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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C03B
審判 全部無効 2項進歩性  C03B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C03B
管理番号 1236098
審判番号 無効2009-800032  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-17 
確定日 2011-05-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3074143号発明「ガラスカッターホイール」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3074143号の請求項1?10に係る発明は,特許法第41条に基づく優先権主張を伴って平成8年6月4日(優先権主張番号:特願平7-287175号,優先日:平成7年11月6日)に特許出願され,平成12年6月2日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し,トーヨー産業株式会社(以下,「請求人」という。)から平成21年2月17日付けで請求項1?10に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ,その後の手続の経緯は,次のとおりである。

請求人上申書(1): 平成21年 4月14日
答弁書: 平成21年 5月 7日
被請求人物件提出書: 平成21年 5月 7日
被請求人上申書(1): 平成21年 7月21日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成21年 8月28日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成21年 8月28日
請求人物件提出書: 平成21年 8月28日
口頭審理: 平成21年 8月28日
被請求人上申書(2): 平成21年 9月11日
請求人上申書(2): 平成21年 9月30日

第2 特許発明
本件無効審判請求の対象となった請求項1?10に係る発明は,本件明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?10に記載の次のとおりのものである。(以下,それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」という。)

【請求項1】 ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,
刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成したことを特徴とするガラスカッターホイール。
【請求項2】 ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイールにおいて,
刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成したことを特徴とするガラスカッターホイール。
【請求項3】 上記突起のピッチおよび高さを,ホイール径に応じた値とした請求項1又は2記載のガラスカッターホイール。
【請求項4】 上記突起のピッチを,1?20mmのホイール径に応じ20ないし200μmとした請求項1?3のいずれかに記載のガラスカッターホイール。
【請求項5】 上記突起の高さを,1?20mmのホイール径に応じ2ないし20μmとした請求項1?4のいずれかに記載のガラスカッターホイール。
【請求項6】 刃先に対し,直交方向に当接させたグラインダで切り欠くことで上記突起を形成する請求項1?5のいずれかに記載のガラスカッターホイール。
【請求項7】 刃先を放電加工機で加工することにより上記突起を形成する請求項1?5のいずれかに記載のガラスカッターホイール。
【請求項8】 テーブルに載置したガラス板に対して,カッターヘッドが相対的にXおよびY方向に移動する機構の自動ガラススクライバーにおいて,前記カッターヘッドに請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールを具備したことを特徴とする自動ガラススクライバー。
【請求項9】 柄の先に設けたホルダーに,請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールを回転自在に軸着してなることを特徴とするガラス切り。
【請求項10】 請求項1ないし7のいずれかに記載のガラスカッターホイールは,該ホイールに挿通される軸と一体的に形成されることを特徴とするガラスカッターホイール。

第3 請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は,本件発明1?10についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,証拠方法として下記の甲第1?20号証及び参考資料を提出して,その理由として,審判請求書,口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及びその後の上申書の内容を整理すると,概ね次のとおり主張している。
(1)無効理由1
本件発明1は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。よって,本件特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。
(2)無効理由2
本件発明1?10は,甲第1号証及び/又は甲第2号証に記載された発明,あるいは甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第4?7号証,甲第17?19号証),及びこれらと甲第8?12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって,本件特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。
(3)無効理由3
本件発明3?5は,当業者がその実施をすることができる程度に明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されたものではなく,特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができない。よって,本件特許は,特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。


甲第1号証:特開平6-56451号公報
甲第2号証:特開昭53-143622号公報
甲第3号証:実願昭54-8637号(実開昭55-107304号)のマイクロフィルム
甲第4号証:旭硝子株式会社のホームページの1997年3月27日付けニュースリリースの印刷物
甲第5号証:実願平3-54321号(実開平5-5952号)のCD-ROM
甲第6号証:実公昭61-34439号公報
甲第7号証:実願昭61-29982号(実開昭62-141825号)のマイクロフィルム
甲第8号証:特開平3-154797号公報
甲第9号証:特開平7-96461号公報
甲第10号証:特開平6-1628号公報
甲第11号証:実公昭62-23780号公報
甲第12号証:特開平3-138105号公報
甲第13号証:韓国特許第279184号発明の無効審判事件(審判2005当2271)における審決の訳文
甲第14号証:中国特許第96101939.5号発明の無効審判事件における審決(審決番号 WX10210)の訳文
甲第15号証の1:韓国特許第279184号発明の無効審判事件における韓国大法院の判決文
甲第15号証の2:甲第15号証の1の訳文
甲第16号証の1:韓国特許第279184号発明の特許登録原簿
甲第16号証の2:甲第16号証の1の訳文
甲第17号証:「旭硝子板ガラス建材総合カタログ」,旭硝子株式会社,1993年5月発行,146?147頁
甲第18号証:「ガラス瓦採光システム」,旭硝子株式会社,「‘92.4.D」との表示,6?7頁
甲第19号証:全国板硝子商工協同組合連合会,職業訓練法事業委員会編「ガラス施工法(上巻)」財団法人職業訓練教材研究会,平成5年2月10日発行,8?9頁
甲第20号証:特許・実用新案審査基準 第I部 第1章明細書及び特許請求の範囲の記載要件,16?17頁
参考資料:「甲第3号証に係る瓦カッターをビデオ撮影したものを記録した」と題するDVD-R

なお,甲第13?16号証の2は,本件特許に関連する外国出願の経緯を示す書証として提出されたものであり,甲第20号証は,特許審査基準を示す書証として提出されたものである。

