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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1235920
審判番号 不服2008-21981  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-28 
確定日 2011-04-28 
事件の表示 特願2001-105644「ディスクローディング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月11日出願公開、特開2002-298548〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年4月4日の出願であって、平成20年4月30日付けで通知した拒絶理由に対し、同年7月7日付けで手続補正がされたが、同年7月25日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年8月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年9月17日付で手続補正がされたものである。
その後当審において、平成22年8月25日付けで、審査官による前置報告書(特許法164条3項)を利用した審尋を行ったところ、同年10月20日付けで回答書の提出があったものである。


第2 平成20年9月17日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年9月17日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年9月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成20年7月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1について、

(1)補正前に
「メインシャーシと、
該メインシャーシによって回転自在に保持され、モータによって回転駆動される駆動ギアと、
前記メインシャーシによって、排出位置と収納位置との間でスライド移動可能に保持され、前記駆動ギアと係合可能な第1のラックを有して選択的に駆動されてディスク載置面を有するトレイと、
前記メインシャーシによって、前記ディスク載置面の移動平面と平行で、且つ前記トレイの移動方向と直交する方向にスライド可能に保持され、前記駆動ギアと歯合可能な第2のラックを有して選択的に駆動される共に、少なくとも前記移動平面に対して傾斜した傾斜ガイド部を有するカム溝を形成したカムスライダと、
前記移動平面に平行で且つ前記トレイの移動方向と直交する方向の回動軸を中心に前記メインシャーシに回動自在に保持され、基体に、前記回動軸と略直交する方向に形成されて前記カム溝に係合する係合突起を有し、該係合突起が前記傾斜ガイド部を相対的に移動することによって、前記基体に配設されたターンテーブルが前記ディスク載置面から離間する退避位置と、前記ディスク載置面に載置されるディスクを載置して回転駆動する動作位置との間で回動する再生ユニットと
を有し、
前記駆動ギアは、その回転軸が前記移動平面と垂直となるように保持され、前記カムスライダは前記トレイと係合し、該トレイの前記収納位置への移動に伴なって前記第2のラックが前記駆動ギアと歯合する位置まで移動され、前記カムスライダの移動によって、前記係合突起が前記傾斜ガイド部を、前記再生ユニットが動作位置に変位する方向に相対移動する時、前記カムスライダは、少なくとも前記第2のラックのピッチ線と前記駆動ギアのピッチ円とが略接する位置まで移動していることを特徴とするディスクローディング装置。」
とあったものを、

(2)本件補正により
「メインシャーシと、
該メインシャーシによって回転自在に保持され、モータによって回転駆動される駆動ギアと、
前記メインシャーシによって、排出位置と収納位置との間でスライド移動可能に保持され、前記駆動ギアと係合可能な第1のラックを有して選択的に駆動されてディスク載置面を有するトレイと、
前記メインシャーシによって、前記ディスク載置面の移動平面と平行で、且つ前記トレイの移動方向と直交する方向にスライド可能に保持され、前記駆動ギアと歯合可能な第2のラックを有して選択的に駆動される共に、少なくとも前記移動平面に対して傾斜した傾斜ガイド部を有するカム溝を形成したカムスライダと、
前記移動平面に平行で且つ前記トレイの移動方向と直交する方向の回動軸を中心に前記メインシャーシに回動自在に保持され、基体に、前記回動軸と略直交する方向に形成されて前記カム溝に係合する係合突起を有し、該係合突起が前記傾斜ガイド部を相対的に移動することによって、前記基体に配設されたターンテーブルが前記ディスク載置面から離間する退避位置と、前記ディスク載置面に載置されるディスクを載置して回転駆動する動作位置との間で回動する再生ユニットと
を有し、
前記駆動ギアは、その回転軸が前記移動平面と垂直となるように保持され、前記カムスライダは前記トレイと係合し、該トレイの前記収納位置への移動に伴なって前記第2のラックが前記駆動ギアと歯合する位置まで移動され、前記カムスライダの移動によって、前記係合突起が前記傾斜ガイド部を、前記再生ユニットが動作位置に変位する方向に相対移動する時、前記カムスライダは、少なくとも前記第2のラックのピッチ線端部と前記駆動ギアのピッチ円とが接する位置まで移動していることを特徴とするディスクローディング装置。」
と補正しようとするものである。

