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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1237075 |
審判番号 | 不服2010-7447 |
総通号数 | 139 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-04-08 |
確定日 | 2011-05-13 |
事件の表示 | 特願2004-50592「蛍光標識糖鎖の特異的固定化試薬および固定化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年9月8日出願公開、特開2005-241389〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年2月25日の出願であって、平成21年12月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年4月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成22年4月8日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成22年4月8日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「【請求項1】 下記の蛍光標識オリゴ糖鎖のみを認識して結合する特異的な抗体試薬を調製し、これらの抗体試薬を用いて蛍光標識オリゴ糖鎖を化学変化を加えずにそのまま固相表面に固定化することを特徴とする蛍光標識オリゴ糖鎖を固相に固定化する方法。 記 糖タンパク質または糖脂質糖鎖のコア構造の2?7糖のオリゴ糖鎖に蛍光標識基を結合させ、この蛍光標識基を溶液中に露出した状態になるように、抗原性の少ないタンパク質に結合させた人工抗原を調製し、これを動物に免疫してポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を作成し、該抗体から該抗原性の少ないタンパク質認識抗体を除去し、その後でプロテアーゼ処理して得たF(ab')_(2)フラグメント、該フラグメントをさらにグリコシダーゼ処理して得た脱グリコシル化フラグメント、および該抗体分子やフラグメントの化学的重合体、またはアクリルアミドなど高分子との共重合体からなる群より選ばれる抗体試薬。」(下線は、補正箇所を示す。) と補正された。 上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「糖鎖」について、「オリゴ」糖鎖と限定し、同じく「ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体」について、「該抗体から該抗原性の少ないタンパク質認識抗体を除去」するとの限定を付加し、同じく「グリコシダーゼ処理して得た脱グリコシル化フラグメント」について、グリコシダーゼ処理するものが「該フラグメント」つまり「F(ab')_(2)フラグメン」であることを限定したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2 引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物1には以下の事項が記載されている。下線は当審で付加した。 刊行物1:生化学,第74巻,第8号,(社)日本生化学会,平成14年8月25日発行,第730頁,2P-098,加藤真利 等、「糖結合タンパク質との微量相互作用解析を目指した蛍光標識糖鎖固定化試薬の調整」の記載事項 (1a)「【目的】不均一性の高い天然糖類の微細構造の差も含めた完全な分離・精製は蛍光標識化(2-アミノピリジル化:PA化)の開発により非常に容易になった。精製糖鎖を固相表面に結合できれば、糖鎖認識物質との相互作用を定量的に解析できるが、従来の還元末端を介して固相に固定化する方法は、蛍光標識糖鎖(PA-糖鎖)には適用できない。本研究では、PA-糖鎖とレクチンとの相互作用を微量解析することを最終目的として、PA-糖鎖固定化試薬を調製した。 【方法と結果】糖アフィニティカラムを用いエンジュとニセアカシアの樹皮レクチン,ConAおよびLCAを精製した。オリゴ糖鎖レベルでレクチンとの結合性を調べるため、PA-Man_(3)XylGlcNAc_(2)Fucから酸処理または酵素により糖残基を段階的に除去した後、HPLCにより各糖鎖を精製した。SPRにおいてレクチンを固定化し相互作用を解析したところ、レクチン間でオリゴ糖鎖特異性は異なることが示唆されたが、測定にはnmolレベルのPA-糖鎖を必要とした。微量化するため、PA-糖鎖を固相に固定化できる抗体試薬の調製を試みた。N-型糖鎖の基幹構造のGlcNAc_(2)をPA化し、血清アルブミン(RSA)と結合させたハイブリッド糖タンパク質を抗原とした。これをウサギに免疫し、抗血清から得られた精製IgG画分を用いると、PA-糖鎖をpmolレベルでプラスチックシート表面に固定化し、ビオチニルレクチンで検出できたので、目的の抗体が含まれることが確認された。IgG糖鎖の影響を除くためにペプシン消化によりF(ab’)_(2)として、レクチンと糖鎖との相互作用解析への応用を検討している。」(第730頁2P-098の6行?