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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1236009
審判番号 不服2007-20372  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-23 
確定日 2011-04-27 
事件の表示 平成 8年特許願第500419号「組換えウイルス、製造方法および遺伝子治療での使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年12月14日国際公開、WO95/33840、平成10年 1月27日国内公表、特表平10-500859〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,1995年5月22日(優先権主張1994年6月2日,フランス)を国際出願日とする出願であって,平成19年4月17日付で拒絶査定がなされたところ,平成19年7月23日付で審判請求がなされるとともに,平成19年8月20日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成19年8月20日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年8月20日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正により,請求項1は,
「リポタンパク質リパーゼ(LPL)またはその誘導体をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルスであって,該誘導体は天然の配列に関して1以上のアミノ酸が置換,付加或いは削除されたアミノ酸配列を有し且つリポタンパク質リパーゼ活性を有する,上記欠陥組換えウイルス。」
から,
「リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス。」に補正された。

上記補正は,補正前の請求項1の,「リポタンパク質リパーゼ(LPL)」または「その誘導体」のうち,「その誘導体」に関する事項を削除し,前者のみに限定するものであるので,請求人も主張するとおり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について,以下に検討する。

2.当審の判断
(1)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるJournal of Internal Medicine,1992,Vol.231,No.6,p.669-677(以下,「引用文献1」という。)には,「高中性脂肪血症は,2.8mmol l^(-1)を超える空腹時トリグリセリド・レベルによって定義され,流行している異常リポ蛋白血症である。高い血漿トリグリセリドに帰着する根本的な病態生理学のメカニズムは雑多であり,ほとんどの場合不完全にしか理解されない。しかしながら,この脂質疾患を呈する患者の部分集合において,高中性脂肪血症へ導く生化学および遺伝的欠陥は,よく特徴づけられた。これらの個体は,家族性高カイロミクロン血症症候群,すなわち,常染色体の劣性形質として遺伝し,深刻な空腹時高中性脂肪血症が特徴であり,血漿中のカイロミクロンの大量の蓄積及び膵臓炎の周期的な発作で特徴付けられる,まれな遺伝病,を呈する。家族性高カイロミクロン血症症候群の2つの主な原因は,酵素,リポ蛋白質リパーゼ(LPL)あるいはその共同因子(アポリポ蛋白質(apo)C-II)の欠損である。ともに,これらの2つのタンパク質は,カイロミクロンと超低密度リポ蛋白質の中にあるトリグリセリドの加水分解を触媒する。過去十年間で,家族性高カイロミクロン血症に結びつく根本的な分子の欠陥についての我々の理解は,LPLおよびapoC-IIのための遺伝子中の突然変異の同定によって非常に増強された。これらの欠陥の特性化は,apoC-IIおよびLPLの構造および機能に対する新しい知見を提供しており,これらの2つのタンパク質が正常なトリグリセリド代謝の中で果たす重要な役割を確立した。」(Abstractの項)と記載され,
672頁右欄から674頁にかけてLPL欠損についての説明がなされ,その中で「LPLは肝外での組織で合成され,LPL mRNAは乳腺と同様に脂肪細胞,副腎の組織,心臓および骨格筋の中でとても豊富である[39]。・・・・・・。これらのmRNAは,27アミノ酸からなるシグナルペプチドに続いて,約8%の炭水化物量で非常にグリコシル化された448残基の成熟タンパク質をコードしている[39]。」(672頁右欄36?47行)と記載され,
675頁のSummaryの項の最後に,「LPL又はapoC-IIどちらかの欠損に導く遺伝子の欠陥の解明は,この症候群によってひどく冒されている個人における,未来の遺伝子治療の可能性の基礎を与えるであろう。」と記載されている。

