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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16L
管理番号 1236361
審判番号 不服2010-4739  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-04 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 特願2003-388860「高圧ホース」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日出願公開、特開2005-147345〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年11月19日の特許出願であって、平成21年12月3日付けで拒絶査定がなされ、平成22年3月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年9月30日付けで当審の拒絶理由が通知され、同年12月3日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年12月3日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「内側ゴム層と外側ゴム層との間にスチールコードからなる補強コードをスパイラル状に巻回した少なくとも1層のコード補強層を配置し、かつ内側から第1番目のコード補強層と前記内側ゴム層との間に間挿布層を配置した高圧ホースにおいて、
前記間挿布層をテープ状の織物又は編物からなる間挿布を前記第1番目のコード補強層の補強コードと逆方向にスパイラル状に巻回させて構成すると共に、該間挿布の厚さG(mm)、該間挿布の長手方向の強力T(N/3cm)及び該間挿布の単位質量W(g/m^(2) )を、それぞれ下記 (1),(2)及び(3)式を満足する範囲にした高圧ホース。
0.20≦n×G≦0.50 ・・・(1)
70≦n×T≦200 ・・・(2)
25≦n×W≦80 ・・・(3)
ただし、nは前記間挿布の枚数である。」

3.引用例
当審の拒絶理由に引用した特開平9-203484号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の技術分野】本発明は、高圧ホースに係り、特にスパイラルに編糸された補強糸が部分的に乱れたり、内側ゴム層に食い込むことのない高圧ホースに関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】従来、この種の高圧ホースは、例えば図2に示す冷媒輸送ホースでは、ポリアミド系の内面樹脂層1と、その外周面に設けた耐透湿性のブチルゴムを使用した内側ゴム層2と、その外周面上に形成された第1の補強層3と、その上に設けた中間ゴム層4、その外周面上に形成された第2の補強層5と、その上に設けたゴム又は樹脂からなる外側層6とを備えている。第1の補強層3及び第2の補強層5は、複数の補強糸を用いてブレード編みされるか、内側ゴム層2にスパイラル状に巻き付けることにより編組されが、低コスト化を計るために、通常はスパイラル編組構造が有利である。スパイラル編組においては、通常、第1の補強層3と第2の補強層5は、ホースの捩じれを防止するために互いに逆方向のスパイラル状に巻かれている。
【0003】ところで、スパイラル編組の場合、第1の補強層3と第2の補強層5とが互いに絡み合っていないため、ホース加硫時に、補強糸の収縮や加硫による圧力により、補強糸が動き易く、そのために補強糸の揃い性が悪くなることが知られている。低圧ホースの場合には、耐圧性の要求が低く、補強糸の打ち込み本数が少なくてもよいので、補強糸の乱れはあまり生じないが、高圧ホースの場合には、耐久性、耐圧性を高めるべく補強糸の打ち込み本数が多くなるため、補強糸は乱れ易くなる。すなわち、ホース加硫時に、内側ゴム層の膨張及び補強糸の収縮が生じる際に、補強糸間から内側ゴム層のゴムの吹き出しが生じ、糸間隔のわずかに広い部分の糸間隔が増大される補強糸の乱れや、第1の補強層3を形成する補強糸が部分的に内側ゴム層2に食い込む、いわゆる棚落ち現象が生じ、その部分からホースの破裂が生じ易いという問題がある。
【0004】また、冷媒輸送用の高圧ホースの場合、近年の特定フロン冷媒規制への対策として、HFC-134aやグリコール系冷凍機油等の代替冷媒が用いられているが、これら代替冷媒はいずれも吸湿性が高いため、高圧ホースの内側ゴム層、中間ゴム層を形成するゴム材料として、従来のニトリルブタジエンゴム(NBR)の代わりに耐透湿性の良いブチルゴム(IIR)が用いられるようになっている。しかし、ブチルゴムは、一般的に高温モジュラスが低いため、加硫時にはゴムの吹き出しが生じ易く、補強糸の乱れが生じ易くなる。かかる補強糸の乱れによる糸と糸の間隔の広い箇所において、高圧雰囲気下で、その部分におけるホースの繰り返し耐圧性が低下するという問題がある。
【0005】これらの問題を回避するために、加硫時の熱による収縮の少ない補強糸を使用したり、高温時の粘度の高いゴムを使用する等が試みられているが、いずれも十分な効果が得られていない。本発明は、上記した問題を解決しようとするもので、スパイラル編組の補強糸の揃いが良好で、耐圧性及び耐久性に優れた高圧ホースを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、上記請求項1に係る発明の構成上の特徴は、少なくとも内側ゴム層と、内側ゴム層の外周面上に設けた間挿布と、間挿布上に複数本の補強糸を引き揃えてスパイラル状に巻き付けた第1の補強層と、第1の補強層上に設けた中間ゴム層と、中間ゴム層の外周面上に複数本の補強糸を引き揃えてスパイラル状に巻き付けた第2の補強層と、第2の補強層上に設けたゴム又は樹脂からなる外側層とを備えたことにある。
