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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1236280
審判番号 不服2008-31826  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-16 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 特願2004-517989「電着可能な誘電性コーティング組成物を用いる回路アセンブリを製作するためのプロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日国際公開、WO2004/004428、平成17年10月13日国内公表、特表2005-531159〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年(2003年)6月27日(パリ条約による優先権主張:2002年6月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月28日に手続補正書が提出されて手続補正がなされ、同年9月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月16日に審判請求がなされ、同日に手続補正書が提出されて手続補正がなされ、平成21年3月25日付けで前置報告がなされたものである。

第2 平成20年12月16日にした手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の結論]

平成20年12月16日にした手続補正(以下、「本件手続補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件手続補正の内容及び目的
本件手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
基板中に金属化バイアを形成するためのプロセスであって、以下の工程:
(I)電気伝導性基板に、その上に順応性の誘電性コーティングを形成するため、該基板のすべての剥き出た表面上に電着可能なコーティング組成物を、電気泳動により付与する工程であって、
該電着可能なコーティング組成物が、水相中に分散された樹脂相を含み、該樹脂相が:
(a)非ゲルの活性水素を含有するイオン基含有樹脂であって、該樹脂がポリエポキシドポリマーおよびカチオン性アミン塩の基を含む、樹脂、および
(b)該樹脂(a)の活性水素と反応性の硬化剤であって、該硬化剤がブロックされたポリイソシアネートを含む、硬化剤、
を含み、該樹脂相が、該樹脂相中に存在する樹脂固形分の総重量を基づき、1重量%?50重量%の共有結合したハロゲン含量を有し、硬化された誘電性コーティングが、IPC-TM-650に従う難燃性試験を通過する、工程、
(II)所定のパターンで該順応性の誘電性コーティングの表面を切除する工程であって、該基板の1つ以上のセクションを剥き出す工程;
(III)金属の層をすべての表面に付与する工程であって、該基板中に金属化バイアを形成する工程、を包含する、プロセス。」
と補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である「非ゲルの活性水素を含有するイオン基含有樹脂」について限定する「該樹脂がポリエポキシドポリマーおよびカチオン性アミン塩の基を含む」との特定事項を付加し、また、「該樹脂(a)の活性水素と反応性の硬化剤」について限定する「該硬化剤がブロックされたポリイソシアネートを含む」との特定事項を付加し、さらに、「共有結合したハロゲン含量」についての「少なくとも1重量%」との特定を「1重量%?50重量%」と限定するものである。そして、補正後の請求項1に記載された発明と補正前の請求項1に記載された発明とで産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の上記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2 引用例の記載事項
(1) 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平4-355990号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の記載がある。

(1-a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、基材に電気回路を形成した回路基板およびその製造方法に関する。」(段落【0001】)

(1-b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の金属基材を用いた回路基板の優れた性質を具備しながら、更に小型・軽量化した回路基板およびその製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0004】)

(1-c)「【0008】本発明の回路基板は、極めて軽量であると同時に優れた強度、放熱性、電磁シールド性を持つマグネシウムを基材に用いたことにより、回路基板として高い性能を具備しながら、従来の回路基板に比べて更に軽量化することができる。」(段落【0008】)

(1-d)「【0026】(a)先ず、図6に示すように、マグネシウム合金(ASTM規格AZ31)製の基材101(直径76mm,厚さ0.5mm)に、ドリル加工により直径0.2?2mmの貫通孔(スルーホール)105を設けた(図には2つの貫通孔を示してある)。
(b)次に、図7に示すように、アミノ基を導入したエポキシ樹脂を主成分とするカチオン電着により、1?10A/dm^(2) の電流密度で厚さ20μmの電着塗装皮膜111を、基材の全面に形成した。」(段落【0026】)

