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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07C
管理番号 1235889
審判番号 不服2007-1349  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-15 
確定日 2011-04-25 
事件の表示 平成10年特許願第524255号「(メタ)アクリル酸エステルの製法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年6月4日国際公開、WO98/23577、平成13年4月3日国内公表、特表2001-504507〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1997年11月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年11月25日、ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。
平成17年12月26日付け 拒絶理由通知書
平成18年 7月 5日 意見書・手続補正書
平成18年10月11日付け 拒絶査定
平成19年 1月15日 審判請求書
平成19年 2月 6日 手続補正書(方式)・手続補正書
平成19年 3月23日付け 前置報告書
平成21年 7月 9日付け 審尋
平成21年 9月 8日 回答書
平成21年12月28日付け 補正の却下の決定・拒絶理由通知書
平成22年 7月 1日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
この出願の発明は、平成22年7月1日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。

「90?130℃の範囲内の温度での触媒としての硫酸又は硫酸モノ-C_(4)?C_(12)-アルキルエステルの存在下における(メタ)アクリル酸とn-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノールとの反応により(メタ)アクリル酸エステルを製造する場合に、触媒を水での抽出により反応混合物から再生させ、この際、抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度は、抽出すべき反応混合物に対して最大5重量%であり、かつ、抽出度が、反応混合物中の触媒量に対して少なくとも70重量%になるように触媒を抽出し、かつ、水を用いる抽出により反応混合物から再生された触媒の水溶液を、直接エステル化に戻すことを特徴とする、(メタ)アクリル酸エステルの製法、ただし、水での抽出後の触媒の水溶液にアルコール抽出工程を行い、エステル化に戻す場合を除く。」

第3 当審で通知した拒絶理由
当審で通知した平成21年12月28日付けの拒絶の理由は、「2.本願発明1?9は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものであり、その「下記の刊行物」は、特開平6-234700号公報(以下、「刊行物A」という。原査定で引用した「引用文献2」と同じ。)及び特開平6-234699号公報(以下、「刊行物B」という。原査定で引用した「引用文献3」と同じ。)である。

第4 当審の判断
1.刊行物の記載事項
上記刊行物A、B及びこの出願の優先権主張日における周知技術を示す刊行物である特開平8-119901号公報(以下、「刊行物C」という。)、特開平8-59551号公報(以下、「刊行物D」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物A
(A-1)「【請求項1】 少なくとも一方が水溶性である重合防止剤(A)とエステル化触媒(B)の存在下に、(メタ)アクリル酸(C)とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応させた後、反応系から分離して得た反応水で水洗して、水溶性の重合防止剤(A)および/又はエステル化触媒(B)を除去することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法。」(特許請求の範囲)

(A-2)「上記重合防止剤(A)としては、例えばハイドロキノン、tert-ブチルハイドロキノン、メトキノン、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、カテコール、tert-ブチルカテコール等のフェノール系化合物、フェノチアジン、p-フェニレンジアミン、ジフェニルアミン等のアミン類、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅等の銅錯体等の化合物の中の1種またはこれらの混合物が挙げられ、更に必要に応じて、これらと共に銅、マンガン、鉄等の遷移金属の粉末、酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等の化合物の中の1種またはこれらの混合物を併用してたものも挙げられる。」(段落【0012】)

(A-3)「本発明で用いるエステル化触媒(B)としては、例えば酸性化合物、塩基性化合物、イオン交換樹脂等が挙げられ、なかでも鉱酸類、ハロゲン化カルボン酸類、スルホン酸類等の水溶性を有する強酸性化合物、特に鉱酸類や芳香族スルホン酸類が好ましい。
上記鉱酸類としては、例えば硫酸、クロル硫酸、フロオロ硫酸、発煙硫酸、燐酸、塩酸等が、芳香族スルホン酸類としては、例えばベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸類等が挙げられ、これらは単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。」(段落【0024】?【0025】)

(A-4)「本発明で用いるアルコール類(D)としては、アルコール性水酸基を1個以上含有するものであれば何れの化合物でも使用可能である。このような化合物として、例えばブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等のアルキル型アルコール類;
…略…
が挙げられるが、なかでも反応性の良好な多官能(メタ)アクリル酸エステルが得られる点で多価アルコール類が好ましい」(段落【0029】?【0039】)

(A-5)「本発明における(メタ)アクリル酸(C)の使用量は、アルコ-ル類(D)中の水酸基の数1.0個に対して、(メタ)アクリル酸が0.03?30個と広範に変化させることができるが、通常は1.0?30個であり、なかでも反応の進行が速く、副反応や着色物質の生成などがない点で1.05?10個が好ましい。」(段落【0039】)

(A-6)「本発明における反応温度は、通常40?140℃、好ましくは60?90℃の範囲から選ばれ、また反応時間は通常0.5?20時間、好ましくは1?10時間程度に設定される。」(段落【0041】)

(A-7)「本発明において反応水による洗浄で得られた洗浄水は、水溶性の重合防止剤(A)および/又はエステル化触媒(B)と未反応の(メタ)アクリル酸とを含むため、そのまま水溶液の状態で、濃縮して濃厚水溶液とした状態で、あるいは蒸発乾固した状態で、それぞれ反応に再利用することも可能である。なかでも生成した(メタ)アクリル酸エステル100重量部に対して10重量部以下、好ましくは2?5重量部の反応水で第1回目の水洗をして得られる洗浄水は、多量の水溶性の重合防止剤(A)および/又はエステル化触媒(B)を含み、そのままでも再利用が可能であり、特に有用である。」(段落【0046】)

