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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60J
管理番号 1237023
審判番号 不服2009-25121  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-18 
確定日 2011-05-11 
事件の表示 平成 9年特許願第217851号「側面衝撃を受けた場合の車両の搭乗者の保護用装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月 7日出願公開、特開平10- 86659〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

この出願は、平成 9年 8月12日(パリ条約による優先権主張の日:1996年(平成 8年) 8月13日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成21年 8月11日付けで拒絶査定がされ(拒絶査定の送達(発送)日:同年 8月18日)、これに対し、平成21年12月18日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同日付け手続補正書により明細書について補正がされたものである。

そして、平成21年12月18日付けの前記補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第3号でいう明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって適法なものであると認める。

第2 この出願の発明の認定

前記補正により補正された明細書の特許請求の範囲の各請求項に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、同請求項1に記載された次の事項により特定されるものと認める。

「【請求項1】 作動状態においては搭乗者の頭部と窓の表面との間の方向に展開するように窓に沿って車両の側壁に置かれたエアバッグ(9)を含む、側面衝撃を受けた場合に車両の搭乗者を保護するための装置であって、
窓ガラス板(15)が少なくとも二枚のガラス板(16、17)と少なくとも一枚の中間層(18)とを含む複合ガラス板であり、前記少なくとも二枚のガラス板の内の少なくとも一枚は、ガラス板表面層における圧縮プレストレスが25?100MN/m^(2)となるような冷却速度で急冷することによって部分的に強化されたものであり、
中間層(18)が、ポリエチレンテレフタレートの耐衝撃性ポリマー膜の一枚のコア層と、耐衝撃性ポリマー製のコア層の両側に位置する二枚のポリビニルブチラール製またはポリウレタン製の熱可塑性接着層とを組み合わせた積層からなることによって、複合窓ガラス板(15)の曲げ強度が増大しており、該複合窓ガラス板(15)が、側面衝撃により割れた後であっても、エアバッグ(9)の支持面を提供することを特徴とする側面衝撃の場合の保護用装置。」

第3 引用刊行物等及びその記載事項

1 原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特表平05-507043号公報(以下「引用例1」という。)には、「自動車の安全装置」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。

ア 「 自動車がかなり激しく衝突して重大な事故に至った場合、通常は乗員の頭部も車両部分にぶつかる。この場合、頭部が柔軟に軟らかく受け止められるほど、負傷の危険度は少なくなる。
負傷の危険度を減少させるためには、たとえばセンサを通じて作動できるエアバック装置が既知であり、これは衝突の際に瞬間的に運転者の前で膨れ上がり、頭部を軟らかく柔軟に受け止める。しかし、このような装置は主として正面衝突の場合にのみ有用である。
これに反して側面衝突の場合、頭部は側面ガラス板に対して無防備であることが多く、このため著しい頭部負傷に至ることがある。これは、側面ガラス板の安全ガラスが頭部が鈍く衝突することでは通常は破砕せず、堅固な柔軟性のない壁を形成しているためである。
・・・(中略)・・・
しかし事故により頭部が衝突する前にガラス板を迅速に破砕することは不可能である。
本発明の課題は、側面衝突の場合の頭部負傷の危険度を減少するような、自動車の安全装置を創り出すことにある。」
(公報第2ページ右上欄第4行から同第25行まで)

イ 「14.側面衝突検出手段(18,24)が、側方における頭部衝突
領域で膨れ上がることができる、それ自体は既知のエアバ
ッグを活性化できるように構成されていることを特徴とす
る、請求項1から13のいずれか1項に記載の自動車の安全装置。」
(公報第2ページ左上欄第15行から同第18行まで)

ウ 「・・・(前略)・・・
側面ガラス板は中に中間プラスチック箔をはさんだ、熱処理した安全合わせ板ガラスからなっている。自動車には側面衝突検知手段が設けられており、また少なくとも1枚の側面ガラス板の領域に打撃装置が取付けられている。これは側面衝突検知手段によって活性化することができ、側面ガラス板は側面衝突時に一定の打撃により張力状態を失って破砕し、これによってガラス板は多くの個々の部分に壊れた状態となる。
側面衝突検知手段は側面衝突時に直ちに反応し、即時、打撃装置を活性化する。この過程は極めて迅速に起こってガラスを破砕し、このため頭部が衝突する前に頭部接触の領域のガラスはすでに壊れた状態にある。ガラスが破砕した状態では側面ガラス板はもはや固い壁ではなく、柔軟性がある。中間プラスチック箔の構成と寸法に応じて、柔軟性および頭部衝突のための時間遅れのレベルとを最適化することができる。
・・・(中略)・・・安全合わせ板ガラスからなる側面ガラス板を、側面衝突時には既にガラスが壊れた状態へ意図的に移行させることにより、頭部衝突領域は柔軟に構成され、したがって負傷の危険度が減少する。」
(公報第2ページ左上欄第1行から同第21行まで)

