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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04D
管理番号 1237070
審判番号 不服2009-25713  
総通号数 139 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-25 
確定日 2011-05-13 
事件の表示 特願2004-161513「軒樋」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月15日出願公開、特開2005-344280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願は,平成16年5月31日に特許出願がなされたものであって,平成21年9月28日に拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求がされたものである。
その後,当審において,平成22年12月21日付けで拒絶理由を通知したところ,平成23年2月16日に意見書及び手続補正書が提出された。

2 本願発明
本願発明は,平成21年5月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「底壁の一端から外側に傾斜して立設された前側壁の上部に前耳部が設けられ、前耳部の上面が底壁側に向かって、その上面に雨水が溜まる程度の傾斜を有した下り傾斜面とされている軒樋において、前耳部の上面が段部を有し該段部の角部に設けられた曲率が、前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部に設けられた曲率より小さくされていることを特徴とする軒樋。」(以下,「本願発明」という。)

3 引用刊行物及びその記載内容
当審における拒絶理由において引用された,本願出願前に頒布された刊行物は次のとおりである。
刊行物1:特開平9-88270号公報
刊行物2:実用新案登録第3077475号公報
刊行物3:実願昭61-22217号(実開昭62-133816号)のマイクロフイルム
刊行物4:実願平1-100953号(実開平3-40421号)のマイクロフイルム

(1)上記刊行物1には,次の事項が記載されている。
(1a)「【0014】図1?図5において、1は軒樋吊り具であり、この軒樋吊り具1は、取付部2と、この取付部2から屋外方向に突出した支持杆3と、支持片6とからなる。そして、この支持杆3の先端が上方に突出した屋外側耳保持部4が設けられ、この屋外側耳保持部より屋内側の支持杆3の下側に屋内方向に突出した板バネ51と、取付部2の表面から板バネ51に向かって突出した突出片52からなる屋内側耳保持部5が設けられている。・・・
【0015】・・・7は軒樋であり、この軒樋7は屋外側壁71と屋内側壁72と底板73とからなる溝形をしている。そして、屋外側壁71の上端には下方に開口している断面コ字形の屋外側耳75が設けられ、屋内側壁72の上端には中空体からなる屋内側耳76が設けられいる。
【0016】そして、軒樋7の屋外側耳75の断面コ字形の開口の中に軒樋吊り具1の屋外側耳保持部4の上方に突出している先端を入れ、その後、軒樋7を屋内方向に回転させて、屋内側耳76を屋内側耳保持部5の板バネ51と突出片52との間に板バネ51を変形させながら挿入すると、屋内側耳76が板バネ51を通過したときに、板バネ51が弾性により元の形状に戻り、図1に示すように、軒樋7を軒樋吊り具1に取り付けることができるようになっている。・・・」
(1b)図1には、軒樋7は、底壁の一端から外側に傾斜して立設された前側壁の上部に前耳部が設けられ,前耳部の上面がほぼ水平とされていることが記載されている。
(1c)図4には、軒樋7の前耳部は、上面に段部を有し、段部の角部及び前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部がほぼ直角に形成されていることが記載されている。
これらの記載によれば,次の発明が記載されていると認められる。
「底壁の一端から外側に傾斜して立設された前側壁の上部に前耳部が設けられ,前耳部の上面がほぼ水平とされている軒樋において,前耳部の上面が段部を有し,段部の角部及び前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部が,ほぼ直角に形成されている軒樋。」(以下,「刊行物1記載の発明」という。)

