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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1235956
審判番号 不服2010-4669  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-03 
確定日 2011-04-28 
事件の表示 特願2005- 7748「車両用表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 8日出願公開、特開2005-239127〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年1月14日(優先権主張平成16年1月28日)の出願であって、平成21年6月24日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し同年8月31日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月30日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し平成22年3月3日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に同日付で手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において、同年9月21日付けで書面による審尋がなされ、これに対し同年11月25日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成22年3月3日付けの手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成22年3月3日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の内容
平成22年3月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、下記の(a)に示す本件補正前の(すなわち、平成21年8月31日付けで提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1を下記の(b)に示す特許請求の範囲の請求項1へと補正するものである。
(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「メータ表示領域と副表示領域とを有するディスプレイと、
前記ディスプレイに表示される表示内容を、通常表示、メンテナンス表示、または他の情報表示に切り換えるように制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記通常表示時には、前記メータ表示領域に、車両の走行速度及びエンジン回転数の計測量を示す文字板に相当する表示意匠を表示し、前記副表示領域に、前記文字板に相当する表示意匠と共にアナログ指示計器を構成して前記計測量を指示する、長針の指針を表示し、前記メンテナンス表示時には、前記メータ表示領域に表示されていた前記表示意匠を消去し、前記副表示領域に前記メンテナンス表示をアニメーションにより表示し、前記他の情報表示時には、前記メータ表示領域に前記表示意匠を表示し、前記副表示領域に、前記走行速度、前記エンジン回転数及び前記メンテナンス表示以外の他の情報と、前記長針より短い短針の前記指針とを表示するように制御し、前記短針の指針はその長さが前記長針より短くなっていく様子が視認されるように表示される
ことを特徴とする車両用表示装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(下線は、補正箇所を明示するためのものである。)
「メータ表示領域と副表示領域とを有するディスプレイと、
前記ディスプレイに表示される表示内容を、通常表示、メンテナンス表示、または他の情報表示に切り換えるように制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記通常表示時には、前記メータ表示領域に、車両の走行速度及びエンジン回転数の計測量を示す文字板に相当する表示意匠を表示し、前記副表示領域に、前記文字板に相当する表示意匠と共にアナログ指示計器を構成して前記計測量を指示する、長針の指針を表示し、前記メンテナンス表示時には、前記メータ表示領域に表示されていた前記表示意匠を消去し、前記副表示領域に前記メンテナンス表示をアニメーションにより表示し、前記他の情報表示時には、前記メータ表示領域に前記表示意匠を表示し、前記副表示領域に、前記長針より短い短針の前記指針を、長さが前記長針から短針まで段階的に短くなっていく様子が視認されるように表示した後、前記走行速度、前記エンジン回転数及び前記メンテナンス表示以外の他の情報を前記短針の指針と共に表示するように制御する
