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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1236366
審判番号 不服2010-5996  
総通号数 138 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-06-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-18 
確定日 2011-05-06 
事件の表示 特願2008-128665「車両の制御装置および制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月26日出願公開、特開2009-275631〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成20年5月15日の出願であって、平成21年5月18日付けで拒絶理由が通知され、平成21年7月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年12月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月18日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に同日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成22年11月1日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成22年12月27日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成22年3月18日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)平成22年3月18日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年7月17日付けの手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の以下の(a)に示す請求項1ないし14を、(b)に示す請求項1ないし14に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
内燃機関と回転電機とを駆動源とする車両の制御装置であって、前記内燃機関は、燃料の燃焼により排出される排出ガスが流通する排気通路と、前記排気通路の途中に設けられ、窒素酸化物を吸蔵する触媒とを含み、前記内燃機関は、前記車両の速度が予め定められた速度以上である場合に、停止が抑制され、
前記触媒の温度を検出するための温度検出手段と、
前記内燃機関の回転数を検出するための回転数検出手段と、
前記内燃機関の負荷を検出するための負荷検出手段と、
前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転領域内の回転数および負荷であるという第1の条件と、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件とが成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行するための還元処理手段とを含み、
前記自立回転数領域は、前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、仕事をせずに作動を継続している状態に対応する回転数領域である、車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第2の条件が成立しない場合に、前記触媒の温度が前記予め定められた温度以上になるように前記内燃機関の出力を上昇させる、または、前記排出ガスの温度を上昇させるように前記内燃機関を制御するための制御手段をさらに含む、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、前記触媒の温度を上昇させる触媒加熱装置をさらに含み、
前記制御装置は、前記第2の条件が成立しない場合に、前記触媒の温度が前記予め定められた温度以上になるように前記触媒加熱装置を制御するための加熱制御手段をさらに含む、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記触媒は、前記排出ガス中の微粒子を捕集するフィルターを有し、
前記制御装置は、
前記フィルターの目詰まりの度合を検出するための手段と、
前記検出された目詰まりの度合に応じて前記窒素酸化物の浄化に適した排出ガスの流量となる前記内燃機関の回転数および負荷を決定するための手段と、
前記決定された回転数と負荷とに基づいて前記内燃機関を制御するための手段とをさらに含む、請求項1?3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記触媒の窒素酸化物の吸蔵量を検出するための手段をさらに含み、
前記還元処理手段は、前記第1の条件および前記第2の条件に加えて、前記検出された窒素酸化物の吸蔵量が予め定められた量以上であるという第3の条件が成立する場合に、
前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行する、請求項1?4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、リーンバーンガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンのうちのいずれかである、請求項1?5のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記回転電機は、第1の回転電機であって、
前記車両は、前記内燃機関の動力に基づいて発電する第2の回転電機と、前記内燃機関および前記第1の回転電機の少なくとも一方の動力を前記車両の車輪軸に伝達する動力分割機構とを含み、
前記動力分割機構は、入力された前記内燃機関の動力または前記第1の回転電機の動力を、前記車輪軸への駆動力または前記第2の回転電機への動力に分割して出力する、請求項1?6のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項8】
内燃機関と回転電機とを駆動源とする車両の制御方法であって、前記内燃機関は、燃料の燃焼により排出される排出ガスが流通する排気通路と、前記排気通路の途中に設けられ、窒素酸化物を吸蔵する触媒とを含み、前記内燃機関は、前記車両の速度が予め定められた速度以上である場合に、停止が抑制され、
前記触媒の温度を検出する温度検出ステップと、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出ステップと、
前記内燃機関の負荷を検出する負荷検出ステップと、
前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転領域内の回転数および負荷であるという第1の条件と、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件とが成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行する還元処理ステップとを含み、
前記自立回転数領域は、前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、仕事をせずに作動を継続している状態に対応する回転数領域である、車両の制御方法。
【請求項9】
前記制御方法は、前記第2の条件が成立しない場合に、前記触媒の温度が前記予め定められた温度以上になるように前記内燃機関の出力を上昇させる、または、前記排出ガスの温度を上昇させるように前記内燃機関を制御するステップをさらに含む、請求項8に記載の車両の制御方法。
【請求項10】
前記内燃機関は、前記触媒の温度を上昇させる触媒加熱装置をさらに含み、
前記制御方法は、前記第2の条件が成立しない場合に、前記触媒の温度が前記予め定められた温度以上になるように前記触媒加熱装置を制御するステップをさらに含む、請求項8または9に記載の車両の制御方法。
【請求項11】
前記触媒は、前記排出ガス中の微粒子を捕集するフィルターを有し、
前記制御方法は、
前記フィルターの目詰まりの度合を検出するステップと、
前記検出された目詰まりの度合に応じて前記窒素酸化物の浄化に適した排出ガスの流量となる前記内燃機関の回転数および負荷を決定するステップと、
前記決定された回転数と負荷とに基づいて前記内燃機関を制御するステップとをさらに含む、請求項8?10のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項12】
前記制御方法は、前記触媒の窒素酸化物の吸蔵量を検出するステップをさらに含み、