(A-8)「【実施例】以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の内容は実施例のみに限定されるものではない。また、以下の%は特に断りのない限り重量基準である。
実施例1
還流冷却器、水分離器、空気導入管、温度計および攪拌器を付けた1lガラス製四口フラスコに、アクリル酸216.0gおよびトリメチロールプロパン89.45gと共に、水溶性重合防止剤として2-メチル-1-フェノール-4-スルホン酸2.05gと硫酸銅0.24gを、水溶性エステル化触媒としてp-トルエンスルホン酸12.24gを、更に溶媒としてトルエン61.0gをそれぞれ仕込んだ。次に、このフラスコ中に空気を20ml/分で吹き込みながら湯浴を使用して加熱し、内溶液を攪拌しながら、トルエンと副生する水が共沸し始めてから10時間の間、130torrの減圧下で水分離器で水を共沸除去すると共にトルエンのみを還流して、65℃で反応させた。尚、この反応で反応系から分離された反応水の量は44.0gで、この中に8.9gのアクリル酸が含まれていた。
反応終了後、直ちに希釈溶媒としてトルエン244.0gを加えて室温まで冷却し、次いでこの反応希釈液に、エステル化反応時に脱水され分離された反応水の半量22.0g(アクリル酸含有)を加えて10分間攪拌して、30分間静置して2層に層分離したことを確認した後、上層の溶液を分離した。次いでこの操作をもう1回反復して水洗を終了し、アクリル酸エステルを99.5%の収率で得た。
この水洗で除去された重合防止剤とエステル化触媒の除去率は、ほぼ100%であった。また、1回目と2回目の水洗で生じた洗浄水の量は合計で55.7g(重合防止剤2.29g、エステル化触媒12.24gおよびアクリル酸7.9gを含有)と少量であった。なかでも、1回目の水洗で生じた洗浄水35.75gは、この中に重合防止剤2.1gとエステル化触媒を11.5gとアクリル酸5.2gとを含んでおり、そのままアクリル酸エステルの製造に再利用することが可能であった。」(段落【0049】?【0052】)

(A-9)「実施例2?7
重合防止剤およびエステル化触媒として、表1に示した量の重合防止剤およびエステル化触媒を用いた以外はそれぞれ実施例1と同様に脱水エステル化反応と2回の水洗を行ったところ、いずれもアクリル酸エステルが99.0%以上の収率で得られた。
この水洗で除去された重合防止剤とエステル化触媒の除去率は、ほぼ100%であった。1回目と2回目の水洗で生じた洗浄水の量は合計でいずれも60.0g以下と少量であり、なかでも1回目の水洗で得られた洗浄水は多量の重合防止剤とエステル化触媒と共にアクリル酸も含んでおり、いずれもそのままアクリル酸エステルの製造に再利用することが可能であった。
【表1】

*1)(A-1):ハイドロキノン-2-スルホン酸ナトリウム
*2)(A-2):2-メチル-1-フェノール-4-スルホン酸カリウム
*3)(A-3):2-ニトロソ-1-フェノール-4-スルホン酸カリウム
*4)(A-4):1-アニリン-4-スルホン酸カリウム
*5)(A-5):2-メチル-1-フェノール-4-スルホン酸
*6)(B-1):p-トルエンスルホン酸
*7)(B-2):硫酸
*8)(B-3):ベンゼンスルホン酸」(段落【0056】?【0058】)

(2)刊行物B
(B-1)「【請求項1】 水溶性の重合防止剤(A)と水溶性のエステル化触媒(B)の存在下に、(メタ)アクリル酸(C_(1))とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応、又は(メタ)アクリル酸エステル類(C_(2))とアルコール類(D)とをエステル交換反応させた後、水洗して得られた洗浄水中の重合防止剤(A)とエステル化触媒(B)を再利用して、(メタ)アクリル酸(C_(1))とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応、又は(メタ)アクリル酸エステル類(C_(2))とアルコール類(D)とをエステル交換反応させることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル類の製法。
…略…
【請求項8】 水溶性のエステル化触媒(B)が、鉱酸類又は芳香族スルホン酸類である請求項5又は6記載の製法。」(特許請求の範囲)

(B-2)「本発明で用いる水溶性のエステル化触媒(B)としては、水溶性を有する強酸性化合物、例えば鉱酸類、ハロゲン化カルボン酸類、スルホン酸類等が挙げられるが、通常は鉱酸類や芳香族スルホン酸類を用いる。
上記鉱酸類としては、例えば硫酸、クロル硫酸、フロオロ硫酸、発煙硫酸、燐酸、塩酸等が、また芳香族スルホン酸類としては、例えばベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸類等が挙げられ、これらは単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。」(段落【0022】?【0023】)

(B-3)「本発明で用いるアルコール類(D)としては、アルコール性水酸基を1個以上含有するものであれば何れの化合物でも使用可能である。このような化合物として、例えばブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、イソデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、ラウリルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等のアルキル型アルコール類;
…略…
が挙げられるが、なかでも反応性の良好な多官能(メタ)アクリル酸エステルが得られる点で多価アルコール類が好ましい」(段落【0027】?【0037】)

(B-4)「本発明における(メタ)アクリル酸(C_(1))又は(メタ)アクリル酸エステル類(C_(2))の使用量は、アルコ-ル類(D)中の水酸基の数1.0個に対して(メタ)アクリル酸(C_(1))又は(メタ)アクリル酸エステル類(C_(2))が0.03?30個と広範に変化させることができる。但し、反応終了後に除去するアルコールが蒸留により留去できる場合には0.03?1.0個であり、なかでも反応の進行が速く、副反応や着色物質の生成などがない点で0.10?0.95個が好ましい。また、反応終了後に除去するアルコ-ルが蒸留で除去できない場合には、通常1.0?30個であり、なかでも反応の進行が速く、副反応や着色物質の生成などがない点で1.05?10個が好ましい。」(段落【0037】)

(B-5)「本発明における反応温度は、通常40?140℃、好ましくは60?90℃の範囲から選ばれ、また反応時間は通常0.5?20時間、好ましくは1?10時間程度に設定される。」(段落【0039】)

(B-6)「本発明において水洗で得られた洗浄水は、脱水エステル化反応後の洗浄水では水溶性の重合防止剤(A)と水溶性のエステル化触媒(B)と未反応の(メタ)アクリル酸とを含み、エステル化交換反応後の洗浄水では水溶性の重合防止剤(A)と水溶性のエステル化触媒(B)とを含むため、そのまま水溶液の状態で、濃縮して濃厚水溶液とした状態で、あるいは蒸発乾固した状態で脱水エステル化反応、又はエステル交換反応に再利用される。なかでも水洗に際して少量の水を用いた場合、例えば生成した(メタ)アクリル酸エステル100重量部に対して10重量部以下、好ましくは2?5重量部の水を用いて第1回目の水洗した場合、得られる洗浄水は多量の水溶性の重合防止剤(A)と水溶性のエステル化触媒(B)とを含み、そのままでも脱水エステル化反応、又はエステル交換反応に再利用が可能であり、最も有用である。」(段落【0043】)