エ 「 請求項14によれば側面衝突検知のための上記手段は、側面の頭部衝突領域で膨らますことができる、それ自体は既知のエアバッグの活性化に使用することもできる。このエアバッグは、打撃装置と一緒に側面ガラス板の破壊のために使用することができ、あるいはこの装置の代わりともなる。」
(公報第3ページ右上欄第4行から同第8行まで)

オ 「 図1は自動車ドアの側面の概略図、
図2は図1による自動車ドアの線A-Aに沿った断面図、
図3は図2のXとYの領域の拡大した概略図、
・・・(後略)・・・」
(公報第3ページ右上欄第11行から同第19行まで)

カ 「 図1にはドア本体2を備える自動車ドア1の側面図が示されており、ドア本体には外向きに突出するドア隔壁が衝突桁3として取付けてあり、側面ガラス板4はドア本体の中を移動することができる。側面ガラス板4は上まで閉じられた状態でもその下縁がドア本体2の中に突出しており、これは破線で輪郭を示してある。
側面ガラス板のガラスは、中間プラスチック箔を入れた熱処理した安全合わせ板ガラスからなっている。
図2による断面図から、再びドア本体2、衝突桁3および側面ガラス板4を見ることができる。側面ガラス板4の下縁に固く結合して打撃装置5が取り付けられており(領域X)、この打撃装置5は図3に拡大して、またその他の細部とともに示されている。
さらに図3には側面ガラス板の上部領域(領域Y)が拡大して断面図で示されている。この図には、第1のガラス層6と第2のガラス層7とを備える安全合わせ板ガラスの構造の概略が示されており、これらガラス層は中間プラスチック箔8を介して結合している。安全合わせ板ガラスは熱処理してあり、破壊を伴う衝突時には砕けて小さい破片となるが、中間プラスチック箔8によって飛び散りが防止される。」
(公報第3ページ右上欄第20行から同左下欄第13行まで)

<引用発明>

前記引用例1の記載事項アないしカに示された内容を、図面を参考として、総合すると、引用例1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 側面ガラス板4が二枚のガラス板と中間プラスチック箔8とを含む安全合わせ板ガラスであり、安全合わせ板ガラスは熱処理したものであり、
該安全合わせ板ガラス4が、側面衝突時に打撃装置の活性化により破砕されて頭部衝突領域が柔軟にされるように構成し、側面衝突の場合に側面ガラス板4に衝突することによる車両の乗員の頭部負傷の危険度を減少するための装置。」

2 同じく原査定の拒絶の理由で引用された、優先日前に米国で頒布された刊行物である米国特許第5333899号明細書(以下「引用例2」という。)には、「SIDE AIRBAG SAFETY ARRANGEMENT FOR VEHICLE OCCUPANTS」(「車両の乗員のための側部エアバッグ安全装置」:この翻訳文は当審による仮訳である。以下同じ。)に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。

ア 「 In the phase of an accident assumed in FIG. 1, the two
airbags 20 and 25 thus form an inflated lateral curtain or wall for
the upper portion of the occupant
・・・(中略)・・・
As long as the windowpane 4 is intact, it provides support for
the two inflated airbags 20 and 25.
・・・(中略)・・・
the body of the passenger, and particularly his head 14,
is cushioned from all hard portions of the vehicle structure.」
(第5ページ第3欄第20行から同第33行まで)

[翻訳文]
「 図1で想定される事故の局面においては、乗員の上半身のために、二つのエアバッグ20及び25が、膨張した側部カーテン又は壁を形成する
・・・(中略)・・・
窓ガラス4が接触する限り、それは、膨張した二つのエアバッグ20及び25の支持部を提供する
・・・(中略)・・・
乗員の身体、特に頭14は、車両構造物のすべての硬い部分から緩衝される。」

イ 作動状態において乗員の頭部と窓ガラス4の表面との間の方向に展開するように窓ガラス4に沿って車両の側壁に置かれたエアバッグ20及び25と窓ガラス4とが面状に接している様。
(第2ページのFig.1)

3 同じく原査定の拒絶の理由で引用された、優先日前に頒布された刊行物である特開平06-087328号公報(以下「引用例3」という。)には、「垂直に調節可能な自動車用側面窓ガラス」に関し、図面とともに、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自動車の窓ガラス、特には熱可塑樹脂の中間層で互いに接合した二枚の熱強化単一ガラスシートよりなる積層ガラスの垂直に調製可能な側面窓ガラスに関する。」