前記還元処理ステップは、前記第1の条件および前記第2の条件に加えて、前記検出された窒素酸化物の吸蔵量が予め定められた量以上であるという第3の条件が成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行する、請求項8?11のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項13】
前記内燃機関は、リーンバーンガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンのうちのいずれかである、請求項8?12のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項14】
前記回転電機は、第1の回転電機であって、
前記車両は、前記内燃機関の動力に基づいて発電する第2の回転電機と、前記内燃機関および前記第1の回転電機の少なくとも一方の動力を前記車両の車輪軸に伝達する動力分割機構とを含み、
前記動力分割機構は、入力された前記内燃機関の動力または前記第1の回転電機の動力を、前記車輪軸への駆動力または前記第2の回転電機への動力に分割して出力する、請求項8?13のいずれかに記載の車両の制御方法。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
内燃機関と回転電機とを駆動源とする車両の制御装置であって、前記内燃機関は、燃料の燃焼により排出される排出ガスが流通する排気通路と、前記排気通路の途中に設けられ、窒素酸化物を吸蔵する触媒とを含み、前記内燃機関は、前記車両の速度が予め定められた速度以上である場合に、停止が抑制され、
前記触媒の温度を検出するための温度検出手段と、
前記内燃機関の回転数を検出するための回転数検出手段と、
前記内燃機関の負荷を検出するための負荷検出手段と、
前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件が成立した後に、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件が成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行するための還元処理手段とを含み、
前記自立回転数領域は、前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって、かつ、前記内燃機関が停止しない回転数の下限値以上で作動を継続している状態に対応する回転数領域である、車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第2の条件が成立しない場合に、前記触媒の温度が前記予め定められた温度以上になるように前記内燃機関の出力を上昇させる、または、前記排出ガスの温度を上昇させるように前記内燃機関を制御するための制御手段をさらに含む、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関は、前記触媒の温度を上昇させる触媒加熱装置をさらに含み、
前記制御装置は、前記第2の条件が成立しない場合に、前記触媒の温度が前記予め定められた温度以上になるように前記触媒加熱装置を制御するための加熱制御手段をさらに含む、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記触媒は、前記排出ガス中の微粒子を捕集するフィルターを有し、
前記制御装置は、
前記フィルターの目詰まりの度合を検出するための手段と、
前記検出された目詰まりの度合に応じて前記窒素酸化物の浄化に適した排出ガスの流量となる前記内燃機関の回転数および負荷を決定するための手段と、
前記決定された回転数と負荷とに基づいて前記内燃機関を制御するための手段とをさらに含む、請求項1?3のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記触媒の窒素酸化物の吸蔵量を検出するための手段をさらに含み、
前記還元処理手段は、前記第1の条件および前記第2の条件に加えて、前記検出された窒素酸化物の吸蔵量が予め定められた量以上であるという第3の条件が成立する場合に、
前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行する、請求項1?4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関は、リーンバーンガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンのうちのいずれかである、請求項1?5のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記回転電機は、第1の回転電機であって、
前記車両は、前記内燃機関の動力に基づいて発電する第2の回転電機と、前記内燃機関および前記第1の回転電機の少なくとも一方の動力を前記車両の車輪軸に伝達する動力分割機構とを含み、
前記動力分割機構は、入力された前記内燃機関の動力または前記第1の回転電機の動力を、前記車輪軸への駆動力および前記第2の回転電機への動力に分割して出力する、請求項1?6のいずれかに記載の車両の制御装置。
【請求項8】
内燃機関と回転電機とを駆動源とする車両の制御方法であって、前記内燃機関は、燃料の燃焼により排出される排出ガスが流通する排気通路と、前記排気通路の途中に設けられ、窒素酸化物を吸蔵する触媒とを含み、前記内燃機関は、前記車両の速度が予め定められた速度以上である場合に、停止が抑制され、
前記触媒の温度を検出する温度検出ステップと、
前記内燃機関の回転数を検出する回転数検出ステップと、
前記内燃機関の負荷を検出する負荷検出ステップと、
前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件が成立した後に、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件が成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行する還元処理ステップとを含み、
前記自立回転数領域は、前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって、かつ、前記内燃機関が停止しない回転数の下限値以上で作動を継続している状態に対応する回転数領域である、車両の制御方法。
【請求項9】
前記制御方法は、前記第2の条件が成立しない場合に、前記触媒の温度が前記予め定められた温度以上になるように前記内燃機関の出力を上昇させる、または、前記排出ガスの温度を上昇させるように前記内燃機関を制御するステップをさらに含む、請求項8に記載の車両の制御方法。
【請求項10】
前記内燃機関は、前記触媒の温度を上昇させる触媒加熱装置をさらに含み、
前記制御方法は、前記第2の条件が成立しない場合に、前記触媒の温度が前記予め定められた温度以上になるように前記触媒加熱装置を制御するステップをさらに含む、請求項8または9に記載の車両の制御方法。
【請求項11】
前記触媒は、前記排出ガス中の微粒子を捕集するフィルターを有し、
前記制御方法は、
前記フィルターの目詰まりの度合を検出するステップと、
前記検出された目詰まりの度合に応じて前記窒素酸化物の浄化に適した排出ガスの流量となる前記内燃機関の回転数および負荷を決定するステップと、
前記決定された回転数と負荷とに基づいて前記内燃機関を制御するステップとをさらに含む、請求項8?10のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項12】
前記制御方法は、前記触媒の窒素酸化物の吸蔵量を検出するステップをさらに含み、
前記還元処理ステップは、前記第1の条件および前記第2の条件に加えて、前記検出された窒素酸化物の吸蔵量が予め定められた量以上であるという第3の条件が成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行する、請求項8?11のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項13】
前記内燃機関は、リーンバーンガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンのうちのいずれかである、請求項8?12のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項14】
前記回転電機は、第1の回転電機であって、
前記車両は、前記内燃機関の動力に基づいて発電する第2の回転電機と、前記内燃機関および前記第1の回転電機の少なくとも一方の動力を前記車両の車輪軸に伝達する動力分割機構とを含み、
前記動力分割機構は、入力された前記内燃機関の動力または前記第1の回転電機の動力を、前記車輪軸への駆動力および前記第2の回転電機への動力に分割して出力する、請求項8?13のいずれかに記載の車両の制御方法。」(なお、下線部は当審で付したものであり、補正箇所を示す。)