(1-e)「【0027】(c)基材101上面側の電着塗装皮膜111上に、感光性ポリイミドを500?6000rpmの回転数でスピンコートし、厚さ10μmのポリイミド皮膜121を形成した(図8)。……湿式現像を行い、ポリイミド皮膜121に直径10?100μmのビアホール135を形成した(図9)。
【0028】(e)このポリイミド皮膜121をマスク(レジスト)とし、CF_(4)ガスを用いて電着塗装皮膜111をドライエッチングし、上記ビアホール135を電着塗装皮膜111を貫通させて基材101の上面まで到達させた(図10)。一般にはレジストはエッチングの後に除去する必要があるが、ポリイミド系樹脂の絶縁膜は耐熱性に優れており、後工程での半田付けのような高温処理にも耐えるので、除去する必要がなく、このまま最終的な電気回路の絶縁層として残し、回路基板全体の耐熱性向上に寄与させる。」(段落【0027】及び【0028】)

(1-f)「【0029】(f)化学メッキまたは電気メッキを用いた湿式処理により、ポリイミド皮膜121上、電着塗装皮膜111上およびビアホール135内の基材101上に、銅の金属膜141を形成した(図11)。」(段落【0029】)

(1-g) 図6-11には、基材101にスルーホール105を設け、基材101全面に電着塗装皮膜111を形成し、基材101上面側の電着塗装皮膜111上にポリイミド皮膜121を形成し、ポリイミド皮膜121にビアホール135を形成し、ビアホール135を基材101の上面まで到達させ、ポリイミド皮膜121上、電着塗装皮膜111上およびビアホール135内の基材101上に、金属膜141を形成する、というプロセスにおける各工程での基材の状態が図示されている。

(1-h) 上記の記載事項(1-e)、(1-f)及び図6-11の開示事項(1-g)(特に図11)によれば、ビアホール135の表面は金属膜141によって覆われるから、引用例1には、金属化ビアホール135を形成するプロセスが記載されていると認定することができる。

(1-i) 上記の記載事項(1-d)によれば、電着塗装皮膜111は基材101の全面に形成されるものであり、また、皮膜が形成されるものに対して順応するように皮膜を形成することは技術常識であるから、電着塗装皮膜111は順応性であると認定することができる。

(1-j) 上記の記載事項(1-d)によれば、電着塗装皮膜111は「アミノ基を導入したエポキシ樹脂」で構成されているから、電着塗装皮膜111は誘電性であることを認定することができる。

(1-k) 上記の記載事項(1-d)によれば、電着塗装皮膜111はカチオン電着により形成されており、また、コーティングを形成するカチオン電着においてコーティング組成物が電気泳動することは技術常識であるから、コーティング組成物は電気泳動により付与されることを認定することができる。

(1-l) 上記の記載事項(1-e)及び図6-11の開示事項(1-g)(特に図10)によれば、電着塗装皮膜111がドライエッチングによって所定のパターンで取り除かれ、ビアホール135は基材101に到達しているから、引用例1には、所定のパターンで電着塗装皮膜111の表面を切除し、基材101の1つ以上のセクションが剥き出される点が記載されていると認定することができる。

(1-m) 上記の記載事項(1-f)及び図6-11の開示事項(1-g)(特に図11)によれば、引用例1には、金属の層をすべての表面に付与する点が記載されていると認定することができる。

以上の記載事項(1-a)-(1-f)、図6-11の開示事項(1-g)、及び認定事項(1-h)-(1-m)によれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「基材101中に金属化ビアホール135を形成するためのプロセスであって、以下の工程:
(I)マグネシウム基基材に、その上に順応性の誘電性電着塗装皮膜111を形成するため、該基材101のすべての剥き出た表面上に電着可能なコーティング組成物を、電気泳動により付与する工程であって、
該電着可能なコーティング組成物が、アミノ基を導入したエポキシ樹脂を含む、工程、
(II)所定のパターンで該順応性の誘電性電着塗装皮膜111の表面を切除する工程であって、該基材101の1つ以上のセクションを剥き出す工程;
(III)金属の層をすべての表面に付与する工程であって、該基材101中に金属化ビアホール135を形成する工程、を包含する、プロセス。」

(2) 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特表平7-500867号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の記載がある。

(2-a)「1.電着性水性樹脂分散物であって、
(a)樹脂固形分の全重量に対して約0.5重量%?約40重量%のポリマー生成物であって、フリーラジカル開始条件下で、水性媒体において、重合性エチレン性不飽和モノマー組成物の水性分散物を、カチオン性ポリマー界面活性物質の存在下で重合させることによって調製されるポリマー生成物、および
(b)樹脂固形分の全重量に対して約60重量%?約99.5重量%の、カソード上に電着可能なカチオン性塩の基含有フィルム形成ポリマー、
を含有する電着性水性樹脂分散物。」(請求の範囲1.)