原査定の拒絶の理由に引用された,本願優先日前に頒布された刊行物であるProc.Natl.Acad.Sci.USA,1986,Vol.83,p.6563-6567(以下,「引用文献2」という。)は,「レトロウイルスにより媒介される遺伝子転移による,培養ヒトT及びB細胞におけるアデノシンデアミナーゼ欠損の補正」の表題の論文であり,
「クローンされたアデノシンデアミナーゼ(ADA)のヒトcDNAを含んでいるSAXと呼ばれるレトロウイルス・ベクターが構築され,ADA欠損症の患者に由来した,培養されたT-リンパ細胞およびBリンパ細胞へADA遺伝子を導入するために使用された。DNA分析は,SAXベクトルがTとB細胞へ完全で,1つの細胞当たりおよそ1つのコピーに挿入されたことを示した。扱われた細胞は,正常なTおよびBリンパ細胞に似ているレベルに人間のADAの特有のアイソザイムを生産した。ADA不十分なリンパ細胞がハイ・レベルの2'-デオキシアデノシンに異常に敏感であることは知られている。また,これは,ADA欠損症に生体内で関連した選択的なリンパ細胞毒性の基礎となると考えられるメカニズムである。導入されたADA遺伝子の発現は2'-デオキシアデノシンの毒性へのこれらの遺伝学的に不十分なリンパ細胞の過敏さを逆にするのに十分だった。これらの結果は,レトロウイルス・ベクター遺伝子運搬システムが人間の遺伝子治療への適用のための見込みを示す提案を支援する。」(要約の項)と記載されるとともに,本文に具体的な方法と結果が記載されている。

原査定の拒絶の理由に引用された,本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第94/11506号パンフレット(以下,「引用文献3」という。)には,「本発明は,心筋又は血管平滑筋細胞において機能を制御するためにアデノウィルス介在遺伝子転移を使用することに関する。遺伝子産物をコードするDNA配列を含む組換えアデノウィルスは,心筋又は血管平滑筋細胞に送達される。そして,細胞は,遺伝子産物が発現するまで維持される。送達は,筋細胞に直接注射するか,又はアデノウィルスベクター構築物を含む医薬組成物を脈管内に注入することである。」(要約の項)と記載され,
「実施例2: AdCMV β-galの機能発現
成体の兎を麻酔に掛け,カテーテルを,右頸動脈又は内側頸静脈に挿入した。カテーテルの先端を,左冠動脈又は冠湾曲卵管口に向けて,X線透視のもとに進めた。AdCMV β-galを構成する約1000μg?1500μgのアデノウィルスベクターが,実施例1の方法で調製され,生理的に緩衝された含塩物中に懸濁された。約2x109のpAdCMV β-galのプラーク形成単位(pfu)が,挿入カテーテル中に注入された。カテーテルを取り除き,全ての切開部分を閉じ,兎を蘇生させた。兎は,注射後約21日迄に5匹が殺された。その心臓と,一緒の脈管構造を取り除き,以下に示す様に,β-gal活性を組織化学的に試験した。
左心室の3mm断面を,1.25%のグルタルアルデヒドと共にPBS中に室温で5分間置き,PBS中で室温で3回洗浄し,ナーべル等[Nabel et al.(Nabel,et al.,(1989)]の記述の様に4-6時間,X-gal(Biorad)で,β-ガラクトシダーゼ活性の為に染色した。この3mm断面を,グリコメトシルレートで埋封し,4-7μmの断面をカットし,前述(Nabel,et al.,(1989)の様にヘマトキシリンとエオシンで逆染色した。コダックエクタクローム200ファイルとライツラボルラックスD(Leitz Laborlux D)及びワイルドM8顕微鏡(Wild M8 microscope)を使用して顕微鏡写真を撮った。β-gal活性は,冠血管平滑筋及び心筋細胞で観察された。」(19頁12行?20頁2行)と記載されている。

(2)対比
引用文献1には,上記のようにリポタンパク質リパーゼ欠損による家族性高カイロミクロン血症症候群の遺伝子治療の可能性が示されている。
そうすると,本願補正発明と引用文献1の記載を比較すると,両者はリポタンパク質リパーゼに関するものである点では一致しているが,
引用文献1には,本願補正発明の「リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス」が記載されていない点で相違している。

