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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1236313
審判番号 不服2009-21196  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-02 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 特願2004- 20093「フレキシブル配線基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日出願公開、特開2005-217040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年1月28日に特許出願されたものであって、平成21年3月5日付けで拒絶の理由が通知され、平成21年8月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成21年11月2日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成22年12月16日付けで当審において拒絶の理由が通知され、平成23年2月14日付けで手続補正書が提出されたものである。

そして、本願請求項1及び2に係る発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。
「フレキシブル樹脂基板の表面とオゾン溶液とを接触させ処理基板を形成するオゾン溶液処理工程と、
該処理基板の表面を無電解めっき処理して無電解めっき被膜を形成する無電解めっき処理工程と、
該無電解めっき被膜上に電解めっきにより配線パターンを形成するパターン処理工程と、を含むことを特徴とするフレキシブル配線基板の製造方法。」

2.引用刊行物の記載事項
(1)引用刊行物1
これに対して、当審における平成22年12月16日付けの拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成9年2月7日に頒布された特開平9-36539号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

a:「【0002】
【従来の技術】フレキシブルプリント配線基板は、ポリイミド等をベースフィルムとするプラスチックフィルムとその表面に積層された金属薄層とからなるフレキシブルプリント配線基板材料にフォトリソグラフィー技術およびエッチング技術等を適用して、前記金属薄層を所定のパターンの導体回路に加工して得られるものであり、該基板はカメラ、電卓、時計、ビデオカメラ、電話機、音響機器、プリンター、自動車などの各種分野で広く利用されている。
【0003】この金属薄層を積層した基板の製造には主として次の2つの方法が採用されている。第1の方法は、例えばポリイミドフィルムのようなプラスチックフィルムの表面に接着剤を使用して所望の厚みの圧延金属箔や電解金属箔などを熱圧着して積層させる方法である。また第2の方法は、金属箔の上に、例えばポリイミドのような熱硬化性樹脂を適当な揮発性溶剤に溶解した樹脂溶液を薄く塗布した後、溶剤を揮発させ、樹脂を加熱硬化させて成膜する方法である。しかしながらこれらの方法は、いずれも金属箔を使用しているためにその厚みを薄くするには限界があり、このためプリント回路作成に際してのエッチングパターンを高密度化することが困難であった。そこで、最近第3の方法としてプラスチックフィルムの表面に触媒を付与し、無電解めっきによりその表面に金属薄膜を形成することが行われている。この無電解めっき法によるときは、プラスチックフィルム表面に被着させるべき金属層の厚みを適宜制御することができるためにエッチングパターンの高密度化に十分に対応することができる上に、大量生産方式を適用することができるので生産コストの面からも極めて有利である。」

この記載事項より、引用刊行物1には、
「ポリイミド樹脂からなるプラスチックフィルムの表面を無電解めっき処理して金属薄層を形成する工程と、
前記金属薄層をエッチングにより所定のパターンの導体回路に加工する工程と、を含むフレキシブルプリント配線基板の製造方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用刊行物2
また、当審における平成22年12月16日付けの拒絶の理由に引用された、本願の出願日前である平成14年10月23日に頒布された特開2002-309377号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

b:「【特許請求の範囲】
【請求項1】 不飽和結合を有する樹脂をめっき素材とし、該めっき素材をオゾンを含む第1溶液に接触させる第1処理工程と、陰イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤の少なくとも一方とアルカリ成分とを含む第2溶液を該めっき素材と接触させる第2処理工程と、を行うことを特徴とする無電解めっき材の前処理方法。
【請求項2】 前記第1溶液はオゾンを 50PPM以上含むことを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき材の前処理方法。
【請求項3】 前記第1溶液は極性溶媒を含むことを特徴とする請求項1に記載の無電解めっき材の前処理方法。」

c:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、樹脂素材表面に無電解めっき処理を施してめっき被膜を形成する場合に、めっき被膜の付着性を向上させるために行う前処理方法に関する。」

d:「【0010】
【発明の実施の形態】本発明の無電解めっき材の前処理方法では、めっき素材として不飽和結合を有する樹脂を用いている。不飽和結合とは C=C結合、 C=N結合、 C≡C結合などをいい、このような不飽和結合をもつ樹脂としては、ABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂、AN樹脂などを用いることができる。
【0011】そして本発明の前処理方法では、不飽和結合を有する樹脂からなるめっき素材をオゾンを含む第1溶液に接触させる第1処理工程を行う。この第1処理工程では、第1溶液中のオゾンによる酸化によってめっき素材表面の不飽和結合が部分的に切断され、C-OH結合又はC=O結合が生成して活性化すると考えられる。
【0012】第1処理工程は、めっき素材を第1溶液に接触させる。接触の方法としては、めっき素材表面に第1溶液をスプレーしてもよいし、めっき素材を第1溶液中に浸漬してもよい。浸漬によるめっき素材の第1溶液への接触は、スプレーによるめっき素材の第1溶液への接触に比べて第1溶液からオゾンが離脱し難いため好ましい。
【0013】第1溶液中のオゾン濃度はめっき素材表面の活性化に大きく影響を及ぼし、 10PPM程度から長時間の処理にて活性化の効果が見られるが、 50PPM以上とすればその活性化の効果が飛躍的に高まるとともに、短時間での処理も可能となる。
【0014】なお第1処理工程における処理温度は、原理的には高いほど反応速度が大きくなるが、温度が高くなるほど第1溶液中のオゾンの溶解度が低くなり、40℃を超える温度において第1溶液中のオゾン濃度を 50PPM以上とするには、処理雰囲気を大気圧以上に加圧する必要があり、装置が大がかりなものとなる。したがって処理温度は、装置を大掛かりにしたくない場合には、室温程度で十分である。
【0015】第1溶液は極性溶媒を含むことが望ましい。極性溶媒を含むことで第1溶液中のオゾンの活性を高めることができ、第1処理工程における処理時間を短縮することが可能となる。この極性溶媒としては水が特に好ましいが、アルコール系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミドなどを単独であるいは水やアルコール系溶媒と混合して用いることもできる。」