最終行) 3 対比・判断 上記刊行物1の記載事項から、刊行物1には、 「N-型糖鎖の基幹構造のGlcNAc_(2)を2-アミノピリジル化し血清アルブミン(RSA)と結合させたハイブリッド糖タンパク質を抗原として、ウサギに免疫し、抗血清から得られた精製IgG画分を用い、2-アミノピリジル-糖鎖をpmolレベルでプラスチックシート表面に固定化した、2-アミノピリジル-糖鎖固定化試薬の調整方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。 (ア)刊行物1発明の「N-型糖鎖の基幹構造のGlcNAc_(2)」は、「N-型糖鎖」が、タンパク質のアスパラギン残基に結合した糖鎖であり、「基幹構造」が「コア構造」と同義であり、「GlcNAc_(2)」が「GlcNAc」が2個結合したオリゴ糖類であることから、本願補正発明の「糖タンパク質または糖脂質糖鎖のコア構造の2?7糖のオリゴ糖鎖」に相当する。 (イ)刊行物1発明の「2-アミノピリジル」は、本願補正発明の「蛍光標識」に相当し、刊行物1発明の「N-型糖鎖の基幹構造のGlcNAc_(2)を2-アミノピリジル化」することは、本願補正発明の「糖タンパク質または糖脂質糖鎖のコア構造の2?7糖のオリゴ糖鎖に蛍光標識基を結合させ」ることに相当する。 (ウ)刊行物1発明の「血清アルブミン(RSA)」は、「RSA」という略号からみて、ウサギ血清アルブミンであり、抗体を得るためにウサギに免疫することから、抗原性の少ないタンパク質といえる。 そして、刊行物1発明の「N-型糖鎖の基幹構造のGlcNAc_(2)を2-アミノピリジル化し血清アルブミン(RSA)と結合させたハイブリッド糖タンパク質」について、刊行物1の「従来の還元末端を介して固相に固定化する方法は、蛍光標識糖鎖(PA-糖鎖)には適用できない。」との記載から、糖タンパク質の2-アミノピリジル化に糖鎖の還元末端が既に使用されているといえ、血清アルブミン(RSA)が結合するのは、2-アミノピリジル部分ではないから、2-アミノピリジル部分は溶液中に露出した状態となるといえる。また、上記「ハイブリッド糖タンパク質」は、人工抗原といえるものである。 そうすると、刊行物1発明の「N-型糖鎖の基幹構造のGlcNAc_(2)を2-アミノピリジル化し、血清アルブミン(RSA)と結合させたハイブリッド糖タンパク質」は、本願補正発明の「糖タンパク質または糖脂質糖鎖のコア構造の2?7糖のオリゴ糖鎖に蛍光標識基を結合させ、この蛍光標識基を溶液中に露出した状態になるように、抗原性の少ないタンパク質に結合させた人工抗原」に相当する。 (エ)刊行物1発明の「ハイブリッド糖タンパク質を抗原とし、ウサギに免疫し、抗血清から得られた精製IgG画分」は、本願補正発明の、調製した人工抗原を動物に免疫して作成した「ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体」に相当する。 (オ)刊行物1発明の「精製IgG画分」は、これを用いて2-アミノピリジル-糖鎖を固相化するものであり、本願補正発明の「該抗体から該抗原性の少ないタンパク質認識抗体を除去し、その後でプロテアーゼ処理して得たF(ab')_(2)フラグメント、該フラグメントをさらにグリコシダーゼ処理して得た脱グリコシル化フラグメント、および該抗体分子やフラグメントの化学的重合体、またはアクリルアミドなど高分子との共重合体からなる群より選ばれる抗体試薬」は、蛍光標識オリゴ糖鎖を固相に固定化するものであるから、両者は蛍光標識オリゴ糖鎖の固定化に用いる抗体試薬である点で共通する。 (カ)刊行物1発明の「精製IgG画分を用い、2-アミノピリジル-糖鎖をpmolレベルでプラスチックシート表面に固定化」することは、精製IgG画分つまり抗体を用いて2-アミノピリジル-糖鎖を固定化することから、2-アミノピリジル-糖鎖に化学的変化が加えられないことは明らかであり、本願補正発明の「抗体試薬を用いて蛍光標識オリゴ糖鎖を化学変化を加えずにそのまま固相表面に固定化する」ことに相当し、刊行物1発明の「2-アミノピリジル-糖鎖固定化試薬の調整方法」は、本願補正発明の「蛍光標識オリゴ糖鎖を固相に固定化する方法」に相当する。 したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 下記の蛍光標識オリゴ糖鎖のみを認識して結合する特異的な抗体試薬を調製し、これらの抗体試薬を用いて蛍光標識オリゴ糖鎖を化学変化を加えずにそのまま固相表面に固定化することを特徴とする蛍光標識オリゴ糖鎖を固相に固定化する方法である点。 記 糖タンパク質または糖脂質糖鎖のコア構造の2?7糖のオリゴ糖鎖に蛍光標識基を結合させ、この蛍光標識基を溶液中に露出した状態になるように、抗原性の少ないタンパク質に結合させた人工抗原を調製し、これを動物に免疫して作成したポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である固相化に用いる抗体試薬。 (相違点) 蛍光標識オリゴ糖鎖の固定化に用いる抗体試薬が、本願補正発明では、抗体から抗原性の少ないタンパク質認識抗体を除去し、その後でプロテアーゼ処理して得たF(ab')_(2)フラグメント、該フラグメントをさらにグリコシダーゼ処理して得た脱グリコシル化フラグメント、および該抗体分子やフラグメントの化学的重合体、またはアクリルアミドなど高分子との共重合体からなる群より選ばれるものであるのに対して、刊行物1発明では、抗血清から得られた精製IgG画分である点。 そこで、上記相違点について検討する。 