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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1236794
審判番号 不服2008-7305  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-25 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2004- 32757「小麦食品」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月18日出願公開、特開2005-218418〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年2月9日の出願であって、平成19年10月12日付けの拒絶理由通知に対して、平成19年12月14日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成20年2月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成20年3月25日に審判請求がされ、平成20年6月12日に審判請求書の手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?2に係る発明は、平成19年12月14日付け手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「小麦全粒粉を含む粉体からなる麺状物であって、調味液を浸透させ、フライにして、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片に裁断したことを特徴とする小麦食品」

第3 原査定の理由
原査定における拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

刊行物1:特開平3-72852号公報(原査定における引用文献1)
刊行物2:特開昭61-280242号公報(同引用文献2)
刊行物3:特開昭55-150869号公報(同引用文献3)

第4 刊行物の記載事項
1 刊行物1に記載された事項
(1-a)「(1)製粉工程で小麦を挽砕して得られた全ストックを、胚乳部、胚芽部、ふすま(審決注:原文は「ばくにょうに皮」の漢字一字である。刊行物1の記載においては、以下同様。)部とに分離し、前記ふすま部について粉砕して小ふすまとし、水洗後乾燥せしめてフィチン酸を減衰せしめた機能性改善ふすま部の100g当り1?3g相当量のカルシウム粉末を添加して得た改良ふすま部18?20部、胚芽部2部および胚乳部78?80部を原料とし、機能性を改善せしめることを特徴とする小麦全粒成分を有し、機能性の改善をもたらす食味佳良な全小麦食品の製造方法。
(2)前記機能性を改善せしめた小麦全粒成分を有する原料を使用し、該原料に着味性を付与せしめた捏水30?45%を加え混捏して生成された生地を、後続する公知の製麺ロール機を経て切刃ロールにて所望の麺厚の麺帯とし、また麺状食品の場合には所望の麺線状となし、引続き蒸機にて加湿加熱後、所望の形状にカッティングし、130?160℃の加熱食用油脂にて油揚げし、冷却、計量、包装を経ることを特徴とする機能性の改善をもたらす食味佳良なフレーク状及び麺状の即席小麦食品の製造方法。」(特許請求の範囲第1項、第2項)

(1-b)「○3(審決注:「○3」は「丸付き数字の3」の意味。以下同様。) 小麦の外皮(ふすま(審決注:当該「ふすま」は平仮名である。)。ふすま)は、前項で述べたとおり、マイナス要因であるフィチン酸が存在する。
このフィチン酸は、消化されないため栄養上利用されないことに加えて、食品中のカルシウム、鉄などの有用なミネラルと結合し、吸収不可能なために成長阻害の虞がある。」(5頁左上欄19行?右上欄5行)

(1-c)「○8 本発明は、この第二次機能を全うするための手段として、改良ふすま(ふすま部を粉砕して小ふすまとし水洗後乾燥せしめ、このふすま部の100g当り1?3g相当量のカルシウム粉末を添加したものを言う。)を18?20部(ふすま部は小麦全粒に対し18?20%存在する)、胚芽部を2部(胚芽部は小麦全粒に対し約2%存在する)、胚乳部を78?80部(胚乳部は小麦全粒に対し約78?80%存在する)をもって、例えば、フレーク状、席小麦食品を製造する場合を挙げて説明すれば、ミキサーにて混合したる後、着味性捏水(着味はコンソメ風、ポタージュ風など、時好、季節などに合致した着味にすることが望ましい。)を33?45%を加え混捏して生成された生地を、後続する数段のロール式転圧機(製麺ロール機に準ずる。)を経て、任意の厚さ(平均的には、約1mm)の帯状生地となし、次に、この帯状生地を加湿蒸気を吹き付け得る蒸機を経たる後、該生地を無駄なく使用するため、所望の任意形状のもとに、隙間を生じないよう分離すべく、ジグゾー・カッターによりカッティング(例えば、扁平状の菱形、小麦粒の断面状の形など)する。なお、前記ジグゾー・カッターは、切り抜きはめ絵のジグゾーパズルのごとく、帯状生地をカッティングするものである。かくして得た前記生地の個々の切片について、130?160℃の加熱食用油脂にて油揚げし、冷却、計量、包装を経ることにより、小麦全粒成分を含有し、かつふすま部に多いフィチン酸を減少せしめ、しかもリンとカルシウムとのバランスも良好な状態とする本発明を得たものである。」(6頁右上欄10行?左下欄19行)