2.証拠の記載事項
無効理由1,2で引用されている甲第1?12号証,甲第17?19号証には,それぞれ次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証:特開平6-56451号公報
(ア)「鋼製の円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成した,ホイールを回転自在に軸支してなるガラスカッターにおいて,
該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にしたことを特徴とするガラスカッター。」(特許請求の範囲 請求項1)
(イ)「このような条痕3を形成しておくことで,ホイール1をガラス板に圧接させた時,刃先2の先端部がガラス板に食い込むが,その時,刃先2に形成した条痕により,ホイール1とガラス板との噛み合いが確実となる。この状態でホイール1をガラス板上で転動させる時,図1に示した回転方向Bの方へ転動させれば,それと逆方向に転動させる場合と比較してより大きな噛み合い得ることができ,ホイール1のスリップをなくせる。つまり,上記のごとく形成したホイール1は,図2に示したように,ホイール1に鋸の刃先を形成したのと同等の効果が得られる。」(段落【0008】)
(ウ)「以下に図1に示したような条痕の形成方法について述べる。図3に示すように,矢印C方向に高速で回転している平板グラインダ4に対して鋼板1’の周縁を削り刃先2を形成するために,鋼板1’を斜めにして当接させながら,全周縁が研磨されるように,この鋼板1’を矢印Dの方向に低速に回転させる。」(段落【0009】)
(エ)「その場合の平面図を図4に示しており,鋼板1'の黒塗り部分が,グラインダ4との当接部,つまり研磨箇所を示している。この場合の条痕は,鋼板1'に同心円の条痕が形成される。又,図3において,鋼板1'をE方向にほぼ90°向きを変え,研磨箇所を図6のごとくすれば,その時の条痕は,放射方向になる。従って,図5で示すように,鋼板1'の向きを適当に変えて研磨すれば,図1で示したように,放射方向Aに対してθ方向の条痕を形成することができる。」(段落【0010】)
(オ)「刃先2の条痕によるガラス板への噛み合いを確実にするために,刃先2の表面粗さを比較的大きく(例えばJISB0601の3.2S(高さが3.2ミクロン))なるようにグラインダ4を選択する。・・・刃先2全体に対して条痕を形成したがガラス板と当接する箇所にのみ条痕を形成してもよい。」(段落【0011】)
(カ)「このホイールをガラス板上で所定の一方向へ転動させれば,刃先のガラス板への噛み合いが確実となり,・・・。」(段落【0012】)
(キ)「図1のホイールの刃先に鋸刃を形成した図」と説明される図2には,上記(イ)の「ホイール1に鋸の刃先を形成した」ことが視認される。(3頁)

(2)甲第2号証:特開昭53-143622号公報
(ア)「直径をその円周がつけようとする傷の長さより短くなるような大きさとしかつ刃先の斜面の研削すじに0?180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とすることを特徴とするガラス材カッター刃。」(特許請求の範囲 第1項)
(イ)「第7?9図に示す通り刃先の斜面1の研削すじ2に0?180°の角度∠αをつけ先端4を微小の鋸歯状にし軽く触れるだけで微細な傷5がつくようにしている。」(2頁左上欄11?14行)
(ウ)「本発明のカッター刃を示す平面図」と説明される第7図には,上記(イ)の「斜面1」,「研削すじ2」,「先端4」が視認される。(3頁)
(エ)「本発明のカッター刃を示す正面図」と説明される第8図には,上記(イ)の「研削すじ2」が「斜面1」の両側に設けられ,「先端4」において交差することが視認される。(3頁)

(3)甲第3号証:実願昭54-8637号(実開昭55-107304号)のマイクロフィルム
(ア)「この考案は屋根瓦を任意の方向に切断するために使用する瓦カッターに係る。」(2頁7?8行)
(イ)「(18)は上部刃車(17)と対抗するように固定板(3)上に立設した軸受(19)によって支持されたシャフト(20)の一端部に固設した下部刃車で,この下部刃車(18)にはその外周の刃先において等間隔に複数の切欠部(18)’を形成する。」(4頁9?13行)
(ウ)「瓦はその表裏両面に刃車(17)(18)によりV字状の溝とともにさらにこのV字から下向きの亀裂を切込むので,この切込み終了後瓦を取外すことなくそのままV字溝の任意の1個所を押圧ハンドル(6)により刃車(17)(18)を介して強く押圧することにより,瓦は罫書き線に沿って正確に切断される。」(5頁9?15行)
(エ)「特に下部刃車の外周に複数の切欠部を形成したので,瓦の裏面に多少の凹凸があっても刃先はよく瓦に喰込んでこれを円滑に前進せしめるとともに,この切欠部を通過する時上部刃車が上下動し,この振動が重錘等に伝わって一種の衝撃力となり,瓦に対しより深い切込みと亀裂とを生ぜしめることとなる。」(6頁7?14行)

(4)甲第4号証:旭硝子株式会社のホームページの1997年3月27日付けニュースリリースの印刷物
(ア)「昭和58年に,ガラス製の瓦で屋根開口部を葺く『ガラス瓦採光システム』の発売を開始」(ニュースリリース本文)

(5)甲第5号証:実願平3-54321号(実開平5-5952号)のCD-ROM
(ア)「本考案は,建物の屋根に設けた採光部のガラス瓦の固定構造に関するものである。」(段落【0001】)

(6)甲第6号証:実公昭61-34439号公報
(ア)「本考案は太陽光線集熱ガラス瓦屋根に関する。」(1頁1欄18行)

(7)甲第7号証:実願昭61-29982号(実開昭62-141825号)のマイクロフィルム
(ア)「この考案は家屋の瓦屋根において一部の瓦を外して天窓を構成する場合に,従来の瓦割りに合わせて任意の位置へガラス製透明瓦を載置安定して設置することができる瓦引掛桟付き天窓枠に関するものである。」(1頁18行?2頁2行)

