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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1236290
審判番号 不服2009-7871  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-10 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 特願2003- 64949「極細線回路プリント配線板の製造方法。」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月30日出願公開、特開2004-273911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成15年3月11日の出願であって、平成20年8月15日付けで拒絶理由が通知され、平成20年10月17日付けで意見書が提出されたが、平成21年3月9日付けで拒絶査定がなされ、同年4月10日に同拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年5月8日付けで補正書が提出されて明細書を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成22年8月27日付けで書面による審尋がなされ、それに対して同年10月28日付けで回答書が提出され、同年11月30日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成23年1月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成23年1月20日付け手続補正書並びに願書に最初に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
キャリア金属箔付きの厚さ2μm以下の薄銅箔を最外層に貼って得られた銅張積層板のキャリア金属箔を剥離後、表面処理を施さず、銅張積層板表面にパルスエネルギーが3?19mJである炭酸ガスレーザーエネルギーをパルス発振により直接照射し、少なくとも2層以上の銅張積層板にブラインドビア孔及び/又は貫通孔を形成した後、パターンメッキ法にて極細線回路を作製することを特徴とする極細線回路プリント配線板の製造方法。」

第3 引用文献
1 引用文献1
当審拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2003-17835号公報(公開日:平成15年1月17日、以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】(1)貫通孔及び/又はブラインドビア孔が形成されている、最外層の銅箔厚さが5μm以下の極薄銅張板を用い、孔内を含む表面に0.1?1μmの無電解銅メッキを施し、(2)次いで、該無電解銅メッキ析出層を電極にして厚さ0.5?3μmの電気銅メッキ層を形成し、(3)この銅メッキ析出層の上の必要部分にパターン電気メッキ用のメッキレジスト層を形成し、(4)メッキレジスト層が形成されていない銅面に、電気銅メッキでパターン銅メッキを6?30μm付着させ、(5)メッキレジストを剥離除去し、(6)全面をエッチングして、少なくともパターン銅メッキ層の形成されていない部分の薄い電気銅層、無電解銅層及び極薄銅箔層を溶解除去して製造することを特徴とする極細線パターンを有するプリント配線板の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

(2)「【0006】
【発明の実施の形態】本発明は、一般の5μm以下の薄銅箔を用いて積層された銅張板を用いて、ライン/スペース=40/40μm以下の細線パターンを作製する方法で高密度のプリント配線板を製造するものである。工程は、
(1)まず最外層に5μm以下の一般の電解銅箔を張った、少なくとも2層以上の銅箔を有する極薄銅箔張板を作製する。この極薄銅張板に、一般に公知の方法にて貫通孔及び/又はブラインドビア孔を形成する。この最外層の銅箔厚さが5μm以下の極薄銅張板を製造する方法は特に制限はなく、例えば、保護金属板補強薄銅箔を用いて積層成形し、保護金属板を剥離して銅張板とする方法、厚さが5μmを越える銅箔を用いて積層成形し、これを孔あけ前にエッチング除去して5μm以下とするか、炭酸ガスレーザーで特開平11-220243、特開平11-346059 に示すように孔あけ後、孔周辺に発生した銅箔バリをエッチング除去すると同時に銅箔の厚さ方向の一部をエッチング除去して残存銅箔厚さ5μm以下とする方法等、一般に公知の方法が使用できる。この孔があいた銅張板の孔内を含む表面に0.1?1μmの無電解銅メッキを施す。」(【0006】)

(3)「【0009】基材補強銅張積層板は、まず補強基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸、乾燥させてBステージとし、プリプレグを作成する。次に、このプリプレグを所定枚数重ね、その外側に保護金属板補強銅箔を配置して、加熱、加圧下に積層成形し、銅張積層板とする。多層板は、この両面銅張積層板の銅箔を加工して回路を形成し、銅箔表面を処理して内層板を作製し、この外側にプリプレグ、Bステージ樹脂シートを置いて、保護金属板補強薄銅箔をその外側に配置し、積層成形するか、或いは保護金属板補強薄銅箔付きBステージ樹脂シートを内層板の外側に配置し、積層成形して多層銅張板とする。」(【0009】)