(2-b)「6.前記モノマー組成物が、ハロゲン含有モノマーを含有する、請求項1に記載の分散物」(請求の範囲6.)

(2-c)「10.(b)がカチオンポリエポキシド-アミン付加物である、請求項1に記載の分散物。」(請求の範囲10.)

(2-d)「産業上の利用分野
本発明は、電着性コーティング組成物における添加物として有用なポリマー生成物に関する。」(第3頁左上欄第5-7行)

(2-e)「ポリマー生成物が電着性水性樹脂分散物中に添加物として存在すると、分散物が電着方法において用いられる際に、分散物に重要な特性と利点とを提供する。ポリマー生成物を用いることによって、分散物は、高い隠ぺい能(hiding ability)を維持しながら、樹脂に対する顔料の重量比が比較的低く配合され得る。分散物の安定性は、顔料の含有量がより低いために向上する。さらに、本発明の分散物は、ポリマー生成物のない組成物と比較して、電着の間のレオロジーが向上した。本発明の分散物はまた、ポリマー生成物のために、油のしみに対する向上した耐性を有する電着コーティングを提供する。ポリマー生成物は、特に安価なジエンを高レベルで用いて配合すると、分散剤のコストを典型的に低減する低コスト成分となる。」(第3頁左下欄第16行-右下欄第4行)

(2-f)「本発明のポリマー生成物は、フリーラジカル開始重合条件下で、水性媒体中で調製される。ポリマー生成物を調製するために、エチレン性不飽和重合性モノマー組成物(例えば、ジエンモノマー、他のビニルモノマーおよびその混合物)を水性媒体中に分散させ、そしてフリーラジカル開始付加重合条件(例えば、フリーラジカル開始剤の存在下の加熱)にかける。重合は、以下に詳述するカチオン性ポリマー界面活性物質の存在下で行われる。
モノマー組成物は、ジエンモノマーおよびその混合物を含むビニルモノマーのような種々の重合性エチレン性不飽和材料から選択され得る。使用され得るビニルモノマーの例としては、……
他のビニルモノマーの例としては、酢酸ビニルおよび酢酸イソプロペニルのような有機酸のエステル;シアン化アリルのようなアリル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデンおよびフッ化ビニリデンのようなハロゲン化モノマー;アクリルアミドおよびメタクリルアミドのようなアクリル酸およびメタクリル酸のアミド、ならびにN-エトキシメチルアクリルアミド、N-エトキシメチルメタクリルアミド、N-ブトキシメチルアクリルアミドおよびN-ブトキシメチルメタクリルアミドのようなN-アルコキシメチル誘導体が挙げられる。……
使用され得る種々のジエンには、1,3-ブタジエン、イソプレンならびに非置換および置換共役ジオレフィンの両方を含むアルキリデン系のジ-不飽和メンバーの大半が包含される。置換ジオレフィンは、アルキリデン鎖に直接結合する低アルキル基またはハロゲン基を含有するものであり得る。これらのジオレフィンの代表的な例としては、クロロプレンおよび2,3-ジメチルブタジエンが挙げられる。また、ジエンの混合物、およびジエンと上記の他のビニルモノマーとの混合物も用いられ得る。ジエンモノマーは、20重量%?100重量%、好ましくは30重量%?95重量%の量で用いられる。」(第3頁右下欄第5行-第4頁右上欄第12行)

