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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H |
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管理番号 | 1236822 |
審判番号 | 不服2009-13854 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-08-04 |
確定日 | 2011-05-12 |
事件の表示 | 特願2006-154672「集合住宅」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日出願公開、特開2007-321494〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成18年6月2日の出願であって,平成21年4月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。 その後,当審にて,平成22年10月13日付けで拒絶理由が通知され,それに対して,同年12月20日に,意見書が提出されるとともに,手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は,平成22年12月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。 「在来の木造軸組工法や枠組壁工法などの木質系、または主要部に軽量鉄骨を用いた構築工法などによって構築した複数の住戸を互いに近接させて配置し、当該隣接する住戸どうしをエキスパンションジョイントによって接続することにより一体の集合体を構成してなる集合住宅であって、各住戸の基礎および住戸の隣接する側の外壁はそれぞれ一定の隙間を設けて独立に設けることで、住戸ごとの建て替えおよび増改築を互いに支障を及ぼすことなく行えるようにするとともに、前記隣接する住戸のいずれか一方の外壁の一部として、各住戸間の生活騒音を遮断し、かつ火災時の延焼を防止するためのRC構造または補強ブロック構造の壁体、あるいは鉄骨構造などの不燃構造の軸組にプレキャストコンクリート板などからなる遮蔽板を取り付けた構造のもの、または表面に防火処理を施した間伐材を複数互いに密着させて建て付け壁状に形成した壁状の区画構造体を配置してなることを特徴とする集合住宅。」 (以下,「本願発明」という。) 第3 引用刊行物 1.刊行物1 当審の拒絶理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2005-120641号公報(以下,「刊行物1」という。)には,以下の記載がある。 (1a)「【請求項1】 公道に接道している1区画の土地に複数個の住戸を並べて建設し、相隣る住戸の外壁、屋根材を分離可能な構造で連結することにより、1棟の建物として登記され、かつ各住戸毎に区分所有される長屋建物。 【請求項2】 前記住戸の基本性能が各住戸毎に確保される請求項1に記載の長屋建物。【請求項3】 前記住戸の構造体を基礎に分離可能な構造でボルト接合し、相隣る住戸の連結は各住戸が構造耐力上自立できるようにエキスパンジョイントによる分離可能な構造でボルト接合する請求項2に記載の長屋建物。 【請求項4】 前記相隣る住戸のそれぞれがボルト接合される基礎の間にジョイント用基礎を設置し、該ジョイント用基礎にジョイント用フレームを立設し、各住戸の外壁を該ジョイント用フレームにボルト接合する請求項3に記載の長屋建物。」 (1b)「図1の長屋建物10は、公道に接道している1区画の土地(敷地)に複数個の住戸A、B、Cを並べて連設したものである。 各住戸A、B、Cは、図2に示す如く、構造体11、外壁12、庇12A、石膏ボード等の被覆材12B、屋根材13を有し、それらの構造耐力や断熱性能等の基本性能は各住宅A、B、C毎に確保している。 長屋建物10は、相隣る住戸A、B、Cの外壁12、屋根材13を、後述する如くに分離可能な構造で連結することにより、1棟の建物として登記され、かつ各住戸A、B、C毎に区分所有される。・・・・」(段落【0017】?【0019】) (1c)「長屋建物10は、図2?図4に示す如く、各住戸A、B、Cの構造耐力を分離するため、各住戸A、B、Cの変位が互いに伝わらないように各住戸A、B、Cを接続する必要があり、各住戸A、B、Cの構造体11を各住戸A、B、C毎の基礎21に分離可能な構造でボルト接合する。