(2)上記刊行物2には,次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】 軒先に配設される軒樋と;この軒樋の開口部に装着されて軒樋の長手方向に任意の間隔で配置され、基端部が軒樋とともに釘等の止め具により家屋側に固定される軒樋支持金具と;を具備する軒樋装置において、前記軒樋は、溝形の樋部と、樋部の外側上端縁に樋部の内側に向かって屈曲成形され前記軒樋支持金具の先端部が係止される係止部とを備え、かつ係止部の上端面は、樋部の内側に向かって下り勾配で傾斜していることを特徴とする軒樋装置。
【請求項2】 係止部の上端面は、水平位置から10?20度の角度で傾斜していることを特徴とする請求項1記載の軒樋装置。」
(2b)「【0011】前記軒樋2は、図1および図2に示すように、溝形状をなす樋部2aと、樋部2aの外側上端縁に樋部2aの内側に向かって屈曲成形された係止部2bとで構成されており、この軒樋2は、例えば帯板状のアルミ薄板を用いて現場で必要な長さに成形加工され、継ぎ目がない軒樋2として制作されるようになっている。
【0012】前記係止部2bは、図1および図2に示すように、その上面が樋部2aの内側に向かって下り勾配になるように成形されており、その下り勾配の角度θは、水平位置から10?20度,より好ましくは15度前後に設定されている。そして、この角度θにより、樋部2aの外面がホコリにより短時間で汚れてしまうのを防止することができ、しかも軒樋支持金具3の先端を係止部2bに係止する際の作業に、支障を来たすことがないようになっている。・・・」
(2c)「【0016】ところで、係止部2bの上端面が、従来のように水平あるいは外側に向かって下り勾配で傾斜している場合には、雨水によって洗い流されたホコリが、泥水となって樋部2aの外面を流れ、樋部の外面が短時間で汚れてしまうという問題がある。
【0017】ところが、本実施の形態においては、係止部2bの上端面が、角度θで樋部2aの内側に向かって下り勾配で傾斜しているので、泥水となったホコリは、その全量が樋部2a内に流れ、樋部2aの外面側に流れることはない。このため、樋部2aの外面を、長期に亘ってきれいな状態に保つことができる。そしてこの際、角度θは10?20度に設定されているので、より好ましい結果が得られる。
【0018】すなわち、角度θが10度を下廻る場合には、係止部2bの上端面が水平に近い状態となり、雨量が多い場合には、汚水となったホコリの一部が、樋部2aの外面側に流れてしまうおそれがあるが、角度θが10度以上の場合には、このようなおそれがない。したがって、この意味からすれば、角度θの値は大きい方が好ましいが、角度θが20度を上廻ると、軒樋支持金具3の先端を係止部2bに係止する際の作業が次第に困難となる。
【0019】以上のことから、角度θは10度?20度の範囲であることが好ましく、角度θが15度前後の場合に、最も好ましい結果が得られることが本考案者等の実験により確認されている。」
(2d)図2には,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部及び,前耳部の上面の内側の角部を曲面とすることが記載されている。

(3)上記刊行物3の図1には,「前耳部の上面が段部を有し該段部の角部及び前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部が曲面に形成されている軒樋。」が記載されている。

(4)上記刊行物4には,次の事項が記載されている。
(4a)「軒樋本体の前方側壁の上端に軒樋内面に開口する吊具係合溝を有する耳が設けられ、該耳の上端面は軒樋内面側に下降する曲面とされていることを特徴とする軒樋。」(実用新案登録請求の範囲)
(4b)「・・・軒樋の取り付ける際、軒先に固定された軒樋吊具の前端側支持部に前方耳の下降曲が当接しつつ軒樋の前方耳が導かれ、係合溝が上記支持部に係合されるので軒樋の吊具への取り付けが容易かつ確実に行える。」(明細書5頁8行?12行)
(4c)第1図?第4図には,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部は鋭角とすることが記載されている。

4 対比
本願発明と,上記刊行物1記載の発明を比較すると,両者は,
「底壁の一端から外側に傾斜して立設された前側壁の上部に前耳部が設けられ,前耳部の上面が段部を有している軒樋。」で一致し,下記の点で相違している。
<相違点1>
前耳部の上面が,本願発明では,その上面に雨水が溜まる程度の傾斜を有した下り傾斜面とされているのに対し,刊行物1記載の発明では,ほぼ水平である点。
<相違点2>
本願発明は,段部の角部に設けられた曲率が,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部に設けられた曲率より小さくされているに対して,刊行物1記載の発明は,これらの角部がいずれも直角であって,本願発明のようなものではない点。

