• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D
管理番号 1236967
審判番号 不服2007-8126  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-20 
確定日 2011-05-11 
事件の表示 特願2002-222875「気体浄化フィルターユニット及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日出願公開、特開2004- 57997〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成14年7月31日の出願であって,平成18年12月15日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成19年3月20日に拒絶査定不服審判が請求され,同年4月19日付けで手続補正がなされ,その後,平成22年5月27日付けで平成19年4月19日付けの手続補正が却下されるとともに,拒絶理由が通知され,これに対し,平成22年9月1日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?3に係る発明は,平成22年9月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

【請求項1】 金属製の胴部,該前記胴部の両端に気密に結合した金属製の端板,及び前記両端板をそれぞれ貫通する気体入口を備えた金属製の気体入口部材及び気体出口を備えた金属製の気体出口部材を有し,前記気体入口には金属製又はセラミック製の第1の多孔質濾過部材を設け,前記胴部の内部には物理吸着性で耐熱性の粒状の清浄な気体精製材を充填し,前記気体出口には前記精製材の微粉を通さない細孔を有する金属製又はセラミック製の第2の円筒状多孔質濾過部材を設けてなる,耐熱性で前記気体入口及び気体出口で閉鎖可能な気体浄化用フィルターユニットを組立後,前記フィルターユニットの内部を前記気体入口から導入される水素,酸素,空気,不活性ガスの少なくとも一種の気体で掃気しながら,又は前記気体出口を低圧力源に接続した状態で,前記フィルターユニットの全体を100℃?250℃に加熱して所定の清浄度を達成するまで高温加熱処理を行った後,前記フィルターユニットの前記気体入口及び出口を栓体でそれぞれ閉鎖することにより,前記フィルターユニット構成部品の精製対象気体との接触部と精製材の清浄度を一括して高め,使用時期まで長期保存を可能にした,気体浄化用フィルターユニットの製造方法。

3.当審の拒絶理由
一方,当審において平成22年5月27日付けで通知した拒絶の理由の概要は,平成18年6月16日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された発明は,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物1:実願昭51-59563号(実開昭52-151144号)のマイクロフィルム(以下,「引用例1」という。),刊行物2:特開昭63-51918号公報(以下,「引用例2」という。),刊行物3:特開2002-102638号公報(以下,「引用例3」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

4.引用例の記載事項
(1)引用例1:実願昭51-59563号(実開昭52-151144号)のマイクロフィルム
(ア)「(1)中空のカラム状容器に吸着剤を充填して密封し,該カラム使用時にカラム端を開封して使用する吸着カラム。
(2)吸着剤として,ゼオライトを用いる実用新案登録請求の範囲第1項記載の吸着カラム」(実用新案登録請求の範囲第1項?第2項)
(イ)「化学工場,化学実験室などで,空気及び各種ガスの乾燥,有機溶剤の脱水乾燥,各種ガス及び液体の精製・分離,イオン交換などの物質の吸着又は吸収操作を行う際,吸着剤をその都度カラムなどに充填して使用する場合が多い。吸着剤を充填する場合,例えば,大気中の水分などの被吸着物が,充填中にこれらに吸着し,後にこれらを使用した際吸着等の効率が低下するなど好ましくない。」(第1頁末行?第2頁8行)
(ウ)「本考案に用いるカラムは中空体部と複数個の開口部を持つものであれば良い・・・。尚密封の際,吸着剤を減圧下及び/又は加熱下に置き又は,乾燥窒素を流通させ,ついで密閉すると,後にこれを使用する場合効果的である。
本考案に用いる吸着剤は活性炭,活性アルミナ,シリカゲル,ゼオライトなどの通常の吸着剤で良いが,ゼオライトが・・・好ましい。」(第2頁13行?第3頁14行)
(エ)「第1図は本考案の一例で吸着剤を充填し開口部を密閉した状態を示す。・・・2は吸着剤,3は口部,4は吸着剤を保持する物質でガラスウールなど吸着剤を通過させないものであれば良い。」(第4頁4?10行)
(オ)「第1図」には上記(エ)の技術内容が図示され,そこには「カラム1の両端に吸着剤2を保持する物質が配設されている」ことが窺える。