(8)甲第8号証:特開平3-154797号公報
(ア)「本発明は,リード線カッタ,ワラ用カッタ,各種シート材用カッタ等の丸刃カッタおよびその製造装置と製造方法に係わり,特に,刃先を強化して刃先のチッピングを防止するとともに,切断材への切り込みを良好にするための改良に関する。」(1頁右下欄19行?2頁左上欄3行)
(イ)「刃部10Aの表面には,第3図および第4図に示すように切刃10Bに達する直線状の研削条痕13が全面に亙って多数形成され,これにより切刃10Bには多数の微小鋸刃14が形成されている。
これら微小鋸刃14の平均凹凸量は,丸刃カッタ10の半径方向に10?100μm,望ましくは20?50μmとされている。」(3頁右下欄6?13行)

(9)甲第9号証:特開平7-96461号公報
(ア)「本発明では,ツルーイング後の砥石表面に導電性膜を形成して各砥粒を導電性とし,対向配置した放電電極との間で微小放電を起こし,これにより平にカットされた超砥粒の先端表面に微細な凹凸を形成する。そして,本発明の超砥粒砥石においては,超砥粒先端に形成された微細な凹凸が被切削物に対する切刃として作用するので,切れ味が向上し,研削能率が改善され,また研削能率を上げても被削材の表面性状が悪化しない。」(段落【0010】)

(10)甲第10号証:特開平6-1628号公報
(ア)「回転自在のテーブルがY方向に移動し,カッターヘッドがX方向に移動する方式のガラススクライバーの側面図および正面図を図1および図2に示している。ガラス板がセットされるテーブル41は,回転テーブル42上に載っており,この回転テーブル42は,テーブル送りモータ43の回転軸に直結されたボールネジ44により,Y方向(図1で横方向)に延在する2本のレール45に沿って移動自在となっている。一方,ガラスカッターを備えるカッターヘッド46は,X方向(図2で横方向)に延在するレール47上をカッター軸モータ48の駆動により移動可能である。」(段落【0002】)

(11)甲第11号証:実公昭62-23780号公報
(ア)「本案のガラス切りを図面の実施例について説明すると,1は棒状のハンドルで,・・・4はハンドル1の開口側端部に設けられた軸受部で,・・・7は軸受部4内にそれを貫通してスライド可能に挿入された支持軸で,・・・10は支持軸7の他端に固着された切刃用のホルダで,・・・ホルダ10に軸着された円板状の切刃」(1頁2欄25行?2頁3欄35行)

(12)甲第12号証:特開平3-138105号公報
(ア)「カッターホイル1のホイルチップ部2と軸部3とが同一の部材で且つ一体に形成されている」(2頁左下欄17?19行)
(イ)「本発明に係るカッターホイルの一実施例を示す断面図」と説明される第1図には,上記(ア)の「カッターホイル1」,「ホイルチップ部2」,「軸部3」が一体に形成されていることが窺える。(5頁)

(13)甲第17号証:「旭硝子板ガラス建材総合カタログ」,旭硝子株式会社,1993年5月発行,146?147頁
(ア)「ガラス瓦採光システムは,ガラスの瓦で屋根開口部を葺く新しいトップライト・システムで,ガラス瓦と下地ユニット他の部品で構成されています。」(146頁左欄)

(14)甲第18号証:「ガラス瓦採光システム」,旭硝子株式会社,「‘92.4.D」との表示,6?7頁
(ア)「ガラス瓦採光システムは,ガラス瓦と,簡単に施工し雨仕舞できる部品セットで基本セットが構成されています。」(6頁)

(15)甲第19号証:全国板硝子商工協同組合連合会,職業訓練法事業委員会編「ガラス施工法(上巻)」財団法人職業訓練教材研究会,平成5年2月10日発行,8?9頁
(ア)「屋根工事の種類には,・・・かわらぶき,・・・,板ガラスぶきなどがある。」(9頁2?4行)

第4 被請求人の主張
被請求人は,請求人の上記主張に対して乙第1?14号証及び参考資料1?3を提示して,答弁書,口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び上申書の内容を整理すると,
(1)本件発明は,甲第1号証又は甲第2号証に記載の発明ではなく,甲第1?12号証及び甲第17?19号証から当業者が容易に発明をすることができないものである。したがって,本件発明は,特許法第29条第1項第3号,同法第29条第2項に違反して特許されたものではない。
(2)本件特許の明細書(以下,「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明には,当業者が容易に本件特許発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。よって,本件明細書は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしている。
と反論している。


乙第1号証:全国板硝子商工協同組合連合会,職業訓練法事業委員会編「ガラス施工法(上巻)」財団法人職業訓練教材研究会,平成5年2月10日発行,49?65頁
乙第2号証:「甲第1号証に示されている条痕の形成方法に従って作製したガラスカッターホイールの拡大顕微鏡写真」と題する写真
乙第3号証:「本件特許発明に属するガラスカッターホイールの拡大顕微鏡写真」と題する写真
乙第4号証の1:「高速度カメラによる撮影写真」と題し,「乙第2号証に記載されているガラスカッターホイール」及び「乙第3号証に記載されているガラスカッターホイール」と記載された写真
乙第4号証の2:「乙4号証の1に記載の写真の撮影方法」と題する図
乙第4号証の3:「ガラスカッターホイール(刃先)の切断条件」と題する図
乙第4号証の4:「刃先通過後の時間と垂直クラック量の関係」と題するグラフ
乙第5号証:本件特許に係る特願平8-141614号の平成12年1月24日付け拒絶理由通知書
乙第6号証:新村出編「広辞苑第五版」岩波書店,1998年11月11日発行,710頁,「きょし」の欄,及び2087頁,「のこぎり」?「のこぎりやま」の欄
乙第7号証:特許第4219945号公報
乙第8号証:新村出編「広辞苑」岩波書店,昭和30年5月25日第1版発行,1087頁,「しょてい」の欄
乙第9号証の1:実用新案登録第3085312号公報
乙第9号証の2:特開2005-335385号公報
乙第9号証の3:特開2006-103311号公報
乙第9号証の4:特開2007-31200号公報
乙第9号証の5:特開2007-152936号公報
乙第10号証:JIS B 0601-1982「表面粗さの定義と表示」,財団法人日本規格協会,昭和57年8月31日発行
乙第11号証:「乙第2号証のホイールの側面写真」及び「乙第3号証のホイールの側面写真」と題する写真
乙第12号証:実願昭53-9104号(実開昭54-112857号)のマイクロフィルム
乙第13号証:実公昭63-5843号公報
乙第14号証:実願平1-47882号(実開平2-139705号公報)のマイクロフィルム
参考資料1:「乙4号証の2にかかる高速度カメラによるビデオ撮影により得られた画像を記録した」と題するCD-R
参考資料2:社団法人砥粒加工学会会長奥山繁樹から三星ダイヤモンド工業株式会社冨森紘への書簡
参考資料3:「業績の概要ならびに技術の概要説明」と題する資料