(1-d)「○3 以下、本発明による具体的な喫食方法と、調理時間を例示すると、
1)ボール皿に、本発明により得られた実施品「健やか三昧!オールホィート・フレーク。ポタージュ味〔商品名〕。(以下、本発明実施品という。)」を100g程度入れる。
(所要時間 約2秒)
2)水をフレークが隠れる程度に注ぐ。
(所要時間 約2秒)
3)以上、最低4秒ほどでスプーンを使い喫食できる。
4)好みにより、ホット・スタイルを好む場合は、熱湯を注ぐか、前記2)の状態を電子レンジにて、約15秒加熱すれば良い。
○4 前記の○3 調理実施例のごとく、わずか数秒で喫食でき、かつコンソメ風、ポタージュ風等、生地混捏時に、消費者の嗜好にマッチした調味液材を選定することにより、バラエティに富んだ美味しい機能性食品がバランスを良く、第一次・第二次・第三次たるすべての機能性効果を充足し、しかも極めて短時間で美味に喫食できる点において、その効果は極めて顕著である。」(7頁左上欄2行?右上欄3行)

2 刊行物2に記載された事項
(2-a)「(1)原料粉を原料粉および水の重量を規準にして15?33重量%の水と混合してドウを形成し、ドウシートを得るために少なくとも3個の重なるノズルを備えたパスタダイにそのドウを押し出し、そして押し出した重なるドウシートを1枚のドウシートに圧縮し、次に切断して所望のパスタ形に成形することを特徴とする、パスタの製造法。
(10)形成パスタは蒸気処理およびフライしてインスタントパスタを得る、特許請求の範囲第1項記載の方法。」(特許請求の範囲第1項、第10項)

(2-b)「本発明方法はあらゆる種類のパスタの製造に適し、原料粉、例えばセモリナ小麦、デユーラム小麦、全粒小麦粉、トウモロコシ粉、α-化トウモロコシ粉、米粉、ワキシー米粉、予備加熱米粉、馬鈴薯粉、予備加熱馬鈴薯粉(ポテトフレーク)、レンズ豆粉、エンドウ豆粉、大豆粉、穀粉、白色および赤色豆粉(インゲン豆およびブチのウズラ豆)、ムング(Mung)豆粉、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、エンドウ豆澱粉などを使用することができる。」(2頁左下欄20行?右下欄9行)

(2-c)「例1
94.5部のデユーラム小麦粉を5.5部の全卵粉末と予備混合し、次に35部の水に徐々に混合し、15分間混合した。ドウ混合物は6枚の重なるドウシートに通例のパスタ押し出し機で押し出し、次にロールにかけて0.94m厚さの1枚のシートに圧縮し、その後スリットを通し、5mm幅および5cm長さのヌードルに切断する。ヌードルは8時間50℃で80?85%湿度のパスタ乾燥機で乾燥し、乾燥後最終水分含量は9?11%で、乾燥パスタの厚さは0.91mmであった。ヌードルは固く、弾力があつた。」(3頁右下欄12行?4頁左上欄3行)

3 刊行物3に記載された事項
(3-a)「(1)塩分、アミノ酸、糖類、醤油、化学調味料その他の調味料と、昆布、かつを節、鳥獣肉その他の自然だしと、ジンジヤー、ガーリツクその他の香辛料とのうちから任意に選ばれた少くとも二以上を含む味付け液を付着させ、または混入させた麺が、油揚げして乾燥され且つ見掛けの長さが平均5cm以下に切断又は折断されると共に、紙製又は合成樹脂製の防水容器によって包装されてなる即席麺。」(特許請求の範囲第1項)

