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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E06B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E06B
管理番号 1237069
審判番号 不服2009-23613  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-01 
確定日 2011-05-13 
事件の表示 平成11年特許願第241543号「隙間調整具およびその隙間調整具用取外し治具」拒絶査定不服審判事件〔平成13年3月13日出願公開,特開2001-65246〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成11年8月27日の出願であって,平成21年9月2日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,それと同時に手続補正がなされたものである。
その後,当審において,平成22年6月21日付けで審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,同年8月24日に回答書が提出されたものである。


第2.平成21年12月1日受付けの手続補正について
[補正の却下の決定の結論]
平成21年12月1日受付けの手続補正を却下する。

[理 由]
【1】補正の内容・目的
平成21年12月1日受付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の請求項1について,補正前(平成21年6月15日受付けの手続補正書を参照。)に,
「【請求項1】
2つの相対する第1の部材と第2の部材との間を、第1の部材に形成された貫通穴に挿入された頭付き調整ネジで結合し部材間の隙間をそのネジの螺合によって調整する隙間調整具であって、
前記第1の部材に固定され、前記頭付き調整ネジのネジ部分は貫通可能であるが頭部分は貫通不能な小径の孔が形成された段部が内周面側に設けられ、かつ前記孔に貫通した頭付き調整ネジの頭部分を係止し前記段部との間に頭部分を挟んで頭付き調整ネジを固定する係止片が内周面側に突設された段付き筒状体を備え、前記係止片は、頭付き調整ネジの挿入時に頭部分の当接により突出状態から非突出状態になりその挿入を容易にするが、挿入が終了すると突出状態に戻って頭付き調整ネジの頭部分を係止するもので、前記係止片は、段付き筒状体の内周面に一体化され、段付き筒状体の径方向に弾力性によって移動自在であることを特徴とする隙間調整具。」
とあったものを,
「【請求項1】
2つの相対する家屋のドア等の枠と仕切り壁の柱等の木質材よりなる躯体との間を、枠に形成された貫通穴に挿入された頭付き調整ネジで結合し前記枠と躯体間の隙間をそのネジの螺合によって調整する隙間調整具であって、
前記枠に固定され、前記頭付き調整ネジのネジ部分は貫通可能であるが頭部分は貫通不能な小径の孔が形成された段部が内周面側に設けられ、かつ前記孔に貫通した頭付き調整ネジの頭部分を係止し前記段部との間に頭部分を挟んで頭付き調整ネジを固定する係止片が内周面側に突設された段付き筒状体を備え、前記係止片は、頭付き調整ネジの挿入時に頭部分の当接により突出状態から非突出状態になりその挿入を容易にするが、挿入が終了すると突出状態に自動的に戻って頭付き調整ネジの頭部分を係止して頭付き調整ネジが挿入側とは逆側に後退することを押えるもので、前記係止片は、段付き筒状体の内周面に一体化され、段付き筒状体の径方向に弾力性によって移動自在であり、
前記頭付き調整ネジと前記段付き筒状体の2部品だけで前記隙間を調節することを特徴とする隙間調整具。」
と補正しようとすることを含むものである。

本件補正は,補正前の請求項1に係る発明の特定事項について,「第1の部材」を「家屋のドア等の枠」に限定し,「第2の部材」を「仕切り壁の柱等の木質材よりなる躯体」に限定し,「突出状態に戻って」を「突出状態に自動的に戻って」に限定し,「係止する」を「係止して頭付き調整ネジが挿入側とは逆側に後退することを押える」に限定し,さらに,「頭付き調整ネジと段付き筒状体の2部品だけで隙間を調節する」との特定事項を付加したものであるから,本件補正は,少なくとも,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。