e:「【0027】そして無電解めっき工程では、界面活性剤が吸着しためっき素材が触媒と接触される。すると、図1(C)に示すように、触媒2が上記官能基に吸着している界面活性剤1の親水基に吸着すると考えられる。
【0028】そして触媒が十分に吸着しているめっき素材に対して無電解めっき処理を施すことにより、界面活性剤が官能基から外れるとともに金属が C-O基及び/又は C=O基と結合すると考えられ、付着性に優れためっき被膜を形成することができる。
【0029】触媒としては、Pd^(2+)など、従来の無電解めっき処理に用いられる触媒を用いることができる。触媒をめっき素材の表面に吸着させるには、触媒イオンが溶解している溶液を付着素材の表面に接触させればよく、上記した第2溶液の接触と同様に行うことができる。また接触時間、温度などの条件も、従来と同様でよい。
【0030】また無電解めっき処理の条件、析出させる金属種なども制限されず、従来の無電解めっき処理と同様に行うことができる。」

f:「【0054】
【発明の効果】すなわち本発明の無電解めっき材の前処理方法によれば、従来無電解めっきが困難であった樹脂素材表面に付着強度に優れた無電解めっき被膜を容易に形成することができる。また樹脂素材表面を粗面化する必要がないので、高い金属光沢を有するめっき被膜を薄い膜厚で形成することができ、かつクロム酸などが不要となるので廃液処理も容易である。」

3.対比
本願の明細書【0010】にはフレキシブル樹脂基板の素材として「ポリイミド樹脂」が例示されているから、引用発明の「ポリイミド樹脂からなるプラスチックフィルム」は本願発明の「フレキシブル樹脂基板」に相当する。また、引用発明の「金属薄層」は無電解めっき処理して形成されるから、本願発明の「無電解めっき被膜」に相当し、また、引用発明の「所定のパターンの導体回路」及び「フレキシブルプリント配線基板」は、本願発明の「配線パターン」及び「フレキシブル配線基板」にそれぞれ相当する。
したがって、両発明は
「フレキシブル樹脂基板の表面を無電解めっき処理して無電解めっき被膜を形成する無電解めっき処理工程と、
該無電解めっき被膜に配線パターンを形成するパターン処理工程と、を含むフレキシブル配線基板の製造方法。」
で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明では無電解めっき処理工程の前にフレキシブル樹脂基板の表面とオゾン溶液とを接触させ処理基板を形成するオゾン溶液処理工程を設けているのに対して、引用発明ではオゾン溶液処理工程を設けていない点。

相違点2:本願発明では無電解めっき被膜上に電解めっきにより配線パターンを形成しているのに対して、引用発明では無電解めっき被膜をエッチングして配線パターンを形成している点。

4.当審の判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
上記2.(2)b乃至fの記載事項によれば、引用刊行物2には、樹脂素材を粗面化することなく薄い無電解めっき被膜を付着性よく形成するために、不飽和結合を有する樹脂素材の表面とオゾン溶液とを接触させるオゾン溶液処理工程を無電解めっき処理工程の前に行う点が記載されている。
そして、フレキシブル配線基板の技術分野において、フレキシブル樹脂基板表面の平坦性を低下させることなくその表面に形成されるめっき被膜の密着性の向上を図ることは例えば特開2002-155373号公報(【0004】)等に記載されているように周知の課題であり、また、ポリイミド樹脂として不飽和結合を有する芳香族ポリイミド樹脂は一般的なものであることを鑑みれば、引用発明におけるフレキシブル樹脂基板の表面に無電解めっき処理する工程の前に引用刊行物2に記載されたオゾン溶液処理工程を行なうことは当業者が容易になし得たことである。また、そのことによる効果に格別のものはない。

(2)相違点2について
フレキシブル配線基板の製造方法において無電解めっき被膜上に電解めっきにより配線パターンを形成することは、例えば特開平3-38086号公報や特開2002-155373号公報等に記載されているように周知の技術である。してみると、引用発明において配線パターンを形成する方法として無電解めっき被膜上に電解めっきにより配線パターンを形成することは当業者が容易になし得たことである。また、そのことによる効果に格別のものはない。

5.むすび
したがって、本願発明は引用刊行物1及び2に記載された発明並びに周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-03 
結審通知日 2011-03-08 
審決日 2011-03-22 
出願番号 特願2004-20093(P2004-20093)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡 由季子  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 鈴木 正紀
川村 健一
発明の名称 フレキシブル配線基板の製造方法  
代理人 大川 宏  

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