【0007】
【発明の作用・効果】上記のように請求項1に係る発明を構成したことにより、内側ゴム層と第1補強層との間に設けた間挿布が境界壁として作用するので、加硫時の内側ゴム層の吹き出しを抑制すると共に、補強糸の棚落ちが防止される。また、第1の補強層の補強糸は、間挿布との摩擦により横方向への移動が抑えられるので、補強糸の横方向へのずれが抑制され、補強糸の糸揃え性が改善される。その結果、高圧ホースの耐久性が高められる。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態を図面を用いて説明すると、図1は、同実施形態に係る高圧ホースを斜視図により概略的に示したものである。高圧ホースは、順次積層された内側樹脂層10、内側ゴム層11、間挿布12、第1の補強層13、中間ゴム層14、第2の補強層15及び外側ゴム層16を備えている。内側樹脂層10は、材質としてはナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6-66共重合体、ナイロン6/ナイロン66/ポリオレフィンのブレンド樹脂、ポリエステル樹脂等が用いられ、通常、0.05?0.5mm程度の厚さで形成される。なお、かかる内側樹脂層10は、例えば冷媒輸送ホースのように耐透過性を向上させる必要がある場合において、適宜に用いられるものであり、本発明においては、必須の構成とされるものではない。
【0009】内側ゴム層11は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、エチレンープロピレン-ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、ヒドリンゴム(CHR,CHC)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)等の公知の各種ゴム材料を用いて、通常、0.5?2.5mm程度の厚さで形成される。なお、吸湿性の高いHFC-134aを冷媒として流通させる冷媒輸送ホースとして用いる場合には、耐透湿性に優れるブチルゴムが好ましく使用される。
【0010】内側ゴム層11の外周面には、補強用の間挿布12が、シーサー編またはラッピングにより形成される。間挿布12は、ポリエステル糸、ナイロン糸等によるもので、編み目が2?100メッシュのものが用いられ、好ましくは10メッシュ前後の布が用いられる。2メッシュ以下であると、間挿布の補強糸を支持する効果が得られ難くなり、また、100メッシュ以上になると内側ゴム層11と中間ゴム層14との接着性が損なわれることになる。シーサー編は、ホースの軸線方向に沿って配置したリボン状の布を、その両端を重ねながらホースを包み込むように卷くもので、ホースに螺旋状に巻くラッピングより形成が容易である。したがって、間挿布12の形成には、主にシーサー編が採用される。
【0011】第1の補強層13は、総デニールが2000?6000デニールの複数のポリエステルフィラメントを撚り合わせた補強糸またはポリエステルフィラメントとアラミドフィラメント等の低収縮低伸度糸を撚り合わせた混撚糸からなる補強糸を用い、それを内側ゴム層11の外周面に一方向にスパイラル状に巻き付けることにより形成される。
【0012】第1の補強層13の上には、中間ゴム層14が、上記内側ゴム層11と同様のゴム材料を用いて、通常、0.1?0.8mm程度の厚さで形成される。さらに、中間ゴム層14の外周面には、第2の補強層15が、上記第1の補強層13と同じ補強糸を用いて、第1の補強層と逆方向にスパイラル状に巻き付けることにより形成される。そして、外側ゴム層16が、内側樹脂層10を形成する樹脂材料または内側ゴム層11を形成するゴム材料と同様の材料により、第2の補強層15上に、通常、0.5?2.5mm程度の厚さで形成される。
【0013】以上のように形成された高圧ホースにおいては、内側ゴム層11と第1補強層13との間に設けた間挿布12が境界壁として作用するので、加硫時の内側ゴム層11の吹き出しを抑制すると共に、第1補強層13の補強糸の棚落ちが防止される。また、第1の補強層13の補強糸は、間挿布12との摩擦により、横方向へのずれが抑制されるので、補強糸の糸揃え性が改善される。その結果、高圧ホースの耐久性が高められる。
【0014】つぎに、高圧ホースの具体的な実施例を示す。高圧ホース(内径12.1mm、外径19.7mm)の各層を以下のように作成した。内側樹脂層10は、ナイロン11製で、肉厚が0.15mmである。内側ゴム層11は、ブチルゴム製で、肉厚が1.0mmである。間挿布12は、ポリエステル糸を編むことにより形成され、2メッシュ、10メッシュ、100メッシュの3種類が用意される。第1の補強層13と第2の補強層15は、ポリエステル製で4000デニールの補強糸を用い、本数は各28本と30本である。中間ゴム層14も、内側ゴム層11と同じ材質で、肉厚は0.3mmである。外側ゴム層16は、EPDM製で、肉厚が1.5mmである。なお、上記3種類の試験品の他に、間挿布を設けない比較品を用意した。
【0015】上記3種類の試験品及び1つの比較品について、高温繰り返し加圧試験を行った。高温繰り返し加圧試験の条件は、温度:135℃、圧力:0-54kgf/cm^(2) 、圧力サイクル:30サイクル/分である。検査項目は、糸揃い性及びホースが破損に至る高温繰り返し加圧回数である。糸揃い性については、第1の補強層13における補強糸の糸の乱れと棚落ちの発生について調べるもので、糸の乱れがなくまた棚落ちもなく補強糸が一列に並んでいる場合には○、棚落ちの幅(ホースの厚さ方向における補強糸の移動距離)が糸径未満である場合には△、棚落ちの幅が糸径以上である場合には×で示すものとする。試験結果については、下記表1に示す。」