そこで,本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているかについて,以下に検討する。

【2】独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
1.引用刊行物及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-44159号公報(以下,「刊行物1」という。)には,「ドア枠の取り付け構造」に関して,図面とともに,次の記載がある。
(1a)「【請求項1】 建物躯体に立設した一対の柱材間の開口部にドア枠を配置すると共にドア枠の両側の縦枠を柱材に沿わせ、筒状の取り付け筒と取り付け筒の一端に螺合した環状の蓋とで筒状の取り付け具を形成すると共にドア枠の縦枠に縦枠の内外に貫通するように設けた取り付け孔に上記取り付け具を蓋が縦枠の内面側に位置するように挿通して取り付け筒を取り付け孔に固定し、ねじ具の軸部を柱材に螺合すると共にねじ具の頭部側を筒状の取り付け具内に挿通し、ねじ具の頭部側に外径の大きくなった径大部を設けると共にこの径大部を取り付け筒内の大径孔部内に位置させ、径大部の一端側の段部を取り付け筒内の大径孔部の一端側の段部に係当すると共に径大部の他端側の段部を蓋の端面に係当し、ねじ具の頭部側の端面にねじ操作部を設けると共にこのねじ操作部を蓋から露出させて成ることを特徴とするドア枠の取り付け構造。」
(1b)「【0006】
【発明の実施の形態】建物躯体には図2に示すように一対の柱材1を所定の間隔を隔てて立設してあり、一対の柱材1間の開口部2にドア枠3を配置して取り付けられる。ドア枠3は両側の縦枠3aと両側の縦枠3aの上端間に架設した横枠3bとで構成され、両側の縦枠3aを柱材1に沿わせて後述するねじ具7にて取り付けられる。本例の場合、両側の縦枠3aは図2の符号Bに示す3箇所で夫々ねじ具7にて取り付けられる。縦枠3aの取り付ける箇所で縦枠3aの内面側には夫々凹部11を設けてあり、この凹部11の底部と縦枠3aの外面との間に貫通するように取り付け孔6を穿孔してある。
【0007】ねじ具7は図3に示すようにストレートの長い棒状であり、軸部7aには雄ねじ12を形成してあり、軸部7aの先端が尖っている。ねじ具7の頭部7b側に外径の大きな径大部8を設けてあり、ねじ具7の頭部7b側の端面にはねじ操作部10を設けてある。このねじ操作部10は本例の場合、十字状のドライバー溝10aにて形成されている。
【0008】取り付け孔6に貫通するように装着する取り付け具Aは図4に示すような円筒状の取り付け筒4と図5に示すような円環状の蓋5にて形成されている。…取り付け筒4の一端の外周には鍔部15を全周に亙って突設してある。取り付け筒4内には内径を大きくした大径孔部9を設けてあり、取り付け筒4の鍔部15を反対側の内面には雌ねじ部16を設けてあり、大径孔部9の鍔部15側の端部は段部9aとなっている。この取り付け筒4は予め縦枠3aの各取り付け孔6に夫々圧入して取り付けてある。…蓋5は円筒状の筒部18の一端に外方に突出する鍔部19を一体に突設して形成されており、筒部18の外周には雄ねじ部20が設けられており、鍔部19には操作溝21が設けられている。
【0009】しかしてドア枠3を取り付けるにあたっては次のように行われる。縦枠3aの各取り付け孔6に取り付けた取り付け筒4内に縦枠3aの内面側からねじ具7が挿通されてねじ具7の先端が柱材1の内面に当接され、この状態でねじ操作部10としてドライバー溝10aにドライバーの先端を嵌合したりしてねじ具7を回動操作することにより、ねじ具7の軸部7aの雄ねじ12が柱材1に螺合される。軸部7aが柱材1に所定深さまで螺合されることによりねじ具7にてドア枠3の縦枠3aが柱材1に取り付けられる。この状態でねじ具7の径大部8が取り付け筒4の大径孔部9に収められ、蓋5が取り付け筒4の鍔部15と反対側に配置され、取り付け筒4の雌ねじ部16に蓋5の雄ねじ部20を螺合することで蓋5が取り付け筒4に取り付けられる。この状態で径大部8の一端の段部8aは取り付け筒4の大径孔部9の一端側の段部9aに係当され、径大部8の他端の段部8bが蓋5の筒部18の端面に係当させられ、ねじ具7のねじ操作部10としてのドライバー溝10aが蓋5から露出させられる。そしてドライバーの先端をドライバー溝10aに嵌合してねじ具7を回動操作することにより縦枠4aの位置が調整されてドア枠3の建て付けが調整される。つまり、柱材1と縦枠3aとの間隔Lが自在に調整されて縦枠3aが柱材1の精度に関係なく垂直になるように取り付けられる。」
(1c)「【0010】
【発明の効果】本発明は叙述のように構成されているので、建物躯体に立設した一対の柱材間の開口部にドア枠を配置すると共にドア枠の両側の縦枠を柱材に沿わせた状態から、取り付け孔に予め取り付けた取り付け筒に縦枠の内面側からねじ具を挿通し、ねじ具を回転操作してねじ具の軸部を柱材に螺合し、軸部を柱材の所定深さまで螺合した状態でねじ具にて縦枠を取り付け、そして径大部を大径孔部に位置させた状態で取り付け筒に蓋を螺合して取り付け、径大部の一端側の段部を取り付け筒内の大径孔部の一端側の段部に係当すると共に径大部の他端側の段部を蓋の端面に係当し、この状態でドライバー等でねじ操作部を操作することでねじ具を回動して柱材に対する縦枠の位置を内外方向に調整してドア枠の建て付けを調整することができるものであって、上記のようにドア枠の建て付けを調整することによりドア枠を柱材の精度によらず所定の状態に取り付けることができるものでり、またドア枠を取り付けるねじ具を兼用してドア枠の建て付けを調整できて構造を簡単にできるものである。」
(1d)そして,上記記載事項(1b)及び図面から,取り付け筒4の内周面(の鍔部15)側に,ねじ具7の雄ねじ12が形成された軸部7aは貫通可能であるがねじ具7の径大部8は貫通不能な小径の孔が形成され,当該孔と大径孔部9との連通部分において,ねじ具7の径大部8の一端段部8aが係当される段部9aが設けられていることは明らかであり,また,ねじ具7と取り付け具Aとが,2つの相対するドア枠3の縦枠3aと建物躯体に立設した柱材1間をねじ具7により結合するとともに,上記縦枠3aと上記柱材1間の間隔Lをねじ具7の螺合により調整する,取り付け兼用間隔調整具となっていることは明らかである。

