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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1236312
審判番号 不服2009-20838  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-28 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 特願2003-399553号「ディスクブレーキ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年6月23日出願公開、特開2005-163809号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年11月28日の出願であって、平成21年7月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年10月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで明細書及び特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。その後、当審において、平成21年10月28日付けの手続補正は平成22年10月6日付けで決定をもって却下されるとともに、同日付で拒絶理由が通知され、これに対して、平成22年12月13日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成20年10月20日付け及び平成22年12月13日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「ディスクの両側に配置される一対のパッドと、前記ディスクを跨いで配置され車体に取り付けられるとともにボアを有するシリンダ部がディスク軸線方向における両側にそれぞれ配置されて前記シリンダ部同士をディスクパス部により結んで一体成形されるキャリパと、該キャリパにおける前記パッドの前記ディスクに対して反対側に位置し前記ボアに摺動可能に嵌合されるピストンとを有するディスクブレーキにおいて、
前記キャリパは、ディスク軸線方向における両側に前記ピストンを摺動可能に嵌合させるボアとなる下穴と、該下穴の底部側における前記下穴周方向の一部から該下穴の半径方向外側にディスク回転方向へ向かい、かつ先端側が前記下穴のディスク回転方向端部よりも外方へ延出して凹む凹部とが鋳造時に中子によって形成され、前記凹部同士を連通する接続路が前記キャリパの外側から前記ディスクパス部を通って前記ディスク回転方向に対して斜めに穿設されて前記凹部に開口していることを特徴とするディスクブレーキ。」

3.刊行物の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物であって、当審において平成22年10月6日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物は、次のとおりである。
刊行物
1.特開平11-117964号公報
2.特開平10-30660号公報
3.実願昭57-138796号(実開昭59-42328号)のマイクロフィルム
4.実公昭46-24760号公報
(1)刊行物1
刊行物1(特開平11-117964号公報)には、「ブレーキキャリパ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「これら図面において、キャリパボディCaは、図示しない車輪と共に回転するブレーキディスクDを間に置いて対向する左右一対の第1及び第2腕部1_(1),1_(2)と、ブレーキディスクDを跨いで両腕部1_(1),1_(2)の両端同士を一体に連結する前後一対の第1及び第2ブリッジ部2_(1),2_(2)とからなっている。その第1腕部1_(1)には、ブレーキディスクDの中心側へ延出する支持腕4が一体に形成されており、この腕部4が車輪支持部材(図示せず)にボルトで固着される。」(段落【0011】)
イ.「キャリパボディCaは、第1及び第2ブリッジ部2_(1),2_(2)の中央部でブレーキディスクDの回転面と平行な分割面20をもって、第1腕部1_(1)側の第1キャリパ半体C_(1)と第2腕部1_(2)側の第2キャリパ半体C_(2)とに分割される。そして、両キャリパ半体C_(1),C_(2)は、第1及び第2ブリッジ2_(1),2_(2)において分割面20を貫通する第1及び第2連結ボルト21_(1),21_(2)により互いに結合される。即ち、第1及び第2キャリパ半体C_(1),C_(2)にはボルト挿通孔22_(1),22_(2)及びねじ孔23_(1),23_(2)がそれぞれ設けられ、ボルト挿通孔22_(1),22_(2)に挿通した連結ボルト21_(1),21_(2)をねじ孔23_(1),23_(2)に螺合緊締することにより両キャリパ半体C_(1),C_(2)は一体的に結合される。こうしてブレーキキャリパCが構成される。」(段落【0015】)
ウ.「第1及び第2キャリパ半体C_(1),C_(2)は鋳造されるもので、その鋳造時に前記油圧シリンダ14_(1),14_(1);14_(2),14_(2)、連通孔18、ボルト挿通孔22_(1),22_(2)及びねじ孔23_(1),23_(2)の下孔の他に、第1ブリッジ部2_(1)側の油圧シリンダ14_(1),14_(2)間を連通する連通油路25が中子により形成される。即ち、鋳抜き形成される。
この連通油路25は、第1ブリッジ部2_(1) 側の第1及び第2油圧シリンダ14_(1),14_(2)の底部から第1ブリッジ部2_(1)に向かって延びる導入ポート25a,25aと、これら導入ポート25a,25aの先端間を接続する直線路25bとから構成されるもので、特に導入ポート25a,25aを鋳抜き形成することにより、加工口を閉塞する盲栓を不要にして生産性の向上を図ることができる。尚、直線路25bは、分割面20からドリル加工することもできる。」(段落【0016】、【0017】)
エ.上記ウ.の記載事項並びに図1及び図2からみて、キャリパボディCaは、ブレーキディスクD軸線方向における両側にピストン15_(1),15_(2)を摺動可能に嵌合させるボアとなる下穴と、該下穴の底部側から該下穴の半径方向外側にブレーキディスクD回転方向へ向かい、かつ先端側が前記下穴のディスク回転方向端部よりも外方へ延出して凹む導入ポート25aとが鋳造時に中子によって形成され、導入ポート25a同士を連通する直線路25bがキャリパボディCaの分割面からブリッジ部2_(1),2_(2)を通って穿設されて導入ポート25aに開口していることが把握できる。

