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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1236796 |
審判番号 | 不服2008-8862 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-04-10 |
確定日 | 2011-05-12 |
事件の表示 | 平成11年特許願第147152号「高比重プラスチック組成物とその製造方法及び高比重プラスチック組成物を用いた小形高重量成形体並びに慣性体」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月 5日出願公開、特開2000-336280〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成11年5月26日の特許出願であって、平成19年10月12日付けで拒絶理由が通知され、同年12月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年3月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同年5月8日付けで手続補正書及び審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年6月12日付けで前置報告がなされ、当審において平成22年8月16日付けで審尋がなされ、それに対して同年10月14日に回答書が提出されたものである。 第2.平成20年5月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成20年5月8日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 平成20年5月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成19年12月25日付けの手続補正書により補正された明細書における特許請求の範囲について、 「【請求項1】 全体に対する混合割合が85?96重量%であって、プラスチック粉末とその粒径が1?20μmであるチタネート系カップリング剤で表面処理されるタングステン粉末とを含む混合物を、スクリュー式の射出成形機で直接射出することを特徴とする高比重プラスチック組成物の製造方法。 【請求項2】 全体に対する混合割合が85?96重量%であって、プラスチック粉末とその粒径が1?20μmであるチタネート系カップリング剤で表面処理されるタングステン粉末とを含む混合物を、スクリューフライト頂上とシリンダー内壁との間にずり剪断が生じるような混練り機構を備えたスクリュー式の射出成形機で直接射出することを特徴とする高比重プラスチック組成物の製造方法。」 との記載を 「【請求項1】 金属粉末とプラスチックを含む高比重プラスチック組成物の製造方法において、 粒径が1?20μmであるタングステン粉末に、チタネート系カップリング剤溶液を加えて攪拌して、表面処理済みタングステン粉末を作製する工程と、 前記表面処理済みタングステン粉末と、プラスチック粉末と、可塑剤と、造核剤とを含む混合粉末であって前記混合粉末に対するタングステンの割合が85?96重量%である混合粉末を、スクリューフライト頂上とシリンダー内壁との間にずり剪断が生じる混練り機構を備えたスクリューインライン式の射出成形機に入れ混練りして、直接射出成形することにより、比重が9以上の高比重プラスチック組成物を作製する工程と、 を備えることを特徴とする高比重プラスチック組成物の製造方法。」 とする補正事項を含むものである。 (2)本件補正の目的の適否について 本件補正は、以下の補正事項を含むものである。 イ)補正前の請求項1を削除し、請求項2を繰り上げて、新たに請求項1とする補正事項 ロ)補正後の請求項1において、「粒径が1?20μmであるタングステン粉末に、チタネート系カップリング剤溶液を加えて攪拌して、表面処理済みタングステン粉末を作製する工程」を追加する補正事項 ハ)補正前の請求項2における「プラスチック粉末とその粒径が1?20μmであるチタネート系カップリング剤で表面処理されるタングステン粉末とを含む混合物」から、「前記表面処理済みタングステン粉末と、プラスチック粉末と、可塑剤と、造核剤とを含む混合粉末」とする補正事項 ニ)補正前の請求項2における「スクリュー式の射出成形機」から、「スクリューインライン式の射出成形機」とする補正事項 ホ)補正後の請求項1において「高比重プラスチック組成物」の「比重が9以上」であることを追加する補正事項 