(3-b)「本発明は箸等を使用しなくても、スプーン等で容易に食することができると共に湯で戻す時間が早く、また湯で戻すことなく、そのまま摘まみまたは菓子のごとく食するにも便利な味付けした即席麺に関する。」(1頁右欄2?6行)

(3-c)「本発明は、従来の即席麺が長い麺条を圧縮成形して大形の固形物としているのに対し、麺条を短く分離したものとし、麺自体に味付けする等によつて、湯を注いで戻す場合の所要時間が短縮され、また食する際には特に箸等を使用しなくても、スプーン等のみで麺もスープも容易に食することが可能であり」(2頁右上欄4?10行)

(3-d)「麺条の長さを5cm以下に切断又は折断する工程は特に指定しないが、例えば麺条に切り出す際に切断するか、又は麺条のまま。蒸熱し、油揚げ乾燥後に切断又は折断するかのいづれでもよい。」(2頁右下欄18行?3頁左上欄2行)

(3-e)「実施例として中華即席麺の場合の一例を次に述べる。
小麦粉等の原料に約2%(以下すべて重量%とする。)の食塩水を適宜量例えば小麦粉の約30%を徐々に加えて充分混練する。この際に所望により鶏卵、植物油脂例えばごま油等を添加しても差支えない。若干時間例えば10乃至30分程度熟成した後に常法により圧延して、切り出しを行ない、厚み約0.5mm、巾約3mm程度の麺条とし、切り出し速度とほぼ一致する速度を有するコンベヤー上を移動させつつ、80℃乃至150℃で2分乃至3分間蒸熱して麺条をアルフアー化し、次に濃縮した味付け液を噴霧するか、または数秒以内例えば2秒程度浸漬し、次いで動物油と植物油との混合油例えばラード70%とごま油30%中において、140℃乃至160℃で約2分間油揚げ乾燥し、ついで第3図に示すように見掛けの長さ5cm以下例えば約4cmに切断して麺条片1とし、第4図に示すようにこの麺条片1を揃えることなく嵩の大きいまま、防水容器2にかやく3と共に包装し、密封する。」(3頁右上欄17行?左下欄18行)

(3-f)「前記の実施例においては、味付け液を麺の混練工程以後で、噴霧、浸漬等によつて付着させたが、混練の際に麺に練込んで味付けしてもほぼ同様の結果が得られる。」(3頁右下欄12?15行)

第5 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「機能性を改善せしめた小麦全粒成分を有する原料を使用し、・・・機能性の改善をもたらす食味佳良なフレーク状及び麺状の即席小麦食品の製造方法」(摘示(1-a)の(2))と記載されているから、ここに記載された小麦食品とは、「機能改善された小麦全粒成分を原料としたもの」といえる。
そして、さらに詳しくは、
「改良ふすま(・・・)を18?20部・・・、胚芽部を2部(・・・)、胚乳部を78?80部(・・・)をもって、例えば、フレーク状、席小麦食品を製造する場合を挙げて説明すれば、ミキサーにて混合したる後、着味性捏水(着味はコンソメ風、ポタージュ風など、・・・)を33?45%を加え混捏して生成された生地を、後続する数段のロール式転圧機(・・・)を経て、任意の厚さ(平均的には、約1mm)の帯状生地となし、次に、この帯状生地を加湿蒸気を吹き付け得る蒸機を経たる後、該生地を無駄なく使用するため、所望の任意形状のもとに、隙間を生じないよう分離すべく、ジグゾー・カッターによりカッティング(例えば、扁平状の菱形、小麦粒の断面状の形など)する。・・・かくして得た前記生地の個々の切片について、130?160℃の加熱食用油脂にて油揚げし、冷却、計量、包装を経ることにより、小麦全粒成分を含有し、かつふすま部に多いフィチン酸を減少せしめ、しかもリンとカルシウムとのバランスも良好な状態とする本発明を得たものである。」(摘示(1-c))と記載されているので、ここに記載された「小麦食品」について検討する。

