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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1236232
審判番号 不服2007-18612  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-04 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 特願2001-9745「1液湿気硬化型の調色シーリング材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年7月31日出願公開、特開2002-212542〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成13年1月18日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成18年 4月14日付け 拒絶理由通知書
平成18年 7月 6日 意見書・手続補正書
平成19年 5月29日付け 拒絶査定
平成19年 7月 4日 審判請求書・手続補正書
平成20年 7月28日付け 前置報告書
平成22年 1月 8日付け 審尋
平成22年 3月 2日 回答書
平成22年 5月27日付け 拒絶理由通知書
平成22年 8月 9日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
この出願の発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年8月9日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。

「各種色調の原色着色剤のそれぞれと湿気硬化性樹脂と添加剤とをそれぞれ混合する操作を繰り返してそれぞれ異なる色調の原色着色シーリング基材を各種製造し、次いで各種の原色着色シーリング基材を混合して所望の色調の1液湿気硬化型の着色シーリング材を製造してなる、1液湿気硬化型の調色シーリング材の製造方法であって、
前記湿気硬化性樹脂が、架橋性シリル基含有樹脂又はイソシアネート基含有プレポリマーであることを特徴とする、前記の1液湿気硬化型の調色シーリング材の製造方法。」

第3 当審で通知した拒絶理由
当審で通知した平成22年5月27日付けの拒絶の理由は、
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
であり、その「下記の刊行物」は、次のとおりのものである。

刊行物A:特開昭51-133353号公報(原査定における「引用例1」 と同じ)
刊行物B:特開昭61-34063号公報
刊行物C:特開平01-271476号公報

第4 当審の判断
1.刊行物の記載事項
刊行物A?Cには、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物A
(A-1)「混合割合に応じて、所望の中間色が任意に出現できる原顔料・染料群の各々を色別着色成分とし、重合硬化して被塗面に密着性を示す高分子化合物と、該色別着色成分とを補填体質粉体と共に混練して生成される、前記の原顔料・染料の各色に対応された各色毎のパテ状物を組合せた美装用色別パテセット」(特許請求の範囲)

(A-2)「本発明は、金属、ガラス、木質、陶磁等の諸材からなる製品の美装表面に発生した部分的損傷凹欠部に対し、これを補填修正する為の充填パテであり、手元に予備されたセット中のパテから適宜採択して、損傷凹欠部の周囲色に合致した色彩パテを混捏調色して、損傷凹欠部に補填を施し、かくして後は、着色塗装操作の手数なく、直ちに研削・研磨工程が為し得て、凹欠部周囲と違和なき感触ある仕上り面となつて原形状態に復元せしめることを目的とする。」(第1頁左欄第12行?右欄第1行)

(2)刊行物B
(B-1)「1.(A)重合体鎖末端のけい素原子が少くとも2個のアルコキシ基で停止され、25℃において約20,000センチポアズから約500,000センチポアズの範囲の粘度を有するオルガノポリシロキサン100重量部、
(B)補強充てん剤を多くとも4重量部または増量用充てん剤を少くとも20重量部、またはそれらの両方を含む、オルガノポリシロキサン100重量部に対して100重量部までの充てん剤、
(C)オルガノシロキサン100重量部に対して0.05?5重量部の接着促進剤及び
(D)有効量の縮合触媒
から成る、可塑剤流体を含まない、湿気にさらされて低モジュラスのシリコーンゴムに硬化しうる室温加硫性シリコーン組成物。」(特許請求の範囲第1項)

(B-2)「本発明は硬化性シリコーンゴム組成物に関する。
さらに詳しくは本発明は硬化した場合に低いモジュラスを示す一液型アルコキシ官能性室温加硫性(RTV)シリコーン組成物に関する。」(第2頁右下欄第11?14行)