(B-7)「【実施例】以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の内容は実施例のみに限定されるものではない。また、以下の%は特に断りのない限り重量基準である。
実施例1
還流冷却器、水分離器、空気導入管、温度計および攪拌器を付けた1lガラス製四口フラスコに、アクリル酸216.0gおよびトリメチロールプロパン89.45gと共に、水溶性重合防止剤として2-メチル-1-フェノール-4-スルホン酸2.05gと硫酸銅0.24gを、水溶性エステル化触媒としてp-トルエンスルホン酸12.24gを、更に溶媒としてトルエン61.0gをそれぞれ仕込んだ。次に、このフラスコ中に空気を20ml/分で吹き込みながら湯浴を使用して加熱し、内溶液を攪拌しながら、トルエンと副生する水が共沸し始めてから10時間の間、130torrの減圧下でデカンターで水を共沸除去すると共にトルエンのみを還流して、65℃で反応させた。
反応終了後、直ちに希釈溶媒としてトルエン244.0gを加えて室温まで冷却し、次いでこの反応希釈液に水14.0gを加えて10分間攪拌し、30分間静置して2層に層分離を確認した後、上層の溶液を分離した。次いでこの操作をもう1回反復して水洗を終了し、99.5%の収率でアクリル酸エステルを得た。
水洗終了後、それぞれの洗浄液を自動酸価測定装置およびイオンクロマトグラフを用いて分析して、重合防止剤、エステル化触媒およびアクリル酸の定量を行ったところ、この水洗で除去、回収された重合防止剤とエステル化触媒の回収率は、ほぼ100%であった。
尚、1回目の水洗で得られた洗浄水の量は31.1gであり、その中に含まれている水溶性重合防止剤の量は2.13g(2-メチル-1-フェノール-4-スルホン酸が1.91g、硫酸銅が0.22g)、水溶性エステル化触媒(p-トルエンスルホン酸)の量は11.4g、そしてアクリル酸の量は4.1gであった。また、2回目の水洗で得られた洗浄水の量は15.6gであり、その中に含まれていた水溶性重合防止剤の量は0.16g、水溶性エステル化触媒の量は0.84g、そしてアクリル酸の量は2.1gであった。
次いで、こうして得られた洗浄水のうち、1回目の水洗で得た洗浄水を35.0g(2-メチル-1-フェノール-4-スルホン酸2.15g、硫酸銅0.25g、p-トルエンスルホン酸12.83gおよびアクリル酸4.61gを含む)集め、これを水溶性重合防止剤および水溶性エステル化触媒として用い、かつアクリル酸の添加量を4.16g減らして211.39gとした以外は上記アクリル酸エステルの製法と同様に脱水エステル化反応と水洗を行ったところ、99.5%の収率でアクリル酸エステルが得られた。
また、この際の水洗で得られた洗浄水中は、先の洗浄水と同じく多量の水溶性重合防止剤および水溶性エステル化触媒と未反応のアクリル酸とを含んでおり、再利用可能であった。」(段落【0047】?【0053】)

(B-8)「実施例2?7
重合防止剤およびエステル化触媒として、表1に示した量の重合防止剤およびエステル化触媒を用いた以外はそれぞれ実施例1と同様に脱水エステル化反応と2回の水洗を行ってアクリル酸エステルを得た。
次いで、1回目の水洗で得た洗浄水を、水溶性重合防止剤および水溶性エステル化触媒として表1に示す量でそれぞれ用いた以外は、上記と同様に脱水エステル化反応と2回の水洗を行ってアクリル酸エステルを得た。
この際の水洗で得られた洗浄水は、いずれも先の洗浄水と同じく多量の水溶性重合防止剤及び水溶性エステル化触媒と未反応のアクリル酸とを含んでおり、再利用可能なものであった。
【表1】

*1) A-1 :ハイドロキノン-2-スルホン酸ナトリウム
*2) A-2 :2-メチル-1-フェノール-4-スルホン酸カリウム
*3) A-3 :2-ニトロソ-1-フェノール-4-スルホン酸カリウム
*4) A-4 :1-アニリン-4-スルホン酸カリウム
*5) A-5 :2-メチル-1-フェノール-4-スルホン酸
*6) B-1 :p-トルエンスルホン酸
*7) B-2 :硫酸
*8) B-3 :ベンゼンスルホン酸」(段落【0056】?【0059】)

(3)刊行物C
(C-1)「実施例2
1時間当たり、ブタノール829g、アクリル酸719g、水10g、エントレーナのn-ヘキサン200g、硫酸10g、ハイドロキノンモノメチルエーテル2gを10Lのフラスコ、総括伝熱係数が210kj/m^(2)/Hr/℃及び伝熱面積が0.5m^(2)のコイル式熱交換器(加熱源にシリコンオイルを使用)、精留塔、塔頂蒸気凝縮器、凝縮液分離器からなるガラス性の反応装置に連続的に供給し、反応滞留時間が3時間となるように110℃で反応を行った。反応により生成した水はエントレーナとの共沸により留出し、塔頂蒸気凝縮器で凝縮後に凝縮液分離器にて水とエントレーナに分離して、水(約170 g/Hr)を系外に除去すると共に、エントレーナを還流として精留塔に供給した。加熱源のシリコンオイルの温度を測定したところ約125℃であり、反応液温度と加熱源との温度差Δtは15℃であった。反応により得られた液中の高沸分を含めた不明分は約2重量%であり、その液を苛性ソーダで中和、精製したところ、色調(APHA)が5以下の着色がないアクリル酸ブチルが1125g得られた。」(段落【0013】)

(4)刊行物D
(D-1)「以下の実施例では、特に記載がない限りパーセンテージは全て重量%を表し、BUAはブチルアクリレートを表し、BUHSは硫酸水素ブチル(BuSO_(4)H)を表す。」(段落【0026】)

