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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1236247 |
審判番号 | 不服2008-8872 |
総通号数 | 138 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-06-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-04-10 |
確定日 | 2011-05-06 |
事件の表示 | 特願2006-304331「難燃性に優れた樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年2月21日出願公開、特開2008-38125〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成18年11月9日(優先権主張 平成17年11月10日、平成17年12月9日、平成18年3月27日、平成18年7月13日)の出願であって、平成19年5月21日付けで拒絶理由が通知され、同年7月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年3月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同年6月13日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?18に係る発明は、平成19年7月30日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「(A)テレフタル酸を60?100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、1,9-ノナンジアミン単位(b-1)および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(b-2)を60?100モル%含有するジアミン単位(b)からなる半芳香族ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含んでなる樹脂組成物であって、ここで(A)ポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が50ml/g?150ml/gである事を特徴とする樹脂組成物。 【化1】 ![]() [式中、R^(1)及びR^(2)は、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(6)-アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、R^(3)は、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(10)-アルキレン、C_(6)?C_(10)-アリーレン、C_(6)?C_(10)-アルキルアリーレン又はC_(6)?C_(10)-アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1?3であり、xは1又は2である。]」 第3.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由とされた、平成19年5月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由2の内容は以下のとおりである。 「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) (理由2について) ・請求項 1?20 ・引用文献等 1?8 ・備考 射出成形性を考慮して、適度な粘度数のポリアミドを用いることは、引用文献4(特に特許請求の範囲、【0009】など参照)、引用文献5(特に特許請求の範囲、【0008】など参照)および引用文献6(特に特許請求の範囲、【0001】など参照)にも記載されているとおり、公知であるから、引用文献1?3記載の発明において、ポリアミドの粘度を適宜調整することは、当業者であれば通常行うことであり、そのことによる格別予想外の効果も認められない。 また、ポリアミド樹脂として1,9-ノナンジアミン単位を含む半芳香族ポリアミド樹脂を用いることは引用文献7(特に特許請求の範囲、【0001】など参照)および引用文献8(特に特許請求の範囲、【0001】など参照)にも記載されているとおり、公知であるから、引用文献1?6記載の発明において、1,9-ノナンジアミン単位を含む半芳香族ポリアミド樹脂を用いてみることは、当業者にとって格別の困難を要さないことであり、そのことによる格別予想外の効果も認められない。 よって、本願の請求項1?20に係る発明は、引用文献1?8記載の発明から当業者が容易に想到できる。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開2001-247751号公報 2.特開2002-161211号公報 3.特開2001-335699号公報 4.特開2005-220240号公報 5.特開2003-238697号公報 6.特開平08-217972号公報 7.特開2000-212434号公報 8.特開2004-083792号公報」 第4.合議体の判断 1.引用文献の記載事項 (1)引用文献3:特開2001-335699号公報 (1-1)「【請求項1】 (A)(A-1)スチレン系樹脂、(A-2)芳香族ポリエステル系樹脂、(A-3)ポリアミド系樹脂、(A-4)ポリカーボネート系樹脂及び(A-5)ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれる2以上の熱可塑性樹脂と、(B)ホスフィン酸塩を含有しており、(B)ホスフィン酸塩が下記一般式(I)及び(II)で表されるものから選ばれる1又は2以上のものである難燃性樹脂組成物。 【化1】 ![]() (式中、R^(1)、R^(2)は、水素、平均炭素数1?16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、エーテル結合を含有するアルキル基、アラルキル基又はシクロアルキル基を示し、R^(3)は2価の有機基を示し、nは1以上の整数を示し、Mは塩を形成する原子又は有機基を示す。)」