(3)判断
引用文献1には,上記のようにリポタンパク質リパーゼ欠損による家族性高カイロミクロン血症症候群の遺伝子治療の可能性が示されているのであるから,家族性高カイロミクロン血症の治療に興味のある当業者であれば,当然に家族性高カイロミクロン血症症候群の遺伝子治療をしてみようと,強く動機付けられるものである。そしてそのときに,遺伝子治療をすることが直ちにできないとしても,遺伝子治療の基礎研究をしてみようとすることは当然にあることである。
そして,遺伝子治療のために体組織に遺伝子を導入する方法として,引用例2や引用例3に複製欠陥のレトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターが記載されているのであるから,遺伝子導入の手段として,当業者は容易にこれらを用いることができるものである。
また,家族性高カイロミクロン血症の原因としてリポタンパク質リパーゼ欠損が知られているのであり,しかも引用文献1のリファレンスに39として示される文献(Science, 235, (1987)p. 1638-1641)やGenBankのデータベースにアクセッション番号M15856として登録されているデータから当業者は容易にリポタンパク質リパーゼをコードする核酸配列を知ることができるのであるから,引用例2のアデノシンデアミナーゼと同じく,正常なリポタンパク質リパーゼを導入して発現させようとし,本願発明のように,リポタンパク質リパーゼをコードする核酸配列を含むレトロウイルスやアデノウイルスなどの欠陥組換えウイルスとすることは当業者が容易になしえることであり,これらを用いて,引用例2や3に記載されるように,細胞や動物を対象とした基礎研究を行うことができるようになるものである。
そして,本願の明細書の記載を見ても,実施例5においてプラスミドを293細胞に導入し,上澄みの活性は示されるものの,実施例7のマウスを用いた例においては,その結果を示し,具体的に効果を確認もしていないものであり,本願補正発明の欠陥組換えウイルスが,引用文献1?3の記載から予測できない効果を有しているとは認めることができない。

なお,請求人は,引用文献1の記載は遺伝子治療が未だ早すぎることを示唆するので,引用文献1が頒布された1994年の時点において,当業者がLPL欠損患者に遺伝子治療を試みることの動機付けは何ら存在しないものであり,実際,1994年時点の技術常識では,遺伝子治療は未だ仮定に過ぎなかったので,本願補正発明のような遺伝子治療ベクターを用いて新たな疾患治療を見出すことが容易でなかったことは明らかであり,また,実際,遺伝子治療は予測できない分野であり,特に1994年当時においては,如何なる遺伝子治療による処置が本当に働くのか或いは疾患を治癒に導くのかを予測することは到底不可能であり,それ故,本願補正発明の効果は,引用文献の記載からは全く予測されるものではないことを主張しているので検討する。
確かに,リポタンパク質リパーゼ欠損による家族性高カイロミクロン血症の遺伝子治療の実施には,引用文献1にも将来の話として記載されているように,本願優先日においても解決すべき様々な問題があったであろうし,直ちに遺伝子治療を実施できるような状況にはなかったものではあろうが,当業者が,実施のための基礎研究を行うことを阻害するような事情はなかったものである。また,1990年には,アデノシンデアミナーゼ欠損症に対して遺伝子治療がなされ(例えば,Human Gene Therapy, 1 (1990) p.371参照。),本願優先日前には遺伝子治療の技術は周知の技術的事項となっていたのであり(例えば,Blood, 76 (1990) p.271-278,Eur. J. Biochem., 208 (1992) p.211-225,Current Opinion in Genetics and Development, 3 (1993) p.499-503参照。),如何なる遺伝子治療による処置が本当に働くのか或いは疾患を治癒に導くのかを予測することは到底不可能というような技術水準ではなかったのである。そして,本願補正発明の効果について,Amsterdam Molecular Therapeutics社が,現在,AAVウィルスを含む2つの製品を開発しているとしても,それは様々な技術的課題を克服し,開発を行っているものであろうから参考になるものではない。上述したように,本願明細書の記載からは,引用文献1?3の記載から予測できない効果が確認できないのであるから,効果に関する請求人の主張も採用できるものでない。

以上のように,本願補正発明は,引用文献1?3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成19年8月20日付の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成18年11月7日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「リポタンパク質リパーゼ(LPL)またはその誘導体をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルスであって,該誘導体は天然の配列に関して1以上のアミノ酸が置換,付加或いは削除されたアミノ酸配列を有し且つリポタンパク質リパーゼ活性を有する,上記欠陥組換えウイルス。」

第4 当審の判断
本願発明は,本願補正発明の「リポタンパク質リパーゼ(LPL)をコードする核酸配列を含んでなる欠陥組換えウイルス。」を択一的に含むものである。そうすると,上記第2 2で述べたのと同じ理由で,本願発明は,引用文献1?3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願に係るその他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-10 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2010-01-04 
出願番号 特願平8-500419
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 晴絵  
特許庁審判長 平田 和男
特許庁審判官 鵜飼 健
上條 肇
発明の名称 組換えウイルス、製造方法および遺伝子治療での使用  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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