(D-2)「実施例1
360gのアクリル酸と、481gのブタノールと、64gのBUAと、13gの硫酸とを容量1リットルの反応器中で温度80?100℃で2時間10分反応させた。生成した水(92g)は生成と同時に反応器の上部に設けたカラムでブタノールとBUAとの共沸混合物として留去した。この共沸混合物をデカンターで有機相と水相とに分離し、有機相はカラムの頭部へ再循環させ、水相は抜き出した。反応段階終了時の媒体は642gのBUAと、113gのブタノールと、18gのアクリル酸と20gの触媒(BUHSの状態で)とで構成されていた。」(段落【0027】)

2.刊行物Aについて
(1)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「少なくとも一方が水溶性である重合防止剤(A)とエステル化触媒(B)の存在下に、(メタ)アクリル酸(C)とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応させた後、反応系から分離して得た反応水で水洗して、水溶性の重合防止剤(A)および/又はエステル化触媒(B)を除去することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法」が記載され(摘記(A-1))、該「少なくとも一方が水溶性である重合防止剤(A)とエステル化触媒(B)」における「エステル化触媒(B)」が水溶性であるものとして「硫酸」が記載されている(摘記(A-3)及び摘記(A-9)の実施例6における化合物(B-2))。
また、刊行物Aには、上記「水洗」について、「第1回目の水洗をして得られる洗浄水は、多量の水溶性の重合防止剤(A)および/又はエステル化触媒(B)を含み、そのままでも再利用が可能であり、特に有用である」こと(摘記(A-7))、「再利用」とは「(メタ)アクリル酸エステルの製造」への再利用であること(摘記(A-8)、(A-9))、水洗で除去されるエステル化触媒の除去率はほぼ100%であること(摘記(A-8)、(A-9))が記載されている。
そうすると、刊行物Aには、
「重合防止剤(A)と硫酸触媒の存在下に、(メタ)アクリル酸(C)とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応させた後、反応系から分離して得た反応水で水洗して、硫酸触媒を除去することを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法において、第1回目の水洗をして得られる洗浄水は、多量の硫酸触媒を含み、そのまま(メタ)アクリル酸エステルの製造に再利用が可能であり、水洗で除去される硫酸触媒の除去率はほぼ100%である方法」
の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているといえる。

(2)本願発明と引用発明Aの対比
本願発明と引用発明Aを対比すると、引用発明Aの「硫酸触媒」は、本願発明の「触媒としての硫酸又は硫酸モノ-C_(4)?C_(12)-アルキルエステル」、「触媒」に相当し、引用発明Aの「(メタ)アクリル酸(C)」、「(メタ)アクリル酸エステル類」は、それぞれ、本願発明の「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリル酸エステル」に相当する。

そして、引用発明Aは、「脱水エステル化反応させた後、反応系から分離して得た反応水で水洗して、硫酸触媒を除去する」ものであって、除去した硫酸触媒は、「(メタ)アクリル酸エステルの製造に再利用が可能」であるところ、「水洗して、硫酸触媒を除去する」ことは、触媒を「水で抽出」することに相当し、硫酸触媒を「再利用」することは、触媒を「反応混合物から再生させる」ことに相当する。
そうすると、引用発明Aの「脱水エステル化反応させた後、反応系から分離して得た反応水で水洗して、硫酸触媒を除去すること」、該除去した硫酸触媒は「(メタ)アクリル酸エステルの製造に再利用が可能」であることは、本願発明の「触媒を水での抽出により反応混合物から再生させ」ることに相当する。

また、引用発明Aの「水洗で除去される硫酸触媒の除去率はほぼ100%である」ことは、「水で抽出される触媒の抽出率がほぼ100%である」ことに相当し、「ほぼ100%」であれば、「少なくとも70重量%」であるから、引用発明Aの「水洗で除去される硫酸触媒の除去率はほぼ100%である」ことは、本願発明の「抽出度が、反応混合物中の触媒量に対して少なくとも70重量%になるように触媒を抽出」することに相当する。

さらに、引用発明Aは、「第1回目の水洗をして得られる洗浄水は、多量の硫酸触媒を含み、そのまま(メタ)アクリル酸エステルの製造に再利用が可能」な方法であるところ、「そのまま」(メタ)アクリル酸エステルの製造に再利用が可能であるとは、「直接」エステル化に戻すものであって、「水での抽出後の触媒の水溶液にアルコール抽出を行い、エステル化に戻す場合を除く」ものといえる。
そうすると、引用発明Aの「第1回目の水洗をして得られる洗浄水は、多量の硫酸触媒を含み、そのまま(メタ)アクリル酸エステルの製造に再利用が可能」であることは、本願発明の「水を用いる抽出により反応混合物から再生された触媒の水溶液を、直接エステル化に戻すこと」及び「ただし、水での抽出後の触媒の水溶液にアルコール抽出工程を行い、エステル化に戻す場合を除く」ことに相当する。

そして、刊行物Aには、引用発明Aの「アルコール類(D)」として、「本発明で用いるアルコール類(D)としては、アルコール性水酸基を1個以上含有するものであれば何れの化合物でも使用可能である。このような化合物として、例えばブチルアルコール、…等のアルキル型アルコール類」が挙げられると記載されており(摘記(A-4))、これらの「アルキル型アルコール類」は「アルカノール」であるから、引用発明Aの「アルコール類(D)」は、本願発明の「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」とは、「アルカノール」である点で一致する。

以上によれば、本願発明と引用発明Aは、
「触媒としての硫酸又は硫酸モノ-C_(4)?C_(12)-アルキルエステルの存在下における(メタ)アクリル酸とアルカノールとの反応により(メタ)アクリル酸エステルを製造する場合に、触媒を水での抽出により反応混合物から再生させ、この際、抽出度が、反応混合物中の触媒量に対して少なくとも70重量%になるように触媒を抽出し、かつ、水を用いる抽出により反応混合物から再生された触媒の水溶液を、直接エステル化に戻すことを特徴とする、(メタ)アクリル酸エステルの製法、ただし、水での抽出後の触媒の水溶液にアルコール抽出工程を行い、エステル化に戻す場合を除く。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

ア.相違点1
反応温度が、本願発明では「90?130℃の範囲内の温度」であるのに対して、引用発明Aでは明らかでない点

イ.相違点2
アルカノールが、本願発明は、「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」であるのに対して、引用発明Aのアルカノールは、そのようなアルカノールであるか明らかでない点