すると、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ピッチ線」について「ピッチ線端部」と限定し、「略接する」について「接する」と限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下に検討する。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-83458号公報(以下、「引用例」という。)には、ディスクプレイヤのローディング機構について、図面と共に次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はディスクプレイヤに関し、特にローディング機構により移動されるトレイが装脱位置および読み取り位置に移動した際に、連動してマウントベースをスムーズに移動できるディスクプレイヤに関する。」

(イ)「【0003】図11には、従来のディスクプレーヤの概略図を示す。ベース1には、マウントベース2の奥側縁2bを軸支し、前端縁2aが揺動自在に設けられている。このマウントベース2には、ディスクの読み取り位置に移動した際にディスクを回転させるスピンドル2sやピックアップ2p等が搭載されている。また、マウントベース2の側縁に沿って進退するスライダ3が設けられている。このスライダ3にはカム溝3aが設けられ、このカム溝3aにはマウントベース2の側面の前端縁2a側の角に設けられたカムピン4が係合している。このため、スライダ3の進退動により、マウントベース2の前端縁2aが昇降する。」

(ウ)「【0013】
【実施例】以下、本発明に係るディスクプレイヤの好適な実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は内部構造を示す概略的構造説明図である。図2はディスクのイジェクト状態(装脱位置)を示す側面説明図、図3はディスクのセット状態を示す側面説明図である。図4はトレイの裏面図である。
【0014】まず、構成について説明する。ディスクプレイヤ10のケーシング11内には、ベース12が設けられ、このベース12ほぼ中央の開口12aにマウントベース14が配置されている。このマウントベース14は、ケーシング11の奥側縁で軸支され、前端縁14aが揺動可能である。18はディスク(不図示)が載置されるトレイであり、このトレイ18にはディスクを載置可能な載置部18aが形成されている。また、トレイ18は、ケーシング11のフロント面Fから突出入可能である。なお、マウントベース14には、従来公知の、ディスクを再生するためのスピンドル15aやピックアップ15b等が搭載されている。
【0015】前記トレイ18は、ベース12の両側縁部12A、12Bに沿って点在するレール片13・・・にガイドされて進退自在である。トレイ18の側縁部の裏面には、レール片13・・・に係合するレール溝18b、18bが形成されている。また、トレイ18の裏面にはトレイ18の進退方向にラック22が設けられ、このラック22はベース12のフロント面Fに沿ってベース12上に設けられた歯車列24の歯車24aと噛合している。なお、歯車列24には、モータ26から動力が供給されている。
【0016】上記マウントベース14の前端縁14aと、歯車列24との間のベース12上には、スライダ28が配置されている。このスライダ28は、ベース12の両側縁12A、12B間をスライド可能である。このスライダ28は、図1では一方の側縁部12A側に移動しており、この位置をイジェクト位置とし、スライダ28が他方の側縁部12Bに移動した状態をスライダ28のセット位置とする。なお、スライダ28のイジェクト位置ではマウントベース14の前端縁14aが下降した状態(イジェクト状態)であり(図2参照)、スライダ28のセット位置ではマウントベース14の前端縁14aが上昇した状態(読み取り位置)である(図3参照)。
【0017】ここで、スライダ28の構造について、さらに図5および図6を参照しつつ説明する。図5はスライダ28の平面図、図6はスライダ28の左側面図である。スライダ28は、ベース12の側縁部12A側を第1カム部28A、側縁部12B側を第2カム部28Bとし、第1および第2カム部28A、28Bは連結材29により連結されている。
【0018】第2カム部28Bは、平面直角三角形状の片30と、この片30上に設けられたスライドピン34と、片30のマウントベース14側に開口するカム溝32とから構成されている。片30の傾斜面30aは45度に傾いている。また、カム溝32は階段状に形成され、側縁部12B側が低く、側縁部12A側が高く形成されている。カム溝32にはマウントベース14前端縁14aの側縁部12B側の角に設けられたピン16が係合している。
【0019】スライドピン34は、トレイ18の裏面に形成されたカムガイド36に係合している。このカムガイド36は、トレイ18の進退方向に伸びる直線ガイド部36aと、トレイ18の先端側で斜めに曲がる傾斜ガイド部36bと、側縁に至る側方ガイド部36cとからなっている。なお、傾斜ガイド部36bは、45度傾斜している。」