第5 当審の判断
1.無効理由1について
1-1.甲第1号証について
甲第1号証には,記載事項(ア)によれば「ガラスカッター」の「ホイール」に関し,「円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成したホイール」において,「該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」ことが記載されているといえる。この記載を,本件発明1の記載ぶりに即して整理すると,甲第1号証には「円盤に対して両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成したホイールにおいて,該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にしたガラスカッターのホイール。」(以下,「甲第1発明」という。)が記載されているといえる。
そこで,本件発明1と甲第1発明とを対比すると,甲第1発明の「円盤」及び「ガラスカッターのホイール」は,それぞれ本件発明1の「ディスク状ホイール」及び「ガラスカッターホイール」に相当することは明らかである。また,甲第1発明の「両側の円周エッジ部を斜めに削り取り,側面から見て鈍角をなす刃先を形成した」ものは,後述する甲第1発明と本件発明1の「刃先」と「刃」の関係を論ずるまでもなく,本件発明1の「円周部に沿ってV字型の刃を形成してなる」ものをなすことは明らかといえる。
そうすると,両者は「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール。」である点で一致するが,以下の点で相違する。
相違点a:本件発明1はガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定がなされているのに対し,甲第1発明はガラスカッターのホイールにおいて「ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」と特定する点。
そこで,上記相違点aが実質的な相違点か否か,以下に検討する。
(1)まず,本件発明1の「刃先」及び「打点衝撃を与える所定形状の突起」との特定事項についての技術内容をそれぞれみておく。
本件発明1の「刃先」について,本件明細書には「ガラスカッターホイールは,・・・円盤に対して両側の円周エッジ部を互いに斜めに削り込み,円周面にV字形の刃を形成したもの」(段落【0002】),「そこで本願出願人は『ガラスカッター』(特開平6-56451号)において,図2に示されるように,刃を形成している両傾斜面に対してグラインダ等を用い,条痕3を形成する・・・。・・・実際には刃先の稜線部は肉眼で見る限りでこぼこのない真円である。」(段落【0005】),「図3に本発明の第1実施形態を示している。ホイール11の刃先の頂点である稜線部12に,拡大図Aに示すように,U字形状の溝13を切り欠くことで,高さhの突起J_(1)をピッチpの間隔で得ている。」(段落【0010】)と記載されている。これらの記載から,本件発明1において「刃先」とは,刃の稜線部を含む部分のみを示すものといえ,そうすると,「刃先」に「突起を形成」する場合には,刃の稜線部に必ず突起が形成されることとなるといえる。
次に,本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」について,本件明細書には「従来のガラスカッターホイールに比べ,本発明の突起を有するガラスカッターホイールでスクライブすると,ガラス板を板厚を貫通する程の極めて長い垂直クラック(後述)が発生する。その理由は,ガラスカッターホイールの転動時に,ホイールに設けた突起により,ガラス板に打点衝撃を与えるため,および,突起がガラス板に深く食い込むためかと思われる。又,不要な水平クラック(後述)が発生しないという利点も得られる。その理由は,ガラス板へのガラスカッターホイールの食い込みは,突起による点接触が中心となるため,スクライブ時に,ガラス板の表面方向に発生する応力が従来と比べて少ないためではないかと思われる。」(段落【0009】)と記載されている。この記載をみれば,本件発明1の「打点衝撃を与える」とは,突起による点接触が中心となり,スクライブ時にガラス板の表面方向に発生する応力が従来のものと比べて少ないため,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させるものとみることができる。そして「所定形状」について,本件明細書には「刃先に所定形状の突起を形成した」(段落【0008】)と記載されるのみで,「所定」を定義する記載はないが,被請求人が「『所定』とは,乙第8号証(・・・)に『定まっていること。定めてあること。』と記載されているように,『不定(ランダム)』に対するものであり,『所定形状』とは,『あらかじめ定まった形状』を意味しています。」(被請求人上申書(2)3頁)と主張するように,本件発明1の属する技術分野の常識に照らし合わせると,「所定」とは「定まっていること。定めてあること。」であり,「所定形状」とは定まった形状とみるのが自然である。この点に関し,請求人も「『所定形状』というのが,『あらかじめ定まった形状』であればいいのであれば」(請求人上申書(2)2?3頁)とあるように,「所定形状」を定まった形状とみる点において,両当事者間に争いはないといえる。
そして,ガラスカッターホイールがホイールを転動させることによってガラスを連続的にスクライブすることは,本件明細書の上記段落【0009】や「本発明は,・・・スクライブラインが途切れたり・・・といった不都合からも解消される。」(段落【0031】)との記載から自明であり,ガラスカッターホイールが当然有する機能でもあるから,「所定形状」とは,ガラスを連続的にスクライブすることができるよう定まった形状であるといえる。
なお,被請求人は,本件明細書の段落【0010】,【0017】?【0019】に記載の実施形態及び段落【0022】の「このように砥石の形状により,種々の形状の突起Jを形成することができ,いずれの突起Jにおいても上述した条件(ピッチPおよび高さh)に従って形成すれば同等の作用効果を得ることができる。」との記載から,「『所定形状』のもの,すなわち規則性をもって形成されているもの」(被請求人上申書(2)4頁)と主張するが,上記各段落の記載から「所定」が規則性を意味することが明らかであると断定できるものではなく,本件発明1の属する技術分野の常識に照らし合わせても「所定」が規則性を意味するとはいえないから,「所定形状」が規則性をもって形成されている形状を示すとまではいえない。
これらの検討を踏まえると,「打点衝撃を与える所定形状の突起」とは,突起による点接触が中心となり,スクライブ時にガラス板の表面方向に発生する応力が従来のものと比べて少ないため,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させつつ,ガラスを連続的にスクライブすることができるよう,定まった形状の突起であるとみることができる。
(2)上記(1)を踏まえ,甲第1発明の「該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」との特定についてみると,「刃先」に関し,甲第1号証には,記載事項(ウ)に「条痕の形成方法について述べる」として「回転している平板グラインダ4に対して鋼板1’の周縁を削り刃先2を形成するために,鋼板1’を斜めにして当接させながら,全周縁が研磨される」と記載されている。この記載からは,甲第1発明の条痕を形成する「刃先」は,鋼板の周縁を削り形成するものであるから,ホイールの円周面にV字形に形成されるもの,すなわち本件発明1の「刃」に相当するものであることは明らかといえる。そして,甲第1発明の「軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成する」ことにより,刃の両斜面部に条痕が形成されるとともに,該条痕が刃の両斜面部の接点である稜線部において交差することにより,刃の稜線部に凹凸が形成されることが明らかといえる。
(3)さらに,甲第1発明の刃の稜線部に形成される凹凸が「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当するか検討を行う。
突起とは「部分的に突き出ること。また,そのもの。」(新村出編「広辞苑第四版」岩波書店,1991年11月15日発行,1853頁,「とっき【突起】」の欄)であると理解するのが通常であるから,本件発明1の「突起」は部分的に突き出たものといえる。
これに対し,甲第1発明の刃の稜線部に形成される凹凸は,上記(2)で述べたとおり,刃の両斜面部に条痕が形成されるとともに,該条痕が刃の両斜面部の接点である稜線部において交差することにより形成されるものであるから,その断面形状は乙第2号証及び乙第11号証の「乙第2号証のホイールの側面写真」と題する写真に示されるように微細な山と谷からなるにとどまると理解するのが通常であるといえ,特段,部分的に突き出たものがあるとまではいえないから,本件発明1の「突起」に相当するとはいえない。
この点に関し,請求人は甲第1号証の記載事項(イ),(オ),(カ)及び(キ)によれば,ホイールに鋸の刃先を形成したことが記載又は視認され,これが上記相違点aに係る本件発明1の特定事項の「突起」に相当する旨主張するが(審判請求書6頁,口頭陳述要領書4?5頁),甲第1号証の記載事項(イ)の「刃先2に形成した条痕により,ホイール1とガラス板との噛み合いが確実となる。この状態でホイール1をガラス板上で転動させる時,図1に示した回転方向Bの方へ転動させれば,それと逆方向に転動させる場合と比較してより大きな噛み合い得ることができ,ホイール1のスリップをなくせる。つまり,上記のごとく形成したホイール1は,図2に示したように,ホイール1に鋸の刃先を形成したのと同等の効果が得られる。」との記載は,条痕による噛み合いとホイールの回転方向との関係を鋸刃の刃の向きに喩えて説明するものとみることしかできず,刃の稜線部に鋸刃を形成すること自体を記載又は示唆するものということはできない。それは,記載事項(キ)においても同様である。また,記載事項(オ)の「刃先2全体に対して条痕を形成したがガラス板と当接する箇所にのみ条痕を形成してもよい。」との記載は,記載事項(イ)の「刃先2に形成した条痕により,ホイール1とガラス板との噛み合いが確実となる」との記載を踏まえると,刃先2のガラス板と当接する箇所にのみ条痕を形成してもよいこと,換言すれば,刃先2のガラス板と当接しない箇所には条痕を形成しなくてもよいことを表現していると理解するのが通常であるといえ,刃の稜線部に鋸刃を形成することを記載又は示唆するものということはできない。さらに,記載事項(カ)をみても,刃の稜線部に鋸刃を形成することの記載や示唆はない。そうすると,上記請求人の主張は採用できない。
念のため,甲第1発明の刃の稜線部に形成される凹凸が「打点衝撃を与える」か否かみておくと,甲第1号証の記載事項(イ)には「このような条痕3を形成しておくことで,ホイール1をガラス板に圧接させた時,刃先2の先端部がガラス板に食い込むが,その時,刃先2に形成した条痕により,ホイール1とガラス板との噛み合いが確実となる。」と記載されているが,上記相違点aに係る本件発明1の特定事項のうちの「打点衝撃を与える」ことについて何ら記載や示唆がないといえ,上記「ホイールとガラス板との噛み合いが確実となる」との記載からは,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることについて示唆するものすら見当たらない。そうすると,甲第1発明の刃の稜線部に形成された凹凸が「打点衝撃を与える」と認めるに足りるとすることはできない。
そして,たとえ,甲第1発明の刃の稜線部に形成される凹凸の一部によって偶発的に,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることがあるとしても,そのような作用は一時的なものにとどまるのであって,ガラスを連続的にスクライブするには足りないと理解すべきであるから,いずれにせよ,甲第1発明の刃の稜線部に形成される凹凸が「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当するということはできない。
以上(1)?(3)のことから,相違点aは実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲第1号証に記載の発明であるとはいえない。