上記摘示(1-c)において、
「ミキサーにて混合したる」ものは、その成分は、「改良ふすま(・・・)を18?20部・・・、胚芽部を2部(・・・)、胚乳部」であるから「機能改善された小麦全粒成分を原料としたもの」であり、その形状は「製粉工程で小麦を挽砕して得られ」(摘示(1-a)の(1))るから、粉体といえ、すなわち、上記「ミキサーにて混合したる」ものは、「機能改善された小麦全粒成分を原料とした粉体」といえる。
さらに、同摘示(1-c)において、
「着味性捏水(着味はコンソメ風、ポタージュ風など、・・・)を33?45%を加え混捏して生成された」は、「着味性捏水」で味を付けているのであるから「味付け工程」であり、「この帯状生地を加湿蒸気を吹き付け得る蒸機を経たる」は「蒸熱工程」といえ、「ジグゾー・カッターによりカッティング・・・する。」は「裁断工程」であり、「130?160℃の加熱食用油脂にて油揚げし」は「フライ工程」である。

刊行物1には、このようにして製造した「小麦製品」の喫食方法として、
「本発明による具体的な喫食方法と、調理時間を例示すると、
1)ボール皿に、本発明により得られた実施品「・・・」を100g程度入れる。
(所要時間 約2秒)
2)水をフレークが隠れる程度に注ぐ。
(所要時間 約2秒)
3)以上、最低4秒ほどでスプーンを使い喫食できる。
4)好みにより、ホット・スタイルを好む場合は、熱湯を注ぐか、前記2)の状態を電子レンジにて、約15秒加熱すれば良い。」(摘示(1-d))と記載され、「ホット・スタイル」の場合の喫食方法は、
「ボール皿に、小麦食品を入れ、熱湯を小麦食品が隠れる程度に注ぎ、スプーンを使い喫食できる。」となるから、この喫食方法における小麦食品の形態、すなわち、「湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの破片に裁断されている形態」を考慮して、刊行物1に記載された小麦食品をみると、該小麦食品は、
「機能改善された小麦全粒成分を原料とした粉体に着味性捏水を加えて混捏して(味付け工程)生成された生地を帯状生地となし、この帯状生地を加湿蒸気を吹き付け得る蒸機を経たる(蒸熱工程)後、ジグゾー・カッターにより、例えば、扁平状の菱形にカッティングし(裁断工程)、個々の切片について、油揚げし(フライ工程)、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの破片に裁断されている形態の小麦食品」
といえる。

したがって、刊行物1には、上記の「機能改善・・・小麦食品」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

第6 対比
本願発明と引用発明とを対比するにあたり、まず、本願発明について検討する。

本願発明は、
「小麦全粒粉を含む粉体からなる麺状物であって、調味液を浸透させ、フライにして、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片に裁断したことを特徴とする小麦食品」であるところ、この記載では「麺状物であって」という事項と「調味液を浸透させ」、「フライにして」、「湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片に裁断した」という事項との関係、及び「湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片に裁断した」との意味が必ずしも明らかではないので、本願明細書の記載をみる。