(2-g)「ポリマー生成物は、本発明に従って調製され、安定した水性分散物を形成する。安定したとは、分散物が、25℃の温度で少なくとも60日間、ゲル化も、凝集も、沈澱もしないことを意味する。沈澱が発生する場合は、沈澱物は、低剪断性攪拌によって容易に再分散され得る。水性分散物は通常、水性相が連続相を形成する、半透明から不透明な二相水性ポリマー系である。
本発明のポリマー生成物は、高温でこのポリマー生成物を硬化剤と反応性にするヒドロキシル、第1アミノおよび第2アミノのような活性水素を含有するように製造され得る。使用され得る硬化剤は、室温ではポリマー生成物の分散物内で安定であるが、高温、すなわち、約90℃?260℃では活性水素と反応し、架橋生成物を形成するものでなければならない。適切な硬化剤の例は後述する。」(第6頁右下欄第1-14行)

(2-h)「上記のポリマー生成物は、カソードに電着可能であり、そしてポリマー生成物と異なるカチオン性塩の基含有フィルム形成ポリマーと共に配合され、本発明の電着性水性樹脂分散物を形成する。ポリマー生成物およびカチオン性塩の基含有フィルム形成ポリマーは、ゆるやかに攪拌して2つをいっしょに混合することにより結合され得る。
カチオン性電着性ポリマーは、当業者に公知の任意の樹脂、場合によっては、上記のようなポリマー生成物を調製するために用いられるカチオン性ポリマー界面活性物質であり得る。カチオン性ポリマーはまた、ジエン由来のポリマー材料を実質的に含まないのが好ましい。例えば、このような樹脂には、Jerabekの米国特許第4,031,050号に記載されているようなポリエポキシド、ならびに第1アミンおよび第2アミンの酸可溶化反応生成物である高い均一電着性を有するアミン塩の基含有樹脂が含まれる。通常、これらのアミン塩の基含有樹脂は、以下にさらに詳細に記載されるようなブロックしたイソシアネート硬化剤と共に用いられる。」(第6頁右下欄第15行-第7頁左上欄第7行)

(2-i)「本発明の水性分散物はまた、フローコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティングおよびロールコーティングの適用のような非電気泳動コーティングの適用にも用いられ得る。電着および非電気泳動コーティングに適用するために、本発明のコーティング組成物は、特に鋼鉄、アルミニウム、銅、マグネシウムなどの金属、ならびに金属化プラスチックおよび導電性の炭素コーティング材料も含む種々の導電性基板に適用され得る。」(第8頁左上欄第7-14行)

(2-j) 上記の記載事項(2-g)及び(2-h)によれば、コーティング組成物の樹脂相には、ポリマー生成物、カチオン性塩の基含有フィルム形成ポリマー、及びブロックしたイソシアネート硬化剤が含まれる。これらの中で少なくともポリマー生成物は、非ゲルであって第1アミノおよび第2アミノのような活性水素を含有するものであり、また、少なくともカチオン性塩の基含有フィルム形成ポリマーは、ポリエポキシドおよびアミン塩の基を含むものである。また、ポリマー生成物とカチオン性塩の基含有フィルム形成ポリマーとは、混合することにより結合され得るものであり、カチオン性塩の基含有フィルム形成ポリマーは、ポリマー生成物を調製するために用いられるカチオン性ポリマー界面活性物質であり得るものである。したがって、コーティング組成物の樹脂相における、ポリマー生成物とカチオン性塩の基含有フィルム形成ポリマーとで、非ゲルの活性水素を含有し、ポリエポキシドポリマーおよびカチオン性アミン塩の基を含んでいると認定することができる。

(2-k) 上記の記載事項(2-a)-(2-i)及び認定事項(2-j)によれば、引用例2には、電気伝導性基板に電着可能なコーティング組成物が、水相中に分散された樹脂相を含み、該樹脂相が、非ゲルの活性水素を含有するイオン基含有樹脂であって、該樹脂がポリエポキシドポリマーおよびカチオン性アミン塩の基を含む、樹脂、および該樹脂の活性水素と反応性の硬化剤であって、該硬化剤がブロックされたポリイソシアネートを含む、硬化剤、を含む、との技術的事項が記載されていると認定することができる。