ウ.相違点3
引用発明Aは、「重合防止剤(A)」の存在下で反応を行うのに対し、本願発明は、その存在下で反応を行うのか明らかでない点

エ.相違点4
本願発明は、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度は、抽出すべき反応混合物に対して最大5重量%」の方法であるのに対し、引用発明Aは、そのような方法であるか明らかでない点

(3)相違点についての判断
ア.相違点1、2について
刊行物Aには、アルコール類(D)としては、「アルコール性水酸基を1個以上含有するものであれば何れの化合物でも使用可能である」と記載され、「例えばブチルアルコール」が挙げられている(摘記(A-4))。
そうすると、引用発明Aにおけるアルコール類(D)として、ブチルアルコールである「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」を用いることは、当業者が容易に行うことである。
そして、(メタ)アクリル酸とブタノールを硫酸触媒によりエステル化する際の反応温度として、「90?130℃の範囲内の温度」は、通常の範囲であり(例えば摘記(C-1)、(D-2)参照)、刊行物Aにも、反応温度は、「通常40?140℃」と「90?130℃の範囲内の温度」を包含する範囲が記載されている(摘記(A-6))。
以上によれば、引用発明Aにおけるアルコール類(D)として、「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」を用い、その際の反応温度を「90?130℃の範囲内の温度」とすることは、当業者が容易に行うことである。

イ.相違点3について
刊行物Aには、「重合防止剤(A)」としては、「フェノチアジン」等が使用できると記載されている(摘記(A-2))。
一方、この出願の明細書の第6頁第19?23行には、「重合開始剤(審決注:技術常識からみて、「重合防止剤」の自明な誤記と認める。)としては、例えばフェノチアジン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル又はこれらの混合物及び場合によっては空気(0.1?10リットル/h×l)が、反応混合物に対して100?5000ppmの量で使用される。」と記載されており、実施例においても「フェノチアジン」が使用されている(第8頁第10?14行)。
そうすると、本願発明は、例えばフェノチアジンなどの重合防止剤の存在下で反応させる方法も包含するものであるから、この点において、本願発明と引用発明Aに差異はない。

ウ.相違点4について
刊行物Aには、「(メタ)アクリル酸(C)の使用量は、アルコ-ル類(D)中の水酸基の数1.0個に対して、…1.05?10個が好ましい」(摘記(A-5))こと、すなわち、(メタ)アクリル酸に対して、アルコールの少ない方が好ましいことが記載されており、原料中に含まれるアルコールが少ないのであれば、反応混合物中の未反応アルコールも極めて少ないものと認められる。
よって、引用発明Aにおいて、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度」は、極めて低いものといえる。
さらに、刊行物A記載の実施例1(摘記(A-8))では、アクリル酸216.0g、トリメチロールプロパン89.45g、重合防止剤2.05gと0.24g、触媒12.24g、トルエン61.0gを仕込んだ反応において、反応系から分離された反応水の量は44.0gと記載されているから、この反応における反応混合物の量は、216.0+89.45+2.05+0.24+12.24+61.0-44.0=336.98gとなる。
一方、アクリル酸の分子量は72.06であるから、アクリル酸216.0gは、216.0/72.06=3モルに相当し、トリメチロールプロパンの分子量は134.18であるから、トリメチロールプロパン89.45gは、89.45/134.18=0.67モルに相当するところ、このトリメチロールプロパンは3価のアルコールであるから、アルコール当量は、0.67×3=2.01モル当量となり、よって、この反応系は、アクリル酸3モルに対してアルコールが2.01モル当量とアクリル酸が過剰の反応である。そして、アクリル酸エステルが99.5%の収率で得られているから、未反応アルコールの量は、トリメチロールプロパン89.45×(100-99.5%)=0.45gとなる。
また、反応混合物の量は、上記したように336.98gであるから、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度」は、抽出すべき反応混合物336.98gに対して、0.45g、すなわち、0.45/336.98×100=0.13重量%となり、最大5重量%に相当する。
よって、引用発明Aは、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度は、抽出すべき反応混合物に対して最大5重量%」であるということができ、この点において、本願発明と引用発明Aに差異はない。

また、仮に、引用発明Aが「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度は、抽出すべき反応混合物に対して最大5重量%」ではなかったとしても、上記したとおり、刊行物Aには、(メタ)アクリル酸に対して、アルコールの少ない方が好ましいことが記載されているのであるから、(メタ)アクリル酸に対するアルコールの量を低減させることにより、反応混合物中の未反応アルコールの濃度、すなわち、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度」を低くし、「最大5重量%」程度とすることは、当業者が容易に行うことである。

(4)効果について
この出願の明細書には、「本発明の課題は、エステル化触媒としての硫酸を用いて出発し、エステル化触媒(硫酸又はモノアルキル硫酸)をできるだけ簡単かつ完全に、得られる反応混合物から分離することを可能とする、工業的に簡単かつ経済的な方法で(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法を開発することである。更に、この触媒は、再び直接、即ち付加的に蒸留濃縮することなしに、エステル化に影響を及ぼすことなくエステル化に戻すことが可能であるべきである。」(第3頁第13?21行)と記載され、実施例において、本願発明の具体例であるn-ブタノール含有率が0.1%?5.0%である場合は、同含有率が10%である場合と比較して、触媒の抽出度が高く、残留触媒含有率が低いことが確認されている(第9頁第1表)。
一方、引用発明Aは、エステル化触媒として「硫酸」を用いる方法であり、さらに、「そのまま」(メタ)アクリル酸エステルの製造に再利用が可能、すなわち、「直接、即ち付加的に蒸留濃縮することなしに」エステル化に戻すことが可能な方法である。
そして、引用発明Aは、「水洗で除去される硫酸触媒の除去率はほぼ100%である」から、触媒の抽出度が高く、残留触媒含有率が低い方法である。
したがって、本願発明の効果は、引用発明Aから予測できる程度のものである。