本願明細書の段落【0022】には、
「次に、本願小麦食品1の製造手順を、図5に基づいて説明する。まず、小麦表皮4及び胚芽が入っている粉体5を用意する(ステップa)。これを攪拌容器(図示せず)内に投入し、食塩水を添加して攪拌して生地6を得る(ステップb)。この生地6を0.9mm厚に圧延した後、1.5mm幅の麺線7に切り出す(ステップc)。該麺線7をガイドローラ13、13′間で、調味液収容容器14内の調味液15に浸漬して味付けをする(ステップd)。しかる後、ガイドローラ16、16′間でフライヤー17内の加熱された油18に通して麺線7をフライにして麺状物2を作る(ステップe)。その後、裁断機19によって前記麺状物2を、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさ(1.5mm前後)の砕片3に切断する(ステップf)。その後、大袋(図示せず)に収容するか、適量(1食分)を小袋に入れて密封しそのまま或いは数袋を箱又は大袋へ入れて出荷される。さらに、適量(1食分)をカップ(容器)に入れて密封して出荷されるケースもある。」と記載されており、ここで、
「小麦表皮4及び胚芽が入っている粉体5を用意する(ステップa)。これを攪拌容器(図示せず)内に投入し、食塩水を添加して攪拌して生地6を得る(ステップb)。この生地6を0.9mm厚に圧延した後、1.5mm幅の麺線7に切り出す(ステップc)」工程は、「小麦全粒粉を含む粉体からなる麺状物」とする工程であり、
「該麺線7をガイドローラ13、13′間で、調味液収容容器14内の調味液15に浸漬して味付けをする(ステップd)」工程は、「調味液を浸透させる、味付け工程」であり、
「しかる後、ガイドローラ16、16′間でフライヤー17内の加熱された油18に通して麺線7をフライにして麺状物2を作る(ステップe)」工程は、「フライにするフライ工程」であり、
「その後、裁断機19によって前記麺状物2を、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさ(1.5mm前後)の砕片3に切断する(ステップf)」工程は、「裁断工程」である、といえ、その後、大袋や小袋等に入れることからすると、「(ステップf)」まで終了したものは、「小麦食品」といえる。
そうすると、本願明細書の段落【0022】には、
「小麦全粒粉を含む粉体からなる麺状物に、調味液を浸透させ(味付け工程)、フライにして(フライ工程)、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片に裁断した(裁断工程)ことにより、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片の形態である小麦食品」
について記載されており、該小麦食品が本願発明のひとつの態様であることは明らかであるので、この態様を「本願発明A」といい、本願発明Aと引用発明とを対比する。
両者ともに、小麦全粒成分を原料としているから、両者は、
「小麦全粒成分を原料とした粉体からなる物に、味付け工程、フライ工程、裁断工程を加え、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片の形態である小麦食品」
で一致し、次の(ア)?(エ)の点で相違する。

(ア)「小麦全粒粉を原料とした粉体」が、本願発明Aでは、「機能改善されていない」のに対し、引用発明では、「機能改善された」ものである点
(イ)「味付け工程」が、本願発明Aでは、「麺状物に、調味液を浸透」するのに対し、引用発明では、「着味性捏水を加えて混捏して生成」する点
(ウ)引用発明では、「蒸熱工程」があるのに対し、本願発明Aでは、該工程を発明を特定する事項とはしていない点
(エ)「湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片の形態」にするのに、本願発明Aでは、「麺状物」を「フライにして(フライ工程)、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片に裁断した(裁断工程)こと」、すなわち、「麺状物」を「フライ工程、裁断工程」の順序で処理しているのに対し、引用発明では、「帯状生地を加湿蒸気を吹き付け得る蒸機を経たる(蒸熱工程)後」、「ジグゾー・カッターにより、例えば、扁平状の菱形にカッティングし(裁断工程)、個々の切片について、油揚げし(フライ工程)」、すなわち、「帯状物」を「裁断工程、フライ工程」の順序で処理している点

第7 判断
(1)相違点(ア)について
引用発明に係る「機能改善された小麦全粒粉を原料とした粉体」について、刊行物1には、
「(1)製粉工程で小麦を挽砕して得られた全ストックを、胚乳部、胚芽部、ふすま部とに分離し、前記ふすま部について粉砕して小ふすまとし、水洗後乾燥せしめてフィチン酸を減衰せしめた機能性改善ふすま部の100g当り1?3g相当量のカルシウム粉末を添加して得た改良ふすま部18?20部、胚芽部2部および胚乳部78?80部を原料とし、機能性を改善せしめることを特徴とする小麦全粒成分を有し、機能性の改善をもたらす食味佳良な全小麦食品の製造方法。」(摘示(1-a))と記載されているから、普通の小麦全粒粉から「フィチン酸」を除いて、これにカルシウム粉末が添加されているものといえるところ、フィチン酸は、
「・・・マイナス要因であるフィチン酸が存在する。このフィチン酸は、消化されないため栄養上利用されないことに加えて、食品中のカルシウム、鉄などの有用なミネラルと結合し、吸収不可能なために成長阻害の虞がある。」(摘示(1-b))の記載によると、栄養上問題があるために除かれるのであって、これが存在しないことによって、小麦全粒粉の物性が変化することはないと解される。また、カルシウム粉末が添加されたからといって、同様に、小麦全粒粉の物性が変化することはないと解される。
そして、刊行物2には、
「本発明方法はあらゆる種類のパスタの製造に適し、原料粉、例えば・・・、全粒小麦粉・・・などを使用することができる。」(摘示(2-b))と記載され、全粒小麦粉も使用することができることが知られているのであるから、「機能改善された」ものに代えて、普通の「機能改善されていない」ものを用いることは、当業者にとって格別困難なことではない。
したがって、引用発明において、「小麦全粒粉を原料とした粉体」として、「機能改善されていない」ものを用いることは当業者が適宜なし得るところといえる。