(2-l) 上記の記載事項(2-f)によれば、ポリマー生成物を調製するためにジエンモノマーやビニルモノマーが用いられ、ビニルモノマーとしてハロゲン化モノマーが例示され、ジエンとしてハロゲン基を含有する置換ジオレフィンが例示されている。したがって、上記の記載事項(2-a)-(2-i)によれば、引用例2について、電気伝導性基板に電着可能なコーティング組成物としてハロゲンを含有するものが例示されているという技術的事項を認定できる。

(3) 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特表平3-42893号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の記載がある。

(3-a)「2.特許請求の範囲
(1)予め決められた領域が裸の金属で残りの領域がレジスト被覆金属でなる表面を有する基材上に金属パターンを製造する方法であって、
(i)裸の金属を、その上に有機樹脂フィルムを電着することにより保護し、
(ii)その電着樹脂フィルムを持つ基材を、上記フィルム用硬化剤(該硬化剤は加熱又は照射により単独で又は電着樹脂フィルム中の官能基との反応で硬化する物質である)の水溶液又は分散液中に浸漬することによって、上記水溶液又は分散液を電着樹脂フィルムの表面中に拡散させ、
(iii)基材を硬化剤にとって硬化する状態にし、それによって電着樹脂フィルムの表面を硬化させ、……」(特許請求の範囲(1))

(3-b)「(2)電着樹脂フィルムがアクリルポリマー;又はエポキシ樹脂とアミンとの付加物でできている請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲(2))

(3-c)「(8)電着樹脂フィルムがカルボキシル基、ヒドロキシル基又は第一もしくは第二アミノ基を含有し、硬化剤がブロックトイソシアネート基を有する物質(好ましくは芳香族ジイソシアネートと、オキシムかオキシムとアルコールの混合物のどちらかとの反応混合物である硬化剤)であり、……」(特許請求の範囲(8))

(3-d)「[産業上の利用分野]
本発明は、金属パターン例えばプリント回路及びその類似物を製造する方法に関する。
[従来の技術]
プリント回路板の製造のために使用される種々の方法があるが、使用される工程の幾つかは種々の方法に共通している。」(第2頁左下欄第20行-右下欄第6行)

(3-e)「エポキシ樹脂とアミンとの好ましい付加物は、ポリグリシジルエーテル(多価フェノール又は多価アルコールのポリグリシジルエーテルであってよい)と第二アミンとの付加物である。好ましいポリグリシエーテルとしては、……。好ましいポリグリシジルエーテルは、ビスフェノール下、ビスフェノールA及びテトラブロモビスフェノールAのようなビスフェノール及びフェノール・ホルムアルデヒド又はクレゾールホルムアルデヒドノボラック樹脂のようなフェノールノボラック樹脂を含む多価フェノールのポリグリシジルエーテルである。これらフェノールのポリグリシジルエーテルは、例えば上述したような二価アルコール又はフェノールとの反応により高進化され(advanced)ていてよい、特に好ましいポリグリシジルエーテルは、ビスフェノールAとの反応により高進化されたビスフェノールAのポリグリシジルエーテルである。」(第6頁右上欄第19行-右下欄第13行)

(3-f)「電着樹脂フィルムがカルボキシル基、ヒドロキシル基又は第一もしくは第二アミノ基を含む場合、硬化剤はブロックトイソシアネート基、即ち活性水素原子との反応によりブロックされた(blocked)イソシアネート基を有する物質であってよく、そのため生成ブロックト基(resulting blocked group)は室温では非反応性であるが高められた温度では反応性となる。本発明方法において使用するのに適するブロックされたイソシアネート物質は、ポリイソシアネート(平均分子当り1個より多いイソシアネート基を持つ物質)と、アルコール性又はフェノール性ヒドロキシル基、メルカプタン基、第一もしくは第二アミノ基、イミダゾール基、オキシム基、トリアゾール基、ピラゾール基又はラクタム基を有するブロッキング剤(blocking agent)との反応により製造されるものを含めた公知物質の全てであってよい。」(第8頁右下欄第7行-第9頁左上欄第4行)