上記記載事項(1a)?(1d)及び図面の記載並びに当業者の技術常識からみて,刊行物1には,次の発明(以下,「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「2つの相対するドア枠3の縦枠3aと建物躯体に立設した柱材1との間を,縦枠3aに形成された取り付け孔6に挿入されたねじ具7で結合し,前記縦枠3aと柱材1間の間隔Lをそのねじ具7の螺合によって調整するねじ具7と取り付け具Aとからなる取り付け兼用間隔調整具であって,
前記ねじ具7は,軸部7a側に雄ねじ12が形成されており,かつ,頭部7b側に外径の大きな径大部8とねじ操作部10とが設けられているものであり,
前記取り付け具Aは,前記縦枠3aの取り付け孔6に貫通するように装着されるものであって,前記ねじ具7の雄ねじ12が形成された軸部7aは貫通可能であるが径大部8は貫通不能な小径の孔が形成された段部9aが内周面側に設けられた円筒状の取り付け筒4と,前記取り付け筒4に螺合して取り付けられる円環状の蓋5とからなり,
前記取り付け筒4に前記蓋5が螺合して取り付けられた状態で,前記取り付け筒4の孔に貫通してその径大部8の一端段部8aが段部9aに係当されたねじ具7の径大部8の他端段部8bに前記蓋5の筒部18の端面が係当されてドア枠3の建て付けを調整できる,
ねじ具7と取り付け具Aとからなる取り付け兼用間隔調整具。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された刊行物である実願昭61-39432号(実開昭62-151422号)のマイクロフィルム(以下,「刊行物2」という。)には,「部品取付装置」に関して,図面とともに,次の記載がある。
(2a)「2.実用新案登録請求の範囲
取付部品本体を、この取付部品本体に突設した筒状部に止めねじを挿通して被取付体に螺着固定する部品取付装置において、
上記筒状部内に止めねじの挿通を許容するとともに脱落を防止する弾性突片を設けたことを特徴とする部品取付装置。」(明細書1頁4?10行)
(2b)「(実施例)
以下、本考案の部品取付装置の一実施例を図面を参照して説明する。
第1図および第2図において、1は合成樹脂からなる取付部品本体で、この取付部品本体1には下面を開口した筒状部2が一体に突設され、この筒状部2の先端の平面部の中央に止めねじ13の挿通孔3が設けられている。また、前記筒状部2の先端両側の角部には切欠部4が設けられ、この両側の切欠部4の下部に弾性突片5が設けられている。この両側の弾性突片5は、筒状部2に長さ方向に設けた両側のスリット6により弾性板7が形成され、この弾性板7の先端に前記止めねじ13の頭部の径よりも内方に突設された爪状の引掛部8が設けられている。
そして、取付部品本体1を被取付体11に取付ける場合は、取付部品本体1の筒状部2に止めねじ13を挿入して先端を挿通孔3から突出させ、被取付体11の雌ねじ部12に螺着する。この際、止めねじ13の頭部は両側の弾性突片5の引掛部8を外方に押し開きながら挿通する。
そして、取付部品本体1の取付状態では弾性突片5は元の状態に復帰し、止めねじ13がゆるんだ場合でも止めねじ13の頭部が両側の弾性突片5の引掛部8によって下方への移動が阻止され、引掛部8に係止されることにより脱落が防止される。
つぎに、第3図および第4図に示す実施例は、前記第1図および第2図に示したものに対し、弾性突片5として弾性板を設けないもので、弾性突片5として引掛部8のみを設けたものである。
このようにしても、材質等により弾性突片5の引掛部8に止めねじ13の頭部の挿通を許容する弾性力を与えることにより、止めねじ13の挿通が容易で、脱落を防止することができる。」(同書3頁13行?5頁6行)

