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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1236807
審判番号 不服2008-31293  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-11 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2004- 50913「光式多点検知システム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 8日出願公開、特開2005-241402〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年2月26日の特許出願であって,平成20年10月29日付けで補正の却下の決定とともに拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月11日に審判請求がなされ,平成21年1月13日付けで手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
1.補正の目的について
本件補正により,特許請求の範囲は,以下のとおり補正された。下線は,補正部分を示す。
「【請求項1】
所定の信号光を連続的に出射する少なくとも1個の光源と,
前記光源に接続される光ファイバと,前記光ファイバ上に設けられ,前記信号光の一部を分岐させる複数の光カプラと,前記光カプラにより分岐された前記信号光を,センサ部のON/OFF動作の切替えに対応させて透過と遮断の2段階に切替える機構を備えた同一機能の複数個のセンサ部と,
前記光源から前記各光カプラおよび前記各センサ部を介して各々のルートを伝播した前記光信号光が加算されたトータルパワーを受光する少なくとも1個の受光器とを備え,前記トータルパワーとして受光する前記各々のルートの前記信号光の光パワーは,前記複数個のセンサ部のON/OFF動作の全ての組合せごとに異なり,前記複数個の各センサ部のON/OFF状態と前記トータル受光パワーとが1対1で対応され,各センサ部のON/OFF状態が識別可能であることを特徴とする光式多点検知システム。
【請求項2】
前記センサ部は,前記信号光を透過及び遮断の間で切替える機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の光式多点検知システム。
【請求項3】
前記光源から線路上遠い側にある前記光カプラの分岐比は,前記光源から近い側にある前記光カプラの分岐比よりも前記センサ部側への信号光の光パワーを大きく分岐することを特徴とする請求項2に記載の光式多点検知システム。
【請求項4】
前記複数個のセンサ部の各々の出力側に配置された光減衰量調整部を更に備えていることを特徴とする,請求項1から3の何れか1項に記載の光式多点検知システム。
【請求項5】
前記光源が切替可能な複数波長の光源からなっており,前記複数個のセンサ部の各々の入力側に配置された波長選択フィルタを更に備えていることを特徴とする,請求項1から4の何れか1項に記載の光式多点検知システム。
【請求項6】
前記光源のパワーをモニタし,光源パワー変動分を,受光パワーに関して補正することを
特徴とする,請求項1から5の何れか1項に記載の光式多点検知システム。」

本件補正は,以下の補正事項を含んでいる。
(a)請求項1について,補正前の請求項1に係る特定事項である「梯子状に配置された光ファイバ」を「光源に接続される光ファイバ」に変更する。
(b)請求項1について,「光ファイバ上に設けられ,前記信号光の一部を分岐させる複数の光カプラ」との構成を付加する。
(c)請求項1について,補正前の請求項1に係る特定事項である「信号光」に「光カプラにより分岐された」なる限定を付加し,同じく「複数個のセンサ部」に「センサ部のON/OFF動作の切替えに対応させて透過と遮断の2段階に切替える機構を備えた同一機能」なる限定を付加し,同じく「受光」に「前記光源から前記各光カプラおよび前記各センサ部を介して各々のルートを伝播した前記光信号光が加算されたトータルパワーを受光」なる限定を付加し,同じく「信号光の光パワー」に「前記トータルパワーとして受光する前記各々のルートの」なる限定を付加し,同じく「光式多点検知システム」に「前記複数個の各センサ部のON/OFF状態と前記トータル受光パワーとが1対1で対応され,各センサ部のON/OFF状態が識別可能」なる限定を付加するものである。
(d)請求項2について,「センサ部」が「前記信号光を透過及び遮断の間で切替える機構を備える」との限定を付加するものである。

そして,補正事項(b),(c),及び(d)については,発明特定事項の減縮を目的とするものといえるものの,補正事項(a)については,「光ファイバ」の限定事項である「梯子状に配置」を削除する,すなわち,合流のカプラを特定事項としないものであるから,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明の,いずれを目的とするものでもない。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第第4項の規定に違反するものであるので却下する。

2.独立特許要件について
本件補正は,上記1.に記載したとおり却下されるべきものであるが,仮に,本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された文献であって,本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-270090号公報(以下,「引用刊行物1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
(1-ア)
「【0002】
【従来の技術】従来,分散した情報を光伝送してそれらの情報を検出する方式には,例えば,複数箇所における温度,湿度等の物理量を計測する光ファイバを使用した多点計測システム等があり,それらの分散した情報を透過形時分割多重信号方式を用いてそれぞれ区別して検出するものが数多く提案されている。以下,このような透過形時分割多重信号方式の一例を図面を参照して説明する。