(特許請求の範囲請求項1) (1-2)「【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】芳香族ポリエステ系樹脂やポリアミド系樹脂は、機械物性に優れたエンジニアリングプラスチックとして電器業界等の分野において幅広く利用されている。しかし、これらの樹脂は、耐熱性が優れているものの射出成形した製品の寸法安定性が不十分となり、高い寸法精度が要求される部材への使用が制限されるという問題がある。この問題を解決するため、例えば特開昭50-23448号公報ではポリエステル樹脂、ABS樹脂及び無機充填剤からなる組成物が提案されている。 また、プラスチックの大半は易燃性であることから、火災時における安全性を確保するため、米国UL94規格の垂直燃焼試験による評価でV-0に適合するような難燃性が要求されることがある。難燃性を付与する方法として、熱可塑性樹脂に臭素系化合物に代表されるハロゲン系難燃剤、酸化アンチモンを配合することで難燃性を高める方法が知られているが、この方法では燃焼時に難燃剤由来の有毒ガスが発生する恐れがあるという問題がある。 このため、ハロゲン系難燃剤に替えてトリフェニルホスフェート等の有機リン酸エステルが難燃剤として使用されているが、これらの有機リンエステル系難燃剤では、スチレン系樹脂、ポリエステル、ポリアミド等のポリマーブレンドに対して、米国UL94規格のV-0に適合するような高度の難燃性を付与することは困難であり、可塑化により成形品の耐熱性を低下させるほか、加工時に難燃剤由来のガスが発生して金型を汚染するという問題もある。 特開平10-298395号公報等に示されている赤リンは、難燃効果が優れているため難燃剤として汎用されているが、ペレットや成形品の着色、ハンドリングの悪さ、加工時に難燃剤由来のガスが発生するという問題がある。また、ポリリン酸アンモニウムは難燃性が悪く、かつ成形加工時に分解、吸湿するため寸法安定性にも問題がある。 特開昭49-74736号公報、特開平11-124466号公報には、リン含有化合物を用いて難燃性を改良することが示されているが、これらの一部は分解温度が低く、ポリエステルやポリアミドの加工温度域で分解してしまうため、前記リン含有化合物を含むポリステルやポリアミドのアロイは工業上の実用化が困難である。 本発明は、以上のような従来技術の有する問題を解決し、寸法安定性、難燃性、耐熱性等をバランスよく有し、安全性の問題を解決できる難燃性樹脂組成物及びそれから得られる射出成形品を提供することを目的とする。」(段落【0002】?【0007】) (1-3)「(A-1)成分のスチレン系樹脂としては、スチレン及びα置換、核置換スチレン等のスチレン誘導体の重合体が挙げられる。また、これら単量体を主として、これらとアクリロニトリル、アクリル酸並びにメタクリル酸のようなビニル化合物及び/又はブタジエン、イソプレンのような共役ジエン化合物の単量体から構成される共重合体も含まれる。例えばポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン-メタクリレート共重合体(MS樹脂)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBS樹脂)等が挙げられる。(A-1)成分のスチレン系樹脂としては、AS樹脂及び/又はABS樹脂が好ましい。」(段落【0012】) (1-4)「本発明で用いる(A-3)成分のポリアミド系樹脂としては、芳香族ジアミンとジカルボン酸とから形成されるポリアミド樹脂及びそれらの共重合体、具体的にはナイロン66、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカナミド(ナイロン6・12)、ポリドデカメチレンドデカナミド(ナイロン1212)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)及びこれらの混合物や共重合体;ナイロン6/66、6T成分が50モル%以下であるナイロン66/6T(6T:ポリヘキサメチレンテレフタラミド)、6I成分が50モル%以下であるナイロン66/6I(6I:ポリヘキサメチレンイソフタラミド)、ナイロン6T/6I/66、ナイロン6T/6I/610等の共重合体;ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリ(2-メチルペンタメチレン)テレフタルアミド(ナイロンM5T)、ポリ(2-メチルペンタメチレン)イソフタルアミド(ナイロンM5I)、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/M5T等の共重合体が挙げられ、そのほかアモルファスナイロンのような共重合ナイロンでもよく、アモルファスナイロンとしてはテレフタル酸とトリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合物等が挙げられる。 更に、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物及びこれらの成分からなる共重合体、具体的には、ナイロン6、ポリ-ω-ウンデカナミド(ナイロン11)、ポリ-ω-ドデカナミド(ナイロン12)等の脂肪族ポリアミド樹脂及びこれらの共重合体、ジアミン、ジカルボン酸とからなるポリアミドとの共重合体、具体的にはナイロン6T/6、ナイロン6T/11、ナイロン6T/12、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/6I/610/12等及びこれらの混合物が挙げられる。」(段落【0015】?【0016】) (1-5)「本発明で用いる(B)成分のホスフィン酸塩は、上記一般式(I)及び(II)で表されるものから選ばれる1又は2以上のものである。 R^(1)、R^(2)は、(B)成分中のリン原子の含有率を適正に保って難燃性付与効果を高めるため、水素、平均炭素数1?10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が好ましい。 