(2)本件補正の目的
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転領域内の回転数および負荷であるという第1の条件と、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件とが成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行するための還元処理手段」を、本件補正後の請求項1における「前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件が成立した後に、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件が成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行するための還元処理手段」と限定するとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記自立回転数領域は、前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、仕事をせずに作動を継続している状態に対応する回転数領域である」を、本件補正後の請求項1における「前記自立回転数領域は、前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって、かつ、前記内燃機関が停止しない回転数の下限値以上で作動を継続している状態に対応する回転数領域である」と限定するものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における請求項1に関する補正事項は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-1.特許法第29条第2項について
2-1-1.特開2005-351381号公報(以下、「引用文献」という。)
(1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付した。)

(a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、有段自動変速機と、前記エンジンと前記有段自動変速機間の動力伝達の接離を行うクラッチと、前記エンジンの出力による発電またはバッテリの電力による前記エンジン出力のアシストを行うモータジェネレータとを備え、前記エンジンと前記モータジェネレータのいずれか一方または双方を走行駆動源として走行可能に構成されたハイブリッド車両の制御方法において、
前記モータジェネレータは、同期装置またはクラッチ手段を介して前記有段自動変速機のギヤと噛み合って同期回転可能に構成されているとともに、当該モータジェネレータの振動を検出する振動検出手段を備え、
前記振動検出手段により前記モータジェネレータの振動が検出された場合は、前記同期装置または前記クラッチ手段を切り離すことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
(中略)
【請求項4】
前記ハイブリッド車両は、排気ガス中のNOxを浄化するNOx触媒と、当該NOx触媒に還元剤を供給する還元剤供給手段とを更に備え、 前記NOx触媒を還元する際に前記エンジンの動作点を過剰酸素の低い動作点に移行させることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項5】
前記ハイブリッド車両は、前記NOx触媒の還元時には、走行負荷と前記バッテリの充電量と前記NOx触媒の温度とに基づいて複数の走行モードから選択された一の走行モードにて運転されることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の制御方法。
【請求項6】
前記ハイブリッド車両は、前記エンジンによって駆動され前記バッテリを充電する発電手段を更に備え、
前記複数の走行モードは、下記(1)?(4)の走行モードであることを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド車両の制御方法。
(1)前記走行負荷が軽負荷であり、かつ前記NOx触媒の温度が所定の閾値よりも高い場合は、前記エンジンをアイドル運転するとともに、前記クラッチを切断し前記モータジェネレータのみを駆動してEV走行する。(後略)」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項6】)

(b)「【0001】
この発明は、ハイブリッド車両の制御方法に関し、更に詳しくは、小型のモータジェネレータを備えたハイブリッド車両であっても、良好なドライバビリティを確保することができ、しかもNOx触媒に吸蔵されたNOxを放出・還元(以下、「NOx触媒を還元」という)する際の燃費悪化を抑制することができるハイブリッド車両の制御方法に関する。」(段落【0001】)

(c)「【0002】
近年、地球環境の保全や省資源の観点から、ハイブリッド車両の開発が行われている。たとえば、このハイブリッド車両は、エンジンと、有段自動変速機と、エンジンと有段自動変速機間の動力伝達の接離を行うクラッチと、エンジンの出力による発電またはバッテリの電力によるエンジン出力のアシストを行うモータジェネレータとを備え、エンジンとモータジェネレータのいずれか一方または双方を走行駆動源とすることにより走行可能に構成されたものが公知である。
(中略)
【0008】
また、排気浄化のため、吸蔵還元型NOx触媒を備えた排気浄化装置と還元剤供給手段(いわゆるポスト噴射あるいは排気系燃料添加)とを組み合わせた上記ハイブリッド車両について、吸気絞りや排気ガス再循環装置(EGR装置)により新気量を抑制することで燃費悪化を抑制する技術が提案されている(たとえば、非特許文献2参照)。」(段落【0002】ないし【0008】)

(d)「【0015】
また、この発明は、小型のモータジェネレータを備えたハイブリッド車両であっても、NOx触媒を還元する際の燃費悪化を抑制することができるハイブリッド車両の制御方法を提供することを目的とする。」(段落【0015】)