2.対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の「(ドア枠3の)縦枠3a」は補正発明の「(家屋のドア等の)枠」に相当し,以下同様に,「建物躯体に立設した柱材1」は「仕切り壁の柱等の躯体」に相当し,「取り付け孔6」は「貫通穴」に相当し,「(縦枠3aと柱材1間の)間隔L」は「(枠と躯体間の)隙間」に相当し,「ねじ具7と取り付け具Aとからなる取り付け兼用間隔調整具」は「隙間調整具」に相当する。
また,刊行物1記載の発明の「ねじ具7」は,補正発明の「ネジ部分」に相当する「(雄ねじ12が形成された)軸部7a」と,補正発明の「頭部分」に相当する「径大部8」とを有するものであるから,補正発明の「頭付き調整ネジ」に相当する。
また,刊行物1記載の発明の「(円筒状の取り付け筒4と円環状の蓋5とからなる)取り付け具A」は,「取り付け筒4」の内周面側に「ねじ具7の…軸部7aは貫通可能であるが径大部8は貫通不能な小径の孔が形成された段部9a」が設けられ,当該「取り付け筒4」とそれに螺合して取り付けられる「蓋5」とで,「ねじ具7」の「径大部8」に両端から係当され(一端段部8aに段部9aが係当され,他端段部8bに筒部18の端面が係当される。)て「ドア枠3の建て付けを調整できる」ものであるから,補正発明の「段付き筒状体」に相当し,さらに,刊行物1記載の発明の「係当され」は補正発明の「係止し」に相当し,以下同様に,「縦枠3aの取り付け孔6に貫通するように装着され」は「枠に固定され」に相当する。
そして,刊行物1記載の発明の「蓋5」は,「一端段部8aが(取り付け筒4の)段部9aに係当されたねじ具7の径大部8の他端段部8b」にその「筒部18の端面が係当されてドア枠3の建て付けを調整できる」ものであるから,「ねじ具7」の挿入側とは逆側への後退を押えるものと認められるところ,補正発明の「係止片」も,「段部との間に頭部分を挟んで頭付き調整ネジを固定」して,「頭付き調整ネジの頭部分を係止して頭付き調整ネジが挿入側とは逆側に後退することを押える」ものであって,両者は,実質的に同一の機能を奏するものであるから,刊行物1記載の発明の「蓋5」と補正発明の「係止片」とは,「頭付き調整ネジが挿入側とは逆側に後退することを押える部材」で共通する。

そうすると,両者は,
「2つの相対する家屋のドア等の枠と仕切り壁の柱等の躯体との間を,枠に形成された貫通穴に挿入された頭付き調整ネジで結合し前記枠と躯体間の隙間をそのネジの螺合によって調整する隙間調整具であって,
前記枠に固定され,前記頭付き調整ネジのネジ部分は貫通可能であるが頭部分は貫通不能な小径の孔が形成された段部が内周面側に設けられ,かつ前記孔に貫通した頭付き調整ネジの頭部分を係止し前記段部との間に頭部分を挟んで頭付き調整ネジを係止固定して頭付き調整ネジが挿入側とは逆側に後退することを押える部材を設けた段付き筒状体を備え,
前記頭付き調整ネジと前記段付き筒状体により前記隙間を調節する隙間調整具。」の点で一致し,次の点で相違する。
<相違点1>
仕切り壁の柱等の躯体について,
補正発明が,「木質材よりなる」ものであるのに対し,
刊行物1記載の発明では,その材質が定かでない点。
<相違点2>
頭付き調整ネジが挿入側とは逆側に後退することを押える部材について,
補正発明が,「段付き筒状体」の「内周面側に突設され」,かつ,「段付き筒状体の内周面に一体化され、段付き筒状体の径方向に弾力性によって移動自在」であり,「頭付き調整ネジの挿入時に頭部分の当接により突出状態から非突出状態になりその挿入を容易にするが、挿入が終了すると突出状態に自動的に戻って頭付き調整ネジの頭部分を係止」する「係止片」であるのに対し,
刊行物1記載の発明では,「取り付け筒4」に螺合した「蓋5」であり,そのようなものではない点。