R^(3)は2価の有機基であれば特に制限はないが、炭素数1?10のアルキレン基、フェニレン基が好ましい。 Mで示される塩を形成する原子又は有機基としては、アルカリ金属を除く周期表のIB、IIA、IIB、IIIA、IIIB、IVA、VA、VIA、VIIA、VIII族の元素(例えば、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム)、アミド基、アンモニウムアミド基、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基、メラミン等のトリアジン環含有化合物由来の基から選ばれる1以上が挙げられ、Mが前記の原子又は有機基であると、組成物の加工時において分解しにくくなるといった効果が得られる。」(段落【0033】?【0036】) (1-6)「本発明の組成物は射出成形品にすることができ、OA機器、電子機器の電器部品、機械部品、プラグ、マウント、ハウジング、カバー、外装材、オーバーコーティング等の用途に適している。」(段落【0043】) (1-7)「【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例、比較例では、下記の各成分を用いた。 (A)成分 (A-1)ABS樹脂:平均粒子径0.3μmのポリブタジエンラテックス40重量部の存在下に、スチレン74%、アクリロニトリル26%からなる単量体混合物60部を乳化重合した。得られたグラフト共重合体ラテックスは硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和し、洗浄、濾過、乾燥してパウダー状の弾性グラフト共重合体を得た (A-2)PBT:ポリプラスチックス(株)製のポリブチレンテレフタレート(商品名ジュラネックス2000) (A-3)PA:ナイロン66(宇部興産(株)製,ウベナイロン2020B) (A-4)PC:ポリカーボネート〔帝人化成(株)製のポリカーボネート(商品名パンライトL1225)を使用した〕 (A-5)PPE:ポリフェニレン系エーテル樹脂(GE Speciality Chemicals Inc. BLENDEX HP820) (B)成分 ジメチルホスフィン酸Al:一般式(I)の化合物,特開平8-73720号公報と同様の方法により製造した (C)成分 メラミンシアヌレート:日産化学社製,MC610 水酸化マグネシウム:協和化学社製,キスマ5E ドリップ防止剤:三井デュポンフロロケミカル(株),テフロン6-J (D)成分 ガラス充填剤:日本電気硝子(株),ESC03T (その他) 相溶化剤:特開平7-233309号公報と同様の方法で製造したエポキシ変性ポリプロピレンを用いた ジメチルホスフィン酸Na:特開49-74736号公報と同様の方法により製造した 赤リン:燐化学工業(株)製の赤リン難燃剤(商品名ノーバレッド120)(リン含有量90重量%以上)を使用した ポリリン酸アンモニウム:住友化学工業(株)製 トリフェニルホスフェート:大八化学工業(株)製。 実施例1?9、比較例1?7 表1に示す原料〔(A)成分は重量%、他の成分は(A)成分100重量部に対する重量部〕をタンブラーで混合した後、押出機で溶融混練し、冷却後、カッターでペレット化して、各組成物を得た。各組成物について、ペレットの変色の有無、加工時のガス発生の有無、難燃性、成形収縮率、耐熱性を下記の方法で試験した。結果を表1に示す。 (1)難燃性 UL94試験法に準拠し、厚み1/8インチの試験片を使用して評価した。 (2)加工時のガス発生の有無 各組成物を260℃で押出成形する際にガス(難燃剤由来のガス)が発生したかどうかをホスフィンガス検知管(ガステック(株)製)により確認した。○はガスが発生しないこと、×はガスが発生したことを示す。 (3)ペレットの変色の有無 各組成物のペレットの外観を目視観察し、暗赤色に着色したかどうかを調べた。○は着色したこと、×は着色しないことを示す。 (4)成形収縮率(寸法安定性) ASTM D955に基づき成形収縮率を測定し、評価した。○は収縮率が0.5%以下、×は収縮率が0.5%を超えたことを示す。 (5)耐熱性(可塑化の程度) 1/4インチの厚みを持つ射出成形片に対して、ASTM D648-82に基づく荷重たわみ試験(1.82MPa)を行ってHDT(荷重たわみ温度)を求め、下記基準で耐熱性を評価した。 ○:難燃剤を除いた組成物のHDTの値に比べ、低下の度合いが20℃未満のもの ×:難燃剤を除いた組成物のHDTの値に比べ、低下の度合いが20℃以上もの 【表1】 ![]() 実施例1?9は、各性質をバランスよく有しており、特に成形収縮率が小さく、寸法安定性が優れていた。 実施例10?16、比較例8?14 表2に示す原料〔(A)成分及び相溶化剤は重量%、他の成分は(A)成分及び相溶化剤の合計100重量部に対する重量部〕を用い、実施例1?7と同様にして各組成物を得た。各組成物について、表2に示す試験を行った。耐衝撃性と吸水性の試験法は下記のとおりである。結果を表2に示す。 (6)耐衝撃性 〔耐衝撃性〕1/4''インチの厚みを持つ射出成形片に対して、ASTM D256に基づくアイゾット衝撃試験(ノッチ有りサンプル使用)を行い、アイゾット衝撃強度で評価した。○は40J/m以上、×は40J/m未満を示す。 (7)吸水性 ASTM D570に基づき、23℃、24時間での吸水率で評価した。○は吸水率が1.1%以下、×は吸水率が1.1%を超えたことを示す。 【表2】 ![]() 実施例10?16は、各性質をバランスよく有しており、特に難燃性、耐熱性が優れていた。」(段落【0044】?【0050】) (1-8)「【発明の効果】本発明の難燃性樹脂組成物は、成形時の寸法安定性、難燃性、耐熱性等をバランスよく有しており、射出成形品用材料として好適である。」(段落【0051】) (2)引用文献4:特開2005-220240号公報 (2-1)「【請求項1】 以下の成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、及び成分(E)を配合してなり、かつ該成分の配合量、及び配合比率が、次の(1)?(4)式を全て満足することを特徴とする難燃性ポリアミド樹脂組成物。 