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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1235937
審判番号 不服2009-16056  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-01 
確定日 2011-04-28 
事件の表示 特願2005- 48168号「溶接方法及びその溶接構造物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月 7日出願公開、特開2006-231359号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成17年2月24日の出願であって、平成21年5月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成21年9月1日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものであり、その後当審において、平成22年8月13日付けで拒絶理由を通知したところ、平成22年10月7日付け手続補正書により手続補正がされたものである。
そして、本願の各請求項に係る発明は、平成22年10月7日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
ステンレス鋼からなる部材の板厚Tが7≦T≦12mmの範囲であり、同じ板厚同士の前記部材の側面を相互に突合せて形成されたI型継手部の表面側又は裏面側の少なくとも一方に、金属酸化物の粉末と溶媒とを混合してなる溶け込み促進剤を塗布及び乾燥した後に、継手部材の配置及び姿勢は動かさず、下向き姿勢又は立向き姿勢又は横向き姿勢のいずれかの姿勢で行う非消耗電極方式のアーク溶接によって、前記I型継手部の表裏両側に溶融接合部を各々形成する溶接方法において、
前記板厚の範囲内で同じ板厚同士の部材側面を突合わせた前記I型継手部の表面側又は裏面側に前記溶け込み促進剤を塗布し、その後に前記非消耗電極方式の第1のアーク溶接を遂行する過程で継手部材と同質系の溶接ワイヤをアーク溶接部に送給し、前記板厚Tの溶接表面から裏側まで溶かすことなく、板厚Tの1/2以上4/5以下の溶け込み深さまで溶融接合させて第一の溶融接合部を形成する第1の溶接工程と、
前記第1の溶接工程の終了後に、反対側の残りI型継手部の裏面側又は表面側に前記溶け込み促進剤を塗布し、その後に前記非消耗電極方式の第2のアーク溶接を遂行する過程で継手部材と同質系の溶接ワイヤをアーク溶接部に送給し、前記板厚Tの溶接表面から裏側まで溶かすことなく、板厚Tの1/2以上4/5以下の溶け込み深さまで溶融接合させて第二の溶融接合部を形成する第2の溶接工程とを備え、
前記第1及び第2の溶接工程によって形成された表裏両側の前記第一及び第二の溶融接合部は、各々の先端部同士が前記板厚Tの中央部分で相互に重なり合っていることを特徴とする溶接方法。」

2.引用刊行物及びその記載事項
当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2000-71094号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。

a:「【請求項1】 Hfを除く遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属とWを除く遷移金属VIa族の酸化物との混合物からなり、該混合物中の酸素原子の割合が24?50%、金属原子の割合が50?76%であるTIG溶接用活性フラックス組成物。
【請求項2】 ステンレス鋼を被溶接物とする請求項1記載のTIG溶接用活性フラックス組成物。」(【特許請求の範囲】)

b:「【0002】
【技術の技術】従来からTIG溶接は、不活性ガス気中での安定した溶接が可能であり、安定したビ-ドが得られ易い。このため、火力発電、原子力発電、化学機械等の配管のような外側からしか溶接できない小径パイプの第1層(ル-トパス)の溶接及び高品質の要求される継手に多く適用されている。TIG溶接の場合、通常の条件では溶け込み深さが2?3mm程度のため、3?4mm以上の板厚の鋼を溶接する際には溶接部の開先加工が必要であり、多パス溶接を行う必要があった。さらに、パイプなどの円周溶接を行う場合、パイプが固定されている等の理由で、全姿勢溶接となることが多く、溶け込み深さを上昇させるために溶接電流を通常の溶接条件より上げることが困難であった。」(段落【0002】)