1-2.甲第2号証について
甲第2号証には,記載事項(ア)を整理すると「円周が傷をつけ,刃先の斜面の研削すじに0?180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とするガラス材カッター刃。」(以下,「甲第2発明」という。)が記載されているといえる。
そこで,本件発明1と甲第2発明とを対比すると,甲第2発明の「円周が傷をつけ,刃先の斜面」を有する「ガラス材カッター刃」は,本件発明1の「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール」に相当することは明らかといえる。
してみると,両者は「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール。」である点で一致するが,以下の点で相違する。
相違点b:本件発明1はガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定がなされているのに対して,甲第2発明はガラス材カッター刃において「刃先の斜面の研削すじに0?180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」と特定する点。
そこで,上記相違点bが実質的な相違点か否か,以下に検討する。
(1)本件発明1の「刃先」及び「打点衝撃を与える所定形状の突起」との特定事項についての技術内容は,上記1-1.でみたとおりである。
(2)甲第2発明の「刃先の斜面の研削すじに0?180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」との特定についてみると,甲第2号証の記載事項(エ)より,微小の鋸歯状は,刃先の斜面の両側の研削すじが刃の先端で交差することにより形成されることが視認されるといえるから,その断面形状は乙第2号証及び乙第11号証の「乙第2号証のホイールの側面写真」と題する写真に示されるものと同様,微細な山と谷からなるにとどまると理解するのが通常であって,特段,部分的に突き出たものがあるとまではいえない。そうすると,上記の特定は,本件発明1の「突起」に相当する事項を示すものであるとはいえない。
また,同記載事項(イ)に「先端4を微小の鋸歯状にし軽く触れるだけで微細な傷5がつく」と記載されているものの,甲第2号証には,微小の鋸歯状とする刃の先端が打点衝撃を与えることや,不要な水平クラックが発生せず,ガラス板に板厚を貫通するほどの極めて長い垂直クラックを発生させることについての記載はなく,示唆するものすら見当たらない。
以上のことを踏まえると,甲第2発明のガラス材カッター刃の「刃先の斜面の研削すじに0?180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」が,本件発明1のガラスカッターホイールの「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」との特定事項に相当するとはいえない。
以上(1),(2)のことから,相違点bは実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲第2号証に記載の発明であるとはいえない。