(e)「【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明の請求項1に係るハイブリッド車両の制御方法は、エンジンと、有段自動変速機と、前記エンジンと前記有段自動変速機間の動力伝達の接離を行うクラッチと、前記エンジンの出力による発電またはバッテリの電力による前記エンジン出力のアシストを行うモータジェネレータとを備え、前記エンジンと前記モータジェネレータのいずれか一方または双方を走行駆動源として走行可能に構成されたハイブリッド車両の制御方法において、前記モータジェネレータは、同期装置またはクラッチ手段を介して前記有段自動変速機のギヤと噛み合って同期回転可能に構成されているとともに、当該モータジェネレータの振動を検出する振動検出手段を備え、前記振動検出手段により前記モータジェネレータの振動が検出された場合は、前記同期装置または前記クラッチ手段を切り離すことを特徴とするものである。
(中略)
【0019】
また、この発明の請求項4に係るハイブリッド車両の制御方法は、請求項1に記載の発明において、前記ハイブリッド車両は、排気ガス中のNOxを浄化するNOx触媒と、当該NOx触媒に還元剤を供給する還元剤供給手段とを更に備え、前記NOx触媒を還元する際に前記エンジンの動作点を過剰酸素の低い動作点に移行させることを特徴とするものである。
【0020】
また、この発明の請求項5に係るハイブリッド車両の制御方法は、請求項4に記載の発明において、前記ハイブリッド車両は、前記NOx触媒の還元時には、走行負荷と前記バッテリの充電量と前記NOx触媒の温度とに基づいて複数の走行モードから選択された一の走行モードにて運転されることを特徴とするものである。
【0021】
また、この発明の請求項6に係るハイブリッド車両の制御方法は、請求項5に記載の発明において、前記ハイブリッド車両は、前記エンジンによって駆動され前記バッテリを充電する発電手段を更に備え、前記複数の走行モードは、下記(1)?(4)の走行モードであることを特徴とするものである。
(1)前記走行負荷が軽負荷であり、かつ前記NOx触媒の温度が所定の閾値よりも高い場合は、前記エンジンをアイドル運転するとともに、前記クラッチを切断し前記モータジェネレータのみを駆動してEV走行する。(後略)」(段落【0016】ないし【0021】)

(f)「【0025】
また、この発明に係るハイブリッド車両の制御方法(請求項4)によれば、モータジェネレータの体格やバッテリの容量を大型化しなくても、NOx触媒を還元する際にエンジンの動作点を過剰酸素の低い動作点に移行させることができるので、還元剤供給手段から供給する燃料(還元剤)を減らすことができ、燃費悪化を抑制することができる。
【0026】
また、この発明に係るハイブリッド車両の制御方法(請求項5)によれば、NOx触媒を還元する際に、走行負荷とバッテリ充電量とNOx触媒の温度に応じて複数の走行モードから最適な走行モードを選択することにより、NOx触媒を還元する際の燃料(還元剤)を更に効果的に減らすことができる。
【0027】
また、この発明に係るハイブリッド車両の制御方法(請求項6)によれば、NOx触媒を還元する際の燃料を減らすことができるとともに、つぎの効果を奏する。
(1)の走行モードでは、エンジンの負荷を更に減らしてNOx触媒の温度を下げ、NOx触媒の過熱を抑制することができる。(後略)」(段落【0025】ないし【0027】)

(g)「【0029】
先ず、ディーゼルハイブリッド車両の概略構成について図2に基づいて説明する。ここで、図2は、ディーゼルハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。図2に示すように、ディーゼルハイブリッド車両(ハイブリッド車両)10には、走行駆動源としてのディーゼルエンジン(以下、単にエンジンと記す)11が設けられている。このエンジン11は、図示を省略するが、コモンレール方式の燃料噴射システム、排気ガス圧力を利用して吸気量を増大させるターボ過給機、吸排気バルブの開閉動作タイミングを可変制御する可変バルブタイミング機構等を備えている。
【0030】
また、エンジン11の排気通路30には、排気ガス中の粒子状物質(PM)および窒素酸化物(NOx)を浄化するために、吸蔵還元型NOx触媒(以下、NOx触媒と記す)を担持したパティキュレートフィルタ33を備えている。また、排気通路30には、パティキュレートフィルタ33に燃料(還元剤)を添加する還元剤供給手段(図示せず)や排気ガスの一部を吸気系に還流させる排気ガス再循環装置(図示せず)を備えている。
【0031】
また、排気通路30におけるパティキュレートフィルタ33の上流側と下流側には、それぞれ圧力センサ(図示せず)が設けられ、その差圧を検出することにより、パティキュレートフィルタ33のPM堆積量を検出できるように構成されている。また、排気通路30には、排気ガスの空燃比を検出する空燃比(A/F)センサ(図示せず)や排気ガス温度を検出する排気温センサ(図示せず)等が設けられている。パティキュレートフィルタ33のフィルタ温度およびNOx触媒温度は、上記排気温センサにより検出された排気ガス温度から推定できるようになっている。
【0032】
このように構成されたパティキュレートフィルタ33のNOx触媒は、流入排気ガスの空燃比がリーンの時にはNOxを吸蔵し、流入排気ガス中の酸素濃度が低下した時には吸蔵していたNOxを放出させるとともに、その放出されたNOxを還元剤によって還元することとなる。
【0033】
このようなパティキュレートフィルタ33を備えたエンジン11は、走行時に触媒のNOx吸蔵量が飽和する前にそのNOxを還元するため、触媒に流入する排気ガスに還元剤(燃料)を供給する(以下、「リッチスパイク制御」という)ように構成されている。なお、この還元剤(燃料)を供給する手段としては、エンジン出力を発生させるための主たる燃料噴射の実行後に少量の燃料を燃焼室内に副噴射する、いわゆるポスト噴射であってもよい。」(段落【0029】ないし【0033】)

(h)「【0036】
また、エンジン11は、上記MMT12から指令される要求エンジントルクを出力するために、その燃料噴射量や吸入空気量等が制御されるように構成されている。エンジン11の要求燃料噴射量は、たとえばエンジンの回転数(回転速度)およびアクセル開度からマップ等に基づいて決定され、上記燃料噴射システムにより噴射されるようになっている。」(段落【0036】)