c:「【0007】本発明に用いるフラックス成分中の遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属源としては、例えば純チタニウム、チタン白、一酸化チタニウム、三酸化二チタニウム、純ジルコニウム、ジルコニア等である。本発明に用いるフラックス成分中の遷移金属VIa族の酸化物としては、ア-ク熱により母材面から蒸発し易く、ア-ク中で酸素を放出するものである。さらに母材面上で遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属と反応し、スラグ化合物になったとき、溶融池表面の表面張力を減少させるものが好ましい。Wを除く理由は、TIG溶接ではW-2%Th電極が用いられるため、Wの使用は電極との反応を招き、電極の消耗が激しくなるからである。本発明に用いるフラックス成分中の遷移金属VIa族の酸化物源としては、例えばクロムグリ-ン、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン、五酸化二モリブデン、モリブデンブル-、酸化クロム、二酸化クロム、無水クロム酸等である。本発明で遷移金属VIa族の純金属を用いない理由は、遷移金属IVa族の純金属より酸化力が劣ることと、酸化力が劣るため溶接部に純金属成分としてクロム、モリブデンが混入し易く、溶接金属のフェライト量が増加し、溶接金属の靱性が劣化する可能性があるためである。
【0008】一般にア-クの収縮には、電磁ピンチ効果と熱的ピンチ効果とがある。前者は、ア-クの電磁力のために断面が収縮する現象であり、後者は、外周からの冷却作用が著しいとき、熱の放散を抑えるためにア-ク柱表面積を小さくするため、結果として断面が収縮する現象である。また一般に2原子分子は、解離によって熱を奪うためア-クに熱的ピンチ力が働き、ア-クは中心部に集中しようとする。集中すれば電磁的ピンチ力によってア-クはさらに収縮される。本発明は、主として、前記の熱的ピンチ効果を利用しており、詳しくは、これら混合物中の母材面から気化した酸化物がア-ク中で酸素を放出し解離することで、ア-クに熱的ピンチ力が発生し、ア-クの電流密度が増加することで、被溶接物表面の単位面積当たりの熱量を増加させる。
【0009】また、溶融池表面のこれら混合物のスラグ化合物は、溶融池の表面張力を減少させ、通常溶融池中心部から外側に向かう溶湯の流れを、外側から中心部に向かわせる。本発明では、遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属と遷移金属VIa族の酸化物とを組み合わせて用いることが必要であり、どちらかの遷移金属が2種以上で結果として3種以上となってもかまわない。本発明に用いる遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属と遷移金属VIa族の酸化物からなるフラックス組成物は、以下の理由で組成物中の酸素原子の割合が24?50%であり、金属原子の割合が50?76%でなければならない。
【0010】フラックス組成物中の酸素量は、ア-ク中に気化した酸化物から、必要最低限の酸素を放出させ、ア-クを収縮させるのに必要な解離熱をア-クから奪い、十分な溶け込みを得るために酸素原子として24%以上が必要である。しかし、過度の酸素含有量は、フラックス組成物中の酸化物量を増加させ、溶融スラグの融点を上昇させ、粘性増加を招くことになる。その結果、溶接ビ-ド中へのスラグの巻き込みが起こり易くなり、溶融池表面の表面張力も上昇し、溶融池の対流を妨げる原因となるため50%以下でなければならない。フラックス組成物中の金属量は、必要最低限の酸素原子を捕捉しておくために金属原子として50%以上が必要である。しかし過度の金属量は、捕捉酸素量の過度な増加を招き、フラックス組成物中の酸化物量を増加させ、溶融スラグの融点を上昇させ、粘性の増加を招くことになる。その結果、溶接ビ-ド中へのスラグの巻き込みが起こり易くなり、溶融池表面の表面張力も上昇し、溶融池の対流を妨げる原因となるため金属原子として76%以下でなければならない。」(段落【0007】?【0010】)

d:「【0013】
【実施例】次に本発明を実施例で具体的に説明する。
実施例1?8
表1のIVa族の酸化物もしくは純金属とVIa族の酸化物とを用いて以下の方法でフラックスをそれぞれ調製した。各成分を電子天秤で0.01gまで測定し、乳鉢にて乾式混合した。粒度調整は、乳鉢で混合した後、ボ-ルミルにて粉砕し、篩にて調整した。前記のようにして調製されたそれぞれのフラックスを用いて以下に示す試験を行って溶接性の評価を行った。
【0014】[試験方法]試験材として、板厚10mm、幅100mm、長さ150mmのSUS304鋼板を用い、各フラックスをアセトンに分散させ、刷毛で前記鋼板表面に塗布したものを用いた。溶接は、タッチア-ク方式の自動TIG溶接機を用い、前記試験材表面メルトランで行った。試験片溶接時の溶接条件は、電流170A、電圧10.5V、溶接速度7.6mm/minで、シ-ルドガスに100%アルゴンを用い、その流量を20 l/minとした。溶接後、ビ-ド断面形状および溶け込み深さを次の方法で測定した。[ビ-ド断面形状、溶け込み深さの測定]ビ-ド断面形状、溶け込み深さ観察用の試験片は、溶接材をビ-ド断面方向に切断し、SiC研磨紙にて#240まで研磨した後、断面を塩酸にて腐食し作成した。その後5倍のマクロ写真撮影を行い、この際、ものさしも一緒に撮影し、写真上でノギスを用いビ-ド幅、溶け込み深さを0.05mmまで測定した。その際、一緒に撮影したものさしの1mm長さも同様に測定し、実寸法を計算から求めた。」(段落【0013】?【0014】)

e:「【0020】
【発明の効果】本発明のTIG溶接用フラックス組成物を用いることにより、通常の溶接条件にて、開先加工を必要とせず、I型開先にて6mm厚のステンレス鋼板を1パスで溶融接合でき、高能率なTIG溶接が可能となる。さらに溶接金属部の機械的性能は、フラックスを用いない場合と同等である。」(段落【0020】)