2.無効理由2について
2-1.本件発明1について
2-1-1.甲第1号証を主引例として対比・判断する。
甲第1号証には,上記1-1.のとおりの甲第1発明が記載されているといえ,本件発明1と甲第1発明とを対比すると,両者は「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール。」である点で一致するが,以下の点で相違する。
相違点c:本件発明1はガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定がなされているのに対し,甲第1発明はガラスカッターのホイールにおいて「該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」と特定する点。
そこで,上記相違点cについて検討すると,上記1-1.の検討を踏まえれば,甲第1号証には上記相違点cに係る本件発明1の特定事項のうち「打点衝撃を与える所定形状の突起」について,何ら記載や示唆がない。
そして,上記1-2.の検討のとおり,甲第2号証にも本件発明1の「打点衝撃を与える所定形状の突起」に相当する事項が何ら記載されておらず,示唆もない。
そうすると,甲第1号証又は甲第2号証より,上記相違点cに係る本件発明1の特定事項のうち「打点衝撃を与える所定形状の突起」を導き出すことができるとはいえない。
以上のことから,甲第1号証,又は甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて,当業者が相違点cに係る本件発明1の特定事項を容易に想到することができたとすることはできない。
そして,本件発明1は,相違点cの特定事項を採ることにより,本件明細書に記載の「水平クラックを生じることなく長い垂直クラックを発生でき,突起無しの従来のものと比べ,スクライブ性能が飛躍的に向上した」との顕著な効果を奏するものといえる。
したがって,本件発明1は,甲第1号証,又は甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-1-2.甲第2号証を主引例として対比・判断する。
甲第2号証には,上記1-2.のとおりの甲第2発明が記載されているといえ,本件発明1と甲第2発明とを対比すると,両者は「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール。」である点で一致するが,以下の点で相違する。
相違点d:本件発明1はガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定がなされているのに対して,甲第2発明はガラス材カッター刃において「刃先の斜面の研削すじに0?180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」と特定する点。
そこで,上記相違点dについて検討すると,上記2-1-1.の検討を踏まえれば,甲第1号証又は甲第2号証より,上記相違点dに係る本件発明1の特定事項のうち「打点衝撃を与える所定形状の突起」を導き出すことができるとはいえず,甲第2号証,又は甲第2号証及び甲第1号証に記載の発明に基づいて,当業者が相違点dに係る本件発明1の特定事項を容易に想到することができたとはいえない。
そして,本件発明1は,相違点dの構成を採ることにより,本件明細書に記載の顕著な効果を奏するものといえる。
したがって,本件発明1は,甲第2号証,又は甲第2号証及び甲第1号証に記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-1-3.甲第3号証を主引例として対比・判断する。
甲第3号証には,記載事項(ア)の「瓦カッター」に関し,記載事項(イ)?(エ)によれば「外周の刃先」に「等間隔に複数の切欠部を形成」し,「瓦」に「V字状の溝」を「切込む」「下部刃車」を有することが記載されているといえる。
これらの記載を,本件発明1の記載ぶりに即して整理すると,甲第3号証には「外周の刃先に等間隔に複数の切欠部を形成し,瓦にV字状の溝を切込む,瓦カッターの下部刃車。」の発明(以下,「甲第3発明」という。)が記載されているといえる。
そこで,本件発明1と甲第3発明とを対比すると,甲第3発明の「外周の刃先」は「V字状の溝を切込む」から,本件発明1の「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字状の刃を形成してなる」ものに相当する記載であるといえ,甲第3発明の「瓦カッターの下部刃車」は本件発明1の「ガラスカッターホイール」とカッターホイールである点で共通するといえる。
してみると,両者は「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字状の刃を形成してなるカッターホイール。」である点で一致し,次の点で相違しているといえる。
相違点e:本件発明1は「ガラス」カッターホイールと特定がなされているのに対して,甲第3発明は「瓦」カッターの下部刃車と特定する点。
相違点f:本件発明1はガラスカッターホイールにおいて「刃先に打点衝撃を与える所定形状の突起を形成した」と特定がなされているのに対して,甲第3発明は瓦カッターの下部刃車において「刃先に等間隔に複数の切欠部を形成し」たと特定する点。
まず,上記相違点eについて検討すると,甲第3号証には瓦がガラス瓦を含むとの記載は見当たらない。通常瓦といえば,粘土瓦を想起するのが自然であり,また,甲第3号証の記載事項(ウ),(エ)によれば「瓦」は「深い切込みと亀裂とを生」じ「切断」されるとあるが,通常ガラスは亀裂を生じるようには切断されないことから,甲第3発明の「瓦」とは粘土瓦を意図していることは自明といえる。そして,甲第4?7号証及び甲第17?19号証にガラス瓦が記載され,ガラス瓦が本件出願前周知であったことは明らかであるものの,粘土瓦用のカッターが一般的にガラスの切断にも適用できるものであることを示唆する記載はなく,甲第3発明の「瓦」カッターの下部刃車を「ガラス」カッターホイールに転用しようとする動機づけは見いだせない。
以上のことから,甲第3発明の瓦カッターの下部刃車をガラスの切断に適用し,相違点eに係る本件発明1の特定事項をなすことは,当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
したがって,本件発明1は,相違点fについて検討するまでもなく,甲第3号証に記載の発明並びに甲第4?7号証及び甲第17?19号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-2.本件発明2について