(B-3)「本発明の目的の一つは、建築用シーラントとして用いるのに適した低モジュラスのアルコキシ官能性一液型シリコーンRTV組成物を提供することである。
本発明の別の目的は、可塑剤のブリードにより汚れを生じない低モジュラスのアルコキシ官能性一液型シリコーンRTV組成物を提供することである。」(第5頁右上欄第17行?左下欄第4行)

(B-4)「所望により、技術者はさらにだれ防止剤、顔料、難燃剤等を用いることができる。」(第8頁左下欄第6?7行)

(B-5)「実施例1
真空ライン及びチッ素パージを備えた混合機に、25℃で120,000cpsの粘度を有するメチルジメトキシ末端停止ポリジメチルシロキサン840重量部、25℃で25,000cpsの粘度を有するメチルジメトキシ末端停止ポリジメチルシロキサン840重量部、オクタメチルシクロポリシロキサンで処理したフュームドシリカ144重量部(4.4重量%)、及び炭酸カルシウム1440重量部を入れる。次に混合物を1時間室温において減圧下(20mmHg)でかく拌する。この混合物1500部へ、ヘキサメチルジシラザン30重量部、シアノエチルトリメトキシシラン15重量部、ジブチルすずジアセテート1.5重量部を加える。室温において15分間混合した後、シーラントを8オンスプラスチック管に充てんし、室温において24時間貯蔵する。組成物を次にASTM標準法によって試験用シートに成形し、7日間の硬化の後、次の結果が得られる。
表 1
性 質 結 果
比重 1.350
50%モジュラス 59
100%モジュラス 68
伸び % 438
引張り psi 183
ショアーA 23
施工速度 g/分 82

この実施例は、本発明の実施においてフュームドシリカが10%という少量過剰に用いられても組成物の低モジュラスの性質が失われる、即ち50%モジュラスは20?50の範囲に代わり59であり、伸び(パーセント)は600?1200の範囲ではなく438にすぎず、施工速度は82g/分にすぎない。
実施例2
この実施例では、オクタメチルシクロポリシロキサン処理フュームドシリカ84部(2.6重量%)を用いる他は、実施例1に従って組成物を製造する。再びシーラントを8オンスのプラスチック管に充てんし、ASTM試験用シートを製造する前に室温において24時間貯蔵する。7日間の硬化の後、試験用シートより次の結果が測定される。
表 2
性 質 結 果
比重 1.370
50%モジュラス 40
100%モジュラス 67
伸び % 734
引張り psi 209
ショアーA 26
施工速度 g/分 154

このように、この実施例は本出願の開示に従って組成物を製造した場合、望ましい低モジュラスの組成物が得られることを説明している。」(第8頁右下欄第11行?第9頁左下欄最下行)

(3)刊行物C
(C-1)「1.ポリオール(a)と、芳香族ポリイソシアネート(b)と、脂肪族系ポリイソシアネート(c)との反応物(A)、硬化触媒(B)、及び充填剤(C)からなり、実質的に可塑剤を含有しないことを特徴とする一液型湿気硬化性建築用シーラント。」(特許請求の範囲第1項)

(C-2)「充填剤(C)としては、顔料、溶剤、増量剤、老化防止剤、チクソトロピー化剤、チクソトロピー化助剤などがあげられる。
顔料としては、例えば無機顔料(カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラなど)、有機顔料(フタロシアニン系、キノリン系など)などがあげられる。」(第5頁右下欄第4?10行)

