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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41L
管理番号 1236837
審判番号 不服2010-4055  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-24 
確定日 2011-05-12 
事件の表示 特願2002-304381「両面印刷装置及び用紙搬送部材」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月13日出願公開、特開2004-136584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年10月18日の出願であって、平成21年4月24日及び同年11月9日に手続補正がなされ、平成21年11月9日付けでなされた手続補正が同年11月26日付けで却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月24日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
なお、当審において、平成22年7月27日付けで審尋を行ったところ、審判請求人は同年9月30日付けで回答書を提出した。

第2 本件補正の却下の決定
〔結論〕
本件補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容・目的
(1)補正の内容
ア 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「少なくとも1つの版胴と、前記版胴に用紙を押圧する前記版胴に対応して設けられた少なくとも1つのプレスローラとを有し、前記用紙の一方の面に印刷した後、3秒以内に前記用紙の他方の面に印刷する両面印刷装置であって、
前記用紙の他方の面を前記版胴に押圧するプレスローラの外周面には、平均直径0.04?0.08mmの球状体が最大段差0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチ0.15?0.40mmとなるように多数配置されて形成された段差部が設けられていることを特徴とする両面印刷装置。」
から、
「少なくとも1つの版胴と、前記版胴に用紙を押圧する前記版胴に対応して設けられた少なくとも1つのプレスローラとを有し、前記用紙の一方の面に印刷した後、3秒以内に前記用紙の他方の面に印刷する両面印刷装置であって、
前記用紙の他方の面を前記版胴に押圧するプレスローラの外周面には、異なる直径を有する平均直径0.04?0.08mmの複数の球状体が、各球状体頂点間の最大段差0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチ0.15?0.40mmとなるように配置されて形成された段差部が設けられていることを特徴とする両面印刷装置。」に補正することを含むものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

イ 本件補正後の請求項1に係る補正は以下の補正内容からなる。
(ア)「球状体」について、「多数」との限定を削除する。
(イ)「球状体」について、「複数」であることを限定する。
(ウ)「球状体」について、「異なる直径を有する」ことを限定する。
(エ)「最大段差」について、「各球状体頂点間の」ものであることを限定する。

(2)補正の目的
ア 上記(1)イ(ア)の「多数」との限定を削除する補正内容は、形式的には拡張である。
しかしながら、本件補正後の請求項1に係る発明において、球状体は複数であり(上記(1)イ(イ)参照。)、補正前と同様、最大段差0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチ0.15?0.40mmとなるように配置されて段差を形成するものであり、かつ、球状体の数を多数と限定するか否かにより実質的な違いが生じるものとは認められない。
してみると、上記(1)イ(ア)の補正内容は、実質的な補正でない。
イ 上記(1)イ(イ)ないし(エ)の補正内容は、それぞれ、本件補正前の請求項1に記載されていた発明を特定するために必要な事項である「球状体」、「球状体」及び「最大段差」について限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
ウ 上記ア及びイから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される事項を目的とするものである。よって、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 刊行物に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-219849号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
・・・(略)・・・
【請求項2】 孔版原紙が外周壁に装着可能で回転自在な版胴と、この版胴の外周壁に押圧する押圧位置と前記版胴の外周壁より離間する離間位置との間で変移可能で回転自在な押圧回転部材とを有する上流側及び下流側の2組の印刷部と、前記上流側印刷部に印刷媒体を給紙する給紙部と、前記上流側印刷部より排紙された前記印刷媒体を前記下流側印刷部まで搬送して給紙する上流側搬送機構とを有し、前記給紙部より前記上流側印刷部に給紙された前記印刷媒体が共に回転する上流の前記版胴と前記押圧回転部材との間で押圧搬送され、この押圧搬送過程で前記印刷媒体の一方の面にインク転写され、このインク転写された前記印刷媒体が前記上流側搬送機構で搬送されて前記下流側印刷部に給紙され、この給紙された前記印刷媒体が共に回転する下流側の前記版胴と前記押圧回転部材との間で押圧搬送され、この押圧搬送過程で前記印刷媒体の他方の面にインク転写されることによって両面印刷が行われる孔版印刷装置において、
少なくとも下流側の前記押圧回転部材の外周面に微小な凹凸が設けられていることを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項3】 請求項1又は請求項2記載の孔版印刷装置であって、
前記押圧回転部材の外周面の凹凸は深さが0.035mm以上のものであることを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項4】 請求項1又は請求項2記載の孔版印刷装置であって、
前記押圧回転部材の外周面の凹凸は深さが0.044mm以上のものであることを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項5】 請求項1?請求項4記載の孔版印刷装置であって、
前記押圧回転部材の外周面の凹凸は頂点間の間隔が0.64mm以下のものであることを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項6】 請求項1?請求項5記載の孔版印刷装置であって、
前記押圧回転部材の外周面の凹凸は点状の凹凸であることを特徴とする孔版印刷装置。・・・(略)・・・
【請求項9】 請求項6記載の孔版印刷装置であって、
前記押圧回転部材の外周面の点状の凹凸は前記押圧回転部材の表面に多数の球状体を配置して形成されたことを特徴とする孔版印刷装置。
・・・(略)・・・」