3.作用効果・判断
各相違点について検討する。
<相違点1について>
刊行物1記載の発明において,「建物躯体に立設した柱材1」に「ねじ具7」の「軸部7a(雄ねじ12)」が螺合されるのであるから,当該「柱材1」は,刊行物1に特に明記されてはいないものの,木質材からなるものと解することができる。また,仮に,そうでないとしても,当該「柱材1」を,木質材により形成して,上記相違点1に係る補正発明の構成とすることは,当業者が必要に応じて適宜なす程度の設計的事項にすぎない。
<相違点2について>
刊行物2には,取付部品本体1(補正発明の「段付き筒状体」に対応する。以下同様。)を,当該取付部品本体1に突設した筒状部2に止めねじ13(頭付き調整ネジ)を挿通して被取付体11(躯体)に螺着固定する部品取付装置において,上記筒状部2の両側に止めねじ13の頭部(頭部分)の径よりも内方に突設された弾性突片5の爪状の引掛部8(段付き筒状体の内周面側に突設一体化され,段付き筒状体の径方向に弾力性によって移動自在の係止片)が設けられ,止めねじ13の挿入時にはその頭部が両側の弾性突片5の引掛部8を外方に押し開きながら挿通を許容し(頭部分の当接により突出状態から非突出状態になりその挿入を容易にする),挿入が終了した状態では弾性突片5は元の状態に復帰して(突出状態に自動的に戻って),止めねじ13の頭部の移動が筒状部2の両側の弾性突片5の爪状の引掛部8に係止されることにより阻止されるようにした発明が記載されている。
そうすると,刊行物1記載の発明における「蓋5」と刊行物2記載の発明における上記「弾性突片5の爪状の引掛部8」とは,技術分野は相違するものの,ともに,頭付き調整ネジの挿入側とは逆側に後退する移動を阻止するという共通の機能を有するものであることは明らかである。
また,部品点数を減らすという課題は,どのような技術分野においても,共通のものである。
してみると,刊行物1記載の発明において,「蓋5」に代えて,刊行物2記載の発明における「弾性突片5の爪状の引掛部8」の技術を採用して,「取り付け筒4」の内周面に係止片を突設一体化し,ねじ具と取り付け筒の2部品だけで柱材と縦枠との間隔を調節できるようにして,上記相違点2に係る補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,補正発明の作用効果も,刊行物1,2記載の発明から,当業者が予測できる範囲内のものである。

したがって,補正発明は,刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


【3】補正の却下の決定のむすび
以上より,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていないものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3.本願発明について
【1】本願発明
平成21年12月1日受付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成21年6月15日受付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
2つの相対する第1の部材と第2の部材との間を、第1の部材に形成された貫通穴に挿入された頭付き調整ネジで結合し部材間の隙間をそのネジの螺合によって調整する隙間調整具であって、
前記第1の部材に固定され、前記頭付き調整ネジのネジ部分は貫通可能であるが頭部分は貫通不能な小径の孔が形成された段部が内周面側に設けられ、かつ前記孔に貫通した頭付き調整ネジの頭部分を係止し前記段部との間に頭部分を挟んで頭付き調整ネジを固定する係止片が内周面側に突設された段付き筒状体を備え、前記係止片は、頭付き調整ネジの挿入時に頭部分の当接により突出状態から非突出状態になりその挿入を容易にするが、挿入が終了すると突出状態に戻って頭付き調整ネジの頭部分を係止するもので、前記係止片は、段付き筒状体の内周面に一体化され、段付き筒状体の径方向に弾力性によって移動自在であることを特徴とする隙間調整具。」


【2】引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され本願出願前に頒布された刊行物及びその記載事項は,上記「第2.【2】1.」のとおりである。


【3】対比・判断
本願発明は,補正発明から,上記「第2.【1】」で掲げた特定事項の限定,付加を省いたものである。
そうすると,本願発明を特定するために必要な事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が,上記「第2.【2】3.」で述べたとおり,刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-02-01 
結審通知日 2011-02-22 
審決日 2011-03-07 
出願番号 特願平11-241543
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E06B)
P 1 8・ 575- Z (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 真理子佐藤 美紗子  
特許庁審判長 伊波 猛
特許庁審判官 山本 忠博
山口 由木
発明の名称 隙間調整具およびその隙間調整具用取外し治具  
代理人 山広 宗則  
代理人 特許業務法人 山広特許事務所  

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