(C-3)「実施例1?3
窒素置換された反応缶に表-1の(a)、(b)、及び(c)を仕込み、反応温度130℃で16時間反応し、化合物(a)を得た。
その化合物500部、DTD0.2部、乾燥された炭酸カルシウム250部、酸化チタン40部、超微粉末シリカ25部、チクソ化助剤(ニューポール80-4000:三洋化成工業製)10部、トルエン80部及びイルガノックス1076 3部をプラネタリーミキサーに仕込み、60℃で1時間混練りして、本発明のシーラントを得た。
そのシーラントを用い下記の染性試験法、H型試験及び押出し性試験にて評価した。その結果を表-1に示す。
(汚染性試験法)
実施例及び比較例のシーラントをモルタル板の上に、10mmの厚さにコーティングし20℃、65%RHの条件で養生する。
7日間養生後アクリル弾性塗料を300μの厚みに吹き付ける。
吹き付け後2日間養生し、70℃、80%RHの恒温恒湿器に10日間放置する。
その後屋外曝露を7日間行い汚染性を見た。
<判定基準>
○:汚染なし
△:一部汚染がみられる
×:著しく汚染
(H型試験法)
JIS A-5758に準拠した。
(押出し性試験)
JIS A-5758に準拠した。
(表-1略)」(第6頁左下欄第15行?第7頁右上欄下から2行)

(C-4)「本発明の湿気硬化性シーラントは(1)充分押出し性が確保可能な低粘度の末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー[反応物(A)]を使用するため、押出し性(作業性)が優れたものである。(2)汚染性。(3)建築用シーラントとして必要な、柔らかさ、耐水性、耐熱性、耐候性などが優れている。」(第7頁右下欄下から2行?第8頁左上欄第5行)

2.刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、「混合割合に応じて、所望の中間色が任意に出現できる原顔料・染料群の各々を色別着色成分とし、重合硬化して被塗面に密着性を示す高分子化合物と、該色別着色成分とを補填体質粉体と共に混練して生成される、前記の原顔料・染料の各色に対応された各色毎のパテ状物を組合せた美装用色別パテセット」が記載され(摘記(A-1))、該パテセットを用いて、「セット中のパテから適宜採択して、損傷凹欠部の周囲色に合致した色彩パテを混捏調色」する方法が記載されている(摘記(A-2))。
よって、刊行物Aには、
「混合割合に応じて、所望の中間色が任意に出現できる原顔料・染料群の各々を色別着色成分とし、重合硬化して被塗面に密着性を示す高分子化合物と、該色別着色成分とを補填体質粉体と共に混練して生成される、前記の原顔料・染料の各色に対応された各色毎のパテ状物を組合せた美装用色別パテセット中のパテから適宜採択して、損傷凹欠部の周囲色に合致した色彩パテを混捏調色する方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「混合割合に応じて、所望の中間色が任意に出現できる原顔料・染料群の各々」及び「色別着色成分」は、本願発明の「各種色調の原色着色剤のそれぞれ」に相当する。
また、引用発明の「重合硬化して被塗面に密着性を示す高分子化合物」は、本願発明の「湿気硬化性樹脂」とは、「硬化性樹脂」である点で一致する。
さらに、引用発明の「補填体質粉体」は、本願発明の「添加剤」に相当する。
そして、引用発明の「パテ」、「パテ状物」は、上記「色別着色成分」、「高分子化合物」、「補填体質粉体」を含む「組成物」であるところ、本願発明の「シーリング材」、「シーリング基材」も、上記「原色着色剤」、「硬化性樹脂」、「添加剤」を含む「組成物」であるから、引用発明の「パテ」、「パテ状物」は、本願発明の「シーリング材」、「シーリング基剤」とは「組成物」である点で一致する。
そうすると、引用発明の「混合割合に応じて、所望の中間色が任意に出現できる原顔料・染料群の各々を色別着色成分とし、重合硬化して被塗面に密着性を示す高分子化合物と、該色別着色成分とを補填体質粉体と共に混練して生成される、前記の原顔料・染料の各色に対応された各色毎のパテ状物」を製造することは、本願発明の「各種色調の原色着色剤のそれぞれと湿気硬化性樹脂と添加剤とをそれぞれ混合する操作を繰り返してそれぞれ異なる色調の原色着色シーリング基材を各種製造」することとは、「各種色調の原色着色剤のそれぞれと硬化性樹脂と添加剤とをそれぞれ混合する操作を繰り返してそれぞれ異なる色調の原色着色組成物を各種製造」する点で一致するものである。
さらに、引用発明の「各色毎のパテ状物を組合せた美装用色別パテセット中のパテから適宜採択して、損傷凹欠部の周囲色に合致した色彩パテを混捏調色する方法」は、本願発明の「次いで各種の原色着色シーリング基材を混合して所望の色調の1液湿気硬化型の着色シーリング材を製造してなる、1液湿気硬化型の調色シーリング材の製造方法」とは、「次いで各種の原色着色組成物を混合して所望の色調の硬化型の着色組成物を製造してなる、硬化型の調色組成物の製造方法」である点で一致するものである。
以上によれば、本願発明と引用発明は、
「各種色調の原色着色剤のそれぞれと硬化性樹脂と添加剤とをそれぞれ混合する操作を繰り返してそれぞれ異なる色調の原色着色組成物を各種製造し、次いで各種の原色着色組成物を混合して所望の色調の硬化型の着色組成物を製造してなる、硬化型の調色組成物の製造方法。」
で一致し、以下の点で一応相違している(以下、「相違点1」、「相違点2」という。)。