(2)「【0006】ところで、上記した両面印刷用の孔版印刷装置100においては、上流側印刷部109で上面側に印刷された印刷用紙107がインク未定着の状態で下流側印刷部115に給紙され、下流側印刷部115では印刷用紙107のインク未定着状態の上面側を押圧ロール114で押圧する。従って、図17に示すように、押圧ロール114の外周面と印刷用紙107の未定着インク130とが広い範囲で面接触される。そのため、押圧ロール114と印刷用紙107とが離間する際に面接触した箇所に対応する未定着インク130部分が開き裂かれて未定着インク130の一部が押圧ロール114側に付着することになる。つまり、未定着インク130が押圧ロール114に転写され、この転写インクがさらに印刷用紙107に再転写する等して印刷用紙107を汚染するという問題があった。」

(3)「【0010】そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、簡単な構成で、且つ、印刷媒体の印刷濃度をほとんど低下させることなく印刷媒体の汚染を防止できる孔版印刷装置を提供することを目的とする。」

(4)「【0013】請求項2の発明は、孔版原紙が外周壁に装着可能で回転自在な版胴と、この版胴の外周壁に押圧する押圧位置と前記版胴の外周壁より離間する離間位置との間で変移可能で回転自在な押圧回転部材とを有する上流側及び下流側の2組の印刷部と、前記上流側印刷部に印刷媒体を給紙する給紙部と、前記上流側印刷部より排紙された前記印刷媒体を前記下流側印刷部まで搬送して給紙する上流側搬送機構とを有し、前記給紙部より前記上流側印刷部に給紙された前記印刷媒体が共に回転する上流の前記版胴と前記押圧回転部材との間で押圧搬送され、この押圧搬送過程で前記印刷媒体の一方の面にインク転写され、このインク転写された前記印刷媒体が前記上流側搬送機構で搬送されて前記下流側印刷部に給紙され、この給紙された前記印刷媒体が共に回転する下流側の前記版胴と前記押圧回転部材との間で押圧搬送され、この押圧搬送過程で前記印刷媒体の他方の面にインク転写されることによって両面印刷が行われる孔版印刷装置において、少なくとも下流側の前記押圧回転部材の外周面に微小な凹凸が設けられていることを特徴とする。
【0014】この孔版印刷装置では、少なくとも下流側の押圧回転部材の外周面に単に微小な凹凸を設けるだけで良く、又、少なくとも下流側の押圧回転部材の外周面と印刷媒体の未定着インク面側との接触面積が少なく、押圧回転部材が印刷媒体より離間する際に押圧回転部材が接触しなかった部分に対応する部分の未定着インクが押圧回転部材側に付着しないことから未定着インクが押圧回転部材側にあまり付着しない。
【0015】請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載の孔版印刷装置であって、前記押圧回転部材の外周面の凹凸は深さが0.035mm以上のものであることを特徴とする。
【0016】この孔版印刷装置では、請求項1又は請求項2の発明の作用に加え、押圧回転部材が印刷媒体を介して版胴を押圧する際に、押圧回転部材の外周面の凹凸段差が大きいことから凹部が印刷媒体の未定着インクにほとんど接触することがなく、未定着インクの押圧回転部材への転写を十分に少なくできる。
【0017】請求項4の発明は、請求項1又は請求項2記載の孔版印刷装置であって、前記押圧回転部材の外周面の凹凸は深さが0.044mm以上のものであることを特徴とする。
【0018】この孔版印刷装置では、請求項1又は請求項2の発明の作用に加え、押圧回転部材が印刷媒体を介して版胴を押圧する際に、押圧回転部材の外周面の凹凸段差が十分に大きいことから凹部が印刷媒体の未定着インクに全くと言っていいほど接触することがなく、未定着インクの押圧回転部材への転写をより十分に少なくすることができる。
【0019】請求項5の発明は、請求項1?請求項4記載の孔版印刷装置であって、前記押圧回転部材の外周面の凹凸は頂点間の間隔が0.64mm以下のものであることを特徴とする。
【0020】この孔版印刷装置では、請求項1?請求項4の発明の作用に加え、押圧回転部材が印刷媒体を介して版胴を押圧する際に、押圧回転部材の外周面の凹凸間隔が狭いことから目視で見えるような凹凸パターンが印刷画像に現れない。
【0021】請求項6の発明は、請求項1?請求項5記載の孔版印刷装置であって、前記押圧回転部材の外周面の凹凸は点状の凹凸であることを特徴とする。
【0022】この孔版印刷装置では、請求項1?請求項5の発明の作用に加え、押圧回転部材の外周面にどの方向にもほぼ均等に凹凸が形成される。
・・・(略)・・・
【0027】請求項9の発明は、請求項6記載の孔版印刷装置であって、前記押圧回転部材の外周面の点状の凹凸は前記押圧回転部材の表面に多数の球状体を配置して形成されたことを特徴とする。
【0028】この孔版印刷装置では、請求項6の発明の作用に加え、多数の球状体自体を別個に作成し、これを押圧回転部材の外周面に接着したりして配置することにより微小な凹凸を作成できる。」