上記記載事項及び図面の記載を総合すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「I型開先にて6mm厚のステンレス鋼板をTIG溶接で溶融接合するもので、
IVa族の酸化物もしくは純金属とVIa族の酸化物とを用いて、乳鉢にて乾式混合した後、ボ-ルミルにて粉砕し、篩にて調製されたフラックスをアセトンに分散させ、刷毛で前記鋼板表面に塗布し、TIG溶接機を用い、溶接する溶接方法。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ステンレス鋼板」は、本願発明の「ステンレス鋼からなる部材」に相当する。
一般に、I型開先は、同じ板厚同士を相互に突合わせで接合する際に用いられるから、引用発明の「I型開先にて」「溶融接合する」ことは、本願発明の「同じ板厚同士の前記部材の側面を相互に突合せて形成されたI型継手部」で「溶融接合部を」「形成する」ことに相当する。
引用発明の「IVa族の酸化物もしくは純金属とVIa族の酸化物とを用いて、乳鉢にて乾式混合した後、ボ-ルミルにて粉砕し、篩にて調製されたフラックスをアセトンに分散させ、刷毛で前記鋼板表面に塗布」することは、本願発明の「表面側又は裏面側の少なくとも一方に、金属酸化物の粉末と溶媒とを混合してなる溶け込み促進剤を塗布」することに相当する。
引用発明の「I型開先にて」「TIG溶接機を用い、溶接する」ことは、本願発明の「非消耗電極方式のアーク溶接によって、前記I型継手部」に「溶融接合部」を「形成する溶接方法」及び「溶融接合させて第一の溶融接合部を形成する第1の溶接工程」に相当する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。
「ステンレス鋼からなる部材の、同じ板厚同士の前記部材の側面を相互に突合せて形成されたI型継手部の表面側又は裏面側の少なくとも一方に、金属酸化物の粉末と溶媒とを混合してなる溶け込み促進剤を塗布した後に行う非消耗電極方式のアーク溶接によって、前記I型継手部に溶融接合部を形成する溶接方法において、
同じ板厚同士の部材側面を突合わせた前記I型継手部の表面側又は裏面側に前記溶け込み促進剤を塗布し、溶融接合させて第一の溶融接合部を形成する第1の溶接工程、とする溶接方法。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明では「板厚Tが7≦T≦12mmの範囲」のステンレス鋼を「第1の溶接工程」と、「反対側」の「第2の溶接工程」で溶接しているのに対し、引用発明では「6mm厚」のステンレス鋼を「第1の溶接工程」で溶接している点。

[相違点2]
本願発明では、溶け込み促進剤を塗布して「乾燥」させているのに対して、引用発明では、乾燥について記載がない点。

[相違点3]
溶け込み促進剤を塗布した後のアーク溶接に関し、本願発明では「継手部材の配置及び姿勢は動かさず、下向き姿勢又は立向き姿勢又は横向き姿勢のいずれかの姿勢」でアーク溶接を遂行するのに対し、引用発明では、溶け込み促進剤を塗布した後に、継手部材の配置及び姿勢を動かすかどうかについての記載はなく、また、アーク溶接の姿勢についても記載がない点。

[相違点4]
本願発明では「非消耗電極方式の第1のアーク溶接を遂行する過程で継手部材と同質系の溶接ワイヤをアーク溶接部に送給」及び「非消耗電極方式の第2のアーク溶接を遂行する過程で継手部材と同質系の溶接ワイヤをアーク溶接部に送給 」しているのに対して、引用発明では溶接ワイヤについて記載がない点。

[相違点5]
本願発明では「第1の溶接工程の終了後に、反対側の残りI型継手部の裏面側又は表面側に前記溶け込み促進剤を塗布」しているのに対して、引用発明では、第1の溶接行程の終了後に溶け込み促進剤(フラックス)を塗布していない点。