補正事項イ)は請求項を削除するものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 補正事項ロ)は、高比重プラスチック組成物の製造方法において、「タングステン粉末に、チタネート系カップリング剤溶液を加えて攪拌して、表面処理済みタングステン粉末を作製する工程」を追加するものであるが、補正前の請求項1?2においては「チタネート系カップリング剤で表面処理されるタングステン粉末」を用いることが規定されているのみであって、表面処理済みタングステン粉末を作製する工程を組成物製造工程と別に設けることや、表面処理を「タングステン粉末に、チタネート系カップリング剤溶液を加えて攪拌」することにより行うことについては何ら特定されていないから、上記工程を追加する補正事項ロ)は、補正前の請求項2において発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)を限定するものではない。 したがって、補正事項ロ)は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものであるとはいえず、さらに、補正事項ロ)は、請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものにも該当しない。 よって、補正事項ロ)は、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。 補正事項ハ)は「プラスチック粉末とその粒径が1?20μmであるチタネート系カップリング剤で表面処理されるタングステン粉末とを含む混合物」が、更に「可塑剤」及び「造核剤」を含むものであることを特定するものである。補正前の請求項1?2においては混合物が可塑剤及び造核剤を含むことについて何ら特定されていないものの、上記可塑剤及び造核剤は熱可塑性樹脂組成物の加工性や物性を向上させるために必要に応じて添加される汎用成分に過ぎないから、補正事項ハ)は、補正前の請求項2において、発明特定事項を限定するものと認められる。 よって、補正事項ハ)は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 補正事項ニ)は、「スクリュー式の射出成形機」を「スクリューインライン式の射出成形機」へと更に限定するものであり、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 補正事項ホ)は、補正前の請求項2における「高比重プラスチック組成物」の比重を「9以上」としその下限値を特定するものであって、「高比重」との規定を「比重が9以上」と限定するものであるといえるから、補正事項ニ)は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3)むすび 以上のとおりであるから、補正事項ロ)を含む特許請求の範囲の補正は、請求項の削除を目的とする補正、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正、誤記の訂正を目的とする補正、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正、のいずれにも該当するものではないから、補正事項ロ)を含む本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 (4)独立特許要件について 上記のとおり、補正事項ロ)を含む特許請求の範囲の補正は、請求項の削除を目的とする補正、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正、誤記の訂正を目的とする補正、明りょうでない記載の釈明を目的とする補正、のいずれにも該当するものではないが、仮に、補正事項ロ)が特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとした場合に、本件補正後の発明が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する補正であるか否か(いわゆる独立特許要件)について、念のため以下に検討しておく。 (4)-1.本願補正発明 本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、平成20年5月8日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、「本願補正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、上記の(1)に記載したとおりのものである。 (4)-2.引用刊行物記載の事項 <引用刊行物一覧> 刊行物A:特開平7-33905号公報 (平成19年10月12日付け拒絶理由通知書における引用文献1) 刊行物B:特公昭56-47847号公報 (平成19年10月12日付け拒絶理由通知書における引用文献7) [刊行物A] A1.「【請求項1】 平均粒径1μm?30μmの重金属の粉末86?96重量%及び熱可塑性樹脂4?14重量%を含むことを特徴とする計器指針のバランスウェイト用組成物。 【請求項2】 重金属の粉末がタングステン、金、白金から選ばれる少なくとも1種の粉末であることを特徴とする計器指針のバランスウェイト用組成物。」(特許請求の範囲) A2.「本発明は、例えば、自動車、オ-トバイ等の振動環境下の車両用計器に取り付けられる計器の指針のバランスウェイトに用いられる組成物に関し、更には、成形が容易で、且つ重量精度の高いバランスウェイト用組成物に関するものである。」(段落【0001】) A3.「本発明の車両計器の指針のバランスウェイト用組成物の基本組成は、平均粒径1μm?30μmの重金属の粉末であり、30μm超えると成形品表面の凹凸が10μm以上となり、好ましくない。又、粒子が1μm未満であれば流動性が悪くなり成形加工性に困難が伴う。 使用する熱可塑性樹脂としてはポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカ-ボネ-ト系樹脂、及びPBT系樹脂の樹脂で溶融時の粘度が10000cps以下であることが好ましい。10000cps以上であれば、重金属粉末との混練時に充分に含浸できず、含浸残りや気泡が発しやすい。重金族としては、比重が19以上のものが好ましい。比重が19以上の重金属を用いることにより、熱可塑性樹脂と併用しても、バランスウェイトとして必要な比重5?10を保持することができる。 重金属粉末としては、タングステン、金、又は、白金が好ましい。更にタングステンが粉末として粒径を揃え易く、及び経済上優位であることから望ましい。例えばタングステン粉末と樹脂との混合比率は、タングステン粉末86重量%?96重量%、樹脂4重量%?14重量%で、タングステン粉末86重量%未満であれば、組成物の比重が5以下となり、バランスウェイトの体積が大きくなり実用に適しない。また、タングステン粉末が96重量%以上であると、成形加工性が悪く強度が低下する。」(段落【0005】?【0007】) A4.「又、使用する熱可塑性樹脂には、樹脂の熱劣化防止用の添加剤、例えば高分子量型フェノール系化合物、より具体的にはテトラキス〔メチレン{3-(3,5ジtertブチル-4-ヒドロキシフェニル)pロパノート}〕メタン、及びタングステン粉末と樹脂とのぬれ向上用として、シラン系、チタン系のカップリング剤等を必要に応じて添加してもよい。」(段落【0008】) A5.「実施例2 平均粒径6.0μmのタングステン粉末90重量%、平均粒径1.0μmのタングステン粉末4重量%、ポリアミド樹脂5.5重量%、その他添加剤0.5重量%を混合した後、二軸押出機にて混練造粒を行い、このペレットにより射出成形にてバランスウェイトを成形した。成形品の平均比重は9.34であった。比重のバラツキ標準偏差は0.02で、バランスウェイトとして品質上良好であった。」(段落【0010】) A6.「本発明のバランスウェイト用組成物は、製造が容易であり、且つバランスウェイトとして必要な重量精度が高く、表面が平滑なものが得られる。つまり、従来法の切削によらずに、通常の射出成形で重量精度の高いバランスウェイトが得られる。」(段落【0011】) [刊行物B] B1.「1 射出成形機において、シリンダとシリンダ内に回転するスクリユーとを有し、シリンダ内部は材料投入口よりフイード予熱部、可塑化混練ゾーン、脱気ゾーン、計量ゾーンを順次形成し、可塑化混練ゾーンでは、横断面形状で、スクリユーは連続した螺旋状のフライトが複数個形成されると共にフライトの回転方向前方の壁は回転方向に直交しかつ回転方向後方は徐々にスクリユー直径が小さくなるようにしてフライト間に溝を形成し、混練ゾーンのシリンダはスクリユーの溝に対応する凹部が軸方向に連続して複数個形成され、かつ混練ゾーンではスクリユーのフライト頂面とシリンダ内面との間にずり剪断がなされる程度の隙間を形成してなる複合樹脂の混練装置。」(特許請求の範囲) B2.「従来、合成樹脂と有機物または無機物の粉体とを混合した複合樹脂を射出成形するばあい、その方法として、射出成形機以外の混練機によつて混練成形されたペレツトを射出成形機に投入して溶融し、射出成形して複合樹脂の製品を成形する方法と、ペレツトを成形することなく小型の混練機を射出成形機の材料投入口に連結して混練と射出成形とを連続して行なう方法とがある。