• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1236835
審判番号 不服2010-3466  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-17 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2006-223129「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月28日出願公開、特開2008- 44264〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成18年8月18日の出願であって、平成20年10月20日及び平成21年10月16日に手続補正がなされ、同年11月5日付けで、前記同年10月16日になされた手続補正を却下する決定とともに拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正がなされたものである。
さらに、審査官により作成された前置報告書について審尋がなされたところ、審判請求人から平成22年10月8日に回答書が提出されたものである。


第2 平成22年2月17日になされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年2月17日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ユーザ認証によりユーザをログインする画像形成装置であって、
前記ユーザの識別情報を登録識別情報として予め記憶する記憶手段と、
前記認証を求めるユーザの被認証識別情報を取得する識別情報取得手段と、
取得された前記被認証識別情報と前記登録識別情報との対比に基づいて、前記ユーザ認証の可否を判断する認証手段と、
前記認証手段の判断結果がユーザ認証可であるとユーザをログインするログイン手段と、
前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記複数の異なる処理の選択後に実行への選択を入力する入力手段と、
前記入力手段により選択された前記複数の異なる処理要求を実行する処理実行手段と、
前記選択された前記複数の異なる処理要求が全て終了した状態でログアウト状態とするログアウト処理手段とを含むことを特徴とする画像形成装置。」
から
「ユーザ認証によりユーザをログインする画像形成装置であって、
前記ユーザの識別情報を登録識別情報として予め記憶する記憶手段と、
前記認証を求めるユーザの被認証識別情報を取得する識別情報取得手段と、
取得された前記被認証識別情報と前記登録識別情報との対比に基づいて、前記ユーザ認証の可否を判断する認証手段と、
前記認証手段の判断結果がユーザ認証可であるとユーザをログインするログイン手段と、
前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記いずれかの異なる処理が選択されると、再度、他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示を行い、前記他の異なる処理が選択されると該選択された各処理を示す処理要求を揮発性メモリに格納し、前記実行が選択されると実行指示を設定する入力手段と、
前記揮発性メモリに前記処理要求が格納されると対応する複数の異なる処理を実行し、前記実行指示が設定されると前記揮発性メモリに対し前記処理要求の未格納を確認した上で対応する前記選択された異なる処理を実行する処理実行手段と、
ユーザによって選択された前記異なる処理が全て終了した状態でログアウト状態とするログアウト処理手段とを含むことを特徴とする画像形成装置。」(下線は審決で付した。以下同じ。)
に補正された。

2 新規事項について
ア 補正後の請求項1の「前記実行指示が設定されると前記揮発性メモリに対し前記処理要求の未格納を確認した上で対応する前記選択された異なる処理を実行する処理実行手段」に関して、本願の願書に最初に添付した明細書には、「ステップS1-15 処理実行部108(図1)は、揮発性メモリ113(図1)に複数の処理が格納されているかどうか確認する。揮発性メモリ113に複数の処理が格納されていない場合にはステップS1-16へ進み、複数の処理が格納されている場合にはステップS1-17へ進む。」(段落【0037】)と記載され、本願の願書に最初に添付した図7のフローチャートにおける「S1-15」も、「揮発性メモリ113の中に複数の処理が存在するか?」を判断するものであるから、「処理要求の未格納を確認した」構成は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載されていない。

イ また、補正後の請求項1の「前記いずれかの異なる処理が選択されると、再度、他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示を行い」との構成については、本願の願書に最初に添付した明細書には、「また、ユーザが、コピー処理を実行したい場合には、画面306でボタン220(図2)を押下し、画面309を表示させる。この画面でユーザは、指定した処理を実行する『実行』と、複数の処理を指定してまとめて実行する『カートに入れる』を選択することができる。ここでユーザが実行を選択すると画面310が表示される。又ユーザが『カートに入れる』を選択すると画面303へ戻り(画面304に移行しても良い。)、複数の処理を指定することが可能になる。この機能は一括処理選択部114(図1)の機能である(以下の記述でも同様)。」(段落【0017】)と記載されており、本願の願書に最初に添付した図3における「画面309」も、「実行」又は「カートに入れる」を選択する画面であるから、「他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示」は当初明細書等に記載されていない。

ウ 上記ア及びイのとおり、「処理要求の未格納を確認した」構成及び「他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示」は、当初明細書等に記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明な事項でもない。
してみると、この補正は、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないもの」には該当しない。