(4)「【0013】本発明で使用する、保護金属板に接着した銅箔は、一般に公知のものが挙げられる。銅箔の厚さは5μm以下であり、銅箔のシャイニー面に無処理のもの、或いはニッケル金属、コバルト金属、これらの合金処理がなされているものが使用される。金属処理をされている場合、表面に銅箔を積層して張り、表層の保護金属板を除去後、この上から比較的低エネルギーの5?20mJの炭酸ガスレーザーを直接照射することにより孔が形成できる。」(【0013】)

(5)「【0017】炭酸ガスレーザーは、赤外線波長域にある9.3?10.6μmの波長が一般に使用される。エネルギーは5?60mJ、好適には7?45mJ にてパルス発振で銅箔を加工し、孔をあける。エネルギーは表層の銅箔上の処理、銅箔の厚さによって適宜選択する。・・・(後略)・・・」(【0017】)

(6)「【0021】実施例2
エポキシ樹脂(商品名:エピコート5045、ジャパンエポキシレジン<株>製)700部、及びエポキシ樹脂(商品名:ESCN220F)300部、ジシアンジアミド35部、2-エチル-4-メチルイミダゾール1部をメチルエチルケトンとジメチルホルムアミドの混合溶剤に溶解し、さらに実施例1の焼成タルクを800部を加え、強制撹拌して均一分散し、ワニスFを得た。これを厚さ100μmのガラス織布に含浸、乾燥して、ゲル化時間150秒、樹脂組成物含有量45重量%のプリプレグ(プリプレグG)及び厚さ50μmのガラス織布に含浸、乾燥して、ゲル化時間178秒、樹脂組成物含有量70重量%のプリプレグ(プリプレグH)を作成した。このプリプレグGを2枚使用し、厚さ12μmの一般の電解銅箔を両面に置き、190℃、20kgf/cm^(2)、30mmHg以下の真空下で2時間積層成形して両面銅張積層板Iを作製した。この両面にパターンを形成し、黒色酸化銅処理を施し、この両外側に上記プリプレグHを各1枚配置し、その外側に、厚さ3μmの一般の電解銅箔のシャイニー面にコバルト合金処理を施し、その上に35μmの銅板を保護補強して張った銅箔(商品名:F3B-WS銅箔、古河サーキットフォイル<株>製)を配置して同様に積層成形し、4層板を作製した。この表面の保護金属板を剥離し、表面の銅箔上に、炭酸ガスレーザーパルスエネルギー10mJで1ショット照射し、孔径100μmのブラインドビア孔を両面にあけた。これをプラズマ装置の中に入れ、底部の残存樹脂を除去し、表層のコバルト合金処理を薬液で溶解除去して銅箔厚さ1.5μmとした後、全体に厚さ0.3μmの無電解銅メッキを施し、次いで厚さ2μmの電気銅メッキを施した後、電気銅メッキ用のメッキレジストを15μm付着させ、メッキレジスト層が形成されていない銅面に電気銅メッキを14μm付着させ、メッキレジストを剥離し、全面をエッチングして、パターン銅メッ層が形成されていない部分の薄い電気銅層、無電解銅層、及び極薄銅箔層を溶解除去してライン/スペース=20/20μmを有するプリント配線板を作製した。評価結果を表1に示す。」(【0021】)

また、以下の事項を認定することができる。

(7)上記(1)の「(3)この銅メッキ析出層の上の必要部分にパターン電気メッキ用のメッキレジスト層を形成し、(4)メッキレジスト層が形成されていない銅面に、電気銅メッキでパターン銅メッキを6?30μm付着させ、(5)メッキレジストを剥離除去し、(6)全面をエッチングして、少なくともパターン銅メッキ層の形成されていない部分の薄い電気銅層、無電解銅層及び極薄銅箔層を溶解除去して製造することを特徴とする極細線パターンを有するプリント配線板の製造方法。」及び(6)の「電気銅メッキ用のメッキレジストを15μm付着させ、メッキレジスト層が形成されていない銅面に電気銅メッキを14μm付着させ、メッキレジストを剥離し、全面をエッチングして、パターン銅メッ層が形成されていない部分の薄い電気銅層、無電解銅層、及び極薄銅箔層を溶解除去してライン/スペース=20/20μmを有するプリント配線板を作製した。」という記載から、
引用文献1記載のものは、パターンメッキ法により極細線パターンを作成するものであることを認定することができる。