しかしながらこのような従来法では以下のような欠点があつた。即ち、前者の方法では、混練機で熱を加えて樹脂を溶融し、冷却したものを射出成形機で再び熱を加えて溶融させるため熱エネルギーの損失が大きく、また手間も多くかかる。これに対して後者の方法では操作が連続してなされるために、省エネルギー、省力の面ですぐれているが、装置が高価になり、従つて実際には前者の方法が広く採用されている。 本発明はこのような欠点の解決のためになされたものであり、射出成形機において混練部を設け、これによつて複合樹脂の混練が効率よく行なわれるようにしたものである。 混練加工されたペレツトを射出成形するばあいには、加熱溶融させてずり剪断を与えるだけで充分に複合樹脂の射出成形ができるが、合成樹脂と有機物または無機物の粉体とを混練するばあいには、ロールミルやバンバリミキサーの練り操作に含まれる圧縮、ずり剪断および切返しによる材料の交流(折り畳み)の大きな混練要素がなければ複雑な複合樹脂の混練操作は完成されない。このような混練操作を本発明はインラインスクリユー形の射出、または押出成形機のシリンダとスクリユーとによつて達成させ、しかもこれを効果的に行なうようにしている。」(第1欄34行?第2欄29行) B3.「第1図において2はシリンダ、3は投入口、6はスクリユーであり、投入口3には相異なる材料を供給するための定量フイーダ1Aと1Bとが接続されている。シリンダ内部は投入口側よりフイード予熱部I、可塑化混練ゾーンII、脱気ゾーンIIIおよび計量ゾーンIVを順次形成し、先端部には射出ノズル5を接続している。・・・ 可塑化混練ゾーンでは、第2図に示すように、6条のフライト即ち混練ブレード7をスクリユー6に形成し、この混練ブレードはインテンシブルミキサーやバンバリミキサーのロータブレードの振れ角に近似した角度で螺旋状に連続して形成されている。混練ブレードはスクリユーの回転方向Rの前方の壁8が回転方向にほぼ直交し、かつ回転方向後方にいくに従つて徐々にスクリユー直径が小さくなるようにしてブレード間に溝16を形成している。一方、これに対応するシリンダ内面14には軸方向に連続する溝12を複数個形成している。・・・溝12の回転方向前方の壁17はスクリユーの溝16に対応して回転方向にほぼ直交するように形成している。」(第3欄7?30行) B4.「混練ゾーンIIではスクリユー6の回転によつて溝16がシリンダの内壁14と溝12とに交互に対向するようになつており、このため第4図に示すようにずり剪断工程Sと圧縮行程Pとが回転方向Rに沿つて交互に形成される。即ち、スクリユーの溝16とシリンダの溝12とが対向した位置から図示のように回転が進むと両溝間の間隙が狭められかつ回転方向前方の壁8と17とが接近するために、材料は圧縮されると共に圧縮の流動によつて切返し作用をうけ、また一部はブレードのランド10とシリンダの内壁14との間に順次送り込まれ、ここでずり剪断作用がなされる。そしてこの圧縮、切返し、ずり剪断の作用が繰返して行なわれることによつて材料は充分な混練が行なわれ、ついで脱気ゾーンを通過する間に脱気され、計量部に送られる。 ・・・ 以上説明したように、本発明はインライン式の射出において混練作用をも発揮できるようにして装置を簡単にすると共に、混練部でずり剪断のみならず圧縮および切返しも行なわれるようにして複合樹脂の混練が充分に行なわれるようにしたものである。」(第4欄3?36行) B5.「 」(第1図) B6.「 」(第2図) B7.「 」(第4図) (4)-3.引用発明 刊行物Aには、摘示記載A5からみて、 「平均粒径6.0μmのタングステン粉末90重量%、平均粒径1.0μmのタングステン粉末4重量%、ポリアミド樹脂5.5重量%、その他添加剤0.5重量%を混合した後、二軸押出機にて混練造粒を行い、このペレットを射出成形することにより平均比重9.34の成形品を製造する方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 (4)-4.対比・判断 引用発明における「ポリアミド樹脂」はタングステン粉末及びその他添加剤と混合され二軸押出機にて混練されるものであることから、その形態が粉末乃至ペレット状であることは技術常識からみて明らかであって、いずれの形状であっても粒径について規定のない本願補正発明における「プラスチック粉末」に相当するものであることは明らかである。そして、引用発明における「タングステン粉末」、「ポリアミド樹脂」及び「その他添加剤」を混合したものが、本願補正発明における「混合粉末」に相当することは明らかであって、引用発明における該「混合したもの」に対するタングステン粉末の割合である94重量%なる数値が、本願補正発明における「85?96重量%」なる範囲内であることは明らかである。 