[相違点6]
本願発明では、溶接接合部を「表裏両側」に形成するもので、「板厚Tの溶接表面から裏側まで溶かすことなく、板厚Tの1/2以上4/5以下の溶け込み深さまで溶融接合させて第一の溶融接合部を形成する第1の溶接工程」と、「板厚Tの溶接表面から裏側まで溶かすことなく、板厚Tの1/2以上4/5以下の溶け込み深さまで溶融接合させて第二の溶融接合部を形成する第2の溶接工程」とを備えており、
「前記第1及び第2の溶接工程によって形成された表裏両側の前記第一及び第二の溶融接合部は、各々の先端部同士が前記板厚Tの中央部分で相互に重なり合っている」のに対して、
引用発明では、「第1の溶接行程」で溶融接合している点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
[相違点1]について
板厚が厚い場合に表側と裏側とから溶接することは、例えば、当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-112684号公報(特に、段落【0034】及び図4を参照。)、及び、同じく当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特公昭53-41106号公報(特に、第1欄第29行?第2欄第4行、第2欄第13?14行、第6欄第16?38行及び第2図を参照。)に記載されているように慣用技術である。
このように表側と裏側とから溶接した場合には、表側の溶融部と裏側の溶融部とは、板厚のいずれかの部分で重なっている必要があることは明らかであるところ、引用発明では、開先加工なしで6mm厚のステンレス鋼板を1パスで溶融接合しているから、引用発明に上記慣用技術を適用して表側と裏側とから溶接した際に溶接可能な最大の板厚としては、6mmの2倍である約12mm程度であることが容易に理解される。
また、引用発明においては、6mm厚のステンレス鋼板を第1の溶接工程で溶融接合できるから、6mm厚以上でなければ、上記慣用技術を適用して表側と裏側とから溶接する必要性もないことが容易に理解される。
したがって、引用発明において、上記慣用技術を適用して表側と裏側とから溶接する際の板厚として「板厚Tが7≦T≦12mmの範囲」とすることにより、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

[相違点2]について
フラックスを塗布後に乾燥させることは、例えば、当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-120088号公報(段落【0014】)に記載されているように慣用技術である。
したがって、引用発明において、フラックス塗布後に「乾燥」させることにより、本願発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

[相違点3]について
建築構造物等、溶接部材の裏返し反転作業が不可能であったり、困難な構造物に対して、突き合わせを行った状態の継手部材の配置と姿勢を動かさずに溶接に係る施工を行うことは、通常行われていることであるから、上記のような建築構造物等に引用発明を適用した際には、溶け込み促進剤の塗布とアーク溶接とは、同じ配置及び姿勢で行うこととなる。
また、下向き姿勢又は立向き姿勢又は横向き姿勢でアーク溶接を行うことは、例えば、当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-181643号公報(段落【0002】)を参照。)に記載されているように慣用技術である。
したがって、引用発明において、本願発明の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

[相違点4]について
非消耗電極方式のアーク溶接を遂行する過程で継手部材と同質系の溶接ワイヤをアーク溶接部に送給することは、例えば、当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-94182号公報(段落【0029】)、及び、同じく当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-129666号公報(段落【0041】)を参照。)に記載されているように、本願出願前に周知の技術である。
したがって、引用発明において、本願発明の相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

[相違点5]について
引用例の前記摘記事項cに記載されているように、引用発明に用いられるフラックス成分中の遷移金属VIa族の酸化物は、ア-ク熱により母材面から蒸発し易く、ア-ク中で酸素を放出するものである。
前記「[相違点1]について」で述べたように、板厚が厚くて表側と裏側とから溶接する場合には、表側の溶接の際のアーク熱により、裏側のフラックス成分が蒸発してしまうおそれがある。
したがって、表側の溶接の終了後に裏側のフラックスを塗布するする必要があることは、当業者であれば自明な事項であるから、引用発明において、本願発明の相違点5に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

[相違点6]について
前記「[相違点1]について」で述べたように板厚が厚くて表側と裏側とから溶接する場合に、表側からの溶融接合部と裏側からの溶融接合部とを、板厚の中央部分で相互に重なり合うようにすることは、例えば、前記の特開平8-112684号公報(段落【0034】、図4)、前記の特公昭53-41106号公報(第2欄第13?14行、第6欄第16?38行、第2図)、及び、当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特公昭56-13545号公報 (第3欄第26?27行及び第36?39行)を参照。)に記載されているように、本願出願前に周知の技術である。
溶融接合部を板厚の中央部分で相互に重なり合うようにするには、少なくとも板厚の1/2以上の溶け込み深さが必要であることは明らかである。
また、溶融が反対面まで起こる必要はないから、溶け込み深さの最大は、溶け込みが反対面まで起こらないように適宜定める設計事項である。(溶融が反対面まで起こる必要がないことについては、例えば、当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-317261号公報(第2ページ左下欄第7?11行)を参照。)
したがって、引用発明において、本願発明の相違点6に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明により得られる作用効果も、引用発明、周知の技術及び慣用技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別のものとはいえない。
以上のことから、本願発明は、引用発明、周知の技術及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知の技術及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-24 
結審通知日 2011-03-01 
審決日 2011-03-17 
出願番号 特願2005-48168(P2005-48168)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 小関 峰夫
田口 傑
発明の名称 溶接方法及びその溶接構造物  
代理人 井上 学  

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