刊行物1には、これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ブレーキディスクDの両側に配置される一対の摩擦パッドP_(1),P_(2)と、前記ブレーキディスクDを跨いで配置され車輪支持部材に取り付けられるとともにボアを有する油圧シリンダ14_(1),14_(2)がブレーキディスクD軸線方向における両側にそれぞれ配置されて前記油圧シリンダ14_(1),14_(2)同士をブリッジ部2_(1),2_(2)により結んで連結ボルト21_(1),21_(2)で一体的に結合されるキャリパボディCaと、該キャリパボディCaにおける前記摩擦パッドP_(1),P_(2)の前記ブレーキディスクDに対して反対側に位置し前記ボアに摺動可能に嵌合されるピストン15_(1),15_(2)とを有するディスクブレーキにおいて、
前記キャリパボディCaは、ブレーキディスクD軸線方向における両側に前記ピストン15_(1),15_(2)を摺動可能に嵌合させるボアとなる下穴と、該下穴の底部側から該下穴の半径方向外側にブレーキディスクD回転方向へ向かい、かつ先端側が前記下穴のディスク回転方向端部よりも外方へ延出して凹む導入ポート25aとが鋳造時に中子によって形成され、前記導入ポート25a同士を連通する直線路25bが前記キャリパボディCaの分割面20から前記ブリッジ部2_(1),2_(2)を通って穿設されて前記導入ポート25aに開口しているディスクブレーキ。」

(2)刊行物2
刊行物2(特開平10-30660号公報)には、「液圧式車両用ディスクブレーキのピストン対向型キャリパボディ」に関する発明が記載されている。
オ.「ブリッジ部3cのディスク回出側にはボス部3fが肉盛りされ、該ボス部3fの一方の作用部3a側を面取りした座面3gから、他方の作用部3b側の液圧室22へ向けて第1液通路24が穿設され、またボス部3fの他方の作用部3b側を面取りした座面3hから、一方の作用部3a側の液圧室22へ向けて第2液通路25が穿設されている。第1,第2液通路24,25は、座面3g,3hとは互いに反対側の液圧室22,22の底部ディスク回出側に開口し、またディスクロータ外方位置の点Pで交差していてX字状に連通しており、両液圧室22,22は、第1,第2液通路24,25の点Pを通して相互に連通している。」(段落【0012】)
カ.図1及び図4によれば、第1液通路24,第2液通路25はキャリパボディ3の外部からブリッジ部3cを通ってディスクロータ回転方向に対して斜めに穿設されていることが看取できる。

(3)刊行物3
刊行物3(実願昭57-138796号(実開昭59-42328号)のマイクロフィルム)には、その2ページ15行?3ページ1行、第1図及び第2図に、鋳造によってシリンダ部同士をディスクパス部により結んで一体成形したキャリパが記載されている。

(4)刊行物4
刊行物4(実公昭46-24760号公報)には、その5ページ10欄2行?11行及び第4図に、鋳造によってシリンダ部同士をディスクパス部により結んで一体成形したキャリパが記載されている。

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能又は構造などからみて、後者の「ブレーキディスクD」は前者の「ディスク」に相当し、以下同様に「摩擦パッドP_(1),P_(2)」は「パッド」に、「車輪支持部材」は「車体」に、「油圧シリンダ14_(1),14_(2)」は「シリンダ部」に、「ブリッジ部2_(1),2_(2)」は「ディスクパス部」に、「キャリパボディCa」は「キャリパ」に、「ピストン15_(1),15_(2)」は「ピストン」に、「導入ポート25a」は「凹部」に、「直線路25b」は「接続路」に、それぞれ相当する。
後者の「前記油圧シリンダ同士をブリッジ部2_(1),2_(2)により結んで連結ボルト21_(1),21_(2)で一体的に結合されるキャリパボディCa」と前者の「前記シリンダ部同士をディスクパス部により結んで一体成形されるキャリパ」とは、「前記シリンダ部同士をディスクパス部により結んで一体構造とされるキャリパ」である点で共通する。