また、本願補正発明においては「直接射出成形」することにより「高比重プラスチック組成物を作製」しており、該組成物は「射出成形」されたものであることからみて実質的には成形品であることが明らかであるから、引用発明における「平均比重9.34の成形品」は本願補正発明における「比重が9以上の高比重プラスチック組成物」に相当するといえる。 さらに、引用発明におけるタングステン粉末の平均粒径「6.0μm」及び「1.0μm」が、本願補正発明における「粒径が1?20μm」の範囲内であることは明らかである。 以上の点を踏まえた上で、本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、次の一致点及び相違点ア?ウを有するものである。 [一致点] 「金属粉末とプラスチックを含む高比重プラスチック組成物の製造方法において、 粒径が1?20μmであるタングステン粉末と、プラスチック粉末とを含む混合粉末であって前記混合粉末に対するタングステンの割合が85?96重量%である混合粉末を、混練りして射出成形することにより、比重が9以上の高比重プラスチック組成物を作製する工程、 を備える高比重プラスチック組成物の製造方法。」の点。 [相違点ア] 本願補正発明におけるタングステン粉末は、「粒径が1?20μmであるタングステン粉末に、チタネート系カップリング剤溶液を加えて攪拌して、表面処理済みタングステン粉末を作製する工程」によって表面処理された表面処理済みタングステン粉末であるのに対して、引用発明ではそのような規定が無い点。 [相違点イ] 本願補正発明における混合粉末は、「可塑剤」及び「造核剤」を含有するものであるのに対し、引用発明ではそのような規定が無い点。 [相違点ウ] 本願補正発明における「混練り」及び「射出成形」は「スクリューフライト頂上とシリンダー内壁との間にずり剪断が生じる混練り機構を備えたスクリューインライン式の射出成形機に入れ混練りして、直接射出成形する」ものであるのに対し、引用発明では「二軸押出機にて混練造粒を行い、このペレットを射出成形する」ものである点。 そこで、上記相違点ア?ウについて検討する。 [相違点ア]についての検討 摘示記載A4には、使用する熱可塑性樹脂に「タングステン粉末と樹脂とのぬれ向上用として、シラン系、チタン系のカップリング剤等を必要に応じて添加してもよい」ことが記載されているから、引用発明における「その他添加剤」の一つとしてチタン系のカップリング剤を用い、さらに、該チタン系のカップリング剤として典型的なものであるチタネート系カップリング剤を選択してみる程度は当業者であれば適宜なし得たことと認められる。また、樹脂成分と無機粉末とのぬれ向上用としてチタネート系カップリング剤を使用する際に、カップリング剤により予め無機粉末の表面処理を行うこと及び表面処理に際して湿式法を採用することはいずれも周知・慣用されている手法に過ぎず、引用発明におけるチタネート系カップリング剤の適用に際し、そのような手法を採用してみることにも特に困難性は認められない。 なお、カップリング剤が樹脂成分と無機粉末との親和性を改良し無機粉末の分散性や得られる組成物の各種物性を向上させるものであることは広く知られており、本願補正発明において相違点アに係る構成を採用したことにより刊行物A及び周知技術から予測される範囲を超えた格別顕著な作用効果が奏されているとは認められない。 したがって、相違点アは、刊行物Aに記載された発明に基いて当業者が適宜なし得たことといえる。 [相違点イ]についての検討 可塑剤及び造核剤は熱可塑性樹脂組成物の加工性や物性を向上させるために必要に応じて添加される汎用成分に過ぎないから、引用発明には「その他添加剤」として可塑剤及び造核剤を含有する態様も包含されているものと認められる。 したがって、相違点イは実質的な相違点ではないか、あるいは、当業者が適宜なし得たことといえる。 [相違点ウ]についての検討 摘示記載B1?B7のとおり、「スクリューフライト頂上とシリンダー内壁との間にずり剪断が生じる混練り機構を備えたスクリューインライン式の射出成形機」(以下、「ずり剪断射出成形機」という。)は公知の射出成形機であり、また、該ずり剪断射出成形機の採用により、従来の「射出成形機以外の混練機によつて混練成形されたペレツトを射出成形機に投入して溶融し、射出成形して複合樹脂の製品を成形する方法」及び「ペレツトを成形することなく小型の混練機を射出成形機の材料投入口に連結して混練と射出成形とを連続して行なう方法」における「混練機で熱を加えて樹脂を溶融し、冷却したものを射出成形機で再び熱を加えて溶融させるため熱エネルギーの損失が大きく、また手間も多くかかる」及び「装置が高価にな」るという欠点をそれぞれ解決しうるものであることも摘示記載B2に記載されているとおり公知である。 