成分(A):ISO粘度数が87?150の範囲であるポリアミド樹脂 成分(B):平均繊維径が9?20μmの範囲であるガラス繊維 成分(C):ガラス繊維以外の無機充填材 成分(D):臭素系難燃剤 成分(E):アンチモン化合物 式(1){(B)+(C)}/{(A)+(B)+(C)+(D)+(E)} =20?60/100[重量部] 式(2){(D)+(E)}/{(A)+(B)+(C)+(D)+(E)} =4?40/100[重量部] 式(3){(B)/(C)}=1/3?3/1[重量比率] 式(4)0.05≦{(Sb)/(Br)}≦0.4[重量比率] (なお、上記式中の(A)、(B)、(C)、(D)、及び(E)はそれぞれ成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、及び成分(E)の配合量を示す。また、(Sb)はアンチモンとしての配合量、(Br)は臭素としての配合量を示す。)」(特許請求の範囲請求項1) (2-2)「本発明で用いられるポリアミド樹脂の重合度は、ISO307に従って96%濃硫酸溶媒に1%溶解し、23℃にて測定した値、すなわち粘度数が、87?150の範囲であるものであり、好ましくは99?138の範囲のものである。粘度数がこの範囲より低いと、衝撃特性が低下し、粘度数が高いと、流動性が低下してしまうので不適当である。」(段落【0009】) (3)引用文献5:特開2003-238697号公報 (3-1)「【請求項1】 (A)ISO307で規定された粘度数が99?132ml/gであるポリアミド樹脂50?90重量%及び(B)ガラス繊維10?50重量%を含有するポリアミド樹脂組成物を、ロストコア成形して得られ、ASTMD1822 TypeSに準拠した試験片を用い、引張繰り返し荷重0?100MPa、波形が正弦波、周波数10Hzの条件下の引張疲労耐久試験における破断までの繰り返し回数が10,000回以上であるポリアミド樹脂製ロストコア成形品。」(特許請求の範囲請求項1) (3-2)「本発明で使用されるポリアミド樹脂は、特定範囲内の粘度数、換言すれば特定範囲内の重合度を有することが必要である。すなわち、ポリアミド樹脂はISO307で規定された粘度数が99?132ml/gであることが必要でり、好ましくは112?125ml/gの範囲である。粘度数が低すぎると成形品の疲労耐久特性が低下し、高すぎると流動性が低下し、成形品の肉厚が不均一となり易いので好ましくない。」(段落【0008】) (4)引用文献7:特開2000-212434号公報 (4-1)「【請求項1】 テレフタル酸単位を60?100モル%含むジカルボン酸単位と、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を60?100モル%含むジアミン単位とからなるポリアミド系樹脂と、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、スチレン系重合体を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1) (4-2)「【発明の属する技術分野】本発明は、特定のポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびスチレン系重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物ならびに該熱可塑性樹脂組成物からなる成形品に関する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、極めて優れた耐熱性を有しており、引張強さ、引張伸び、ウエルド強さ等の機械的特性に優れ、かつ成形性、低吸水性等の特性に優れることから、自動車部品、工業材料、産業資材、電気/電子部品、家庭用品その他の広範な用途に極めて有効に使用することができる。」(段落【0001】) (4-3)「【従来の技術】従来からナイロン6、ナイロン66等に代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているが、一方では、耐熱性不足、吸水による寸法安定性不良等の問題点も指摘されている。特に近年の表面実装技術(SMT)の発展に伴うリフローハンダ耐熱性を必要とする電気・電子分野、あるいは年々耐熱性への要求が高まる自動車のエンジンルーム部品等においては、従来のポリアミドの使用が困難となってきており、より耐熱性、吸水による寸法安定性、機械的特性、物理化学特性に優れたポリアミドへの要求が高まっている。」(段落【0002】) (4-4)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、半芳香族ポリアミドおよびポリフェニレンエーテル系樹脂が本来有する優れた特性をバランス良く兼ね備え、優れた耐熱性と機械的特性を有し、しかも成形性、低吸水性等の特性に優れた熱可塑性樹脂組成物ならびに該熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を提供することである。 【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびスチレン系重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物が、これらの優れた特性を損なうことなく、極めて優れた耐熱性を有し、引張強さ、引張伸び、ウエルド強さ等の機械的特性に優れ、さらに成形性、低吸水性等の特性にも優れていることを見出して、本発明を完成した。」(段落【0007】?【0008】) (4-5)「ポリアミド系樹脂(I) は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した極限粘度[η]が、好ましくは0.6?2.0dl/g、より好ましくは0.7?1.9dl/g、特に好ましくは0.8?1.8dl/gである。極限粘度が0.6dl/g未満の場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的特性が損なわれ、逆に2.0dl/gを超えると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下し、成形性が悪化するため好ましくない。」