エ したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

3 独立特許要件について(予備的判断)
以上述べたとおり、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反しているものの、記載の不備によるものであって、軽微な補正によって治癒するとの判断もあり得る。
そして、本件補正のうち、請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記複数の異なる処理の選択後に実行への選択を入力する入力手段」及び「前記入力手段により選択された前記複数の異なる処理要求を実行する処理実行手段」を、それぞれ「前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記いずれかの異なる処理が選択されると、再度、他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示を行い、前記他の異なる処理が選択されると該選択された各処理を示す処理要求を揮発性メモリに格納し、前記実行が選択されると実行指示を設定する入力手段」及び「前記揮発性メモリに前記処理要求が格納されると対応する複数の異なる処理を実行し、前記実行指示が設定されると前記揮発性メモリに対し前記処理要求の未格納を確認した上で対応する前記選択された異なる処理を実行する処理実行手段」に限定したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、念のため、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について予備的に検討しておく。

(本願補正発明)(再掲)
「ユーザ認証によりユーザをログインする画像形成装置であって、
前記ユーザの識別情報を登録識別情報として予め記憶する記憶手段と、
前記認証を求めるユーザの被認証識別情報を取得する識別情報取得手段と、
取得された前記被認証識別情報と前記登録識別情報との対比に基づいて、前記ユーザ認証の可否を判断する認証手段と、
前記認証手段の判断結果がユーザ認証可であるとユーザをログインするログイン手段と、
前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記いずれかの異なる処理が選択されると、再度、他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示を行い、前記他の異なる処理が選択されると該選択された各処理を示す処理要求を揮発性メモリに格納し、前記実行が選択されると実行指示を設定する入力手段と、
前記揮発性メモリに前記処理要求が格納されると対応する複数の異なる処理を実行し、前記実行指示が設定されると前記揮発性メモリに対し前記処理要求の未格納を確認した上で対応する前記選択された異なる処理を実行する処理実行手段と、
ユーザによって選択された前記異なる処理が全て終了した状態でログアウト状態とするログアウト処理手段とを含むことを特徴とする画像形成装置。」

(1)刊行物に記載された発明
(刊行物1について)
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-203858号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある。

(1-a)「【請求項1】
サービス要求元からサービスの実行要求と当該サービス要求元の認証情報とを受信する受信手段と、
前記受信手段が前記サービスの実行要求を受け付けたことに基づいて、前記認証情報を用いて前記サービス要求元を認証するための要求を認証サービスに対して発行する認証要求発行手段と、
前記認証要求発行手段による前記サービス要求元を認証するための要求に応答して前記認証サービスから受信した認証結果に基づいて、前記サービス要求元が要求するサービスを実行する実行手段と、
前記実行手段が実行するサービスの実行状態と、前記サービス要求元の認証状態とを関連付けて管理する管理手段と、を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記管理手段は、前記実行手段が実行するサービスの実行に関する情報と、前記サービスの要求元の認証状態とを対応付けて管理することを特徴とする、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記管理手段は、前記実行手段によるサービスの実行が終了した場合、該実行が終了したサービスに対応付けられたサービス要求元の認証状態を終了することを特徴とする、請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記実行手段が実行するサービスのうち少なくとも一つは、複数のサービスを実行することによって提供される複合サービスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記管理手段は、前記実行手段が実行するサービスが複合サービスである場合、当該複合サービスを構成する複数の単独サービスの各々に関する情報を管理することを特徴とする、請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記管理手段は、前記複合サービスを構成する複数の単独サービスの実行順序を管理し、最後に実行する単独サービスの実行が完了した場合に当該複合サービスに対応付けられたサービス要求元の認証状態を終了することを特徴とする、請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記受信手段は、サービス要求元からの操作を受け付けるための操作画面を表示する表示手段を有し、サービス要求元からサービス要求元を特定する情報を受信したことに応答してサービス要求元固有の操作画面を表示することを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記サービスは、印刷サービス、スキャンサービス、画像送信サービス、ストレージサービスのいずれか一つを含むことを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理装置。」