そして、このような知見を有する当業者であれば、上記従来法のうち「射出成形機以外の混練機によつて混練成形されたペレツトを射出成形機に投入して溶融し、射出成形して複合樹脂の製品を成形する方法」に相当する構成を有する引用発明において、上記ずり剪断射出成形機を採用してみる程度は容易になし得ることと認められ、該ずり剪断射出成形機の採用により「熱エネルギーの損失が大きく、また手間も多くかかる」という欠点が解消されるであろうことを直ちに想起し得るものと認められる。 なお、樹脂成分が熱履歴を経ることにより劣化することは周知であって、樹脂成分に加えられる熱エネルギーが低減すれば、それに応じて多少は樹脂の熱劣化が抑制されることは当然であって、本願補正発明において相違点ウに係る構成を採用したことにより刊行物A及びB並びに周知技術から予測される範囲を超えた格別顕著な作用効果が奏されているとは認められない。 したがって、相違点ウは、刊行物A及びBに記載された発明に基いて当業者が容易になし得たことといえる。 最後に、本願補正発明の効果について検討すると、本願補正明細書の実施例において明らかにされている評価結果(段落【0024】の【表2】)からは、金属粉末として平均粒度20μmのタングステン粉末を用いて製造した本発明組成物Aの方が、平均粒度70μmのアトマイズ鉄粉末を用いて製造した比較組成物Xに比べて比重が大きく、引張り強さ、曲げ弾性率及びアイゾット衝撃値が大きく、表面粗さの値が小さくなっていることが把握されるものの、本発明組成物A及び比較組成物Xはいずれもチタネート系カップリング剤溶液により表面処理された金属粉末を用い、いずれも可塑剤及び造核剤を添加し、いずれもずり剪断射出成形機を用いて製造されたものであることから、これらの対比からは上記相違点ア?ウに係る構成を採用したことによる作用効果を把握することができず、本願補正発明に関する評価結果は、刊行物A及びB並びに周知技術から予測される範囲を超えた格別顕著なものであるとは認められない。 よって、本願補正発明は、刊行物A及びBに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (4)-5.まとめ 以上のとおり、本件補正は、補正事項ロ)が特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当すると仮定した場合であっても、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本件審判請求について (1)本願発明 平成20年5月8日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1?2に係る発明は、平成19年12月25日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「【請求項2】 全体に対する混合割合が85?96重量%であって、プラスチック粉末とその粒径が1?20μmであるチタネート系カップリング剤で表面処理されるタングステン粉末とを含む混合物を、スクリューフライト頂上とシリンダー内壁との間にずり剪断が生じるような混練り機構を備えたスクリュー式の射出成形機で直接射出することを特徴とする高比重プラスチック組成物の製造方法。」 (2)原査定における拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由とされた、平成19年10月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由2は、以下のとおりである。 「2 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) <理由2> ・請求項 1-6 ・引用文献等 1-6,7 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開平7-33905号公報 (省略) 7.特公昭56-47847号公報 (以下省略)」 (3)原査定における拒絶の理由の妥当性 (3-1)引用刊行物記載の事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平7-33905号公報)は上記の刊行物Aであり、引用文献7(特公昭56-47847号公報)は上記の刊行物Bであって、その記載された事項及び引用発明は、上記第2.(4)-2.及び(4)-3.