(2)引用例2:特開昭63-51918号公報
(ア)「(1)半導体製造プロセスにおける反応室のガス取入れ口側に接続されるガス精製器であつて,ガスの流入口および流出口を備えたハウジングと,このハウジング内に収容された不純ガス除去用の吸着剤と,上記ハウジング内おいて上記流入口と上記吸着剤との間に設けられた第1フィルタと,上記ハウジング内において上記吸着剤と上記流出口との間に設けられた微粒子捕集用の高密度第2フィルタとを具備したことを特徴とする半導体製造装置用ガス精製器。」(特許請求の範囲)
(イ)「第1図に示されたガス精製器1は,略円筒形の金属製ハウジング2を備えている。このハウジング2は,図示上端側が開口する有底のハウジング本体2aと,このハウジング本体2aの開口を塞ぐハウジング蓋2bとを備えて構成されている。上記ハウジング蓋2bは,ねじ部3aを備えたねじ込み式のキャップ3によってハウジング本体2aに固定されている。ハウジング本体2aとハウジング蓋2bとの間には,メタルガスケット4が設けられていて両者間の気密を維持している。」(第2頁左下欄16行?同頁右下欄5行)
(ウ)「この第2フィルタ12は,ガスの通過する濾過面積を大きくとれるように先端が閉じた略円筒形に形成されている。・・・上記第2フィルタ12は,吸着剤9から発生した微小塵埃や水粒子,異物等の微粒子を捕集する機能をもち,目のあらさは一例として0.1μと充分小さなものを使用する。第2フィルタ12の素材としては,機械的な強度が高くかつ吸着剤9の再生時の高温(例えば約350℃)にも耐えることが必要であるから,例えばステンレス鋼等の焼結金属やアルミナ(Al_(2)O_(3))セラミック製のものが採用できるが,特に耐腐食性を有する導電性セラミック(SiCのようなもの)が望ましい。」(第3頁左上欄末行?同頁右上欄16行)
(エ)「吸着剤9の加熱を行なうには,ハウジング2の外部からヒータあるいは炉によって加熱すればよい」(第4頁左上欄10?12行)