(5)刊行物Aについてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.刊行物Bについて
(1)刊行物Bに記載された発明
刊行物Bには、「水溶性の重合防止剤(A)と水溶性のエステル化触媒(B)の存在下に、(メタ)アクリル酸(C_(1))とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応、又は(メタ)アクリル酸エステル類(C_(2))とアルコール類(D)とをエステル交換反応させた後、水洗して得られた洗浄水中の重合防止剤(A)とエステル化触媒(B)を再利用して、(メタ)アクリル酸(C_(1))とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応、又は(メタ)アクリル酸エステル類(C_(2))とアルコール類(D)とをエステル交換反応させることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル類の製法」が記載され(摘記(B-1))、該エステル化触媒(B)として「硫酸」が記載されている(摘記(B-2)及び摘記(B-8)の実施例6における化合物(B-2))。
また、上記「水洗で得られた洗浄水」について、「水洗に際して少量の水を用いた場合、…得られる洗浄水は多量の…水溶性のエステル化触媒(B)とを含み、そのままでも脱水エステル化反応、…に再利用が可能であり、最も有用である」こと(摘記(B-6))、水洗で回収される「エステル化触媒の回収率は、ほぼ100%」であること(摘記(B-7))が記載されている。
そうすると、刊行物Bには、
「水溶性の重合防止剤(A)と硫酸触媒の存在下に、(メタ)アクリル酸(C_(1))とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応させた後、水洗して得られた洗浄水中の重合防止剤(A)と硫酸触媒を再利用して、(メタ)アクリル酸(C_(1))とアルコール類(D)とを脱水エステル化反応させることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステル類の製法において、水洗に際して少量の水を用いた場合、得られる洗浄水は多量の硫酸触媒を含み、そのまま脱水エステル化反応に再利用が可能であり、水洗で回収される硫酸触媒の回収率はほぼ100%である方法」
の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されているといえる。

(2)本願発明と引用発明Bの対比
本願発明と引用発明Bを対比すると、引用発明Bの「硫酸触媒」は、本願発明の「触媒としての硫酸又は硫酸モノ-C_(4)?C_(12)-アルキルエステル」、「触媒」に相当し、引用発明Bの「(メタ)アクリル酸(C_(1))」、「(メタ)アクリル酸エステル類」は、本願発明の「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリル酸エステル」に相当する。

そして、引用発明Bは、「硫酸触媒」を「水洗」して得た後「再利用」するものであるが、「水洗」は「水で抽出」に相当し、得られた触媒を「再利用」することは、「触媒を反応混合物から再生させる」ことに相当するから、引用発明Bの「水洗して得られた洗浄水中の硫酸触媒を再利用」することは、本願発明の「触媒を水での抽出により反応混合物から再生させ」ることに相当する。

また、引用発明Bの「水洗で回収される硫酸触媒の回収率はほぼ100%である」ことは、「水で抽出される触媒の抽出率がほぼ100%である」ことに相当し、「ほぼ100%」であれば、「少なくとも70重量%」であるから、引用発明Bの「水洗で回収される硫酸触媒の回収率はほぼ100%である」ことは、本願発明の「抽出度が、反応混合物中の触媒量に対して少なくとも70重量%になるように触媒を抽出」することに相当する。

さらに、引用発明Bは、「水洗に際して少量の水を用いた場合、得られる洗浄水は多量の硫酸触媒を含み、そのまま脱水エステル化反応に再利用が可能」な方法であるところ、「そのまま」脱水エステル化反応に再利用が可能であるとは、「直接」エステル化に戻すものであって、「水での抽出後の触媒の水溶液にアルコール抽出を行い、エステル化に戻す場合を除く」ものといえる。
そうすると、引用発明Bの「水洗に際して少量の水を用いた場合、得られる洗浄水は多量の硫酸触媒を含み、そのまま脱水エステル化反応に再利用が可能」であることは、本願発明の「水を用いる抽出により反応混合物から再生された触媒の水溶液を、直接エステル化に戻すこと」及び「ただし、水での抽出後の触媒の水溶液にアルコール抽出工程を行い、エステル化に戻す場合を除く」ことに相当する。

そして、刊行物Bには、引用発明Bの「アルコール類(D)」として、「本発明で用いるアルコール類(D)としては、アルコール性水酸基を1個以上含有するものであれば何れの化合物でも使用可能である。このような化合物として、例えばブチルアルコール、…等のアルキル型アルコール類」が記載されており(摘記(B-3))、これらの「アルキル型アルコール類」は「アルカノール」であるから、引用発明Bの「アルコール類(D)」は、本願発明の「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」とは、「アルカノール」である点で一致する。

以上によれば、本願発明と引用発明Bは、
「触媒としての硫酸又は硫酸モノ-C_(4)?C_(12)-アルキルエステルの存在下における(メタ)アクリル酸とアルカノールとの反応により(メタ)アクリル酸エステルを製造する場合に、触媒を水での抽出により反応混合物から再生させ、この際、抽出度が、反応混合物中の触媒量に対して少なくとも70重量%になるように触媒を抽出し、かつ、水を用いる抽出により反応混合物から再生された触媒の水溶液を、直接エステル化に戻すことを特徴とする、(メタ)アクリル酸エステルの製法、ただし、水での抽出後の触媒の水溶液にアルコール抽出工程を行い、エステル化に戻す場合を除く。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

ア.相違点1
反応温度が、本願発明では「90?130℃の範囲内の温度」であるのに対して、引用発明Bでは明らかでない点

イ.相違点2
アルカノールが、本願発明は、「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」であるのに対して、引用発明Bのアルカノールは、そのようなアルカノールであるか明らかでない点

ウ.相違点3
引用発明Bは、「水溶性の重合防止剤(A)」の存在下で反応を行い、「洗浄水中の重合防止剤(A)を再利用」する方法であるのに対し、本願発明は、そのような方法であるか明らかでない点

エ.相違点4
本願発明は、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度は、抽出すべき反応混合物に対して最大5重量%」の方法であるのに対し、引用発明Bは、そのような方法であるか明らかでない点