(1-イ)
【0003】図17は,従来の透過形時分割多重方式を用いた物理量多点計測装置における一例の構成を示すブロック図であり,図18は図17に示す物理量多点計測装置による受信パルス波形例を示す波形図である。即ち,図17において,物理量多点計測装置4は主に光パルス発生器1,受光器2,信号処理装置3から構成される。そして,複数の物理量センサー51,52,53,・・・がそれぞれ並列の光ファイバ6a,6bに分器岐部7a1 ,7a2 ,7a3 ・・・および7b1 ,7b2 ,7b3 ・・・を介して光ファイバ6c,6dによりそれぞれ接続され,光ファイバ6a,6bの一端は上記物理量多点計測装置4内の光パルス発生器1および受光器2にそれぞれ接続されて構成されている。

(1-ウ)
「【0004】即ち,上記物理量多点計測装置は,2本の光ファイバ6a,6bの経路中に所定の間隔をおいて相対応する多数の光分岐部7a1 ,7b1 ,7a2 ,7b2 ,・・・を設け,上記相対応する光分岐部の間には,各物理量センサー51,52,53,・・・を並列に接続して構成されている。また,光ファイバ6aの一端は,多点計測装置4の光パルス発生器1に接続され,この光パルス発生器1は光パルスを発生させる。他方の光ファイバ6bの一端は,多点計測装置4の受光器2に接続される。そして,光パルス発生器1から発生した光パルスは,光ファイバ6aを通過し,光分岐部7a1 ,7a2 ,・・・で分岐され,物理量センサー51,52,・・・を通過して光分岐部7b1 ,7b2 ,・・・を経て,光ファイバ6bを通って受光器2に入力する。
【0005】このようにして,多点計測装置4の受光器2においては,各物理量センサー51,52・・・のそれぞれがその位置に対応して一定の遅延時間を持つことになり,この遅延時間毎に識別して受光パルスを検出するものである。

(1-エ)
「【0006】これらの受光パルスは,光ファイバ6a,6b中および光分岐部7a1 ,7b1 ,・・・による光損失が当然に含まれており,これらは各物理量センサー51,52,・・・にて計測する物理量には無関係な一定値であるから,これを多点計測装置4の信号処理装置3により補正し,図18に示すような時系列パルス列が得られる。即ち,多点計測装置4の受光器2に入力する各物理量センサー51,52,・・・からの出力パルス信号8とバックグランドノイズ9との連続した受信信号の波形であり,これから各物理量センサー51,52,・・・の情報を識別して得ることができる。」

(1-オ)
「【0046】さらに,他の例として複数の光分岐器を必要とするが,図16に示すように光ファイバ12を梯子形の構成にしても,各々の物理量センサー14a,14b,14c,・・・の識別および物理情報を検出することができる。この場合,図17に示した従来例と異なり,一つの梯子枝に複数の物理量センサーを取り付けたり,往路および復路の光ファイバ6a,6bの途中にも物理量センサーを取り付けることも可能である。
【0047】この発明の分散した情報の検出方法は,多数のバルブやドアの開閉検知等の接点情報の検出および監視に適用可能であり,例えば,原子力装置内の通常人の入れない箇所のバルブ開閉を1本の光ファイバで一括監視することが可能となり,また,温度,湿度,圧力等のセンサーの識別および物理情報を検出することが可能であり,分散したあらゆるセンサー情報の監視などに適用することが可能である。」

これら(1-ア)?(1-オ)の記載と図17とを総合すると,引用刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる。
「光パルス発生器と,光パルス発生器に接続された光ファイバと,梯子状に配置した光分岐部と,物理量センサーと,受光器とを備えた物理量多点計測装置」(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

また,原査定の拒絶の理由に引用された文献であって,本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-232702号公報(以下,「引用刊行物2」という。)には,「光センサの識別方法」について,図面とともに以下の事項が記載されている。
(2-ア)
「【請求項1】 光ファイバの変形による光信号の損失変化を利用して状態変化を検出する光センサを光ファイバ上に複数配置し,光ファイバの伝送損失から,動作した光センサの位置を識別する光センサの識別方法であって,
上記複数の光センサの動作損失値を異なった値に設定し,光センサの動作損失値の合計値から,動作した光センサを識別することを特徴とする光センサの識別方法。」

(2-イ)
「【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を本発明においては,次のようにして解決する。
(1)光ファイバの変形による光信号の損失変化を利用して状態変化を検出する光センサを光ファイバ上に複数配置し,上記複数の光センサの動作損失値を異なった値に設定する。そして,光センサの動作損失値の合計値から,動作した光センサを識別する。すなわち,複数の光センサがOTDRの距離分解能以下の間隔に設置されているとき,上記複数の光センサの動作損失値を異なった値に設定し,上記光センサの全ての組み合わせの動作損失値の合計が異なる値になるように設定すれば,光センサの合計の損失値から動作した光センサの組み合わせを識別することができる。したがって,光センサをOTDRの距離分解能以下の間隔で設置しても,動作した光センサを識別することが可能となり,前記したように,複数の光ファイバを用いて隣接する光センサーに用いる光ファイバーを分け,隣接するセンサを識別する必要はなくなる。」