(2)相違点(イ)について
刊行物3には、麺の味付け工程に関し、
「前記の実施例においては、味付け液を麺の混練工程以後で、噴霧、浸漬等によつて付着させたが、混練の際に麺に練込んで味付けしてもほぼ同様の結果が得られる。」(摘示(3-f))と記載されているから、引用発明に係る「着味性捏水を加えて混捏して生成」するのに代えて、同様の結果が得られる「麺状物に、調味液を浸透」する方法を採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、引用発明において、「味付け工程」を、「麺状物に、調味液を浸透」させるとすることは、当業者にとって容易である。

(3)相違点(ウ)について
刊行物3に記載された「即席麺」(摘示(3-a))においても、「実施例」の「一例」としては「蒸熱して麺条をアルフアー化し」ている(摘示(3-e))が、これを発明を特定する事項としてはいない(摘示(3-a))。
そうすると、「蒸熱工程」は必要に応じて適宜採用するものといえ、これを発明を特定する事項とするか否かは、当業者が適宜決めうる程度のものといえる。
したがって、引用発明において、「蒸熱工程」を発明を特定する事項とはしないことは、当業者が適宜なし得るものである。

(4)相違点(エ)について
刊行物3には、引用発明と同様に、「スプーン等で容易に食することができると共に湯で戻す時間が早く、また湯で戻すことなく、そのまま摘まみまたは菓子のごとく食するにも便利な味付けした即席麺」(摘示(3-b))について記載されるところ、
「麺条の長さを5cm以下に切断又は折断する工程は特に指定しないが、例えば麺条に切り出す際に切断するか、又は麺条のまま。蒸熱し、油揚げ乾燥後に切断又は折断するかのいづれでもよい。」(摘示(3-d))と説明され、さらに、刊行物3には、
「小麦粉等の原料に約2%(・・)の食塩水を適宜量例えば小麦粉の約30%を徐々に加えて充分混練する。・・・若干時間例えば10乃至30分程度熟成した後に常法により圧延して、切り出しを行ない、厚み約0.5mm、巾約3mm程度の麺条とし、切り出し速度とほぼ一致する速度を有するコンベヤー上を移動させつつ、・・・次に濃縮した味付け液・・・数秒以内例えば2秒程度浸漬し、次いで動物油と植物油との混合油例えばラード70%とごま油30%中において、140℃乃至160℃で約2分間油揚げ乾燥し、ついで・・・見掛けの長さ5cm以下例えば約4cmに切断して麺条片1とし、・・・包装し、密封する。」(摘示(3-e))とあり、ここには、小麦粉を混練し、麺条とし、味付け液に浸漬し(味付け工程)、油揚げ(フライ工程)乾燥し、切断して麺条片とする(裁断工程)こと、すなわち、「フライ工程、裁断工程」の順序で調製することが記載されている。
そうすると、引用発明に係る「カッティングし(裁断工程)、個々の切片について、油揚げし(フライ工程)」のように「裁断工程、フライ工程」の順序としても、「フライにして(フライ工程)、砕片に裁断した(裁断工程)こと」のように「フライ工程、裁断工程」の順序にしても、同様に「便利な味付けした即席麺」が得られるといえる。
また、両者ともに最終的には「湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片の形態」となるのであるから、途中の工程において「麺状物」とするか「帯状物」とするかは、当業者が適宜設計すれば足ることといえる。
したがって、引用発明において、「湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片の形態」にするのに、「麺状物」を「フライ工程、裁断工程」の順序で処理することは、当業者が適宜なし得るところといえる。