(3)相違点についての判断
ア.相違点1、2について
刊行物Bには、アルコール類(D)としては、「アルコール性水酸基を1個以上含有するものであれば何れの化合物でも使用可能である」と記載され、「例えばブチルアルコール」が挙げられている(摘記(B-3))。
そうすると、引用発明Bにおけるアルコール類(D)として、ブチルアルコールである「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」を用いることは、当業者が容易に行うことである。
そして、(メタ)アクリル酸とブタノールを硫酸触媒によりエステル化する際の反応温度として、「90?130℃の範囲内の温度」は、通常の範囲であり(例えば摘記(C-1)、(D-2)参照)、刊行物Bにも、反応温度は、「通常40?140℃」と「90?130℃の範囲内の温度」を包含する範囲が記載されている(摘記(B-5))。
以上によれば、引用発明Bにおけるアルコール類(D)として、「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」を用い、その際の反応温度を「90?130℃の範囲内の温度」とすることは、当業者が容易に行うことである。

イ.相違点3について
この出願の明細書の第6頁第19?23行には、「重合開始剤(審決注:技術常識からみて、「重合防止剤」の自明な誤記と認める。)としては、例えばフェノチアジン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル又はこれらの混合物及び場合によっては空気(0.1?10リットル/h×l)が、反応混合物に対して100?5000ppmの量で使用される。」と記載されており、実施例においてもフェノチアジンが使用されている。
そうすると、本願発明は、重合防止剤の存在下で反応させる方法も包含するから、重合防止剤として水溶性のものを使用し、洗浄水中に混入する重合防止剤とともにそれを再利用する方法も包含するということができ、よって、この点において本願発明と引用発明Bに差異はない。

ウ.相違点4について
刊行物Bには、(メタ)アクリル酸の使用量は、アルコ-ル類中の水酸基の数1.0個に対して、「反応終了後に除去するアルコールが蒸留により留去できる場合には0.03?1.0個であり、なかでも反応の進行が速く、副反応や着色物質の生成などがない点で0.10?0.95個が好ましい。また、反応終了後に除去するアルコ-ルが蒸留で除去できない場合には、通常1.0?30個であり、なかでも反応の進行が速く、副反応や着色物質の生成などがない点で1.05?10個が好ましい」と記載されている(摘記(B-4)。
そうすると、刊行物Bには、反応混合物中の未反応アルコールは、反応終了後に蒸留により留去できる場合は留去すること、未反応アルコールが蒸留で留去できないときは、(メタ)アクリル酸をアルコール類中の水酸基の数1.0個に対して1.05?10個、すなわち過剰量使用することが記載されているといえるから、未反応アルコールは、抽出すべき反応混合物中にほとんど含まれていないものと認められる。
よって、引用発明Bにおいて、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度」は、極めて低いものといえる。
さらに、刊行物B記載の実施例1(摘記(B-7))では、アクリル酸216.0g、トリメチロールプロパン89.45g、重合防止剤2.05gと0.24g、触媒12.24g、トルエン61.0gを仕込んだ反応が記載されており、この反応における反応混合物の量は、216.0+89.45+2.05+0.24+12.24+61.0=380.98gとなる。
一方、アクリル酸の分子量は72.06であるから、アクリル酸216.0gは、216.0/72.06=3モルに相当し、トリメチロールプロパンの分子量は134.18であるから、トリメチロールプロパン89.45gは、89.45/134.18=0.67モルに相当するところ、このトリメチロールプロパンは3価のアルコールであるから、アルコール当量は、0.67×3=2.01モル当量となり、よって、この反応系は、アクリル酸3モルに対してアルコールが2.01モル当量とアクリル酸が過剰の反応である。そして、アクリル酸エステルが99.5%の収率で得られているから、未反応アルコールの量は、トリメチロールプロパン89.45×(100-99.5%)=0.45gとなる。
そして、反応混合物の量は、上記したように380.98gであるから、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度」は、抽出すべき反応混合物380.98gに対して、0.45g、すなわち、0.45/380.98×100=0.12重量%となり、最大5重量%に相当する。
よって、引用発明Bは、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度は、抽出すべき反応混合物に対して最大5重量%」であり、この点において、本願発明と引用発明Bに差異はない。

また、仮に、引用発明Bが「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度は、抽出すべき反応混合物に対して最大5重量%」ではなかったとしても、刊行物Bには、上記したとおり、反応混合物中の未反応アルコールは、反応終了後に蒸留により留去できる場合は留去すること、未反応アルコールが蒸留で留去できないときは、(メタ)アクリル酸に対してアルコールの少ない方が好ましいことが記載されているから、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルコール濃度」は低い方が好ましいことが記載されているといえる。
そうすると、引用発明Bにおいて、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度」を低くし、「最大5重量%」程度とすることは、当業者が容易に行うことである。

(4)効果について
この出願の明細書には、「本発明の課題は、エステル化触媒としての硫酸を用いて出発し、エステル化触媒(硫酸又はモノアルキル硫酸)をできるだけ簡単かつ完全に、得られる反応混合物から分離することを可能とする、工業的に簡単かつ経済的な方法で(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法を開発することである。更に、この触媒は、再び直接、即ち付加的に蒸留濃縮することなしに、エステル化に影響を及ぼすことなくエステル化に戻すことが可能であるべきである。」(第3頁第13?21行)と記載され、実施例において、本願発明の具体例であるn-ブタノール含有率が0.1%?5.0%である場合は、同含有率が10%である場合と比較して、触媒の抽出度が高く、残留触媒含有率が低いものであることが確認されている(第9頁第1表)。
一方、引用発明Bは、エステル化触媒として「硫酸」を用いる方法であり、さらに、「そのまま」脱水エステル化反応に再利用が可能、すなわち、「直接、即ち付加的に蒸留濃縮することなしに」エステル化に戻すことが可能な方法である。
そして、引用発明Bは、「水洗で回収される硫酸触媒の回収率はほぼ100%である」から、触媒の抽出度が高く、残留触媒含有率が低い方法である。
したがって、本願発明の効果は、引用発明Bから予測できる程度のものである。

(5)刊行物Bについてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.まとめ
したがって、本願発明は、刊行物A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.請求人の主張
請求人は、平成22年7月1日の意見書の「(2)補正後の本願発明と刊行物A、Bとの対比」において、本願発明は、以下の技術的特徴1?8を有するものであること、そして、以下の理由(i)?(v)により、本願発明は、刊行物A、Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことを主張している。