(1-b)「【0012】
特開平11-212912号公報によれば、セッション識別子を認証サーバが管理し、クライアントとサーバ間の通信の際に、当該セッション識別子を情報に付加する事でネットワークセッションの正当性を識別する。この従来技術では、サービスを提供するサーバは、セッションの正当性を確認するため、ネットワークセッションの正当性を判断する度に認証サーバに問い合わせる必要がある。
【0013】
また、この従来技術の構成は、認証サーバが全てのネットワークサービスのセッションを集中管理する。このために、認証サーバが認証処理とセッション管理に関する処理とを一手に行う仕組みになっているため、ノードや処理キューが多い場合にパフォーマンスが劣化するといった問題が発生する。加えて、サービスをあとから追加する場合、認証サーバも合わせて改変しなければならずスケーラビリティの上で問題があった。
【0014】
本発明は、前出の認証セッションをジョブ毎に確実に管理できるようにすることで、悪意を持った利用者の成りすましを防止することを目的とする。また、従来技術におけるパフォーマンスやスケーラビリティの問題を解決することを目的とするものである。」

(1-c)「【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は本発明の一実施形態である、画像処理装置(MFP)とコンピュータ端末とをネットワーク接続したなシステム構成を表すブロック図である。
【0023】
図1において、100は画像処理装置としてのMFPであり、ネットワーク106を介して接続可能なコンピュータ端末102、104へプリントサービス、スキャンサービス、ストレージサービス、送信サービスを提供するネットワーク対応型MFPである。
【0024】
プリントサービスとは、画像データ、あるいはコンピュータ端末102、104が送信する印刷ジョブをMFP100で画像形成し、出力する機能を提供するサービスである。
【0025】
スキャンサービスとは、MFP100で原稿の画像をスキャンし、原稿画像データを生成するサービスである。
【0026】
ストレージサービスとは、MFP100の外部記憶装置120へ画像データを蓄積する機能や、外部記憶装置120に蓄積されている画像データを操作する機能を提供するサービスである。
【0027】
送信サービスとは、MFP100のFAX送信、電子メール送信、ファイル送信などの機能を提供するサービスである。」

(1-d)「【0078】
図3は、MFP100において、ユーザがサービスを利用する時のサービス要求処理フローである。
【0079】
まず、ユーザはサービスの指定に先立ってユーザIDを入力する(ステップS302)。サービスを要求するユーザを識別するためである。ユーザIDの入力には様々な手段があり、例えば、図13のような操作画面を表示して直接ユーザ名を、ローカル操作画面表示部222を介してユーザ画面生成・操作受付処理部224から入力する方法がある。あるいはMFP100に備えられた不図示のICカードリーダ(接触式、非接触式は問わない)に当該ユーザのICカードを読み取らせるなどの方法がある。
【0080】
ユーザID情報は、ユーザ画面生成・操作受付処理部224によって受け付けられ、SOAP処理部218に保持される。
【0081】
図13は操作部122上の液晶表示部801上に表示される、ユーザID入力画面である。不図示のテンキーやキーボードを用いてユーザID入力欄1302にユーザIDを入力し、エンターキー1306を押下して確定する。ここではPINコード入力欄1304にはPINコードを入力してもしなくても良い。また、図13でPINコード入力欄1304を表示しないようにしても良い。
【0082】
この時点でユーザはMFP100のユーザ画面生成・操作受付処理部224を操作することが可能になる。そこで、利用するサービス種別を当該ユーザ画面生成・操作受付処理部224から指定する(ステップS304)。サービス種別の指定は、例えば、サービスボタンを押下する、あるいは画面に表示されたサービス属性指定用のタブを選択するといった操作によって実施される。ユーザの指定したサービス種別情報は、SOAP処理部218によって保持される。
【0083】
SOAP処理部218は、当該サービス種別情報に基づいて、指定されたサービスに対して状態を問い合わせる(ステップS306)。サービスの状態とは、画像処理装置200のジャム中、紙なし、トナーなし、故障、といった情報が含まれる。
【0084】
一方、SOAP処理部218は、ユーザ識別情報とサービス種別情報とを保持しているので、このサービスジョブを指定したユーザの権限情報を取得することが可能である。」