(i)「【0045】
すなわち、ディーゼルハイブリッド車両10が走行負荷の小さい低速定常走行の状態では、エンジン11を停止したまま、モータジェネレータ17を力行することにより走行(EV走行)する。そして、走行開始後にディーゼルハイブリッド車両10が所定の速度もしくは負荷に達すると、モータジェネレータ17を用いてエンジン11をクランキングして始動し、当該エンジン11を用いた運転に移行する。」(段落【0045】)

(j)「【0077】
一般に、ディーゼルエンジンの通常燃焼はリーン燃焼であり、軽負荷時ほど、よりリーン状態であるため、ガソリンエンジンと異なり空気をスロットルで絞らない場合、NOx還元種である燃料を排気系に導入するには多くの燃料を必要とし、NOx還元効率が悪くなる。そこで、パティキュレートフィルタ33のNOx触媒を還元する際の燃費悪化を抑制するため、本実施例3は、NOx触媒を還元する際にエンジン11の動作点を過剰酸素の低い動作点に移行させるように制御し、走行負荷とバッテリ充電量SOCとNOx触媒の温度等に基づいて最適な走行モードで運転するようにしたものである。
【0078】
ディーゼルハイブリッド車両10の構成は、上記実施例1で示した図2あるいは図4の構成と同様であるが、モータジェネレータ17のMGクラッチ17aやシンクロ装置28は必ずしも備えてなくてもよい。以下、本実施例3に係る制御方法を図7に基づいて具体的に説明する。ここで、図7は、この発明の実施例3に係る制御方法を示すフローチャートである。
【0079】
図7に示すように、先ずリッチスパイク制御要求があるか否かを判断する(ステップS40)。リッチスパイク制御要求がないならば(ステップS40否定)、すなわちNOx触媒のNOx吸蔵量に余裕がありNOx浄化率が高い状態にあるならば、通常走行時における制御を行う。
【0080】
すなわち、図8?図11の特性図に示すように、低いNOx発生率(エンジンのNOx発生量の指標であり、1kwhの仕事時に発生するNOx量である)および低いBSFC(エンジン熱効率の指標であり、1kwhの仕事に必要な燃料量である)となるエンジン動作点P1を狙って制御する(ステップS41)。
【0081】
ここで、図8は、高速走行時におけるエンジンの動作点とBSFCとの関係を示す特性図であり、図中には等BSFC線とBSFCの高低を示してある。また、この図8および以下に示す図において、白丸印P1はリッチスパイク制御時以外(通常走行時)のエンジン11の動作点を示し、黒丸印P2はリッチスパイク制御時のエンジン11の動作点を示している。
【0082】
また、図9は、高速走行時におけるエンジンの動作点とNOx発生率との関係を示す特性図であり、図中には等NOx発生率線とNOx発生率の高低を示してある。図10は、高速走行時におけるエンジンの動作点と当量比との関係を示す特性図であり、図中には等当量比線と当量比の大小を示してある。また、図11は、高速走行時におけるエンジンの動作点と出力との関係を示す特性図であり、図中には等出力線と出力の高低を示してある。
【0083】
この当量比は、排気ガス中の過剰酸素量の指標であり、当量比が低い時はリーン側で排気ガス中の酸素量が多いことを意味し、当量比が高い時はリッチ側で排気ガス中の酸素量が少ないことを意味するものである。本実施例は、NOx触媒を還元する際、エンジン11の動作点を過剰酸素の低い動作点に移行することにより還元に必要な燃料量を低減するものであるから、高い当量比を狙って制御する。
【0084】
一方、リッチスパイク制御要求があるならば(ステップS40肯定)、走行負荷が所定値よりも小さい(軽負荷)か否かを判断する(ステップS42)。走行負荷が軽負荷ならば(ステップS42肯定)、更にバッテリ充電量SOCが所定の下限値よりも小さいか否かを判断する(ステップS43)。
【0085】
なお、上記走行負荷の所定値およびバッテリ充電量SOCの下限値、後述するNOx触媒の温度閾値(活性温度等の閾値)、当量比の所定値(閾値)は、予め実験等により求められた最適値である。
【0086】
バッテリ充電量SOCが所定の下限値よりも小さくないならば(ステップS43否定)
、すなわちバッテリ充電量SOCに余裕があるならば、NOx触媒の温度が所定の閾値よりも高いか否かを判断する(ステップS44)。
【0087】
上記NOx触媒の温度が所定の閾値よりも高い場合は(ステップS44肯定)、図12および図13に示すように、排気ガス量が最小となるようにエンジン11の動作点P1をアイドル状態の動作点P2に移行して運転するとともに、クラッチ12aを切断し、モータジェネレータ17のみを走行駆動源とするEV走行を実施する(ステップS45)。これにより、エンジン11の負荷を更に減らしてNOx触媒の温度を下げ、NOx触媒の過熱を抑制するとともに、還元に必要な燃料量を低減することができる。
【0088】
ここで、図12は、走行負荷が軽負荷でありバッテリ充電量SOCが大きい場合におけるエンジンの動作点と当量比との関係を示す特性図であり、図中には等当量比線と当量比の高低を示してある。また、図13は、走行負荷が軽負荷でありバッテリ充電量SOCが大きい場合におけるエンジンの動作点と出力との関係を示す特性図であり、図中には、等出力線と出力の高低および選択可能なエンジン回転数(破線)を示してある。
【0089】
そして、上記ステップS45の後は、現走行モードにおけるエンジン11の回転数およびトルク等に基づいて排気系に添加すべき燃料量を算出し、リッチスパイク制御を実施する(ステップS46)。なお、添加に必要とされる燃料量は、排出ガス中の過剰酸素を還元するための燃料とNOx触媒に吸着したNOxを還元するための燃料との総和である。」(段落【0077】ないし【0089】)