(5)「【0080】又、第2実施形態の評価結果より、押圧ロール56の外周面56aの凹凸は、深さが0.044mm以上のものであれば、印刷用紙45の汚染をなくすことができる(汚染状況が◎の評価)。つまり、押圧ロール56が印刷用紙45を介して版胴50を押圧する際に、押圧ロール56の外周面56aの凹凸段差が十分に大きいことから凹部が印刷用紙45の未定着インクに全くと言っていいほど接触することがなく、未定着インクの押圧ロール56への転写をより十分に少なくすことができるため、目視で見えるような印刷用紙45の汚染をより確実に防止できたと考えられる。
【0081】又、第1実施形態及び第2実施形態の評価結果より、押圧ロール56の外周面56aの凹凸は、頂点間の間隔が0.64mm以下のものであれば、印刷用紙45の裏面側の印刷がムラなく、綺麗にできる(画像品質が○の評価)。つまり、押圧ロール56が印刷用紙45を介して版胴50を押圧する際に、押圧ロール56の外周面56aの凹凸間隔が狭いことから目視で見えるような凹凸パターンが印刷画像に現れないため、品質の良い画像が得られたと考えられる。」

(6)「【0085】又、第1実施形態?第3実施形態の評価結果を総合すると、押圧ロール56の外周面56aの凹凸は、その頂点間の間隔が0.10?0.64mmで、その深さが0.035(好ましくは0.044)?0.20mmであり、押圧ロール56に500ミリパスカルセカンド(mpa・s)以下の粘度のシリコーンオイルを塗布することが好ましいと考えられる。

(7)「【0093】又、第4実施形態に示す点状の凹凸の具体的作成手段としては、図10(A),(B)に示すものと、図11(A),(B)に示すものとがある。
【0094】図10(A),(B)の点状の凹凸は、円筒状のスクリーンメッシュ80を押圧ロール56の外周面56aに被せ、又は、スクリーンメッシュ80を押圧ロール56の外周面56aに接着することにより形成されている。つまり、前記第1?第3実施形態で使用したものである。図11(A),(B)の点状の凹凸は、多数の点状体である球状体81を接着材82で押圧ロール56の外周面56aに接着することにより形成されている。
・・・(略)・・・
【0096】図11(A),(B)に示す具体例は、多数の球状体81自体を押圧ロール56とは別個に作成し、これを押圧ロール56の外周面56aに接着したりして配置することにより微小な凹凸を作成できるため、点状の凹凸を容易に作成できる。」