上記(1)ないし(6)の記載事項、(7)の認定事項、及び図面の記載からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「保護金属板付きの厚さ5μm以下の電解銅箔を最外層に貼って得られた銅張積層板の保護金属板を剥離後、銅張積層板表面にパルスエネルギーが10mJである炭酸ガスレーザーエネルギーをパルス発振により直接照射し、少なくとも2層以上の銅張積層板にブラインドビア孔及び/又は貫通孔を形成した後、パターンメッキ法にて極細線パターンを作製する極細線パターンを有するプリント配線板の製造方法。」

2 引用文献2
当審拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2002-280689号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】 フィルム状樹脂からなる支持体層と、該支持体層上に剥離可能な粘着剤と、該粘着剤上に厚さ20μm以下のアルミニウムと、該アルミニウム上に電解メッキで得られる厚さ2μm以下の銅箔とを備えることを特徴とする支持体付き極薄銅箔。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(2)「【0015】粘着剤の種類は特に限定されず、・・・(中略)・・・極薄銅箔の厚みはアディティブ法のシード層として使用する場合、均一な面内抵抗を得るために厚いことが好ましいが、2μm以上の厚みでは極薄銅箔のクイックエッチング時に時間を要すため導体回路のサイドエッチングの問題から高密度な配線回路の作成が困難になる。」(【0015】)

(3)「【0019】・・・(中略)・・・かくして、図4に示す本願発明の極薄銅箔付き樹脂基板が得られる。・・・(後略)・・・」(【0019】)

(4)「【0021】最後に回路において不必要な極薄銅箔部をフラッシュエッチングにより溶解除去し、図8に示す高密度配線回路が得られる。銅箔厚みが薄いためエッチングが極めて短時間で終了し、導体回路へのダメージも小さい。本発明を実施例に基づいて説明する。」(【0021】)

上記(1)ないし(4)の記載事項及び図面の記載からみて、引用文献2には次の技術的事項(以下、「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「支持体層付きの極薄銅箔を最外層に貼ることによって、極薄銅箔付き樹脂基板を得る際に、エッチング時間を短時間で終了し、導体回路へのダメージを小さくし、高密度の配線回路を作成するために、極薄銅箔の厚さを2μm以下とすること。」

3 引用文献3
当審拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2000-91750号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項2】 両面銅張積層板にレーザ加工により貫通孔を設け、その貫通孔を導電化してスルーホールを形成する方法において、
前記両面銅張積層板の銅箔の厚さを1?10μmとすることを特徴とするスルーホールの形成方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】)

(2)「【0003】使用されるレーザ光としては、炭酸ガスレーザがコストも安く、工業生産としては最適である。しかしながら、炭酸レーザ光では、銅箔表面で反射されてしまい、レーザ加工により直接銅張積層板に貫通孔を形成することは不可能というのが技術的な常識であった。このため、銅張積層板の銅箔表面を黒化処理(酸化処理)してレーザ光を照射する技術が特開S61-99596号として提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような技術においては、最初に黒化処理が必要であり、工程が長くなるという問題がある。本発明者らは鋭意研究した結果、銅箔を薄くすることにより、表面での反射にもかかわらず、銅箔に開口を形成できるという意外な事実を発見した。」(【0003】及び【0004】)

(3)「【0010】本発明者らは鋭意研究した結果、炭酸ガスレーザ光により12μm以上の銅箔に穿孔できない理由は、表面での反射ではなく、銅箔が厚くなることにより熱伝導しやすくなり、レーザ光のエネルギーが熱となって伝搬してしまうからであることを知見した。さらに、銅箔の厚さを12μm未満、望ましくは1?10μm程度とすることにより、レーザ光のエネルギーが熱となって伝搬することを抑制し、レーザ光による穿孔を実現した。本発明で使用される銅張積層板は、ガラス布エポキシ樹脂、ガラス布ビスマレイミド-トリアジン樹脂、ガラス布フッ素樹脂などのプリプレグに銅箔を貼付した銅張積層板を使用することができる。」(【0010】)

(4)「【0021】
【実施例】以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を説明する。
実施例1
(1)基板130に厚さ12μmの銅箔132が貼付された厚さ0.6mmの両面銅張積層板(松下電工 R5715)130Aを用意した(図1(A)参照)。
(2)この銅箔132を硫酸-過酸化水素水溶液でエッチングして厚さを5μmとした(図1(B)参照)。
(3)この両面銅張積層板130Aに炭酸ガスレーザ(三菱電機 ML605GTL)を用いて、30mJ、52×10-6秒のパルス条件で10ショットにて直径150μm(上径D1:160μm 下径D2:140μmのテーパあり)の孔116を設けた(図1(C))。このように、レーザにて5μmの銅箔132を貫通して基板130に孔を明けることができる。・・・(後略)・・・」(【0021】)