(1)相違点1
組成物が、本願発明は「シーリング基材」、「シーリング材」であるのに対して、引用発明は「パテ状物」、「パテ」である点

(2)相違点2
本願発明は、硬化性樹脂が、「架橋性シリル基含有樹脂又はイソシアネート基含有プレポリマー」の「湿気硬化性樹脂」であり、組成物が「1液湿気硬化型」であるのに対して、引用発明は、硬化性樹脂が、そのような樹脂ではなく、組成物が「1液湿気硬化型」でない点

4.相違点1についての判断
請求人が平成22年8月9日の意見書に添付した参考資料1(社団法人日本建築学会編「建築学用語辞典」、岩波書店2005年9月15日第2版第4刷発行、第350頁?第351頁及び第595頁)には、パテとシーリング材について、以下のとおり記載されている。
「パテ putty 塗装下地の凹部の補修や、建具に板ガラスを取り付けるために用いる材料。油脂や樹脂に無機質の充填剤などを練り混ぜて作る。」
「シーリング材 sealant 目地に充填して、水密性、気密性を確保する材料。通常は不定形のものをさすが、広義には定型のものも含める。コーキング材と区別して使うときは、かなりのムーブメントが予想される目地に充填するものをさす。」
上記記載によれば、「シーリング材」とは、目地に充填する材料であるところ、「パテ」も目地のような凹部に充填する材料であるから、パテはシーリング材の一種であるといえる。
そうすると、引用発明の「パテ状物」、「パテ」は、本願発明の「シーリング基材」、「シーリング材」に相当するものであって、本願発明と引用発明は、この点において差異がない。
また、仮にパテとシーリング材が異なるものであったとしても、いずれも、目地のような凹部に充填する材料であるから、引用発明の「パテ状物」、「パテ」を、「シーリング基材」、「シーリング材」とすることは、当業者が容易に行うことである。

5.相違点2についての判断
刊行物Bには、「(A)重合体鎖末端のけい素原子が少くとも2個のアルコキシ基で停止され、25℃において約20,000センチポアズから約500,000センチポアズの範囲の粘度を有するオルガノポリシロキサン100重量部、
(B)補強充てん剤を多くとも4重量部または増量用充てん剤を少くとも20重量部、またはそれらの両方を含む、オルガノポリシロキサン100重量部に対して100重量部までの充てん剤、
(C)オルガノシロキサン100重量部に対して0.05?5重量部の接着促進剤及び
(D)有効量の縮合触媒
から成る、可塑剤流体を含まない、湿気にさらされて低モジュラスのシリコーンゴムに硬化しうる室温加硫性シリコーン組成物。」が記載され(摘記(B-1))、該組成物は、「一液型アルコキシ官能性室温加硫性(RTV)シリコーン組成物」であることが記載されている(摘記(B-2))から、刊行物Bには、「架橋性シリル基含有樹脂を硬化性樹脂とする一液湿気硬化型シーリング材」が記載されているといえる。