・「【0017】表1から明らかなように、本実施例の高圧ホースは、間挿布を用いない比較例に較べて、破損に至るまでの高温繰り返し加圧回数が大幅に増加している。特に、間挿布が、10メッシュの場合に、良好な結果になっており、本発明の有用性を明確に示している。」

・図1には、第1の補強層13の下部に、間挿布12により間挿布層を形成する点が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「内側ゴム層11と外側ゴム層16との間にポリエステルフィラメントを撚り合わせた補強糸をスパイラル状に巻き付けた少なくとも1層の補強層を配置し、かつ内側から第1の補強層13と前記内側ゴム層11との間に間挿布層を配置した高圧ホースにおいて、
前記間挿布層をリボン状のポリエステル糸等を編むことにより形成された間挿布を前記第1の補強層13の補強糸の下部に螺旋状に巻き付けて構成すると共に、該間挿布が2メッシュ以下であると、間挿布の前記補強糸を支持する効果が得られ難くなり、また、100メッシュ以上になると内側ゴム層11と中間ゴム層14との接着性が損なわれることになることから、間挿布を10メッシュとした高圧ホース。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)後者の「内側ゴム層11」が前者の「内側ゴム層」に相当し、以下同様に、
「補強糸」が「補強コード」に、
「外側ゴム層16」が「外側ゴム層」に、
「少なくとも1層の補強層」が「少なくとも1層のコード補強層」に、
「巻き付けた」態様が「巻回した」態様に、それぞれ相当することから、
後者の「内側ゴム層11と外側ゴム層16との間にポリエステルフィラメントを撚り合わせた補強糸をスパイラル状に巻き付けた少なくとも1層の補強層を配置し」た態様と
前者の「内側ゴム層と外側ゴム層との間にスチールコードからなる補強コードをスパイラル状に巻回した少なくとも1層のコード補強層を配置し」た態様とは、
「内側ゴム層と外側ゴム層との間に補強コードをスパイラル状に巻回した少なくとも1層のコード補強層を配置し」たとの概念で共通する。