(3)引用例3:特開2002-102638号公報
(ア)「【従来の技術】従来より,半導体製造装置などのエアラインでケミカルフィルタが使用されているが,ケミカルフィルタで除塵した清浄空気や窒素ガスなどにガス状の汚染物が微量ながら混在していることがある。
ところで,半導体のパターンの微細化の進展に伴い,混在していた微量のガス状の汚染物が半導体製造装置の露光レンズに付着して生じる曇りが次世代の問題として浮上してきた。すなわち微細パターン化が進むと,露光レンズの曇りにより焦点が極小最適化した状態で結ぶことできず,基板への光学的処理が上手く行えなくなるのである。」(段落【0002】?【0003】)
(イ)「ここでベーキング温度が約100℃よりも低いとユニット本体に有機溶剤(IPAなど)が残留することがあり,約300℃よりも高いと冷却に非常に時間がかかってしまうという不具合があった。
なお前記ユニット本体の材質は,アウトガスが少なく耐圧強度に優れたSUSを用いることが好ましい。前記清浄気体としてクリーンエアーや不活性ガスなどを例示することができ,前記不活性ガスとしてヘリウムガスや窒素ガスを例示することができる。」(段落【0009】?【0010】)
(ウ)「【発明の実施の形態】以下,この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4に示すように,この実施形態のケミカルフィルタ1は,処理すべき気体(空気や窒素ガス等)の流通路(半導体の製造装置のエアライン等)に配設され,ガス吸着剤2が収容されると共に,前記ガス吸着剤2は不織布3(図4参照)で囲繞されている。4は,流通路でのケミカルフィルタ1との接続用のプラグである。」(段落【0013】?【0014】)
(エ)「・・・(実施例1)50℃ではなく,150℃で30分ベーキングする以外は比較例2と同様の処理を行った。・・・」(段落【0022】)
3-2.対比・判断
引用例1には,記載事項(ア)に「中空のカラム状容器に吸着剤を充填して密封し,該カラム使用時にカラム端を開封して使用する吸着カラム」が記載されている。この記載の「吸着カラム」については,記載事項(イ)の「化学工場,化学実験室などで,空気及び各種ガスの乾燥,有機溶剤の脱水乾燥,各種ガス及び液体の精製・分離,イオン交換などの物質の吸着又は吸収操作を行う際,吸着剤をその都度カラムなどに充填して使用する」との記載によれば「各種ガスの精製・分離」などの用途に用いられているといえ,また,記載事項(エ)及び(オ)によれば「カラム状容器」の両端には「吸着剤を保持する物質」が配設されているとみることができる。また,上記記載の「吸着剤を充填して密封」に関し,記載事項(ウ)に「密封の際,吸着剤を減圧下及び/又は加熱下に置き又は,乾燥窒素を流通させ,ついで密閉する」ことが記載されているといえる。
以上の記載を,本願補正発明の記載振りに則して整理すると,引用例1には「内部に吸着剤が充填され,両端に吸着剤を保持する物質が配設された,各種ガスの精製・分離などに用いられる吸着カラムの密封の際,吸着剤を減圧下及び/又は加熱下に置き又は,乾燥窒素を流通させ,ついで密閉され,該カラム使用時にカラム端を開封して使用される,吸着カラムの製造方法」の発明(以下,「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。
そこで,本願発明と引用例1発明を対比すると,引用例1発明の「吸着剤」については,本願発明の「吸着剤」として例示「(段落【0008】,【0010】等)される「活性炭あるいはゼオライト」と同じ「活性炭,活性アルミナ,シリカゲル,ゼオライトなど」が例示(記載事項(ウ))され,また「吸着カラム」には「吸着剤が充填され」ていることからみて,引用例1発明の「吸着剤」は本願発明の「物理吸着性の耐熱性の粒状の気体精製材」に相当するといえる。また,引用例1発明の「各種ガスの精製・分離に用いられる吸着カラム」は,本願発明の「気体浄化用フィルターユニット」に相当し,胴部を備えることは自明のことである。また,引用例1発明の「吸着剤を減圧下及び/又は加熱下に置き又は,乾燥窒素を流通させ」ことと,本願発明の「前記フィルターユニットの内部を前記気体入口から導入される水素,酸素,空気,不活性ガスの少なくとも一種の気体で掃気しながら,又は前記気体出口を低圧力源に接続した状態で,前記フィルターユニットの全体を100℃?250℃に加熱」することは,「前記気体出口を低圧力源に接続した状態で,前記フィルターユニットを加熱」することで共通している。また,引用例1発明の「密封」と本願発明の「閉鎖」とは,技術的にみて「閉鎖」という意味で共通し,引用例1発明の「吸着カラム」は「密閉され,該カラム使用時にカラム端を開封して使用される」ものであることから,「前記気体入口及び気体出口で閉鎖可能」であることは自明である。
以上のことから, 両者は,「胴部の内部には物理吸着性の耐熱性の粒状の気体精製材を充填し,耐熱性で前記気体入口及び気体出口で閉鎖可能な気体浄化用フィルターユニットの内部を前記気体出口を低圧力源に接続した状態で,前記フィルターユニットを加熱して加熱処理を行った後,前記フィルターユニットを閉鎖する,気体浄化用フィルターユニットの製造方法。」で一致し,以下の点で相違する。

相違点a:本願発明が「金属製の胴部,該前記胴部の両端に気密に設けた金属製の端板,及び前記両端板をそれぞれ貫通する気体入口を備えた金属製の気体入口部材及び気体出口を備えた金属製の気体出口部材を有し,前記気体入口には金属製又はセラミック製の第1の多孔質濾過部材を設け」,「前記気体出口には前記精製材の微粉を通さない細孔を有する金属製又はセラミック製の第2の円筒状多孔質濾過部材を設けてなる」気体浄化用フィルターユニットであるのに対し,引用例1発明は「両端に吸着剤を保持する物質が配設され」吸着カラムである点
相違点b:本願発明が,フィルターユニットを「組立後,前記フィルターユニットの全体を100℃?250℃に加熱して所定の清浄度を達成するまで高温加熱処理を行」うのに対し,引用例1発明は「吸着カラムの密封の際,吸着剤を減圧下及び/又は加熱下に置」くものであり,「組立」や「全体を100℃?250℃に加熱」することが特定されていない点
相違点c:本願発明が加熱処理「後,前記フィルターユニットの前記気体入口及び出口を栓体でそれぞれ閉鎖することにより,前記フィルターユニット構成部品の精製対象気体との接触部と精製材の清浄度を一括して高め,使用時期まで長期保存を可能にした」ものであるのに対し,引用例1発明では,「密閉され,該カラム使用時にカラム端を開封して使用される」ものであるが,「栓体で閉鎖する」ことや「構成部品の精製対象気体との接触部と精製材の清浄度を一括して高め,使用時期まで長期保存を可能にした」ことが特定されていない点