(5)「【0062】
【発明の効果】以上説明のように、本発明では、直接銅張積層板を炭酸ガスレーザで穿孔できるため、低コストで微細なスルーホールを形成できる。」(【0062】)

上記(1)ないし(5)の記載事項及び図面の記載からみて、引用文献3には次の技術的事項(以下、「引用文献3記載の技術的事項」という。)が記載されていると認める。

「銅箔132を最外層に貼って得られた両面銅張積層板130Aに炭酸ガスレーザにより貫通孔を形成する際に、両面銅張積層板130Aの最外層に貼った銅箔132の厚みを1?10μmと薄くすることによって、銅箔132に黒化処理を行うことなく、炭酸ガスレーザの直接照射による加工を可能にすること。」

第4 対比
本願発明と引用文献1記載の発明を対比する。

引用文献1記載の発明における「保護金属板」は、その機能、構成、又は技術的意義からみて、本願発明における「キャリア金属箔」に相当し、以下、同様に、
「電解銅箔」は「薄銅箔」に、
「極細線パターン」は「極細線回路」に、
「極細線パターンを有するプリント配線板」は「極細線回路プリント配線板」に、それぞれ相当する。

また、引用文献1記載の発明における「10mJ」は本願発明における「3?19mJ」に包含される。

さらに、引用文献1記載の発明における「厚さ5μm以下」と本願発明における「厚さ2μm以下」は、「所定の厚さ以下」である点で一致する。

したがって、本願発明と引用文献1記載の発明は、以下の点で一致する。

「キャリア金属箔付きの所定の厚さ以下の薄銅箔を最外層に貼って得られた銅張積層板のキャリア金属箔を剥離後、銅張積層板表面にパルスエネルギーが10mJである炭酸ガスレーザーエネルギーをパルス発振により直接照射し、少なくとも2層以上の銅張積層板にブラインドビア孔及び/又は貫通孔を形成した後、パターンメッキ法にて極細線回路を作製する極細線回路プリント配線板の製造方法。」

そして、以下の点で相違する。

<相違点>
本願発明では、「所定の厚さ以下」が「厚さ2μm以下」であり、銅張積層板のキャリア金属箔を剥離後、「表面処理を施さず」、銅張積層板表面にパルスエネルギーが3?19mJである炭酸ガスレーザーエネルギーをパルス発振により直接照射するのに対し、引用文献1記載の発明では、「所定の厚さ以下」が「厚さ5μm以下」であり、銅張積層板のキャリア金属箔を剥離後、銅張積層板表面にパルスエネルギーが3?19mJである炭酸ガスレーザーエネルギーをパルス発振により直接照射しているものの、「表面処理を施さず」かどうか不明な点(以下、「相違点」という。)。

第5 当審の判断
そこで、上記相違点について、以下に検討する。

1 引用文献2記載の技術的事項
まず、引用文献2記載の技術的事項と本願発明を対比する。

引用文献2記載の技術的事項における「支持体層」は、その機能、構成、又は技術的意義からみて、本願発明における「キャリア金属箔」に相当し、以下、同様に、
「極薄銅箔」は「薄銅箔」に、
「極薄銅箔付き樹脂基板」は「銅張積層板」に、
「高密度の配線回路」は「極細線回路」に、それぞれ相当する。

したがって、引用文献2記載の技術的事項は以下のとおり言い換えることができる。

「キャリア金属箔付きの薄銅箔を最外層に貼ることいよって、銅張積層板を得る際に、エッチング時間を短時間で終了し、導体回路へのダメージを小さくし、極細線回路を作成するために、薄銅箔の厚さを2μm以下とすること。」

2 引用文献3記載の技術的事項
次に、引用文献3記載の技術的事項と本願発明を対比する。

引用文献3記載の技術的事項における「銅箔132」は、その機能、構成、又は技術的意義からみて、本願発明における「薄銅箔」に相当し、以下、同様に、
「極両面銅張積層板130A」は「両面銅張積層板」に、
「炭酸ガスレーザ」は「炭酸ガスレーザー」に、
「黒化処理」は「表面処理」に、それぞれ相当する。