ことを特徴とする車両用表示装置。」

2.本件補正の適否についての判断
2-1.本件補正の目的
特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、本件補正前の請求項1における発明特定事項についての限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2.独立特許要件
上記2-1.で検討したように、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、次に、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-2-1.原査定の拒絶理由に引用された引用文献
2-2-1-1.特表2003-512230号公報(以下、「引用文献1」という。)
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の事項が図面とともに記載されている。
(ア)「【0007】
さらに有利には、運転パラメータないし作動パラメータとして、油圧、冷却水温度、発電機機能データ、外気温などの測定量が検出される。というのもこれらの測定量の全てがエンジンの機能性に対してもしくは走行安全性に関して重要なものだからである。作動パラメータの固有表示部への直接の表示の他にもこれらの作動パラメータを、他の測定量の最大(極大)ないし最小(極小)スケール値の算出に用いることも可能である。特に速度スケールの場合には、作動パラメータへの適応化が有利である。例えば油圧の異常な低下や冷却水温の異常な上昇などの車両欠陥の際には、特にエンジン破損を回避するためにも、過度に速い走行はしない方がよい。また温度センサを介して検出された外気温が氷点領域にある場合には、アイスバーンによって車両のスリップの危険性が高まる。そのため、車両の適応化された速度がもたらされる。この場合ドライバへの指示は、既に前述したように、拡大され変色されたおよび/または詳細化された速度表示が行われる。」(段落【0007】)
(イ)「【0012】
さらに有利には、インストルメントクラスタの表示部が液晶ディスプレイあるいはヘッドアップディスプレイで実施される。この2つのディスプレイは、CRTディスプレイに比べて占有スペースが少なくて済、車両のユーザーにとっても良好に読み出せるものである。」(段落【0012】)
(ウ)「【0014】
図面
図面には本発明の実施例が示されており、これらは以下の明細書で詳細に説明する。この場合、
…(中略)…
図3は、自由にプログラミング可能なインストルメントクラスタの丸型計器での速度表示を示した図であり、
…(中略)…
図5は、自由にプログラミング可能なインストルメントクラスタの丸型計器での本発明による方法に従った、さらに別の速度表示を示した図であり、
図6は、付加的に警告マークの伴ったさらなる速度表示を示した図であり、
…(後略)…」(段落【0014】)
(エ)「【0015】
実施例の説明
以下の明細書では本発明の実施例を、表示すべき測定値として目下の車両速度に基づいた例で詳細に説明する。
【0016】
図1には本発明による車両速度の表示のための方法が示されている。初期化ステップ10においては、例えばエンジンの始動などのもとで車両速度の表示が初期化される。速度表示に対する標準作動データ、例えば速度表示の最大スケール値(これは車両の最大速度に依存している)および最小スケール値が、有利には不揮発性メモリから表示装置のメモリにロードされる。有利には、最大のスケール値は、車両の構造条件に基づく最高速度を例えば40km/hだけ上回ったものである。最小のスケール値としては、当該実施例においては0km/hである。これによってまず最初に速度の表示に対する表示領域が確定される。初期化ステップ10の後にはデータ検出ステップ11が続けられる。このデータ検出ステップ11では速度表示の設定に係わる全てのデータが求められる(特に表示領域に対して)。これについては、車両に既存のナビゲーション装置を介して車両の自車位置が検出される。この車両自車位置からは、車両の走行している道路のクラスが求められ、その道路クラスから、記憶されている最高速度に依存して許容最高速度が求められる。さらに車両に設けられているカメラを介して、データ検出ステップ11の最後に実行された時点から現時点に至るまでに、許容最高速度に優先する交通標識がカメラによって検出されたかどうかが検査される。…(中略)…
【0017】
引続き計算ステップ12においては、データ検出ステップ11において検出されたデータから速度表示の最大スケール値が求められる。…(中略)…