また、刊行物Cには、「ポリオール(a)と、芳香族ポリイソシアネート(b)と、脂肪族系ポリイソシアネート(c)との反応物(A)、硬化触媒(B)、及び充填剤(C)からなり、実質的に可塑剤を含有しないことを特徴とする一液型湿気硬化性建築用シーラント」が記載され(摘記(C-1))、該シーラントは、「末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー」を含むものであることも記載されているから(摘記(C-4))、刊行物Cには、「イソシアネート基含有プレポリマーを硬化性樹脂とする一液湿気硬化型シーリング材」が記載されているといえる。

一方、引用発明における硬化性樹脂としては、様々なものが使用し得るものであり、当業者であれば、適用箇所に応じて好ましい硬化性樹脂を選択することは通常行うことであるから、刊行物B、Cに、「架橋性シリル基含有樹脂」又は「末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー」が硬化性樹脂として有用であることが記載されていれば、適用箇所に応じて硬化性樹脂としてこれらを採用し、組成物を「一液湿気硬化型」とすることは、当業者が容易に行うことである。

6.本願発明の効果について
この出願の発明の詳細な説明には、本願発明の具体例である実施例1、2は、可塑剤を使用しない方法である比較例1、2と較べて、H型物性、塗料汚染性、耐候性に優れるという効果を奏することが記載されている。
そこで、この効果について検討すると、刊行物Bには、刊行物Bに記載された「架橋性シリル基含有樹脂を硬化性樹脂とする一液湿気硬化型シーリング材」は、可塑剤を含まないものであって(摘記(B-1))、可塑剤のブリードにより汚れを生じないものであること(摘記(B-3))、すなわち、塗料汚染性がないこと、また、H型物性にも優れたものであることが記載されている(摘記(B-5)の表1、2)。
同様に、刊行物Cには、刊行物Cに記載された「イソシアネート基含有プレポリマーを硬化性樹脂とする一液湿気硬化型シーリング材」は、可塑剤を含まないものであって(摘記(C-1))、H型物性、塗料汚染性、耐候性に優れたものであることが記載されている(摘記(C-3)、(C-4))。
そうすると、本願発明の上記効果は、刊行物B、Cの記載から予測できるものであるから、本願発明が当業者に予測し得ないような優れた効果を奏するものであるということはできない。

7.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物A?Cに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8.請求人の主張について
請求人は、平成22年8月9日の意見書の(3)I)b)において、参考資料1(社団法人日本建築学会編「建築学用語辞典」、岩波書店2005年9月15日第2版第4刷発行、第350頁?第351頁及び第595頁)を提出し、概略以下のイ)?ニ)の主張をしている。

イ)刊行物Aに記載された「パテ状物」は、被塗面の動きが無い凹欠部に充填するものであり、動きの無い凹欠部から脱落しない程度に密着していれば足りるのに対して、本願発明における「調色シーリング材」は、外壁材が温度・湿度変化、風、地震、振動などによって伸縮、ずれなどを生じるため、この動きに追従する高度な接着性が要求され、目的が防水であるから一部であっても剥離があってはならないものであり、よって、「パテ状物」と「シーリング材」は全く別のものである。
例えば、参考資料1における記載を比較してみても、
「パテ putty 塗装下地の凹部の補修や、建具に板ガラスを取り付けるために用いる材料。油脂や樹脂に無機質の充填剤などを練り混ぜて作る。」
「シーリング材 sealant 目地に充填して、水密性、気密性を確保する材料。通常は不定形のものをさすが、広義には定型のものも含める。コーキング材と区別して使うときは、かなりのムーブメントが予想される目地に充填するものをさす。」
とあるように、「シーリング材」は「seal」つまり密閉する事が目的であり、パテとは別のものである。