してみると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、
[一致点]
「ディスクの両側に配置される一対のパッドと、前記ディスクを跨いで配置され車体に取り付けられるとともにボアを有するシリンダ部がディスク軸線方向における両側にそれぞれ配置されて前記シリンダ部同士をディスクパス部により結んで一体構造とされるキャリパと、該キャリパにおける前記パッドの前記ディスクに対して反対側に位置し前記ボアに摺動可能に嵌合されるピストンとを有するディスクブレーキにおいて、
前記キャリパは、ディスク軸線方向における両側に前記ピストンを摺動可能に嵌合させるボアとなる下穴と、該下穴の底部側から該下穴の半径方向外側にディスク回転方向へ向かい、かつ先端側が前記下穴のディスク回転方向端部よりも外方へ延出して凹む凹部とが鋳造時に中子によって形成され、前記凹部同士を連通する接続路が前記ディスクパス部を通って穿設されているディスクブレーキ。」である点で一致し、次の点で相違する(かっこ内は、引用発明の対応する用語を示す。)。

[相違点]
相違点1:本願発明は、キャリパがシリンダ部同士をディスクパス部により結んで「一体成形」されているのに対し、引用発明は、キャリパボディCa(キャリパ)が連結ボルト21_(1),21_(2)で一体的に結合されている点。
相違点2:本願発明は、凹部同士を連通する接続路が「キャリパの外側から」「ディスク回転方向に対して斜めに」穿設されているのに対し、引用発明は、直線路25b(接続路)がキャリパボディCa(キャリパ)に穿設されてはいるものの、キャリパボディCaの外側からではなく、分割面20から穿設されている点。

5.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
鋳造によってシリンダ部同士をディスクパス部により結んで一体成形したキャリパを製造することは、例えば刊行物3及び4などに示されるように従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、キャリパボディCa(キャリパ)を上記周知技術に倣って鋳造によって一体成形し、上記相違点1に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。
(2)相違点2について
シリンダ部のボアへ油圧を供給するための通路穴をキャリパに対してどこからどのような方向に穿設するかは、キャリパの形状や構造に応じて加工のし易さなどを考慮し適宜決定し得る事項であり当業者にとって設計的事項である。また、シリンダ部のボアへ油圧を供給する通路穴をキャリパの外側からディスク回転方向に対して斜めに穿設することは、例えば刊行物2や本願明細書に従来技術として記載されている特開2001-27267号公報(段落【0019】、図1参照)などに示されるように従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、上記周知技術を適用し、あるいは一体成形に関する周知技術を適用した上で上記周知技術を適用し、キャリパボディCaの外側からブレーキディスクD回転方向に対して斜めに穿設して、上記相違点2に係る本願発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

なお、審判請求人は、平成22年12月13日付けの意見書の中で、「引用文献1(審決注:本審決の「刊行物1」を意味する。以下同様。)には凹部が記載されており、引用文献2(審決注:本審決の「刊行物2」を意味する。以下同様。)にはキャリパの外側から穿設される接続路が記載されているとのことでありますが、引用文献1は、2ピース型のキャリパであり、キャリパ半体C1,C2を連結ボルト21で連結する必要があります。この連結ボルト21があるため、シリンダ141,142を連通する連通油路25は、ブレーキディスクDの軸方向に平行に形成される直線路25bにより構成されるようになっています。この直線路25bを引用文献2の第1液通路24および第2液通路25のように、ディスク回転方向に対して斜めに設けようとすると、そのままでは、連結ボルト25と干渉してしまうため、形成することはできません。また、連結ボルト25との干渉を避けるためには、連結ボルト25の位置をディスク回転方向にずらす必要が生じてしまい、その結果、キャリパC自体が大形化してしまうことになります。当業者においてはキャリパボディの小型化を常に指向しており、上記引用文献1と引用文献2との組み合わせは、組み合わせ自体が考えられないものであると思料します。」(「〔4〕引用文献について」の(4)の項参照)と主張する。
ところで、図1には、連結ボルト21_(1)に平行に直線路25bが形成されている点が図示され、また、図2には、連結ボルト21_(1)とほぼ同じ高さに直線路25bが形成されている点が図示されており、直線路25bは水平に形成されていると認められる。しかし、図2を見ると、直線路25bの上側に肉厚的に余裕があることからみて、連結ボルト25に干渉することなく、大型化することなく、ディスク回転方向に対して斜めに直線路25bを形成することも可能であると推察される。また、引用発明のキャリパボディCaを鋳造によって一体成形したものにおいて、直線路25bを穿設することも、当業者であれば容易に想到し得ることであり、その場合には、連結ボルトとの干渉はまったく問題とならない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願は、本願発明即ち請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-07 
結審通知日 2011-03-08 
審決日 2011-03-23 
出願番号 特願2003-399553(P2003-399553)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹村 秀康  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官
山岸 利治
大山 健
発明の名称 ディスクブレーキ  
代理人 志賀 正武  

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