(k)「【0108】
以上のように、この実施例3に係るディーゼルハイブリッド車両10の制御方法によれば、NOx触媒を還元する際に、走行負荷とバッテリ充電量SOCとNOx触媒の温度等に応じて最適な走行モードを選択し、エンジン11の動作点を過剰酸素の低い動作点に移行させることができるので、モータジェネレータ17の体格やバッテリ20の容量を大型化しなくても、NOx触媒を還元する際の燃料(還元剤)を減らすことができ、燃費悪化を抑制することができる。
【0109】
なお、上記実施例3においては、ディーゼルエンジン11を走行駆動源とするハイブリッド車両について本発明を適用して説明したが、これに限定されず、ガソリンエンジンを走行駆動源とするハイブリッド車両に適用してもよい。」(段落【0108】及び【0109】)

(l)「【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】この発明の実施例1に係るモータジェネレータの歯打ち音発生を抑制する制御方法を示すフローチャートである。
【図2】ディーゼルハイブリッド車両の概略構成を示す模式図である。
(中略)
【図7】この発明の実施例3に係る制御方法を示すフローチャートである。
(中略)
【符号の説明】
【0112】
10 ディーゼルハイブリッド車両(ハイブリッド車両)
11 ディーゼルエンジン(エンジン)
12 MMT(有段自動変速機)
12a クラッチ
17 モータジェネレータ
17a MGクラッチ(クラッチ手段)
17b、17c ギヤ
19、36 インバータ
20 バッテリ
23a、23b ギヤ
28 シンクロ装置(同期装置)
30 排気通路
33 パティキュレートフィルタ(NOx触媒)
35 発電機(発電手段)
SOC バッテリ充電量」(【図面の簡単な説明】及び【符号の説明】)

(2)上記(1)(a)ないし(l)及び図面の記載から分かること

(ア)上記(1)(a)ないし(l)及び図面の記載から、引用文献には、エンジン11とモータジェネレータ17とを駆動源とするハイブリッド車両10の制御装置が記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(a)ないし(l)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジン11とモータジェネレータ17とを駆動源とするハイブリッド車両10の制御装置において、エンジン11は、燃料の燃焼により排出される排気ガスが流通する排気通路30と、前記排気通路30の途中に設けられ、NOxを吸蔵するNOx触媒33とを含むことが分かる。

(ウ)上記(1)(i)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジン11とモータジェネレータ17とを駆動源とするハイブリッド車両10の制御装置において、ハイブリッド車両10が所定の速度に達すると、モータジェネレータ17を用いてエンジン11をクランキングして始動し、当該エンジン11を用いた運転に移行することから、エンジン11は、車両の速度が所定の速度以上である場合に、停止が抑制されることが分かる。

(エ)上記(1)(g)(特に段落【0031】)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジン11とモータジェネレータ17とを駆動源とするハイブリッド車両10の制御装置において、排気ガス温度を検出する排気温センサが設けられ、パティキュレートフィルタ33のフィルタ温度およびNOx触媒温度は、上記排気温センサにより検出された排気ガス温度から推定できるようになっていることから、NOx触媒温度を検出するための排気温センサが設けられていることが分かる。

(オ)上記(1)(h)、(j)(特に段落【0084】、【0088】及び【0089】)及び図面の記載から、引用文献に記載されたエンジン11とモータジェネレータ17とを駆動源とするハイブリッド車両10の制御装置において、エンジンの回転数を検出するための回転数検出手段と、負荷を検出するための負荷検出手段が設けられていることが分かる。

(カ)上記(1)(g)(特に段落【0030】ないし【0033】)及び(j)(特に段落【0084】ないし【0089】)並びに図面(特に【図7】のS40、S42、S44、S45、S46のフローを参照。)の記載から、引用文献に記載されたエンジン11とモータジェネレータ17とを駆動源とするハイブリッド車両10の制御装置において、リッチスパイク制御要求があるとき(ステップS40肯定)、走行負荷が所定値より小さい(軽負荷)か否かを判断し(ステップS42)、走行負荷が軽負荷であり(ステップS42肯定)、バッテリ充電量SOCに余裕があるならば、NOx触媒の温度が所定の閾値(活性温度等の閾値)よりも高いか否かを判断し(ステップS44)、上記NOx触媒の温度が所定の閾値よりも高い場合は(ステップS44肯定)、排気ガス量が最小となるようにエンジン11の動作点をアイドル状態の動作点に移行して運転するとともに、クラッチ12aを切断し、モータジェネレータ17のみを走行駆動源とするEV走行を実施し(ステップS45)、エンジン11の回転数およびトルク等に基づいて排気系に添加すべき燃料量を算出し、リッチスパイク制御(すなわち、触媒に流入する排気ガスに還元剤供給手段から還元剤を供給してNOxを還元する制御)を実施する(ステップS46)ことが分かる。また、前記「(NOx触媒の温度の)所定の閾値(活性温度等の閾値)」は、当然、「触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な温度」である。

(キ)技術常識(例えば特開2002-276408号公報の段落【0019】及び【0020】等の記載を参照。)から、「自立回転」とは、エンジンが始動して、スタータモータが停止しても回転を持続することができる状態であり、「自立回転数」とは、エンジンが自立回転しているときの回転数である。