(エ)「【0021】第1カム28Aの上面にはロック溝40が設けられている。このロック溝40は、トレイ18が装脱位置から読み取り位置まで移動する際の、トレイ18がある程度動き始めるまでの移動初期のスライダ28の移動を防止するために、トレイ18下面に設けられたロック条42が係合している。一方、第1カム部28Aのフロント面F側には、ラック44が形成されている。このラック44は、スライダ28がイジェクト状態にあるときには、歯車列24の歯車24aに噛合していない状態である(図1の状態参照)。
【0022】なお、スライダ28は両側縁12A、12B間をスライドする自在であるが、スライダ28はベース12に対しガイド手段(図示せず)によりガイドされている。
【0023】次に、動作とともに、さらに詳しい構造について説明する。図1の状態で、トレイ18の載置部18aにディスクを載せ、スイッチを入れると、モータ26が駆動して歯車列24が駆動する。すると、歯車24aがトレイ18裏面のラック22を介してトレイ18が後退する。このとき、スライドピン34はカムガイド36に係合しており、スライドピン34がカムガイド36の直線ガイド部36aにガイドされ、スライダ28は移動することがない。なお、第1カム28A上面のロック溝40には、トレイ18のディスクの装脱可能状態でトレイ18下面のロック条42が係合しており、スライダ28の移動を規制している。これは、トレイ18がディスク読み取り位置への移動初期に、スライダ28が移動してマウントベース14の前端縁14aが上昇するのを防止するためである。
【0024】さらに、トレイ18が後退し、スライドピン34がカムガイド36の傾斜ガイド部36bに到達した際に、傾斜ガイド部36bに沿ってスライダ28が側方に移動を開始する(図7参照)。このとき、トレイ18下面のロック条42と、スライダ28の第2カム28A上面のロック溝40との係合は外れている。そして、スライドピン34がカムガイド36の傾斜ガイド部36bの中途部に達した際に、スライダ28のラック44と歯車24aが噛合し、トレイ18裏面のラック22と歯車24aとの噛合が外れる(図8参照)。なお、スライダ28のラック44と、トレイ18裏面のラック22とが同時に歯車24aと噛合していても良い。これは、傾斜ガイド部36bが45度傾いているとともに、ラック22とラック44とが直交しているためである。
【0025】続いて、歯車24aの回転に伴ってスライダ28が移動し、スライドピン34がカムガイド36の傾斜ガイド部36bと側方ガイド部36cとの境界に到達するとスライダ28が僅かに移動し、トレイ18の進退方向の動きが規制されセット位置となる(図9参照)。さらに、スライダ28が移動すると、スライダ28の第2カム部28Bのカム溝32に沿ってマウントベース14の前端縁14aのピン16が上昇し、マウントベース14前端縁14aの側縁部12B側の角を上昇させることとなる。一方、スライダ28の第1カム部28Aのカム片38の傾斜面38aに沿って、マウントベース14前端縁14aの側縁部12A側の角が上昇する。このように、第1および第2カム部28A、28Bの作用により、マウントベース14の前端縁14aの両角がガイドされつつ上昇することとなる。
【0026】そして、トレイ18に載置されているディスクにスピンドル15aが嵌合してセット状態となる。このとき、スライダ28はLだけ側縁部12Aから側縁部12B方向に移動している。スライダ28がLだけ移動する間は、スライドピン34がカムガイド36の側方ガイド部36cに位置しておりトレイ18の進退方向の移動が規制されている。なお、スライダ28が側縁部12B側に移動した際には、リミットスイッチ(図示せず)が位置を検出し、モータ26の動作が停止する(図10参照)。」

(オ)「【0031】
【発明の効果】本発明に係るディスクプレイヤは上述するように構成され、マウントベースの先端縁の両角部または中央で支持するため、確実にマウントベースの上下動が可能である。また、トレイの動きに連動してスライダを移動させるとともに、トレイを動かす歯車列に連動してスライダを動かすことにより、マウントベースを確実に移動することができる。
【0032】トレイのラックに噛合してトレイを移動する歯車列の歯車が、スライダのラックにも噛合してスライダを移動するための、歯車を共通とすることができ、構造を簡便にすることができる等の著効を奏する」