(5)本願発明Aの効果について
本願発明Aの効果は、本願明細書によると、
「本発明に係る小麦食品は、小麦全粒粉を含む粉体からなる麺状物であって、調味液を浸透さ、フライにして、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片に裁断したことを特徴としているから、(1)裁断された砕片からなる麺状物は、麺が茶色化したり表面がザラザラしていても体裁の悪さが気にならないし、(2)表面に露出している小麦の表皮や胚芽の部分が粗面を作り、これが却ってスポンジ風の役目をして調味液を芯部まで深く浸透させることから、湯に浸漬させると、浸透していた調味液が湯中に濃く溶出することとなる。したがって、(3)湯とともにスプーン(又はレンゲ)で掬うことによってスープ風に食べられる。しかもスープの味が出て、歯ごたえをもって食べることが可能となる。さらに、(4)味付けしてフライした麺状物は、前述した「ふすま臭」がほぼ完全に消失し気にならなくなるから、(5)小麦全粒粉を含む栄養価の高い美味しい小麦食品を一般に広く提供できるという優れた効果を奏するものである。」(段落【0007】)である。(審決注:(1)?(5)の番号は当審で付与した。)

上記効果(1)は、スプーンで掬える大きさの砕片に裁断したことの効果であって、引用発明においても、スプーンで掬える大きさの砕片に裁断されているのであるから、引用発明においても当然に奏されている効果である。
上記効果(2)は、小麦の表皮や胚芽の部分が、表面に露出し且つ相当の面積を有して初めて奏される効果といえるところ、本願発明Aは、小麦の表皮や胚芽の部分が細かく粉砕されている場合も包含するから、必ずしもこの効果を奏するものとはいえない。
上記効果(3)及び(5)は、刊行物1の摘示(1-d)の「○4」に記載されている効果と実質的に変わらず、また、効果(4)は、引用発明においても「フライ工程」を実施するものであるから、当然に奏されている効果であって、当業者が容易に気付く程度のものである。
したがって、本願発明Aの効果は、刊行物1?3に記載された事項から当業者が予測をし得る程度のものである。

(6)小括
以上のとおり、本願発明Aは、本願出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明Aを包含する本願発明は、同様の理由により、本願出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第8 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の手続補正書において次のように主張している。
「(1)全粒粉を麺の原料とする点には特徴を認めない、とした点。
本願発明は、全粒粉を麺の原料とするが、引用文献1の如く、ふすま部を分離せず、むしろ、ふすま部である小麦の表皮の部分が麺の表面に露出するようにしているものである。これは、調味液を麺に良く付着させるための工夫であり、引用文献1及び引用文献2のように、何の工夫も無く、全粒粉をそのまま原料粉としているものではない。
(2)製麺後に、調味液を浸漬させることは当業者が容易に想到できたと認められる、とした点。
調味液を原料に混入する手段(「混入法」)と、麺に浸漬によって付与させる手段(「浸漬法」)があり、どちらの手段も同様に行いうることが、引例文献3に記載されているが、「混入法」はグルテンの形成が阻害され繋がりが悪くなってボソボソした食感の悪い生地になる一方、「浸漬法」はグルテンの形成が阻害されることがなく食感の良い製品となる。すなわち、どちらの手段も同様ではなく、明らかに「浸漬法」の方が優れていることが判る。
本願発明は、製麺後に「調味液に浸透させ」て食感の良い製品を作ることは勿論であるが、「調味した」後に「フライ」にするという工程を経ることで、ふすま部が邪魔にならないようにしている。つまり、調味液に浸透させ、フライにすることにより、初めて「調味料のうまみ」や「メイラード反応(糖・アミノ酸反応)によるうまみ」も付与される訳であり、そのような「うまみ」を醸成している。これに対し、引用文献1には「麺状食品の場合…フライにする工程」が存在するとしても、「調味し、フライにする工程」はないと言える。また、引用文献2にも「フライ」前に「着味」をするとの記載はない。
(3)調味料によるふすま臭のマスキング効果について、混入法は浸漬法と同等かそれ以上である、とした点。
本願発明は、浸漬法による味付け後にフライにする工程を経ることで「ふすま臭」をマスキングしている。混入法にしても、また、浸漬法にしても調味料だけでは、ふすま臭のマスキングはできない。ここにマスキングするということは、「良好な風味を強くし、より美味しく食べ易い製品にする」ことであり、引用文献1?3にはこのことについての記載も示唆もない。
(4)本願発明は、小麦全粒粉を含む粉体からなる麺状物を、調味液に浸漬させ、フライにした後、砕片に裁断する点についても大きな特徴がある。
本願発明の『砕片』は、「湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬える大きさの砕片」にすることである。すなわち、本願製品は、湯に浸漬し湯とともにスプーンで掬ってスープ風に食べるときに、麺に付着していた調味液が湯中に濃く溶出して美味しくなる。
引用文献3にも「平均5cm以下」とする記載があるし、即席麺をスプーンで食するために砕片にする旨の記載はあるが、引用文献3の場合は、単に、即席麺が、湯に漬けてスプーンで食することができるだけで、スープまで美味しく食することはできない。
また、引用文献3には、本願発明の如く、裁断された砕片(麺状物)が、「ふすま」の混入により麺が多少茶色化したり表面がザラザラしていても体裁の悪さが気にならないこと、表面に露出している小麦の表皮や胚芽等のふすま部分が粗面を作り、これが却ってスポンジ風の役目をして調味液を芯部まで深く浸透させること等の表現がない以上、小麦全粒粉を含む粉体からなる麺状物を粉砕するという思想はないものと考える。元の審査官殿にはこの辺が考慮されていないものと考える。」