(3)引用文献に記載された発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「エンジン11とモータジェネレータ17とを駆動源とするハイブリッド車両10の制御装置であって、前記エンジン11は、燃料の燃焼により排出される排気ガスが流通する排気通路30と、前記排気通路30の途中に設けられ、NOxを吸蔵するNOx触媒33とを含み、前記エンジン11は、ハイブリッド車両10の速度が所定の速度以上である場合に、停止が抑制され、
前記NOx触媒33の温度を検出するための排気温センサと、
前記エンジン11の回転数を検出するための回転数検出手段と、
前記エンジン11の負荷を検出するための負荷検出手段と、
前記検出された回転数および負荷が、前記エンジン11のアイドル状態であり、検出された前記NOx触媒33の温度が所定の閾値よりも高い場合に、前記NOx触媒33におけるNOxの還元する制御を実施するための還元剤供給手段とを含む、
ハイブリッド車両10の制御装置。」

2-1-2.本願補正発明と引用文献に記載された発明との対比
本願補正発明と引用文献に記載された発明とを対比するに、引用文献に記載された発明における「エンジン11」は、その構造及び機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「モータジェネレータ17」は「回転電機」に、「ハイブリッド車両10」は「車両」に、「排気通路30」は「排気通路」に、「NOx」は「窒素酸化物」に、「NOx触媒33」は「触媒」に、「所定の速度」は「予め定められた速度」に、「排気温センサ」は「温度検出手段」に、「所定の閾値」は「予め定められた温度」に、それぞれ相当する。
また、引用文献に記載された発明における「アイドル状態」は、「内燃機関の自立回転数および軽負荷」である限りにおいて、本願補正発明における「内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷」に相当する。
また、引用文献に記載された発明における「前記検出された回転数および負荷が、前記エンジン11のアイドル状態であり、検出された前記NOx触媒33の温度が所定の閾値よりも高い場合に、前記NOx触媒33におけるNOxの還元する制御を実施するための還元剤供給手段」は、「前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件が成立し、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件が成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行するための還元処理手段」という限りにおいて、本願補正発明における「前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件が成立した後に、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件が成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行するための還元処理手段」に相当する。

してみると、本願補正発明と引用文献に記載された発明は、
「内燃機関と回転電機とを駆動源とする車両の制御装置であって、前記内燃機関は、燃料の燃焼により排出される排出ガスが流通する排気通路と、前記排気通路の途中に設けられ、窒素酸化物を吸蔵する触媒とを含み、前記内燃機関は、前記車両の速度が予め定められた速度以上である場合に、停止が抑制され、
前記触媒の温度を検出するための温度検出手段と、
前記内燃機関の回転数を検出するための回転数検出手段と、
前記内燃機関の負荷を検出するための負荷検出手段と、
前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件が成立し、前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件が成立する場合に、前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行するための還元処理手段とを含む、車両の制御装置。」
である点で一致し、次の(a)及び(b)の点で相違する。
(a)本願補正発明においては、「前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件」が成立した後に、「前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件」が成立する場合に、「前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行する」のに対し、引用文献に記載された発明においては、本願補正発明における「前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件」に相当する「検出された前記NOx触媒33の温度が所定の閾値よりも高い」という条件が成立した後に、本願補正発明における「前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件」に相当する「前記検出された回転数および負荷が、前記エンジン11のアイドル状態である」という条件が成立する場合に、本願補正発明における「前記触媒における窒素酸化物の還元処理を実行する」に相当する「前記NOx触媒33におけるNOxの還元する制御を実施する」点(以下、「相違点1」という。)。
(b)本願補正発明においては、「前記自立回転数領域は、前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって、かつ、前記内燃機関が停止しない回転数の下限値以上で作動を継続している状態に対応する回転数領域である」のに対し、引用文献に記載された発明においては、本願補正発明における「自立回転数領域」に対応する「アイドル状態」が「前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって、かつ、前記内燃機関が停止しない回転数の下限値以上で作動を継続している状態に対応する回転数領域である」であるかどうか明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。


2-1-3.相違点についての検討
(a)相違点1について
本願補正発明において、触媒における窒素酸化物の還元処理を実行するにあたり「前記検出された回転数および負荷が、前記内燃機関の自立回転数領域内の回転数および負荷であるという第1の条件」と、「前記検出された触媒の温度が、前記触媒に吸蔵された窒素酸化物の還元が可能な予め定められた温度以上であるという第2の条件」の成立順序を定めることには格別な技術的意義はなく、前記第1の条件と前記第2の条件のどちらを先に判断するかは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。
してみると、引用文献に記載された発明において、「前記検出された回転数および負荷が、前記エンジン11のアイドル状態である」という条件が成立した後に「検出された前記NOx触媒33の温度が所定の閾値よりも高い」という条件を判断することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

(b)相違点2について
引用文献に記載された発明における「エンジン11」は、「ハイブリッド車両10の速度が所定の速度以上である場合に、停止が抑制され」るものである。また、一般的に「アイドル状態」とは、エンジンが停止しないような回転数で回転を持続している状態であり、しかも、エンジンがエンジンの外部に対して仕事をしていない状態であることは技術常識である。また、引用文献に記載されたものにおいては、ステップS42において、「走行負荷が所定値よりも小さい(軽負荷)か否か」を判断し(段落【0084】を参照。)さらにステップS45において「クラッチ12aを切断し、モータジェネレータ17のみを走行駆動源とするEV走行を実施する(ステップS45)。これにより、エンジン11の負荷を更に減ら」す(段落【0087】を参照。)のであるから、上記「アイドル状態」においては、「予め定められたトルクを発生する回転数以下」であるといえる。
してみると、引用文献に記載された発明における「アイドル状態」は、実質的に「前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって、かつ、前記内燃機関が停止しない回転数の下限値以上で作動を継続している状態に対応する回転数領域である」ということができる。
よって、引用文献に記載された発明において、技術常識を勘案することにより、本願補正発明における「自立回転数領域」に対応する「アイドル状態」を「前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって、かつ、前記内燃機関が停止しない回転数の下限値以上で作動を継続している状態に対応する回転数領域である」と限定することにより、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。