更に、相隣る住戸A、B、Cの連結は、各住戸A、B、Cが構造耐力上自立できるようにエキスパンジョイント22による分離可能な状態でボルト接合する。 長屋建物10は、相隣る住戸A、B、Cのそれぞれがボルト接合される基礎21の間にジョイント用基礎(束)21Aを設置し、ジョイント用基礎21Aにジョイント用フレーム23をボルト固定して立設し、各住戸A、B、Cの外壁12が取付金具23Aを介してジョイント用フレーム23にボルト接合される。基礎21とジョイント用基礎21Aの間には、各住戸A、B、Cの変形が互いに伝わらないように、EPDM等の変位吸収材21Bが介装される。 長屋建物10は、相隣る住戸A、B、Cの外壁12にシール材24Aを介して架け渡されるジョイント用外壁24が、取付金具24Bによりジョイント用フレーム23に取着される。また、相隣る住戸A、B、Cの庇12Aにシール材25Aを介して架け渡されるジョイント用庇25が、取付金具25Bによりジョイント用フレーム23に取着される。また、相隣る住戸A、B、Cの屋根材13に架け渡されるジョイント用屋根材26が設けられる。 長屋建物10において、各住戸A、B、Cは、将来移築し増築した場合に必要とされる構造耐力等を予め具備させておくことにより、移築、増築に対応できる構造とする。各住戸A、B、Cの構造体11は移築した場合にも、新築建物として建築基準法の規定(特に第37条の構造部材の耐久性)を満足できるような耐久性のあるめっき鋼板等の材料により構成され、また増築相手の構造体が容易にジョイントできるようにボルト接合可能な構造とする。 従って、長屋建物10にあっては、性能上独立した住戸A、B、Cを連結して外観上1棟の長屋を構成しながら、各住戸毎の分離が容易になる。そして分離した住戸は新たに別の敷地に、1住戸として又は複数戸連続させた1棟の長屋からなる1住戸として建設することができる(図5)。長屋建物10の当初建築段階から、移築後の増築を予め考慮した建物構造にしておけば増築時の外観デザインの変更(フラット屋根を勾配屋根に変更)が容易になる。」(段落【0020】?【0024】) (1d)「(b)長屋建物10の建設後の事情変化により、新たな土地に戸建て住宅を建設しようとするときには、長屋建物10の一部の住戸A、B、Cを他の住戸A、B、Cから分離解体して新たな土地に移築、更に必要であれば増築できる。各住戸A、B、Cが外壁12、屋根材13を有しているから、1住戸A、B、C毎の移築は容易である。長屋建物10の残存住戸A、B、Cについても、建築規準法上要求される界壁の防火性能及び遮音性能が各住戸A、B、Cの外壁12により確保されるため別途長屋として改装を必要とされない。・・・」(段落【0034】) (1e)「(3)ユニット住宅に限らず、鉄筋コンクリート造等の解体分離が不可能な構造の建物以外であれば、本発明のシステムを導入することができる。木質系住宅についてもジョイント方法をボルト接合等にすれば対応は可能である。」(段落【0040】) そして,上記の記載事項(1a)?(1e)及び図面の記載からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「1区画の土地に複数個の住戸を並べて建設し,相隣る住戸A,B,Cを,各住戸A,B,Cが構造耐力上自立できるようにエキスパンジョイント22による分離可能な状態で連結することにより外観上1棟の長屋を構成してなる長屋建物であって, 相隣る住戸A,B,Cの外壁12,屋根材13を分離可能な構造で連結するとともに,各住戸A,B,Cの構造体11を各住戸A,B,C毎の基礎21に分離可能な構造でボルト接合し, 相隣る住戸A,B,Cのそれぞれがボルト結合される基礎21の間にジョイント用基礎21Aを設置し,基礎21とジョイント用基礎21Aの間には、各住戸A、B、Cの変形が互いに伝わらないように、EPDM等の変位吸収材21Bが介装されており, 各住戸A、B、Cの外壁12により建築規準法上要求される界壁の防火性能及び遮音性能が確保される長屋建物。」 (以下,「刊行物1記載の発明」という。) 2.刊行物2 当審の拒絶理由に引用され,本願出願前に頒布された刊行物である,特開2004-346716号公報(以下,「刊行物2」という。)には,以下の記載がある。 (2a)「【請求項1】 木造や鉄造の長屋,共同住宅において,界壁を鉄筋コンクリート造にすることにより,防音,耐震,耐火性能を高め,工期短縮,工事費の削減をできるようにしたものである。」(【請求項1】) (2b)「界壁を鉄筋コンクリート造で造ることにより,防音,耐震,耐火性能が高まり,火災の際も隣家への延焼を防げる。 ・・・」(段落【0006】) (2c)「【図1】本発明の断面図(1階部分の界壁を鉄筋コンクリート造とした)である。 ・・・」(【図面の簡単な説明】) そして,上記の記載事項(2a)?(2c)及び図面の記載からみて,刊行物2には,以下の技術が記載されているものと認められる。 「木造や鉄造の長屋,共同住宅において,防音,耐震,耐火性能を高め,火災の際も隣家への延焼を防げるため,界壁を鉄筋コンクリート造とする技術。」 (以下,「刊行物2記載の発明」という。) 第4 当審の判断 1.本願発明と刊行物1記載の発明との対比 本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると,刊行物1記載の発明の「1区画の土地に複数個の住戸を並べて建設し」てなる「相隣る住戸A,B,C」が本願発明の「複数の住戸を互いに近接させて配置し」てなる「隣接する住戸」に相当し,以下同様に,「エキスパンジョイント22による分離可能な状態で連結する」構成が,「隣接する住戸どうしをエキスパンションジョイントによって接続する」構成に,「長屋建物」が「集合住宅」に相当している。 そして,刊行物1記載の発明の「相隣る住戸A,B,Cの外壁12,屋根材13を分離可能な構造で連結するとともに,各住戸A,B,Cの構造体11を各住戸A,B,C毎の基礎21に分離可能な構造でボルト接合」する構成と,本願発明の「各住戸の基礎および住戸の隣接する側の外壁はそれぞれ一定の隙間を設けて独立に設けることで、住戸ごとの建て替えおよび増改築を互いに支障を及ぼすことなく行える」構成とは,ともに「各住戸の基礎および住戸の隣接する側の外壁が独立に設けられる」構成として共通している。 さらに,刊行物1記載の発明の「建築規準法上要求される界壁の防火性能及び遮音性能」を確保するための「各住戸A,B,Cの外壁12」と,本願発明の「隣接する住戸のいずれか一方の外壁の一部として,各住戸間の生活騒音を遮断し,かつ火災時の延焼を防止するためのRC構造または補強ブロック構造の壁体,あるいは鉄骨構造などの不燃構造の軸組にプレキャストコンクリート板などからなる遮蔽板を取り付けた構造のもの,または表面に防火処理を施した間伐材を複数互いに密着させて建て付け壁状に形成した壁状の区画構造体」とは,「隣接する住戸の外壁として,各住戸間の生活騒音を遮断し,かつ火災時の延焼を防止するための壁状の構造体」である点で共通している。 したがって,両者は,以下の点で一致している。 「複数の住戸を互いに近接させて配置し,当該隣接する住戸どうしをエキスパンションジョイントによって接続することにより一体の集合体を構成してなる集合住宅であって, 各住戸の基礎および住戸の隣接する側の外壁がそれぞれ独立に設けられてなり, 隣接する住戸の外壁として,各住戸間の生活騒音を遮断し,かつ火災時の延焼を防止するための壁状の構造体を配置してなる集合住宅。」 そして,以下の点で相違している。 (相違点1) 本願発明は,複数の住戸が「在来の木造軸組工法や枠組壁工法などの木質系,または主要部に軽量鉄骨を用いた構築工法などによって構築したものである」のに対して,刊行物1記載の発明は,複数の住戸がどのように構築されたものか明らかではない点。 (相違点2) 各住戸の基礎および住戸の隣接する側の外壁がそれぞれ独立に設けられるに際して,本願発明は,各住戸の基礎および住戸の隣接する側の外壁がそれぞれ一定の隙間を設けているものであって,それにより,住戸ごとの建て替えおよび増改築を互いに支障を及ぼすことなく行えるものであるのに対して,刊行物1記載の発明は,各住戸A,B,Cの外壁については,ジョイント用フレームにボルト接合されているものの一定の隙間を設けているといえるが,住戸の基礎については,ジョイント用基礎をその間に備えており,本願発明でいうところの「一定の隙間」を設けているか否かは明らかではない点。 (相違点3) 各住戸間の生活騒音を遮断し,かつ火災時の延焼を防止するための壁状の構造体が,本願発明は,RC構造または補強ブロック構造の壁体,あるいは鉄骨構造などの不燃構造の軸組にプレキャストコンクリート板などからなる遮蔽板を取り付けた構造のもの,または表面に防火処理を施した間伐材を複数互いに密着させて建て付け壁状に形成した壁状の区画構造体であるのに対して,刊行物1記載の発明は,該構造体が外壁として具体的にどのような構造のものであるかは明らかではない点。 (相違点4) 相違点3に関連して,本願発明は,各住戸間の生活騒音を遮断し,かつ火災時の延焼を防止するための壁状の構造体が,隣接する住戸のいずれか一方の外壁の一部として配置されているのに対して,刊行物1記載の発明は,該区画構造体が隣接する各住戸の外壁として配置され,住戸のいずれか一方の外壁として設けたものではなく,さらに,外壁の一部として配置されたものでもない点。 