上記の主張を検討する。
(1)の主張に対して
刊行物1には、
「本発明は、この第二次機能を全うするための手段として、改良ふすま(ふすま部を粉砕して小ふすまとし水洗後乾燥せしめ、このふすま部の100g当り1?3g相当量のカルシウム粉末を添加したものを言う。)を18?20部(ふすま部は小麦全粒に対し18?20%存在する)、胚芽部を2部(胚芽部は小麦全粒に対し約2%存在する)、胚乳部を78?80部(胚乳部は小麦全粒に対し約78?80%存在する)をもって」使用している。すなわち、改良ふすま、胚芽部及び胚乳部の使用量は、それぞれ元の「小麦全粒」の含有量に対応しているから、全粒粉をそのまま原料分としていることと大差はない。
「ふすま部である小麦の表皮の部分が麺の表面に露出するようにしているものである。」という主張に関しては、「第7(5)」の「効果(2)」についての箇所で述べたとおりである。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(2)の主張に対して
刊行物3には、
「前記の実施例においては、味付け液を麺の混練工程以後で、噴霧、浸漬等によつて付着させたが、混練の際に麺に練込んで味付けしてもほぼ同様の結果が得られる。」(摘示(3-f))との記載があり、「ほぼ同様の結果が得られる。」ことに反する合理的な理由はなく、「混入法」が、「浸透法」に比べて大きく結果が異なるほどに「グルテンの形成が阻害」されるのかも不明であるから、上記請求人の主張は採用できない。

(3)の主張に対して
「第7(5)」の「効果(4)」についての箇所で述べたとおりである。

(4)の主張に対して
請求人は、「引用文献3の場合は、単に、即席麺が、湯に漬けてスプーンで食することができるだけで、スープまで美味しく食することはできない。」と主張している。しかし、刊行物3には、
「・・・麺自体に味付けする等によつて、湯を注いで戻す場合の所要時間が短縮され、また食する際には特に箸等を使用しなくても、スプーン等のみで麺もスープも容易に食することが可能であり」(摘示(3-c))との記載があり、この記載によると、麺自体に調味されているから、湯を注ぐと湯に味が出ておいしいスープになることは明らかである。
そうすると、上記請求人の主張は、請求人の独自の見解に基づくものであって採用できない。

第9 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願に係る他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-08 
結審通知日 2011-03-16 
審決日 2011-03-29 
出願番号 特願2004-32757(P2004-32757)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 松本 直子
木村 敏康
発明の名称 小麦食品  
代理人 羽村 行弘  

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