【0018】
計算ステップ12に続いて判定ステップ13では、前記計算ステップ12によって速度表示の新たな最大スケール値が生じているか否かが検査される。生じている場合には、表示ステップ14に進められる。
【0019】
この表示ステップ14においては、自由にプログラミング可能なインストルメントクラスタの表示部に速度スケールが新たな最大スケール値に適合化される。…(後略)…」(段落【0016】ないし【0019】)
(オ)「【0022】
図3には自由にプログラミング可能な表示の一部として速度計表示が示されている。…(中略)…この速度計表示では指針33が示されており、この指針が第1のスケール30上を移動する。その際この指針33は、有利な実施例においては機械的な構成部品としてではなく、第1ないし第2の速度計表示21,210の中でグラフィカルに表示されたものでもよい。…(中略)…第1のスケール30はスケール目盛り31を有しており、このスケール目盛り31にはラベル32が付されている。図を分り易くするために、これらのラベルには数字が付されているだけであるが、その他にもスケール目盛りや文字の選択が可能である。特別なラベルとして最大のスケール値320は強調されている。測定値の表示、つまり車両の目下の速度の表示は、第1のスケール30上の指針33の適切な位置付けによって行われる。それによりこの指針の位置は1つの速度値に一義的に対応付け可能である。」(段落【0022】)
(カ)「【0024】
図5には第3のスケール36が示されており、これは第3の最大スケール値370=60km/hを有している。許容速度はここでは30km/hであり、いわゆるテンポ-30-ゾーンの例である。
【0025】
図6には第3のスケール36の他に警告シンボル39が示されている。これはドライバに一般的に生じ得る危険性、例えばアイスバーン形成の恐れなどを示唆している。図中には示されていないが、ここではその他の状況に関する警告シンボル、例えばアイスバーン形成の恐れを示す雪印、油圧低下を示すオイルジョッキ、冷却水の異常上昇を示す冷却水マークなども可能である。短縮された指針38は、目下の速度の表示に用いられる。但しこの短縮によって警告シンボル39の下に隠れることはない。」(段落【0024】及び【0025】)

(2)上記(1)及び図面からわかること
(a)上記(1)(イ)ないし(カ)並びに図3、図5及び図6からみて、特に、図5及び図6に示される丸型計器は、「第3のスケール36と警告シンボル39を表示する表示領域とを有するディスプレイ」を備えることがわかる。
(b)上記(1)(ウ)ないし(カ)並びに図5及び図6からみて、図5及び図6に示される丸型計器のディスプレイに表示される表示内容は、速度のみ表示、または他の情報表示に切り換えられることがわかる。したがって、丸型計器のディスプレイに表示される内容を、速度のみ表示、または他の情報表示に切り換えるように制御する制御手段を備えていることもわかる。
(c)上記(1)(ウ)ないし(カ)、上記(b)並びに図5及び図6からみて、「前記制御手段は、図5に示す車両の走行速度のみ表示時には、前記第3のスケール36に、車両の走行速度の計測量を示す文字板に相当する表示意匠を表示し、前記警告シンボル39を表示する表示領域に、前記文字板に相当する表示意匠と共にアナログ指示計器を構成して前記計測量を指示する、長針の指針33を表示し、図6に示す他の情報表示時には、第3のスケール36に前記表示意匠を表示し、前記警告シンボル39を表示する表示領域に、前記指針33より短縮された指針38を表示すると共に前記走行速度及び前記警告シンボル39を表示するように制御する」ことがわかる。

(3)引用文献1記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。
「第3のスケール36と警告シンボル39を表示する表示領域とを有するディスプレイと、
前記ディスプレイに表示される表示内容を、車両の走行速度のみ表示、または他の情報表示に切り換えるように制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記車両の走行速度のみ表示時には、前記第3のスケール36に、前記車両の走行速度の計測量を示す文字板に相当する表示意匠を表示し、前記警告シンボル39を表示する表示領域に、前記文字板に相当する表示意匠と共にアナログ指示計器を構成して前記計測量を指示する、長針の指針33を表示し、前記他の情報表示時には、前記第3のスケール36に前記表示意匠を表示し、前記警告シンボル39を表示する表示領域に、前記指針33より短縮された指針38を表示すると共に前記走行速度及び前記警告シンボル39を表示するように制御する、車両における丸型計器。」

2-2-1-2.特開2002-362184号公報(以下、「引用文献2」という。)