上記(ア)ないし(オ)に記載された実施例によれば、引用例1には次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。
「ケーシング内に設けられたベースと、
ベース上に設けられ、モータからの動力が供給される歯車列の歯車と、
ベースの両側縁部に沿って装脱位置と読み取り位置との間に進退自在にガイドされ、歯車列の歯車と噛合するラックとカムガイドとを有し、ディスク載置部が形成されたトレイと、
ベース上に配置され、ベースの一方の側縁部と他方の側縁部の間でスライドし、歯車列の歯車に噛合うラックと、一方の側縁部側が低く他方の側縁側部側が高く形成された階段状のカム溝と、スライドピンとを有するスライダと、
ベースのほぼ中央の開口に配置され、ディスクを再生するためのスピンドルやピックアップ等が搭載されているマウントベースと、を有し、
前記マウントベースは、前端縁が揺動可能にケーシングの奥側縁で軸支され、スライダの階段状のカム溝と係合しているピンが前端縁に設けられ、ピンがスライダのカム溝に沿って上昇して前端縁が下降した状態から前端縁が上昇した状態となり、前端縁が上昇した状態ではトレイに載置されているディスクに搭載しているスピンドルが嵌合し、
前記歯車列の歯車はベースに沿って設けられ、モータが駆動して歯車列が駆動すると、歯車はトレイを後退させて、スライダのスライドピンがトレイのカムガイドの直線ガイド部に係合して移動していないスライダを、スライダのスライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部に到達した際に、側方に移動を開始させ、
さらにトレイが後退して、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部の中途部に達した際に、スライダのラックと歯車列の歯車とは噛合し、
歯車の回転に伴ってスライダが移動させられ、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部と側方ガイド部との境界に到達すると、トレイの進退方向の動きは規制され、
さらに、スライダが移動すると、スライダのカム溝に沿ってマウントベースの前端縁のピンが上昇し、マウントベースの前端縁が上昇した状態にさせられるディスクローディング機構。」

3.対比
引用例発明と本願補正発明を対比する。
a.引用例発明の「ベース」は、モータ、歯車列、トレイ等ディスクローディング装置の主要な構成要素を、その上に保持する構造体である点において、本願補正発明の「メインシャーシ」に相当する。

b.引用例発明の「歯車列の歯車」は、ラックと噛合うものであるから、本願補正発明の「駆動ギア」に相当する。したがって、引用例発明の「ベース上に設けられ、モータからの動力が供給される歯車列の歯車」は、本願補正発明の「メインシャーシによって回転自在に保持され、モータによって回転駆動される駆動ギア」に相当する。

c.引用例発明と本願補正発明とで共通する「トレイ」について比較すると、引用例発明の「挿脱位置」及び「読み取り位置」は、それぞれ本願補正発明の「排出位置」及び「収納位置」に相当するから、引用例発明の「トレイ」が「ベースの両側縁部に沿って装脱位置と読み取り位置との間に進退自在にガイドされ」ることは、本願補正発明の「トレイ」が「メインシャーシによって、排出位置と収納位置との間でスライド移動可能に保持され」ることに相当する。また、引用例発明の「トレイ」の「裏面には歯車列の歯車と噛合するラックが進退方向に設けられ」「モータが駆動して歯車列が駆動すると、歯車はトレイを後退させて」「さらにトレイが後退して、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部の中途部に達した際に、スライダのラックと歯車列の歯車とは噛合し、トレイ裏面のラックと歯車との噛合が外れる」との特定を総合すると、本願補正発明の「前記駆動ギアと係合可能な第1のラックを有して選択的に駆動され」ることに相当する。引用例発明の「ディスク載置部が形成された」ことは、本願補正発明の「ディスク載置面を有する」ことに相当する。
引用例発明の「挿脱位置」「読み取り位置」「ディスク載置部」は、本願補正発明の「排出位置」「収納位置」「ディスク載置面」に相当する。