これらの相違点について検討する。
A.相違点aについて
引用例2には,記載事項(ア)に「半導体製造プロセスにおける反応室のガス取入れ口側に接続されるガス精製器であつて,ガスの流入口および流出口を備えたハウジングと,このハウジング内に収容された不純ガス除去用の吸着剤と,上記ハウジング内おいて上記流入口と上記吸着剤との間に設けられた第1フィルタと,上記ハウジング内において上記吸着剤と上記流出口との間に設けられた微粒子捕集用の高密度第2フィルタとを具備した半導体製造装置用ガス精製器」が記載され,記載事項(ウ)に「第2フィルタ12は,・・・略円筒形に形成され・・・第2フィルタ12は,吸着剤9から発生した微小塵埃や水粒子,異物等の微粒子を捕集する機能をも」つこと,及び「第2フィルタ12の素材としては,機械的な強度が高くかつ吸着剤9の再生時の高温(例えば約350℃)にも耐えることが必要であるから,例えばステンレス鋼等の焼結金属やアルミナ(Al_(2)O_(3))セラミック類のものが採用できる」ことが記載され,記載事項(エ)に「吸着剤9の加熱を行なうには,ハウジング2の外部からヒータあるいは炉によって加熱すればよい」と記載されている。
これらの記載によれば,引用例2に記載の「ガスの流入口および流出口を備えたハウジングと,このハウジング内に収容された不純ガス除去用の吸着剤とを備えたガス精製器」の構成部材は外部からの加熱が想定されていることから耐熱性を有することは自明であり,ガス精製器などの容器の耐熱性部材として金属やセラミックは周知(引用例2の記載事項(イ)及び(ウ),引用例3の記載事項(イ)参照)である。そして,該ガス精製器内に「第1フィルタと,上記ハウジング内において上記吸着剤と上記流出口との間に設けられた微粒子捕集用の高密度第2フィルタ」を備えている構成は,この「第2フィルタ」が上記したとおり「略円筒形」で「吸着剤9から発生した微小塵埃や水粒子,異物等の微粒子を捕集する機能をも」つことから,引用例2には,本願発明の「前記気体入口には金属製又はセラミック製の第1の多孔質濾過部材を設け,前記気体出口には前記精製材の微粉を通さない細孔を有する金属製又はセラミック製の第2の円筒状多孔質濾過部材を設けてなる」という構成,「金属製の胴部,及び前記両端板をそれぞれ貫通する気体入口を備えた金属製の気体入口部材及び気体出口を備えた金属製の気体出口部材を有」する構成が開示されているといえる。そして,上記「第1フィルタ」と「高密度第2フィルタ」が引用例1発明の「両端に吸着剤を保持する物質」としての機能を有することも明らかである。
これらのことから,引用例1発明の「各種ガスの精製・分離用の吸着カラム」として引用例2の「ガス精製器」の構成を採用して,相違点aに係る本願発明の構成を導出することは当業者が容易に為し得ることといえる。

B.相違点bについて
引用例1発明には,「加熱下に置」くものであるが,具体的な温度について明記されていない。しかしながら,引用例3には,記載事項(ア)に「ケミカルフィルタで除塵した清浄空気や窒素ガスなどにガス状の汚染物が微量ながら混在し・・・半導体のパターンの微細化の進展に伴い,混在していた微量のガス状の汚染物が半導体製造装置の露光レンズに付着して生じる曇りが次世代の問題として浮上してきた」ことが記載され,記載事項(イ)に「ベーキング温度が約100℃よりも低いとユニット本体に有機溶剤(IPAなど)が残留することがあり,約300℃よりも高いと冷却に非常に時間がかかってしまうという不具合があった」と記載され,実施例では「150℃で30分ベーキング」(記載事項(エ))している。そして,記載事項(ウ)には「ケミカルフィルタ1は,処理すべき気体(空気や窒素ガス等)の流通路(半導体の製造装置のエアライン等)に配設され,ガス吸着剤2が収容される」ことが記載されている。
これらの記載によれば,半導体の製造装置のエアライン等に配設され,ガス吸着剤2が収容されるケミカルフィルタのベーキング温度として,ユニット本体に有機溶剤(IPAなど)が残留することを防止するには「約100℃よりも高く,約300℃より低く」するようにすればよいことが理解できる。
してみると,引用例1発明の加熱下に置く温度としては,通常,加熱時間,加熱被処理物あるいは除去のレベル等に応じて設計的に対応するものであり,引用例3のような,一般的な半導体製造装置などの清浄空気や窒素ガスなどに混在するガス状の汚染物では「約100℃?約300℃」で設定されるものとみることができることから,その範囲内で適宜設定して「100℃?250℃に加熱」することは当業者が設計的な範囲で設定し得るものといえる。
また,本願発明の「組立後」,「前記フィルターユニットの全体を・・・加熱」することについては,吸着剤が充填される容器は,例えば引用例3のようにユニットとして組立てられるものは普通に知られ,全体を加熱することも周知(この他,特開平3-202146号公報の従来技術参照)であることから,これらのことを格別なこととすることはできない。