に記載したとおりである。 (3-2)対比・判断 引用発明における「ポリアミド樹脂」はタングステン粉末及びその他添加剤と混合され二軸押出機にて混練されるものであることから、その形態が粉末乃至ペレット状であることは技術常識からみて明らかであって、いずれの形状であっても粒径について規定のない本願発明における「プラスチック粉末」に相当するものであることは明らかである。そして、引用発明における「タングステン粉末」、「ポリアミド樹脂」及び「その他添加剤」を混合したものが、本願発明における「混合物」に相当することは明らかであって、引用発明における該「混合したもの」に対するタングステン粉末の割合である94重量%なる数値が、本願発明における「85?96重量%」なる範囲内であることは明らかである。 また、本願発明においては「射出成形機で直接射出」することにより「高比重プラスチック組成物」を製造しており、該組成物は射出成形されたものであることからみて実質的には成形品であることが明らかであるから、引用発明における「平均比重9.34の成形品」は本願発明における「高比重プラスチック組成物」に相当するといえる。 さらに、引用発明におけるタングステン粉末の平均粒径「6.0μm」及び「1.0μm」が、本願補正発明における「粒径が1?20μm」の範囲内であることは明らかである。 以上の点を踏まえた上で、本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、次の一致点並びに相違点ア’及びウ’を有するものである。 [一致点] 「全体に対する混合割合が85?96重量%であって、プラスチック粉末とその粒径が1?20μmであるタングステン粉末とを含む混合物を、射出成形機で射出する高比重プラスチック組成物の製造方法。」の点。 [相違点ア’] 本願発明におけるタングステン粉末は「チタネート系カップリング剤で表面処理される」ものであるのに対して、引用発明ではそのような規定が無い点。 [相違点ウ’] 本願発明における「射出」工程は「スクリューフライト頂上とシリンダー内壁との間にずり剪断が生じるような混練り機構を備えたスクリュー式の射出成形機で直接射出する」ものであるのに対し、引用発明では「二軸押出機にて混練造粒を行い、このペレットを射出成形する」ものである点。 そこで、上記相違点ア’及びウ’について検討する。 [相違点ア’]についての検討 摘示記載A4には、使用する熱可塑性樹脂に「タングステン粉末と樹脂とのぬれ向上用として、シラン系、チタン系のカップリング剤等を必要に応じて添加してもよい」ことが記載されているから、引用発明には「その他添加剤」としてチタン系のカップリング剤のうち典型的なものであるチタネート系カップリング剤を用いる態様についても包含されているものと認められる。 したがって、相違点ア’は実質的な相違点ではないか、あるいは、当業者が適宜なし得たことといえる。 [相違点ウ’]についての検討 上記第2.(4)-4.の「[相違点ウ]についての検討」において述べたとおり、引用発明において上記ずり剪断射出成形機を採用してみる程度は当業者であれば容易になし得ることと認められる。 したがって、相違点ウ’は、刊行物A及びBに記載された発明に基いて当業者が容易になし得たことといえる。 よって、本願発明は、刊行物A及びBに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (4)むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物A及びBに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、上記の拒絶理由は妥当なものと認められるので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-03-08 |
結審通知日 | 2011-03-15 |
審決日 | 2011-03-30 |
出願番号 | 特願平11-147152 |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(C08L)
P 1 8・ 575- Z (C08L) P 1 8・ 121- Z (C08L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大熊 幸治 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
藤本 保 大島 祥吾 |
発明の名称 | 高比重プラスチック組成物とその製造方法及び高比重プラスチック組成物を用いた小形高重量成形体並びに慣性体 |
代理人 | 大前 要 |