(イ)後者の「第1の補強層13」が前者の「第1番目のコード補強層」に相当する。

(ウ)後者の「リボン状のポリエステル糸等を編むことにより形成された間挿布」と
前者の「テープ状の織物又は編物からなる間挿布」とは、
「テープ状の編物からなる間挿布」なる概念で共通する。

(エ)後者の「第1の補強層13の補強糸の下部に螺旋状に巻き付けて構成する」態様と
前者の「第1番目のコード補強層の補強コードと逆方向にスパイラル状に巻回させて構成する」態様とは、
「第1番目のコード補強層の補強コードの下部にスパイラル状に巻回させて構成する」との概念で共通する。

(オ)本願発明の数値限定の対比に関しては、どのような課題及び作用効果を奏するものであるのかが重要であることから、本願の出願当初の明細書の【0016】の「このように間挿布の枚数で特定される間挿布層の厚さと強力を特定するとともに、単位質量を制限することにより、内側ゴム層の外側にスパイラルに配置した第1番目のコード補強層の補強コードを間挿布層の厚さ方向に適度に均整に食い込ませ、内側ゴム層に対する補強効果を高めることができる。また、第1番目のコード補強層間挿布層内側ゴム層の層間の接着性を向上」するとの記載を踏まえて、以下検討する。
後者の「間挿布が2メッシュ以下であると、間挿布の補強糸を支持する効果が得られ難くなり、また、100メッシュ以上になると内側ゴム層11と中間ゴム層14との接着性が損なわれることになることから、間挿布を10メッシュとした」態様が補強糸が適度に間挿布に食い込んでいることであると解され、さらに、後者の「間挿布が・・・100メッシュ以上になると内側ゴム層11と中間ゴム層14との接着性が損なわれる」ことを考慮する態様が間挿布層と他のゴム層との間の接着性を向上させるものであるといえることから、
後者の「間挿布が2メッシュ以下であると、間挿布の補強糸を支持する効果が得られ難くなり、また、100メッシュ以上になると内側ゴム層11と中間ゴム層14との接着性が損なわれることになることから、間挿布を10メッシュとした高圧ホース」と
前者の「間挿布の厚さG(mm)、該間挿布の長手方向の強力T(N/3cm)及び該間挿布の単位質量W(g/m^(2) )を、それぞれ下記 (1),(2)及び(3)式を満足する範囲にした高圧ホース。
0.20≦n×G≦0.50 ・・・(1)
70≦n×T≦200 ・・・(2)
25≦n×W≦80 ・・・(3)
ただし、nは前記間挿布の枚数である」とは、
「間挿布の材質を特定の範囲内にすることにより、補強コードを間挿布層の厚さ方向に適度に均整に食い込ませ、該間挿布層と他の層との間の層間の接着性を向上させるようにした高圧ホース」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「内側ゴム層と外側ゴム層との間に補強コードをスパイラル状に巻回した少なくとも1層のコード補強層を配置し、かつ内側から第1番目のコード補強層と前記内側ゴム層との間に間挿布層を配置した高圧ホースにおいて、
前記間挿布層をテープ状の編物からなる間挿布を前記第1番目のコード補強層の補強コードの下部にスパイラル状に巻回させて構成すると共に、該間挿布の材質を特定の範囲内にすることにより、該補強コードを該間挿布層の厚さ方向に適度に均整に食い込ませ、該間挿布層と他の層との間の層間の接着性を向上させるようにした高圧ホース。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
補強コードに関し、本願発明では、「スチールコードからなる」補強コードであるのに対し、引用発明ではポリエステルフィラメントを撚り合わせた補強糸である点。

[相違点2]
テープ状の間挿布に関し、本願発明では、「織物又は」編物からなるのに対し、引用発明では、ポリエステル糸等を編むことにより形成されたものである点。

[相違点3]
間挿布層を第1番目のコード補強層の補強コードの下部にスパイラル状に巻回させて構成する態様に関し、本願発明では第1番目のコード補強層の補強コード「と逆方向に」構成するのに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。