5 判断
(1)相違点1について
上記相違点1について検討すると,本願発明の「その上面に雨水が溜まる程度の傾斜を有した下り傾斜面」とは,どの程度の傾斜であるか不明りょうではあるものの,細かい雨滴であれば,流れ落ちずに溜まる程度のゆるい傾斜面であると解される。
一方,刊行物2には,前耳部の上面を水平位置から10度?20度程度の角度のゆるい傾斜とすることで,前耳部の上面の雨水を樋内部に導き,前側壁の外側へ雨水が流れることを防止するとともに,軒樋係止具の係止作業を容易にすることが記載されている。
そして,軒樋は,雨水を樋内部に導くためのものであり,軒樋の外側へ雨水が流れることを防止しようとすることは自明の課題であるから,刊行物1記載の発明において,前耳部の上面に落下する雨水を樋内部に導くために,刊行物2記載の発明を適用して,前耳部の上面を,雨水を樋内部に導きかつ,軒樋係止具の係止作業を容易に行える程度のゆるい傾斜面とすることは当業者が容易になしうることである。

なお,請求人は平成23年2月16日付け意見書において,「刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用すると、刊行物1の軒樋の前耳部の上端面前側を支点に、その上端面が下向きにθだけ折り曲げられることになりますが、その結果、軒樋吊り具をこの屋外側耳に挿入することが難しくなる上に、屋外側耳の屋内側片を、軒樋吊り具の固定片の先端と屋外側耳保持部とで挟んで強固に取り付けることができなくなります。」と主張しているが,刊行物1記載の軒樋吊り具は,屋外側耳に挿入した後屋内側耳に挿入するものであり,軒樋の前耳部の上端面が下向きに10度程度折り曲げられたとしても,屋外側耳挿入部の形状が変わることはなく,軒樋吊り具の取り付けに支障は生じない。

(2)相違点2について
ア まず,前耳部の段部の角部及び上面から前側壁の外側に繋がる角部を曲面にすることについて検討すると,刊行物2に,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部及び上面内側の角部を曲面とすることが記載され,また,刊行物3に,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部及び上面の段部の角部を曲面とすることが記載されているように,前耳部の上面の角部を曲面に形成することは本願出願前周知であり,刊行物1記載の発明において,段部の角部及び,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部を曲面とすることは当業者が容易になしうることである。

イ 次に角部の曲率について検討する。
本願発明において,段部の角部に設けられた曲率が,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部に設けられた曲率より小さくする技術的意義について検討すると,前側壁の外側に繋がる角部の曲率を大きい(曲率半径が小さい)ものとすることにより,前耳部の上面は,前側壁近傍まで傾斜面となり,この傾斜面上の雨水は傾斜面に沿って樋内部に流れ落ちるから,前耳部の上面から前側壁の外側に流れる水が少なくなり,一方,段部の角部の曲率を小さい(曲率半径が大きい)ものとすることにより,前耳部上面の傾斜面に沿って落下し曲面部に達した雨水及び曲面上に落下した雨水は,傾斜面上よりも速く落下し,その際,傾斜面に落下した雨水をも引き込んで軒樋内に落下させる作用を奏するものと認められる。
一方,刊行物4には,段部はないものの,前耳部の上端面を軒樋内面側に下降する曲面とし,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部は鋭角とすることが記載されており,この前耳部の形状をみれば,この形状によって前耳部の上端面に落下した雨水は,曲面に沿って樋内部に導かれ,外側に繋がる角部から前側壁の外側に流れ出ることが防止されていることは容易に理解できる。すなわち,外側に繋がる角部を鋭角とすることで,外側に繋がる角部から前側壁の外側に流れ出ることを防止することは,従来から行われていたと認められる。
そうすると,刊行物1記載の発明に刊行物2,3記載の発明を適用して,前耳部の上面をゆるい傾斜とし,角部を曲面とするに際し,前耳部の上面から前側壁の外側に繋がる角部は鋭角に近い曲率の大きなものとして前耳部の上面から前側壁の外側に流れる水を少なくし,雨水を案内して落下させる段部の角部は,鋭角に近いものとする必要がないから,相対的に外側に繋がる角部よりも曲率の小さなものとすることは,刊行物4記載の発明に示されるような従来技術に基いて当業者が適宜なしうることである。

(3)作用効果および,判断のむすび
そして,本願発明の作用効果は,刊行物1ないし4記載の発明から予測できる程度のことである。
したがって,本願発明は,刊行物1ないし4記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1ないし4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-03-10 
結審通知日 2011-03-16 
審決日 2011-03-29 
出願番号 特願2004-161513(P2004-161513)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 油原 博  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
草野 顕子
発明の名称 軒樋  

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