イ 「【0011】本発明により限定されたプレストレスを与えられた単一ガラスシートの厚さを考慮すると、ガラスシートの心における引張応力は、周辺領域において1.5mm の厚さのガラスシートでは27.5?57MN/m^(2)の値を有し、厚さが増すと直線的に低下して3mmの厚さのガラスシートでは20?47MN/m^(2)になり、一方、ガラスシートの中心領域のシートの心における引張応力は、1.5mm の厚さのガラスシートでは25?42MN/m^(2)の値を有し、シートの厚さが増すと直線的に17.5?33MN/m^(2)に低下する。
【0012】仮に、心における引張応力とガラスシートの表面での圧縮応力の間に約1:2の絶対値の比が存在すると考えると、エッジ部分における表面での圧縮応力は、1.5mm の厚さのシートにおける55?114MN/m^(2)の値から3mmの厚さのガラスシートにおける40?94MN/m^(2)に低下し、中央領域では1.5mm の厚さのガラスシートにおける50?84MN/m^(2)の値から3mmの厚さのシートにおける35?66MN/m^(2)に低下し、それぞれの場合で直線的に低下することになる。」

4 同じく原査定の拒絶の理由で引用された、優先日前に頒布された刊行物である特表平08-504385号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。

ア 「・・・(前略)・・・
この種の構造およびPETフィルムを自動車のガラス表面に施す方法については、米国特許第4,973,364号に記載されており、その記載を参考のためにここに引用する。
上記引用特許は、PETフィルムのガラスへの付着を容易にする接着層として可塑化ポリビニルブチラール(PVB)の層を使用することを教示している。」
(公報第4ページ第12行から同第5ページ第6行まで)

第4 対比

引用発明における「側面衝突の場合」、「乗員」、「負傷の危険度を減少する」、「側面ガラス板4」、「中間プラスチック箔8」及び「安全合わせ板ガラス」は、それぞれ、本願発明の「側面衝撃を受けた場合」、「搭乗者」、「保護する」、「窓ガラス板」、「中間層」並びに「複合ガラス板」及び「複合窓ガラス板」に相当する。

そして、引用発明における、「安全合わせ板ガラス」について「熱処理したものであり、」は、複合ガラス板を熱処理したものである限りにおいて、本願発明の、「少なくとも二枚のガラス板の内の少なくとも一枚は、ガラス板表面層における圧縮プレストレスが25?100MN/m^(2)となるような冷却速度で急冷することによって部分的に強化されたものであり、」と共通する。

さらに、引用発明における「側面衝突の場合に側面ガラス板4に衝突することによる車両の乗員の頭部負傷の危険度を減少するための装置」は、本願発明における「側面衝撃を受けた場合に車両の搭乗者を保護するための装置」及び「側面衝撃の場合の保護用装置」のいずれにも相当する。

以上の事項を総合してみると、本願発明は、次のとおり、引用発明との一致点及び相違点を有する。

<一致点>

「 側面衝撃を受けた場合に車両の搭乗者を保護するための装置であって、
窓ガラス板が少なくとも二枚のガラス板と少なくとも一枚の中間層とを含む複合ガラス板であって、複合ガラス板を熱処理したものである、側面衝撃の場合の保護用装置。」

<相違点>
ア 側面衝撃を受けた場合に車両の搭乗者を保護するために、本願発明においては、「作動状態においては搭乗者の頭部と窓の表面との間の方向に展開するように窓に沿って車両の側壁に置かれたエアバッグ(9)を含む」とともに、「複合窓ガラス板が、側面衝撃により割れた後であっても、エアバッグ(9)の支持面を提供する」のに対して、引用発明においては、複合窓ガラス板が、側面衝突時に打撃装置の活性化により破砕されて頭部衝突領域が柔軟にされるよう構成された点。

イ 複合窓ガラス板を熱処理したことに関し、本願発明においては、「前記少なくとも二枚のガラス板の内の少なくとも一枚は、ガラス板表面層における圧縮プレストレスが25?100MN/m2となるような冷却速度で急冷することによって部分的に強化された」ものであるのに対して、引用発明においては、「熱処理した」ものであるだけで、その余については明らかでない点。

ウ 複合窓ガラス板の中間層に関し、本願発明においては、「ポリエチレンテレフタレートの耐衝撃性ポリマー膜の一枚のコア層と、耐衝撃性ポリマー製のコア層の両側に位置する二枚のポリビニルブチラール製またはポリウレタン製の熱可塑性接着層とを組み合わせた積層からなることによって、複合窓ガラス板の曲げ強度が増大しており、」としているのに対して、引用発明においては、「中間プラスチック箔」としているだけで、その余については明らかでない点。