(本願発明の技術的特徴1?8)
1.(メタ)アクリル酸をアルカノールでエステル化すること。
2.アルカノールがn-ブタノール及びイソブタノールから選択されていること。
3.反応を硫酸又は硫酸モノ-C_(4)?C_(12)-アルキルエステルの存在下に行うこと。
4.反応を90?130℃の範囲内の温度で行うこと。
5.触媒を水での抽出により反応混合物から再生させること。
6.抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノール(n-ブタノール又はイソブタノール)の濃度が、最大5重量%であること。
7.抽出度が少なくとも70重量%になるように触媒を抽出すること。
8.再生された触媒を、直接エステル化に戻すこと(ただし、水での抽出後の触媒の水溶液にアルコール抽出工程を行い、エステル化に戻す場合を除く)。

(理由(i)?(v))
(i)刊行物Aの実施例6は、本願発明による上記特徴のうち1、3、5、6及び8を有しているものの、2及び4は有していないこと、さらに、特徴7については実施例6には明確には記載されておらず、不明であって、刊行物Bについてもそれは同様であること。
(ii)特徴2に関して、刊行物Aにブタノールが例示されていても、有利なのは多価アルコールであると記載されており、実施例もトリメチロールプロパンのみであること、そして、トリメチロールプロパンはイソブタノール又はn-ブタノールとは全く異なる蒸留特性及び溶解特性を有すること。
(iii)特徴4に関して、刊行物Aには、反応温度は有利には60?90℃であると記載され、実施例は65℃であるのに対し、本願発明では、温度は90?130℃の範囲内であるから、刊行物Aによる温度範囲と本願発明による温度範囲とは一致しないこと。
(iv)刊行物Aでは、触媒として無機酸について言及されていても、重点が置かれているのは、有機スルホン酸、特にアリールスルホネートであること。
(v)刊行物A、Bによるエステル化では、親油性の副生成物が生じるのに対し、本願発明では、親油性部分と親水性部分を有する副生成物が生じるから、触媒の抽出を妨害する可能性があること、そのため、残留アルカノールが刊行物A及びBによる方法では何ら問題を生じないのに対して、本願発明による方法では、ブタノール残分は使用される触媒の再生にとって極めて重要であること。

そこで、上記理由(i)?(v)について検討する。

(i)請求人は、刊行物Aの実施例6には、上記特徴7について明確に記載されていないと主張しているが、刊行物Aには、実施例2?7についても、「触媒の除去率は、ほぼ100%であった」と記載されているから(摘記(A-9))、実施例6についても、触媒の除去率はほぼ100%であることが刊行物Aには記載されている。
そして、触媒の除去率がほぼ100%であることは、本願発明の「抽出度が、反応混合物中の触媒量に対して少なくとも70重量%になるように触媒を抽出し」に相当することは、上記2.(2)で述べたとおりであるから、刊行物Aの実施例6は、上記特徴7を有するものである。
また、刊行物A、Bの実施例6が、上記特徴2及び4を有していないものであったとしても、上記2.(3)ア.及び3.(3)ア.で述べたとおり、引用発明A、Bにおけるアルコール類(D)として、「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」を用い、その際の反応温度を「90?130℃の範囲内の温度」とすること、すなわち、上記特徴2、4を採用することは、当業者が容易に行うことである。

(ii)刊行物Aに、有利なのは多価アルコールであると記載されているのは、「反応性の良好な多官能(メタ)アクリル酸エステルが得られる点で」好ましいとされているにすぎないから(摘記(A-4))、所望の目的エステルに応じ、多価アルコール以外のアルコールを選択することを妨げるものではない。
そして、刊行物Aには、アルコール類としては、「アルコール性水酸基を1個以上含有するものであれば何れの化合物でも使用可能である」と記載され、「ブチルアルコール」も例示されていることは、上記2.(3)ア.で述べたとおりである。
そうしてみると、所望の目的エステルが、(メタ)アクリル酸のn-ブタノールエステル又はイソブタノールエステルであれば、それに対応するアルコールとして、「ブチルアルコール」である「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」を用いることは、当業者が容易に行うことである。
そして、実施例で使用されているトリメチロールプロパンとイソブタノール又はn-ブタノールが全く異なる蒸留特性及び溶解特性を有するものであったとしても、それによって、アルコールとして「n-ブタノール及びイソブタノールから選択されるアルカノール」を用いることが妨げられるものでもない。

(iii)刊行物Aに、反応温度は有利には60?90℃であると記載され、実施例は65℃であったとしても、上記2.(3)ア.で述べたとおり、反応温度を「90?130℃の範囲内の温度」とすることは、当業者が容易に行うことである。

(iv)刊行物Aには、「特に好ましい触媒」として、芳香族スルホン酸類のみならず、「硫酸」を含む「鉱酸類」も記載されている(摘記(A-3))。
しかも、実施例でも「硫酸」が使用されているのであるから(摘記(A-9)の実施例6)、上記2.(1)で述べたとおり、刊行物Aには、触媒が「硫酸」である発明が記載されている。

(v)刊行物A、Bに、生成する副生成物や、それが触媒の抽出を妨害する可能性について記載されていないとしても、上記2.(3)ウ.及び3.(3)ウ.で述べたとおり、刊行物A、Bには、「抽出すべき反応混合物中の未反応アルカノールの濃度は、抽出すべき反応混合物に対して最大5重量%」である例が記載され、さらに、(メタ)アクリル酸に対してアルコールの少ない方が好ましいこと、未反応アルコール濃度の低い方が好ましいことが記載されているのであるから、刊行物A、Bには、残存アルカノールが少ない方がよいと記載されているといえる。
そうすると、残留アルカノールが問題を生じる理由の如何にかかわらず、残留アルカノールが少ない方法であるという点で、本願発明と引用発明A、Bに差異はない。

したがって、請求人の主張は、いずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-25 
結審通知日 2010-11-26 
審決日 2010-12-09 
出願番号 特願平10-524255
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C07C)
P 1 8・ 121- WZ (C07C)
P 1 8・ 561- WZ (C07C)
P 1 8・ 113- WZ (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 昌広松澤 優子中西 聡  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 橋本 栄和
井上 千弥子
発明の名称 (メタ)アクリル酸エステルの製法  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 杉本 博司  
代理人 山崎 利臣  
代理人 矢野 敏雄  

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