(8)上記(1)の「【請求項2】 ・・・(略)・・・前記給紙部より前記上流側印刷部に給紙された前記印刷媒体が共に回転する上流の前記版胴と前記押圧回転部材との間で押圧搬送され、この押圧搬送過程で前記印刷媒体の一方の面にインク転写され、このインク転写された前記印刷媒体が前記上流側搬送機構で搬送されて前記下流側印刷部に給紙され、この給紙された前記印刷媒体が共に回転する下流側の前記版胴と前記押圧回転部材との間で押圧搬送され、この押圧搬送過程で前記印刷媒体の他方の面にインク転写されることによって両面印刷が行われる孔版印刷装置」の記載より、該孔版印刷装置は、上流側印刷部で印刷媒体の一方の面にインク転写した後、下流側印刷部で他方の面にインク転写することによって両面印刷を行うものといえる。

(9)上記(1)ないし(8)から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「版胴と、この版胴の外周壁に押圧する押圧位置と前記版胴の外周壁より離間する離間位置との間で変移可能で回転自在な押圧回転部材とを有する上流側及び下流側の2組の印刷部を有し、上流側印刷部で印刷媒体の一方の面にインク転写した後、下流側印刷部で他方の面にインク転写することによって両面印刷を行う孔版印刷装置において、
別個に作成した多数の球状体を少なくとも下流側の前記押圧回転部材の外周面に接着したりして配置することにより、凹凸の深さが0.044?0.20mm、凹凸の頂点間の間隔が0.10?0.64mmの微小な点状の凹凸が形成された孔版印刷装置。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における
「版胴」、
「この版胴の外周壁に押圧する押圧位置と前記版胴の外周壁より離間する離間位置との間で変移可能で回転自在な押圧回転部材」、
「上流側印刷部で印刷媒体の一方の面にインク転写した後、下流側印刷部で他方の面にインク転写することによって両面印刷を行う孔版印刷装置」、
「下流側の前記押圧回転部材の外周面」、
「多数の球状体」及び
「『多数の球状体を』『配置することにより』『形成された』『微小な点状の凹凸』」は、それぞれ、本願補正発明における
「少なくとも1つの版胴」、
「前記版胴に用紙を押圧する前記版胴に対応して設けられた少なくとも1つのプレスローラ」、
「『前記用紙の一方の面に印刷した後、』『前記用紙の他方の面に印刷する両面印刷装置』」、
「用紙の他方の面を前記版胴に押圧するプレスローラの外周面」、
「複数の球状体」及び
「『複数の球状体が』『配置されて』『形成された』『段差部』」に相当する。

(2)上記(1)から、本願補正発明と引用発明とは、
「少なくとも1つの版胴と、前記版胴に用紙を押圧する前記版胴に対応して設けられた少なくとも1つのプレスローラとを有し、前記用紙の一方の面に印刷した後、前記用紙の他方の面に印刷する両面印刷装置であって、
前記用紙の他方の面を前記版胴に押圧するプレスローラの外周面には、複数の球状体が配置されて形成された段差部が設けられている両面印刷装置。」
の点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:
前記両面印刷装置が前記用紙の一方の面に印刷してから他方の面に印刷するまでの時間が、本願補正発明では3秒以内であるのに対して、引用発明では不明である点。

相違点2:
前記複数の球状体が、本願補正発明では、異なる直径を有し、平均直径0.04?0.08mmであるのに対して、引用発明では、直径が特定されていない点。

相違点3:
前記段差部が、本願補正発明では、各球状体頂点間の最大段差0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチ0.15?0.40mmとなるように形成されているのに対して、引用発明では、そうでない点。