2-2-1.甲第1号証を主引例として対比・判断する。
甲第1号証には,上記1-1.における検討のとおりの甲第1発明が記載されているといえ,本件発明2と甲第1発明とを対比すると,両者は「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール。」である点で一致するが,以下の点で相違する。
相違点g:本件発明2はガラスカッターホイールにおいて「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」と特定がなされているのに対して,甲第1発明はガラスカッターのホイールにおいて「該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」と特定する点。
そこで,上記相違点gについて検討する。
(1)本件発明2の「刃先」との特定事項についての技術内容は,上記1-1.にてみたものと同じである。
(2)甲第1発明の「該ホイールを一方の正面から見た場合に,前記刃先に対し,軸支部よりの放射方向に対して常に一定の角度をなす方向に条痕を形成することで該刃先を粗面にした」との特定についてみると,上記1-1.における検討のとおり,刃の両斜面部に条痕が形成されるとともに,該条痕が刃の両斜面部の接点である稜線部において交差することにより刃の稜線部に凹凸が形成されることが明らかといえる。ここで,甲第1号証の記載事項(オ)には「刃先2の条痕によるガラス板への噛み合いを確実にするために,刃先2の表面粗さを比較的大きく(例えばJISB0601の3.2S(高さが3.2ミクロン))なるようにグラインダ4を選択する。」と記載されているが,この記載からは刃の両斜面部の条痕の表面粗さが3.2S,すなわち0μmRmax≦3.2S≦3.2μmRmax(乙第10号証),であることは理解できるものの,該表面粗さを有する条痕が刃の稜線部において交差することによりどのような高さやピッチの凹凸を形成するか示されておらず,上記記載に基づいて刃の稜線部の凹凸を「2ないし20μmの高さ」や「所定ピッチ」とすることが導き出されるものともいえない。
そして,本件発明2は,上記相違点gの特定事項を採ることにより,本件明細書に記載の「水平クラックを生じることなく長い垂直クラックを発生でき,突起無しの従来のものと比べ,スクライブ性能が飛躍的に向上した」との顕著な効果を奏するものといえる。
したがって,本件発明2は,甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-2-2.甲第2号証を主引例として対比・判断する。
甲第2号証には,上記1-2.における検討のとおりの甲第2発明が記載されているといえ,本件発明2と甲第2発明とを対比すると,両者は「ディスク状ホイールの円周部に沿ってV字形の刃を形成してなるガラスカッターホイール」である点で一致するが,以下の点で相違する。
相違点h:本件発明2はガラスカッターホイールにおいて「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」と特定がなされているのに対して,甲第2発明はガラス材カッター刃において「刃先の斜面の研削すじに0?180°の角度をつけ刃の先端を微小の鋸歯状とする」と特定する点。
そこで,上記相違点hについて検討する。
甲第8号証の記載事項(ア)には「切断材への切り込みを良好にするため」の「リード線カッタ,ワラ用カッタ,各種シート材用カッタ等の丸刃カッタ」が記載されているといえ,同記載事項(イ)には「切刃10Bには多数の微小鋸刃14が形成されている。これら微小鋸刃14の平均凹凸量は,丸刃カッタ10の半径方向に10?100μm,望ましくは20?50μmとされている。」と記載されている。これらの記載から,「リード線カッタ,ワラ用カッタ,各種シート材用カッタ等の丸刃カッタ」において「切断材への切り込みを良好にするため」,「切刃」に「10?100μm,望ましくは20?50μm」の「平均凹凸量」の「微小鋸刃」を形成することは理解できるものの,リード線カッタ,ワラ用カッタ,各種シート材用カッタ等と本件発明2及び甲第2号証のガラスカッターとは,対象となる切断材の性質からみて異なる技術分野に属するものであるといえ,また,甲第8号証に記載されている切刃の平均凹凸量は,リード線,ワラ,各種シート等への切り込みを良好にするために定められているものであって,それらのものと物性が全く異なるガラスに対してそのまま適用できるものであるとはいえない。
そうすると,甲第2発明に甲第8号証記載の技術的事項を適用することの動機づけはないといえ,また,上記2-2-1.のとおり,甲第1号証をみても上記相違点hに係る本件発明2の特定事項を容易に想到し得るものとはいえない。
したがって,本件発明2は,甲第2号証,甲第1号証,甲第8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-2-3.甲第3号証を主引例として対比・判断する。
本件発明2と甲第3発明には上記2-1-3.でみた本件発明1との相違点eと同じ相違点が存在し,甲第1号証,甲第8号証及び周知技術(甲第4?7号証及び甲第17?19号証)をみても,上記2-1-3.で示したと同じ理由により,甲第3発明の瓦カッターの下部刃車をガラスの切断に適用することを当業者が容易に想到し得るとはいえない。
したがって,本件発明2は,甲第3号証,甲第1号証及び甲第8号証に記載の発明,並びに甲第4?7号証及び甲第17?19号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-2-4.なお,請求人の「数値限定したことによる数値範囲内外の顕著な作用効果が何ら記載されていないため」,「2ないし20μmの高さの突起とし,所定ピッチで形成してなることは当業者が適宜設定し得る設計事項に過ぎない」旨の主張(請求人上申書(2)13頁)について検討する。本件発明2は「刃先に2ないし20μmの高さの突起を所定ピッチで形成した」との特定事項を採ることにより,本件明細書の段落【0031】にあるように「突起による作用により,水平クラックを生じることなく長い垂直クラックを発生」するとの格別の作用効果を有するものであって,上記の特定事項が技術的意義を有することは明らかであるから,上記特定事項における数値限定が単なる設計事項にすぎないとはいえない。そうすると,上記請求人の主張は採用できない。