また、本願補正発明は、全体としてみても、引用文献に記載された発明及び技術常識から想定される以上の格別の作用効果を奏するものではない。

以上のように、本願補正発明は、引用文献に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成22年12月27日付け回答書において、「引用例2の発明は、走行中にエンジン11をアイドル状態にするため、エンジン11とMMT12との間に設けられるクラッチ12aが切断されていることが必須の構成要件であります。しかしながら、本願の請求項1に係る発明においては、クラッチを構成要件として列挙されておらず、クラッチは必須の構成要件ではありません。(改行)したがって、本願の請求項1の自立回転数領域は、クラッチを切断していることを前提とするものではないため、引用例2のアイドル状態でクラッチを切断して運転している状態とは異なります。」と主張している。
しかしながら、本願補正発明は、クラッチを発明特定事項としていないから、クラッチを有するものも、クラッチを有しないものも含むと解される。したがって、審判請求人の上記主張は失当である。
なお、クラッチを有しないものにおいても、アイドル状態(本願補正発明における「自立回転数領域」に相当)のもとでNOx吸着触媒のリッチスパイク(本願補正発明における「触媒における窒素酸化物の還元処理」に相当)を行うことは周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2006-307649号公報の請求項1及び図面、特開2006-177306号公報の請求項2及び図面、等の記載を参照。)であるから、仮に審判請求人の主張するように本願補正発明がクラッチを有しないものに限定されるとしても、本願補正発明は、引用文献に記載された発明及び技術常識並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-2.特許法第36条第4項第1号について
(1)本願補正発明は、「前記自立回転数領域は、前記車両の速度が前記予め定められた速度以上であることにより停止が抑制されている前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって、かつ、前記内燃機関が停止しない回転数の下限値以上で作動を継続している状態に対応する回転数領域である」という事項を発明特定事項としている。
ここで、「前記内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下であって」という技術的事項について、どれほどの回転数であれば、「前記内燃機関の外部に仕事をせずに、予め定められたトルクを発生する回転数以下」という状態を実現できるのかについて、発明の詳細な説明において具体的に説明されていない。
したがって、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.まとめ
よって、結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成22年3月18日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]の1.(1)(a)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開2005-351381号公報)の記載事項及び引用文献に記載された発明は、前記第2.の[理由]2.2-1.の(1)ないし(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(1)及び(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.2-1.2-1-1.ないし2-1-3.に記載したとおり、引用文献に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用文献に記載された発明及び技術常識から想定される以上の格別の作用効果を奏するものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された引用文献に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。

5.付言
審判請求人は、平成22年12月27日付け回答書において、「仮に、請求項1に係る発明が独立特許要件を満たさないとご判断される場合には、上記特徴A(審決注;「前記回転電機は、第1の回転電機であって、前記車両は、前記内燃機関の動力に基づいて発電する第2の回転電機と、前記内燃機関および前記第2の回転電機の少なくとも一方の動力を前記車両の車輪軸に伝達する遊星歯車機構とを含み、前記遊星歯車機構には、前記内燃機関の出力軸と、前記第1の回転電機の回転軸と、前記第2の回転電機の回転軸とが接続され、前記遊星歯車機構と前記内燃機関の出力軸とはクラッチを介在させずに接続される」という事項)を請求項1に追加する補正が可能になるような拒絶理由通知書の発行を是非ともお願い申し上げます。」と主張している。(以下、出願人が補正を希望する発明を、「本願補正希望発明」という。)
しかしながら、特許法第50条に規定されているように、第53条第1項の規定による補正の却下をするときには、拒絶の理由を通知することは必要とされていない。
なお、上記特徴Aのごとく「遊星歯車機構と内燃機関の出力軸とはクラッチを介在させずに接続される」ハイブリッド車両において、アイドル状態(本願補正希望発明における「自立回転数領域」に相当)のもとでNOx吸着触媒のリッチスパイク(本願補正希望発明における「触媒における窒素酸化物の還元処理」に相当)を行うことは周知の技術(例えば、特開2006-307649号公報の請求項1及び図面、特開2006-177306号公報の請求項2及び図面、等の記載を参照)であるから、仮に審判請求人の主張する特徴Aを追加したとしても、本願補正希望発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものと認められる。
さらに付言すれば、審判請求人が補正を希望する「前記回転電機は、・・・遊星歯車機構と内燃機関の出力軸とはクラッチを介在させずに接続される」という本願補正希望発明において、どのようにすれば「内燃機関が、前記内燃機関の外部に仕事をせず」という状態にできるのか、本願の発明の詳細な説明を参照しても、明確に把握することができない。
 
審理終結日 2011-03-04 
結審通知日 2011-03-08 
審決日 2011-03-22 
出願番号 特願2008-128665(P2008-128665)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司加藤 啓  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 柳田 利夫
金澤 俊郎
発明の名称 車両の制御装置および制御方法  
代理人 堀井 豊  
代理人 森田 俊雄  
代理人 深見 久郎  
代理人 荒川 伸夫  

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