(2)対比・判断
補正発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「光パルス発生器」,「光パルス発生器に接続された光ファイバ」,「光分岐部」及び「物理量多点計測装置」は,それぞれ,本願発明の「所定の信号光を連続的に出射する少なくとも1個の光源」,「光源に接続される光ファイバ」,「前記光ファイバ上に設けられ,前記信号光の一部を分岐させる複数の光カプラ」,及び「光式多点検知システム」に,相当するのは明らかである。
そして,上記摘記事項(1-ウ)及び(1-エ)の記載から,引用発明の「受光器」は,「多点計測装置4の受光器2に入力する各物理量センサー51,52,・・・からの出力パルス信号8とバックグランドノイズ9との連続した受信信号の波形」を受光するものであるから,これは本願発明の「光源から前記各光カプラおよび前記各センサ部を介して各々のルートを伝播した前記光信号光が加算されたトータルパワーを受光する少なくとも1個の受光器」と一致するといえる。

そうすると,両者は,
(一致点)
「所定の信号光を連続的に出射する少なくとも1個の光源と,
前記光源に接続される光ファイバと,
前記光ファイバ上に設けられ,前記信号光の一部を分岐させる複数の光カプラと,
複数個のセンサ部と,
前記光源から前記各光カプラおよび前記各センサ部を介して各々のルートを伝播した前記光信号光が加算されたトータルパワーを受光する少なくとも1個の受光器とを備えた光式多点検知システム。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
「複数個のセンサ部」について,補正発明では,「光カプラにより分岐された前記信号光を,センサ部のON/OFF動作の切替えに対応させて透過と遮断の2段階に切替える機構を備えた同一機能の複数個のセンサ」であるのに対し,引用発明ではそのような構成が不明である点。

(相違点2)
補正発明が,「トータルパワーとして受光する前記各々のルートの前記信号光の光パワーは,前記複数個のセンサ部のON/OFF動作の全ての組合せごとに異なり,前記複数個の各センサ部のON/OFF状態と前記トータル受光パワーとが1対1で対応され,各センサ部のON/OFF状態が識別可能である」構成を備えるのに対し,引用発明は上記構成を備えていない点。

上記(相違点1)及び(相違点2)について検討する。
光ファイバを用いた「多点検知システム」の分野において,「光カプラにより分岐された前記信号光を,センサ部のON/OFF動作の切替えに対応させて透過と遮断の2段階に切替える機構を備えた同一機能の複数個のセンサ」を用いて,「トータルパワーとして受光する前記各々のルートの前記信号光の光パワーは,前記複数個のセンサ部のON/OFF動作の全ての組合せごとに異なり,前記複数個の各センサ部のON/OFF状態と前記トータル受光パワーとが1対1で対応され,各センサ部のON/OFF状態が識別可能である」ような技術事項は引用刊行物2に記載されている。

そうすると,引用発明の複数個のセンサの識別方法として,引用刊行物2に記載された技術事項を適用することによって,補正発明のような構成とすることは,当業者にとって容易に想到し得るものである。
そして,本願明細書に記載された効果も,引用発明および上記技術事項から,当業者が予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものといえない。

したがって,補正発明は,引用刊行物1及び引用刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし6に係る発明は,平成20年1月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「梯子状に配置された光ファイバと,所定の信号光を連続的に出射する少なくとも1個の光源と,前記信号光の透過を2段階に切替える機構を備え前記光源に接続された複数個のセンサ部と,前記複数個のセンサ部を通過した前記信号光を受光する少なくとも1個の受光器を備えた光式多点検知システムであって,
前記センサ部における前記信号光の透過の2段階の切替えを,センサ部のON動作とOFF動作の切替えに対応させ,
前記受光部にて受光する前記信号光の光パワーは,前記複数個のセンサ部のON動作とOFF動作の全ての組合わせごとにそれぞれ異なる値であることを特徴とする光式多点検知システム。」(以下,「本願発明」という。)

2.引用刊行物およびその記載事項
原査定の理由に引用した刊行物およびその記載事項は,前記「第2 2.」に記載したとおりである。
本願発明は,前記「第2 2.」において検討した補正発明の「光ファイバ」について,補正発明における限定を省いたものに相当する。
そうすると,本願発明の構成要件のうち「梯子状の光ファイバ」以外の構成をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,前記「第2 2.(2)」に記載したとおり,引用刊行物1,2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本願発明も,同様の理由により,引用刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるといえる。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-01 
結審通知日 2011-02-08 
審決日 2011-03-25 
出願番号 特願2004-50913(P2004-50913)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01J)
P 1 8・ 121- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 佳規  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 竹中 靖典
後藤 時男
発明の名称 光式多点検知システム  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 星 公弘  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 住吉 秀一  
代理人 二宮 浩康  
代理人 江村 美彦  

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