(3-g)「本発明の方法は、めっきスルーホールまたはバイアスを有する多層回路を含めたプリント回路の製造に非常に有用である。」(第11頁左上欄第10-12行)

(3-h) 上記の記載事項(3-b)及び(3-e)におけるエポキシ樹脂とアミンとの付加物は、実質的にポリエポキシドポリマーおよびアミン塩の基を含む樹脂のことであり、また、少なくとも第一もしくは第二アミノ基を含む樹脂が活性水素を含有することは周知の事項である。したがって、上記の記載事項(3-a)-(3-g)によれば、引用例3には、プリント回路板における金属パターンの上に電着可能なコーティング組成物が、活性水素を含有する樹脂であって、該樹脂がポリエポキシドポリマーおよびアミン塩の基を含む樹脂を含み、また、該樹脂の活性水素と反応性の硬化剤であって、ブロックされたポリイソシアネートを含む硬化剤が、上記のコーティング組成物を硬化するために利用される、との技術的事項が記載されていると認定することができる。

(3-i) 上記の記載事項(3-e)によれば、好ましいポリグリシジルエーテルとしてテトラブロモビスフェノールAが例示されており、これはハロゲンを含有するものである。したがって、上記の記載事項(3-a)-(3-g)によれば、引用例3について、プリント回路板における金属パターンの上に電着可能なコーティング組成物として、ハロゲンを含有するものが例示されているという技術的事項を認定できる。

3 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「基材101」、「ビアホール135」、及び「電着塗装皮膜111」は、それぞれ本件補正発明の「基板」、「バイア」、及び「コーティング」に相当する。
また、引用発明のマグネシウム基基材は電気伝導性であると認められる。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
「基板中に金属化バイアを形成するためのプロセスであって、以下の工程:
(I)電気伝導性基板に、その上に順応性の誘電性コーティングを形成するため、該基板のすべての剥き出た表面上に電着可能なコーティング組成物を、電気泳動により付与する工程、
(II)所定のパターンで該順応性の誘電性コーティングの表面を切除する工程であって、該基板の1つ以上のセクションを剥き出す工程;
(III)金属の層をすべての表面に付与する工程であって、該基板中に金属化バイアを形成する工程、を包含する、プロセス。」

そして、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件補正発明では、電着可能なコーティング組成物が、水相中に分散された樹脂相を含み、該樹脂相が、
(a)非ゲルの活性水素を含有するイオン基含有樹脂であって、該樹脂がポリエポキシドポリマーおよびカチオン性アミン塩の基を含む、樹脂、および
(b)該樹脂(a)の活性水素と反応性の硬化剤であって、該硬化剤がブロックされたポリイソシアネートを含む、硬化剤、
を含むものであるのに対して、
引用発明では、電着可能なコーティング組成物が、アミノ基を導入したエポキシ樹脂を含むものである点。

<相違点2>
本件補正発明では、樹脂相が、該樹脂相中に存在する樹脂固形分の総重量を基づき、1重量%?50重量%の共有結合したハロゲン含量を有し、硬化された誘電性コーティングが、IPC-TM-650に従う難燃性試験を通過するのに対して、引用発明では、そのような限定がなされていない点。