(1-e)「【0106】
ここで、本実施形他における単独サービスと複合サービスについて説明する。
【0107】
MFP100のスキャンサービス208、プリントサービス210、送信サービス214、並びにストレージサービス212といった単独で実行可能なジョブを、本実施形態では単独サービスと呼んでいる。コピーサービスやScan to Sendサービス(原稿をスキャンしてファクシミリなどで送信する機能を提供するサービス)などは、これら単独サービスを複合的に処理することによって提供される複合サービスである。単独サービスは、スキャンサービス208、プリントサービス210、ストレージサービス212、及び送信サービス214などの論理コンポーネントによって実現される。また、物理的には図1のスキャナユニット112、プリンタユニット114、通信部108、及び外部記憶装置120などによって実現される。
【0108】
ユーザ確認に成功しサービス処理(図4のステップS408)が実行されると、セッション管理テーブル230中にセッション管理情報が生成される。そして、生成したセッション管理情報と、SOAP処理部218で管理している、当該サービスを要求したユーザの認証認証状態を関連付ける(ステップS502)。
【0109】
セッション管理テーブル230内に管理されているセッション管理情報として、図14のジョブ識別情報0001を例に説明する。このジョブはスキャンサービス、プリントサービスの順に処理する複合サービスであるコピージョブであり、現在はスキャンサービスを実行しているという情報を有している。一方、ジョブ識別情報0002は、プリントサービス単独で実行可能なプリントジョブである。
【0110】
次に、ステップS504ではセッション管理情報のサービス処理フローに関する情報1406を参照し、複合サービスの処理が必要か否かが判断される。複合サービスの場合は、全てのサービスが完了するまではジョブセッションを維持する必要があるため、この段階で処理を分ける必要がある。
【0111】
複合サービス処理の場合(ステップS504でYes)は、サービス処理フローに関する情報1406で定められた内容にしたがって、順に単独サービスの処理が行われる(ステップS506?S510のループ)。
【0112】
例えば、コピーサービスをユーザが指定した場合、スキャンサービスと印刷サービスが順番に処理されることになる。単独サービスの処理(ステップS506)が完了すると、その状態がセッション管理テーブル230内の当該ジョブのセッション管理情報が更新され(ステップS508)る。そして、次の単独サービスとしてどのサービスを実行しなければならないか判断できるようになっている。」

(1-f)「【0122】
図16は、ユーザIDの入力(ステップS302)からジョブの終了と認証セッションの破棄(ステップS512)までの流れを示すチャートである。このチャートから分かるように、ユーザ認証セッションの開始から終了と、ジョブセッションの開始から終了までが一致していることが分かる。
【0123】
以上、図3?図6の各フローを経て、ユーザの指定したサービス処理が完了し、かつユーザの認証状態が自動的に終了する。他の悪意を持ったユーザが認証済みユーザのログインセッションを利用してなりすましを考えたとしても、ジョブ毎にユーザ認証が必要であり、かつジョブが完了すると強制的にユーザ認証状態が解除されるため、なりすましを防止することができる。」

(1-g)図3として、





(1-h)図4として、





(1-i)図5として、





上記の事項をまとめると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

「サービス要求元からサービスの実行要求と当該サービス要求元の認証情報とを受信する受信手段と、
前記受信手段が前記サービスの実行要求を受け付けたことに基づいて、前記認証情報を用いて前記サービス要求元を認証するための要求を認証サービスに対して発行する認証要求発行手段と、
前記認証要求発行手段による前記サービス要求元を認証するための要求に応答して前記認証サービスから受信した認証結果に基づいて、前記サービス要求元が要求する単独又は複数のサービスを実行する実行手段と、
前記実行手段が実行するサービスの実行状態と、前記サービス要求元の認証状態とを関連付けて管理する管理手段と、を有し、
前記管理手段は、前記実行手段によるサービスの実行が終了した場合、該実行が終了したサービスに対応付けられたサービス要求元の認証状態を終了する、画像処理装置。」

(2)対比
本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。

ア 刊行物1発明の
「サービス要求元」、
「認証情報」、
「認証サービス」、
「認証サービスから受信した認証結果」、
「前記サービス要求元が要求する単独又は複数のサービス」、
「前記サービス要求元の認証状態」、
「(前記サービス要求元が要求する)サービスを実行する実行手段」、
「『前記実行手段が実行するサービスの実行状態と、前記サービス要求元の認証状態とを関連付けて管理する』『前記実行手段によるサービスの実行が終了した場合、該実行が終了したサービスに対応付けられたサービス要求元の認証状態を終了する』『管理手段』」、
「画像処理装置」は、それぞれ、
本願補正発明の
「ユーザ」、
「識別情報」、
「認証手段」、
「認証手段の判断結果」、
「『ログイン後に』『選択される』『(複数の又は他の)異なる処理』」、
「ログイン」、
「前記選択された異なる処理を実行する処理実行手段」、
「ユーザによって選択された前記異なる処理が全て終了した状態でログアウト状態とするログアウト処理手段」、
「(ユーザ認証によりユーザをログインする)画像形成装置」に相当する。