d.次に、引用例発明の「スライダ」と本願補正発明の「カムスライダ」とを比較する。
引用例発明の「スライダ」は、「ベース上に配置され、ベースの一方の側縁部と他方の側縁部の間でスライドし」と特定されるところ、スライダピンがトレイの裏面に設けられたカムガイドにガイドされて、あるいは、スライダのラックが歯車と歯合して、「側方に移動」するものであるから、スライダの移動方向は、ディスクの載置面に平行で、トレイの移動する方向とは直交する方向であることが明らかで、本願補正発明の「前記メインシャーシによって、前記ディスク載置面の移動平面と平行で、且つ前記トレイの移動方向と直交する方向にスライド可能に保持され」との要件を備えている。また、引用例発明の「スライダ」は、「歯車列の歯車に噛合うラック」を有しており、「トレイが後退して、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部の中途部に達した際に、スライダのラックと歯車列の歯車とは噛合」して更に駆動されるので、本願補正発明の「前記駆動ギアと歯合可能な第2のラックを有して選択的に駆動される」との要件を備えている。さらに、引用例発明の「スライダ」は、「一方の側縁部側が低く他方の側縁側部側が高く形成された階段状のカム溝」を有しているので、本願補正発明の「少なくとも前記移動平面に対して傾斜した傾斜ガイド部を有するカム溝を形成した」との要件を備えている。したがって、引用例発明の「スライダ」は、本願補正発明の「前記メインシャーシによって、前記ディスク載置面の移動平面と平行で、且つ前記トレイの移動方向と直交する方向にスライド可能に保持され、前記駆動ギアと歯合可能な第2のラックを有して選択的に駆動される共に、少なくとも前記移動平面に対して傾斜した傾斜ガイド部を有するカム溝を形成したカムスライダ」に相当する。

e.引用例発明の「マウントベース」は、「ディスクを再生するためスピンドルやピックアップ等が搭載されている」ものであるから本願補正発明の「再生ユニット」と比較する。
引用例発明の「マウントベース」が「前端縁が揺動可能にケーシングの奥側縁で軸支され」と特定されるところ、前記「軸支」は、装置の左右方向に伸びる軸によることが図1等により明らかであるから、本願補正発明の「前記移動平面に平行で且つ前記トレイの移動方向と直交する方向の回動軸を中心に」「回動自在に保持され」ていることに相当する。
引用例発明の「マウントベース」に「スライダの階段状のカム溝と係合しているピンが前端縁に設けられ」ていることは、本願補正発明の「再生ユニット」の「基体に、前記回動軸と略直交する方向に形成されて前記カム溝に係合する係合突起を有し」との要件に相当し、に相当し、引用例発明の「スライダの階段状のカム溝と係合しているピンが前端縁に設けられ」は、本願補正発明の「基体に、回動軸と略直交する方向に形成されてカム溝に係合する係合突起を有し」たことに相当する。
引用例発明の「マウントベース」が「前記ピンがスライダのカム溝に沿って上昇して前端縁が下降した状態から前端縁が上昇した状態となり、前端縁が上昇した状態ではトレイに載置されているディスクに搭載しているスピンドルが嵌合」する点は、本願補正発明の「再生ユニット」が、「該係合突起が前記傾斜ガイド部を相対的に移動することによって、前記基体に配設されたターンテーブルが前記ディスク載置面から離間する退避位置と、前記ディスク載置面に載置されるディスクを載置して回転駆動する動作位置との間で回動する」ことに相当する。

f.引用例発明の「歯車列の歯車はベースに沿って設けられ」た「歯車列の歯車」は、直交しているトレイとスライダのラックに噛合うことから、歯車の回転軸はトレイの載置部とスライダの移動平面に垂直であることは明らかであり、本願補正発明の「駆動ギアは、その回転軸が移動平面と垂直となるように保持され」た構成に相当する。
引用例発明の「モータが駆動して歯車列が駆動すると、歯車はトレイを後退させて、スライダのスライドピンはトレイのカムガイドの直線ガイド部に係合して移動していないスライダを、スライダのスライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部に到達した際に、側方に移動を開始させ」ているときは、スライダとトレイは係合していることから、本願補正発明の「カムスライダはトレイと係合し」に相当する。
引用例発明の「さらにトレイが後退して、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部の中途部に達した際に、スライダのラックと歯車列の歯車とは噛合し」は、トレイの後退に伴って、スライダのラックが歯車列の歯車と噛合うように移動されていることから、本願補正発明の「トレイの収納位置への移動に伴なって第2のラックが駆動ギアと歯合する位置まで移動され」に相当する。
引用例発明の「さらに、スライダが移動すると、スライダのカム溝に沿ってマウントベースの前端縁のピンが上昇し、マウントベースの前端縁が上昇した状態」は、スライダがスライドして、スライダの階段条カム溝の傾斜部をユニットベースのピンが上昇することにより、読み取り位置にあるトレイのディスクにスピンドルが嵌合するようにユニットベースの前端縁が上昇する時であり、本願補正発明の「カムスライダの移動によって、係合突起が前記傾斜ガイド部を、再生ユニットが動作位置に変位する方向に相対移動する」に相当する。
引用例発明では、「さらにトレイが後退して、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部の中途部に達した際に、スライダのラックと歯車列の歯車とは噛合し」、
「車の回転に伴ってスライダが移動させられ、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部と側方ガイド部との境界に到達すると」その後に、
「さらに、スライダが移動すると、スライダのカム溝に沿ってマウントベースの前端縁のピンが上昇」する、との順で動作することからすると、
遅くとも、マウントベースの前端縁のピンが上昇する時までには、カムスライダは、スライダのラックと歯車とが噛合する位置まで移動しているということができるものである。