(段落【0026】) (4-6)「また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の添加剤の他に、必要に応じて、従来から公知の銅系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、結晶核剤、難燃剤あるいは他種ポリマー等も含有してもよい。」(段落【0050】) (4-7)「【実施例】以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれにより限定されない。以下の実施例、比較例および参考例において、熱可塑性樹脂組成物の試験片の作製、引張降伏強さ、引張破断伸び、ウエルド強さ、曲げ弾性率、ノッチ付きIZOD、加重撓み温度、溶融粘度および吸水率の測定は次のようにして行った。 ・・・ ポリアミド系樹脂(I) 、ポリフェニレンエーテル系樹脂(II)、スチレン系重合体(III) およびポリアミド系樹脂(IV)として下記のものを使用した。 ポリアミド系樹脂(I) ・PA9T:テレフタル酸をジカルボン酸単位とし、1,9-ノナンジアミンをジアミン単位とするポリアミド系樹脂 ・PA9MT:テレフタル酸をジカルボン酸単位とし、1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8-オクタンジアミンをジアミン単位とするポリアミド系樹脂 ポリフェニレンエーテル系樹脂(II) ・ポリ-2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル/ポリスチレン組成物(日本ジーイープラスチックス株式会社製「ノリル PPO534」) スチレン系重合体(III) ・スチレン系重合体(III-1) スチレン/無水マレイン酸共重合体(無水マレイン酸含有量22重量%、DSM Performance Polymers製「SZ22110」) ・スチレン系重合体(III-2) ポリスチレン-b-ポリ(メチルメタクリレート/グリシジルメタクリレート)ブロック共重合体 ポリアミド系樹脂(IV) ・PA6IT:テレフタル酸およびイソフタル酸をジカルボン酸単位とし、1,6-ヘキサンジアミンをジアミン単位とするポリアミド系樹脂 ・・・ 実施例1?9 ポリアミド系樹脂(I) 、ポリフェニレンエーテル系樹脂(II)およびスチレン系重合体(III) を下記の表1に示す割合(重量部)で予備混合した後、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX44C」)に供給してシリンダー温度320℃の条件下に溶融混練して押し出し、冷却、切断してペレットを製造した。このペレットを用いて上記した方法で試験片を作製し、その引張降伏強さ、引張破断伸び、ウエルド強さ、曲げ弾性率、ノッチ付きIZOD、加重撓み温度、溶融粘度および吸水率の測定を上記した方法で行った。その結果を表1に示す。 比較例1 ポリアミド系樹脂(IV)およびポリフェニレンエーテル系樹脂(II)を下記の表2に示す割合(重量部)で使用したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ペレットを製造した。このペレットを用いて上記した方法で試験片を作製し、その引張降伏強さ、引張破断伸び、ウエルド強さ、曲げ弾性率、ノッチ付きIZOD、加重撓み温度、溶融粘度および吸水率の測定を上記した方法で行った。その結果を表2に示す。 【表1】 ![]() 【表2】 ![]() 上記の表1および表2より、実施例1?9の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド系樹脂(IV)およびポリフェニレンエーテル系樹脂(II)からなる比較例1の熱可塑性樹脂組成物に対して、優れた耐熱性や低吸水性を示し、また引張降伏強さ、引張破断伸び、耐衝撃性等の機械的特性に優れ、とりわけウエルド強さの点で優れていることがわかる。」(段落【0054】?【0072】) 2.引用文献3に記載された発明の認定 引用文献3には、寸法安定性、難燃性、耐熱性等をバランスよく有し、安全性の問題を解決できる難燃性樹脂組成物(摘示事項(1-2)、(1-8))として、「(A)(A-1)スチレン系樹脂、(A-2)芳香族ポリエステル系樹脂、(A-3)ポリアミド系樹脂、(A-4)ポリカーボネート系樹脂及び(A-5)ポリフェニレンエーテル系樹脂から選ばれる2以上の熱可塑性樹脂と、(B)ホスフィン酸塩を含有しており、(B)ホスフィン酸塩が下記一般式(I)及び(II)で表されるものから選ばれる1又は2以上のものである難燃性樹脂組成物。 【化1】 ![]() (式中、R^(1)、R^(2)は、水素、平均炭素数1?16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、エーテル結合を含有するアルキル基、アラルキル基又はシクロアルキル基を示し、R^(3)は2価の有機基を示し、nは1以上の整数を示し、Mは塩を形成する原子又は有機基を示す。)」の発明が記載されている(摘示事項(1-1))。 そして、その実施例の記載からみて、当該熱可塑性樹脂として「(A-1)スチレン系樹脂、(A-3)ポリアミド系樹脂及び(A-5)ポリフェニレンエーテル系樹脂」を含有する樹脂組成物が記載されていると認められる(摘示事項(1-7)の表1)。 したがって、 引用文献3には、「(A)スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂及びポリフェニレンエーテル系樹脂と、(B)ホスフィン酸塩を含有しており、(B)ホスフィン酸塩が下記一般式(I)及び(II)で表されるものから選ばれる1又は2以上のものである難燃性樹脂組成物。 【化1】 ![]() (式中、R^(1)、R^(2)は、水素、平均炭素数1?16の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アリール基、エーテル結合を含有するアルキル基、アラルキル基又はシクロアルキル基を示し、R^(3)は2価の有機基を示し、nは1以上の整数を示し、Mは塩を形成する原子又は有機基を示す。)」 に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 3.