刊行物1には、「IgG糖鎖の影響を除くためにペプシン消化によりF(ab’)_(2)として、レクチンと糖鎖との相互作用解析への応用を検討している」と記載されており、抗体試薬として、抗体をペプシン、つまりプロテアーゼ処理したF(ab’)_(2)を用いることが示唆されているから、刊行物1発明において、抗体をプロテアーゼ処理して得たF(ab’)_(2)フラグメントを固定化のための抗体試薬として用いることは当業者が容易になし得たことといえる。 そして、抗原にBSA等の血清アルブミンを結合させた複合抗原を用いて作成した抗体を試薬として用いる場合、作成した抗体をBSAを結合したカラムに通過させることで、BSAと反応する抗体を除去することは、例えば、前置報告書で周知例として提示された、特開平4-24555公報(第5頁右下欄下から2行?第6頁左上欄2行)、特表平5-501062号公報(第5頁左上欄10?14行)及び国際公開第2003/99869号(第12頁19?22行)にも記載されるとおり、本願出願前の周知技術であるところ、抗原とRSAを結合させたハイブリッド抗原を用いて抗体を作成する刊行物1発明では、精製IgGにRSAに結合する抗体も含有されることから、糖鎖とレクチンとの相互作用の微量解析を可能とするために、精製IgGのプロテアーゼ処理に先立ち、糖鎖の固定化に役立たない抗体を除去、つまり、糖鎖の抗原性がない或いは少ないRSAのようなタンパク質を認識する抗体を除去することは、当業者が適宜に行うことである。 そして、本願補正発明の効果は、刊行物1の記載事項及び周知技術から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 なお、審判請求人は、前置審査についての審尋に対する回答書で、抗体試薬をF(ab’)_(2)フラグメントをさらにグリコシダーゼ処理して得た脱グリコシル化フラグメントに限定する補正案を提示しているが、抗体の有する糖鎖の影響を除去するために、抗体のF(ab’)_(2)フラグメント化やグリコシダーゼ処理を行うことは、例えば、特開平7-83922号公報(【0022】)、特開平7-191036号公報(【0013】)、特開平10-221344号公報(【0013】)にも記載されるように本願出願前の周知技術であるから、F(ab’)_(2)フラグメント化に加え、脱グリコシル化を行うことに格別の困難性があるとはいえない。そして、その効果については、刊行物1及び上記周知技術から予測し得るものであり、本願明細書の【0028】及び【図11】からみても、両処理を併用することにより、バックグラウンドは低下できるものの検出感度が大きく低下しており、効果が格別顕著なものということはできない。 4 むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成22年4月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成21年10月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。 「【請求項1】 蛍光標識糖鎖のみを認識して結合する特異的な抗体試薬を調製し、これらの抗体試薬を用いて蛍光標識糖鎖に化学変化を加えずにそのまま固相表面に固定化する蛍光標識したオリゴ糖鎖を固相に固定化する方法であって、 該抗体試薬が、糖タンパク質または糖脂質糖鎖のコア構造の2?7糖に蛍光標識基を結合させ、この蛍光標識基を溶液中に露出した状態になるように、抗原性の少ないタンパク質に結合させた人工抗原を調製し、これを動物に免疫して作成したポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体をプロテアーゼ処理して得たF(ab')2フラグメント、グリコシダーゼ処理して得た脱グリコシル化フラグメント、および該抗体分子やフラグメントの化学的重合体、またはアクリルアミドなど高分子との共重合体からなる群より選ばれることを特徴とする蛍光標識したオリゴ糖鎖を固相に固定化する方法。」(以下、「本願発明」という。) 2 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、および、その記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から「糖鎖」についての限定事項である「オリゴ」糖鎖との構成、「ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体」についての限定事項である「該抗体から該抗原性の少ないタンパク質認識抗体を除去」するとの構成、「グリコシダーゼ処理して得た脱グリコシル化フラグメント」についての限定事項であるグリコシダーゼ処理するものが「該フラグメント」つまり「F(ab')_(2)フラグメン」であるとの構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-02-28 |
結審通知日 | 2011-03-08 |
審決日 | 2011-03-23 |
出願番号 | 特願2004-50592(P2004-50592) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 淺野 美奈、吉田 将志 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
郡山 順 竹中 靖典 |
発明の名称 | 蛍光標識糖鎖の特異的固定化試薬および固定化方法 |
代理人 | 須藤 阿佐子 |
復代理人 | 岩瀬 眞紀子 |
代理人 | 須藤 晃伸 |