4 判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア 孔版印刷装置において生産性を高めることは自明の課題である。
イ 孔版印刷装置において、生産性(単位時間当たりの印刷枚数)と印刷媒体の搬送速度及び印刷速度(版胴の回転速度)との間に密接な相関があることは当業者に明らかである。
ウ 引用発明において生産性を高めるべく(上記ア参照。)、印刷媒体の搬送速度及び印刷速度(版胴の回転速度)を高めると(上記イ参照。)、一方の面の印刷から他方の面の印刷までの時間が短くなることは当業者に明らかである。
そして、(生産性に着目する限り、)生産性は高ければ高いほど、すなわち、一方の面の印刷から他方の面の印刷までの時間が短ければ短いほど望ましいのであるから、一方の面の印刷から他方の面の印刷までの時間を3秒以内とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
エ よって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、生産性を高めるという孔版印刷装置における自明の課題(上記ア参照。)に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
ア 球状体の直径に関して、本願明細書【0173】には、「図21は、第2の実施例の変形例に用いられるシート部材13sの部分断面図を示している。段差部であるシート部材13sは、平均直径Dが80μmの球状体13tと平均直径Dが30μmの球状体13uとを一定の割合(この例では1:3)で混合して樹脂シート13k上に接着することにより構成されている。」の記載がある。
しかしながら、本願補正発明における球状体は、「異なる直径を有する平均直径0.04?0.08mm」のものに過ぎないから、該球状体は、平均粒径の異なる2群の球状体を混合したものとまで限定するものとは認められず、また、本願補正発明の球状体は、直径のばらつきの大きさについては何ら特定されていない。
イ 物品の寸法がばらつき、大きさが揃わないことは、広く一般的な事項である。
上記アのように、本願補正発明においては、直径のばらつきの大きさ等、どの程度に直径が異なるのか何ら特定されていないのであるから、球状体の「異なる直径」が、一般的な寸法のばらつき以上の事項を限定しているとまでは認められない。
ウ 引用発明において、球状体そのものの大きさ、直径は何ら特定されておらず、また、(下記エのような)寸法の決めがある場合であっても、一般的な寸法のばらつきは生じ得るところ、上記ア及びイからすると、引用発明の多数の球状体も、本願補正発明の球状体と同じく異なる直径(直径のばらつき)を有するものといえる。
エ 下流側の前記押圧回転部材の外周面に、別個に作成した多数の球状体を接着したりして配置することにより、深さ0.044?0.20mmの凹凸を形成する引用発明において、球状体の最も高い位置が凹凸の凸となり、球状体の存在しない箇所が凹凸の凹となり得ることは、当業者に自明の事項であるところ、凹凸の深さの調整を球状体の大きさで行うこと、すなわち、凹凸の深さを0.044?0.20mmとするために、該凹凸の深さ(0.044?0.20mm)と同程度の直径を有する球状体を用いることも当業者に自明の事項である。
オ 引用発明における凹凸の深さ及びこれを左右する球状体の直径(上記エ参照。)は、発明の実施に際して、未定着インクが押圧ロール側に付着することのないよう当業者によって適宜好適なものが選択される。
カ しかるに、引用発明の実施に際して用いられると考えられる球状体の直径0.044?0.20mmと、本願補正発明の平均直径0.04?0.08mmとは、0.044?0.08mmの範囲で重なっている。
キ 本願補正発明と引用発明とは、いずれも、用紙の一方の面に付着しているインキが、他方の面の印刷時にプレスローラに付着して生じるインキ転移汚れの防止を課題とするものである(本願明細書【0009】?【0013】、上記2(2)及び(3)参照。)。
ク また、数値範囲の好適化を行うことは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、この点に進歩性はないとされている。
ケ したがって、球状体の大きさとして、本願補正発明のインキ転移汚れの発生を効果的に防止するのに好適な範囲である平均直径0.04?0.08mmを採用することは、当業者が適宜なし得た程度のことである。
上記のとおり、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得たことである。