4 相違点の検討
そこで、上記各相違点について検討する。

<相違点1について>

引用例2に開示された技術的事項(2-k)及び引用例3に開示された技術的事項(3-h)に基づけば、基板における電気伝導性部材の上に電着可能なコーティング組成物として、活性水素を含有する樹脂であって、該樹脂がポリエポキシドポリマーおよびアミン塩の基を含む樹脂を含むものを使用し、該樹脂の活性水素と反応性の硬化剤であって、ブロックされたポリイソシアネートを含む硬化剤が、上記のコーティング組成物を硬化するために利用される点は、本願の優先権主張日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。)である。
ここで、引用発明においては、電気伝導性部材の上に電着可能なコーティング組成物はアミノ基を導入したエポキシ樹脂であるが、樹脂の種類は各種の実施化条件に応じて当業者が適宜選択し得た設計的事項である。してみれば、引用発明において、コーティング組成物の安定性や流動性の向上、コストの抑制等の周知の課題に応じて、コーティング組成物の種類について周知技術1を適用し、コーティング組成物として、活性水素を含有する樹脂であって、該樹脂がポリエポキシドポリマーおよびアミン塩の基を含む樹脂を含むものを使用し、かつ、該樹脂の活性水素と反応性の硬化剤であって、ブロックされたポリイソシアネートを含む硬化剤を利用することは、当業者が容易になし得たことである。
また、コーティング組成物と硬化剤の態様を、引用例2に開示された技術的事項(2-k)に基づき、コーティング組成物が、水相中に分散された樹脂相を含み、該樹脂相が、非ゲルの樹脂と硬化剤とを含む態様とし、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者における通常の創作能力の発揮である。

<相違点2について>

プリント配線板において、難燃性の向上という周知の課題に対し、絶縁層の樹脂組成物にハロゲンを含有させることは、前置報告で引用された、以下の周知文献1及び2に示されるように、本件出願の優先権主張日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。)である。
ところで、引用例2に開示された技術的事項(2-l)及び引用例3に開示された技術的事項(3-i)に基づけば、引用例2及び引用例3には、基板における電気伝導性部材の上に電着可能なコーティング組成物としてハロゲンを含有するものが例示されており、引用発明におけるコーティング組成物の種類について周知技術1を適用するに当たり、プリント配線板における難燃性の向上という周知の課題を考慮して、コーティング組成物としてハロゲンを含有するものを選択することは、当業者が容易になし得たことである。
また、ハロゲン含量を、難燃性と耐熱性等の他の特性とを勘案して適宜好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず、また、プリント配線板の難燃性の基準を、IPC-TM-650に従う難燃性試験とすることについて格別な困難性は見出せない。したがって、引用発明において、樹脂相が、該樹脂相中に存在する樹脂固形分の総重量を基づき、1重量%?50重量%の共有結合したハロゲン含量を有し、硬化された誘電性コーティングが、IPC-TM-650に従う難燃性試験を通過する構成とし、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

・周知文献1;特開昭52-151363号公報
「2.特許請求の範囲
1. ハロゲンを含むエポキシ樹脂とヒダントイン骨格を有するエポキシ樹脂を必須成分とする熱硬化性樹脂組成物を含浸させてなる難燃性エポキシプリプレグ。
3.発明の詳細な説明
本発明は難燃性の印刷配線板、多層印刷配線板用として使用される優れたエポキシプレプリグに関する。
……近年においては厳しい難燃性が要求されている。
従来、エポキシプリプレグに難燃性を付与する方法としては、ハロゲンを含むエポキシ樹脂または硬化剤が用いられる。しかし、印刷配線板においては、こうしたハロゲンを含むエポキシ樹脂または硬化剤を使用することによって難燃性は向上するが、ハロゲンの濃度が多くなると回路鋼箔との高温(260℃付近)接着力およびはんだ耐熱性が低下し、……」(第1頁左下欄第4行-右下欄第10行)
「本発明でいうハロゲンを含むエポキシ樹脂とは、ハロゲン化ビスフエノールA形エポキシ樹脂として、例えば、……等がある。」(第2頁左上欄第18行-右上欄第7行)
「本発明の樹脂組成物を用いた場合、従来のハロゲン濃度よりかなり低いハロゲン濃度で十分な難燃性が得られる。具体的に示すと、VL規格でV-1の難燃性を得るには従来では16%以上のハロゲン濃度を必要とするが、本発明では10%以下で十分であり、同様にV-0を得るには従来の18%以上に対し、本発明では13%以下でも十分である。」(第2頁左下欄第9-16行)