(1)引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の事項が図面とともに記載されている。
(サ)「【0017】
【発明の実施の形態】本発明の一実施形態の車両用表示装置を図面を参照して以下に説明する。
【0018】本実施形態の車両用表示装置11は、図1に示すように、実像と虚像とを前後に位置をずらして表示する(具体的には実像を手前側に虚像を奥側に表示する)ことで3次元的な表示が可能な表示部12と、この表示部12の表示内容を制御するCPU(総合制御部)13とを有するものである。なお、この車両用表示装置11が設けられる車両は、CPU13で管理される電子制御自動車である。
【0019】まず、表示部12について説明する。表示部12は、車両のインストルメントパネル15に運転者に対向するように設けられるもので、インストルメントパネル15の上面を構成するとともに運転者側(図1における右側)に突出するバイザー16の下側奥方に運転者に対向するように設けられた第1表示器17を具備している。この第1表示器17は、運転者に対し実像を表示させるもので液晶画面からなっている。
【0020】また、表示部12は、バイザー16の下側であって第1表示器17の運転者側に、運転者側が上側に位置するように傾けられて設けられたハーフミラー18と、このハーフミラー18に対し近接しかつ直交して下側に設けられた全反射ミラー19と、この全反射ミラー19の運転者側に設けられてこの全反射ミラー19に映像を投影することでハーフミラー18に虚像を表示させる液晶画面からなる第2表示器20と、第1表示器17とハーフミラー18との間を囲むように設けられたケース21とを有している。」(段落【0017】ないし【0020】)
(シ)「【0044】車両状態判別部30が、通常走行時と判別した場合、情報選択部31で選択され表示制御部32で表示が制御される情報データの画像は、図4に示すようになっている。
【0045】すなわち、図4(a)に示すように、第1表示器17により、始動後かつ停止時と同様、内部情報データである車速情報の数字情報33を中央の円形の主表示範囲34に実像で表示させるとともに、その周囲に車速レベルの目盛り35を実像で表示させ、さらに法定速度を示す目盛り35aの色を変えて実像で表示させてその外側に矢印40を実像で表示させる。これらに加えて、第1表示器17により、内部情報センサ26の車速センサからの内部情報データである車速情報のグラフィック情報36を目盛り35の対応する位置まで実像で表示させる。
【0046】このとき、図4(b)に示すように、第2表示器20による虚像表示は行わない。
【0047】以上により、図4(c)に示すように、運転者に対しては、実像表示のみが行われる。」(段落【0044】ないし【0047】)
(ス)「【0060】車両状態判別部30が、通常走行時および法定速度超過走行時であって料金所のETCに近接した状態と判別した場合、情報選択部31で選択され表示制御部32で表示が制御される情報データの画像は、図8に示すようになっている。
【0061】すなわち、図8(a)に示すように、第1表示器17により、中央の円形の主表示範囲34への表示は行わず、その周囲に車速レベルの目盛り35を実像で表示させる。これに加えて、第1表示器17により、法定速度を示す目盛り35aを他に対し色を変えて実像で表示させるとともにその外側に矢印40を実像で表示させ、さらに、内部情報データである車速情報のグラフィック情報36を目盛り35の対応する位置まで実像で表示させる。さらに、第1表示器17により、内部情報データである車速情報の数字情報33を主表示範囲34の下側に位置をずらして実像で表示させる。
【0062】このとき、例えば外部情報センサ27のうちの地上波受信機でETCからの外部情報データである地上波が受信されており、図8(b)に示すように、第2表示器20により、この地上波に基づく外部情報データであるETCが近づいていることを示すETC情報44を中央の円形の主表示範囲34に虚像で表示させる。ここで、ETC情報44は、運転席から見たETCゲートの様子を模式的に描いたもので表現されている。
【0063】以上により、図8(c)に示すように、運転者に対しては、主表示範囲34にETCが近づいていることを示すETC情報44が虚像で奥方に表示され、手前側に、車速情報の数字情報33等が実像で表示される。
【0064】これにより、走行中にETCに近づいていない状況においては、内部情報データすなわち第1表示器17による実像のみが表示されており、この状態からETCに近づくと、当該内部情報データに加えて外部情報データを含むものを表示させる状態に切り替わることになり、この場合に、内部情報データである車速情報の数字情報33を外部情報データであるETC情報44の表示位置に対しずれた位置に移動させて表示させるように制御することになる。」(段落【0060】ないし【0064】)