ロ)刊行物Aに記載された「パテ状物」は、施工の際に混捏して使用するものであるのに対し、本願発明における「調色シーリング材」は、原色着色シーリング基材を製造する段階では多成分であるが、打設する際には1液型である点で全く異なり、しかも湿気硬化型の架橋性シリル基含有樹脂又はイソシアネート基含有プレポリマーについて刊行物Aには全く開示されていない。

ハ)本願発明の「原色」着色シーリング基材はそれぞれ単独の顔料を用いており、それにより、顔料の製造ロット毎のブレや計量の誤差の影響が少ないものである。
さらに、本願発明は、黒・白・三原色(黄・赤・青)の5色と色数が少ないから、圧送手段付きの容器が少なく「簡易に」製造できるものである。

ニ)本願発明は、刊行物Aにはまったく開示も示唆もされていない安定した諸物性と優れた耐候性や上塗り塗料に対する優れた耐ブリード汚染性という効果を奏するものである。

そこで、これらの主張について検討する。

イ)請求人は、本願発明のシーリング材は、外壁材が伸縮、ずれなどの動きを生じるから、その動きに追従する高度な接着性が要求されるものであると主張しているが、本願発明は、特許請求の範囲において、そのような外壁材用に限定されているものではない。
また、上記4.で述べたとおり、引用発明の「パテ状物」、「パテ」は、本願発明の「シーリング基材」、「シーリング材」に相当するものであって、この点において本願発明と引用発明に差異はなく、仮に異なるものであったとしても、引用発明の「パテ状物」、「パテ」を、「シーリング基材」、「シーリング材」とすることは、当業者が容易に行うことである。

ロ)請求人は、本願発明は、原色着色シーリング基材を製造する段階では多成分であるが、打設する際には1液型であると主張しているが、本願発明は、特許請求の範囲において、そのような限定がされているものではない。
しかも、引用発明におけるパテも、施工の際には、調色して1液としたものを使用するのであるから、この点において本願発明と引用発明に差異はない。
また、湿気硬化型の架橋性シリル基含有樹脂又はイソシアネート基含有プレポリマーについて刊行物Aに記載されていないとしても、刊行物B、Cには、これらが硬化性樹脂として有用であると記載されていること、また、引用発明の硬化性樹脂としてこれらを採用することは、当業者が容易に行うことであることは、上記5.で述べたとおりである。

ハ)請求人は、本願発明の「原色」着色シーリング基材はそれぞれ単独の顔料を用い、黒・白・三原色(黄・赤・青)の5色と色数が少ないものであると主張しているが、本願発明は、特許請求の範囲において、そのような限定がされているものではない。
また、それによって、顔料の製造ロット毎のブレや計量の誤差の影響が少なく、圧送手段付きの容器が少なく「簡易に」製造できるものであるとの効果は、この出願の明細書に記載されていないから、上記主張は、明細書の記載に基づかない効果であり、本願発明の効果を検討するにあたり、採用することができない。

ニ)上記6.で述べたように、刊行物Bには、「架橋性シリル基含有樹脂を硬化性樹脂とする一液湿気硬化型シーリング材」は、塗料汚染性がなく、H型物性にも優れたものであることが記載され、刊行物Cには、「イソシアネート基含有プレポリマーを硬化性樹脂とする一液湿気硬化型シーリング材」は、H型物性、塗料汚染性、耐候性に優れたものであることが記載されているから、本願発明の効果は、刊行物B、Cの記載から予測できるものである。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-14 
結審通知日 2011-02-08 
審決日 2011-02-25 
出願番号 特願2001-9745(P2001-9745)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 孝一山本 英一  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 井上 千弥子
橋本 栄和
発明の名称 1液湿気硬化型の調色シーリング材の製造方法  
代理人 岡▲崎▼ 秀雄  

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