第5 当審の判断

1 相違点アについて

引用発明について更に検討すると、前記第3の1に示したとおり、引用発明は、「側面衝突の場合、頭部は側面ガラス板に対して無防備であることが多く、このため著しい頭部負傷に至ることがある。これは、側面ガラス板の安全ガラスが頭部が鈍く衝突することでは通常は破砕せず、堅固な柔軟性のない壁を形成しているためである。」という技術的な課題に着目し、「事故により頭部が衝突する前にガラス板を迅速に破砕することは不可能である。」という事情に鑑み、「側面衝突時に直ちに反応し、即時、打撃装置を活性化する。この過程は極めて迅速に起こってガラスを破砕し、このため頭部が衝突する前に頭部接触の領域のガラスはすでに壊れた状態にある。ガラスが破砕した状態では側面ガラス板はもはや固い壁ではなく、柔軟性がある。」というように、頭部が衝突する前にガラスを破砕するという解決手段を採用し、もって、「安全合わせ板ガラスからなる側面ガラス板を、側面衝突時には既にガラスが壊れた状態へ意図的に移行させることにより、頭部衝突領域は柔軟に構成され、したがって負傷の危険度が減少する。」という効果を得るようにしたものと解される。

そして、「側面衝突の場合、頭部は側面ガラス板に対して無防備であることが多く、このため著しい頭部負傷に至ることがある。これは、側面ガラス板の安全ガラスが頭部が鈍く衝突することでは通常は破砕せず、堅固な柔軟性のない壁を形成しているためである。」という技術的な課題それ自体は自動車の技術分野において広く知られている事項であるから、かかる技術的な課題に接した当業者が、その課題解決手段として、側面衝突時に、頭部と側面ガラス板に衝突しないように頭部を固定するか、両者の間に緩衝となるものを介在させるようにするか、頭部が衝突しても負傷に至らないように堅固でない柔軟性のある側面ガラス板とするかのいずれかの選択をすることになるのは容易に理解することができ、また、引用発明は、そのような選択肢の中から、側面衝突時に、頭部が衝突しても負傷に至らないように堅固でない柔軟性のある側面ガラス板となるようにすることを選択し、その課題の解決を図ったものと理解することができる。

そうすると、同じ技術的な課題を解決するために、作動状態において搭乗者の頭部と窓ガラス4の表面との間の方向に展開するように窓ガラス4に沿って車両の側壁に置かれたエアバッグ20及び25と窓ガラス4とが面状に接し、窓ガラス4が膨張した二つのエアバッグ20及び25の支持部とされる装置が、引用例2によって公知となっているのであるから、かかる装置を、「安全合わせ板ガラス」からなる「側面ガラス板」を備える引用発明において、「側面衝突時に打撃装置の活性化により破砕され、頭部衝突領域が柔軟にされるよう構成された、側面衝撃の場合の保護用装置」に代えて採用することに何ら困難性はなく、当業者であれば適宜なし得ることである。

ここで、引用発明の安全合わせ板ガラスについて更に考察すると、前記第3の1のウ及びカに示したように、引用発明の安全合わせ板ガラスは、ガラスが破砕した状態では柔軟性があって、側面衝突の場合の頭部負傷の危険度を減少させるというものであるから、側面衝突時に頭部が当該ガラスを貫通するものとは解し難いものであり、加えて、自動車において使用されている安全合わせ板ガラスは、事故時の乗員の飛び出しを防ぐことや防犯のためにガラスが破砕した状態であっても貫通しにくいものとされていることが技術常識であることからすると、引用発明の安全合わせ板ガラスは、たとえガラスが破砕しても、窓の開口部全体を露出させるものとはならないものと解される。そうであれば、引用発明においても、側面衝突によってガラス板が割れた後でもエアバッグのための支持面が残ることは明らかである。

したがって、本願発明が、複合窓ガラス板が側面衝撃により割れた後であっても、エアバッグの支持面を提供するという点は、引用発明において、引用例2記載の装置を採用することによって得られる結果に過ぎない。

以上のとおりであるから、前記相違点アの如く構成することは、当業者が容易になし得るところであり、また、そのことにより当業者が予測し得ないような顕著な効果を奏するものでもない。