対比、判断 (1)本願発明と引用発明との対比 本願発明の「(A)テレフタル酸を60?100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、1,9-ノナンジアミン単位(b-1)および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位(b-2)を60?100モル%含有するジアミン単位(b)からなる半芳香族ポリアミド」(以下、「本願発明半芳香族ポリアミド」という。)がポリアミド系樹脂であることはいうまでもない。 また、引用発明の「一般式(I)及び(II)で表されるホスフィン酸塩(化学構造式及び置換基の定義省略)」は、摘示事項(1-5)の記載からみて、本願発明の 「(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類(化学構造式及び置換基の定義省略)」と重複一致することは明らかである。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「(A)ポリアミド系樹脂、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)下式(I)で表されるホスフィン酸塩、下式(II)で表されるジホスフィン酸塩及びこれらの縮合物の中から選ばれる少なくとも1種のホスフィン酸塩類を含んでなる樹脂組成物。 ![]() [式中、R^(1)及びR^(2)は、同一か又は異なり、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(6)-アルキル及び/又はアリールもしくはフェニルであり、R^(3)は、直鎖状もしくは分岐状のC_(1)?C_(10)-アルキレン、C_(6)?C_(10)-アリーレン、C_(6)?C_(10)-アルキルアリーレン又はC_(6)?C_(10)-アリールアルキレンであり、Mはカルシウム(イオン)、マグネシウム(イオン)、アルミニウム(イオン)、亜鉛(イオン)、ビスマス(イオン)、マンガン(イオン)、ナトリウム(イオン)、カリウム(イオン)及びプロトン化された窒素塩基から選ばれる1種以上であり、mは2又は3であり、nは1?3であり、xは1又は2である。]」の点で一致し、次の相違点1及び2で相違し、相違点3で一応相違する。 ○相違点1:ポリアミド系樹脂が、本願発明では、本願発明半芳香族ポリアミドに特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はなされていない点。 ○相違点2:ポリアミド系樹脂について、本願発明では「粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が50ml/g?150ml/g」と特定されているのに対し、引用発明では、かかる特定はなされていない点。 ○相違点3:引用発明は、「スチレン系樹脂を含有する」ことが特定されているのに対し、本願発明は、かかる特定はなされていない点。 (2)相違点1についての検討 引用発明は、寸法安定性、難燃性、耐熱性等をバランスよく有し、安全性の問題を解決できる難燃性樹脂組成物(摘示事項(1-2))の提供を目的とするものであって、その用途としては、OA機器、電子機器の電器部品、機械部品、プラグ、マウント、ハウジング、カバー、外装材、オーバーコーティング等を予定するものである(摘示事項(1-6))。 これに対して、引用文献7には、「従来からナイロン6、ナイロン66等に代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているが、一方では、耐熱性不足、吸水による寸法安定性不良等の問題点も指摘されている。特に近年の表面実装技術(SMT)の発展に伴うリフローハンダ耐熱性を必要とする電気・電子分野、あるいは年々耐熱性への要求が高まる自動車のエンジンルーム部品等においては、従来のポリアミドの使用が困難となってきており、より耐熱性、吸水による寸法安定性、機械的特性、物理化学特性に優れたポリアミドへの要求が高まっている。」(摘示事項(4-3))と記載されているように、電気・電子分野、自動車のエンジンル-ム部品等の分野においては、さらなる耐熱性、寸法安定性、機械特性、物理化学特性が優れたポリアミドの提供は、本願出願前に、一般的な課題として知られている事項である。 そうであるから、OA機器、電子機器の電器部品、機械部品、プラグ等への使用を予定している引用発明においても、ポリアミドのさらなる寸法安定性、耐熱性等の向上への課題が内在しているものと認められ、これらの特性の向上を図ることは、当業者が当然に試みる事項と認められる。 そして、引用文献7には、「テレフタル酸単位を60?100モル%含有するジカルボン酸単位と、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を60?100モル%含有するジアミン単位とからなるポリアミド系樹脂(本願発明半芳香族ポリアミドに相当)、ポリフェニレンエーテル系樹脂およびスチレン系重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物が、これらの優れた特性を損なうことなく、極めて優れた耐熱性を有し、引張強さ、引張伸び、ウエルド強さ等の機械的特性に優れ、さらに成形性、低吸水性等の特性にも優れている」こと及び「自動車部品、工業材料、産業資材、電気/電子部品、家庭用品その他の広範な用途に用いられること」が記載されている(摘示事項(4-1)、(4-2)、(4-4)及び(4-7))。 そうであれば、引用発明においても、摘示(1-4)に例示されたようなポリアミド系樹脂に代えて、ポリフェニレンエーテル系樹脂などと配合して、優れた耐熱性、低吸水性、機械的特性、成形性等を発現する熱可塑性樹脂組成物が得られる、引用文献7に記載された本願発明半芳香族ポリアミドを適用してみることは当業者が適宜試みる事項に過ぎない。 そして、それによって得られる耐熱性、低吸水性、耐衝撃性、成形性の向上等の効果は、予測される範囲の効果に過ぎない。 また、難燃性、ガス発生に関する効果も、引用文献3に記載された効果と格別顕著な差異は認められない。 (3)相違点2についての検討 引用文献7には、「ポリアミド系樹脂(I) は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した極限粘度[η]が、好ましくは0.6?2.0dl/g、より好ましくは0.7?1.9dl/g、特に好ましくは0.8?1.8dl/gである。