(3)相違点3について
ア 本願補正発明の「各球状体頂点間の最大段差」及び「最大突出部間の平均ピッチ」は、その算出方法によって技術的事項(プレスローラの外周面の状態)が変化し得るものであるところ、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明のいずれにも、これらの値の算出方法についての具体的な説明(明確な記載)はない。
イ 審判請求人は、回答書において「平成22年2月24日付手続補正書において補正した『最大突出部間の平均ピッチ0.15?0.40mmとなる』という文言は、本件発明における球状体はその直径が0.04?0.08mm程度と非常に小さいため、例えば1mm角の面積中に100個以上もの球状体が存在し観察及び計測が顕微鏡レベルでしか行うことができないことから、図20に示すような顕微鏡レベルで計測を行う場合に球状体が10?20個程度存在するエリアの範囲内における表現を表しています。つまり、球状体が10?20個程度存在するエリア内における球状体頂点間の最大段差を示しているのが図20におけるH寸法(0.03?0.10)となります。そして、『最大突出部間の平均ピッチ』という表現は確かに不適切なものでしたが、球状体が10?20個程度存在するエリア内における頂点が高い2つの球状体間のピッチを示すものであり、図20に符号Wで示しているものとなります。そこで、『各球状体間の最大段差0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチ0.15?0.40mmとなる』という文言を『所定の範囲内において各球状体間の最大段差が0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチが0.15?0.40mmとなる』と補正したいと思料いたします。」と主張している。
ウ 上記ア及びイから、回答書における審判請求人の主張に基づいて、相違点3の「各球状体頂点間の最大段差0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチ0.15?0.40mmとなる」を、『所定の範囲内において各球状体間の最大段差が0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチが0.15?0.40mmとなる』を意味するものと解し、相違点3を次の相違点3’に改めて、以下相違点3’について検討する。

相違点3’:
前記段差部が、本願補正発明では、所定の範囲内において各球状体間の最大段差が0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチが0.15?0.40mmとなるように形成されているのに対して、引用発明では、そうでない点。

エ 上記(2)ケから、異なる直径を有し、平均直径0.04?0.08mmである球状体を用いて、押圧回転部材の外周面の凹凸段差が十分に大きいことから凹部が印刷媒体の未定着インクに全くと言っていいほど接触することがなく、未定着インクの押圧回転部材への転写をより十分に少なくすることができるようになした引用発明を得ることは、当業者が適宜なし得たことである。
オ 次に、上記エのようになした引用発明が、上記相違点3’に係る本願補正発明の構成を備えるか否かについて検討する。
本願補正発明の「所定の範囲内において各球状体間の最大段差が0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチが0.15?0.40mmとなる段差を形成するようになされる」とは、所定の範囲に何ら定めがないのであるから、いずれかの範囲内において、「各球状体間の最大段差が0.03?0.10mmかつ最大突出部間の平均ピッチが0.15?0.40mmとなる段差」が得られれば良いというものである。
しかるに、所定の範囲の定め方により、各球状体間の最大段差も、最大突出部間の平均ピッチも変化し得るものであるところ、同様の球状体を用いて(上記エ参照。)、同様の課題を解決する本願補正発明と引用発明とが(上記(2)カ参照。)、同様の構造をなすことは容易に想像がつくところである。
そして、各球状体間の最大段差及び最大突出部間の平均ピッチの測定範囲は、適宜変更し得るものであり、これに伴って、求められる値も変わるのであるから、上記エのようになした引用発明において、上記相違点3’に係る本願補正発明の構成となすことは、測定範囲をいかにとるかという設計上の事項というより他ない。
カ してみると、引用発明において、上記相違点3’に係る本願補正発明の構成を備えるものとなすことは、当業者が容易になし得たことである。

(4)効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明が奏する効果から当業者が予測し得る程度のものである。

(5)したがって、本願補正発明は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条5項の規定に違反するものであり、同法第159条1項で読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下されるべきものである。

5 小括
以上のとおりであるから、本件補正は却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成21年4月24日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)」で本件補正前の請求項1として記載したとおりである。

2 刊行物に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」で述べたとおり、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものであるから、本願補正発明は、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する。そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕4」に記載したとおり、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、当審からの審尋への回答書において、補正の用意がある旨記載しているが、上記「第2〔理由〕4(3)」で検討したとおり、仮に補正されたとしても進歩性を有するものとも認められないので、特許法が補正の時期的制限を設けていることの趣旨に鑑みて、補正の機会を設けることとはしない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-09 
結審通知日 2011-03-15 
審決日 2011-03-28 
出願番号 特願2002-304381(P2002-304381)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41L)
P 1 8・ 575- Z (B41L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 裕子國田 正久  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 藏田 敦之
菅野 芳男
発明の名称 両面印刷装置及び用紙搬送部材  
代理人 本多 章悟  
代理人 樺山 亨  

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