2 相違点イについて

引用例3には、熱可塑樹脂の中間層で互いに接合した二枚の熱強化単一ガラス板よりなる積層ガラスの自動車の側面窓ガラスに関して、二枚のガラス板のそれぞれは、厚さ1.5?3.0mmであり、表面の圧縮応力が、ガラス板の部位によって異なり、かつ、その値として55?114 MN/m^(2)、40?94 MN/m^(2)、50?84 MN/m^(2)及び35?66 MN/m^(2)とした例が記載されている。

そして、ガラスの技術分野において、「プレストレス」は「圧縮応力」と同義であり、かつ、ガラスの表面層の圧縮応力を増加させてガラスの全体を又は必要な場合にはその一部分を強化するために、急冷を包含する熱処理を行うことは周知慣用の手段である。

ところで、自動車において使用されている安全合わせ板ガラスは、一般に強度に優れたものが用いられており、特にドアに設けられるガラスである側面窓ガラスは、自動車の製造時に車体にドアと共に組み付ける際に生じる応力や、自動車使用時のドアの開閉によって生じる衝撃にも耐えうるように、強化ガラスを用いることが知られている。引用例3に記載されたものもその一例と理解することができる。

そして、引用発明においても、引用例1に明示はされていないが、前記第3の1のカに示したように、引用例1に「安全合わせ板ガラスは熱処理してあり、破壊を伴う衝突時には砕けて小さい破片となる」というように強化ガラスならではの破壊の有様が示されているのであるから、前記の強化ガラスを用いることはそもそも想定されているということができる。

そうすると、引用発明における安全合わせ板ガラスを構成する強化ガラスの表面圧縮応力を、引用例3記載の強化ガラスの表面圧縮応力の例によるものとし、かつそのような表面圧縮応力を得るための熱処理を行う手段として前記周知慣用の手段を用いることにより、本願発明の如く、ガラス板表面層における圧縮プレストレスが25?100MN/m2となるような冷却速度で急冷することとし、その結果として部分的に強化されたガラスとすることは、当業者であれば容易になし得るものである。

その際、安全合わせ板ガラスの、少なくとも二枚のガラス板の内の少なくとも一枚を強化することとするか否かは、その強化の程度も含めて当業者が必要に応じて定める設計上の事項に過ぎない。

以上のとおりであるから、前記相違点イの如く構成することは、当業者が容易になし得るところであり、また、そのことにより当業者が予測し得ないような顕著な効果を奏するものでもない。

3 相違点ウについて

引用発明においては、中間層が中間プラスチック箔8とあるだけで、当該中間プラスチック箔がポリマーから構成されていることはうかがえるものの、どのような組成のポリマーから構成されているかは明らかではない。

ところで、安全合わせ板ガラスは、自動車の窓ガラスとして慣用されている材料であって、その中間層として、ポリマーであるポリエチレンテレフタレートのシートやフィルムからなる層を用いることは、周知の事項(例えば、実願昭61-52782号(実開昭62-166227号)のマイクロフィルム、特開昭58-153635号公報、特開昭63-147844号公報を参照。)であり、また、そのような層が耐衝撃性を呈することや、窓ガラスとしての曲げ強度を増大させていることは明らかである。

そうすると、引用発明における、二枚のガラス板と中間プラスチック箔8とを含む安全合わせ板ガラスの中間層である中間プラスチック箔に、ポリマーであるポリエチレンテレフタレートのシートやフィルムからなる層を用いることはそもそも想定されているものと言える。

そうであれば、引用例4に記載された知見に基づいて、引用発明の中間プラスチック箔を構成することが想定されているポリエチレンテレフタレートのシートやフィルムからなる層をコア層とし、ガラスとの間に可塑化ポリビニルブチラールからなる接着層を設けて積層体を構成することは、当業者であれば容易になし得るものである。

なお、その際に、そのようなコア層を構成する材料を「膜」というか、シートやフィルムというかは、単なる表現上の微差に過ぎない。

以上のとおりであるから、前記相違点ウの如く構成することは、当業者が容易になし得るところであり、また、そのことにより当業者が予測し得ないような顕著な効果を奏するものでもない。

第6 小括
以上を総合してみても、相違点アないし相違点ウの如く構成することに格別の困難性はなく、かつそのことにより、引用発明、引用例2、引用例3及び引用例4に記載された事項並びに周知の技術から、当業者が予測できないような格別の効果を奏するものではない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された引用発明、引用例2、引用例3及び引用例4に記載された事項並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

そして、そのような発明を包含するこの出願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-16 
結審通知日 2010-12-21 
審決日 2010-12-28 
出願番号 特願平9-217851
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 健一  
特許庁審判長 林 浩
特許庁審判官 小関 峰夫
栗山 卓也
発明の名称 側面衝撃を受けた場合の車両の搭乗者の保護用装置  
代理人 川口 義雄  

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