g.引用例発明の「ディスクローディング機構」は、本願補正発明の「ディスクローディング装置」に相当する。

以上のことからすると、引用例発明と本願補正発明は、次の点で一致する。
「メインシャーシと、
該メインシャーシによって回転自在に保持され、モータによって回転駆動される駆動ギアと、
前記メインシャーシによって、排出位置と収納位置との間でスライド移動可能に保持され、前記駆動ギアと係合可能な第1のラックを有して選択的に駆動されてディスク載置面を有するトレイと、
前記メインシャーシによって、前記ディスク載置面の移動平面と平行で、且つ前記トレイの移動方向と直交する方向にスライド可能に保持され、前記駆動ギアと歯合可能な第2のラックを有して選択的に駆動される共に、少なくとも前記移動平面に対して傾斜した傾斜ガイド部を有するカム溝を形成したカムスライダと、
前記移動平面に平行で且つ前記トレイの移動方向と直交する方向の回動軸を中心に回動自在に保持され、基体に、前記回動軸と略直交する方向に形成されて前記カム溝に係合する係合突起を有し、該係合突起が前記傾斜ガイド部を相対的に移動することによって、前記基体に配設されたターンテーブルが前記ディスク載置面から離間する退避位置と、前記ディスク載置面に載置されるディスクを載置して回転駆動する動作位置との間で回動する再生ユニットと
を有し、
前記駆動ギアは、その回転軸が前記移動平面と垂直となるように保持され、前記カムスライダは前記トレイと係合し、該トレイの前記収納位置への移動に伴なって前記第2のラックが前記駆動ギアと歯合する位置まで移動され、前記カムスライダの移動によって、前記係合突起が前記傾斜ガイド部を、前記再生ユニットが動作位置に変位する方向に相対移動する
ディスクローディング装置。」

一方、次の点で相違する。
(相違点1)
本願補正発明では、再生ユニットを「メインシャーシ」に保持する、と特定するのに対して、引用例発明では、マウントベースは、「ケーシング」に軸支される点。

(相違点2)
本願補正発明では、カムスライダの移動によって、係合突起が傾斜ガイド部を、再生ユニットが動作位置に変位する方向に相対移動する時、「前記カムスライダは、少なくとも前記第2のラックのピッチ線端部と前記駆動ギアのピッチ円とが接する位置まで移動している」と特定しているのに対し、引用例発明では、スライダの移動によってピンがカム溝をマウントベースが上昇した状態に移動するとき、スライダが、スライダのラックのピッチ線端部と、歯車のピッチ円とが接する位置まで移動しているとの特定がない点。

4.判断
(相違点1について)
引用例発明では、マウントベース(本願補正発明の「再生ユニット」に相当。)はベース(メインシャーシ)のほぼ中央の開口に配置されるものであり、引用例の上記「イ.」の従来例例には、マウントベース(再生ユニット)をベース(メインシャーシ)に軸支することが記載されており、いずれに軸支するかで、ディスクローディング装置としての機能、動作とunit後段の影響を及ぼすものでもない。
してみれば、引用例発明において、マウントベース(再生ユニット)をベース(メインシャーシ)に保持するように構成することは、当業者が適宜に選択できる設計事項にすぎないものである。

