプログラム」を受け取る構成に代えて、通常の処理である、コンピュータ側でのデータ変換のために、刊行物2発明の「プリンタ側からPC10にプリンタドライバ24を送信し供給する」構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ したがって、刊行物1発明において、相違点2に係る構成となすことは、当業者が刊行物2発明に基づいて容易になし得たことである。

(3)請求人の主張について
ア 請求人は、「請求の理由」において、以下のとおり主張する。
『 また、引用例1では、「受信データに対応するプリントモジュールがない場合」の課題は、PCからプリンタにプリントモジュールを送信するという、本願発明の構成Hとは別の構成で既に解決されている。したがって、そもそも引用例1に引用例2を適用する動機付けが存在しない。
さらに、引用例1では、上述のように、PCにて転送されるアプリケーションデータに対応するプリントモジュールがプリンタにあるか否かが判断されるため、引用例1における「PCからプリンタにプリントモジュールを送信する」という構成を、引用例2における「プリンタからPCにプリンタドライバを送信する」という構成に置換するという技術思想に想到することは困難と思料する。』
『 また、平成21年7月17日付け意見書においても主張したように、引用例1に引用例2を適用すること自体に阻害要因があると思料する。
当該主張について、審査官殿は、拒絶査定の備考欄において、引用例1が、従来PCとプリンタで2回行なわれていたデータ変換を1回にすることをポイントとする発明であることを認定された上で、プリンタに「受信データに対応するプリントモジュールがない場合」というのは「緊急時」であって「緊急避難時の処理」とし、上記ポイントと相反する、プリンタからPCにドライバを送信する、つまりデータ変換を2回にする引用例2の発明を適用することは阻害要因にはならないとの見解を示された。
しかしながら、引用例1には、次のような記載がある。
・『[課題] データ変換の回数を1回にしてホストコンピュータのプリント作業からの解放を速くすることができ、…。[解決手段] データ変換を1回だけにするため、ホストコンピュータ上でアプリケーションファイルのPDL変換を行わず、アプリケーションファイルのまま画像形成装置へ転送する(ステップS32)。…』(要約)
・『[発明が解決しようとする課題] しかしながら、上記従来技術では、アプリケーションファイルをプリント出力するには、ホストコンピュータ上でPDLに変換し、プリント装置側でさらにラスタイメージデータに変換してから画像形成を行うため、データ変換を2回も行っている。そのため、ホストコンピュータのプリント作業からの解放が遅くなるという問題があった。…』(段落0003)
・『本発明は上記従来の問題点に鑑み、データ変換の回数を1回にすることによりホストコンピュータのプリント作業からの解放を速くすることが…できる画像形成装置…を提供することを目的とする。』(段落0004)
・『このように本実施形態では、データ変換を1回だけにするため、ホストコンピュータ上でアプリケーションファイルのPDL変換を行わず、アプリケーションファイルのまま画像形成装置へ転送する。画像形成装置には予め複数のアプリケーションのプリントモジュールを持たせておいて、転送されてきたアプリケーションに合わせてプリントモジュールを使用して、ラスターイメージデータに変換する。これにより、ホストコンピュータからプリント出力するとき、ホストコンピュータはPS等のPDLに変換する必要がなくなり、プリント作業からの解放が速くなる。』(段落0056)
以上のような記載より、引用例1の発明は、従来2回行われていたデータ変換を1回にすることで課題を解決している発明であることは明らかである。
また、審査官殿が「緊急時」と認定された「受信データに対応するプリントモジュールがない場合」も、PCからプリンタにプリントモジュールを送信するというデータ変換を1回のみ行なう方法で解決している。
このことから明らかなように、引用例1はデータ変換を常に1回で行なうことを目的としている。従って、このようなデータ変換を1回にしたことをポイントとする引用例1に、データ変換が2回行なわれる引用例2の発明を適用することには明らかな阻害要因があると思料する。 』

イ 『引用例1では、「受信データに対応するプリントモジュールがない場合」の課題は、PCからプリンタにプリントモジュールを送信するという、本願発明の構成Hとは別の構成で既に解決されている。したがって、そもそも引用例1に引用例2を適用する動機付けが存在しない。』との主張について検討する。
(ア)上記(2)で検討したとおり、コンピュータと印刷装置とからなるシステムにおいて、コンピュータがプリンタドライバを備え、コンピュータ側で「アプリケーションデータをプリントデータ(PDLデータ)に変換する」ことが通常の処理である。
(イ)アプリケーションプログラムによっては、プリントモジュール部がプログラムから分離されていないケースや、ライセンスの関係でプリントモジュール部を含むアプリケーションプログラムのダウンロードが制限されているケース、「プログラムを記憶するプログラム記憶手段」の容量が不足しているケースなど、「PCからプリンタにプリントモジュール部を送信できない」ケースが生じることは、当業者が当然予測できる事項である。
(ウ)上記(イ)の「PCからプリンタにプリントモジュール部を送信できない」ケースにおいて、通常の処理である、コンピュータ側で「アプリケーションデータをプリントデータ(PDLデータ)に変換する」構成を採用することは当業者が適宜なし得ることである。
(エ)したがって、「受信データに対応するプリントモジュール部がない場合」において、「PCからプリンタにプリントモジュール部を送信する」ことに代えて、「プリンタからPCにプリンタドライバを送信する」という構成を採用することは、当業者が容易になし得たことというべきである。

ウ 『引用例1はデータ変換を常に1回で行なうことを目的としている。従って、このようなデータ変換を1回にしたことをポイントとする引用例1に、データ変換が2回行なわれる引用例2の発明を適用することには明らかな阻害要因がある』との主張について検討する。
(ア)上記「3 対比」で検討したとおり、刊行物1発明は、「印刷装置」側において、「アプリケーションデータ」を「PDLデータ」に変換した後に「ラスターイメージデータ」に変換するもの、すなわち、ホストコンピュータ上でPDLに変換する作業を、プリント装置側で行わせることによって、ホストコンピュータのプリント作業からの解放を早くすることを目的とするものである。
(イ)そうすると、刊行物1発明の「データ変換を1回だけ」とは、「アプリケーションデータ」から「PDLデータ」への変換と、「PDLデータ」から「ラスターイメージデータ」への変換との、2回分の変換を「印刷装置」側でまとめて行っている構成を意味することは明らかである。
(ウ)刊行物1発明と刊行物2発明とは、ともに「データ変換」を2回分行っており、「アプリケーションデータ」から「PDLデータ」への変換を、コンピュータと印刷装置のどちらに分担させるかの違いにすぎないから、「データ変換」の回数は阻害要因には当たらない。

エ 以上のとおり、請求人の上記主張は採用できない。

(4)本願発明が奏する効果について
上記相違点1及び2によって、本願発明が奏する効果も、刊行物1及び2に記載された発明から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(5)まとめ
以上のとおり、上記相違点1及び2に係る構成の変更は、当業者が刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、容易になし得たことである。

5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、当業者が刊行物1及び2に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-17 
結審通知日 2011-02-22 
審決日 2011-03-07 
出願番号 特願2003-195984(P2003-195984)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 印刷装置  
代理人 深見 久郎  
代理人 森田 俊雄  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 仲村 義平  
代理人 堀井 豊  
代理人 酒井 將行  
代理人 野田 久登  

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