イ 上記アを踏まえれば、刊行物1発明において、「前記認証要求発行手段による前記サービス要求元を認証するための要求に応答して前記認証サービスから受信した認証結果(ユーザ認証の可否を判断する認証手段の判断結果)に基づいて、前記サービス要求元が要求するサービス(ログイン後に選択される異なる処理)を実行する」、すなわち、「サービスの実行」が可能な「サービス要求元の認証状態」(ログイン状態)となるのであり、かつ、「認証サービス」(認証手段)が「認証情報」(識別情報)を確認するための「記憶手段」及び「認証情報(識別情報)取得手段」を備えることは当然の構成である。
また、刊行物1発明の「認証サービス」(認証手段)において、受信した「認証情報」(識別情報)を、登録された「認証情報」(識別情報)と比較して認証を行うことは当然の構成であるから、刊行物1発明の「認証サービス」(認証手段)が、本願補正発明の「取得された被認証識別情報と登録識別情報との対比に基づいて、ユーザ認証の可否を判断する」構成を有することは明らかである。

ウ 上記イから、刊行物1発明の「サービス要求元からサービスの実行要求と当該サービス要求元の認証情報とを受信する受信手段と、前記受信手段が前記サービスの実行要求を受け付けたことに基づいて、前記認証情報を用いて前記サービス要求元を認証するための要求を認証サービスに対して発行する認証要求発行手段と」を備えた構成は、
本願補正発明の「前記ユーザの識別情報を登録識別情報として予め記憶する記憶手段と、前記認証を求めるユーザの被認証識別情報を取得する識別情報取得手段と、取得された前記被認証識別情報と前記登録識別情報との対比に基づいて、前記ユーザ認証の可否を判断する認証手段と、前記認証手段の判断結果がユーザ認証可であるとユーザをログインするログイン手段と」を備えた構成に相当する。

エ 刊行物1発明において、「前記サービス要求元が要求する単独又は複数のサービス」(ログイン後に選択される異なる処理)を実行するための前提として、「(ログイン後に)異なる処理の選択に基づいて、該選択された異なる処理の実行指示を設定する入力手段」を有することは明らかである。
してみると、刊行物1発明の該「(ログイン後に)異なる処理の選択に基づいて、該選択された異なる処理の実行指示を設定する入力手段」と、本願補正発明の「前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記いずれかの異なる処理が選択されると、再度、他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示を行い、前記他の異なる処理が選択されると該選択された各処理を示す処理要求を揮発性メモリに格納し、前記実行が選択されると実行指示を設定する入力手段」とは、「前記ログイン後に、異なる処理の選択に基づいて、該選択された異なる処理の実行指示を設定する入力手段」で一致する。

オ 上記アないしエから、本願補正発明と刊行物1発明とは、
「ユーザ認証によりユーザをログインする画像形成装置であって、
前記ユーザの識別情報を登録識別情報として予め記憶する記憶手段と、
前記認証を求めるユーザの被認証識別情報を取得する識別情報取得手段と、
取得された前記被認証識別情報と前記登録識別情報との対比に基づいて、前記ユーザ認証の可否を判断する認証手段と、
前記認証手段の判断結果がユーザ認証可であるとユーザをログインするログイン手段と、
前記ログイン後に、異なる処理の選択に基づいて、該選択された異なる処理の実行指示を設定する入力手段と、
前記選択された異なる処理を実行する処理実行手段と、
ユーザによって選択された前記異なる処理が全て終了した状態でログアウト状態とするログアウト処理手段とを含む、画像形成装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]:
本願補正発明は、「前記ログイン後に、異なる処理の選択に基づいて、該処理の実行指示を設定する入力手段」が「前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記いずれかの異なる処理が選択されると、再度、他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示を行い、前記他の異なる処理が選択されると該選択された各処理を示す処理要求を揮発性メモリに格納し、前記実行が選択されると実行指示を設定する」ものであり、「前記選択された異なる処理を実行する処理実行手段」が「前記揮発性メモリに前記処理要求が格納されると対応する複数の異なる処理を実行し、前記実行指示が設定されると前記揮発性メモリに対し前記処理要求の未格納を確認した上で対応する前記選択された異なる処理を実行する」のに対し、
刊行物1発明には、その特定がない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

(3-1)相違点について
ア 「画像形成装置」の技術分野において、ユーザに入力を促す画面の設計や、入力の手順などは、ユーザの使い勝手等を考慮して、当業者が適宜変更できる設計的事項であって、「ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行」うこと、「選択された各処理を示す処理要求を揮発性メモリに格納」すること、及び、「実行が選択されると実行指示を設定する」ことなどは、文献等を提示するまでもなく、周知の技術である。