・周知文献2;特開昭59-4624号公報
「3.発明の詳細な説明
本発明は難燃性紙-フェノール樹脂積層板または銅張り積層板の製造法に関するものである。
……
しかしながら、絶縁材料に使用される積層板、銅張積層板に対して安全性重視の観点から難燃化の要求が強くなっている。……積層板の難燃化にはハロゲンあるいはリン化合物を樹脂中に添加するが、それらの化合物には添加型難燃剤と、樹脂と化合的に結合させる反応型難燃剤がある。それぞれ一長一短があり……
本発明は以上のような問題点を改良することを目的としたもので打抜加工性及び難燃性を附与しかつ積層板の特性低下を起こさない反応型難燃剤として作用するハロゲン化合物(反応型難燃性可塑剤)を使った積層板あるいは銅張り積層板の製造法に関するものである。」(第2頁左上欄第5行-右上欄第20行)
「本発明で得られた難燃性可塑剤を添加するフェノール樹脂は積層板製造に用いられるものであれば用いることができる。……また添加量は難燃性のグレードにもよるがUL-94のV-1を満足するためには本発明の可塑剤単独で用いる場合にはベースレジンも含めた樹脂中でハロゲン原子が10?30重量%になるように配合するのが好ましい。」(第4頁左下欄第2-12行)

そして、本件補正発明が奏する効果も、引用発明、引用例2に開示された技術的事項、引用例3に開示された技術的事項、周知技術1及び周知技術2から当業者が予測できたものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用例2に開示された技術的事項、引用例3に開示された技術的事項、周知技術1及び周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり、本件手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について

1 本件発明
上記のとおり、本件手続補正は却下されたので、本件の請求項1-50に係る発明は、平成20年4月28日にした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-50に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1は次のとおり記載されている。
「【請求項1】
基板中に金属化バイアを形成するためのプロセスであって、以下の工程:
(I)電気伝導性基板に、その上に順応性の誘電性コーティングを形成するため、該基板のすべての剥き出た表面上に電着可能なコーティング組成物を、電気泳動により付与する工程であって、
該電着可能なコーティング組成物が、水相中に分散された樹脂相を含み、該樹脂相が:
(a)非ゲルの活性水素を含有するイオン基含有樹脂、および
(b)該樹脂(a)の活性水素と反応性の硬化剤
を含み、該樹脂相が、該樹脂相中に存在する樹脂固形分の総重量を基づき、少なくとも1重量%の共有結合したハロゲン含量を有し、硬化された誘電性コーティングが、IPC-TM-650に従う難燃性試験を通過する、工程、
(II)所定のパターンで該順応性の誘電性コーティングの表面を切除する工程であって、該基板の1つ以上のセクションを剥き出す工程;
(III)金属の層をすべての表面に付与する工程であって、該基板中に金属化バイアを形成する工程、を包含する、プロセス。」
(以下、請求項1に係る発明を、「本件発明」という。)

2 引用例の記載事項
引用例及びその記載事項は、上記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・検討
本件発明は、上記「第2 1ないし5」で検討した本件補正発明から、「非ゲルの活性水素を含有するイオン基含有樹脂」について限定する「該樹脂がポリエポキシドポリマーおよびカチオン性アミン塩の基を含む」との特定事項を省き、また、「該樹脂(a)の活性水素と反応性の硬化剤」について限定する「該硬化剤がブロックされたポリイソシアネートを含む」との特定事項を省き、さらに、「共有結合したハロゲン含量」についての「1重量%?50重量%」との特定を「少なくとも1重量%」とするものである。
そうすると、本件発明1を特定する事項を実質的に全て含み、さらに他の特定する事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記2(4)に記載したとおり、引用発明、引用例2に開示された技術的事項、引用例3に開示された技術的事項、周知技術1及び周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2に開示された技術的事項、引用例3に開示された技術的事項、周知技術1及び周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-11-30 
結審通知日 2010-12-01 
審決日 2010-12-16 
出願番号 特願2004-517989(P2004-517989)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大光 太朗  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 加藤 友也
田村 耕作
発明の名称 電着可能な誘電性コーティング組成物を用いる回路アセンブリを製作するためのプロセス  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  

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