したがって、引用文献3記載の技術的事項は以下のとおり言い換えることができる。

「薄銅箔を最外層に貼って得られた両面銅張積層板に炭酸ガスレーザーにより貫通孔を形成する際に、両面銅張積層板の最外層に貼った薄銅箔の厚みを1?10μmと薄くすることによって、薄銅箔に表面処理を行うことなく、炭酸ガスレーザーの直接照射による加工を可能にすること。」

3 判断
薄銅箔の厚さを薄くすれば、薄銅箔に表面処理を行うことなく、炭酸ガスレーザーの直接照射による加工が可能になることは、引用文献3記載の技術的事項から当業者に明らかである。
また、薄銅箔の厚さとして、2μm以下を選択することは、引用文献2記載の技術的事項からみて、当業者に格別困難なことではない。
したがって、引用文献1記載の発明に引用文献2及び3記載の技術的事項を適用し、薄銅箔の厚さである「所定の厚さ以下」を「厚さ2μm以下」とし、銅張積層板のキャリア金属箔を剥離後、「表面処理を施さず」、銅張積層板表面にパルスエネルギーが3?19mJである炭酸ガスレーザーエネルギーをパルス発振により直接照射するようにして、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到したことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明のようにしたことにより奏するとされる効果は、引用文献1記載の発明並びに引用文献2及び3記載の技術的事項からみて格別のものともいえない。

なお、審判請求人は、平成23年1月20日付け意見書において、引用文献3記載のものは、本願発明と異なり、薄銅箔に硫酸-過酸化水素水溶液による薄化処理という表面処理を施すものである旨主張しているので、該主張について、検討する。
本願明細書の【0002】の「ブラインドビア孔を形成する場合、厚さ3?7μmの薄い銅箔の上に数?10μmの凹凸の多いメッキ層を付着させ、この上にレーザー光のエネルギーを吸収させる合成樹脂で被覆した後、レーザーをこの上から照射して孔あけし(例えば、特許文献1参照。)、プリント配線板としていた」及び「黒色酸化銅処理等の処理を銅箔表面に施し、この上から炭酸ガスレーザーを直接照射してブラインドビア孔をあける方法が知られている(例えば特許文献4参照。)が、この場合、表面処理をこすったりすると表面処理が取れやすく、孔形状のばらつきが発生し易い欠点があった。」、【0007】の「厚さの薄い銅箔を少なくとも最外層に張った銅張積層板の銅箔表面には炭酸ガスレーザー孔あけ用の処理、例えば黒色酸化銅処理等は施さなくても孔あけ可能であるが、必要に応じて処理しても良い。」、並びに【0034】の「キャリア金属箔付きの厚さ2μm以下で、好適にはマット面の平均粗度Rz2?4μmの一般銅箔を貼った銅張積層板の少なくともレーザー照射側の表面のキャリア金属箔を剥離後、この銅表面に銅箔を加工するに十分な炭酸ガスレーザーのパルスエネルギー、好適には3?19mJから選ばれる1つのエネルギーを直接照射してブラインドビア孔及び/又は貫通孔を形成することにより、表面の銅箔の表面処理を施す必要もないために作業性に優れ、且つ得られた孔は信頼性に優れたものが得られた。」という記載からみて、本願発明において「施さず」としている「表面処理」は、「厚さの薄い銅箔」を得た後に炭酸ガスレーザーの直接照射による加工を可能にするために行う「メッキ層」の付着、「合成樹脂」の被覆、又は「黒色酸化銅処理等」の「表面処理」であるから、引用文献3記載のものにおける1?10μmの厚さの薄銅箔を得るために行う硫酸-過酸化水素水溶液による薄化処理という表面処理とは異なるものであり、また、引用文献3記載のものでも、薄銅箔の厚さを1?10μmとした後には、本願発明と同様に何ら表面処理は行っていない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1記載の発明並びに引用文献2及び3記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、このような特許を受けることができない発明を包含する本件出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-02 
結審通知日 2011-03-08 
審決日 2011-03-22 
出願番号 特願2003-64949(P2003-64949)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡 由季子大光 太朗  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 加藤 友也
田中 永一
発明の名称 極細線回路プリント配線板の製造方法。  
代理人 菅原 朋宏  
代理人 永井 隆  

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