(相違点2について)
上記対比のf.で明らかにしたように、引用例発明では、マウントベースの前端縁のピンが上昇する時には、スライダは、スライダのラックと歯車とが噛合する位置まで移動しているということができる。歯車同士が噛み合う場合に、互いのピッチ円が、接する状態となるように設定することは、機構学上の常識であって、ラックとピニオンが噛み合う場合にはラックのピッチ線と歯車(ピニオン)のピッチ円とが接する状態となることは当然である。すると、引用例には、文言上の明記がなくとも、マウントベースの前端縁のピンが上昇する時には、スライダは、少なくともスライダのラックと歯車とが噛合する位置まで移動しているのであるから、当該時には、ラックのピッチ線と歯車のピッチ円とが接する位置まで移動していると解することができるか、たとえ、ラックのピッチ線と歯車のピッチ円との位置関係が一義的に決まらないとしても、ラックと歯車が噛み合っている状態において、ラックのピッチ線と歯車のピッチ円とが接する状態に両者の位置関係を設定することは機構設計上普通の設定であるから、当業者が適宜設定しうることにすぎない。

なお、請求人は、請求の理由において、参考図1及び2を示し、「引用文献1においては、スライダピン34がカムガイド36の側方ガイド部36cを移動してマウントベースが上昇する段階で、スライダ28(本願のカムスライダに相当)のラック44(本願の第2のラックに相当)のピッチ線と、これを駆動する歯車24a(本願の駆動ギアに相当)のピッチ円とが接しているか否か、即ち本願に対応させた場合、前記参考図1の状態にあるか、或いは参考図2の状態にあるかは不明」と主張しているが、前記対比のf.で示したように、引用例発明では、スライダのラックと歯車列の歯車とはスライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部の中途部に達した際に噛合すると特定され、その後、歯車の回転に伴ってスライダが移動させられ、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部と側方ガイド部との境界に到達し、その後、「さらに、スライダが移動すると、スライダのカム溝に沿ってマウントベースの前端縁のピンが上昇」するとの順で動作するのであるから、前記一連の動作の最後の段階では、少なくとも参考図2のような状態にあるとは到底認めることができない。
同様に、請求人は、回答書において参考図1ないし4を示し、「引用文献1では、上記参考図3に相当する段階でマウントベース14の上昇が開始するのか、上記参考図4に相当する段階以降でマウントベースの上昇が開始するのか不明である」と主張しているが、そもそもこれら参考図は引用例の記載を正しく反映していない。参考図2では駆動ギアと第2のラックが離れて示されているが、引用例発明では、スライダのラックと歯車列の歯車とはスライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部の中途部に達した際に噛合すると特定されているのであるから、少なくともこの時点で駆動ギアと第2のラックは噛み合っていなければならない。したがって、それ以後の参考図3及び4における駆動ギアと第2のラックとの位置関係も正確とはいえず、主張の前提が成り立たないものである。歯車の回転に伴ってスライダが移動させられ、スライドピンがトレイのカムガイドの傾斜ガイド部と側方ガイド部との境界に到達するのであるから、参考図3の段階では、明らかに駆動ギヤと第2のラックとは明確に噛み合っているはずである。そして、その後、さらに、スライダが移動すると、スライダのカム溝に沿ってマウントベースの前端縁のピンが上昇するのであるから、参考図3以降の段階でマウントベース14の上昇が開始することが明らかで、その時には、さらに、駆動ギヤと第2のラックとは明確に噛み合っているはずである。
そして、前述したように、ラックとピニオン(歯車)が噛み合っている状態では、「ラックのピッチ線と歯車のピッチ円とが接する」状態はごく普通のことであるから、機構学上の常識も考慮すると、引用例発明においても、「前記再生ユニットが動作位置に変位する方向に相対移動する時、前記カムスライダは、少なくとも前記第2のラックのピッチ線端部と前記駆動ギアのピッチ円とが接する位置まで移動している」と解することができるか、たとえ一義的にそのように解することができないとしても、傾斜ガイドの中途部で噛合してからマウントベースの前端部が上昇するまでにスライダが所定量移動する位置関係となっていることからすると、そのような設定は当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。

そして、上記各相違点を総合しても、本願補正発明の作用効果は、引用例から当業者が十分予測しうる範囲のもので、格別のものではない。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
平成20年9月17日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2 [理由] 1. 1)」に、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1として記載したとおりのものである。

1.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「ピッチ線端部」について「端部」との限定を省き、「接する」について「略接する」とするものである。

そうすると、本願発明の特定事項をすべて含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-18 
結審通知日 2011-02-22 
審決日 2011-03-11 
出願番号 特願2001-105644(P2001-105644)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 達也  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 早川 学
石川 正二
発明の名称 ディスクローディング装置  
代理人 前田 実  
代理人 篠原 昌彦  
代理人 山形 洋一  

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