イ 「画像形成装置」の技術分野において、複数のジョブについての実行指示を設定しておき、まとめて実行することは、従来周知の技術である(例.刊行物1に加えて、原査定の拒絶の理由に「引用文献2」として引用された特開2006-79271号公報(段落【0025】?【0033】、【0074】)参照。)。

ウ 刊行物1発明においても、複数の異なる処理の選択を可能としたものであり、かつ、1つの異なる処理を選択した後に、他の異なる処理の選択を促すことは、複数の処理の選択を可能にするために採用すべき自明の構成であるから、刊行物1発明において、「いずれかの異なる処理が選択されると、再度、他の異なる処理の選択を促す表示を行」うことは、当業者が適宜採用できる設計的事項である。
また、1つの異なる処理のみを実行するのであれば、他の異なる処理の選択は不要であるから、「他の異なる処理の選択を促す表示」を「他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示」とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

エ 1つの異なる処理のみを実行する際に、該処理を示す処理要求を揮発性メモリに格納するか否かは、当業者が適宜決定できる設計的事項であって、(1つの異なる処理を示す処理要求は)揮発性メモリに格納しないのであれば、複数の異なる処理を行う際は、揮発性メモリに格納された複数の異なる処理を実行し、1つの異なる処理を行う際は、揮発性メモリは未格納状態ということとなる。
また、異なる処理が全て終了した状態では、揮発性メモリに格納された処理要求は全て破棄されるべきであるから、処理終了後に破棄する構成に代えて、揮発性メモリに対し処理要求の未格納を確認する構成を採用することは、当業者が適宜採用できる設計的事項である。

オ 上記アないしエから、刊行物1発明において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が上記イ及びウの周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(3-2)本願補正発明が奏する効果について
上記相違点によって、本願補正発明が奏する効果は、刊行物1に記載された事項及び周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

(4)まとめ
以上のように、本願補正発明は、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 補正却下の決定についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しており、かつ、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しているので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年2月17日になされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成20年10月20日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであり、特に、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「ユーザ認証によりユーザをログインする画像形成装置であって、
前記ユーザの識別情報を登録識別情報として予め記憶する記憶手段と、
前記認証を求めるユーザの被認証識別情報を取得する識別情報取得手段と、
取得された前記被認証識別情報と前記登録識別情報との対比に基づいて、前記ユーザ認証の可否を判断する認証手段と、
前記認証手段の判断結果がユーザ認証可であるとユーザをログインするログイン手段と、
前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記複数の異なる処理の選択後に実行への選択を入力する入力手段と、
前記入力手段により選択された前記複数の異なる処理要求を実行する処理実行手段と、
前記選択された前記複数の異なる処理要求が全て終了した状態でログアウト状態とするログアウト処理手段とを含むことを特徴とする画像形成装置。」

2 引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載事項は、前記第2 3で示したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2 3で検討した本願補正発明から、「前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記いずれかの異なる処理が選択されると、再度、他の異なる処理の選択及び前記選択した異なる処理の実行の選択を促す表示を行い、前記他の異なる処理が選択されると該選択された各処理を示す処理要求を揮発性メモリに格納し、前記実行が選択されると実行指示を設定する入力手段」及び「前記揮発性メモリに前記処理要求が格納されると対応する複数の異なる処理を実行し、前記実行指示が設定されると前記揮発性メモリに対し前記処理要求の未格納を確認した上で対応する前記選択された異なる処理を実行する処理実行手段」を、それぞれ、「前記ログイン後に複数の異なる処理の選択を促す表示を行い、前記複数の異なる処理の選択後に実行への選択を入力する入力手段」及び「前記入力手段により選択された前記複数の異なる処理要求を実行する処理実行手段」に戻したものである。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2 3に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、当業者が刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
なお、請求人は、当審からの審尋への回答書において、補正の用意がある旨記載しているが、仮に補正されたとしても進歩性を有するものとも認められないので、特許法が補正の時期的制限を設けていることの趣旨に鑑みて、補正の機会を設けることとはしない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-16 
結審通知日 2011-03-17 
審決日 2011-03-29 
出願番号 特願2006-223129(P2006-223129)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 561- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康司清水 督史  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
鈴木 秀幹
発明の名称 画像形成装置  
代理人 佐藤 幸男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