C.相違点cについて
相違点cに係る本願発明の「フィルターユニットの前記気体入口及び出口を栓体でそれぞれ閉鎖する」こと,「フィルターユニット構成部品の精製対象気体との接触部と精製材の清浄度を一括して高め,使用時期まで長期保存を可能にした」ことについては,上述したとおり,引用例1発明の「各種ガスの精製・分離用の吸着カラム」が密封され,該カラム使用時にカラム端を開封して使用されることから,それが閉鎖可能なものであることは自明であり,しかも保管を前提にしていれば,保管のためにキャップなどの封止手段を講じることは自明であり,ガス精製用容器として閉鎖可能な端板を備えることも一般に知られている(引用例3参照)ことである。そして,「清浄度を一括して高める」ことも,上記相違点bについてで述べたとおり,全体を加熱することは普通のことであり,そのことに伴って一括して清浄度が高められることも自明である。さらに,本願発明の「使用時期まで長期保存を可能にした」ことも,引用例1発明が上記「開封」されるまでは「密封」されていることから「長期保存が可能」である点で確たる差異はない。
したがって,当業者であれば,相違点cに係る本願発明の構成を特定事項として明記することは当業者が容易に行い得ることといえる。

そして,本願発明の相違点a?cに係る構成を採ることによって奏する明細書記載の効果についても,引用例1?3及び周知技術から予測し得るものである。
なお,請求人は,平成22年9月1日付けの意見書において「刊行物1には製造段階での加熱,脱気を記載はしているものの,容器がガラス容器であり,処理条件が具体的に記載されていない点で本発明の技術思想を示唆しているとは到底言えない」旨主張している。しかしながら,刊行物1(引用例1)発明の「容器」は,「吸着カラム」であって,特段「ガラス容器」と認定するものではない。確かに,引用例1の実施例では,実験室で用いられる「ガラス製のカラム」が例示されてはいるが,引用例1の記載事項(イ)には「化学工場,化学実験室などで,空気及び各種ガスの乾燥,有機溶剤の脱水乾燥,各種ガス及び液体の精製・分離,イオン交換などの物質の吸着又は吸収操作を行う際,吸着剤をその都度カラムなどに充填して使用する」ことが記載されるように,化学工場などの各種ガスの精製・分離などに用いられるものであり,容器が「ガラス製」であることに限られるものでないことは明らかである。
また,請求人は「しかも,引用例1の「本発明では,不織布は使用せず,容器のほぼ全てを金属製としたので,長期に亘り使用するので有機ガス不純物のレベルが1ppb以下に維持できるのである」旨主張している。しかしながら,本願発明は特に「有機ガス不純物のレベルが1ppb以下に維持できる」ことを限定するものではない上,そのことは差し置くとしても,引用例1発明の「各種ガスの精製・分離用の吸着カラム」として引用例2の「ガス精製器」の構成を採用することにより,高性能な状態の長時間保管が達成できることから,このことに顕著な作用効果があるとはいえず,この点も格別のものとすることはできない。

したがって,本願発明は,引用例1?3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-02 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-20 
出願番号 特願2002-222875(P2002-222875)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 吾一中村 泰三  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 深草 祐一
斉藤 信人
発明の名称 気体浄化フィルターユニット及びその製造方法  
代理人 倉内 基弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