(セ)「【0089】また、図2?図12の例では、ETCの近接状況および運転者支援システムの作動状況を虚像で表示させる場合を例にとり説明したが、虚像表示させるものは、実像表示させる上記重要機能情報の次に重要な機能情報であり、ETCの近接状況および運転者支援システムの作動状況以外に、メンテナンスが必要な部分についてメンテナンスを促すスマートメンテ情報等を表示させることができる。この場合、表示の順番は、例えば、オートクルーズコントロールで走行している状態において、車全体を表示させ、その中でメンテナンスが必要な個所を赤ランプで表示させ、例えばメンテナンスがブレーキパッドの摩耗であれば、次にタイヤ部分を拡大表示させて、ブレーキ部分を拡大表示させる等を、連続動画で表示させるようにしてもよい。」(段落【0089】)
(ソ)「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態の車両用表示装置の全体構成を示す一部構成をブロックとした側断面図である。
…(中略)…
【図4】 本発明の一実施形態の車両用表示装置の表示部における通常走行時の表示内容を示す正面図であって、(a)は実像を、(b)は虚像を、(c)は実像と虚像とを重ねた実際の画像を、それぞれ示している。
…(中略)…
【図8】 本発明の一実施形態の車両用表示装置の表示部における、通常走行時および法定速度超過走行時であって料金所のETCに近接した状態の表示内容を示す正面図であって、(a)は実像を、(b)は虚像を、(c)は実像と虚像とを重ねた実際の画像を、それぞれ示している。
…(後略)…」(【図面の簡単な説明】)

(2)上記(1)からわかること
(a)上記(1)及び図1、4、8からみて、「表示部12」は「車速情報を表示する車速レベルの目盛り35と主表示範囲34を有する」ことがわかる。
(b)上記(1)及び図1、4、8からみて、「表示制御部32」は「前記表示部12に表示される表示内容を、通常走行時の表示、または車速情報及びメンテナンスの表示に切り換えるように制御」し、さらに、「前記通常走行時の表示時には、前記車速レベルの目盛り35に、車速情報のグラフィック情報36を表示し、前記車速情報及びメンテナンスの表示時には、前記主表示範囲34に前記メンテナンスの表示を連続動画により表示するように制御する」ことがわかる。

(3)引用文献2記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下、「引用文献2記載の発明」という。)が記載されているといえる。
「車速情報を表示する車速レベルの目盛り35と主表示範囲34を有する表示部12と、
前記表示部12に表示される表示内容を、通常走行時の表示、または車速情報及びメンテナンスの表示に切り換えるように制御する表示制御部32とを備え、
前記表示制御部32は、前記通常走行時の表示時には、前記車速レベルの目盛り35に、車速情報のグラフィック情報36を表示すると共に前記主表示範囲34に車速情報の数字情報33を表示し、前記車速情報及びメンテナンスの表示時には、前記車速レベルの目盛り35に、車速情報のグラフィック情報36を表示すると共に前記主表示範囲34に前記メンテナンスの表示を連続動画により表示するように制御する、車両用表示装置11。」

2-2-2.対比
本願補正発明と引用文献1記載の発明を対比すると、引用文献1記載の発明における「第3のスケール36」は、その構造及び機能等からみて、本願補正発明における「メータ表示領域」に相当し、以下同様に、「警告シンボル39を表示する表示領域」は「副表示領域」に、「長針の指針33」は「長針の指針」に、「短縮された指針38」は「短針の指針」に、「車両における丸型計器」は「車両用表示装置」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1記載の発明における「車両の走行速度のみ表示」は、通常走行時の表示、すなわち、通常表示といえるものであることが明らかであるから、本願補正発明における「通常表示」に相当するといえる。
そうすると、本願補正発明と引用文献1記載の発明は、
「メータ表示領域と副表示領域とを有するディスプレイと、
前記ディスプレイに表示される表示内容を、通常表示、または他の情報表示に切り換えるように制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記通常表示時には、前記メータ表示領域に、車両の走行速度の計測量を示す文字板に相当する表示意匠を表示し、前記副表示領域に、前記文字板に相当する表示意匠と共にアナログ指示計器を構成して前記計測量を指示する、長針の指針を表示し、前記他の情報表示時には、前記メータ表示領域に前記表示意匠を表示し、前記副表示領域に、前記長針より短い短針の前記指針を表示し、前記走行速度及び他の情報を前記短針の指針と共に表示するように制御する