[相違点4]
間挿布の「材質を特定の範囲内にすることにより、補強コードを間挿布層の厚さ方向に適度に均整に食い込ませ、該間挿布層と他の層との間の層間の接着性を向上させるように」するための数値限定に関し、本願発明では間挿布の「厚さG(mm)、該間挿布の長手方向の強力T(N/3cm)及び該間挿布の単位質量W(g/m^(2) )を、それぞれ下記(1),(2)及び(3)式を満足する範囲にした」高圧ホースにおいて、
「0.20≦n×G≦0.50 ・・・(1)
70≦n×T≦200 ・・・(2)
25≦n×W≦80 ・・・(3)
ただし、nは前記間挿布の枚数である」のに対し、引用発明では「間挿布が2メッシュ以下であると、間挿布の補強糸を支持する効果が得られ難くなり、また、100メッシュ以上になると内側ゴム層11と中間ゴム層14との接着性が損なわれることになることから、間挿布を10メッシュとした」ものである点。

5.判断
[相違点1]について
補強コードに関し、本願発明では、「スチールコードからなる」補強コードとしたことによる技術的な意義は出願当初の明細書の【0012】の「本発明において、コード補強層を構成する補強コードとしては、スチールコード及び有機繊維コードのいずれであってもよい。しかし、高圧ホース用としては特にスチールコードが好ましい。また、有機繊維コードの場合には、アラミドコードやポリエステルコードなどの高弾性,高強力のものが好ましい。」なる記載によれば、高圧ホース用であり、明記されていないが強度を維持するためのものと解することができる。
一方、当審の拒絶理由に引用した特開昭59-40079号公報の「従来の高圧ホースGは、スパイラルワイヤ補強層2の構成ワイヤ2aが図示のように密になっており、スパイラルワイヤ補強層2の表面積の88-97%も金属製のワイヤ2a(「スチールコード」に相当)で占め、これが4?6層積層されている」(第1頁右下欄第4行から同欄第8行)と記載されているように、高圧ホースにおいて、スチールコードからなる補強コードは周知の技術にすぎない。そして、該周知の技術も強度を維持するものであることは技術常識であるといえる。
そうすると、高圧ホースにおいて、引用発明に上記周知の技術のスチールコードを採用することにより相違点1に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点2]について
テープ状の間挿布に関し、本願発明では、「テープ状の織物又は編物からなる間挿布」との択一的な記載により発明の構成を特定している。
しかしながら、引用発明も、「ポリエステル糸等を編むことにより形成された間挿布」であり、本願発明と引用発明とは「テープ状の編物からなる間挿布」との概念で一致するように、本願発明の択一的な記載の一方を満足するものである。
したがって、相違点2は、実質的な相違点であるとはいえない。

[相違点3]について
本願発明において間挿布層をテープ状の織物又は編物からなる間挿布を第1番目のコード補強層の補強コードと「逆方向に」スパイラル状に巻回させて構成するとしたことによる技術的な意義は出願当初の明細書の【0007】の「本発明によれば、間挿布層の間挿布の巻き付け方向を、内側から第1番目のコード補強層の補強コードと逆方向のスパイラル状にしたことにより、その補強コードと間挿布のタテ糸とを交差状態にし、かつ間挿布の厚み、強力及び単位質量を適正に設定したことにより、補強コードが内側ゴム層へ棚落ちしたり、配列が乱れるのを防止することが可能になる。その結果、内側から第1番目のコード補強層が内側ゴム層に適度な密着性を保って補強効果を最大限に発揮するため、ホースの耐久性と耐圧性を一段と向上させることができる。」なる記載によれば、内側から第1番目のコード補強層が内側ゴム層に適度な密着性を保って補強効果を最大限に発揮する点にあるものといえる。
当審の拒絶理由に引用した特開平8-127081号公報の【0009】には「上記目的を達成するため、本発明の冷媒用高圧ホースにおいては、内面樹脂チューブと、その外周面上に設けた内側ゴム層と、その外周面上に複数本の補強糸を引き揃えてスパイラル状に巻き付けた第1補強層と、その外周上に複数本の補強糸を引き揃え前記第1補強層と逆方向にスパイラル状に巻き付けた第2補強層と、その外周上に設けた外側ゴム層とで構成され」と記載され、【0016】には、「このように、本発明の冷媒用高圧ホースにおいては、補強層の棚落ちがなくなり、十分な耐圧性と耐久性を得ることができ」と記載されているように、高圧ホースにおいて、コード補強層が内側ゴム層に適度な密着性を保つために、2つの隣接する層の間で逆方向に巻回することは引用文献3の第1と第2の補強層が逆方向に巻回することが例示されているように周知慣用技術にすぎない。また、引用例の【0012】には、「中間ゴム層14の外周面には、第2の補強層15が、上記第1の補強層13と同じ補強糸を用いて、第1の補強層と逆方向にスパイラル状に巻き付けることにより形成される。」とあるように、逆方向にスパイラル状に巻回させて構成する示唆があるといえる。
そうすると、高圧ホースにおいて、コード補強層が内側ゴム層に適度な密着性を保つという一般的な課題を解決するために、引用発明に上記周知慣用技術を採用することにより相違点3に係る本願発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