2.相違点についての判断 (相違点1について) 木造軸組工法や枠組壁工法などの木質系,または主要部に軽量鉄骨を用いた構築工法などによって構築した住戸は,例示するまでもなく周知であり,刊行物1記載の発明において,住戸を,在来周知である木造軸組工法や枠組壁工法などの木質系,または主要部に軽量鉄骨を用いた構築工法などによって構築したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。 (相違点2について) 刊行物1記載の発明においては,各住戸A,B,Cの外壁の間にジョイント用フレームを設けるために,ジョイント用基礎を住戸の基礎の間に備えているが,住戸の基礎が構造的に独立している点ではかわるものではない。 そして,刊行物1記載の発明において,住戸の基礎とジョイント用基礎とを変位吸収材が介して接続しているが,住宅の基礎とジョイント用基礎とを接続させることが刊行物1記載の発明にとって,必須な構成であるとは認められず,住戸の基礎を一定の隙間を介して配置することは,当業者が容易に想到できることである。 (相違点3について) 各住戸間の生活騒音を遮断し,かつ火災時の延焼を防止するための壁状の構造体として,「RC構造または補強ブロック構造の壁体,あるいは鉄骨構造などの不燃構造の軸組にプレキャストコンクリート板などからなる遮蔽板を取り付けた構造のもの,または表面に防火処理を施した間伐材を複数互いに密着させて建て付け壁状に形成した壁状のもの」を用いる技術は,例示するまでもなくそれぞれ周知である。 そして,刊行物2記載の発明として開示されているように,木造や鉄造の長屋,共同住宅において,防音,耐震,耐火性能を高め,火災の際も隣家への延焼を防げるため,界壁を鉄筋コンクリート造とすることが公知となっていることから,刊行物1記載の発明において,住戸の構造体及び外壁として,上記周知の技術を採用することは,当業者が容易になし得たことである。 (相違点4について) 刊行物1記載の発明は,集合住宅の一部の住戸の移設等を想定して各住戸の外壁により,建築規準法上要求される界壁の防火性能及び遮音性能を確保するようにしているが,刊行物1記載の発明として開示されている技術思想は,各住戸の移設を想定した集合住宅のみならず,各住戸の移設を想定していない集合住宅にも用いることができることは当業者にとって自明である。 ここで,刊行物1記載の発明として開示されている,独立した複数の住戸を接続して集合住宅とする技術思想において,集合住宅としての各住戸間の防火性能及び遮音性能をどのように確保するかはその集合住宅の用途・形態に応じて当業者が適宜考慮すべき設計事項であって,各住戸を完全に独立させるために各住戸の各外壁を防火性及び遮音性を有する区画構造体としたり,住戸の外壁のうち比較的防火性及び遮音性が必要な箇所を該区画構造体としたり,経済性等を考慮して最低限必要な箇所の外壁のみを該区画構造体としたりすることは,当業者が適宜選択すべきことである。 そして,刊行物1記載の発明として開示されている技術思想を,各住戸の移設を想定していない集合住宅に採用した際に,隣接する住戸の一方の壁体を防火性及び遮音性を備える区画構造体にすれば,その間の防音性や防火性についてある程度達成できることは,当業者にとって明らかであるし,住戸の一方の壁体のみに防火性及び遮音性を備えることが,隣接する住戸の両方の壁体を防火性及び遮音性を備えることに比べて当業者が予測できない格別の技術的意義を有するものでもないから,上記相違点4に係る本願発明の構成のように区画構造体を「隣接する住戸のいずれか一方の外壁の一部として配置」することは,当業者が容易になし得たことである。 第5 むすび 以上より,本願発明は,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-24 |
結審通知日 | 2011-03-01 |
審決日 | 2011-03-28 |
出願番号 | 特願2006-154672(P2006-154672) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(E04H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 聡 |
特許庁審判長 |
伊波 猛 |
特許庁審判官 |
草野 顕子 宮崎 恭 |
発明の名称 | 集合住宅 |
代理人 | 久門 保子 |
代理人 | 久門 享 |
代理人 | 久門 知 |