車両用表示装置。」
の点で、一致し、次の(1)及び(2)の点で相違する。
(1)本願補正発明においては、「メータ表示領域と副表示領域とを有するディスプレイ」に「表示される表示内容を、通常表示、メンテナンス表示、または他の情報表示に切り換えるように制御する制御手段とを備え、」「前記メンテナンス表示時には、「前記副表示領域に前記メンテナンス表示をアニメーションにより表示」するのに対して、引用文献1記載の発明においては、「第3のスケール36と警告シンボル39を表示する表示領域とを有するディスプレイ」に「表示される表示内容を、通常表示、または他の情報表示に切り換えるように制御する制御手段とを備え」てはいるものの、本願補正発明における「メンテナンス表示」に相当するものをそもそも有していない点(以下、「相違点1」という。)。
(2)本願補正発明においては、「通常表示時」に、「メータ表示領域」に、表示されるものが、「車両の走行速度及びエンジン回転数の計測量を示す文字板に相当する表示意匠」であるのに対して、引用文献1記載の発明においては、「車両の走行速度を示す文字板に相当する表示意匠」のみである点(以下、「相違点2」という。)。
(3)本願補正発明においては、「前記他の情報表示時には、」「前記副表示領域に、前記長針より短い短針の前記指針を、長さが前記長針から短針まで段階的に短くなっていく様子が視認されるように表示した後、前記走行速度、前記エンジン回転数及び前記メンテナンス表示以外の他の情報を前記短針の指針と共に表示する」のに対して、引用文献1記載の発明においては、「前記他の情報表示時には、」「前記警告シンボル39を表示する表示領域に、前記指針33より短縮された指針38を表示すると共に前記走行速度及び前記警告シンボル39を表示する」にすぎない点(以下、「相違点3」という。)。

2-2-3.相違点1及び2についての判断
(1)相違点1について
本願補正発明と引用文献2記載の発明を対比すると、引用文献2記載の発明における「車速情報を表示する車速レベルの目盛り35」は、その構造及び機能等からみて、本願補正発明における「メータ表示領域」に相当し、以下同様に、「主表示範囲34」は「副表示領域」に、「表示部12」は「ディスプレイ」に、「通常走行時の表示」は「通常表示」に、「表示制御部32」は「制御手段」に、「車速情報のグラフィック情報36」は「車両の走行速度の計測量を示す文字板に相当する表示意匠」に、「連続動画」は「アニメーション」に、それぞれ相当する。
そして、引用文献2記載の発明における「車速情報及びメンテナンスの表示」は、「メンテナンスを含む表示」という限りにおいて、本願補正発明における「メンテナンス表示」に相当する。
よって、引用文献2記載の発明は次のように書き換えることができる。
「メータ表示領域と副表示領域とを有するディスプレイと、
前記ディスプレイに表示される表示内容を、通常表示、またはメンテナンスを含む表示に切り換えるように制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記通常表示時には、前記メータ表示領域に、車両の走行速度の計測量を示す文字板に相当する表示意匠を表示し、前記メンテナンスを含む表示時には、前記副表示領域に前記メンテナンス表示をアニメーションにより表示する
車両用表示装置。」
よって、「ディスプレイに表示される表示内容を、通常表示、またはメンテナンスを含む表示に切り換えることを可能とし、しかも、前記メンテナンスを含む表示時には、前記副表示領域に前記メンテナンス表示をアニメーションにより表示する技術」を引用発明2記載の発明は具備していることになる。
ここで、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明は、車両用表示装置という同一の技術分野に属し、また、限られたスペースで多くの情報を分かりやすく表示するという周知の課題を共に内在している。そして、引用文献1記載の発明において、まず、ディスプレイに表示される表示内容として、メンテナンス表示に切り換える構成を追加し、さらに、前記メンテナンス表示時の表示として、引用発明2記載の発明における、「前記副表示領域に前記メンテナンス表示をアニメーションにより表示する」ようにすることにより、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、引用文献2記載の発明においては、メンテナンスを表示する時には、車速情報のグラフィック情報36も同時に表示しているところ、メンテナンスを表示する主表示範囲34と車速情報のグラフィック情報36を表示する車速レベルの目盛り35は表示部12内の別の場所であるから、車速情報のグラフィック情報36とメンテナンス情報を同時に表示しても、メンテナンス情報の表示に支障が出ることはなく、車速情報のグラフィック情報36の表示の有無は当業者が必要に応じて適宜選択可能な設計事項にすぎない。