極限粘度が0.6dl/g未満の場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的特性が損なわれ、逆に2.0dl/gを超えると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下し、成形性が悪化するため好ましくない」(摘示事項(4-5))ことが記載されており、ポリアミド系樹脂の極限粘度はポリアミド系樹脂を含有する樹脂組成物の機械的特性、流動性、成形性等に大きく影響する物性と認められる。 そうであれば、引用発明に本願発明半芳香族ポリアミドを適用するに際して、樹脂組成物の機械的性質、流動性、成形性等を考慮して、本願発明半芳香族ポリアミドの極限粘度を調整することは当業者が当然に考慮する事項と認められる。 そして、その際に、引用文献7の「濃硫酸中30℃の条件下で測定した極限粘度[η]」に代えて、当該極限粘度と同様に重合度の指標として周知であって、同様に樹脂組成物の機械的性質、流動性、成形性等に大きく影響する物性の指標となることが知られている「粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)」(摘示事項(2-1)?(3-2))を採用し、その最適な範囲を決定することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 また、ポリアミド系樹脂組成物において、使用するポリアミド系樹脂の粘度数が低すぎれば機械的性質が劣り、高すぎれば流動性、成形性が低下することは、予測される事項にすぎないものであるところ(摘示事項(2-2)及び(3-2))、本願明細書の実施例と比較例を対比しても、上記予測の範囲内の効果であって、格別顕著な効果とは認められない。 (4)相違点3についての検討 引用発明のスチレン系樹脂は、摘示事項(1-3)に例示されたような樹脂を包含するものであるが、本願発明は、「・・・含んでなる樹脂組成物」に係る発明であって、他の成分を排除するものではないし、本願明細書段落【0055】にはスチレン系熱可塑性樹脂を配合してもよいことが記載されているから、スチレン系樹脂を含有し得るものである。 したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。 (5)まとめ よって、本願発明は、引用発明、引用文献4、5及び7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5.審判請求人の主張について (1)主張内容 審判請求人は、審判請求書(平成20年6月13日提出の手続補正書(方式)により補正)の「(2)原査定に対する反論」の項において、概略、次のような主張をしている。 ○主張1:「本願発明は、前記(A),(B)、(C)を含む難燃化樹脂組成物において、(A)成分のポリアミドとして、ポリアミドの粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)が50ml/g?150ml/gである、特定の半芳香族ポリアミドを選択したことが重要である。 ポリアミドの粘度数が前記範囲にある脂肪族ポリアミドを使用しても、また、前記特定の半芳香族ポリアミドであってもその粘度数が前記範囲外となるポリアミドを使用した場合には、前記難燃化組成物において本願発明が実現できた顕著な難燃化効果あるいは成形時の効果には遠く及ばないのである。」 ○主張2:「引用文献1?3には、前記ポリアミド樹脂として本願発明に選択使用する特定の粘度数を具備する特定の半芳香族ポリアミド樹脂については、実施例はもとより、単なる例示としてすら全く言及されていない。」 ○主張3:「引用文献4には難燃性ポリアミド樹脂組成物が記載されている。しかし、この樹脂組成物には、ポリアミド樹脂として本願発明に使用する特定の半芳香族ポリアミド樹脂については全く言及されていないのみならず、樹脂成分としてポリフェニレンエーテル系樹脂、また難燃剤としてホスフィン酸塩類を使用するものでもない。 引用文献5にはポリアミド樹脂製ロストコア成形品が記載されているが、この引用文献にもポリアミド樹脂として、本願発明の特定のポリアミド樹脂についての言及もなく、前記成形品にポリフェニレンエーテル系樹脂、及び難燃剤としてホスフィン酸塩類を使用するものではない。 このように引用文献4、5は、本願発明の樹脂組成物とは、ポリアミド樹脂組成物として全く別異の組成物である。」 ○主張4:「引用文献7、8には、粘度数の要件は別として本願発明に使用する特定の半芳香族ポリアミドとポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物が記載されている。 しかしながら、これらの引用文献記載の樹脂組成物には難燃剤としてホスフィン酸塩類を使用することは一切教示されていない。わずかに一般的な意味で難燃剤を添加してもよいことを記載するにとどまるのである(引用文献7、段落0050、引用文献8、段落0038)。 本願発明においては、すでに述べているように前記(A)、(B)、(C)を含んでなる樹脂組成物において、成形時の金型へのデポジット、ガスの発生を抑制することを課題の一つとしているが、一般に樹脂組成物に配合される難燃剤には、これら好ましからざる現象の少なくとも一部の原因となるものがある。本願発明においては、ポリアミド樹脂を特定の粘度数を具備する特定の半芳香族ポリアミドを選択使用し、かつ難燃剤として(C)成分のホスフィン酸塩類を選択することにより、前記好ましからざる現象を大幅に抑制して表面外観の優れた成形品を得ることができたものである。 これに対して、前記引用文献7、8には、前記に示すように難燃化剤の添加については単に一般的な説示をするに止まり、こうした難燃剤を使用する場合の問題点を解決することについては何らの教示もない。使用するポリアミド樹脂の粘度の説示についてみても、これらの引用文献には樹脂組成物の機械的特性及び流動性の観点から極限粘度を好ましくは0.6?2.0dl/gとすることを教示するのみである(引用文献7段落0026、引用文献8段落0019)。 このように引用文献7、8には、難燃剤としてホスフィン酸塩類の使用を前提として、さらに本願発明の特定の粘度数を具備する特定の半芳香族ポリアミドを選択使用することにより、前記課題を解決することを何ら教示するものではない。」 ○主張5:「ポリアミド66を用いた場合と、芳香族ポリアミドを用いた場合の比較では、芳香族ポリアミドを用いた場合においてのみ、SMT対応部品への適応が可能であることが、新実施例7?9の荷重たわみ温度(低荷重HDT)の測定結果から明白である。さらに、粘度数140ml/gのポリアミド66を用いる参考例1と同粘度数の芳香族ポリアミドを用いる新実施例2を例にとって比較すると、新実施例2の方が、約半分の難燃剤(DEP-a)添加量で、燃焼試験の平均燃焼時間が、1/2まで難燃化されており、著しい難燃効果の発現であるといえる。 引用文献7、8記載の樹脂組成物には難燃剤としてホスフィン酸塩類の使用については全く言及がなく、この難燃剤を含むことを前提として、特定の粘度数のポリアミドを選択する重要性については、これらの引用文献の記載事項からは到底窺い知ることはできないのである。加えて、本願発明においては、特定の半芳香族ポリアミドの粘度範囲の上限を150ml/gへと限定している。新実施例1?6と新比較例1,2との比較により、ガス発生量、表面外観、モールドデポジット発生ショット数の評価において、本願発明の特定粘度範囲の半芳香族ポリアミドを使用したものが著しく優れていることは明らかであるさらに、新実施例7?9と新比較例3との比較においても同様に本願発明の特定粘度範囲の半芳香族ポリアミドを用いた物が優れている。こうした顕著な効果を引用文献7,8から容易に予測できるものではない。」 (2)主張についての検討 請求人の主張について、以下に検討する。 ○主張1についての検討 上記相違点1及び2についてで検討したように、本願発明の効果が、特定の粘度数の本願発明半芳香族ポリアミドを用いることによる予想外の格別顕著な効果とは認められない。 ○主張2についての検討 上記相違点1及び2についてで検討したように、引用文献3に、特定の粘度数を具備する特定の半芳香族ポリアミド樹脂について例示されていないことが、引用発明のポリアミド系樹脂に代えて本願発明半芳香族ポリアミドを採用することへの阻害要因となるものではない。 ○主張3についての検討 引用文献4及び5は、単に、ポリアミドの「粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)」が、樹脂組成物の機械的性質、流動性、成形性に影響する物性の指標として周知であることを示すものに過ぎないから、引用文献4及び5に記載された組成物が本願発明の樹脂組成物と別異の組成物であることが、本願発明半芳香族ポリアミドの物性の指標として「粘度数(ISO307:1997で規定される96%硫酸中で測定)」を用いることを妨げるものではない。 ○主張4についての検討 引用文献7には、難燃剤を添加することができることが記載されており(摘示事項(4-6))、その難燃剤としてホスフィン酸塩類を除外する旨の記載はないし、ホスフィン酸塩類を適用できない事情があるものとも認められない。 したがって、引用文献7に難燃剤としてホスフィン酸塩類が明記されていないことが、引用発明への本願発明半芳香族ポリアミドの適用を阻害する要因とはなるものとは認められない。 さらに付言するに、本願明細書の記載、特に(新)実施例及び(新)比較例の記載をみても、難燃剤としてホスフィン酸塩類を用いることにより格別顕著な効果を奏することまでは裏付けられてはいない。 ○主張5についての検討 引用文献7に記載された本願発明半芳香族ポリアミドは、主鎖にテレフタル酸に由来する芳香環を有していることから、本願の優先日時点の技術常識からみて、主鎖に芳香環を有さないポリアミド66よりも耐熱性に優れるといえる。さらに、引用文献7には、ポリアミド66が耐熱性に劣ることが記載(摘示事項(4-3))されていることからみても、引用文献7に記載された本願発明半芳香族ポリアミドは、ポリアミド66よりも耐熱性に優れることは明らかである。 そして、耐熱性が高いポリアミドを成分として配合した樹脂組成物は、耐熱性を要求されるSMT対応部品への適応に適することは、予測される事項であって、格別なものではない。 また、耐熱性が高いポリアミド樹脂を成分として配合した樹脂組成物は、耐熱性に優れていることから、その難燃性においても優れることはもともと期待できるものである。そうであるから、新実施例2の方が、参考例1の約半分の難燃剤(DEP-a)添加量で、燃焼試験の平均燃焼時間が、1/2まで難燃化されていることをもって、直ちに、本願発明の奏する難燃効果が格別のものであると認めることはできない。 本願発明の特定粘度範囲の半芳香族ポリアミドを使用したものは、ガス発生量、表面外観、モールドデポジット発生ショット数の評価において著しく優れているとの主張については、上記相違点2についてで検討したように、 ポリアミド系樹脂組成物において、使用するポリアミド系樹脂の粘度数が高すぎれば流動性、成形性が低下することは、予測される事項であり、また、樹脂組成物の流動性が低いと、成形時の滞留時間が長くなり、その結果として樹脂の分解及びガス発生量の増大、あるいは、表面外観不良、モールドデポジット発生ショット数低下等の不都合が起こることは、本願の優先日時点の技術常識から容易に予測される事項である。 したがって、本願明細書の新実施例及び新比較例の結果をもって、本願発明の効果が格別顕著な効果とは認められない。 (3)小活 以上のとおりであるので、上記審判請求人の上記主張はいずれも採用できない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、本願発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-09 |
結審通知日 | 2011-03-10 |
審決日 | 2011-03-23 |
出願番号 | 特願2006-304331(P2006-304331) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中川 淳子 |
特許庁審判長 |
小林 均 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 内田 靖恵 |
発明の名称 | 難燃性に優れた樹脂組成物 |
代理人 | 酒井 正己 |
代理人 | 加々美 紀雄 |
代理人 | 小松 純 |