2-3.本件発明3?10について
本件発明3?10は,本件発明1又は2を引用するものであって,本件発明1又は2の特定事項を全て包含するものであるから,上記のとおり,本件発明1又は2が甲第1号証,甲第2号証,甲第3号証及び甲第8号証に記載された発明,並びに甲第4?7号証及び甲第17?19号証に記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないこと,また,甲第9?12号証には上記相違点c?hに係る本件発明1又は2の特定事項が記載又は示唆されていないことがそれらの記載事項より明らかであることに照らし合わせると,本件発明3?10は,甲第1?12号証及び甲第17?19号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-4.小括
以上のとおりであるから,本件発明1,2は,甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と同一ではなく,また,本件発明1?10は,甲第1号証及び/又は甲第2号証に記載された発明,あるいは甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第4?7号証,甲第17?19号証),及びこれらと甲第8?12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.無効理由3について
無効理由3は,本件発明3の「突起のピッチおよび高さを,ホイール径に応じた値とした」,本件発明4の「突起のピッチを,1?20mmのホイール径に応じ20ないし200μmとした」,本件発明5の「突起の高さを,1?20mmのホイール径に応じ2ないし20μmとした」との特定事項において,ホイール径と突起のピッチ及び高さがどのような相関関係にあり,ホイール径の値に対して突起のピッチ及び高さの値をどのように決定するのか本件明細書には記載されておらず,段落【0011】及び【0024】の記載を参照しても,当業者が実施しようとした場合,過度の試行錯誤が必要となるので,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。
そこで,本件明細書をみてみると,上記各特定事項に関し,発明の詳細な説明には次の事項が記載されている。
(ア)「ここで例示したホイール11は,
ホイール径(φ):2.5mm
ホイール厚(w):0.65mm
刃先角度(2θ):125
突起数 :125個
突起の高さ(h):5μm
ピッチ(p) :63μm
であり,このガラスカッターホイール11を用い,
刃先荷重 :3.6Kgf
スクライブ速度:300mm/sec
の条件で1.1mm厚のガラス板をスクライブした時のガラス断面を図9に示している。」(段落【0011】)
(イ)「最後に,一般的に使用される外径1?20mmのガラスカッターホイールに対し,本発明に基づく好ましい仕様および推奨加工データを示す。
ホイール外径(φ):1?20mm
ホイール厚(w) :0.6?5mm
刃先角度(2θ) :90?160
ピッチ(p) :外径に応じて20?200μm
突起の高さ(h) :外径に応じて2?20μm
溝の半径(R) :0.02?1.0mm(但し溝がU字形状の場合)
刃先荷重 :外径に応じて1.0?60Kgf(従来は1.0?40Kgf)
スクライブ速度 :50?1000mm/sec
尚,刃先荷重は上記のごとく外径に比例するが,ガラス板が薄い時や刃先角度が小さい時(100前後),荷重は小さ目となる。」(段落【0024】)
上記記載(ア),(イ)をみると,確かに,本件明細書にはホイール径と突起の高さ及びピッチの関係を一義的に定められる記載はなされていないといえるが,上記記載(ア)には特定のホイール径,突起の高さ,ピッチの組み合わせの例が記載され,上記記載(イ)には好ましい仕様が示されていることに照らせば,請求項3?5に係る発明の実施に当たって,当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を必要とするというまでの不備が本件明細書にあるとはいえない。
したがって,本件発明に係る特許は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものである,ということはできない。

第6 結び
以上のとおり,請求人の理由及び証拠方法によっては,本件請求項1?10に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-24 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-14 
出願番号 特願平8-141614
審決分類 P 1 113・ 121- Y (C03B)
P 1 113・ 113- Y (C03B)
P 1 113・ 531- Y (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武重 竜男深草 祐一  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 五十棲 毅
木村 孔一
登録日 2000-06-02 
登録番号 特許第3074143号(P3074143)
発明の名称 ガラスカッターホイール  
代理人 田中 弘  
代理人 特許業務法人ウィンテック  
代理人 正木 裕士  
代理人 藤川 義人  
代理人 三上 祐子  
代理人 藤川 忠司  

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