[相違点4]について
本願発明では間挿布の「厚さG、該間挿布の長手方向の強力T及び該間挿布の単位質量Wを、それぞれ下記(1),(2)及び(3) 式を満足する範囲にした」高圧ホースにおいて、
「0.20≦n×G≦0.50 ・・・(1)
70≦n×T≦200 ・・・(2)
25≦n×W≦80 ・・・(3)
ただし、nは前記間挿布の枚数である」のに対し、引用発明では「間挿布が2メッシュ以下であると、間挿布の補強糸を支持する効果が得られ難くなり、また、100メッシュ以上になると内側ゴム層11と中間ゴム層14との接着性が損なわれることになることから、間挿布を10メッシュとした」ものである点を特定している。
一方、引用発明も「間挿布が2メッシュ以下であると、間挿布の補強糸を支持する効果が得られ難くなり、また、100メッシュ以上になると内側ゴム層11と中間ゴム層14との接着性が損なわれることになることから、間挿布を10メッシュとした」ものであり、上記「4.対比」の「(オ)」において検討しているように、「間挿布の材質を特定の範囲内にすることにより、補強コードを間挿布層の厚さ方向に適度に均整に食い込ませ、該間挿布層と他の層との間の層間の接着性を向上させるようにした」点において本願発明と引用発明とは一致するものである。
してみると、本願発明と引用発明とで、数値限定による課題は同じものであるといえ、当審の拒絶理由において「間挿布の厚さ、強力、質量を数値限定しているが、出願当初の明細書には新規な課題及び臨界的な作用効果が記載されていないので、設計事項にすぎないものといえる」と示したように、「新規な課題」があるとは認められない。また、出願当初の明細書及び意見書等を精査しても、数値限定に臨界的な作用効果が記載されているとも認められない。従って、その数値範囲の試行錯誤による選定により格別顕著な作用効果を奏するとは解されず、かつ、そのような選定を行うことを妨げるような格段の事情があるものと認められない。
また、引用発明において「メッシュ」を変更すれば、布の編み目の数が変更することとなり、具体的には、メッシュが小さければ、間挿布の厚さは薄くなり、強力も小さく、質量も小さくなり、メッシュが大きければその逆となることは技術常識であるといえる。すなわち、引用発明の「メッシュ」の大きさにより特定することと、本願発明の間挿布の厚さ、強力、質量により特定し、その際に間挿布の枚数を考慮したものとすることとは実質的な相違はないといえる。
そうすると、引用発明において、上記技術常識を踏まえ、上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって単なる数値範囲の最適化又は好適化に相当する設計事項にすぎず、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、上記周知慣用技術、上記周知の技術、及び、上記技術常識から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

6.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、上記周知慣用技術、上記周知の技術、及び、上記技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-24 
結審通知日 2011-03-01 
審決日 2011-03-24 
出願番号 特願2003-388860(P2003-388860)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 正浩  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 田良島 潔
槙原 進
発明の名称 高圧ホース  
代理人 小川 信一  
代理人 昼間 孝良  
代理人 野口 賢照  
代理人 斎下 和彦  
代理人 境澤 正夫  
代理人 佐藤 謙二  
代理人 平井 功  

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