(2)相違点2について
車両用表示装置において、「通常表示時」に、「メータ表示領域」に、表示されるものを何にするかは、当業者が必要に応じて適宜選択可能な設計事項にすぎない。しかも、「通常表示時」に、「メータ表示領域」に、表示されるものを、本願補正発明のように、「車両の走行速度及びエンジン回転数の計測量を示す文字板に相当する表示意匠」とすることは、周知である(必要であれば、拒絶査定において例示した特開2003-329964号公報、書面による審尋において例示した特開平7-112629号公報を参照されたい。)。
(3)相違点3について
車両用表示装置において、「指針の長さが段階的に変化していく様子が視認されるように表示」することは、周知の技術である(必要であれば、特開2003-121212号公報(なお、同公報の第11ページ第19欄第26ないし29行の「指針部182の発光部分が順次短くなる現象がフロントパネル30を通して視認されることにより視認者である当該乗用車の乗員に斬新な見栄えを提供できる。」に注意されたい。)、特開平10-332438号公報(なお、同公報の第4ページ第5欄第36ないし38行の「指針1に設けたLED4を順次点灯することにより、新規な表示を提供することができ」に注意されたい。)を参照されたい。以下、単に「周知技術」という。)。そして、引用文献1記載の発明において、この周知技術を適用して、「前記他の情報表示時には、」「前記副表示領域に、前記長針より短い短針の前記指針を、長さが前記長針から短針まで段階的に短くなっていく様子が視認されるように表示した後、前記走行速度、前記エンジン回転数及び前記メンテナンス表示以外の他の情報を前記短針の指針と共に表示する」ようにすることにより、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

2-2-4.まとめ、
本願補正発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が格別な困難性を伴うことなく容易に想到しうる程度のものであり、しかも、本願補正発明は、全体構成でみても、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明並びに周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。
したがって、本願補正発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成22年3月3日付けの手続補正は上記第2.のように却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成21年8月31日付けで提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもの(以下、「本願発明」という。)であり、上記第2.の〔理由〕1.(a)に記載したとおりのものである。

2.引用文献の記載内容
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(特表2003-512230号公報)及び引用文献2(特開2002-362184号公報)には、上記第2.の〔理由〕2-2-1.のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2.の〔理由〕2-1.で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2.の〔理由〕2-2.に記載したとおり、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-23 
結審通知日 2011-03-01 
審決日 2011-03-15 
出願番号 特願2005-7748(P2005-7748)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60K)
P 1 8・ 575- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 俊厚寺川 ゆりか  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 西山 真二
金澤 俊郎
発明の名称 車両用表示装置  
代理人 松村 貞男  
代理人 瀧野 秀雄  
代理人 瀧野 文雄  

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